無駄なく始めるエレキギター


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<この記事は書きかけです>
<非常に乱暴な説明なので注意>

エレキギターを無駄なく手に入れて無駄なく練習して無駄なく楽しむための方法、反対に無駄を楽しむための発想などを追求する。何度も書いているが、筆者の演奏の腕前は初心者以前のレベルであることを改めて断っておきたい。エレキギターの扱い方や基礎知識については、急がば回れのエレキギターの扱い方直球勝負のエレキギターのページを、エレキギター以外の買い物については一足飛びの目次から買い物関連の記事を参照して欲しい。筆者が所有している楽器や機材については、ローコスト制作の感想コーナーにまとめてある。

すでにギター本体だけ持っている人は小物の項から、音を出せる環境が一通りある人はエレキギターを弾いてみようの項から、とりあえずの鳴らし方を知っている人は音色作りでハマらないためにの項から、とにかく一刻も早く自分で試したいという人は音色を選ぶの項から読み始めよう。エレキギターを弾いてみようの項は以前エレキギターに触ってみたがどうも馴染めなかったという人のリターン用にも活用して欲しい。

重要な注意
買い物の結果に責任は持たないよ。急がば回れの録音のページにあるお金が絡む話題についての項も参照のこと。

大切なこと
試さなきゃ選べない、選ぶには試さなきゃ。

エレキギター本体

音を出すのに必要なものから順番に挙げていこうと思うのだが、そうすると真っ先に必要なのはギター本体である。

買い物ページのエレキギターの項にも書いたが、もしエレキギターを初めて買うのなら、リハスタのレンタルでも友人知人に借りてもいいから、とにかくストラトキャスターとテレキャスターとレスポールとできればSGも、少なくともストラトとレスポールだけは手に取って音を鳴らしてみてから選ぶことを強くオススメする(コピーモデルでよいのだが、レンタルだとフェンダージャパンかエピフォンというのが定番)。エレキギターというのは変態的なモデルしかなく、合う合わないの問題がものすごく大きい。木についての項で触れるように、材料が木である都合(違うのもあるけど)から個体差が比較的大きく、コンディションに気を使うなら実際に自分が買う個体を十分にチェックすることが重要である。また店頭に並んでいるときと家に持ち帰ってからでは温度や湿度なども異なるため、それなりの状態変化は必ず起きる。

しいて言うなら、最初の1本としてとくにアイディアがなく選ぶには、ギブソンタイプ(ただし持ちにくくないシェイプのもの)が無難といえば無難である。というのは、裏通しのブリッジは弦交換が面倒だとか、テレは安レプリカでも3wayサドルのものがあるとか、ストラトはスプリングの調整が必要だとか、ポールピースはアジャスタブルがラクだとか、フラットヘッド+ストリングテンショナーはチューニングが厄介だとか、チューンOマチックは調整やブリッジミュートがラクだとか、ペグの間隔が狭いとワインダーが入らないことがあるとか、その辺の理由なのだが、慣れればなんとでもなる(エレキギターにとっては、こんなの些細な差である)のであまり気にするようなものでもない。同じギブソンタイプでも、レスポールシェイプよりはSGシェイプの方がフォームに柔軟性があって筆者は好き(後述するように、ケースの選択肢が乏しいのが悩みどころではある:上記の特徴からはいくつか外れるし2ボリューム1トーンでやや変則的だが、エクスプローラーなんかも意外と普通だったりするので、見た目が変態的でも手に取ってはみた方がお得かも)。

ただもしダブルコイルとシングルコイルの両方を検討しているなら、ダブルの方がはるかにノイズに強いということは考慮した方がよい(シングルでもハーフトーンにすればそう気にならないが、ハイゲイントーンで多用される単独リアピックアップに大きく影響する:その意味でリアだけダブルコイルにした仕様にも一定の説得力があるが、ストラトやテレの場合あのリアの音がギターの特徴でもあるわけで、悩ましいところ)。ダブルとシングルの出音について筆者の印象を言うなら、ダブルはどクリーンと激歪みに、シングルはドライブトーンに本領がある気がする。もちろん、ダブルコイルの押しが強いドライブトーンや、シングルコイルの枯れたクリーントーンや潰された感じのディストーショントーンにも魅力はあるが、たとえばクランチを考えたとき、ダブルコイルのクランチはクリーンの延長上に、シングルコイルのクランチはドライブトーンの延長上にある気がする(感覚的な話で申し訳ないが、そうとしか表現できない)。なお、どうでもいいような話だが、ギターや単体ピックアップを新品で買って来たら保護フィルムは剥がして使おう。実害があるかどうかは別として、あんなところに静電気をためられたら精神衛生上よろしくない。

個体を選ぶ基準について、自分が手に持って音を出してみて感触がよければそれでよいのだが、ネックだけは出来が悪いと厄介である。とくに、ネックジョイントの作りがマトモであることと、フレットの高さや位置が正確であることが強く求められる。こんなのは半年もギターに触っていれば自然にわかるようになることだが、初めてギターを選ぶなら経験者に付き合ってもらうのがよい。どうしても都合がつかなければ、せめて、親身に相談に乗ってくれる小売店で買おう。量販店より1割や2割高くなっても、トータルで見ればオツリがくる。またネックシェイプは好みなので数を試しておいた方がよい。とくにフェンダー系のギターでは、ヴィンテージのBaseball Bat Profile風(丸く削って半分にしただけのような大雑把な形)、クラプトンが使って有名になったソフトV(三角を削ったような形)、インギー様モデルにも採用されているモダンC(Uに近いC:意外とテレもこれが多い)など、バリエーションの幅が広い(ちなみにレスポールもヴィンテージシェイプはかなりゴツい)。フレットのシェイプやサイズは・・・まあネックシェイプほどの影響はない。

なお、もし高価なギターを購入したいと考えているならその前に、ぜひ欲しいギターの(次の項で触れる「標準スペック」くらいの)レプリカを買って弾き込み、ストラトやレスポールもレンタルで触ってみてから本命を物色するのがオススメである。そのうえで「これしかない」と思える弦とピックを探してみると、モノを選ぶ練習としてたいへん有効である。なんでも自分で試してみないことにはどんなモノなのかすらわからないし、自分の需要が意外とアッサリ変わる、ということに気付くキッカケになると思う。

本命のギターを選ぶ際にはレプリカを楽器店に持っていけば、いろんな個体と演奏フィールやアンプの反応を比べることができる(ただし環境が変わると木の性質も変わるため、家に持って帰ってまったく同じ鳴りがずっと続くとは考えない方がよい)。さらに、手元に残ったレプリカは後述する実験台的な用途(これに限っては、本命の機種と似ているものを優先的に選んだ方がよいだろう:ただし、使っている木の名前が同じだとか何とかいうことでなく、弾き比べてに極端な違和感がなく、できれば部品の互換性が高いとなお嬉しい、という意味)にも使えるため、費用的にも無駄にはならない。

価格帯

ギターを買うのに必要な費用は選んだモデルでだいたい決まる。工業製品の価格というのはたくさん作れば作るほど下がり、人気のあるモデルはコストパフォーマンスが高い。たとえばストラトとテレを比べると、どう考えても前者の方が複雑な作りで部品も多いが数が出るため、同じようなグレード(ただし常識的な意味での価格競争が存在しているラインナップに限る)なら価格は安めになる(すぐに「音質がー」「仕上げor調整がー」「部品の質がー」と言い出す人が後を絶たないが、このことはしっかり認識しておいた方がよい:レスポールだけはちょっと特殊で、SGよりは人気があるはずだが、あのボディ形状のためにやや割高になる)。オマケとして、人気のあるストラトorテレシェイプはケースなども安い(引越しなどでハードケースが必要になった場合は、けっこうな差額になる)。

費用面で筆者が目安にしているのは「公式廉価ブランドのスタンダードモデル」の価格。たとえば2013年3月現在、SQUIERのスタンダードストラトキャスターが20800円@サウンドハウス、スタンダードテレキャスターが21800円@サウンドハウス、EpiphoneのG-400(SGタイプ)が23000円@イシバシオンライン、レスポールスタジオ・スタンダード・クラシックが28000~30000円@イシバシオンラインである。これらを「ブランド力で押せるメーカーが標準スペックの楽器を作ったときの小売価格」だと解釈している。それとヤマハのエントリーモデルの価格。Pacifica112Vと120Hが27,800円@サウンドハウス、技術はあって材料も持っているが人気はないメーカーが独自仕様のエントリーモデルを作るとこのくらいになるのだろう。なお、基本的な調整を自分でやる気がない人に安価なモデルは向かないという説明をたまに目にするが、そういう人にはあらゆるギターが向いておらず、高価なモデルはそのうえもったいないので、手ごろな機種を買って信頼できるリペアショップで定期的に見てもらう予算を残そう。

うまくモノを選べば上記よりかなり安く普通に使えるギターが手に入るが、安価なモデルにはちょっとした注意が必要である。というのは、安いモデルは「みんなに人気の仕様」しかラインナップされない。たとえば筆者は指板の丸い(Rが小さい)テレが欲しいのだが、世の中では平らな指板が人気なので、安物のラインナップは薄い(たくさん作らないと安くできないのだから仕方ない)。もちろん例外もあり、自分の好みと製造上の都合がうまくマッチすれば大人気でない仕様のものが安く手に入るかもしれない。たとえば、丈夫なネックで重いレスポールシェイプのギターも面白そうだなと思っていたところ、マエストロがいい感じの構成のものを出してきた(けっこう欲しい)。

色違いや指板違いなど大幅なコストはかからないものでも、売れ筋の商品以外は在庫を抱えたくないという理由からか、マイナー機種はバリエーションが少ない傾向がある(その点ストラトシェイプのエントリーモデルは選び放題なので、変な配色が好きな人には魅力的かもしれない)。ちなみに筆者は、テレに色を塗るなら「垢抜けない色」がいいと思うのだが、わりと支持率の高い意見のようで、テレのバリエーションモデルには野暮ったい配色のものがたくさんある(ブリッジカバーもぜひ欲しいが、そちらはマイナーな模様:単品でも売っており、寸法さえ合うなら純正品もそんなに高くない)。

また上記くらいの価格のギターは基本的に使い捨てである。言葉は悪いが、たとえばフレット打ち直しとか指板貼り替えとか、そういう大規模な修理に耐えるようには作っていないはずである(考慮されていないだけで、何も考えずに作ったらたまたま耐えたというケースはあり得る)。なぜなら、新品で買い替えた方が直すより安くて手軽で確実だからである。板の接着ひとつとっても、キレイに剥がせるようにくっつけるより、後のことは考えないでただ貼り合わせる方がずっと簡単である(ちゃんと何十年も使えるように設計製造しているメーカーもあるかもしれないが、筆者は期待していない)。もちろん、ナット交換やポットを取り外しての清掃などライトなメンテには支障がないはずだし、支障があっては困る。

やや脱線にはなるが、実際のところ、どんな製品にも「普通のモノを仕上げるのに必要なコスト」というのはあって、2013年現在の状況を見るに相場が少し下がりすぎているようにも感じる。それに便乗してああだこうだ言う人がたくさんいるが、筆者には、そういう状況でもし「買い支える」(という考え方は好きでないし、まだ楽器の業界に世話になってもいない初心者が考慮しなければならないような問題ではないが、仮定として)としたら、過剰なコスト圧力に耐えながらマトモなモノを作り続けているところの製品じゃないかと思えてならない。ただし当然、筆者はどこのメーカーが真面目にやっていてどこの工場が苦しいなんて情報は持っていない。ようするになにが言いたいのかというと、手に取ってみて気に入って安かったら買っちゃえばいいんでないのと、そういうことである。

もちろん、道義的あるいは法律的にまずいことをやって品質やコストをやりくりしているメーカーがもしあった場合どう扱うかという問題はあるし、コストパフォーマンスを追求すると大量に作っているところが有利になる傾向はあるが、消費者にとって最初の課題は気に入った商品を見つけることである。なにが気に入るかは人それぞれであって、どんな楽器からも演奏者の手と耳とセンス以上の音は出ないのと同様、お金を出す人の判断力以上の市場は形成されない。その一線を越えて何か偉いことをやろうと思っても、結果はよくてせいぜい徒労である。消費者にとって自分が価値を見出したものを買うのはごく普通のことだが、大方の人が普通のことを普通にやっていれば、そう酷い状況はめったに生じない。またここまでに紹介した都合はあくまで大量生産品に当てはまるものであって、個人が手作りしているような場合には当てはまらないことも覚えておいて欲しい。

複数あると便利だが、やみくもに増やすのは考えもの

似たようなギターが2本あると、なにかと便利である。メインギターに乱暴なことをしたくない場合はとくに、サブのギターを持っておくメリットが大きい。たとえば、ちょっとナットを交換してみようとか、たまたま手に入ったピックアップを試してみようとか、電装部品をイジってみようとか、そういった実験の犠牲になるギターが1本あると、なんでもダメモトで試してみることができる。また、違う弦を張って特徴を比べるといったこともできる(本体のクセはある程度異なるだろうが、比較対象がないよりずっとわかりやすい)。実験台に限定せずとも、ギターが複数あると活用の幅が広がる。たとえば変則チューニング用のギターだとか、太い弦を張る用のギターだとか、そういうのがあると便利である(1本のギターでもできなくはないが、弦やチューニングを頻繁に変えるとネックに負荷がかかるし、オクターブチューニングもずれるし、あまりいいことがない)。

サウンドメイキングの面でも、ダブルコイルピックアップ(ハムバッカー)とシングルコイルピックアップはけっこうキャラが違うため、バリエーションを追及したい人や筆者のようにサウンドメイキング自体が好きな人も、両方用意しておくと都合がよい。とくに、ストラト(斜めにマウントされておりトーン回路を通らない)とテレ(ブリッジプレートに斜めにマウントされている)のリア(ブリッジ側)ピックアップには、その構造でしか出ない独特の音色がある(ブリッジの仕様まで追求しだすとキリがないので略)。

しかし本数が増えると当然コストも増え、弦の費用だけ考えても、500円の弦を2週間で張り替えるとしてギター1本あたり年に13000円くらいかかる(弾こうと思ったときすぐに弾けないことが何度かあると、他のギターに出番を奪われてお蔵入りする)。置き場所も必要ならメンテの手間も増えるので、メリットばかりではない。たいていの場合、効率的に運用できるのは3本くらいが上限になるのではないかと思う(Lukeが「何百本も持っていても、普段手に取るのは5本くらい」という旨の発言をしていたので、プロとして毎日ギターに触っていて、費用も手間も一般人よりはるかにかけられる人でも、それ以上はあくまでコレクションの領域になるのだろう)。

まあ個人差のある話なので何本だとダメだというようなものでもないが、少なくとも、最初から「5本で使い回そう」とか、そういうムチャな計画は立てない方がよい。また、本数が多いと引っ越しをすることになったときに運ぶのが大変だということを付け加えておく(筆者は引っ越し当時2本しか持っていなかったが、なかなかに大変だった:たいていの引っ越し業者はハードケースに入れないと運んでくれないが、ハードケースに入れたギターはエレキでもかなり大きいし重い)。

オマケ(細かいことは気にしなくてよい)

まあこれは筆者の持論というかよく考えることなのだが、ギターってのはテキトーに弾くとテキトーな音がバーっと出る楽器で、中でもソリッドは飛びぬけてガサツなんだから、細かいことは気にしなくていいんでねーのと、もっといえば細かいこと気にしなくて済むようにソリッドにしたんじゃなかったのと、思わずにいられない。

そういうなかでも弾きやすい仕様や気に入った音なんかがそれぞれあるのはもちろんなのだが、それって結局好きか嫌いか、合うか合わないかの問題で、優劣や正しい正しくないの問題ではないように感じる。

なお、自分で直せる人以外にはジャンクの購入はオススメしないが、これはこれで面白いもので、筆者の友人マーチンが持っているヤマキのナイロンギター(演奏上級者録音初心者マーチンによる録音)などは、上野のガラクタ屋で雨ざらしになっていたものを安く買っただかタダでもらっただかしたものらしいが、本人も気に入っているようだし筆者が聴いても面白い音が出ていると思う。


小物

アンプの前にちょっと寄り道。初心者セットみたいなものを買うより、自分の好みでバラ売りのものをそろえた方がずっとよい。とくにエレキギターを初めて買う人にはバラ売りを強く勧めておく。

自分で選ぶのは絶対嫌だという信念の持ち主のために鉄板チョイスを挙げておく。弦はダダリオのEXL110、ピックはフェンダーの351 Shape Shell Heavyとギブソンの73H(合計2枚)、ストラップはアーニーボールの4037、ケーブルはアリアプロツーのASG-130、ギタースタンドはケーアンドエムの17590WAVE20(ただしギターがラッカー塗装の場合メーカー純正のもの)、アンプシミュレータはズームのG1N。合計で1万円くらいになるはずだが、セットで買うよりはたいてい経済的である。単品アンプは必須の機材ではないが、もし買うならプレイテックのJAMMER Jr. Dあたりでよろしかろう(ただしJAMMER Jr. FXDは万人向けでなさそうな感じ:実物をイジって言っているわけではないが、無印Jr. Dとスペックを見比べて「ああこれは」と思わない人は避けた方が無難だと思う)。どうせ現物なんて見ても色を選ぶ足しくらいにしかならないだろうし、サウンドハウスあたりで買えば安い。

カポタストとしてプラネットウェイブスのRATCHET CAPO、SHUBBのL4(ただしネック形状が特殊な場合はギターに合うもの)、楽器店がくれる「持ち帰り用の袋」よりマシな入れ物としてプレイテックのEG-Bag、アリアのGBN-EG、フェルナンデスのST SOFTCASE、足台としてアリアのAFT-100、ケーアンドエムの14670、ハーキュレスのFS100などが安定したコストパフォーマンスなので、必要な人の参考までに。ストリングカッターが欲しい人はフェルナンデスのN-1200やピックボーイのSC150でよいのだろうが、ホームセンターなどに売っている普通の(ただし激安でない)ニッパーでも困ることはない。ドライバーも、千円くらいのセットが1つあれば十分。100円ので構わないのでラジオペンチが1本あると便利。

本体があっても弦を張らないと音が出ない。まあこれは好きなのを張ればよいのだが、スーパーライト(09-42くらい)とライト(10-46くらい)とミディアム(11-49くらい)とで、同じギターが別の楽器のようになる。とくにアイディアがないのなら、ダダリオのEXL110(ライト)かEXL120+(スーパーライトプラス)がオススメ。なお弦も工業製品なのでマイナーな製品は割高になる(同じメーカーの同じシリーズでも、人気の薄いゲージは高価なことがある)。

ニッケルワウンド(いわゆる「普通のエレキ弦」で、正確にはニッケルメッキスチールワウンドまたはNickel Plated Steel Wound)については、ダダリオがリッチ、ヤマハとSITが中庸(どちらも落ち着くまでにやや時間がかかるが落ち着くと安定度が高い)、ROTOがハイゲイン向きバランス、GHSがハイゲイン向きくらいの印象(ライト~ミディアムゲージの場合)。リッチ系のサウンドは指弾きが気持ちよく、ハイゲイン系のサウンドはミディアム~ヘビーくらいのセルロイドピックで弾くと爽快である(得意不得意の別というよりは、特徴がよく現れた鳴りになる)。ニッケルワウンドという名前でピュアニッケル(メッキでなく中身も全部ニッケルの巻き線)を売っているメーカーもあるようなので一応注意。リッチ系でダダリオのEXLシリーズ、バランス系でSITのSシリーズ(Power Wound)、ハイゲイン系でGHSのBOOMERSシリーズというのが安定したチョイス。

弦の太さについて、スーパーライトゲージは扱いやすさを犠牲にして限界性能を高めるための選択だと思った方がよい。もちろん操作性の上限を高める効果は期待できるので、繊細なコントロールを常時キープできるなら道具として有用なチョイスには違いないが、普通に鳴らすだけでもそれなりの技術を要求されるため、まずはライトゲージでしばらく馴らしてみることをオススメする。細い弦がダメだと言うつもりはないが、もしギターをあまり知らないリアル知人が「細い方が弾きやすいと聞いたから」という理由だけでスーパーライトを選ぼうとしていたら、もしくは「太い方がパワーがありそうだから」という理由だけでミディアムを選ぼうとしていたら、とりあえずライトゲージか、半ゲージレギュラー寄りのもの(9.5とか10.5とか)を勧めると思う。

太い方も11-50くらいまでが普通に使える限界だろう(12-54などの弦も売っているが、普通のソリッドギターだとナットの溝などが合わないし、ネックにも負荷がかかる)。プレーン弦はヘビーゲージ3弦用の20前後くらいまで(筆者が知る限りダダリオのPL026というのが最大)、ミディアムゲージでも3弦ワウンドのものがある。巻き弦も普通のエレキギター弦の構造だと60くらいまで(筆者が知る限りダダリオのNW080というのが最大:構造は未確認)、エレキベース弦では70(レギュラーゲージD弦)くらいより太いものが二重巻き線になっている。細い巻き弦はけっこう作れるようで、ダダリオが18のもの(EXL110wの3弦用)をラインナップしている。プレーン弦は多くのメーカーが9まで、8も作っているのはダダリオやアーニーやROTOあたり。もし3弦ワウンドのミディアムゲージ(コード弾きがやりやすくて筆者は好きだが、一般にはソリッドギターよりもセミアコなどで好まれる構成)を使う場合、ナットやサドルの溝が弦に合うかどうか確認した方がよい(溝が細いと滑りが悪くなることがある)。

もし細めの弦が好きならスーパーライトの代わりに、ダダリオのEXL120+、SITの9.544、GHSの095など微妙に大きいゲージを試してみるとよいかもしれない。これらの弦が採用する9.5、11.5、16、24、34、44というゲージはバランスがよく、単に細い弦が好きな人にオススメなのはもちろん、太い弦が好きな人でもストラトタイプで単音弾きする場合なんかには試して損がないと思う(各メーカーとも15.5という太さは作っていないし、どうせ3弦が16なら9-42よりも9.5-44の方がギャップができにくい)。これ以外でバランスのよいゲージというと、エレキ用のレギュラーである10、13、17、26、36、46のほか、ダダリオのミディアム11、14、18、28、38、49や、GHSのGB10.5が採用している10.5、13.5、17、26、38、48(ダダリオの110+は、どうせ3弦が18ならミディアムの方がよい気がする)あたり。ダダリオのEXL-110BTはライトゲージのバランスドテンション(アームを使ったときにチューニングが狂いにくいようテンションバランスを取ってある:ミディアムゲージなら、SITやGHSも扱っている)、GHSのDavid Gilmour Boomers Strat Set(だだしややヘビーボトム)は2弦12のセットとして貴重。またチョーキングが楽だという理由だけで小さいゲージを使っているなら、ゲージを上げて半音下げチューニングしてみると幸せになれるかもしれない(チョーキングのやりやすさはあまり変わらず、他の演奏が少しラクになる、ことが多いと思う)。新品だと弦の伸縮にチョーキング動作が吸収される(同じ力をかけても柔らかいバネの方が長く伸び、また長くなった分音程の上昇を打ち消す)ので、ある程度馴らしてから使うのも有効。

プレーン弦(普通はすずメッキの炭素鋼)は1種類しか作っていないメーカーが多く、ダダリオでさえコーティング巻き弦とのセット用とノーマル巻き弦とのセット用で2種類、アコギ用も同じ弦(だったが2014年に新製品が出て1種類増えた)。中小メーカーではTHOMASTIKがプレーンスチール(IPシリーズ)とブラスメッキ(Pシリーズ)とすずメッキ(PTシリーズ)をラインナップしているが、プレーン弦は一般にすずメッキでIPシリーズとPTシリーズがどう違うのか不明。巻き弦にはバリエーションがけっこうある。普通の巻き弦はニッケルメッキスチールのラウンドワウンドで、テンションの割に太く(比重がニッケル>ステンレス>スチールの順で、フラットワウンドに比べて隙間が大きいから)、音色のキャラはステンレスほど暴れずニッケルほど地味でない。ピュアニッケルは、ローをしっかり出しつつ中域を邪魔しない感じで使い勝手がよい(強く潰すときやアルペジオやベース+メロディなどをやるときによいと思う)。ローラーワウンドのNICKEL ROCKERS(3弦ワウンドセットまである)、芯線が太いBig Core、ベース弦のような二重巻き線にしたCompound Nickel Rockers、いちばん普通っぽいBurnished Nickelと、GHSがラインナップにコダワリを見せている。ハーフワウンドもピュアニッケルと音色の傾向が似たところがあり、手触りが独特。巻き弦の芯線(普通は炭素鋼)の断面形状は6角形(ヘックスコア)や丸芯(ラウンドコア)があるが、どちらであっても影響はベース弦ほど顕著に現れない(細いので)。ステンレスなど硬い素材の弦はフレットの消耗を早めるので注意(音色が独特なので好きなら選択の余地がないが)。ダダリオのProSteels、アーニーボールのCobalt、GHSのProgressives、THOMASTIKのINなど材質が変わっているものもある。

コーティング弦はエリクサーが有名で、巻き線だけでなく巻き弦を丸ごとコーティングするのが特徴(というかコッチが先だった模様)。大手メーカーもほとんどがコーティング弦をラインナップしているが、変わった製品はあまり多くない。2013年7月現在のプレーン弦は、エリクサーとダダリオは錆びにくいノンコーティング(おそらくメッキの変更など)、アーニーボールとGHSはコーティングを採用している。DRの色付き弦(というか紫外線で光る:蓄光作用の小さい狭義の蛍光)NEONシリーズは面白い試み。ROTOのNEXUSシリーズは「a Type 52 pure nickel alloy」という線を使っている(「ピュアニッケル」ではなく「ピュアなニッケル合金」で、本家サイトによるとa highly magnetic material made from 52% nickel and 48% iron)。なお、もし錆びないことだけを求めているなら、ピュアニッケルにすればノンコーティングでも錆びない(ピュアニッケルをコーティングするともっと錆びないはずだが、必要ないので普通はやらない)。また筆者が試した中では、R COCCOのRCシリーズが(コーティング弦やピュアニッケルを差し置いて)抜群の耐久性を見せた(錆びないだけでなく、ちゃんとチューニングして弾けた)。

ピック

指でも弾けるがピックもあると非常に便利である。もし初めてギターを弾くならフェンダーのクラシックセルロイドの351と346のミディアムかヘビー(弦がライトならヘビー、スーパーライトプラスならミディアム、できれば両方)を買おう。ギブソンも似たような製品を売っているので、ギブソンを愛している人はソッチでもよい。他のピックの事は上の2つに多少慣れてから考えればよい。

他に、SCHECTERのSPT-MN10BK(暴れないのに押しは弱くないナイロンらしい音色でピッキングノイズが少ない:シングルコイルにも合うがダブルコイルに使うと絶妙)、PICKBOYのGP33Rの1.0か0.88(ブライトな音色のカーボンナイロン:ちゃんと扱わないと滑るし音が潰れるので練習用にもなり、慣れるとイキのいい音が出せてこれまた気分がよい)、ポリアセタール製の1.0mm(FERNANDESのP-100SPAなど)、あたりは試して損がないと思う。

ややクセがあるものでは、DUNLOPのULTEX JAZZ III(とても小さいが万能で音色はブライト)、PICKBOYのJ-120(JAZZ3とほぼ同じシェイプで扱いやすい音色)、PEAVEYのAB390HV(いろんな音が出せる変形ピック:廃盤になったようだがジムダンロップがFinsという似た感じのモデルを出している)、Tortex製のできるだけ薄いもの(とにかくしなる)、DUNLOPのJazztone 205(ジャズピック)は、買わないまでも一度手には取ってみるとよい。シグネチャーモデルではIBANEZのPaul GilbertモデルとJohn Scofieldモデルなんかが面白い。

ピックの素材としてTortexの人気がやけに高いようだが、もし「滑りにくい」という理由だけで選んでいる人がいたら、いちどポリアセタール(またはジュラコンまたはデルリン)やウルテムのものを試してみると幸せになれるかもしれない(ただし素材が同じでも表面加工がそれぞれ異なるので、ダンロップのデルリン500などスベスベ系のものもある)。Tortexはたしかに滑りにくいが弦での抵抗も大きいため、指の上でピックが動きにくいという点ではポリアセタールやウルテムに軍配が上がることが多い。ただしもちろん、Tortex独特の音色とタッチは面白いもので、ピックの素材として適さないわけではない(筆者も極薄ピックやJazztoneシェイプでは何枚か使っている)。

ポリアセタール系ではFERNANDESのP-100SPシリーズ(P-100SPAの0.6か0.8mmがオススメ)、ウルテム系ではDUNLOPのULTEXシリーズ(ULTEX STANDARDかULTEX SHARPの0.73mmがオススメ)が種類も多くとっつきやすい。先端が丸いポリアセタール系はダダリオ(PLANET WAVES)のDuralin Picksあたりの入手性がよい(ESPのPOM TearDropはスタンダードとシャープの中間くらい、DUNLOPのDELRIN 500 Standardはツルっとした独特の仕上げで滑りにくさではもう一歩か)。なお先端が丸いシェイプがスタンダード扱いなのは、歴史的に主流だったセルロイドだとトガったシェイプを作りにくかったから(だと思う)。

その他

シールドケーブルは、ストラト以外ならギター側はL字、ストラトならギター側がストレート、アンプ側は大型アンプならL字、小型アンプならストレート、ペダルなら置き場所次第、フロアイフェクタならストレートがよいと思う。基本的には、L字を使えるならL字の方が無難(ストレートは、誤って引っ張った際やプラグにぶつかった際にジャックへのダメージが大きくなりがちなので)。高価なものを使っても(意図的に劣化させているのでなければ)音は変わらない。

チューナーはいろんな機器に内蔵されているしスタジオに行けばほぼ必ずレンタルがあるので、携帯性優先で選ぶのがよさそう。ただし、セント単位で表示できるデジタルチューナーが1つはあった方がよい(オクターブチューニングを精密に調整しようとすると必要になる)。以前は音叉が最高の携帯性を誇ったが、カポチューナーなるシロモノが出現して、カポも持ち歩く人には2番手になった(誰でも思いつきそうな話だけど、タバコ型のチューナー作ったら売れないかな:もちろんヘッドに挟む仕様で)。

ストラップはERNIEBALLの4037(安いだけでなくモノもよい)をまず買って不満だったら他のにすればよろしかろう。もし不要になったら(予備にしておけばいいと思うのだが)もったいないという人は、事前に必要なサイズだけでも確認しよう。とりあえず無難なものを仕入れて、不満点があったら他を当たるというのは、とくに価格が安いものでは有効である。ストラップロックはお好みで。

ギタースタンドもぜひ必要。できれば(ネックではなく)ボディ裏で支えるタイプのものが安心である。デリケートな塗装のギターは布(不安定にならない厚さで滑らないもの:スタンドブラと呼ばれる専用のものもある)か何か噛ませて保護するのが無難(ただし、ラッカーのような非常に不安定な塗装の場合、どんな素材のものを使っても同じ場所に長期間何かが触れているだけで塗装が劣化する可能性はなくならない:触れているのがたとえ空気でも同様、というか、普通の空気には酸素と呼ばれるたいへん反応性の高い物質が含まれており、化学変化しやすい物質とは相性が悪い)。普通のポリウレタン塗装(安いギターはたいていこれ)なら、あまり気にしなくても大丈夫。

家から一歩も出ないのでなければケースも必要。楽器を保護・運搬する能力がもっとも高いのはハードケースだが、内部で適切な保持ができているかしっかり確認・調整する必要がある(ギターの形なんて年代やモデルによって違う)。セミハードケースにする場合は背負い紐の位置に注意しよう(低い位置にあった方が変なところに荷重がかかりにくいが、低すぎると背が高くなってぶつけやすい)。ストラト・テレ・レスポールなら5000円くらい出せばハード・セミハードともにラインナップがあるのだが、数が出ないギターは高くつく。エクスプローラー・ファイヤーバード・フライングVはまだSKBがセミハードケースを出してくれているが、SG用の安いケースは、大手メーカーだとエピフォンの940-EGCSかSKBの61、少し値段が上がって東海楽器のSG-250くらいしかなく、ストラト用だと長さが足りずレスポール用だと幅が足りない(筆者の手元の61レプリカは、全長101か102cm、ボディ長が42か43cm、上部幅28cm、下部幅34cmくらい、ボディ上部のふくらみや窪みはレスポールと比べるとかなり下:ハードケースの内寸は普通エンドピン用の窪みを含まないが、SGは上側のストラップピンがボディ背面にあるので、引っかかって変な力が加わらないか確認すべき)。

ハードとセミハードの大きな違いは、ぶつけたときや他の荷物が崩れてきたときの保護能力と、持って運ぶときのギターへの負荷である。一人で2本運ぶときや自転車で運ぶときなど、環境が悪ければ悪いほどハードケースの方が有利である(重いけど)。また引越し業者や宅配便を利用する際、セミハードケースでの輸送を引き受けない(ハードケースのみ受け付ける)業者が大半である。ソフトケース(バッグ)については「とりあえず運べる」以上の性能を期待しないのが無難。あれは荷物を運ぶ道具であって楽器を運ぶ道具ではない。セミハードケースにはレインカバーorレインコート、ハードケースにはケースポーターという補助グッズがあるので検討してみてもよいだろう。SKULL MUSIC RECORDS(国内扱いはパール楽器)から防水セミハードケースも出ているが、ハードケースと変わらないくらい高価。

ニッパー(ストリングカッター)、ペグワインダー(ストリングワインダー)、ピック入れ(携帯灰皿などで代用可)、足台(使う人だけ)、カポタスト(演奏には使わなくても弦高調整などに利用できる)あたりはあれば便利である(ただしペグワインダーはギターのヘッド形状により使えないことがある)。

オマケ(弦とかゲージとか)

エレキギターの弦というのはテンションの変化にかなり耐える。このことはゲージのバリエーションを考えるとわかる。たとえばダダリオのEXL120(スーパーライト)は009、011、016、024、032、042で、EXL145(ヘビー)は012、016、020、032、042、054という太さになっているが、両者にはPL016、NW032、NW042という弦(こちらはバラ売りでの名称)が共通して使われている(PL012とPL016はアコギ用ライトゲージの1・2弦としても使われている)。

ようするに、ヘビーゲージを張って4度下げチューニングするとスーパーライトのレギュラーチューニングと似たような音を(少なくとも1~5弦で)出せるし、スーパーライトを張って4度上げチューニングするとヘビーゲージのレギュラーチューニングと似たような音を(2~6弦で)出せる(多分ネックにものすごい負荷がかかるし、1弦は細い分ムチャがきかないが:たとえばダダリオのライトゲージ1弦用のPL010は、2音ベンドアップでブレークポイントの9割のテンションに達するそうな)。また小さめのゲージの2~6弦なら、チューニングの際に誤って1音や2音高くしてしまっても、それだけで切れることは普通ない。知っていて何か得するような話ではないが、よく考えればたしかにそうである。

もうひとつ無駄知識を。レギュラーチューニングでの弦のテンションは、エレキギターのエクストラライト(08-38)で1本あたり5kgくらい、エレキギターのヘビーやアコギのライト(12-53)で10kgちょっと、4弦エレキベースのカスタムライト(45-105)で20kgくらいである。エレキギターの6弦とエレキベースのD弦は似たような音高だが、ベースの方が弦長(スケール)が長いためテンションが高くなる。なおこれらのテンションは普通、ネックを圧縮する方向にかかっているのであって、折り曲げる方向には小さな力しかかかっていない。


アンプなど

ギターに弦を張れば音は出せるが、エレキギターはアンプorアンプシミュレータに繋いでナンボである。

必要なものとあった方がよいもの

2021年全面書き換え:以前はプレイテックのJAMMER Jr. DやZoomのG1Nなどコストパフォーマンスでも絶対的な価格でもブッチギリの機種があったのだが、ここ数年で選択肢が狭くなった。現在の選択肢は、フロアマルチならAux入力がないが値段は安いVOXのStompLab IGか、値段はミドルレンジに近付くが機能面でモダンなG1 FOUR、ポケットサイズはMOOERのPE100がほぼ唯一の選択肢、電池駆動のアンプ(またはアクティブスピーカ)に至ってはLaneyのAH-FreestyleとROLANDのCUBE Street(といまだに粘ってるKC-220やAC-33の流用)以外ミニチュアばっかりになってしまった。この条件で初心者向けに選ぼうとしたら、ヘッドフォン前提の構成になるのは避けられなさそう。全部盛りの機種を選ぶならペダルつきのG1X FOUR(なんとノーマルのG1 FOURにはペダル入力がない:G1nにさえあったのに)だろうが、G3nあたりと数千円しか変わらない価格になってしまうので、Auxとかペダルとか本当に要るの、ということは検討してみた方がよいと思う。またスタンドアロン(パソコンやスマートフォンなしの単機)で使えないものは、最初の1台としてはオススメしない。

前提知識として重要なことを列挙していこう。エレキギターアンプで一番のキモはキャビネット(スピーカとハコの部分)で、他はシミュレーターでなんとかしたとしても、ここだけはどうにもできない(いちおう、MooreやHotoneがIRフィルタを使ったペダルを出してはいる)。録音やライブではエレキの生音は聴こえないようにするのが普通なので、録音やライブを想定して出音を評価するなら、生音を遮断する必要がある(いったん録音してから流すとか、他の人に音を出してもらうとか)。アンプで大音量を出すと弦の振動自体が(空気に震わされて)変わるので、大音量を出したときの挙動は実際に大音量を出さないと確認できない(ついでにフィードバック奏法も、実機アンプのゲインを上げないとできない)。ペダル一体型マルチとペダル外付けマルチを比べると、前者の方が合計価格で安上がりになることが多いが、故障に弱くセッティングの柔軟性がない(とくに2台めのマルチを導入したとき、とてもアホらしい使い勝手になる)。もし家でキャビネットを使うつもりがないor他に使えるスピーカがあるのなら、マルチ内蔵アンプより普通のフロアマルチの方が軽くて小さい。もし持ち運ぶつもりなら、セパレート(アンプヘッドだけ)の方がコンボアンプより圧倒的に軽く小さい。デジタルマルチからスピーカに出せばもっと軽くてもっと小さい。

エントリーモデルが気の利かないラインナップばかりになった一方で、1万円台のデジタルマルチはやたらと種類が増えた。なかでも、NUX(VALETON)、MOOER、HOTONEといったメーカーは「IRローダー」(外部IRファイルを読み込む機能の俗称)搭載タイプをこの価格帯に複数投入している。またamPlugが独占してきたプラグインタイプの市場にフェンダーのMustang MicroやNUXのMighty Plug(MP-2)が割り込みをかけたよう。キャブレスのアンプシミュレーター(とデジタルマルチがどう違うのかというのは主観的だが)全体としても、ヤマハのSession CakeやBOSSのPOCKET-GTなどが出てきた。選択肢が増えたこと自体は歓迎すべきなのだろうが、これらの機器は(少なくとも2021年春現在)どれも、なにができてなにができずなにが必要なのか、というごく当たり前の情報がとてもわかりにくい。スタンドアロン(ギターと本体だけ)でできるのはどこからどこまでで、親機(パソコン相当機種とかAndroido端末とかiOS機器とかいろいろ考えられるし、もちろんバージョン違いやハード性能の違いもある)が変わるとどれだけの影響を受けて、という本当に最低限の情報が実に乏しい。正直なところ(PX5Dで間に合っているというのもあるが)筆者は手を出したくない。電池駆動のマルチ内蔵アンプはミニチュアサイズのもの以外ほぼ全滅したようだが、Line 6のMicro Spiderは生き残っており、MOOERのLittle Tank D15、MARSHALLのCODE100HとMG100HFX、BOSSのKATANA-HEADなどマルチ内蔵のヘッドが登場してきた(コンボアンプにするよりはずっと合理的だと思うけど、単なるフロアマルチと比べた特徴は「パワーアンプ出力がある」という1点なので、優位性のある用途は限られそう)。

スピーカとヘッドフォン

家でもポータブルアンプから音を出すという選択肢はあり、もしそうするなら電池だけでなく電源アダプタでも動かせると便利で経済的である(電源アダプタ別売りの機種は合計で価格を検討しよう)。ただし2013年現在、キャビネットシミュレータは「実機にマイクを立てたらこんな雰囲気になるよね」程度のものがせいぜいで、原理を考えても「ハイファイスピーカ(ないしヘッドフォン)から実際のキャビネットさながらの音を出す」レベルのシミュレーションが可能になるのはかなり先のことになるだろうことを覚えておきたい。もちろん、音色の作り方によってはハイファイスピーカの方が都合がよいこともあるし、現在のキャビネットシミュレータも音色作り用プリセットの1つとして見れば有用な道具である。

ヘッドフォンは有効な選択肢で、大きな音を出せない環境ではそれしか選べないことも多いだろう。機種について大きく分けると、すでに挙げたQZ99やEXシリーズのような音響遮断性能が高いものか(圧迫感は強いが、周囲の雑音や生音の影響を受けにくく、結果的に小音量で練習でき耳に優しい)、快適性を重視しているもの(筆者自身は普段リスニング用のHD 558を使い回している)を使い分けることになるだろう。

ヘッドフォンはごくハイファイな出音が安価で手軽に得られるのが特徴だが、耳元で大きな音が鳴るため音量にはとくに注意して欲しい。高域の再生能力もギターアンプとは比較にならないため、ごく高域に強い音圧を生じさせるイフェクタ(真空管を使ったものやそのシミュレータなど)は出力を確認しながら使おう。

ステレオコンポなどのスピーカからエレキギターの音を出す手もあり、ごく小型の機種でなければそれなりに音は出る(マルチユニットでバスレフの機種がほとんどなので、6.5インチのフルレンジよりは上が出るし、下もそれなにには頑張れる:バスレフ同士で比較しても、1つのスピーカで高域まで頑張らなくてはならないフルレンジスピーカより、高域はツイーターに任せて低域に専念できるマルチユニットのウーファーの方が、かなりラクをできる)。伴奏を流しながら練習するときにも、伴奏だけ他のスピーカから出す使い方は便利。

伴奏で言うとCD入力などがついたギターアンプも多いが、基本的にはヘッドフォンと併用するものだと思った方が無難である。ギターを演奏する際に伴奏として重要なのは、ベース、バスドラム、ハイハット(またはライド)、スネアあたりだが、これらをエレキギター用のキャビネットで再生するのはかなりムリがある(大きいとシンバルの音が、小さいとベースの音が消えやすい)。筆者が試した限り、MINI3(5インチで多分バスレフ)のスピーカでもベースやハイハットが「消えはしない」程度だったが、他に普通のスピーカがあるならそちらを使った方がよいのは言うまでもない(他にスピーカがない場合、筆者ならヘッドフォンを使う)。

伴奏を普通のスピーカから出す場合、小さいものを使うならモニタスピーカよりも普通のステレオコンポなどのスピーカが有利である。なぜかというと、モニタスピーカでは音の正確さが重要なので低域をムリに引っ張っていない機種が多く(とくに5インチクラスはかなり上でスパっと切る傾向がある:同じサイズのリスニングスピーカよりは大音量で使われ、低歪みと俊敏な応答を求めるとなれば再生周波数は切り捨てる以外にどうしようもない)、伴奏用として考えると、多少応答や制動が鈍くなって大音量で歪みやすい特性になっても、下を引っ張ってベースの音を出してくれるリスニング用スピーカの方が使いやすいからである。もちろん、8インチメイン+サブウーファーなど、下まで出せるクラスのものならモニタスピーカでも伴奏は流せるが、配置や音量のセッティングがシビアなので、気楽に使えるのはリスニング用スピーカだと思う。性能だけ考えるとステージモニタ用のスピーカは普通に使えるはず(ただし取り回しに難がある)。

オマケ(何kgまで運べるか)

体格や鍛え方や気合によっても事情は異なるが、あくまで筆者(体重60kg男性)の感覚で。

ギター本体が3~4kgくらい(極端なものでは2.5kgとか5kgとか:木の重さが大部分だが凝ったトレモロユニットなどを取り付けると重くなる)、ソフトケースが1~2kg、セミハードケースが2~3kg、軽量ハードケースが3~4kgくらいだから、だいたい5~10kgくらい背負うことになる。これにプラスしてとなると、徒歩で10kg以上だと泣きが入る。

まあぶっちゃけたところ、電車に乗って疲れ果てずにスタジオにたどり着くには、背中に10kg手に5kgくらいまでが無難ではないかと思う。頑張ったとしても背中に10kg両手に各5kgくらいではないだろうか。荷物としては、ケーブル類や電源アダプタが意外と重くかさばる。

アンプケースも5~10kgあるので、中身が入ると徒歩ではかなり厳しい。アンプカバーにすれば重量は軽くなるが雨や振動の心配がある。重いからといってアスファルトの上を台車でゴロゴロ転がすのにも抵抗がある(普通の機器でも繰り返し衝撃を与えると寿命が縮むので、筆者はデジタルマルチやMTRのような精密な機器は台車に乗せない)。運ぶなら自動車を使うのが無難だろうか。


エレキギターを弾いてみよう

以下、できるだけ労力を省く方針で進める。
ただし最低限の準備はする / パソコンの力を借りる / コードを押さえない / 伴奏と合わせてみる / パワーコードを鳴らす / オマケ(マイナーコード) // メロディを弾くためにへ進む
使うものは、ギター本体、ドライバーor六角レンチ(レンチはギター本体についてくるはず)、弦(できれば同じものを2セット)、ピック、ギタースタンド、ストラップや足台など(使う人だけ)、デジタルマルチイフェクタ、ヘッドフォン、カポタストなどである(注意が必要なものはその都度指摘する)。

ただし最低限の準備はする

準備が悪いと無駄な手間が増える。

ギターを買ってきてまずやるべきことはもちろん音が出ることのチェックだが、ちゃんと動いていることがわかったら弦を交換しよう。これを最初にやらないとオクターブチューニングなどができない(弦の太さや種類が変わるとオクターブチューニングも変わる)。弦交換のやり方は他にいくらでも解説があるので略。

つぎに弦高を調整するのだが、このときは普通に演奏できる設定にはしないのでそのつもりで。チューナー(後で精密な調整をやるし何度もチューニングするので初心者が耳を頼りにやっていたら日が暮れる)とカポタストを用意しておこう。筆者は、精密チューナーには渡辺成身さんのSoftTuner、カポにはダダリオ(PLANET WAVES)のRATCHET CAPO(PW-CP-01)を使っており、どちらも便利である(ただしカポはネックの形状や塗装に合ったものを選ぼう)。慣れないとうっかり弦を切ることもあるので替えがあるとなおよい。

弦高はブリッジ側だけ調整する(ナット側は後で見直す)。まず普通にチューニングして、1フレットにカポ(必要以上に締め付けないように)をつけ、ピックでガシャガシャ鳴らしてみる。強いビビリが出ているようならサドルを上げ、出ていなければ下げ、ちょっとビビるくらいに調整する。サドルは一気に上げ下げせず、ネジを1回回したらカポを外してチューニングし直してカポをつけて様子を見る。ギブソンタイプのギターだとこの調整がラクでいい。

うまいこと調整できたら、カポを1フレから5フレに移動して、常識的な強さで弾いてみて、ビビリが出ないことを確認する(弦を弾いた瞬間に一瞬だけビリっとするのは気にしなくてよい)。ここまでで、普通にあり得る状態(=カポをつけていないとき)よりも相当弦高が低くなっている。

弦高が決まったらカポを外してチューニングを直し、オクターブチューニング(イントネーション調整)をやる。オクターブチューニングは弦を馴らしてからやるのが本当なのだが、この時点ではどうせフレットの押さえ方もヘタクソだし、弦高調整で散々引っ張ったり緩めたりしているはずなので、とりあえず無視する。弦の種類を固定したらまた見直せばよい。

これも解説がたくさんあるのでやり方は略。開放弦と12フレットの音高がバッチリ決まったら、5フレットの音もチェックする(気合を入れるときは全フレットでやるのだが、次で5フレットを使う予定があるのでとりあえずここだけ)。もし5フレットの音が3~4セント以上高いなら弦長が長くなる方向に、3~4セント以上低いなら弦長が短くなる方向に、ちょっとだけ振ってやろう。

これ以上の調整は、ネックが落ち着いてから(楽器店に置いてあったときとは湿度や温度などが変わるので、木の状態も変化する)でないと話が始まらないので手をつけない。

パソコンの力を借りる

まずはパソコンの音とギターの音を同時に聴けるようになんとか設定しよう。G1uのようなパソコンとも繋がるデジタルマルチを使っている人はこの手間を省ける。そうでない人は、パソコン用スピーカ(エレコムのMS-130のような、PC入力のほかに外部入力とヘッドフォン出力があるもの)かなにかにデジタルマルチの出力を回して、ヘッドフォンを繋ごう(入力数が足りればラジカセやコンポでもよい)。それもない人は、さっさとミキサーを仕入れて音を混ぜられるようにしよう(ミキサーについてはパソコン周辺の買い物のページに書いた)。

とにかくパソコンの音とギターの音を混ぜてヘッドフォンから出せるようにしよう。あとは各自の努力に任せた。できるようになったら、パソコン用のMIDIシーケンサーソフト(Dominoなど)を用意して音が出せるように設定する。上で少し触れたが、扱えるなら別にDAW+適当な音源でもよい(小回りが利かなくて非効率だとは思うが)。なお、MSGSとASIOなどの衝突(音声出力の権利をめぐってケンカになる:一部のソフトではMSGSを出力候補にしただけで(実際には使っていなくても)衝突が起きることがある)で問題が出たら、どちらか片方を使わない設定にする。

全部揃ったら、伴奏ファイルを用意したので全部ダウンロードして読み込ませよう(8ビートシャッフル16ビート)。3種類あるが、どれでも好きなものを使ってよい、というかずっと同じだと多分飽きるので気分に合わせて選ぼう。

上記のファイルが無事に再生できたら、いよいよギターを鳴らすステップに移る。

コードを押さえない

押さえないとは書いたがフォームは覚える。最初にチャレンジするコードはAである。諸君、これがAだ。

「人」とか「中」とか書いてあるのは指の名前、右がブリッジで左がヘッド。本やネットで見たAのフォームとは微妙に違う気がするかもしれないが、誰がなんと言おうとこれはAである。なお「指はなるべくフレットの近くに云々」などといった簡単に手に入る情報はイチイチ書かない。このページは読者の無駄を省くのが趣旨だが、筆者も無駄は省きたい。

さて、エレキなのでアッサリ音が出た人もいると思うが、せっかく用意したのでカポタストを使おう。1フレットにカポをつけてチューニングを直す(カポなしでE-A-D-G-B-E、1カポでF-A#-D#-G#-C-Fの状態にする:カポをつけてから確認することを推奨)。なおもしレギュラースケール(25.5インチ)のギターを1カポにして半音低くチューニング(カポなしでEb-Ab-Db-Gb-Bb-Eb、1カポでE-A-D-G-B-Eの状態)すると、ショートスケール(24インチ)のギターを普通にチューニングしたのとほぼ同じ張力になる(カポによってナット側の弦高が低くなっている分も含めて、音を出すために弦を押さえる力はかなり小さくなるはず)。

さてもう一度弾いてみよう。キレイな音がスッキリと出ただろうか。実は出なくても問題ない。さっきの図に少し説明を加えるとこうなる。

AのコードというのはA(ラ)とC#(ド#)とE(ミ)の音でできているが、Aはベースが弾いてくれる音だし、Eはただのオマケでなくても支障ない。つまり3弦6フレットのC#(ド#)の音さえちゃんと出れば、とりあえずAのコードとしては成り立つわけである(ただし反対から言うと、他の音がキレイに出ていても3弦6フレットのC#が出ていないとAの響きにならない)。たとえばこの演奏のコードがAでないとは、相当頑張ってこじつけないと言いようがない。A(ラ)とC#(ド#)とE(ミ)が全部揃ってないとダメだと言い張るにしても、同じ音が何回も出てくるのでどこか1箇所だけ頑張って後はテキトーに流せばよい(人差し指以外を頑張るのがオススメ)。どうしても音色が寂しいように感じるなら、ベースの音色にオーバードライブでもかけておけばよい(とサラっと書いたが、ようは全パートの合計でそれなりの厚みとか響きなんかが作れればよいわけで、エレキギターにとってベースのサポートが重要だということを知るためにも試して損のない小細工)。

Aが鳴らせるようになったところでDも覚えよう。さっきよりもう少し難しいのだが、この後必要になる要素がつまったフォームである。諸君、これがDだ。

見た目にムリ臭い押さえ方が早速出てきた。薬指or小指(筆者は薬指でやっている)のところは、第一関節を逆に曲げて1弦を避けるのである。これはぶっちゃけ向き不向きがあるのだが、エレキギターの奏法には関節が逆に曲がることを前提としているようにしか思えないものがけっこうあり、できるかできないか試してみるだけでも価値はある(よく「Fのコードが壁になる」とかいうことを聞くが、Fなんて練習すれば誰でもできる:いっぽう逆ゾリは体質的なものもあるので、できない人にはできない)。

すぐにできた人は少ないかもしれないが、今回本当に必要な音はすでに書き込んであるように2弦の音だけなので、とりあえずそれだけは出るように頑張ろう。なお、力が入って

こうなってしまっても問題ない。これもD(正確にはD6)である。ついでにいっておくと、力を強くするよりも力を効率的に伝える方が重要なのは間違いないが、慣れていないときに力が入ってしまうのはやむを得ないことなので、多少力んだからといってあまり騒がずリラックスを心がけるのが効率的である(あまり神経質になるとかえって力が入りドツボにはまる)。

実は上記以外にも押さえ方はあるのだが、その前にギターの指板を見て欲しい。ナットの近くとブリッジの近くでフレットの間隔が違う(ナット~1フレット間と12~13フレット間では半分になる)。このため場所によってやりやすい押さえ方が変わる。これは今後も頭の隅に置いておこう。話を戻して筆者がやっているインチキフォーム。

もうちょっと広いところでないと使いにくいのだが、重要な2弦の音を小指でしっかり出して、3弦の音は「出たらラッキー」程度に押さえる努力だけする。さらに窮屈になるが、

こんなのもあり、わりと正統派なやり方である(指を1本だけ動かして別の音を鳴らしやすいメリットがある)。

まあどれでもいいので、とにかく2弦の音がちゃんと出るように押さえて欲しい。もうひとつの注意として、もし余裕があったら人差し指の先で6弦に触れて余計な音が出ないようにしておこう(ミュートという:日本語だと消音)。じつは、6弦まで全部押さえてもコードの音しか出ないのでダメではない(というか押さえることもけっこうある)のだが、ミュートについて触れておきたかったのと、後でパワーコードを紹介する都合があり6弦を鳴らさないフォームを紹介した。これも重要な技術なので(今はできなくてもよいが)頭に入れておきたい。

ということでDもクリアしたので最後の1つ、Eを覚えよう。諸君、これがEだ。

Dをブリッジ側に2フレット分ずらしただけである。ここまでに紹介したコードはすべてこの平行移動ができるので、実はすでにGでもFでも鳴らすことはできるようになってしまっている。なお、こういったフォームを多用する演奏は、一般に指板が丸いギターだとやりやすい。弦高調整で苦戦したフェンダーユーザーのみんな、これで報われたね(あのサドルは丸い指板に合わせて各弦の高さをズラせるようにしたもの)。

伴奏と合わせてみる

いよいよコードをつなげて弾くわけだが、その前にちょっとデジタルマルチの設定を見直しておきたい。だいたいのマルチには「究極の歪み」とかなんとかいうアンプモデルが入っているのでそれを選び、ゲイン(歪み方)を最大にする(ただし耳が痛くない範囲で)。それ以外のイフェクタやEQなどは原則オフでよい。ギター本体はツマミ類全部最大で、ダブルコイル(ハムバッカー)ならリア、シングルコイル3発(ストラトレイアウト)ならリア+センター、シングルコイル2発(テレレイアウト)なら迷うところだがフロント+リアでよいだろう。

「強く歪ませると細かいミスが目立たなくなり練習に悪影響があると聞いた」と指摘したい読者がいるかもしれない。前半は正しい。どうせ大幅にミスるので細かいミスは目立たないようにしておきデカいのを先になんとかしよう。

さて、すでにダウンロードしてあるはずの伴奏ファイルは、どれも
A>D>A>A
D>D>A>A
E>D>A>E
と進んで最後だけEではなくAになる。筆者による目も当てられないほど素晴らしい模範演奏を紹介しよう。SGもどき(ダブルコイル)のリアピックアップからG1Nのedアンプに通した。ここで注意して欲しいのは鳴らすタイミングである。一般に、コード伴奏のギターは(小節の中で)それほど急いで音を出す必要がない。むしろ最初から最後まで張り切られると他が迷惑する(後でやるアルペジオなど時間をかけてコード感を出す伴奏や、リズム主体の演奏などを除く)。頭からズジャーっと弾きまくることももちろんあるが、ぶっちゃけ最初に挑戦するならこっちの方がラクである(弦と指が擦れるノイズ(フィンガーノイズ)でバレバレだが、演奏例では音を出していない隙に左手を動かしている)。

音を短く出しているところが多いことに気付いた人も多いと思う。この演奏では右手の側面(空手チョップするとき使うあたり)で弦の振動を止めている。専門用語ではカッティング(音を切るからこう呼ぶ)というが名前はどうでもよい。ただ、音を出すところと止めるところの両方を意識する必要があることを覚えておきたい。興味がある人は次の項のオマケを先に読んでみよう。

ギターの音量が小さく感じられるかもしれないが、筆者に言わせるとこれでもデカいくらいで、他の演奏をよく聴こうとすればするほど自分の音は小さくなるはずである(そりゃあこれだけ歪ませてるのだから邪魔にならないわけがない)。最初はそこまでの余裕がないと思うが、この聴きながら弾くという意識や自分の演奏が邪魔だという感覚は、これ以上にないくらい大切なものなのでよく意識したい(邪魔というと言葉が悪いが、上手く溶け込んでいないことを認識できるセンスをまず育てないと、調和させるための努力のしようがない)。

もっと慣れてきたらもちろん、素早いコードチェンジやら正確なタイミングやら、自分が欲しいと思う技術を追求すればよい。アンプモデルなども適当に取り替えて自分好みのものを探し、伴奏ファイルもリズムが違うのを使ったり、慣れてきたらテンポを上げたりもしてみよう。余裕ができたら別なことを試し、いろいろやってみたらまた前に戻ってと繰り返しているうちに、なんとなく音が出しやすくなっていくはずである(この「試したい別のもの」を探す能力がモノをいうわけで、それを支えるのは結局「面白いと感じるかどうか」ではないかと思う)。

可能であれば録音して古いものも消さずに残しておくことをオススメする。とりあえず飽きるまでやってみよう。

パワーコードを鳴らす

なんとなく弦が4~5本鳴っている感じの演奏はできるようになった、と仮定して話を進める。最初の頃の「重要な音」しか出ていなかった演奏と、今の演奏をちょっと比べてみよう。コードは同じでも「音の厚み」が全然違うはずである(きっと)。この「伴奏に厚みと迫力を出すための音」だけを取り出したのがパワーコードである。

つまりこうなる。

5弦と6弦だけ使うように書いてあるのは、厚みや迫力を出すには低音が有効だからである(ちょっとした実験として、前に練習したコード回しを「3~6弦あたりだけ」「1~4弦あたりだけ」の2パターンで鳴らしてみよう)。また「重要な音」を含めた高音域のパートを他の人(ヴォーカルとか、後でやるリードギターとか)にやってもらう前提なので、邪魔をしないように1~2弦は鳴らさないのが普通(上のパートが高音域に行ってしまった場合などは4弦を鳴らすこともけっこうあるし、あえて1弦まで使ってパワーコードを鳴らすこともないではないが、それは慣れてから考えればよい)。

ということで、コード回しができれば弾く弦を下の2本だけにすることでパワーコードも弾けるはずなのだがしかし、上の押さえ方はちょっと無駄が多い。2本しか弾かないならこれでよいではないか。

ぱっと見て思いつくのは、中指でなく薬指ではダメなのかということだが、実際ダメではない。とくにこんな感じのリズムと厚みだけの演奏をするならそっちの方がラクかもしれない(ローフレットならなおさら)。しかし、中指で押さえておくとこんな変化がラクにつけられる。

もちろん、同じ弦を2箇所で押さえる必要はないため気合の高速押弦を駆使すれば薬指と小指の組み合わせでもイケるが、そんなことに労力を使うよりは中指で押さえた方が早い。

さっきの演奏例に戻って注意点を指摘しておこう。ダブルコイルのフロントピックアップを使いGDI21のメサブギホットで歪ませた。今回は小節の頭からガっと入っている。別に決まりではないがこうすることが多い。音の切り方が前回と少し違い、ブリッジ側のギリギリ端っこのあたりでミュートしたうえ、ミュートしたまま鳴らしている部分もある。これがブリッジミュートというやつで、やり方の詳しい説明は他を当たってもらうとして、音を厚くしすぎないでリズムを取るためにやる(いわゆるパーカッシブな演奏)。

すでに気付いている人も多いと思うが、これらの奏法はベースやドラムスの役割と被っている部分が多い。エレキギターが中心になってベースやドラムスと連携するロックミュージックの特徴的な奏法とも言える(実際、ブリッジミュートしながらパワーコード刻みなんて、ロック以外ではめったにやらない)。

ほったらかしにしてあった小指の使い方だが、たとえばこんな感じで変化をつけてやる。ストラトもどき(シングルコイル)のフロント+センターからGDI21のツイードホット、ピックでなく指で弾いた。伴奏がなくなったのは、もともとベースがいない前提の弾き方でファイルを作り直すのが面倒だったから(ベースが入るときはもう少し工夫がいる)。リズムを変えて小指をもうちょっと伸ばすとこんな変化も可能で、届かなければ小指(と中指を一緒に使う感じ)でチョーキングしてもよい(チョーキングとの相性がよいというか、音程を不安定にさせるとかえってカッコイイ音である)。ギターやアンプモデルはさっきと同じ(指弾きなので歯切れが悪いが、筆者はパワーコードのピック弾きが苦手で、練習する気もあまりなかったりする)。

トボケようかとも思っていたが、Dのパワーコード(PowerD)はこうである。

図にも書き入れたが、できれば、余っている指でも左手人差し指の側面でも右手の薬指でもテキトーな何かを使って、鳴らさない弦をミュートしておきたい。弦を2本だけ鳴らすというのは意外と難しいので、ミスったときのために備えをしておくのである(そうすることによって思い切りよくピッキングできるメリットもある)。なおPowerEのフォームは教えてあげないので自分で考えよう。

オマケ(マイナーコード)

紹介だけするが、そんなに念を入れて練習しなくてもよい(やりたい人はお好きに)。

マイナーコードは、メジャーコードをやるときに重要だと言っていた音を半音下げれば作れる。諸君、これがAmだ。

ようするにAから中指を放せばよいのだが、3弦の音は重要なので人差し指を頑張ろう。4弦と5弦は適当でよいというか、普通に考えるならAのときと同じく小指と薬指で押さえるのだろうが、そのときの都合や気分によって薬指を逆ゾリさせて両方押さえ小指を余してもよい。この考え方にもそろそろ慣れてきただろうか。

いちおう紹介しておこう。諸君、これがDmだ。

ぶっちゃけDより簡単である(だいたい、ギターのレギュラーチューニング自体マイナー系の構成がラクなようにできている)。

あとはこれらを平行移動させれば、コード譜に出てくる8割方のコードはとりあえず押さえられるはず。ずっと基礎練習だけしているのも飽きるので、急がば回れの楽器の練習のページあたりを参考に、ちょっと曲っぽいパターンを回してみるのもよいだろう。


メロディを弾くために

コード回しとパワーコードだけでもギターは楽しいが、単音でのメロディ弾き(リードギター)をやりたいという人が多いだろうから、そこまで最短距離の道筋を探る。
弦を交換して設定を戻す / ローコードもやってみる / アルペジオに挑戦する / スケールを理解しない / リードギターとコード / リックとリフ / オマケ(リズムギター)
それぞれのステップで「何も考えなくても自然に弾ける」くらいの練習が必要なのでそのつもりで(筆者が言っても説得力がないかもしれないが事実である)。

弦を交換して設定を戻す

そろそろ弦がヘタってきたと思う。弦交換のときにギターを落として傷をつけるとか、弦を切った先端が刺さって指から血が出るとか、ストップテールピースを落っことしてイラっとするとか、まあ誰でも最初はやることなのであまり気にしないように。こんな作業すぐに慣れる。

弦を外したら一通り掃除しておこう。詳しい話は急がば回れのエレキギターの扱い方のページに書いた。ネックの状態を見て必要ならトラスロッドも回しておきたいのだが、もし自信がなければリペアショップなどに調整を頼もう。難しいことはまったくない作業だが、もし常識外れな間違い方をすると楽器を破壊する可能性がある。ネックの状態の見方も詳細は略すが、筆者は弦を叩く方法が好きである。

メンテナンスや清掃は重要だが、音が出る出ないのレベルに関わる改造(ピックアップ交換とか)はもう1本ギターを入手するまで待った方が無難。よほど自信があるのでなければミスって完全に音が出なくなったときのバップアップが必要だし、業者に頼むにしても返ってくるまでの間ギターが手元になくなってしまう。

とまあ能書きはそのくらいにして、弦を交換したら弦高をノーマルに戻してオクターブチューニングをやろう。1カポでごく荒っぽくストロークしてビビリがちょうど出ないところまでサドルを上げ、カポを外して普通にオクターブチューニングをする。終わったらカポタストはしばらく使わないので、なくさないようにしまっておこう。また、カポも外れたことだし、チューニングは音叉か何か使って耳でやるようにしてみよう(世間的に大人気ではないようだが、音叉は携帯性が高く便利なチューナーである)。

ローコードもやってみる

ローコードとはようするに、ナットに近いところを使うコードの押さえ方である。賢明な読者のほとんどがとっくに気付いていることと思うが、コードの鳴らし方は1通りではない。たとえば、Aをブリッジ側に3つ平行移動するとCになるが、Dをナット側に2つ平行移動してもやっぱりCである。
 
そんなに驚くような話ではなく、ピアノにだってCの鍵盤はいっぱいあるし、Cのコードの押さえ方はもっといっぱいある。

それよりも注意が必要なのは指の使い方と余し方である。

たとえばこれは一般的なAmのローコードフォームだが、ナットがあることで自由になった人差し指を参加させて弦を押さえることが多い。

もちろんこれもそのときの都合や気分次第で、たとえばF>Am>Bbなんて動くときには、人差し指をナットの上にでも置いて今まで通り押さえた方が早い(ナットの代わりに0フレットをつけたギターもある)。いっぽうC>Am>D7なんて動くときには、人差し指を動かさないフォームの方がスムーズだろう。ローコードフォームの紹介についても他に素晴らしいものがたくさんあるので譲るが、筆者はぢりのフォークでシャッフル!というサイトのコードダイヤグラムにお世話になった(2013年3月現在、Firefoxで閲覧すると文字化けするのでIEなどを使おう:ここ以外にもコード一覧のようなものはたくさんある)。海外サイトではAll-Guitar-Chords.comというところがチョー詳しくとことんマニアック。とりあえず、C、G、D、A、E、Am、Em、B7、D7、G7、C7あたりを覚えておこう。

アコギの場合開放弦とフレットを押さえた音が明確に違い、音色の上でもローコードが重要なのだが、エレキの場合たいした差ではない。ではなぜわざわざエレキでローコードを使うのかというと、指を余せるからである。たとえばこんな感じの演奏がやりやすい(半音で動かすものをとくにメロディッククリシェと呼ぶが名前は覚えなくてよい)。D>C>Gと回したものをダブルコイルからPX5DのAC30TBモデルに出した(一部クリップさせてしまったのは力んだ筆者のミス)。また伴奏なしで指弾きだが、いいでしょもう、雰囲気だけわかれば、ね。ようするに7とか6とかsus4とかadd9とかいったオマケつきのコードに変化しているわけで、ハイコード(最初に覚えたスタイル)でももちろんこの手の演奏ができなくはないのだが、やはり人差し指が自由に使えるのは大きい。それぞれのコードフォームをちゃんと覚えてからやるのがスジなのだろうが、テキトーなところを余った指で押さえてみてorテキトーな指を放してみて、気に入った音色があったら名前は後から調べる形でもよいと思う。

この弾き方で面白いのは変化させた音の聴こえ方で、なんとなくコード伴奏に単音弾きが混じっているような、動きのある音が目立った印象があると思う(きっと)。これは人間の感覚器の特性(というか習性)で、音でも画像でも変化するものや動きのあるものを追いかける作用が生じる。この手の聴き手側での作用に深く依存した演奏は、リスナーの状態や意識で聴こえ方が大きく変わる特徴を持っておりたいへん興味深い。奏者の側からこの効果を体験するとリスナーに回ったときの応用も利くので、練習に飽きたら自分の好きなCDか何かを、注目ポイントや体調などでどれだけ音が変わるか聴き返してみるとよいだろう(他のページでも繰り返している「音声が同じ=同じ音楽とは限らない」という筆者の主張にも、少しだけ同意者が増えるかもしれないという期待を込めて)。

さてコードフォームの話だが、実はもっと大胆な改造もできて、いろんな人がいろんな曲でいろんなことをやっている。面白いものをちょっと紹介しよう。諸君、これがロバートジョンソンのB7(多分)だ。

もしかすると中指を反らせて5~6弦を押さえ小指は余しているのかもしれないが、他の都合次第で別にどちらでも構わない(筆者は上のフォームがメインだったのではないかと想像している:理由は、ボロボロのアコギに太い弦を張ってサムピックで大音量ストロークしながらヴォーカルも兼務してみればわかる)。急がば回れの楽器の練習のページにも書いたが、必要な音さえ出ればコードの押さえ方はどう変えてもよく、また「これでもKOだよね」的な発想力がエレキギターの演奏法を支えている部分が大いにある(ロバートジョンソンはアコギ奏者だが)。

アルペジオに挑戦する

アルペジオというのはようするに、コードの音をまとめて弾かずにバラして弾くことである。左手の押さえ方がそれなりに上達していないと音が詰まったり切れたりするが「今弾く弦」さえちゃんと押さえていればまあそれなりに聴こえるので、今までどおりのノリでなんとか乗り切ろう。

意識したいのはルートの位置で、AのコードならA(ラ)の音、CのコードならC(ド)の音と、コードネームと同じ名前の音をルートと呼び、アルペジオでは一番低いルート音を最初に鳴らすことが多い。この辺まで来ると度とかルートとか、多少の専門用語がわかった方が話が早くなるので、練習の合間にでも急がば回れの作曲基礎編作曲知識補充編あたりを眺めて知識を仕入れておこう。

さて、どのコードでどこにルートがあるのかは、コード表を見ればたいてい書いてある。フォークでシャッフルの表では「◎」になっているが「R」とか「P1」などと表記しているものもある。また実は、いままでコードで「重要な音」と呼んでいたのは「m3」または「M3」つまり3度の音である(この事情について今すぐ理解する必要はないので、ふーんと思いつつ「一番低いルートを最初に弾く」という話だけ覚えておこう)。

いちおう演奏例も掲載しておく。G>D>C>Gのコード回しを変形ピックで、せっかくついているのでG1Nのコーラス機能も使ってみた。ようするに、弦が6本あるうちの1本だけを狙い撃ちで弾くための練習である。もちろん、左手は何も考えなくても動いてくれないと右手の練習にならない。

ローコードの項で紹介した余った指の活用と組み合わせると凝った演奏ができるが、最初のうちは意識しなくてよい。純粋なアルペジオではないが、こんな感じのルートなど+高音域の音パターンもある(サンプルではメジャーコードだけだが、マイナーコードでやると雰囲気が大きく変わり、織り交ぜることで幅広いイメージを作れる)。

スケールを理解しない

さていよいよ単音弾きだが、ここではスケールを理解せずに練習だけする(ようするに「まずはドレミをスムーズに鳴らせるようになりましょう」という練習で、小学校でリコーダーを習ったときだって最初にこれをやったはずである:もちろんそのとき、スケールとは何であるかとか構成音の長短とかを気にすることはなかっただろうし、気にしなくても練習に問題はなかったはずである)。諸君、これがブルースペンタトニックスケールだ。

他で使った図の使い回しなので難しそうなことがいろいろ書いてあるし、押さえる位置の表記の仕方が変わってしまってもいるが、細かいことは気にしないで欲しい。名前に「ブルース」とついてはいるが、後で触れるチョーキングをやらなければマイナーペンタトニックスケールと呼ばれるものになり、ブルースでしか役に立たない練習ではない(というかギターの単音弾きの基本がこれである)。

最初に注目するのは1弦と2弦の範囲、つまりここである。

スケールがどうのこうのと騒いでもリードギターでオイシイのはやっぱり高音域のメロディである。なので上から先に攻める。まずはEから始めたいので、1弦と2弦の12・15・17フレットの音を使えばいいということになる(ちょっとギターのネックに注目してみよう、12・15・17フレットにはちゃんと印がついている)。1弦は19フレットも使ってよい。弦が2本しかないとはいえスケールの音は全部揃っているので、メロディっぽいものは作れる。たとえばこんな感じ。ディストーションペダルを使った。ここでのポイントは、2弦12フレから始めて1弦12フレで終わるとテキトーでも誤魔化しやすいということである。

とまあそういう話はさて置いて、まずはスケールの音を順になぞって練習するのだが、ここでフィンガリングの問題がある。12フレットの音は人差し指でフレットを押さえているだろうが、これをコードのときのように固定(セーハ)してしまうか、音を出すときだけポイントで(指先を使って)押さえるようにするかということである。これも都合と好み次第で、ポイントで押さえた方がフットワークがよくミュート(指をそっと放せば勝手に音が切れる)も効率的だが、いわゆるリフみたいなフレーズを回すならセーハの方が手っ取り早いこともある。ここでは練習のため、余裕さえあるならポイントで押えることにしよう。

もう1つの問題は15フレットをどの指で押さえるかである。位置的には中指~小指のどれでも支障ない。もしフレット間隔が広いと感じるなら、ベースのように4フレット4フィンガー(12フレは人差し指、13フレは中指、14フレは薬指、15フレは小指と決め打ちする)でもよいし、狭いと感じるなら多少間を開けた方が窮屈でない。これは手の大きさやギターの仕様によっても変わり、筆者自身は、12フレは人差し指、13~14フレは中指、15フレは薬指、それ以降は小指という5フレット4フィンガーの決め打ちを中心に、都合が悪くなったらそのとき考える形にしている。

とりあえずの方針が決まったら、2弦12フレから始めて1弦12フレで終わるように、スケールの音をただ順に往復して鳴らし、指を馴らす。指板を凝視しなくても往復できるようになったら、テキトーに順番を飛ばしたりリズムを変えたりしてメロディっぽいものを作ってみよう。単調だ、と感じる人は図でmがついた青丸のところ(ようするに15フレの音)を軽くチョーキングしてみると、ちょっと雰囲気が変わる(というか、さっきの演奏例ではチョーキングしている:伴奏があった方がわかりやすいと思うので、これまでに録音したパワーコードに被せてみるとか、テキトーに工夫して欲しい)。チョーキングでなく1フレット上にハンマリングオンor1フレット上からプリングオフするという技もあるが、最初はチョーキングだけ意識すればよいと思う。

やはりもう少し低い音も欲しいので、使う範囲をもっと増やそう。

4弦まで広げるとこんな感じ。もしリズムギターがずっとパワーコードを鳴らしているような曲なら、5~6弦はあまり使わないだろう。とりあえずは上下往復をやって、指に馴染んだら動きをつける繰り返し。もっともっと音を増やすと、最終的にはこんな感じになる。

これも使いまわしなので難しそうなことがいろいろ書いてあるが、とにかく赤丸がルートで、青丸がチョーキングのチャンス(もちろん毎回やらなくてもよいし、他の場所でやっていけないわけではない)で、四角はメインでは使わないが必要な音、といった意味である。

とりあえずは4弦までの範囲で丸だけなぞれるようになれば十分だろう。これを練習するとリードギターがぐっと弾きやすくなる。あとはどこでどのスケールを使うかというセンスの問題なのだが、基本的に、キーとルートが同じスケール(キーがAならAブルーススケール)、コードとルートが同じスケール(AやAmのところでAブルーススケール)、コードのルートの5度上のスケール(DやDmのところでAブルーススケール)などが無難に使える。ブルースの場合、キーがAならずっとAブルーススケールでも問題ない(伴奏が変わるので勝手に雰囲気が変わる)。もっとたくさん覚えたい人は、急がば回れの直球勝負のエレキギターを参照(用語が理解できない場合作曲や編曲のコーナーから知識を拾って欲しい)。

まあしかしなんといっても、指が動いてくれないことには弾けないわけだから、地味に練習をするのがもっとも大切である。詳しい説明は上のリンク先に譲るが、6弦ルートと5弦ルートのブルーススケールさえ覚えてしまえば、チャーチ系のスケール(ナチュラルメジャーとナチュラルマイナーを含む)やメロディックマイナーも構成音がどこにあるかはわかるようになる。

リードギターとコード

察しのよい読者からはそろそろ「いつまでトボケているんだ」という声が上がる頃だろう。そう、パワーコードのところでこんな説明をした。

マイナーコードのところではこんな説明もしている。

AのコードではC#の音が、AmのコードではCの音が、それぞれを特徴付ける重要な音だった(この場合Cはm3=短3度、C#はM3=長3度に相当する)。で、パワーコードの伴奏はそこをリードギターなどに弾いてもらう前提で厚みだけ出しておくのだった。

これをリードギターの立場から考えて欲しい。他の楽器が3度の音を弾いていないということは、リードギターがm3の音を鳴らせばマイナーコードに、M3の音を鳴らせばメジャーコードに、どちらも鳴らさずトボケればパワーコードのままに、自由に変化させられるということである。

さっきの図で言うm3を弾くとマイナーコード、m3を半音チョーキングor1フレット上げてM3に変えるとメジャーコード、4分の1音くらいの微妙なチョーキングだとメジャーでもマイナーでもない微妙な音、弾かないとパワーコード、全音チョーキングor2フレット上げるとこのページでは説明していないがsus4コードになる。

さらに、同じ小節でm3とM3を両方使ったり、他の楽器がM3を鳴らしているときに自分だけm3を使ったりということも、音さえ面白いと感じるなら自由にやってよい。何度の音が指板のどこにあるのか、意識できるようになると心強い。

リックとリフ

さてスケールの練習は進んでいるだろうか。進んでいるという前提で、ちょっとフレーズ方面に嘴を突っ込んでみたい。

リック(lick)というのは「短い定型フレーズ」のことだと思ってよい。ブルースにもジャズにもロックにも多くのリックがある。具体例はいつものように他に譲るが、スケールの練習をしっかりやってあればリックもスムーズに覚えられるはずである。

たとえばこのブルースリックは、3弦7フレチョーキング>2弦5フレ>1弦5フレ>2弦8フレ>2弦5フレの移動であり、ようするに1弦ルートのAで3~1弦を往復しているだけである。筆者の演奏はたいへんしょっぱいが、これをチョー高速で繰り返すと聞き覚えのあるロッケンローなリックになる(はず)。

リフ(riff)は「繰り返し演奏するフレーズ」のことで、ロックで多用される。やはり具体例は他に譲るが、ここまでに出てきたいろいろな要素が複合したような格好になっている。スタイルを変えながらリフを繰り返すだけでできているような曲も多くあり、演奏の中心的役割を担える。

とまあ、ここまででなんとなくギターが弾けるような弾けないようなところまでは来たはずで、あとは練習次第ということになる。曲っぽい演奏も試してみるとよく、たとえばこんなベーストラックを用意して、コード中心の伴奏を重ねて、さらにリードギターも重ねるとか、そんな感じでやってみるとよい。

なお上記の演奏例でリードギターがたいへん聞き苦しいと思うが、これはスケールの練習をちゃんとやっていない典型例である。まず音が出ていない、スムーズでないからリズムも崩れる、他の演奏を聴く余裕がないので場違いなことをやる、最終的には弾いている本人がヤケッパチになってくる、といいことがない。基礎練習は本当に大切である。

オマケ(リズムギター)

本来の順番で言うとリードよりもこちらが先なのだが「一足飛び」のポリシーに従って後回しにした。ぶっちゃけこれができない人はリードだけ練習しても「いいリード」を弾けるようにはならない。魅力的なリードを弾ける人は例外なくリズムギターがやたら上手い。

まずは普通のストロークをやろう。ストロークというのは、左手でコードを押さえたまま複数の弦をまとめてじゃらーんと鳴らすことである。ピックor指を上(6弦側)から下(1弦側)に持っていくのをダウンストローク、下から上に持っていくのをアップストローク、ダウンストロークとアップストロークを交互にやるのをオルタネートストローク(交互の意)、というのはどこかで聞いたことがあると思う(なくても構わないし、アップとダウン以外の名前は急いで覚えなくてもよい)。

後の都合があるので、適当なハイコード(最初に覚えたAとか)でダウンアップ繰り返しのストロークをやってみよう。メトロノームでもリズムマシンでも打ち込み伴奏でもよいが、テンポを確認するためのものを何か用意しておこう(演奏例ではG1Nのリズム機能を使った)。難しいと感じたらコードチェンジをせずワンコードだけで練習し、できるようになってからコードチェンジを盛り込むとよい。最初はゆっくりしたテンポでやる。

慣れてきたら空振りを入れる。下上下上を下上空上にするとかそんな感じ。どことなくアコギっぽい雰囲気になり演奏に変化はついたが、サステインが長く歪ませたトーンを多用するエレキギターではちょっとうるさい。筆者の演奏例がどんどん怪しさを増していることについては、見て見ぬフリを貫き通して欲しい。

もっと慣れてきたら左手のミュートをやってみよう。右手のミュートはすでに紹介してあるが、左手を浮かせることでミュートすることもよくある。浮かせるというか、改めて軽く押さえ直すような感じ。強く押さえすぎると普通に音が出てしまうし、指が離れるとミュートが不完全になる(これだけやるなら離しても構わないのだろうが、次でやるブラッシングの都合があるので離さないようにしておこう)。ミュートは本来の長さより気持ち短く切るくらいのつもりでやるとスッキリする。演奏例でわかると思うが、力むと左手でベンドがかかって音が狂うので注意。

さらなる高等技術として、左手でミュートをしたままストロークする奏法があり、ブラシで擦ったような音が出ることからブラッシングという(空ピックと呼ぶ人もいる)。左手のミュート位置によってはハーモニクス音が出てしまう(試しに12フレでやってみよう)ため慣れが必要だが、最初のうちは多少変な音が出ても気にしない方が無難。1・5・7・12などミュート感を出しにくいフレットでは、微妙に指をずらしてミュートすることもあれば、小指などをミュートに動かすこともあるし、ポジション移動を間で止める(たとえば5フレでA>4フレでミュート>3フレでGとか)こともある。ローコードの場合も、余った指で頑張るか、いったんミュートに専念>すぐにまたコード押弦と素早くやって切り抜ける。ハーモニクス音を含めてブラッシングの音色を作ることもある。

最終的には全部混ぜる。だいぶボロが出ているが心は錦なので心配無用。これを正確に素早くセンスよくやるとリズムギターらしくなると、そういうわけである。


演奏小ネタ

<この項書きかけ>

ここまでで紹介しきれなかったネタをいろいろと。

一般に「できないことをやろうとする」練習は効果が薄く、重要なのは「それなりにできることをしっかりできるようにする」ことである。が、そっちの趣旨だと急がば回れのコーナーと被ってしまうので、ここでは「できないことをやらずに済ますための方法」について触れたい。いったん飛ばした技術については、他がしっかりできるようになり余裕ができてから、じっくりと取り組めばよい。

嘘コード

ギターコードの一覧表などを見ていると、種類がたいへん多いように見える。もちろん、それらを使いこなせた方が演奏の幅は広がるが、すべて覚えなければ曲が弾けないわけでもない。ここはひとつ、みんなの友達ベーシストに頑張ってもらおう。

ただしドミナントセブンは自前で弾いた方がよい。

シンコペーションを悪用する

シンコペーション自体については急がば回れの鍵盤のページで紹介した。この技術自体を深く理解する必要はとりあえずなく、ようするにこんな感じに音数を減らしてしまえという話である。

テンポを落としてしっかり練習するのが一番なのは言うまでもないが、どうしてもトチるパートがあった場合、そこだけひたすら反復するよりはひとまずお茶を濁して他を眺めてみた方が長続きすることもある。冒頭でも触れたように「インチキせずにキッチリ弾きたい」という意欲を持つことは大切だが「インチキすれば最後まで弾ける」ようになることにも一定の価値はあろうと思う。他がキッチリ弾けるようになれば、インチキしていた部分もちゃんと弾きたいという気持ちが強くなるものである。


音色作りでハマらないために

エレキギターの音作りはそれほど恐ろしいものではないはずなのだが、いくつかの事柄を理解しておかないととんでもない泥沼にハマる。真っ先に頭に入れておくべきことを列挙しておく。

「CDと同じ音」は出ない:これは必ず理解しておきたい。CDに録音されているエレキギターの音というのは(海外の大御所ミュージシャンのライブアルバムなどでは例外もあるが)一般に、奏者(楽器やイフェクタを操作)、レコーディングエンジニア(レコーディングスタジオの音響調整やマイク選びやマイキングを担当)、ミキシングエンジニア(録音した音声の加工や他の音声とのバランス調整)、マスタリングエンジニア(本来の意味でなく広義のマスタリング)などが協力して作り上げるもので、奏者の手元と足元だけで作っているものではない。

アコースティック部分>アナログエレクトリック部分>デジタル部分の順に融通がきかず、また影響が大きい:ぶっちゃけた言い方をすれば「キャビネットだけは誤魔化しがきかない」ということでもある。当たり前の話だが、手元や足元でどれだけエキサイティングな音色を作っても、キャビネットがしっかり働いて空気を振動させてくれなければ元も子もない。そしてこのキャビネットというのは質量とか面積とか体積といった物理パラメータに支配されており、他で補うのが難しい。もちろん、高級な大型機を使えばそれでよいわけではなく、小型キャビネットの音は小型キャビネットからしか出ないし、またデジタルシミュレートも難しいためハイファイスピーカがあればすべて事足りるというものでもない。

普通にやれば普通の音が出るし、それで十分である:他の音作りでも同様だが、もっとも重要なのは余計なことをしないことである。すばらしい音を出せるならそれに越したことはないが、その前に気を使うべきはすでに出ている「普通の音」を「酷い音」にしないことだろう。これをやってしまうのは、おそらく、最初に挙げた「出ない音」を無理に出そうとしてつい「変なことをしている」パターンが多いのではないかと思う。自分の楽器がご機嫌を損ねていないかという、ほんの少しの用心で避けられることが多いので、普段から意識しておきたい。

他の楽器の影響も大きい:完全なソロや弾き語りではあまり関係ないが、他の楽器の影響というのも無視できない。顕著なのはベースの影響で、たとえばバンド音源からベースだけミュート(あるいは、打ち込み伴奏なら別の音源に差し替え)してやると、エレキギターの音色もかなり(聴こえ方が)変わるはずである。最終的にアンサンブルサウンドを作るなら、楽器同士の相互作用も考慮に入れなければ話が始まらない。もちろん、ライブ録音(一発録り)であれば楽器同士が共鳴することによる影響も出る。


音色作りの基礎

エレキギターはサウンドメイキングも面白く筆者はこちらの方により興味があるのだが、絡む要素がやたらと多くけっこう複雑である。音を出す順番で考えていこう。基礎が嫌いな人はこの項を飛ばし音色を選ぶに進んでもよいが、アンプの仕様には目を通した方がスムーズかもしれない。

ピックアップで拾うまで

まず弦を弾くところは硬い方が高音が出る。つまり、硬いピック>爪>柔らかいピック>指くらいの順である。ピッキングの際、指やピックが弦にぶつかる>弦が引っ張られる>弦が放されるという動きが行われているが、ピックアップが出力した波形を見る限り、これらを区別する必要はなく一瞬で衝撃が伝わると考えてよいようだ。

上から順に、ストラトもどきの6弦指弾き、SGもどきの6弦指弾き、ストラトもどきの1弦ピック弾き、SGもどきの1弦ピック弾き(縮尺はテキトー、タイミングと音量は後から加工で揃えてある)。いづれも弦の1往復めからしっかりと振幅が出ており、俗に言われる音の立ち上がりの早さみたいなものは観測できない(というか、フィードバック奏法でもやらない限り振動は小さくなっていく一方で、力を加えないのに大きくなることはない)。ただしこれはクリスタルクリーン(ピックアップの出力そのまま)に限ったことで、アンプやスピーカには立ち上がりの遅いものや制動の緩いものが普通にある。

振動のごく初期は弦とピックの種類や形と当て方が支配的に左右し、それ以外はあまり関与しない(とくにボディやネックの影響は薄い:弦の振動がボディやネックに伝わるよりも、ピックアップが磁界の変化を検出する方がはるかに早いため)。時間が経つと周波数ごとに違ったカーブで減衰してゆくが、この減衰の仕方にはギター本体も強く関わる(傾向としては、柔らかいと高音が、軽いと低音が早く弱まる)。音色の最大成分は弦とピックが衝突して擦れて弦が開放された瞬間に決まっており、あとは成分ごとに減衰してゆくだけなのだということに注意が必要。ここまででとりあえず、初期振動の質(倍音構成など)と減衰の仕方を選べることになる。

なおソリッドのエレキギターというのは制動がよい楽器で、弦の振動さえ止めれば出力も止まり、ミュート全体でもかかる時間は数十ミリ秒のオーダーである。

弦を止めても表板の振動が止まらないアコギよりはかなり早く、電気的に信号を遮断できる電気オルガン(実機のハモンドオルガン)よりはやや遅いくらいだろう。共鳴や共振が弱いということは、制動の利きやすさに直結する要素である(同じアコースティックギターでも、フラメンコギターなどは共鳴を弱くして音の切れを短くしている)。

ピックアップは大きな影響を持つ部品で、シングルコイルとダブルコイル(ハムバッカー)の選択がもっとも大きい。細かい違いはあるがおおまかに考えると、シングルは3KHz前後プラマイ05~1オクターブあたりが強く出る。実際にはシングルとダブルではやっていることが微妙に異なるのでいちおう紹介しておく。

似たようなものに見えるかもしれないが、ピックアップの真上に振幅の節がきたときの挙動が異なる。ダブルコイルの場合、弦をポールピースの真上に通せばピックアップ(ギター全体ではなく)のデットポイントが明確でなくなる(純粋な縦振動なら話は別だが、実用上はあまり問題にならない:横振動で弦がポールピースの真上だと周波数化けの問題が出るが、それはまた別の話)。シングルコイルでも、ハーフトーンにすれば似たような効果は得られる(並列と直列で繋ぐ意味は違うが、とりあえずデッドポイントの影響は薄まる)。シングルコイルを普通の接続で強く歪ませると、外来ノイズの影響が大きくなる。導電塗料を塗ろうがシールドを厳重にしようが、ピックアップが磁界の変化を検出する装置である以上磁界ノイズは必ず拾うわけで、それをキャンセルする仕組みがなければ影響が出る(一般住宅では、外来ノイズが少ないことを祈りつつ、ノイズの影響が減る角度を探すのがせいぜいになる:もし磁界ノイズが無限遠の1方向からやってきて、ピックアップに厚さがなく平面ならば、ノイズをゼロにできる角度が存在する、はず)。

ピックアップのデッドポイントの例としては、ストラトやテレのフロントピックアップが5フレハーモニクスをごく弱くしか拾わないことが挙げられる(その代わり12フレハーモニクスは強く拾う)。もちろん、12フレを押さえて24フレ相当位置(というかフロントピックアップの真上)でピッキングハーモニクスをやっても出力はごく小さいし、開放弦を普通にピッキングしたときの4倍音も弱く拾われる(詳しい事情は直球勝負のエレキギターのページを参照)。

なお、シングルコイルはダブルコイルよりもゲイン(音量)が小さい傾向があるが、他のセッティングも関与するので一概には言えない(実際、筆者の手元のストラトもどきはSGもどきよりもゲインが大きめである)。ゲインに強く影響するのはピックアップの仕様のほか、設置する高さ(弦までの距離)と弦の太さ(同じ素材なら太い方がゲインが高く、芯線が細くなる分ワウンド弦はゲインが落ちる:3弦ワウンドが普通だった時代の名残で、ストラトモデルのピックアップなどは3弦のところだけ高くしてあるものもある)である。

音声フィードバックについて

前に書いたことをひっくり返すようだが、実は軽くて生音の鳴るエレキギターの方が、重くて生音の出ないエレキギターよりもサステインが長い、ことがある。どういうことかというと、それはヘッドフォンではなくアンプから音を出す場合である。

言うまでもなく、アコースティック楽器の場合いったん出した音はだんだん小さくなるのみで、勝手に大きくなったりはしない(擦弦楽器や吹奏楽器などで積極的に振動を増やせば別だし、マイクを立てればエレクトリック楽器と同じ扱いになるが)。つまり、サステインは必ず0より大きく1より小さい値になる。しかしエレクトリック楽器はアンプで信号を増幅するので、1以上のサステインになる場合があり、それをハウリングと呼んでいる。

これを利用したのがフィードバック奏法(エレキギターをアンプに近付けて故意にハウリングさせる)で、ギターをアンプから離すかミュートするか、あるいはアンプのスイッチでも切らない限りずっと音が出続ける。そして軽くボディやヘッドの面積が大きく生音が出るギターほどハウリングしやすい、つまりアンプからのフィードバックを強く受ける。

もちろん、ハウリングはしない程度のフィードバックでも、音色への影響は計り知れない。モデルとしては途中にフィルタ(とくにチューブアンプでは位相も狂い放題だし)を何枚も通したフィードバックディレイまたはフランジャーと等価で、アンプとの距離が一定ならディレイ的に、変わるならフランジャー的に振る舞う(アンプからギターまで3.4mだとするとディレイタイムが約10ms、1.7mだと約5ms、ピックアップの極性やアンプの仕様によりポジティブかネガティブかは変わる)。つまりヘッドフォンから音を出しているときと、アンプから大音量を出しているときで、弦の振動自体がまったく異なる

同様の理由から、重くて面積が小さいギター(たとえばレスポール)と軽くて面積の大きいギター(たとえばストラトや、セミホロウだがテレシンラインなど)では、大音量時の振る舞いが異なる。もちろん、表面の形状もフィードバックのかかり方に影響する。最薄部47mmで最厚部57mmのアーチドトップギターを無限遠音源に正対させると、厚さが10mm違うわけだから楽器表面の時点で8.5KHzの位相が90度ずれ、17KHzがちょうどフェイズアウトする。実際の影響はわからないが、おそらく、アーチドトップにした方がわずかに音声フィードバックを受けにくいだろうと思う。

さらには他の楽器からの影響もある。他の楽器の音(エレキギターと音色が似ているエレキベースやキーボードはもちろん、スネアドラムと共鳴することも多い)がエレキギターの弦を振動させてギターアンプで増幅されるいっぽう、ギターアンプの音が他の楽器を振動させてベースアンプやPAスピーカから出てくる(ヴォーカルやエレクトロニック楽器でさえ、他の楽器(当然エレキギターも含む)を共鳴させてしまう効果とは無縁でない)。チューブアンプの場合マイクロフォニック挙動(名前の通りマイクロフォンのように振る舞うこと)が強いため、大音量時にはここでもフィードバックが生じる(スピーカ>筐体や空気>真空管>スピーカというループ、または他のアンプやスピーカや楽器>空気>真空管>スピーカという伝達)。

これらの現象がギターの音色に及ぼす影響は、各楽器の配置や特性や部屋の鳴りまで関わってくるため、実際に演奏する環境で試行錯誤する以外にどうしようもない(毎回同じハコとメンツと楽器と機材と配置とセッティングで演奏者以外誰も入れず同じ曲を同じように演奏したとしても、たとえばチューブアンプの機嫌とか温度湿度によるアコースティック楽器や部屋の鳴りの変化とか、コントロールできない要素は無数にある)。

もう一度断っておくが、これはとても大きな影響である。疑う人はアンプに繋がないエレキギターを1本スタンドに立てかけてミュートせず、ボディを叩いたとき、ヘッドを叩いたとき、5フレットの音など他の弦と共鳴する音を出したとき、アンプに繋いだもう1本のエレキギターで大音量を出したときの、弦の振動を観察してみよう。ネック~ヘッドの影響がボディよりもずっと大きいことはすでに紹介したが、アンプからのフィードバックはそれをはるかに上回る。

アンプの仕様

ちょっと都合があるので、音が出るところから遡って見ていこう。個別の特徴を無視して、種類ごとの傾向を紹介する。アンプを実際に使う前に、急がば回れのエレキギターの扱い方のページにあるアンプを安全に操作するためにだけは読んでおいて欲しい。

まずはキャビネット(スピーカとエンクロージャ)。

種類特徴
PAスピーカなどフラット、バスレフ式が多いため低域の応答が鈍いものもある
1960など(12インチ4発クローズバック)ローが強く歪みにくい、ハイは弱い、近距離だとハイが大きく乱れる
ツインやJC-120などのキャビ(12インチ2発オープンバック)ローはそれなり、ハイは弱い、近距離だとハイが乱れ、背後の空間や物の影響を強く受ける
12インチ1発クローズバックローが強くハイは弱い
12インチ1発オープンバックローはそれなり、ハイは弱い、背後の空間や物の影響を強く受ける
8インチ1発クローズバックローもハイもそれなり~やや弱いくらい
こんなもんだろうか。12インチのフルレンジ(ツイーターなし)だと高域が弱く低域は出て、オープンバック(背面開放)は低域が弱まりやすく背後に敏感で、クローズバック(密閉)はローが抜け落ちにくい、というのが基本線。マルチユニットの高域の乱れは、ユニット2つが中心距離50cmで並んでいたとして、片方のユニットの正面3mの位置からもう一方のユニットまでは304cmちょっとで、4~5KHzの音波(波長約6.8~8.5cm)がちょうどフェイズアウトするくらい(大型キャビネットはもともと、遠距離で使うために設計されたものである:本来の出力で鳴らすと、音量的にも3mくらいの距離では非常に危険)。背面が一部板に覆われたセミオープンバックは、開口部がバスレフポートとして作用するほど細く長くなければ、オープンバックに準じる。またキャビネットはシミュレータを作るのが難しく、2013年現在、静的な挙動に限定して「なんとなくこんな感じにしたかったんだろう」程度のものがせいぜいである(しかし、変なたとえだがアコギに対するエレアコのようなもので、どうがんばっても別物ではあるのだが別物なりに使いでがある)。

ここで注意して欲しいのはオープンバックのキャビネットを壁際に置くと特性が大きく乱れるということである(スピーカケーブル1本取り替えたのと比べれば桁がいくつも違うくらい変わる)。広いスタジオで大型アンプを使うのなら最低2mは離そう(スタジオが狭いのはどうしようもないが、密閉型キャビネットのものを含め、大型アンプは狭い部屋で使うことを最初から考慮していない)。もちろん、特性が乱れた音に魅力を感じてぜひ使いたいという人は壁際に置いても構わないのだが、発熱が大きいチューブアンプではとくに、排熱に問題が生じていないことだけはしっかり確認したい(マニュアルに「安全上少なくとも何cmは離せ」と明記されている機種もある)。

アンプのパワー段もそれほどバリエーションはない。

種類特徴
ソリッドステート基本的にフラット(ギターアンプキャビネット専用のものを除く)、低発熱低ノイズ低歪み
5極管接続プッシュプルややハイ上がりで低域に共鳴が出る(スピーカユニットの影響を強く受けるため)
5極管接続シングル(A級動作のものしかない)ややハイ上がりで低域に共鳴が出る(同上)、低域が弱まりやすい、歪みやすく歪みが非対称(2次歪み)、ハムノイズに弱い
三極管(or五極管3極管接続)プッシュプルパワー段歪みを強く出さなければ比較的穏やか、ソリッドに近い感じ
これ以外に、ネガティブフィードバックの有無やフィルタや量、バイアス方式などでけっこう挙動が変わる(たいていNFBありの固定バイアス:代表的な例外はAC30で、NFBなしの自己バイアス)。NFBがない場合、スピーカユニットの影響をより強く受けることになる(プレゼンス設定ができるアンプはNFBありと考えてよいが、プレゼンスを大きくすると高域のNFBが減る)。チューブアンプの場合(とくに大音領域で)動作の不安定さや特性の気まぐれさが出るが、アンプの味として楽しめるなら魅力的な道具である。

電気的にイレギュラーな挙動が多く環境(とくに温度)の影響も強く受けるため、キャビネットほどではないだろうがシミュレーションが難しい分野だと思われる。筆者の推測に過ぎないが、Vox(KORG)がValvetronixシリーズにリアルチューブを積んだのは、AC30の変態パワーアンプをデジタルシミュレートしようとして挫折したからではないかと思えてならない(PANDORA miniやPX5Dのモデリングが悪いとは思わないが、Valvetronixシリーズのデモを聴く限り、それっぽさが増しているように感じる)。

パワー段orパワーアンプより前

種類特徴
ミキサー(ライン入力)フラット
クリーンチャンネルパワー段より後ろのクセをある程度中和
ドライブチャンネルパワー段より後ろのクセをある程度中和、それ以外は歪み系イフェクタに準じる
ギターアンプのリターン端子パワー段より後ろのクセがモロに出る
パワー段に比べるとシミュレートがかなり楽なはずで、実際優秀なシミュレータが多くある。ドライブチャンネルの中身(多くは12AX7で過剰増幅している)と似たような構成の歪み系イフェクタがある(アンプについての項で後述)。

外部イフェクタで音を作る場合、ソリッドステートのギターアンプのクリーンチャンネルか、ミキサー経由でPAスピーカに接続するのが無難(POD HDシリーズのプリアンプモードやGT-6のようにリターン端子の利用を前提にしているものは例外)。またレンタル品だとリターン端子の単独利用を(故障の原因になるなどの理由で)禁止している場合もあるので事前に確認が必要。

アンプで音を作る場合は好きなものを使えばよい(筆者が好きなアンプについては、ローコスト制作感想コーナーのエレキギターアンプのページで紹介している:基礎知識的な情報もここ)。上記リンク先にも書いたが、ギターアンプは機種によって操作が異なるため、どこをイジると何が変わるのか確認してから使った方が効率的である。

注意したいのは、チューブアンプの増幅率は(小型アンプにはパワー段のみ2~3段階選べるものがあるが)固定なのが普通で、音量はアンプに入力する信号を減衰させてコントロールしているということである。

このため、たとえばチャンネルボリュームを大きく絞ってマスターボリュームを全開にしても、パワー段は歪まない(パワーアンプに入力する信号がどれだけデカいかが問題なので:パワー段歪みを出しつつ音量を下げたいなら、パワー段の後ろにアッテネーターを入れる必要がある)。歪ませたいアンプに大入力を突っ込む必要があることに注意して欲しい。なお、アッテネーターも扱い方によってはかなり危険な機器なので、この項の冒頭のリンク先などを参照してしっかり設定して欲しい。

典型的なサウンドの紹介

まずはクリーンサウンドから。取っ付きはよいが奥が深い。

種類代表例特徴
クリスタルクリーンデジタルマルチを全部バイパスピックアップから出力されたままの波形
ソリッドステートJC-120のクリーンチャンネル最小限のクセをつけただけ
ローファイシングル古いチャンプなど低域が薄くクリップ前から2次歪みが出てハムノイズも強い
ブラックフェイス初期のツリンリバーブなど歪みにくいが低域と高域がそれぞれやや暴れる
VoxクリーンAC30クセと暴れが特盛りだがなぜか上品
これらを全部紹介するのはたいへん手間なので、参考になる動画を挙げておこう。snowdog211200さんという方のVT20+紹介(2:00過ぎまで前フリ、演奏は3:00過ぎから)。オレンジCLEANがJC-120、レッドCLEANがクリスタルクリーン、グリーンUS 2X12がツインリバーブ、ACシリーズは見たまんま。シミュレーションではあるがそれなりに特徴は出ている。オマケでalexromachadoさんという方のToneLab ST紹介(その1その2:その2は3:00過ぎから演奏)も。違う製品だが同じValvetronixシリーズだし、中身に大差はないと思われる(多分)。ACシリーズはクランチで使われている例が多く、ようやくクリーンな演奏を探し当てたらEduardo Marcolinoさんという方のamPlugのデモだった。

クセがないJCサウンド、やや暴れるブラックフェイスサウンド、クセと暴れの強いVoxサウンドがスタンダードチョイスになるだろうか。チャンプ(や他のツイード)以外のアンプは普通に使う音量域ではあまり歪まない(フェンダーのTwin-Amp(2001年モデル)なんて、カタログスペックでは1KHz正弦波@100W出力でもTHD5%以下しかない)ため、パワー段とキャビネットのクセ(とそれをプリ段まででどう吸収するか)がキャラを決めている。

筆者のように単品クリーンの音色自体が好きという人も一定数いるだろうが、変調系(コーラスなど)をかけた場合の受け皿として期待されることも多いだろう。単品クリーンは大型チューブアンプのものがやはりキモチイイというのが筆者の意見だが、受け皿用途なら、豊富な種類を手軽にとっかえひっかえできるシミュレータの方が便利なことが多い(キャビネットシミュレータも選べる機種ならさらにバリエーションが増える)。帯域ごとの暴れ方やクセ、リバーブ(内蔵していれば)の質感などでコーラスの映え方が大きく変わる。

ハイゲインサウンド。コントロールすべきポイントさえ理解すれば手強くはない。

種類特徴
モダンマーシャル低域がブリブリせず中高域はシャリっとする
PEAVEY低域がブリブリして中高域はジョリっとする
メサブギ低域がブリブリして中高域はモデルによる
こちらも外部リンクを挙げておこう。lmsjrさん(TheToneKing)という方のMustangIとVypyr15の紹介(7:00過ぎから演奏)。MustangIのアンプモデルは上から順に、デラックス、ベースマン、ツインリバーブ、プレキシマーシャル、JCM800、メサブギ、スーパーソニック、ハイゲイン、Vypyr15のアンプモデルは最初に演奏される左上から順に、メサブギ(5881)、Diezel、ツイン、デラックス、プレキシマーシャル、マーシャル(JTM?)、AC30TB?、PEAVEY(クラシック50)、オリジナルハイゲイン、PEAVEY(サトリアーニシグネチャ)、PEAVEY(6505)、メサブギ(レクチファイア)、かな。需要が多いからなのか、各社ともシミュレータを豊富に用意しており性能もよい。

ハイゲインサウンドはまず用途で篩い分けるとラクである。クリーントーンではとくに住み分けがされていないが、ハイゲイントーンには、コード弾きするとグチャグチャになるが単音弾きには適するトーン(たいてい「リード」と明記されている)、パワーコード用にブリッブリの低音にしたトーン、守備範囲を広く取る代わりに明確な強みもないトーンなどがある。ここで的確に取捨選択できれば大外しはしない(初心者と熟練者で困り方が反対になるのが面白い:慣れないうちは「これも使えないあれも使えないどうしよう」となりがちだが、上達すると「あれも使えるこれも使えるどうしよう」という状況になる)。あとは低域がブリブリするか否かと中高域の質感で選び、細かい違いは候補が複数残ったときの検討材料にすればよい。

入力にもけっこう敏感で、フロントピックアップから使うとブワブワになるがリアピックアップから使うとジャキっとするトーンや、リアから使うとスカスカだがフロントから使うと芯が通るトーンなどがある(クリーントーンももちろん入力によって表情が変わるし、それが魅力でもあるのだが、ドライブトーンと違って特定の用途以外をバッサリ切り捨てていることはまれ)。もちろんピッキングの仕方や演奏パターンの工夫などでも全体のキャラをコントロールできるし、ギター本体のツマミ設定も重要な要素である。音色を調整するために、柔らかくて丸いピック(JIM DUNLOPのTORTEX STANDARDやZack Wylde Pickなど)と硬くて尖ったピック(PICKBOYのGP33RやJIM DUNLOPのULTEX JAZZ3 Blackなど)を用意しておくとよいかもしれない。

クランチ~ドライブサウンドは、フォローのしかたでキャラが変わりやすい。

種類代表例
ローファイシングル古いチャンプなどをフルテンにした音
ツイードドライブ古いフェンダーアンプをフルテンにした音
プレキシ古いマーシャルをフルテンにした音
JCMJCM800やJCM900のドライブチャンネル
トップブーストAC30TBをドライブした音
モダンフェンダーTwin-Ampのドライブチャンネル
こんな感じなのだが、フルテン系のトーンは音量的にシミュレータでないとかなり厳しく(せいぜい頑張ってチャンプくらい)、難易度が高く手間がかかる割にユーザーに受けないせいかシミュレーションも(ハイゲインサウンドほどは)豊富でない。モダンフェンダーのドライブトーンは世間的にはまったく人気がなく、代表例でも何でもないのだが筆者が好きなので入れておいた。

ただし、フェンダーやVoxのマルチやマルチ内蔵アンプには、自社のラインナップがかなりのコダワリで再現されているものもある。すでに紹介したValvetronixシリーズやMustangシリーズのほか、Super Champのモデリングもけっこう芸が細かい。例によってinthebluesさんという方の実演(モデリングの紹介は2:00過ぎから、1~8番が古いフェンダーアンプのモデリング、古いマーシャルもフェンダーの模倣から始まっているのでキャラは似ている)を紹介しておく。余談だがこのシリーズ、セパレートのキャビ(SC112)はクローズバックの12インチなのにコンボ(X2)はオープンバックの10インチと、凄いラインナップである(後で触れるように、フェンダーは他のシリーズでもこのパターンが多い)。

フルテン系のトーンはいわゆるクリーンアンドラウドから派生したもの。大型チューブアンプでもプリ段はたいてい3極管のシングル動作なので、大信号を突っ込んでやれば2次歪みが出る。これとプッシュプルパワー段の3次歪み、機種によってはクロスオーバー歪みも足して、キャビネットでもう少し歪ませる格好。ドライブチャンネル系は扱いやすさがぐっと増しており(というか歪んだ音色を手軽に使いたいという需要からドライブチャンネルができた)、たいていの機種ではゲイン+ボリューム構成になっているため、パワー段歪みとプリ段歪みをある程度独立に制御できる(ただしパワー段やキャビネットで歪ませようと思ったら音量がデカくなるのは同じ)。もちろん、ゲインを落とせばクリーンにもなる。

いづれにしても、チューブスクリーマー(フェンダーアンプで好まれる)や帯域ブースター(トレブルブースターがAC30で好まれる)などでフォローしてやるとぐっと扱いやすくなることがある。もちろん、ペダルはプリ段を叩いて歪ませる用途にも使える。ペダルはアンプよりもさらに種類が多く、似たような機種のバリエーション違いやらコピーモデルやらが大量にある(例によって外部リンクでお茶を濁す:Mario Turisさんという方のZoomの歪み系ペダルシミュレータの紹介)。

オマケ(チューブアンプをソリッドのように使う)

デジタルマルチからの出力などでソリッドステートのアンプを使いたいが、何かの都合でチューブアンプしか使えない場合の対策。まずチューブアンプの特徴を再確認しておきたい。大雑把にまとめると、歪みが強く、帯域が暴れ、動作が不安定である。

歪み対策は簡単である。大入力大出力で使うから歪むのであって、小入力小出力で使えば、チューブアンプといえどもそう歪まない(普通の製品なら)。たとえば100Wの最大出力で5%くらい歪むアンプなら、10Wくらいで動かしてやればほとんど歪まないだろう(ボリュームツマミでいうと7くらいか)。激しく歪む機種でも、定格の100分の1(上記の例なら1W)くらいで動かしてやれば実用上の問題はないと思われる(ボリュームツマミでいうと2~4くらいか)。ただし、B級に近い動作のプッシュプルではごく小音量域でクロスオーバー歪みが強まる可能性がある(実機だとあまりないと思われるが、最大音量をとにかく稼ぐ方針で小音量域を切り捨てている機種ではあり得なくもない)ので、極端に音量を下げる場合は挙動を確認した方がよい。

帯域の暴れはちょっと難しい。目安に過ぎないが、プレゼンスの効きが強い(最小と最大の差が大きい)アンプを選ぶというのはどうだろう。NFBが多ければプレゼンスが効くというわけではないが、プレゼンスが効くということはNFBが多いということである。NFBが多ければ制動もよくなるしスピーカユニットの影響も減るしアンプ自体の特性も平坦になり歪みも減る。パワー段を3極管接続にできるならそれに越したことはない。

動作の不安定さはもっと難しい。回路自体が安定性重視で組まれていることを祈りつつ、真空管の特性をバッチリそろえて入念にバイアス調整(必要な機種のみ)するのがせいぜいだろうか。真空管は入念にエージングしたうえ劣化が見られたらすぐ取り替えるようにしたい。パワー段が発熱の少ないAB級で排熱に気を使った配置になっていると好都合である。もちろん負荷は小さい方がよく、同じパワー管を10Wで使うのと1Wで使うのとでは、後者の方が状態変化や劣化が少ないし特性もリニアな部分だけ使える。

またスピーカからの最終出力は小音量が望ましい。どんなに素直に組んだところでチューブアンプの中では位相やら何やらがグチャグチャになるため、それが音声フィードバックとして返ってくると面倒なことになる(アンプ自身のマイクロフォニック挙動によるフィードバックもある)。音量が必要ならマイクを立て、アンプの音量はあまり上げないのが得策である。

結局のところ「定格が大きく安定した動作の真空管を用いたAB級プッシュプルでプレゼンスが強く効くアンプを、バイアスを入念に調整して(または自動調整機能を使い)小入力小出力で鳴らす」と、チューブアンプでもソリッドステートアンプのように、歪まず暴れずそこそこ安定して動作させることが、いちおう可能だと思われる。


音色を選ぶ

音色の選択と調整を効率よくやるための情報。とにかく手っ取り早い情報が欲しいという人は、筆者による素晴らしい演奏例が満載された動画(ピッキング編ピックの種類編アンプとキャビネットのシミュレーター編イフェクタベダル編ディストーション編)を参照(まとめて全部見たいという奇特な人のためのリスト)。うまく再生できない人は、ダウンロードしてから「Windows Media Player」や「VLC」などに読ませよう。

まずクリーンから

クリーントーンというのは、細かいところでのバリエーションは膨大にあるが、大まかに見るとそれほど種類はない。その中で世間的に人気のあるパターンといえば、ぶっちゃけブラックフェイスとツイードでほぼ二択、物好きな人がチャンプ(にもツイードバージョンはあるがここでは別物扱いにしておく)とかAC30とかJC-120なんかの音色(シミュレータ含む)を使っているだけである。

ということで、アンプシミュレータを使う人は「ブラックフェイス」「Black」「BLK」などまたは「ツイード」「Tweed」「TWD」などの表記があるモデルを選ぼう。メーカーによっては単にFd(ツイードもブラックフェイスもフェンダーなので)とか、モデル名を取って「Twin」とか「Bassman」となっているものもあるかもしれない(Twinとあればたいていツイードツインのことだが、65 Twin Reverbとあったらブラックフェイスツインリバーブのことなのでいちおう注意:時代的にはツイードの方が古い)。なお、名前でわかると思うがBassmanはベースアンプである(だからキャビネットも10インチ4発とか15インチ2発とかデカいものが多い:マーシャルもこの機種のコピーから始まったといわれる由緒正しいアンプで、現在ギターでよく使われるのはたいていコンボの4発)。

ツイードとブラックフェイスの大きな違いは歪むかどうかで、ツイードモデルはゲインを上げるとけっこう歪む。ツイードの歪みは(後年のアンプのように狙って作ったものでなく)単に「音量上げたら音割れちゃった」だけのもので、質感はかなり雑で荒っぽい(もちろんそれが魅力でもある:元はといえば「同じギターなんだからスチールギターのアンプでイケるよね」と思ったらやっぱりムリだったというアメリカンな経緯があったりする)。クリーンでかつまろやかに歪むモデルはないのかというとちゃんとあり、各社が「新しいクリーントーン」として用意しているものがそれである。波形が丸くなる感じの穏やかな潰れ方で、一般に言われる「真空管のふくよかなトーン」にはこっちの方が近い。

まとめるとこんな感じ。

種類設定特徴
ブラックフェイス相当歪ませないクリーンの基本、ハイを落としてジャズっぽいトーンにもできる
ツイード相当軽く歪ませる雑で荒っぽい歪み、ゲインやギターのボリュームで歪み方を変えられる、シングルコイルなら一度は
ニュークリーンチリっとする手前ふくよかリッチ、他のアンプモデルの前後に置いても効果的、ダブルコイルなら一度は
リハスタなどにフェンダーアンプが置いてあれば、たいていはブラックフェイスのリイシューか発展版なので、ブラックフェイスの音色は実機でも体験しやすい。ツイードもリイシューがあるがレンタルはまれ。ニュークリーンは多くのマルチイフェクタやアンプシミュレータに搭載されており、実機アンプだとチューブプリアンプを通してソリッドのギターアンプを鳴らすと近いか。

筆者の手元にあるシミュレータで優秀なものを挙げると、GDI21のツイードクリーン(ブラックフェイス風だがニュークリーンとしても使えるし、ゲインを上げれば歪みもいちおう付加できる)、GDI21のツイードホット(ゲインが低いとニュークリーン、高いとツイード風)、G1Nのzcモデル(模範的なニュークリーン)、PX5DのBLK+BLK10キャビ(ブラックフェイス風)あたり。G1Nのfdモデルも幅広いゲインで無難に使えとっつきやすい。

実機アンプでクリーンを鳴らす際の注意点として、EQは(ミドルを大雑把に仮決めしたうえで)トレブルから先にイジることが挙げられる。実機アンプEQの多くはトレブルがMID FREQ(中域を削る周波数)になっており、実質的な高域の補正はブライトネススイッチとゲインとボリュームを組み合わせたり、プレゼンスやギター本体のトーンを使って行う(機種ごとの特性などはローコスト制作感想コーナーのエレキギターアンプのページを参照)。

シミュレータの場合、アンプモデル以外のイフェクタはいったんすべてオフにして、気に入らないところがあったら軽くEQを動かす程度にするのがよいだろう。PANDORAシリーズのようにキャビネットシミュレータをかけるのが前提の機種では、キャビネットだけ推奨モデルにしておけばよい。チマチマと設定をイジらなくても、弾き方とギター本体の設定だけでいろんな音が出せるのがクリーンの魅力である(その枠に引っ掛かりを感じたときに、EQなどを使う)。また反対に、設定を動かすとそれまでとは別世界の応答が楽しめるという側面もある。

クリーントーンの魅力のひとつである音色のバリエーションの豊富さと奥深さについて、そのほんの一端を紹介するべく、ローコスト制作感想コーナーの音声サンプルのページに特徴的なものをいくつか掲載している。

モダンハイゲイントーンは大きく選ぶ

すでに触れたように、モダンハイゲインアンプのプリ段を含めた歪み系イフェクタの内部では、帯域を削ったりクリップさせたりパルスを付加したり、複雑な処理を何重にも行っている(原始的なファズ以外)のが普通で、歪み方を変えたいなら機種を丸ごと替えるのがラクである。とはいえとくに単音弾きでは、細かい違いは問題になりにくい。

というのは、高音域の潰し方にはあまりバリエーションがなく、たとえばパルスを付加しても成分の多くが可聴域の外に出てしまうこと、エレキギターの出力やキャビネットの能力自体あまり高域まではフォローしていないこと(つまり高音域は倍音が薄く潰れ方も単純になる)、和音と違い低音の振幅に煽られて高音の潰れ方が変わったりはしないことなどから音色自体が単純で、アンプの特徴が他の演奏ほどは強く出ないからである(ついでにいうと、出力音域が狭く共鳴の関与が薄いためギター本体の鳴りもあまり出ない)。

たとえばこの演奏(Antonin Leopold Dvorak作Z noveho svetaより:全部ストラトもどきのセンター+リア指弾き)は、GDI21マーシャルホット>GDI21メサブギホット、G1Npv>G1Nedとアンプモデルを変えてノーマライズと切り貼りをしたものだが、同じ万能系の音色で似たようなゲイン設定ならモデル間でそう大きな差異にはならず、ぶっちゃけちょっと補正してやればどれがどれだかわからなくなるレベルである(もちろん背景ノイズ以外が切れないように圧縮してあるし、コード弾きすればこれらのモデルの差は簡単にわかる:下の演奏例を参照)。

波形で言うと、たとえばG1Nのedモデルをダブルコイルのフロントで叩くとこんな感じになる。

1弦12フレの波形がほとんどクリップさせてローをややカットしただけの波形になっているのが見て取れる。同じ矩形波系の歪みでも、6弦開放などはけっこう変な形をしている。

もちろんコード弾きならバランスも問題になるので、まずはそちらの都合を優先してモデルを選び、単音弾きの部分はミキサーより後ろに頼るなりセンドリターンで何か噛ますなりして調整するのがラクである。キャラ的には、モダンマーシャルがスッキリ鋭く、ピーヴィーが中間、メサブギがドッシリ重い感じだと思っておけばよい。シミュレータでは、上で挙げたGDI21メサブギホット、GDI21マーシャルホット、G1Npvが万能系のハイゲイントーンとして使い勝手がよい(挙げた順にSGもどきのフロント>リアでコードを回した演奏例)。これも似たような音が出ているように聴こえるかもしれないが、後からの加工で何とかなると思う人はやってみるとよい(加工によって音色を洗練することはできるが、歪み方のバランスを誤魔化すのはけっこう難しい)。

ハイゲイントーンのポイントはゲインとEQである。ゲインを上げていくと歪みが増すが、ほとんどの歪みイフェクタではある地点で頭打ちになり、あとは音色が崩れていくのみになる。ごく強い歪みを得たい場合は歪みが飽和するより少し多いくらいのゲインで使い、それでも足りないと思ったらイフェクタ(またはアンプ)を取り替えるのが妥当である(死に馬に鞭打つのはやめよう)。EQも普通に使うのとはちょっと違ったものが適するようになり、UM300のもの(元はメタルゾーンだけど)などはたいへん便利である。ディストーションをかけた音色は追加で歪み系に通さない方がよいという話は何度も繰り返したのでここでは触れない(上の図で言うトゲトゲした部分が丸まってしまう:ペダルで音を作ったならソリッドアンプのギター入力かミキサーに直接入れよう)。

特化系の音色については、必要を感じた人が必要に応じて使えばよい。必要もないのにクセの強いものを導入すると、扱いが面倒だし混乱も招くしでいいことはない。

ドライブトーンはペダルでサポート

クランチ~ドライブくらいのトーンは、ペダルでのサポートが絡んで手強いのだが面白い。おもに、アンプを叩いて歪ませる、ムリが出た部分を立て直す、アンプとコンビネーションで使う、ペダル主体で歪ませるといった要素がある。

音を歪ませるには(ギターアンプの前に別のアンプを用意して)大入力を突っ込めばよい。しかし単純に過剰増幅しただけでは音色が崩れることがあるので、帯域を絞るなどして立て直しをはかる。これらを効率的に行うのがトレブルブースターやチューブスクリーマーで、アンプの特性に合わせてペダル(またはそのシミュレータ)を選ぶ。

コンビネーションは上記の考えを発展させたもので、たとえばアンプの手前でローを絞ってアンプで持ち上げるとか、その反対などをやる。この用途でもチューブスクリーマーは便利である(ペダルのトーンを上げてアンプのローを上げるなど)。ペダル主体の歪みはコンビネーションをさらに拡張したもので、あらかじめトガった波形を作っておきアンプでそれを丸める。

こういった手法を組み合わせて音色を作っていくわけだが、やはり単体のドライブトーンによく親しんで「ここがもう少しこうなれば」という発想やセンスを養うのが第一だろう。欲しくなった音色を得るための手段や方法についてはあとでいくらでも追求できる。またアンプごとに叩けるポイントと叩くために操作するツマミが違うので、回路についても大まかには意識しておくとよい。たとえば、

これはローコスト制作感想コーナーのエレキギターアンプのページで紹介したAC30CC2の大まかな回路で、青枠のコントロールで音量を上げると赤枠の部分で歪みが出る。どこにどんなゲインと帯域バランスを突っ込むとどんな歪みになるのか、普段から意識しておくとよい。クリーントーンのコツがアンプのキャラや応答に親しみ楽しむことにあるのだとしたら、ドライブトーンのコツはアンプの機能や構造を心得て操ることにあるのかもしれない。

なお、ペダルがなかった頃のドライブサウンドは後年のものとはまた一味違い、歪ませやすい小型アンプなどはとくに、現在でも好んで使っている人がいる(参考リンクその1その2)。もちろん、リイシューされているモデルもある。

時間空間系は無難なものから

イフェクタには時間空間系と呼ばれるものがあって、ディレイ、リバーブ、コーラス、フランジャーなど、エレキギターでは歪み系に次いで多用される。これらのうちもっとも基本的なのがディレイで、リバーブはディレイを不規則にたくさんかけたもの、コーラスとフランジャーはディレイタイム(遅らせる時間)を規則的に変化させたものである。前フリが長くなったが、これらを使う上でもっとも注意すべき点は無難なものをまず試すということ。キワモノイロモノ飛び道具には慣れてから挑戦すればよい。

最初に体験するのはたいていの人がリバーブかコーラスだろう。これらは音を曖昧にする効果を持つため演奏に自信がないとつい山盛りにしてしまいがちだが、そういう配慮はミキサーを操作している人がやってくれるので心配しなくてよい。あなただって音痴にカラオケに連れて行かれたら黙ってエコーのツマミをいっぱいまで回すだろう。

ヨタ話は置くとして、リバーブはスプリングを薄めにかけるのが無難。ラックやソフトウェアであれば使い方でなんとでもなってしまうイフェクトなのだが、フロアイフェクタあたりだとパラ出し(元の音とイフェクタの音を別に出して、それぞれ加工する)して細かく調整というのは難しいし、できる機種でも操作がかったるい。もし大型アンプに出すのなら、せっかくついている実機のスプリングリバーブを活用するのは悪くないが、そうでないならムリに手元でかけなくてもよいと思う。

コーラスはモノラルで出しても効果が損なわれず無難にかかるもの(これまでに挙げた機種の中ではG1Nに内蔵のものが使いやすい)を選び、アンプの前でかけるか後ろでかけるか、キャビネットモデルは何を使うかなどで工夫するのが近道。PX5Dのようにクリーンアンプモデルとキャビネットモデルが豊富なマルチがあると使い方の幅が広がる(G1Nのhwモデルもなかなか)。真面目にやるならパラ出しがほぼ必須で、実際コーラスペダルもそういう出力のものが多いのだが、技術的にも機材的にもちょっと敷居が高くなる。

ごく薄いコーラスのかけっぱなしは初心者にも簡単にできて効果も魅力的なのだが、途中でさりげなくかけ始めるとさらにオイシイ。ペダルの使い方(というか使うタイミングの試行錯誤)に慣れるための手がかりにもなるし、時間空間系の入門としてはもっともオススメである。

ディレイも(おもに演奏の)難易度が高いイフェクタで、基本的にはかけっぱなしにしないものだと思っておいた方がよい。カッコよくディレイがかかる演奏パターンみたいなものも他で紹介されているので、参照してみてもよいだろう。

オマケ(凄い人たち)

時間軸で見ると、ストラトサウンドはジミヘン>リッチー>インギー様の奇人変人組(常識人だったランディローズはダブルコイルに宗旨替え)と、ジェフベックやレイヴォーンなどの異次元組、クラプトン始発のちゃっかり主流組に分かれる。レスポールサウンドは完璧超人クラプトンとスライドバーの名手オールマン、テレ好きペイジ、なぜかスラッシュとあまり脈絡なく流れる。フルアコやセミアコをメインで弾く人が「ソリッドならこれ」というノリで使っている印象もある。SGも地味かつ散発的だが、ザッパ、クラプトン、デレクトラックス、ロビークリーガー、トニーアイオミ、アンガスヤング、フランクマリノと顔ぶれ自体はけっこう豪華。テレはバートン、ペイジ、キースとアコギも弾く人に人気があるような印象。クラプトンも初期はテレ+AC30で、アンプを変えてからもストラトネックのテレは使っている。

ハイゲインサウンドで言うとインギー様は1つの特異点にいらっしゃった。まずギターの帯域を好きなだけ出す。ドンドンシャリシャリ。そうするとハイハットあたりとぶつかる。凡人の場合そこで悩んだり困ったりするわけだが、インギー様は違う。ドラムに「邪魔だぞ」の一言ですべてを解決する。それも、考えてからとか思惑を持ってとかでなく、心の底から疑いなく即座にそう言い放つ(Jeff Beckのギターを聴いて「誰?このゲイリー・ムーアのバチモノ?」と言い放てるメンタリティは伊達ではない)。ベースも同様。インギー様のCDではシンバルが想像を絶するペラペラサウンドを奏でベースが黙々と帯域を埋めている。Odysseyの2・3曲目なんて本当に酷い。これを素でやらせるメンタリティと、やらせても殴られない実力、まさに天才といえよう(インギー様の全開濃厚ギターがあってこそのバランスだったのに, この後安易にサウンドを真似たメタルバンドがペラペラの単調サウンドを撒き散らしたのは残念なことである:世の平百ギタリストには、決して真似をしないよう心して欲しい)。なお当然のことながら、ドラムもベースも凄腕ぞろいなので、そんな扱いをしているとバンドは長持ちしない。

完璧超人と持ち上げたクラプトンはというと、ストラトでもレスポールでもSGでもサウンドの改革に大貢献しているのは間違いないが、この人はごく真面目というか、普通に追求すべきポイントをしっかり追求したら結果的にそうなったようなイメージがある。ジャックブルースとかジンジャーベイカーみたいな濃ゆい人たちとやっていたからか、隙間を縫うのも上手いしバランス感覚がものすごい。


音色を使う

せっかく選んで入手したものは使ってナンボである。例によって音を出すところに近い方から見ていこう。

指とピックを使う

まあなんといってもこれに尽きる。あまり参考にならないが、筆者がいろんな音を出してみたサンプルも掲載しておく。最初の3分が指弾き、残りがピック弾きで、SGもどきのフロントフルテン>GDI21のツイードクリーンゲイン極小>G1Nのzc>PX5DのTWD12+WETAIR。いろいろ通してはいるが、だいたいクリーンに近い音色。指弾きではけっこう変なこと(サムピングとかプリングとか)もやっているが、ピック弾きは普通のティアドロップ(ダンロップの犀マークUltem1.14mm)を比較的普通に持っている(いろんなピックでコードを回したものは急がば回れの直球勝負のエレキギターに掲載した)。ついでなので、前の項の冒頭で紹介した動画のリストも再掲しておきましょうか。

まあ筆者の演奏でピッキングニュアンスの出方なんてわかるわけがないので、とりあえず音がなんとなく変わりますねということを確認して、あとは自分でギターをいろいろと鳴らしてみて欲しい。縦振動と横振動、ブリッジ近くとナット寄り、ストローク方向(弦と垂直か斜めか逆アングルか)、弦へのぶつけ方、ピックのアングル(3軸あり複合できることに注意)と当てる深さ、弦を押すか擦るか引っ掻くか、ビビリを出す出さない(録音では出すつもりがないのに出ている部分もあるがご愛嬌)、その他もろもろ組み合わさって音色ができる。

なおギターからの出音がもっともよくわかるのはクリーントーンである。歪ませれば歪ませるほど情報量は減る(目立たなかったごく低域が歪んで中高域に顔を出すとか、ダイナミックレンジが狭くなって背景ノイズの成分がわかりやすくなるとか、歪み方で微妙な音量差が大げさに出ることがあるとか、例外はあるにしても:モダンハイゲイントーンは大きく選ぶの項で触れた「波形が単純になる」ということは「特徴が消えるor薄まる」ということとほぼ同義である)。ただし、たとえばキャビネットシミュレータなどフィルタっぽく振舞うものは、強く歪ませた後にかけると効果が目立つことがある(とくに周波数フィルタは、帯域が埋まった音(極端な例としてはホワイトノイズとか)にかけると耳につく変化を起こす)。

「クリスタルクリーンだと同じような音でもチューブアンプに通すと違う」という主張もたまに見るが、おそらく多くの場合、それはチューブアンプ自体が「同じ入力をしても違う出力をする」機械だからだと思われる(とくにパワー段以降のフィルタとしての効果は、強く歪ませていると耳につきやすい)。また演奏を聴くより自分で演奏する方がわかりやすい差異もあるのだが、演奏している最中は「耳の変化」も激しいということは忘れるべきでない(デジピだって(当然設定は変えずに)100回弾けば100回違った音が聴こえるし、そこに違いを見出すのが演奏者の耳というものである)。

また筆者が普段「同じ演奏を別の機械に入れて出力を比べてもあまり意味がない」という趣旨のことを言うのは、機械に入れる前の時点で大きく異なった候補がいくつもあり、そのどれが適するかは機械によるので、たまたま弾き方とマッチした機械が優秀に見えたり、マッチしなかった機械が不出来に見えたりするということを指摘している。その機械にマッチした弾き方を探して実行して初めて、機械の特徴がわかる(と筆者が言っても説得力がなさそうだが、どうしたって「使う人の耳と手」が出音を支配するわけだし、「使う人や目的や環境との相性」以上に重要な要素はない:それに比べたら機材同士の相性なんて些細な問題である)。

ピックアップセレクターを使う

エレキギターにはスイッチやツマミが(少ない機種でも1つくらいは)ついている。せっかくついているのだから活用したいのだが、面倒なことに機種によって構成が全然違う。仕方がないのでギブソンタイプから手をつけよう。

この録音は急がば回れのエレキギターの扱い方に掲載したもので、SGもどきからPX5Dに出してモダンマーシャルのアンプ(ゲイン最大)とキャビのシミュレータをかけたもの(ピック弾き)。途中で音がけっこう変わっていると思うが、設定などは変えておらず、ギター本体についているピックアップ変更スイッチ(ピックアップセレクター)を切り替えたのと弾き方のちょっとした違い(筆者がやっているくらいだからそんなに大げさなものではなく、音量が必要ない場面ではミュートを活用するとか、その程度)だけである。

でそのギター本体の設定はというと、フロントはボリューム3のトーン10、リアはボリューム7のトーン7である。ボリュームの組み合わせは筆者が(勝手に)「シチサン設定」と呼んでいるもので、ピックアップスイッチで歪み方を切り替えるときに使い勝手がよい(もちろん、ギターやアンプやピックアップなどによって微調整は必要)。トーンはフロントの10を基準にリアを合わせた。2トーン2ボリュームでピックアップセレクタがブリッジ近くにあるSGの特徴を活かした使い方だが、レスポールでも頑張れば多分できる。

リンク先でも同様の説明をしたが、別にギブソンタイプのギター専用の技というわけではなく、ピックアップセレクターの位置なんかを考えるとレスポールよりはストラトの方がやりやすいかもしれない(好みと手癖次第だが)。演奏例はストラトもどきでピックアップセレクターだけイジりながらピック弾き、G1Nでピーヴィーのゲイン半分アンプシミュレータ、PX5DでMDNキャビのシミュレータをかけたもの。ストラトタイプはピックアップが3つもあるしトーンも2つついているのでなんとでもなる(テレキャスタイプだとちょっとメンドクサイかもしれない)。

これもエレキギターの扱い方からの転載ネタなのだが、ミックスポジションはノイズ対策にも使える。同じギターで同じ部屋で同じ配置でもベストセッティングは一定でないため、多少の試行錯誤は必要なのだがとりあえず、フルテンからリアのトーンだけ6に下げ、ノイズが消えなければフロントのボリュームを8に下げ、もしかえってノイズが増えたらもっともマシな位置まで戻し、それでも気になったらリアのトーンを4に下げてみよう。バズノイズが大幅に減るはずである。

これ以外にもギブソン系回路のミックスポジションは本当に奥深く、4つのツマミを組み合わせるだけで実にいろいろな音色が出せる。ツマミをイジり始める前にピッキングで音を作ることを覚えなければ話にならないのはわかっているが、たいへん面白いので自信がない人もちょっとだけ試してみるとよい(大丈夫、筆者だってピッキングは呆れるほどヘタクソである)。手軽なところでは、

FVolFToneRVolRTone特徴
101077フロント単独よりちょっとスッキリ
101050フロント単独よりちょっとシットリ
371010リア単独よりも厚く落ち着く
751010リアとフロントの中間
75310不思議サウンドその1
30710不思議サウンドその2
71030枯れた音
といった感じ。ダダリオのEXLなどリッチ系の弦(できれば太め)を張って試すとよい。下の5つはハイゲインアンプに突っ込んでも面白いが、上の2つはクリーンでないとわかりにくい。もちろん演奏中のスイッチ切り替えと併用してもよい。

詳しい紹介は上記リンク先に譲り、回路のモデル図だけ再掲しておこう。

こんな回路が2つ並列になるので、結局こういうことになる。

前提知識がないと役に立たない図だが、エレキギターをイジるうえで電気の基礎がわかると話が早いため、多少勉強しておくのもいいかもしれない(なにしろエレキなギターなのだし)。

ストラトの場合5ポジションあるので、フルテンのままスイッチを切り替えるだけでも音色はけっこう変わる(すでに紹介した演奏例ではトーンツマミも使って変化を大きくしている)。ハーフトーンでもトーン回路は単純に2つ並列で入るだけなので、ギブソン系ほど複雑な振る舞いはしない(センター+リアだと1トーン1ボリュームとして振る舞う:低域の抜けを遮るものが何もないが、ピックアップの距離が近いので相似度が高くなる)。どちらかというと大雑把な設定が魅力的で、2つのトーンを高め普通低めの3段階で考えたとしても9通りの設定ができ、それぞれでピックアップセレクターを動かしたときの音色の変化が異なる。シングルコイルでノイズ対策が厳しいため、ハイゲイントーンに単独ピックアップを使う場合はとくに、音色変化が許容できる範囲でできるだけトーンを絞っておくことが重要になる。ボリュームは1つだが、演奏しながら右手中指~小指で操作する前提の配置になっているので、セレクタではなくツマミを直接操作してゲインを変える。

ピックアップが3つもあるため高さ調整での音色コントロールもやりやすく、筆者は、フロントを高め、センターを低め(低音弦側はさらに低く)、リアは高くしてある。フロントピックアップに指をかけて弾くことがあるのであまり低くしたくないのと、演奏時にセンターピックアップが邪魔になりがちなこと、フロント>フロント+センター>センターで滑らかに音色が変わって欲しいこと、2つのミックスポジションを両方ハイゲイントーンで使いたいことなどから自然とこうなった(ピックアップが遠いと高音が削れるため、リアからカッキンコッキンの音を出したい筆者の好みにも合致している:エレキギターの扱い方に掲載した録音の再掲)。

ポジションが5つあるのでいくつか切り捨ててもよく、たとえばセンターは単独では使わないという人であればハーフトーンの音色だけ考えて位置を決められる。またハイゲイントーンに特化するなら全部のピックアップを限界まで上げるのも一案で、サステインは短くなるのだが、弦の振動が磁力で歪んで独特の音色になる。これらの大雑把な(言い方を変えると極端な)セッティングで面白い音を作れるのがストラトレイアウトの魅力の1つだと思う。

ツマミはボリューム10、フロントトーン10、センタートーン8が筆者の基本ポジション。センタートーンは3ポジションに影響するので、優先順位の高い音色に合わせて先に微調整する。センタートーン7~9くらいでフロントトーンを少し下げる(ただしセンターよりは低くしない)と、ミックストーンにだけ作用してフロント単独にはあまり影響しない範囲がある。ツマミ設定と効果の大きさを表にするとこんな感じ。

FToneCToneFF+CC,C+R
特大
ただし片方のトーンだけ極端に低いと、ハーフトーンの音色は低い方のトーンが支配的に左右する。センター+リアで高域の利いた音色を出そうと思うとセンタートーンはあまり下げられないし、センタートーンを上げた状態でフロントトーンを絞ると音色の差が大きくなるので、曲の中でどの音色をどこに使うのかあらかじめ想定したうえで調整を行うのがよい(大きな変化を多用する場合はとくに、計画的な音色作りが重要になる)。とくに考えがないのなら、ボリューム8、フロントトーン8、センタートーン9くらいから始め、ハイゲイントーンではフロントのトーンを6くらいまで絞るとやりやすいかもしれない(フロントとセンター+リアでハイが削れない範囲でトーンを絞り、合計値でフロント+センターを削るという考え方:ハイゲイントーンではフロント単独とセンター単独の音色が十分変わるようにフロントトーンを絞ると、フロント+センターがちょうど重い音色になるはず)。上記は短いケーブルとDIを使った場合なので、長いケーブルとチューブアンプなどを組み合わせるときはトーンを少し上げる。

ポットの接続を変えてしまう手もある。マスターボリューム+フロントセンター共通トーン+リアトーンにする改造などがメジャーだが、単純に接続を入れ替えるだけでも面白い変化を期待できる。スイッチポジションは都合、センター、センター+フロント、フロント、フロント+リア、リア、または、フロント、フロント+リア、リア、リア+センター、センターになる(フロントとリアの入れ替えは意味がないので略)。この入れ替えと「トーンのないピックアップをどれにするか」で、かなりのバリエーションを出せる。ストラトはこういう大胆なチャレンジがやりやすいように作ってあるし、また実際そのように楽しんでいる人が多い(用意された枠の中で微妙な変化を楽しめるギブソンの設計とは好対照)。

筆者自身は、フロント単独もセンター単独もけっこう好きで、ハーフトーンはフロント+センターとセンター+リアの両方使いたいし、ストラト特有のリアの音も捨てたくないので、もし手を入れるとしたら、リアにトーンを追加したい。単なる追加では面白くないから、3wayスイッチで強弱バイパスの選択とか、そんな感じにできるとなおよい。

なお、ゲイン切り替えの話が出てきたが、使うアンプorアンプシミュレータによって適するやり方が少し異なる。G1Nのように「音色を変えるときはパッチも変える」のが適する機種では、何も考えずフットスイッチでパッチを変えればよい。こういう機種はたいてい、パッチ切り替えが鬼のように速いので、操作に慣れさえすれば演奏に支障はないはず。実機の大型アンプでよくあるようにフットスイッチでチャンネルを変えられる機種も、それを使えばよい。PANDORA miniのように「ひとつの設定でいろいろな使い方」をフォローしている機種では、ギターの側で出力を変えてやるのが順当だろう(上位機種のPX5Dはフットスイッチにも対応しているが、切り替えはG1Nほど速くない)。エレキギターのダイナミックレンジは、ハイゲイントーンだとある程度圧縮されるものの、それを補うのに十分なだけ広い(なにしろ本体に音量を変えるツマミがついている:そんなのクラシックギターにもフォークギターにもついていない)。音量についてはかなり自由の利く楽器である。

アンプシミュレータを使う

少なくともギター用のマルチイフェクタに関して、プリセットはほとんど何の役にも立たない。理由はわかると思うが、最初の項で触れた通りギターからマルチへの入力の時点で、まったく異なったものがいろいろと入ってくるからである。プリセットを作った人は、使う人のギターがレスポールなのかSGなのか、弦がダダリオなのかアーニーなのか、ピックがウルテムなのかナイロンなのかも知らないで作っている(というかわかって作れというのがムリ:いわゆるシグネチャプリセットだけは「当然オレと同じモノ使ってるよな」という態度で作られても文句が言えないのではあるが)。もちろん中には、まあだいたいこのくらいのブレ幅で入力が来るからこの辺をイジればだいたいよさそう、とかそういった発想で使い回しの利くプリセットを用意してくれる優秀なメーカーもあるのだが数は多くないし、もしすでに無難なものがあったとしても自分に合わせた最適設定ができれば道具の利用価値が増すだろう。

ということでプリセットは自分で作ろう。まず全部のイフェクタをオフにして、アンプモデルだけ(キャビネットもセットにする機種ではアンプ+標準のキャビを)選ぶ。メーカーのプリセットを一部だけ変更することを勧める人もいるが、相互影響が複雑な状態でパラメータをイジって「何をしているのか把握できる」のはそれなりに慣れた人だけなので、アンプモデル単品からイジり始めるのがよいと思う(いわゆる「アンプ直が基本」という主張にも、パラメータが少ない状態で振る舞いをしっかり把握するのが重要だという意味では同意する)。どれがいいか悩みたくない人に筆者のオススメを挙げておこう(筆者が常用している機種のみ)。

機種クリーンハイゲイン
G1Nfd, hwpv, ed
GDI21TWED+CLN+CLSICBRIT+HOT+CLSIC
PANDORATWD12+TWD12UKMDM+MDN
ついさっき言ったこととイキナリ矛盾するようだが、べつに「これを使え」というわけではなく「どうせ全部試すんだからとりあえずこれ」というチョイスである。ゲインとかEQなんかは自分のギターなどに合わせてテキトーに設定するが、あまりムキになってギターや演奏の「特徴を消す」方向に走らないように気をつけよう。G1Nで各2種選んでいるのは、前の項で触れた「音色を変えるときはパッチも変える」に合わせたもの。同じアンプモデルで複数のパッチを作ってももちろんよい。EQの使い方には他のページでも繰り返し言及しているが、まず覚えるべきは邪魔になった音を削る使い方である。このときもやはり、邪魔なものを丸ごとソックリ消そうとするのではなく、不都合をちょっと緩和してやるくらいのつもりがよい(なので、出音に不都合がなければ使わなくてよい:不都合があることに気付ける耳はここまでの練習で育っているはずだし、今現在もう一歩だとしても、後から追いついてくる)。

繰り返しになるが、普通のギターを普通に繋いでアンプモデルを選ぶだけで、普通に「使える」音色が勝手に出てくる。余計なことをグチャグチャやって妨害しなければ、楽器も機材も自分の役割は普通に果たしてくれる。重要なのはやはり奏者の耳で、他のページでも繰り返しているが、出るべき音がすでに出ていることをちゃんと聴き分けて余計なことをしない耳を育てることがまず求められる。それから「ミキサーより後ろでやらないとどうにもならない作業」を手元でやろうと頑張らないことも重要である。奏者が音を出した時点では必要な材料が揃っていればそれでよく、どう料理するかは録音した後に考えれば(またはライブであればPA担当者に任せれば)よい。

で、ギターやアンプを操作して出音をコントロールするわけだが、環境に合わせた受動的な調整でも重要な個々のパラメータの振る舞いに加えて、積極的な音作りでは「操作前の状態」と「2つ動かすとどうなるか」ということに注目すると手っ取り早い。実際には位相とフィードバックの絡みだとかグループディレイだとか考慮しなければならない要素がたくさんあるが、たとえば周波数特性について、操作前の状態はこんな風に表現できる。

図ではフラットな特性に描いてあるが、実際にフラットであるかどうかはまったくどうでもよく、この状態を基準にしてどういう変化があるか把握するためにこうしてある。自分のスタートラインセッティングのようなものを持っておくことが重要だろう。ここからたとえば、トーンを絞ってブライトネスを入れるとこんな感じに、

トーンを大きく絞ってプレゼンスを強く入れるとこんな感じに、

歪みが絡むともう少し複雑になる。

テキトーにデッチ上げた図なので実機でもこうなるとは限らないが、とにかく2つの操作が複合して結果に現れるはずである。これらをイチイチ分析やシミュレータにかけて結果を吟味しろということでは(やればやったで面白そうではあるが)もちろんなく、1つ1つの操作で何がどう変わるのかしっかり意識して、最終的な音色から自分が何をやったのか判断できるようになるのが目的である。詳細な挙動を正確に掴んでいる必要はまったくなく、大まかに何をやったか把握できていればそれでよい。任意の2つの合計(本当は積だが気にしないで欲しい)をコントロールすることに慣れれば、どんなにパラメータの数が増えても1つ1つ足していけばよいだけなので、応用が利く(今こうなっているという情報と、こうイジったからこうなったという情報を、交互に塗り替えていくだけ)。

なおこれとは反対の手法として、パラメータの意味は気にせずデタラメにイジって、出てきた音に合わせて面白そうな演奏を試してみるというやり方もある。実際の音作りでは、とりあえずで鳴らしてみて、こんな感じかなとパラメータをイジリ、また鳴らしてみて音に合わせて演奏を工夫して、という繰り返しになるので、どちらも必要である(出したい音を意識して意図を反映させる能力と、実際に出てきた音に合わせて演奏する能力の両方が問われる:いわゆる「どこでも自分の音を出せる人」というのは、このバランスが優れているのだと思われる)。


買い物について改めて

わりとメンドクサイ話を中心に。

買い足すなら何か

その前にここまでの出費を小計してみよう。ギターに1万円マルチに5000円アンプに3000円その他小物くらいのコースなら3万円くらい、ギターに3万円マルチに1万円アンプに1万円くらいのコースなら6万円くらいかかっているはずである。プラス1.5~3万円くらいの予算で環境を整えることを考えてみよう。

買い足しの前に調整を考えてみるのがよいと思う。以前プロがキッチリ調整した直後のアコギ(ギターが新品で1万円くらい、調整が2万円くらいで合計3万円弱だったと聞いた)に触らせてもらう機会があったが、5万円くらいでその辺に売っている無調整のギターよりはよほど弾きやすかった。しっかりしたメンテを実際に体験することで自前のメンテの参考にもなるし、コストパフォーマンスがよいと思う。

ギターを買い足すメリットについてはすでに触れた。多くの人は長く演奏していればそのうち手が出るだろうと思うが、やっぱりタイミングというものがある。筆者が思うに、家では自分のギターを弾きながら出先ではレンタルのものも試し、ギターの違いみたいなものがわかってきて「こういうギターをこんな感じに弾きたいな」というイメージができてきたら2本目を探す好機だと思う。

ディストーションギターをやりたい人はペダルを買うのも一案。もちろんデジタルマルチでもできるが、ディストーショントーンは複数の歪ませ方や帯域の処理が複雑に絡んでおり、大きくキャラを変えようと思ったらペダルを取り替えるのが手っ取り早い。単体のキャラがどうこうというより、できるだけ種類を多く試して、必要に応じて使い分けるのが結局近道になると思う。最初に試すならベリさんのUM300あたりがよくできている。Line6のSTOMPBOX MODELERシリーズ、ZOOMのG3やMS-50Gなど、ペダルシミュレータ機能に注力or特化したマルチイフェクタもある。

買い物は控えてスタジオ代に回すというのも有望な案。デカいアンプをじゃんじゃん鳴らせるというだけでも価値があるが、レンタルの楽器や機材を試す機会もできてお得である。もっと安上がりな場所(カラオケボックスとか、地域によっては河川敷とか)でももちろん演奏は楽しめるが、たまにはビシっとした環境でガッツリ音を出したいものである。

音色作りに懲りたい人はイフェクタを当たってみてもよい。筆者の手元で活躍している順に挙げると、KORGのPX5D(キャビネットシミュレータと、たまにクリーンアンプシミュレータ)、G1N(雑用全部、とくにzcアンプとpvアンプとコーラス)、ベリさんのGDI21(アンプモデリング特化型)とTO800(味付け用と外出用)だろう。モノが増えてくるとAB100あたりも便利。音色作りというとすぐに「EQEQ」と連呼する人が後を絶たないが、真面目にかけるならミキサーより後ろでやった方がずっと早いし、プリドライブ(=アンプより前)で使うならペダルにオマケでついてくる2~3極のもので十分だろう(少なくとも筆者は不足に思ったことがない)。それよりずっと前の話として、弦の種類とゲージ、ピックの種類と厚さを極力たくさん試すとともに、ピッキングの方法やギター本体のツマミ設定などを追求した方がずっとよい。ペダルについては出先でも活躍させやすく、筆者がリハスタに行くとき持っていく頻度はギター本体(ほとんどレンタルで済ませる)よりもペダルの方がずっと多い。

キャビネットシミュレータはとくに重要で、他は同じ設定でキャビネットモデルを変えるだけでこのくらい出音が変わる(それぞれの演奏途中で(できもしないのに頑張って)センター+リア>リアにピックアップを切り替えている)。クリーントーン(その1その2:イフェクタはいろいろ通しているが途中で設定を変えることはせず、ピックアップをフロントからリア+センターに切り替えている以外は、キャビネットシミュレータとプレゼンス設定だけで音を変えている)でももちろん有効。まあキャビネットシミュレータもEQの仲間といえば仲間ではある(思い切り広義に取ればディレイもEQの仲間にできる)のだが、後ろでラックorソフトウェアEQを使うにしても、大雑把なテンプレートとして使えるため便利である。

機材面ではミキサーの導入も考えられる。デジタルマルチをミキサーにつないでおけば、練習したいときにもパソコンで録音したいときにもケーブルを抜いて持ち出したいときにも手早くできる。またパソコンやポータブルオーディオで伴奏を流しながら練習するときに、鈍臭い接続をしなくて済む。

筆者のオススメとしては、スタジオ=調整>ミキサー>イフェクタ=2本目ギターくらいの順。

違う種類のギター

ソリッドのエレキを弾いているうちに違う種類のギター、たとえばアコギであったり、エレキはエレキでもセミアコやフルアコであったり、多弦モデルだったり複弦モデルだったり、そういったものに手を出してみたくなる人もいると思う。また同じソリッドエレキでも、シングルコイルとダブルコイルはけっこう違うし、特殊素材系(アルミとかカーボンとかアクリルとか)に興味を持つ人もいるかもしれない。似たような形状で音色の異なるモデルが多数あるのはギターの魅力の1つなので、面白い試みだと思う。

リアピックアップの音を追求するなら、エスクワイアーやレスポールジュニアやSGジュニアなどのワンピックアップモデルは(買うかどうかは別として)手に取ってみるとよい。木の種類だのブリッジやナットの素材だのにやたらこだわる人は多いが、普通に考えて、ボディに大穴が空いていることの方がはるかに大問題である(ベーシストの間では、プレベとジャズベでボディの鳴りが違うということはわりと意識されているようだが、ギタリストにはそういうことに頓着する人がなぜか少ない)。ただし激安レプリカの場合、他のモデル用にザグってからピックガードで穴を隠しただけのものもあるようなので(弦の近くにある強力な磁石が1つ減るだけでも、それなりに影響はあるだろうが)いちおう確認しておいた方がよいと思う。

エレキギターはわりとヤンチャができる楽器なので、違う種類のギターを買ってくるのではなく、今持っているギターを違う種類に改造してしまう人もいる(それなりに敷居が高いし筆者自身も挑戦するつもりはないが)。

アンプについて

スピーカユニットのサイズで大雑把な分類ができる。6.5インチ単発というとポータブル用途でギリギリまで小型化したクラス、普通の小型機種には8インチが多く、交換用スピーカユニットが多く流通しているメインストリーム帯は10インチ以上になる。なおオーディオ用フルレンジでは6.5~8インチくらいがスタンダードチョイスで、ダブルコーンとシングルコーンが入り混じっている。すでに触れたが、このキャビネットサイズだけは極力妥協しない方がよい(大きければそれでよいわけではなく、大型キャビネットの音は大型キャビネットからしか、小型キャビネットの音は小型キャビネットからしか出ない)。2013年11月24日の日記で紹介したように、単四電池2本で駆動する100円のポータブルパワーアンプでも、マーシャルの1960に繋いでやれば普通に「エレキギターの音」が出る。反対に、たとえ大型のチューブアンプヘッドでも、小さいスピーカにつなぐと(入力に耐えて燃えたり壊れたりしなかったとしても)それなりの音しか出ない。

エレキギターの最低音がレギュラーチューニングだと80Hzちょっとなのに対し、大手メーカーの中では8インチユニットが豊富なジェンセンのラインナップを見ると、だいたい120Hzくらいにf0をもってきているようだ。f0が120Hzというと、バスレフにしてローをしっかり出しても、クローズバックで穏やかに落としても、オープンバックでスカスカにしてもよさそうで、エンクロージャの設計が楽しそうなクラス(なのだがバスレフのラインナップは少なく、筆者が確認できたのはCUBE-15XLくらい:6~6.5インチなら、フェンダーのFRONTMAN 10G、フェルナンデスのOS-15などがバスレフ、単体キャビだとVoxのV110NTが10インチのバスレフ)。セレッションの新製品Eight 15(オリジナルシリーズ)のf0は109.7Hz、エミネンスの820H(Patriotシリーズ)は143.55Hzで、どちらも2013年のカタログで唯一の8インチラインナップ。

2013年4月現在のカタログだと、ジェンセンの6インチMod 6-15という機種が面白い設計になっている。f0が91Hzとやたら低く、スペックを見る限り低域が歪まない限界音量がごく小さいはずである。感度も90.9dBと同じシリーズの5インチモデルより低く、10W(耐圧は15W)突っ込んでも100dbSPL@1mくらいになる計算。ようするにPA機器としての性能を無視して小音量域(といっても家の中で使うようなレベルではなくあくまでスタジオユース)の性能と小型軽量の両立を狙ったということなのだろうが、同じことを8インチでやるモデルがもう少し出てくると面白い(単品で売られていないだけで、各社が8インチのコンボや単体キャビに搭載しているカスタムスピーカはそういうスペックなのかもしれない:実用入力が低くなる都合もあるし、リプレイススピーカには採用しにくいのかな)。

ミニチュアアンプでは、AC1(3インチだが2発搭載)、MICRO CRUSH(4インチ)、GA-1(バスレフで多分4インチ)、A-10(バスレフでユニットサイズ不明だがGA-1よりは大きい)と各社微妙なサイズアップを図っており、たしかに3インチ単発よりはよく鳴るものが多いが、このクラスに楽器としての性能を求めるのが最初からムリなので、多少の違いは気にしなくていいかなとも思う。同様にエンクロージャ(ガワのハコ)の方式も気にしなくてよいだろう(このクラスをバスレフにするとローエンドがスコっと落ちるため、バスレフの機種でも密閉に近い動作にしてあるはず:グリルを外して中を見たわけではないので確証はないが、フェンダーは5インチクラスはバスレフにしていない模様、RandallのMR10は店頭で確認したところバスレフ、VoxのMINI3はウェブに掲載されていた分解写真を見る限りバスレフのようだった)。試した中ではVoxのAC1 RhythmVOXが面白かった。練習用として見るなら、チューナーとメトロノームを持たなくて済むのが便利だろう。

普通の小型アンプに目を移そう。アンプの内蔵イフェクタとして、リバーブやコーラスなどのポストドライブ(歪ませた後でかける)イフェクタがあると便利(アナログアンプだとディレイはあまり見ない:その代わり大型機種には実機のスプリングリバーブを搭載しているものが多い)。外部でかけてももちろんよいのだが、小型~中型の機種はセンドリターン端子がないものも多い。またキャビネットを決め打ちできるためアンプモデリングは設計上有利になる(コンボアンプはもちろん、専用キャビネットを用意しているアンプヘッドでも:ただしサイズにバリエーションがある製品だと、どのキャビネットにフォーカスしているのかやキャビネットごとの補正がどうなっているのかを調べるのが難しい)。

その辺を踏まえながらラインナップを眺めると、8インチのマルチ内蔵コンボが目につく。デモ演奏などを見る限り、VOXのVT20+はクリーントーン、PEAVEYのVypyr 15(どーも、ベースアンプとアコギアンプのシミュレータとUSB機能を追加したVypyr VIP 1が後継モデルになる模様)はハイゲイントーンが豊富で、FENDERのMustang Iはフェンダーアンプの念入りなモデリングが売りといった感じ。VT20+とVypyr 15はムリヤリ機能を削った印象が薄く好感が持てる。フルサイズのスピーカを使いたいなら10~12インチクラスもそんなに離れた価格帯ではなく、VOXのVT40+やFENDERのMustang IIあたりがある。もちろん、VT15FXとかG30FXとかSpider IV 15とか、モデリング重視でないマルチ内蔵アンプも悪くはないが、せっかくコンボアンプにマルチを突っ込むならキャビを決め打ちできる利点は拾っておいて欲しいというのが筆者の意見(モデリング重視のメーカーがちゃんと利点を拾えているかどうかはまた別の問題だし、普通のデジタルマルチを使って出先ではミキサーに出す方がラクなのは言うまでもない:相手がハイファイスピーカなら、わざわざ決め打ちしなくてもそんなに極端な差はない)。

チューブアンプはデカくて重いトランスを噛ましてナンボなところが少なからずあるため、重さには目を瞑るしかないと思う(実際、大型アンプヘッドにはアホかと思うくらい巨大な金属の塊が入っている:整流もチューブならもう1つオマケされていて非常に重い)。プリ用の双三極管でプッシュプルのパワー段出力をしている製品もあるが、もし五極管(ないしその互換品である4極ビーム管)の出力を真似ようという意図があるなら、わざわざパワー段に三極管を置く必然性は薄そうに思える(もし三極管プッシュプルの音色を追求したいなら自然な選択だが)。シングル動作の軽量アンプもあるが、プッシュプル動作のものとはパワー段の歪み方もトランス(低域を出そうと思ったらプッシュプルより大きくなるはずなのだが、どうやっているんだろう)のキャラも違うしノイズも多い(ツイードチャンプのレプリカとかならそれも味だろうが、一般的にはあまり嬉しくない)。

もしチューブのオーバードライブが欲しいだけなら、ベリさんのVTシリーズ、VOXのBIG BEN OVERDRIVE、ALBITのA3GP、BLACKSTARのHTシリーズ、HUGHES&KETTNERのTUBEシリーズ、AMT ELECTRONICSのSSシリーズ、FryetteのVALVULATOR、VoxのTone Garage Tube Stompシリーズなど、リアルチューブイフェクタがある。チューブアンプのドライブチャンネルに入っているのも結局は似たような回路(12AX7に何回か通して過剰増幅する)で、アンプの筐体に内蔵するか外部に用意するかは電源と取り回しの都合でしかない(ローコスト制作感想コーナーのギターアンプのページに、実機のブロック図を掲載している)。ヘッドアンプにチューブを使いたいなら、ベリさんのMIC200や、パクリ元であるARTのTUBE MPなどがある。

結局のところ、エレキギター用チューブアンプのキモはアウトプットトランスを含めたパワー段で、トラブルが生じやすいのも環境(スピーカユニットの特性を含む)や使い方の影響を受けやすいのも消耗が激しいのもここなら、デカいのも重いのもここである(もちろん、チューブに限定せずギターアンプのサウンド全体で見るなら、キャビネットの方が重要なのには違いなかろう)。一般に「チューブアンプの音」と捉えられている出音を持ち運び可能な重量で得るには、ソリッドステート整流で5極管接続プッシュプルの単品ヘッドを買いキャビネットをレンタルする案が妥当なのではないかと思える。ただしチューブや巨大トランスが入っている都合から、運搬にはかなり気を使う必要がある(自動車で運ぶ際など振動が避けられない場合に天地逆さにするというワークアラウンドを聞いたことがあるが、効果があるのかどうか不明:かえって壊れる可能性もあるので、運び方はメーカーに問い合わせた方が無難)。

いろいろ勘案して眺めると、FENDERのSuper Champ X2 HD(チャンプといえばシングル動作だが「15 watts (Class "AB")」とあるのでプッシュプル)あたりは、イフェクタ内蔵で荷物を減らせるし本来のキャビネットもクローズバック(スピーカはCelestion G12P-80らしく、レンタルだと1960しか選択肢がないのが普通だろうが、1発ユニットとはいえオープンバックよりはキャラの差が小さいはず:これに限らず、フェンダーは同一シリーズのコンボがオープンバックでセパレートがクローズバック(ユニットもセレッション)というパターンが多い)で面白そうではある(8.4kgとやけに軽く、どんなトランスが入っているのかちょっと気になるが、バラしてみないことにはわからない)。また小型ヘッド用のケースは、ハードセミハード純正社外を問わずラインナップがほとんどない(持ち運びたいからという理由で小型機種にしている人もいそうなものだが)。

BUGERA(BEHRINGER)のINFINIUMシリーズ(1960と1990がマーシャルの1959とJCM900、6260と6262がPEAVEYの5150と6505、TRIRECはモロにメサブギのレクチファイア(Triple Rec)、333は名前がJET CITYっぽいけどPEAVEYのTriple XXX、といったところを意識してるのかな、多分:これ以外の、Vシリーズ(V22がデラックスリバーブっぽい構成)やBCシリーズ(BC30がAC30っぽい構成)なんかは、あんまり似せようとした感じがせず普通のアンプっぽい)あたりは安価だしモノに妥協がなさそうなのだが、ヘッドだけでも20kg前後なので徒歩で運ぶのはちょっとムリ(他のメーカーが日和ったデザインに走る中「こうすりゃ勝てる」というデザインでねじ込むセンスはさすがだと思う)。単品キャビが密閉型だけなのは合理的だと思うが、やっぱり軽量キャビは用意していない(4発モデルとマーシャルの1960を比べると大差はないので、とくに重いわけでもないが)。2016年6月追記:まだ出回っていないようだが、VシリーズはV INFINIUMシリーズに引き継ぐのかもしれない(22Wの単品ヘッドも出るようだ)。

木について

たいていのソリッドギターは木を主材料にしているが、その木材について。当たり前の話なのであまりクドクドやりたくないのだが、妙な話が溢れかえっているのでいちおう触れておきたい。

他のページでも何度も繰り返していることだが、木の種類が何であるかと木材の性質は直結しない。メイプルは硬くてローズウッドは重い、たしかにそういう傾向はあるが、柔らかい種類のメイプルや軽い種類のローズウッドもないわけではなく、さらに個体差(木の重さや硬さなんて1本1本全部違う)や加工の違い(乾燥とか塗装とか)や個体内部の差(根元の方と先端の方とか、中心と外側とか、南側と北側とか)もある。また元が同じ木の似たような部位で、同じロットで同じく加工されたものだとしても、その後の使われ方や保管のされ方で木の性質はいくらでも変わる。

大雑把な傾向としてはこんな感じ。なお英語のlaminatedを合板と訳すのは間違いではないが、通常はいわゆる天然木化粧合板(たとえばラミネーテッドマホガニーとあったら、合板の一番外側にマホガニーのシート(突き板)を貼り付けたもの)を指す。

面白いのはドラムスティック(筆者はタイコも叩き、ツールマニアなのでスティックもやたらたくさん持っている:やはり初心者以前の腕前だが、ギターよりはちょっとだけマシ)の選別の話。VIC FIRTHという(ドラムを叩く人にとっては、エレキギターを弾く人にとってのダダリオとかアーニーボールくらい有名な)スティックメーカーがあって、ペアマッチング(このメーカーではスティックを2本セットで売っているので、その2本ペアができるだけ同じようなモノになるよう組み合わせる)に力を入れており、Youtubeに掲載されていた動画を見ると「50g前後のスティックを2g刻みで選別」している。50gに対して2gというと4%の誤差を許容していることになる(いちおう断っておくが、VIC FIRTHのペアマッチングは悪く言う人がほとんどいないくらい精密なものである:エレキギターの場合、イシバシ楽器が重さを表示しているので同じモデルで比べてみるとよいが、もっと景気よく派手にバラけるし、大半のメーカーが気にせず出荷している)。木を素のまま使うとそのくらい誤差が大きいし、またそれ以上の精度を追求してもあまり意味がない(たとえば工場で0.2g刻みで揃えても、使っているうちにそのくらいは簡単に狂う)。なお、同じ工場で同じ木から作って重さも揃えたスティックでも音(ピッチ)が違うので、それもペアマッチングしているが、べつに「音質がいい」ものを選別しているわけではなく「音色の揃ったものを組み合わせている」だけである(規格から外れたものはもちろんラインから取り除くが、ペアごとの音色の差異は許容している、というか普通に考えて当然ある)。

こういった差異を(楽器の味なんだから騒がなくてもよいと思うが)もしなくそうと思うなら、木質ボードや金属やセラミックやプラスチックを使う以外にない。実際、100台作ったら100台同じ音が(出ないけど)出て欲しいモニタスピーカのエンクロージャ(ガワのハコ)などは、素の木材で作ることはほとんどない(たいていはMDF(中密度繊維板)と呼ばれる木を砕いて接着剤で固めたボードやポリプロピレンなどのプラスチックを使う)。エレキギターでも、アルミ合金、アクリル樹脂、合板などで作ったものが市販されているので、均質なものをずっと使いたい人はそういうものを選べばよい(アルミ合金はドラムスティックにも使われており、アルミギターと比べればかなり多くの愛用者がいる:ナイロンやプラスチックのチップ(スティックの先っちょの部品)と組み合わせるのが普通だが、反対の発想で本体を木にしてチップをアルミにした製品もある)。もし素の木材でできたものを選ぶなら、木の性質は「どれも同じ」でなく、また常に変化するものだということを頭の片隅にでも置いておくとよい。

「たしかにある」と言った傾向についても、ちょっと注意したい点がある。たとえば木の「丈夫さ」について考えてみよう。エボニーやローズウッドのような硬くて重い木は動きにくく曲がりにくいが割れやすい(ドラムスティックを作ろうと思うと致命的な欠点なのだが、扱い方がソフトでジャズやロックより太めのスティックが好まれるクラシックではたまに用いられる:ギターでもエボニーの指板が割れるトラブルは割と多い)。やや軽く柔らかくなってヒッコリーやホワイトオークくらいだと、変形も少なく割れもあまりないが動きやすい傾向になる(瞬間的な力による変形でなく、温度や湿度など環境の変化による長期的な変形が大きい:ただし乾燥時の変形では割れやすい)。ホワイトオークと比べると、ミズナラはやや割れやすく、レッドオークは柔らかめで狂いが少ない。ハードメイプルはちょっと特殊で、少なくともドラムスティックの用途だとヒッコリーやオークより折れやすく、動きもかなり大きい(なのでギターの指板に使うときは塗装するのが普通)。これがバスウッド(リンデンまたはアメリカンホワイトウッドとも)みたいな軽く柔らかい木になると、瞬間的な力では変形するが動きは少ないものが増える(いづれも通常の乾燥処理がなされた場合)。だからたとえば「木がメイプルだからネックが丈夫」というのは、それなりに正しく傾向を表現した発言ではあるが、けっして「変形しなくて動かなくて割れない」ということではない(というかそんな木はない)。

それから、これはごく常識的な話なのだが、どんなにギターに適している木であっても、たくさん生えていて製材がさかんなら値段は安くなる。建築用や家具用の木材は楽器用と比べて需要規模の桁が違うため、市場を支配しているのは圧倒的に前者である(だから、生えすぎて困るくらいたくさん生えている木でも、建築用や家具用の製材がさかんでなければ、安く売ってくれる木材問屋は多分ない:ヤマハのように山ごと自前で確保して木を植えて切ってとやるなら話は多少変わるが)。またかつてギブソンがそうだったように、世間の需要と異なる切り方や寸法のものを使おうとすると、同じ種類の木であってもとたんに入手性が悪くなる。金属やプラスチックも同じで、たとえば濃縮ウランは非常に高価な金属だが、値段が高いのはギターの材料に適しているからではなく、また実際にギターには使いにくい(というかほぼムリ)。

オマケで木以外の材料についても。金属で多く使われるのは、鉄合金(多くは鋼材として)、洋白(銅と亜鉛とニッケルの合金:洋銀またはニッケルシルバーとも、500円玉の材料に使われるものをとくにニッケル黄銅と呼ぶ)、黄銅(銅と亜鉛の合金:亜鉛が多いと硬く少ないと柔らかくなり、20%を境に亜鉛が多いものを真鍮またはブラス、少ないものを丹銅またはゴールドブラスと呼ぶ)、青銅(銅と錫の合金:アコギの巻き弦には錫20%のものが好まれる)、アルミ合金(一般に軽くて硬い)など。鋼材のメッキとして、ニッケルメッキ(保護メッキとして一般的:酸化皮膜を形成するので腐食に強いが、傷がつくと地金が先に錆びる)、装飾クロムメッキ(ニッケルメッキの上からクロムをメッキしたもの、ニッケルクロムメッキとも:クロムメッキ自体は硬くて酸化に強いが、ピンホールが多く割れやすいので下地メッキをするのが普通)、亜鉛メッキ(トタンとも:酸化皮膜を作るとともに、地金より先に錆て中身を守る)など。人工高分子(プラスチックとかシリコンとか)は種類がありすぎるので略。牛骨とか象牙とか鼈甲とか、生物由来のものも使われる(商取引が制限されている品目もある:もちろん木も生物由来材料の1つ)。

メーカーについて

ギターをメーカーで選ぶ人はけっこう多い。実際、少なくともデザインにはメーカーによって明確な特色があるし、そのメーカーしか作っていない型やスペックというのもある。ローエンドではとくに、個体差やロット違い(場合によってはOEM先の変更など)による変動が大きくそれほど重要視しなくてよい事柄ではあるのだが、それでも目安のひとつとして活用されている情報である。筆者がメーカーを評価するときにもっとも重視しているのは、小物の使い勝手と注意喚起である。

掃除用の布(クロス)だとか調整用のレンチだとか、演奏に関わるものではストラップだとかピックだとか、そういった製品に使い勝手のよいものを揃えているメーカーは信用している。他から買ってくるにしても自分のところで作るにしても、楽器を弾く人のことを真面目に考えて、楽器を弾く人の意見をよく聞いて、また自分たちでも楽器を弾いてみないと気の利いた小物は用意できない(すでに評判のよい製品を、作っている会社ごと買うという荒業はあるにしても)。使いやすい小物を揃えているところには、そういうことに配慮して実行に移せる人が少なくとも何人かいるということになる。この点で筆者のセンスに合っているのは荒井(ARIA)と斉藤(フェルナンデス)で、後者はギターのスペックが筆者好みでない(だって指板が400Rのばっかりなんですもの:350のもあるけど高い)ため購入候補に挙がることはあまりないが、アンプあたりはけっこう欲しい。反対に、一足飛びの買い物の余談のページでも触れたように、扱いに注意を要する(素人目には一見画期的な)小物を(技術のある人専用ラインナップとしてでなく一般向けに)ポンと売っているところは、よほど不親切か素人商売のメーカーないしベンダーだと推測できる。

注意喚起については、利用者に危険のある事柄をちゃんと周知していることが真っ先に求められる。それから、楽器や機器の使い方について十分な情報が判りやすく示されていれば申し分ない。他のページでも言及しているが、2013年4月現在筆者が知る限り、PEAVEYは大音量による聴覚障害の危険をマトモに説明している唯一の大手ギターアンプメーカーである(2014年7月追記:フェンダーもSuper Champ X2のマニュアルでは注意を呼びかけていたのを見落としていた)。周知するようになった経緯は知らないし、もしかしたら訴訟沙汰に巻き込まれて仕方なく表示するようになったのかもしれないが、少なくとも結果的にPEAVEYだけが注意を呼びかけている。使い方の情報についてはやはりヤマハが抜群で、やみくもに「すごい機能をつけたからすごいです」で終わることなく、どうやったらそれを活用できるのかちゃんと説明している。ヤマハが偉いのは「こう使うと機能が役に立たなくなります」「こう扱うと楽器や機材がダメになります」という情報を隠さないことで、まあ正直ちょっとウルサイところもあるのだが「みんなが不幸」にならないためには必要なことだろう(ギターとは関係ないが、モニタスピーカのエンクロージャ材質まで「ちゃんとリサイクルしろよ」とばかりに教えてくれて、本当に親切である)。

ハードウェアに限って言うと、精度のよいものを追求しているメーカーはたいていセカンドブランドやアウトレットラインを持っている。これは楽器や音響機器に限らず、すばらしいハードを作ろうとすると必ず「普通だけどすばらしくはない」グレードのものがいくつかはできる。エレキギターなんかは材料が素の木材なので、乾かして切ってみないとわからない粗もあるだろう。それを単純に捨てるのはあまりにもったいないし不経済である。ということでB級品とかアウトレットとして販売される(前の項で紹介したVIC FIRTHの動画でも、選別落ちしたが普通に使える材料をセカンドブランドのNOVAに流しているという趣旨のことが説明されている)。また製造工程に職人的技術を用いている(たんに「機械でなく手で作業している」というのではなく、熟練が必要な作業が含まれている)場合、熟練した職人を育てるには熟練していない職人に経験を積ませることが必要不可欠なので、その機会を提供する場としてB級品市場を利用しているところもあるかもしれない。ただしメーカーによっては、ぜんぜん関連がわからない別のブランドで売っていたりもするので、精度や熟練技術を追求しているところ全部がセカンドブランドを設置しているわけではない。

あとはまあメーカーごとにコダワリみたいなものもいくらかはあって、ヤマハは独自路線を貫きたいみたいだし(昔はデッドコピーみたいなのも作ってたのにね)、トーカイはレスポールシェイプこそ木工の極みみたいな気迫が感じられるし、フェンダージャパンは「なんだか立場微妙なんだけど使えるものは使っとくか」的なノリがどことなくあるし、KORG(Vox)はいつも通り面白機能を詰め込むことに夢中で他の事をあまり考えていない(ように見える)。そういう部分で気に入ったところがあるなら肩入れしてみるのも悪くない。余談になるが、情報提供という面ではJensenも気合が入っており、カタログ表示はもちろんウェブサイトにはトーンチャートまである・・・と思ったらこれ「手弾き」のようだ。録音して流しちゃえばよさそうなものだが、筆者はこういうメーカーは好きである(同社のトーンジェネレーターも、使ったことはないし中身も知らないが、見た目から「中に人がいる」気配がヒシヒシと感じられる)。資料としても面白く、機種名を見ずにクリーントーンが気に入ったものを拾い上げてみたら、なぜか全部10インチだった(並べて比べなきゃ自分にそんな好みがあるなんて普通は気付かない:ただし当然、違うギターで試したら好みが全部12インチなんてこともあり得るだろう)。

まあグダグダ考えたところで実際の製品を手に取って値札を見てみる以上の検討材料は他にないわけで、手に取って気に入って買ったものが後から考えるとイマイチだったなんてことも普通にある。しかしだからこそ、自分が「いいな」と思ったモノを自分で選ぶことが重要なんじゃないかと思える。どうやってもコケるときはコケるので、コケたときに惨めにならない選び方をしたい。

高級品について

普通の性能のエレキギターは2~3万円くらいで入手できるという話を紹介した。万全の品質を求めても、ストラトタイプで6万円、レスポールタイプでも10万円くらい出せば手に入るだろう(一般に人気のある仕様のもので、自分と自分の環境に合った仕様と個体を選ぶ眼がちゃんとあれば)。そこから先は道具としての機能や性能を論う領域ではなく、純粋に好きか嫌いか気に入ったか気に入らないかの問題である。

筆者の場合、高級品に求めるものといえばクラフトマンシップである。高い技術を持った人が気合を込めて作ったものというのは、近くに置いてあるだけで気分がよい。筆者は定型詩の創作をごく真面目にやっており、若くて元気だった頃は紙や筆記具もそれなりのものを使っていた(家では満寿屋の半美濃11番、出先ではコクヨの天糊ケ-30Nに、セーラーのカードリッジ万年筆、インクは群青、と言って通じる人がもしいたら嬉しい)。チラシの裏に新聞屋が持ってきたボールペンでも字は書けるし、それでいいものを作る人も世の中にはいる。しかしそんな話は筆者の知ったことではなく、ただ自分が価値を認めたモノが要求していた費用を払っただけである(使うのをやめたのは費用が惜しくなったからではなく「ちゃんと使える環境」を用意できなくなったから:今の方がお金は持っているので、買おうと思って買えない訳ではないが、本当にいいものを粗末にしか扱えないと自分がヘコむ)。

まあ筆者の個人的な思い入れは脇に置くとして、コストが何に使われるのかという問題はどんな製品にもある。たとえば1万円の財布と10万円の財布を比べた場合、紙幣や硬貨を収納して運搬する機能や性能については、おそらく大差はない(10年くらい使えば差が出てくるかもしれないが、高級品が案外華奢な作りだったなんてことも普通にある:というか「耐久性なんて無視」という大胆なデザインを採用しやすいのは、機能や性能を超えたところで価値をアピールできる高級品の方である)。差額の9万円は、価値を感じない人には無意味だろうし、価値を認める人にも実は大した問題ではない(本当に欲しければ価格が15万円でも20万円でも手に入れるだろう:1000万円の財布とかもあるので、経済的な事情により頑張っても手に入らないラインというのは存在するが)。自分で認めた価値だからこそ他の出費を削ってでも手に入れるし、場合によってはより一生懸命働く励みにもなる。

もちろん、必要な性能や機能が「一般的」な範疇にない場合、あるいは限界まで追求することに何かしらの意義がある場合、必要なものを求めたらたまたま価格が高くなるということは普通にある。たとえば筆者はypptsサーバをEPSONのEndeavor NP11-V(ディスプレイなし新品で3万円しなかった)というネットトップパソコンで運用している(その前はジャンクで3000円のIBMを使っていた)。非常に小さく動作音もほとんどせず、自宅で24時間運転するのにこれ以上の機種はないのではないかと思う。しかしもし、同じようなことを仕事でやれと言われたら、この機種は(可能な限り安く上げろと言われたら候補に入れるが、少なくとも自発的には)使わない。スペックに(筆者が現在やっているようなことを似たような規模でやるなら)不足がないことは知っているし、上手く使えば99%キッチリ動くことも知っているが、99.9%の信頼性を得られるハードが他にあることもまた知っているからである。で、そういうハードを使おうとすると、まあだいたいの目安として信頼性が一桁上がると値段も一桁上がるくらいの見当になる(ちなみにこれを力技でひっくり返したのがGoogleで、ハードに90%の信頼性しかないなら3重に冗長化すれば99.9%の信頼性になるよね、という素朴な発想をホントに実践してしまった:この方法だとハードへの投資は安く上がるが、電気代も3倍なら置き場所も空調の規模も3倍でメンテナンスの頻度は多分10倍くらいになるため、簡単に実行できるわけではない)。

値段が高いものを使えばそれで(安心感は得られるかもしれないが)信頼性を上げられるわけではなく、目的に合った仕様が適切に実装されたものを選ぶことが大切なわけで、その結果費用がいくらになるかは世間の情勢と探し方による。たとえば上記の前提なら、筆者は多分OSにFreeBSDを選ぶ。FreeBSDは使うだけならタダである(仕事に使うなら、他のOSを買うのにかかる費用の何割かくらいは寄付しましょうよとは提案してみる)が、トータルの信頼性や運用継続性で他のOSにそう大きく劣るとは思わない。反対にハードウェアの場合、精度を求めると工数や歩留まりを直撃するので、値段が高いと精度がよいとは限らないが精度がよいものは値段が高い。最終的な判断には、運用上必要な(というか求めて実利がある)精度はどの程度なのか、それを得るためにどのような選択肢があるのか、実装にどの程度の実績(とデータ)があるのか、といったことを理解して取捨選択する必要があり、ぶっちゃけ専門家の領域にかなり近い(というか、実際にそれを仕事にしているのがシステムインテグレータと呼ばれる人たち)。

仕事で使うという話が出たが、プロが使う道具というのは一般用とは少し違う。たとえば筆者はパソコンを使って仕事をしていた頃、キーボードには相当こだわっていた。なにしろ毎日1万字(本職のキーパンチャーに比べればたいした量ではないが)のタイピングを、ときには腱鞘炎で腫れ上がった指を氷水で冷やしながらやるのだから、手に合わないものは使っていられない。雇われになったときもキーボードだけは自前のものを持ち込んだ(CRTディスプレイも持っていこうとしたらさすがに怒られた:当時の液晶ディスプレイは、10時間ぶっ続けで凝視するにはちょっと刺激が強かった)。といっても別に高級品を使っていたわけではなく、ラバードーム+メンブレンスイッチ、日本語配列、電源スイッチやスリープスイッチなし、ファンクションキーはF12まで、デカいリターンキー、凸字配列のカーソルキー、その上は左上から順にinsert,delete,home,end,pageup,pagedownの6つだけ(もっと上にpauseなどがあるのは可)、テンキー付き、PS/2接続、といった条件を全部満たそうと思うと安物の方が選択肢があった(REALFORCEの106Sだけはちょっと欲しかったが、買い置き分が壊れたらと思っているうちに結局買わずじまい)。スペアは常に用意していた(キーボードとは関係ないがアナログモデムもサービス終了まで持っていた)し、パームレストも4つ(キーボード手前、マウスパッド手前、両肘)使っていた。モノが変わって鋼の包丁なども、扱いがモロに出る道具なので仕事に使うには適している(粗い仕事をしているとまず包丁が曇ってくるし、鋼の包丁をキレイにメンテしている人は他のコックからも一定の敬意を受ける:気持ちや体力に余裕がなくなってついうっかり、というのが大きな事故や火災に繋がることもある職場なので、自分の仕事が反映される道具を持つことにはメリットがある)が、あんなメンドクサイものを家で使う気にはならない(あくまで好みの問題なので使っている人もいる)。モリブデンステンレスの牛刀なんかは、軽いし研ぎやすいし家で使うには便利である(研ぎやすさを求めている時点で「普通の」選択基準とは少し違う気もするが)。

ということで、自分でモノを選べる人に他人があれが良いとかこれが悪いとか言っても無駄であるし、また選べない人には機能や性能が普通なものを勧めておけばとりあえずの問題はない(選べるようになったら自分で選べばいいだけだし、ならなかったら普通のモノを手に入れたのが結果的に正解になる:仕事でなく趣味でやっている限りにおいて、別に選べるようになった人たちが優秀なわけでもとくに幸運なわけでもなく、たまたま「オレのハートにストライク」してしまったから仕方なく(というのも変だが、実際ほかにどうしようもなく)惚れ込んだものを追求しているだけである)。このページではそういう考えに従って楽器や機材の紹介をしている。

余談になるが、コストの使われ方でなく使い方を考えると、効率の良し悪しがないわけではない。たとえば筆者の学問の師は「ぶら下がりの服に10万円払う人がいるのは信じられない、仕立て屋に行けば上等の物が作れるのに」という趣旨のことをおっしゃっていた。自分が求めるものが明確なのであれば、それを効率よく入手できる方法は検討してみた方がよい。生粋のコレクターというのはまた違った人たちで、ギターコレクターの王様ジェフベックは、気に入ったギターは弾かずに保管しておくらしい。またこれは言葉の綾なのだろうが、たまに「安物のギター」が「オモチャ」と表現されているのを目にする(トイギターのように扱うべきものという意味なのだと思う)。しかし実際、ギターにしてもアンプにしてもイフェクタにしても、オモチャとして面白そうなスペックのものはそんなに安くなかったりする(凝ったギミックが積んであることが多く、またイロモノ機種はそんなに大量には売れないので仕方ない)。

オマケ(エレキギターの人気)

エレキギターってどのくらい売れてるものなのだろう、と思い調べてみたことがある。ウェブで見つかった資料としては東京経大学会誌 第 278 号ヤマハ・エレキギターの市場戦略というのがあって、78ページに国内市場のグラフが掲載されている。

国産エレキギターの売り上げ台数は70年代末から2000年までほぼ横ばいで20万台くらい、輸出は80年代に30万台近かったのをピークにジリジリ減少して10万台を切る。92年が底で98年でピークになる売り上げ回復では輸入ギターが主役になったようだ。もっと新しい数字としては、2011年の輸入台数が39万3515台(それまでの最高は06年の38万1514台)だったらしい。大雑把に言って、2000年代の日本では毎年40~50万台くらいのギターが売れていたのだろう(中古は含まれていないため全体像はなんとも)。

なお、毎年同じ台数のギターを作り毎年一定の割合で廃棄されていくと仮定すると、ある年に現役のギターの台数は年あたり生産台数が初項で残存率(=1 - 廃棄率)が公比になる等比数列の和で表され、項数が大きくなると生産台数÷廃棄率に収束する。つまり、50万台作ったものが毎年半分づつ廃棄される(廃棄率50%=0.5)と世の中には100万台くらいのギターが現役で残る(少なくとも単純計算上)。いったん作られたギターは半々で数を減らしてゆくわけだから、50万台作られたうち5年後まで現役なのは15000台ちょっと、10年後には500台、20年でゼロになる。廃棄率を4分の1くらいに想定すると、世の中に200万台くらいのギターが現役で残り、うち10年前のギターは3万台弱、20年で1500台くらい、30年で90台弱、40年で5台、10~20年前の合計は10万台くらいになる。まあ、1年前に作られたギターが翌年に廃棄される割合と、10年前に作られたギターが翌年に廃棄される割合は多分同じでないので、ちょっとした数字遊び程度に。

考えてみると、若いときにエレキギターが人気でなかった世代、プレスリーが活躍し始めた50年代末~ベンチャーズ(62年と65年)やビートルズ(66年)の来日時期に20歳くらい=30年代末~40年代中盤生まれより前の世代では、あまり人気の高い楽器ではないだろうから、エレキギターを購入する見込みが高い世代の上限もその辺だろうと思われる。1945年生まれの人が2010年に65歳だから、若い人だけの楽器とは言えなくなっている。

その後アコギのブームがあってまたエレキが人気になったのが80年前後、このとき20歳くらいだった人たちは2010年に50歳。90年前後にまたブームがあってそのときの世代が2010年に40歳くらい。この後は「若い人といえばみんなギターを持っている」というほどの大ブームは起きなくなる(趣味の多様化ってやつだね)。反対に考えると、日本で一番エレキギターが好きなのは、45~50年と60~75年生まれくらいの世代だと言えそうだ。

そういえばリハスタのラウンジなんかでも、若い人はもちろん多いのだが、エレキギターを持った40~50歳くらいの男性をけっこう見る(話を聞いてみるとクリームなんかが好きだという人が多いので、ブームに乗っていた人たちというよりはマイナー趣味を貫いている人たちなのかもしれない)。若い人に受け入れられることはもちろん喜ばしいとだが、オッサンの趣味としても末永く愛されて欲しいものである。



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