エレキギターの調整や扱い方について、言及が少なさそうなものを中心に。何度も断っているが、筆者自身のギターの腕前は「初心者以前」レベルなので、そのつもりで話半分に。
以下、固定ブリッジ、各弦独立サドル、アジャスタブルポールピースなどを備えた機種(ようするにギブソン系の、レスポールとかSGあたり)を想定した記述が多いが、いちいち断らない。楽器や機器の選択を含めた荒っぽい紹介は一足飛びの無駄なく始めるエレキギターのページにある。
好みもあるのだが筆者は、弦高>弦長(オクターブチューニング)>ピックアップの高さと傾き>ポールピースの順番をオススメする。いちおう補足しておくと、弦高はフレットの頂上から弦の下端までの隙間(当然フレットによって異なるし、同じフレットでも弦によって異なる)、弦長は張られた弦のナットからサドルまでの長さ(またはナットから12フレットまでの長さの2倍)、ポールピースはピックアップの部品(可動式でないものもあるが、ここでは考慮しない)を指す。
作業の前に、もしネックの調整(初心者なら楽器店に相談するのが無難:調整後ある程度の期間使い込まないと状態が落ち着かないので覚えておく)が必要ならやっておき、常用する弦を(常用するチューニングで)張ってある程度弾き、調整対象でない部分を安定させる。
また、弦を張り替える前に、指板に指板用オイルを塗る、ナットやサドルに潤滑剤(鉛筆またはシャープペンの芯をヤスリで粉にしたものが安価で手軽)を添加するなど、弦が邪魔になる作業をまとめてやっておこう。
まず弦高に手をつけるのは、弦長やピックアップとの距離が変わってしまうため。サドルの両端にあるネジを回して上下させる。弦を張ったまま調整する人、弦をゆるめてやる人、サドルを上げる調整だけ弦をゆるめてやる人、といろいろ流儀があるが、やりやすいようにやればよろしかろう。サドルを動かしたら(弦をゆるめた人はチューニングを戻して)全弦で1音くらいのチョーキングをやり、改めてチューニングしてから状態を確認する(最終調整ではチューニングがバッチリ安定するまで弾いてから再確認するのが無難)。
サドルの高さ調整について知っておくべきこととして、弦長との絡みがある。ナットの高さが同じなら、サドルが高いほど弦長が長く、サドルが低いほど弦長が短くなる。オクターブチューニングを保てるよう、セッティング可能な範囲を最初に確認しておくとよい。
ナット側の調整はちょっと大掛かりになるし、自然磨耗で溝が深くなる分の余裕も計算しなければならないので、自信がある人だけ手を出せばよいだろう。1フレットの弦高についてもいろいろなことが言われるが、筆者の理解としては「2フレセーハで1フレに弦がギリギリ触れる高さ」が下限である。もしこれより低いと、2フレセーハに余計な力が必要になってしまう(場合によっては「1フレと2フレを同じ力でセーハできる」ところまで持っていくのも手かもしれないが、初心者向けではないと思う)。
ビビリのチェック方法として、単弦を連続でピッキングしながらゆっくりとフレットを押さえていく手がある。最初はミュートの音が出て、しっかり押さえた状態では普通に押弦の音が出るのは当然だが、その中間にビビリが出ることがある。もしアタックの瞬間だけのビビリなら、右手がフレットと平行なピッキングをしていないのが原因だろう(Rがキツイ指板だと完璧にやるのは厳しいが、音色に溶けるなら気にしない方がよいと思う)。もし音が消えるまでずっとビビリが続くなら「押さえたフレットとサドルの間のどこかで他のフレットが弦に干渉している」ということなので、耳で問題箇所を特定しよう。
持続的なビビリは、普通、押弦したフレットの頂点とサドルを結んだ直線に他のフレットが触れている場合に出る。その原因を考えると、サドルが低すぎるか、押弦したフレットが他のフレットと比べて低すぎるか、ビビリの出るフレットが他のフレットと比べて高すぎるということになる。サドルが低いだけなら調整は簡単(そしてたいていはこれが原因)だが、フレット単体で高さが合っていないならフレットのすり合わせが、ネックが逆反りして7フレット周辺が出っ張っているならネックの調整が必要になるだろう(楽器店などに相談するのが無難)。
注意点として、このテストには弦のたるみ(どんなにテンションが強くても、弦に質量がある限り少しはたるむ)が影響するため、普段演奏する構え方で行う。たるみの影響はギターを上に向けるほど強くなり、極端な例として、ギターをラップポジションに(=膝の上で表板を上に)するとかなりビビリやすくなる。もし力を込めて押弦するとビビリが消えるなら、テンションが上がってたるみが減ったのが原因だろう。また、フレットの近くを押さえないと「押弦したフレットで」ビビリが出るのでいちおう注意。
ローフレットほどサドルの高さが効かないのと、ナットに近く押弦に強い力が必要になるため、1フレットを微妙に高く、2フレットをごく僅かに高く調整することもあるようだが、凝った調整なので専門家に任せるのが無難だと思う。
「弦高を上げるとテンションが上がって音色にハリが出る」という主張があり、間違いではないもののちょっと注意が必要である。またナットの形状により開放弦の音色が変わるが、それはまた別の問題なのでここでは扱わない。
話を簡単にするため極端な例で考えてみよう。指板から弦までが10cmで平行(つまりナットとサドルがともに10cmの高さ)なギターがあったとする。このギターに高さが10cmよりわずかに低いフレットを打つと、結局弦高は非常に低くなり、開放弦とフレットを押さえた状態でだいたい同じテンションになる。もしフレットを非常に低いものに取り替えると、結局弦高は非常に高くなり、フレットを押さえたときのテンションは開放弦に比べて相当高くなる(奏者の指は刃物のように細く、弦は決して切れないものとする)。
この状態ではナットとサドルのちょうど中間にフレットを打っても、開放弦の1オクターブ上の音が出るとは限らない。なぜなら、テンションが上がって弦長も伸びているからである。一般的には、フレットからサドルまでを長くする(サドルを下げる)調整が必要になるだろう。ナットとサドルの中間から離れれば離れるほどテンションは上がり、サドルに近付くほど弦長の変化が大きく作用する(簡単な三角比で計算できるが省略)。
つまり、弦高を上げてフレットを打ち直さずに12フレット基準でオクターブチューニングすると、ローフレットを押さえた音が微妙にシャープする。または、弦高を下げてフレットを打ち直さずに12フレット基準でオクターブチューニングすると、ローフレットを押さえた音が微妙にフラットする。これが「音色の変化」とか「フレット音痴」などと解釈されている例が多いのではないかという気がしてならない。
弦高が演奏性に影響するというのは正しい指摘だが、ローフレットではナットの高さが、ハイフレットではサドルの高さがテンション(というか、弦をフレットに接触させるために必要な力)を支配的に左右し、ビビリにはサドルの高さとフレットの精度(や磨耗)が大きく影響することを覚えておきたい。
ローフレット中心の演奏なら、ナットは微妙に低め、サドルはやや高めがラクだと思われる。ハイフレットの演奏性はサドルが高すぎると損なわれるのでトレードオフになるが、低すぎると右手に要求される精度が高くなる。ナットよりもサドルの方がかなり高いので、12フレットくらいよりもハイフレットになるとナットの高さはあまり影響しない(というか、ノーカポでも1カポでも大差なくなる)。ナットの高さが強く影響するのはせいぜい5フレットくらいまでだろう。
5~12フレットあたりは、テンションを云々するよりも弦とフレットの距離(純粋な意味での弦高)が問題になりがちで、好みが強く出るだろう。サドルの方が高さがあるし、ナットを大きく下げるのはムリがあるので、ここを低めにする場合サドルの高さに限界があるだろう。
ラフなピッキングでビビリを出したい場合やプラッキングを交えたい場合は、ある程度サドルを低くしておく必要がある。ナットは基本的に、開放弦での1フレット頂点と弦の間隔と、ローフレットでの押弦に必要な力に強く関与する。
いわゆるオクターブチューニング(イントネーションとも)。サドルのネジで調整する。一般的には12フレットの実音とハーモニクスを合わせるのだが、念を入れる場合開放弦と1フレットとポジションマークのあるフレット(徹底的にやるならもちろん全フレット、数を減らすなら1フレットと6フレットと18フレットあたり)の実音も確認しておいた方がよい。
というのは、ネックの状態、フレット位置の狂い、フレットの磨耗による高さの変化などによって各フレットの音程が微妙に異なるため。どこか1箇所でバッチリ合わせるよりも、いちばん狂いの大きいポイントが許容範囲に収まることを優先して、その範囲で12フレをできるだけ合わせるのが合理的ではないかと思う。これをやっておくとキッチリとチューニングしたときの音のまとまりがぐっとよくなる(平均律チューニングが前提)。
当たり前の話だが、セント単位で表示できるデジタルチューナーを使うと便利、というかほぼ必須。筆者は渡辺 成身さんのSoftTunerというソフトウェアチューナーを使っている。
筆者はリア(ブリッジ側)ピックアップのあたりを指弾きorフロント(ネック側)ピックアップのあたりを指かピック弾きというパターンが多く、指やピックと干渉しないよう、ピックアップを遠くしている。真似する人がいるかどうかわからないが、手順は以下のとおり。
ダブルコイル(ハムバッカー)ではまず、1弦を薬指で強くピッキングしたときリアピックアップが微妙に指に当たるよう調整し、低音弦側をそれよりも微妙に高くする。ツマミ類をフルテンにしたとき同じくらいの音量感になるようフロントピックアップも調整し、低音弦側を微妙に低くしておく。フロントピックアップのあたりを指でピッキングして干渉がないことを確認したら終了。近めのセッティングにすると出力は大きくなるが、押弦と開放弦やチョーキングなど、ちょっとした違いにデリケートな反応を示しがちになる。いづれにせよ指やピックに干渉すると弾きにくいし、ピックの場合ノイズもけっこう目立つので、当たらない高さにしておくのが無難だと思う。
ピックアップの高さが決まったら、各弦をそれぞれ鳴らしてみて、もっとも音量感の小さい弦のポールピースを上げてはまた鳴らして、バランスが取れるまで繰り返す。もし元気だったら、フロントとリアのバランスを再確認してピックアップの高さを調整し、さらにポールピースを動かして誤差を取り戻す。当然ながら弦が変わると出音のバランスも変わるため、細かい部分はどの弦を常用するのか確定してから調整するのが効率的だろう。
シングルコイル3発(ストラトレイアウト)ではまず、リアピックアップをいっぱいまで上げ、センターピックアップを低めにしておく(調整は後)。フロントピックアップを「フルテンでクリーンの高音域に濁りが出る手前」にして、高低のバランスは「フルレンジ感」を基準に取る。リアはバランスが崩れない範囲でできるだげ高く。その状態でセンター+リアを選んでセンターピックアップをイジり、高音域がもっともよく通る高さを探す(ラップポジションにして右手でピッキングしながら左手でネジを回すとラク)。フロント+センターを選んでローが効く高さを探し、センター単独で大きくバランスが崩れていないことを確認する(あまり酷かったら低音側で調整するが、枯れた音色になるのはむしろ歓迎)。最後にセンターとリアの間(とくにセンターとセンター+リア)を往復して、音色にしっかりメリハリがついていることを確認する。
手元のストラトもどきでは、フロントがやや高めで低音弦側が微妙に低く、センターは高音弦側がかなり低く低音弦側はやや低め、フロントはいっぱいまで上げてほぼ水平。出音はこんな感じ。フロント>フロント+センター>センター>センター+リア>リアで、フルテンクリスタルクリーンとクリーンとハイゲイン、ボリューム8フロント8リア9クリーンとハイゲイン、ボリューム8フロント6リア9ハイゲインの順。いい感じにヘタったROTOのRedをピックボーイのJ-120で鳴らし、GDI21のツイードクリーンとマーシャルホットだけ通した。
なお、ポールピースの中心と弦の中心のずらし方でも出音が変わるのだが、ギブソンタイプのサドルだと調整が難しい。ストラト風の6wayサドルなら、微調整くらいはやろうろ思えばできる。まあどちらにしても、サウンドが大きく変わるほどの調整やピックアップ間でバランスを変えるような複雑なセッティングはムリなので、あまり気にせず他の部分でやりくりした方がよさそうに思える。
この作業をクリスタルクリーントーンで行うかお気に入りのアンプのお気に入りトーンで行うかは好みが分かれるところだが、筆者は音色をコロコロ変えるのでクリスタルクリーンでやる。なお、ポールピースの真上に弦があると基音成分が抜けやすく、ずらすといわゆる太い音になりやすいのだが、この調整はちょっと大掛かりになる(弦がポールピースの真上にあると、弦が右へ動いたのと左へ動いたのを区別できないため、ピックアップからは振動数が倍になって見える)。
なお、おそらく磁気的な干渉を作る有効長が伸びるためだと思うのだが、ピックアップが遠いとハイが削れる。音色作りの有効な手段になるので覚えておきたい。
音色の制御や演奏感の変化に関すること。好みが強く出るのでこれといったセオリーはないが、こうするとこうなりやすいという原則のようなものを。
筆者は(見た目が)あまり好きでないが、フォームによっては便利。
ナイロン系の素材は扱いやすく長さ調整がラクで調節可能な範囲も大きいが服によっては滑りやすい、皮革系(フェイク含む)は滑りにくく見た目がカッコイイが長さ調整が(本皮は手入れや収納も)面倒、といった傾向はあるが、結局は好みなのでいくつか試してみるとよい。また、あまり細いと肩に食い込むので、重いギターを使っている人は注意。筆者は、パッド(クッション)つきのナイロンストラップが好き(滑りにくいし扱いもラクだしクッション性があって肩がラクだが、長さの調節範囲が狭い:荷重がかかる部分がV字に食い込むと意味が薄れるので、購入するときは実際に身につけて試した方が無難)。
長さについては、最短が100cm前後、最長が150cm前後のものが多い(多いだけで、スーパーロングと称する最長200cmオーバーのものや、最短が80cmとか120cmくらいのものもある:ミニチュアギターとかならともかく、普通のギターだと片方の肩だけにかける変則的な使い方でも、80cmより短くすることは多分ないと思う)。必要な長さは体格やギターの形状やフォームなどによって異なるため、はじめて試す場合はとりあえず一番安いのを試すとか、リハスタなどにメジャーを持っていく(レンタルギターには普通ストラップがついている)といった方法で自分に合うサイズを把握しておくとよい。
エレキギターの場合、ストラップピンは最初からついているのが普通なので、それを使うのが無難。たまに話題になるヘッド落ちだが、普通のフォームで弾いている限りイマドキのギターにはあまり関係ない(手元のレスポールもどきとSGもどきで試してみたが、ギターが地面と平行になるくらい寝かせてかつTシャツにナイロンストラップという条件でしか滑りは生じなかった:体型(なで肩とか怒り肩とか)との絡みもあるし、踊りながらでないといいノリで弾けない人なんかもいるだろうから、まったく無視できるとは限らないが)。どうしてもヘッドが落ちる場合は、アコギ風にナットの上で吊る手もなくはない(長めのストラップが必要)。
足台はどうしても必要なものではないが、あると座奏時にフォームの選択肢が広がる。購入する場合は靴を履いたまま使うのか脱いで使うのか確認しておこう。筆者自身は、出先で靴のまま使うもの(アルミ)と、自宅で靴を履かずに使うもの(スチール+ゴム張り)の2台用意している。代用がききやすい道具なので、必ずしも専用品でなくてよいかもしれない(足台つきの演奏椅子なども市販されている)。
使い方はいろいろで、右足に使う場合もあれば左足に使う場合もある。実際筆者も、レスポールもどきを弾く場合は左足にしか使わないが、SGもどきを弾く場合は右足に使って肩でボディを挟む感じにすることがある(体格やギターの形状や演奏内容によって事情が異なる)。
椅子は演奏用のものでなくても大問題ではないが、ある程度高さがあった方が小細工をしやすい(もちろん、高さが可変だとさらに便利だし、座面が傾いているものを好む人もいる:筆者は四角い座面よりも丸い座面が好きだが、これもまあ好みの問題だろう)。
ソファがよいという人も一定数おり、筆者としてはけっこう意外なハナシ。例外的ではあるが、ストリート暦が長いアコギ弾き(筆者が知っている時代と地域のストリートでは、アコギを立って弾くのは「フォークの人」だけだった)には、エレキも地べたに座って弾く筋金入りの人がたまに(筆者が知る限り少なくとも2人)いる。ちなみに、フラメンコギターなどストラップをつけない前提のギターで立奏する場合に椅子を足台代わりにすることがあるが、自宅だと筆者はエレキでもこれをやる。
ギターの構え方で演奏性はかなり変わる。またすでに触れたように、体格やギターの形状(たとえばSG系のモデルはボディのくぼみがブリッジ側に寄っており、俗に言う「ブリッジが近くナットが遠い」配置になっている)や演奏内容によってやりやすいフォームが異なる。筆者がフォーム探しをする場合、4弦ルートのEbとEbm、6弦ルートのG#、5弦ルートのC#、5弦ルートのBb、6弦1フレ+5弦3フレのPowerFに5弦5フレの6thを出し入れするパターンなど、左手がツライ形をいくつか試して、うまく鳴るものの中から右手の事情に合うものを採用している。
多くの場合、座奏のフォームをまず探して、立奏はそれに準じる形で決めるとラクなのではないだろうか(Jeff Beckのように立奏オンリーの人もいるので例外はある)。どうしてもフォームがみつからない場合ギターレストという道具もあるが、あまり一般的ではない(さらにレアだが、クッションを挟んで机などにもたれかけることもないではない)。座奏で補助的にストラップを使うのも意外と有効(太った後のBB Kingがやっている:若い頃のLukeなど「最初は座っていても途中で立っちゃう人」もこのスタイル)。立奏用のオモシログッズには、K&Mのギターベルトクリップ14580などがあり、スクラッチパッドと呼ばれる(本来は保護用の)フィルムを裏面に貼って滑りにくくする人もいる。
参考までに代表的な座奏のフォームをいくつか(ただしエレキとアコギごちゃ混ぜ)。右足首を左腿に乗せ右の腿でギターを支えるPaco De Lucia風は見栄えがするが、右足に足台を使った方がラク(インギー様がこのパターン)で、完全に足を組んでしまう人もいる(押尾コータローや谷本光がこれに近い)。足台なしで右腿にギターを乗せるAl Di Meola風は、アコギでブルースを弾く奏者にも多い(Rory Blockや石川鷹彦、あまり座奏しない人だがJimi HendrixやLarry Carltonもこのフォーム:足台を使えばいいのに踵を上げて頑張るとEric Clapton風になる)。左足に足台を使うクラシック風はやはり合理的で、立奏でもこれに近いフォームにする人は多い(Bob Brozmanがやっているように、変な動きを多用したい場合にも便利)。ギターの形によっては足台なしでもやっている人がいる(Allan Holdsworthとか:ヘッドレスを使い始めた頃までは右腿に乗せていたようだが、座奏が増えてからは左腿に乗せていることが多い、と思う)。
ギターの場合、ベースと違って巻き弦とプレーン弦とのバランスを考慮しなければならない。どこのメーカーもプレーン弦の特徴はそれほど変わらないし、同じメーカーなら違うセットに同じ弦を使い回していることも多い。
たとえばハーフワウンドの弦は高域が弱く低域が強調された音色になるため、低音弦でベースを弾きながら高音弦でメロディやアルペジオを弾くと気分がよい。しかしクリーンやクランチで全弦ストロークなどをやると低音弦の響きが弱く感じる。また強く歪ませた場合は(もちろん歪ませ方にもよるが)ごっちゃりした響きになりにくく全弦ストロークもドッシリ鳴らせるいっぽう、中域のパンチが物足りなく感じることもある。ハーフワウンドやフラットワウンドは手触りが独特なので、そこでも好みが分かれると思う(筆者はラウンドワウンドが好き)。
いっぽうピュアニッケル(巻き線がニッケルメッキスチールでなく中までニッケル:歴史的にはこちらが先のはず)はハーフワウンドほど極端なキャラではなく、ドライブトーンの渋滞緩和やアルペジオの土台強化をある程度やりつつ、プレーン弦との落差もそれほど大きくしないで済む。ニッケル(比重8.9)の方が鋼(比重7.85前後)よりも重く柔らかい(巻き付けるときの変形が大きい)ため、同じ太さで芯線も同じならニッケルメッキスチールよりも重くなる(音高も同じにするとテンションが高くなる)。インハーモニシティが(テンションが高めになる都合で微妙に細いものを使うことが多く、結果的に)やや小さく高域の減衰が速いため、全弦ストロークや強い歪ませ方にも耐えやすい。
ニッケルメッキスチールのラウンドワウンド弦(ようするに普通の弦)は扱っているメーカーが多くバリエーションも豊富なので選択肢が幅広い。大手メーカー(コストパフォーマンスで考えると、同じ製品を大量に作っているところはやはり強い)の製品だと、ダダリオがリッチ、DRがリッチ寄りバランス、SITが中庸、ROTOがハイゲイン向きバランス、GHSがハイゲイン向きくらいの印象(ライト~ミディアムゲージの場合)。
ステンレスワウンドの弦もありプライトなトーンになるらしいのだが、筆者は試したことがない。ただ、硬い弦を使うとフレットが削れやすくなる(といっても、プレーン弦が同じならそう大きな影響はなさそうにも思える:めっき金属の硬度はめっき方法によって大きく変わるので、実際に一定期間使ってみて、めっきが剥げてくるのかフレットが削れてくるのかチェックするしかなさそう)。
なお、オマケで示したように、レギュラースケール(25.5インチ)とミディアムスケール(24.75インチ)に同じ弦を同じチューニングで張った場合のテンションは5%くらいしか変わらず、レギュラースケール(25.5インチ)とショートスケール(24インチ)の比較でも1割程度の違いなので、弦のゲージによる変化(半ゲージ変えただけで1割くらいは変わる)に比べると影響が小さい。
これはアコギでも同様だが、柔らかいピックだと極端な音量が(大小ともに)出しにくい。奏者の動きをピックが吸収してしまうためだが、まあやってみればわかる。反対に、薄くて柔らかいティアドロップのピックを長く持つと、ガチャガチャにストロークしても乱れがある程度緩和されるし、単音弾きの音量も揃えやすい。ようするに、柔らかいピックは均一な音量が出しやすく、硬いピックはコントロールの幅が広いといえる。発音タイミングについても、単弦弾きならしなりの少ないピックの方が細かくコントロールできるが、アバウトにストロークしてしまうならあまり影響しない。
では厚さの影響はというと、演奏感が変わる。手に持った感覚も違うし、先端の丸みも異なる(厚いものは滑らせるようなイメージ、薄いものは弾くようなイメージになりやすい:厚いピックの先端をヤスリで研いで使っている人もおり、筆者もサムピックは爪切りで切ってから削っている)。種類が多いので、まず好みの硬さ(というかしなり具合)を探り、その硬さを得られるものの中から好みの厚さのものを選ぶと効率がよいのではないかと思う。よくわからない人は、材質にもよるが、とりあえず1mm前後(またはHeavy)のものを試すのがよいだろう。
素材により音色もまあ変わるが、弾き方と好み次第なのでこれといったことは言えない(ピック先端の形状(厚さやトガり方)がより強く影響すると思う)。ごく弱いピッキングやストロークだとピックが弦に当たる音が反映されやすく、ピックの質を理解する助けになる。表面加工により滑りやすさ(指と弦の両方)やホールド感なども変わり、やはり好みや体質や気候などに左右される。材質により削れやすいものや、反対に弦を削りやすいものもあるが、弾きやすいピックを使うメリットの方がたいていは大きいので、大量に買い込むなり頻繁に弦を替えるなどして対応した方がよさそうな気がする。弦の種類によっても出音の印象がかなり変わり、やはり、弾きやすいピックを先に探してマッチする弦を後から探すのが効率的だと思う。
全体のシェイプは操作性に影響する。トライアングルとティアドロップのピックをいくつか重ねてみるとわかるが、大きく異なるのは指で持つ部分で、弦を弾く部分の形状は大差ない(ティアドロップの方が先端形状のバリエーションが多い傾向はある:というかトライアングルだと極端には細くできない)。筆者の認識では、大きさは関節の動きの制限に関与し、制限をキツくかけるほど安定しユルくするほど自由度が増す(人差し指も親指も第一関節がカッチリ固定されるトライアングルと、親指は完全に自由で人差し指もほぼ自由な小型ピックを比べるとわかりやすいと思う:ティアドロップや持つ部分だけ広くなった小型ピックは親指だけほぼ自由になる)いづれも人差し指の第一関節から先と親指を平行にするのが原則だが、人差し指の第一関節をやや伸ばし指の腹をやや親指側に向ける持ち方を併用する人もいる。。
具体的な製品では、FENDERの351 Shape(セルロイド)やFERNANDESのP-100SPS(ポリアセタール:コポリマーはジュラコン、ホモポリマーはデルリンという名前になっていることがあるが、これは多分コポリマー)あたりが「ハイレベルな無難さ」だと思う。前者はいかにもピックで弾いている感じの歯切れのよい音、後者は指弾きとのギャップが目立たない素直な音が出しやすいと思う。ウルテム(ポリエーテルイミド(PEI)樹脂の一種でアルテムとも)はナチュラルタッチを得やすい特徴があるが、製品のばらつきも出やすいようなので個体選別に念を入れたい。筆者のお気に入りピックについてはローコスト制作の感想コーナーにある紹介を参照。素材に関する一般的な情報については、KDAという会社の解説が詳細。
オーバードライブやディストーションで奇数倍音が豊富に出てくると、中域から高域にかけて倍音が微妙な周波数差でぶつかり、うなり(特定周波数での音量揺れ)を生じる。またギターのフレットは普通平均律で打ってあることを前提知識として把握しておこう。
パワーコードの場合、顕著な影響は出にくい(2の奇数倍と3の奇数倍は重ならないので、倍音同士の周波数があまり接近しない)。もっともうなりが小さい(速い)のはやはり純正律で、強い歪ませ方でもうなりが目立たない音色が欲しいなら、低音弦はハーモニクスチューニング(6弦5フレハーモニクスと5弦7フレハーモニクス、5弦5フレハーモニクスと4弦7フレハーモニクスを合わせる:弦同士が純正律の関係になる)しておくとよいだろう。まあ、平均律でやってもプラマイ2セントしか変わらないので大騒ぎするほどのことではない(オクターブチューニングを真面目にやればわかるが、2セントくらいならギターや弦の状態などで簡単に変わる)。
長短3度の音はけっこう激しくぶつかる(平均律と純正律の離れ方も大きい)。とくに基音の9倍音と長3度上の7倍音、基音の13倍音と短3度上の11倍音は、耳につきやすい音域に独特の響きを生む。たとえば6弦3フレのG(98Hz)と5弦2フレのB(123.5Hz)で和音を作ると、Gの9倍音882HzとBの7倍音864.5Hzがぶつかり、差し引き2.5Hzの周期でこの音域が揺れる。1オクターブ上で同じことをすると1764Hzと1729Hzがぶつかって5Hzで揺れる。またたとえば、2弦2フレのC#(277.2Hz)と6弦開放のE(329.6Hz)で和音を作ると、C#の13倍音3603.6HzとEの11倍音3625.6Hzがぶつかり、差し引き22Hzの周期でこの音域が揺れる。1オクターブ下で同じことをすると1801.8Hzと1812.8Hzがぶつかって11Hzで揺れる。
いわゆる「吼えるようなドライブトーン」はこの効果が強く作用したもので、アンプで太らせたクリーントーンでも(程度は異なるが)同様のことは起こる。細かく制御しようと思っても、弦自体のインハーモニシティ(高次倍音が高音側にズレる:ので単音でも吼えるようなトーンは出せる)も影響すれば、演奏中にチューニングも変化するし、弦同士の相互フィードバックも影響するので難しいが、変化を意識ないし把握して演奏するのはある程度有効な方法だと思う。
なお、ハーモニクス音をラインで出して電子チューナーで合わせる場合はリア(ブリッジ側)ピックアップを使わないと音量が確保しにくいので(レアケースだとは思うが)覚えておこう。
故障や破損を避けたり、寿命を延ばしたりするために必要な注意など。
とくに弦は汗がついたままにしておくと痛みやすい。指板やフレットも弦を張り替えるときに清掃するとよい。シールドを挿すジャックも、定期的に掃除するべき。ケミカル類は塗装などを痛めるものもあるので、楽器店で相談してから買うのが無難。普段の手入れなら布(楽器用のクロスでもメガネ拭きでもお好きなモノを)で乾拭きするだけで十分だと思う。
新品のエレキを買うと、ポールピースのネジ穴にワックスが詰まっていたり、トラスロッドの穴に粉屑が入っていたり、ピックガードにビニールシートが貼ってあったり、意外と手を入れるべきトコロが多い。筆者の場合、ピックガードやボディ裏の板を外してザグリの掃除までする元気はないが、気になる人はお好みで。
弾いた後に弦を緩める人もいるが、後述するように、筆者は長期保管でも張りっぱなしでよいと考えている(トラスロッドのないギターだとまた話も違ってくるかもしれないが、ソリッドギターには普通ロッドが入っている)。弦の張り替えは、念を入れるなら1本1本やるべきなのだろうが、筆者は1~3弦と4~6弦の2回にまとめてやってしまう(張り替え自体よりも、指板などの掃除がメンドクサイ)。
弦の鮮度について、新品の弦はチューニングが狂いやすいのである程度慣らせという人もいれば、賞味期限は最初の数曲で狂いも味のうちという人もいるし、倍音が鈍るまでヘタリを出してからが本領だという人もおり、結局は好みでしかない(筆者自身は、エレキなら普通に慣らした弦が、アコギなら新品弦が、ベースならヘタリ弦が好き)。
コーティング弦は寿命が長く便利だが、弦交換時のメンテ頻度も少なくなるので注意(たいていはプレーン弦にも長持ち加工がなされているが、それでも、プレーン弦の寿命がセットの寿命になる製品が多い)。メタルピックなどでガチャガチャやるとコーティングが剥がれることがあるのも覚えておきたい。また、弦アースが浮くと問題の出るギターではアースが浮かない弦を選ぶ必要がある(普通はプレーン弦で落ちる)。
ゲージの選択は好みと用途次第ではあるのだが、慣れないうちは極端な太さを避けた方が無難だと思う(太すぎても細すぎてもいろいろと問題が生じ、それを技術や運用で押さえ込む必要が出てくる)。ソリッドボディのエレキならとりあえずの経験として、ダダリオのEXL110、EXL110+、EXL120+を試してみるのもよいかもしれない。名前にREGULARとついているようにEXL110が普通のゲージ(ライト)で、EXL110+は「ミディアムだと太すぎるところを控えめにした」ゲージ、EXL120+は「スーパーライトだと細すぎるところを控えめにした」ゲージである(と筆者は解釈している)。
ダウンチューニング用に本来よりも大きなゲージの弦を張る場合、ナットの加工が必要になることがあるが、自信のない人は楽器店やリペアショップなどに依頼するのが無難(ついでにネックの状態も見てもらおう)。
弦の交換方法にも諸説あり、各メーカーの解説動画を参照してみたところ、マーティンの人は全部の弦で巻き返しを作ってから巻き、エリクサーの人は先に切っておいた弦の先っちょだけポストに突っ込んで巻いていた(両方鉄弦アコギ)。ペンチで折り目をつけてからポストに弦を通す人もいるし、弦を1本づつ交換する人もいる。巻き返しの有無を含め、多分好みの問題なのだろう。
なお、弦の太さが違うことからもわかるように、弦のテンションも左右対称ではなく、一般に、エレキでは2弦が弱く4弦と5弦が強い、アコギではプレーン弦と6弦が弱く5弦がやや弱い傾向がある(ダダリオなどはテンション表を用意してくれている:ダダリオのエレキ弦は5>4>6>3>1>2弦の順に、アコギ弦は4>3>5>6>1>2弦の順にテンションが強くなるものが多い)。アーム付きのエレキ用に、各弦のテンションを揃えたセットも売られている(SITやGHSの11-50セットやダダリオのBTシリーズなど)。
手に持って運ぶときはネックの根元を持つか、念を入れるならボディごと持った方がよい。ネックの先の方を持つとストレスがかかる(1度や2度やってしまっても大騒ぎする問題ではないが、常にやっていると寿命が縮む:どの程度の影響があるのか筆者は知らないが、少なくとも、スカーフジョイントのネックをナット周辺で持つのは精神衛生上よくない)。演奏後の弦は緩めなくてよいというのが筆者の考え。弦による引っ張りとトラスロッドによる反発力が吊り合った状態をまず作るべきで、それができないほど弦のテンションが高い場合、頻繁に弦を緩めたり張ったりすると多分ネックを痛める。
ケースはハードケース(ただし楽器の形にフィットするもの:たとえ純正品でも実際に自分のギターを入れてみて、衝撃や重みが強度の低い部分にかからないことを確認してから買うべき)がよいのはもちろんだが、なにしろ重いし高い。筆者としては、エレキならソフトケースでもまあいいだろうと思う(実際、ハードケースは持っていないし買う予定もない)。また、屋根のない移動手段(徒歩とか単車とか)を頻繁に利用する場合、防水性があった方が安心である。
しばらく弾かないときは、ソフトケースに入れたうえでギタースタンドに置くのがよいのかなという気がしている。スタンドはネックで支えるものでなく、ボディ裏で支えるものだと気分的に安心。もちろん、ハードケースを持っているならそれを使うのが順当。塗装やプラスチック部品などが日光で劣化するし、単純に埃も被るので、ソフトケースもなしでそのままというのは避けた方がよいだろう。当然ながら、極端な温度や湿度には晒さないようにする。
弦は緩めるとか張ったままというよりも、ネックの状態と相談するべきだと思う。ようするにネックが順反りも逆反りも(もちろんねじれも)しない状態を保てばよいわけで、ロッドのテンションに合わせて弦で調節する以外に現実的な選択肢はない(フルアコの場合トップ浮きの問題もありちょっとややこしくなるが略)。保管中も定期的に状態をチェックして、弦のテンションを調整してやることの方が重要だと思う(「こうしておけば放ったらかしで順反りも逆反りもしない」という保管方法はない)。
長期の使用でもしジャックに接触不良が出たら、できるだけ早期に修理した方がよい。その他の故障や不具合も早めに直すのに越したことはないが、接触不良があるとアンプなどを破損する可能性がある(アンプのゲインを上げたままプラグを抜き差ししているのと変わらない状況になる)。
これも結局好みだが、筆者は楽器の演奏よりも音声の加工や編集の方が得意なので、演奏が得意な人とは少し違った切り口で紹介できるかもしれない(できていなくても知らないけど)。
注意点として、アナログで大きな増幅を複数回かけると(スピーカ出力をしていなくても)ハウリングが起きることがあるので覚えておきたい。とくにオーバードライブ(アンプシミュレータ含む)やディストーションを重ねがけする場合は、マスターボリュームを絞ってから調整に入ることをオススメする。あわせて、可能なら超音波域の出力はフィルタでカットしておくのが無難である。
音痩せがどうのトーンの変化がこうのと大騒ぎする人が後を絶たないが、多くの場合、DIやプリアンプなどを活用すると問題にならないレベルにまで影響を押さえ込める。一般的なエレキギターはパッシブタイプのマグネティックピックアップを搭載しており、素の出力はインピーダンスがやたらと高いうえ信号レベルもラインよりは低い。このため、ちょっとムチャな扱いをすると簡単に劣化する。とくに、トゥルーバイパスと俗称されるタイプのバイパス機能は、アンプ(少なくともDI)を通してからでないと本来の働きをしないと考えた方が無難である(大型のループスイッチャーにバッファアンプ内蔵のものがあるのはこのため)。たとえばギター>イフェクタペダル3つ(すべてバイパス)>ドライブアンプと繋ぐ場合、ペダルが全部トゥルーバイパスであるより、全部バッファードバイパスである方が、信号の劣化もノイズの増加もはるかに少ないのが普通である。
ではDI専用機が必須なのかというとそんなことはなく、バッファードバイパスのペダル、ギター用のプリアンプ、ミキサーの楽器入力などに、アクティブDIに相当するものが(微妙に仕様が違うことはあっても)入っている。ローコスト制作の感想コーナーに波形データも用意したが、ベリンガーのペダルイフェクタに入っているバッファーアンプなどは実に高性能である。DI専用機が必要になるのは、ミキサー直結でかつ距離が遠くバランスで出したい場合や、リアンプ用のクリスタルクリーンをパラで分岐させたい場合などである。後でまた触れるが、DIとミキサー(とループセレクター)とリアンプ用データ記録装置を兼ねた機材として、デジタルMTRも有用である。
とにかく、ラインレベルの信号に変換(インピーダンスを下げて音量を上げる)しておけば、ハードワイヤー式(ようするに中で電線を直結している)のバイパスでも信号はほとんど変化しない(バイパススイッチ自体が出した切り替えノイズは当然抑制できないが、シグナルレベルが高ければノイズレベルが相対的に低くなる)。なお、パッシブDIは電源や音のクセの好みが問題にならないなら考慮しなくてよい。またDIに「リンクアウト」がついている場合、入力とパラになっているものではなく出力とパラになっているものが便利だろう。
信号レベルを決め打ちできると便利なので、できれば、プリアンプは入力レベルと出力レベルが独立で入力レベル(簡易的にはクリップサインでも)を表示できるものが望ましい(ようするにリミッター的な機能を要求していることになる)。プリアンプにクリップレベルの信号(ただし極端に大きくないこと)を入れながら、後段の機器で歪まないレベルに出力を調整しておけば、意図しない歪みが出たときの切り分けがラクになる(出力レベルは固定しておき、入力レベルで音量を調節する)。その意味で、楽器入力とヘッドアンプ用クリップサインがついたミキサーからFXバスなどで出すのも便利である(ストレートフェーダーがついている機種なら、操作性の面でも申し分ない)。後述するように、エクスプレッションペダル対応のマルチをプリアンプ代わりにしてしまうのも便利だろう。
エレキギターが複数ある場合も「初段にDI」でまずインピーダンスを下げてから混ぜたり選んだり分配したりといったプロセスに進むのが無難(コンパクトサイズでもデュアルチャンネルのラインナップはあるので、普通の人なら2台も用意すれば余るはず:ラックマウントのマルチチャンネルDIは、ギター用のものだとそこそこの値段になる)。DIを通してしまえば普通のアンプで増幅できるため、後ろにサブミキサーなどを置いて信号をまとめればよい(ボリュームが連動しても構わないならステレオアンプを使う手もあるが、クロストークには注意したい)。または、ギター入力が複数あるミキサーを使ってもよいが、ラインナップがあまり豊富でない(マスターボリュームをペダルで操作できる機種を作ってくれれば需要がありそうな気もするけど、どこかやってくれないかな)。
なお、コンパクトイフェクタやフロアイフェクタの類で「プラグの抜挿で電源がオンオフされる」機種には、ステレオプラグとモノラルプラグを間違えると反応しないものが多い。とくに、DI(の出力はバランスなので普通はステレオプラグで出す)からデジタルマルチやコンパクトイフェクタ(エレキギターを直結する前提なのでモノラルプラグでアンバランス受けする)に繋ぐ場合、モノラルプラグに変換しないと動かないことがある。変換方法としては、コールド(フォンならリング、最近の機器でキャノンなら3番ピン)をグランド(フォンコネクタならスリーブ、キャノンなら1番ピン)に落とす(ショートさせる)か、浮かせる(接続しない)かということになり、どちらが適するのかはDIの仕様によるので、説明書をよく読もう(アンバランス出力対応を謳っている機種なら、コールドをグランドに落とせばよいはず)。フォンでの出し入れなら、モノラルフォン<>モノラルフォンのケーブルで普通に繋げばコールドがグランドに落ちるし、ステレオフォン<>モノラルフォン2本のインサーションケーブルでスリーブ担当のプラグを未接続にすればコールドが浮く(あまったプラグにはキャップかなにか被せておくとノイズを防げるし安全)。
必須なのはアンプまたはそのシミュレータだけだろう。ディレイはあった方がよく、コーラスもけっこう使う。コーラス以外の変調系やワウは、使う人は使うだろうし使わない人はまったく使わないだろう。EQはアンプやミキサーについているし、本当に細かくやるならミキサーより後ろ(ラックイフェクタとかソフトウェアイフェクタとか)でやるのがスジなので、結局他のイフェクタの効きを制御する目的くらいにしか使わない(その目的だと後述のブースターの方が使いやすいこともある)。リバーブはスプリングだけあればよさそう(他はせいぜい欲張ってプレートくらい)。これも細かくやりたいならミキサーより後ろでやればよいし、マルチイフェクタならたいてい入っているので専用のコンパクトイフェクタは必須でない。というか、ディレイとコーラスがあればリバーブの出番はそれほど多くない。
プリアンプの部分は音量を操作できる増幅機器(ようするに広義の「アンプ」)と入れ替えてもよい。コンプを使うのも有用(リミッターとしても使える機種なら利便性の向上にも役立つ)だが、わりとトレードオフの多いイフェクタなので、使うなら慎重にやった方が無難。多機能なコンプをメインアンプ(ドライブアンプ)の後ろに入れてエンベロープシェイパーとして使うのは面白い選択肢。プリアンプに代えてオーバードライブという手もあるし、チューブスクリーマーと呼ばれる真空管アンプ用のプリアンプ(が本来だが現在はトランジスタアンプにも普通に使う)もある。アンプシミュレーターのクリーンチャンネルにウェーブシェイパー(原則として前の方に噛ます)として使えるものもある(筆者はGDI21にこの役割を兼務させている)。
音色があまり変化しないコンパクトイフェクタ形状のプリアンプは、クリーンブースターとかフルレンジブースターと呼ばれる(フットスイッチでバイパスできるのが普通:特定音域を強調するトレブルブースターやミッドブースターなどもあるし、歪み系のブースターもあればEQつきのブースターもある)。演奏中にゲインを細かく変えたい場合、ギター本体のボリュームを気合で操作するのでなければ、ボリュームペダルを使うことになるだろう。ハイインピーダンス対応を謳う製品が多いが、筆者としては、さっさとDIに通してからローインピーダンスペダルで操作した方が利口なのではないかという気がしてならない。アナログの可変ボリュームは扱いが面倒なので、デジタルマルチイフェクタを噛ましてエクスプレッションペダルで操作する案も有力(というかいちばん無難な気がする)。
基本的に、コーラスはポストドライブ(ドライブアンプより後ろ)でかけてステレオで出すのが便利である。ディレイも、アンプで強く歪ませる場合はポストドライブの方が使い勝手がよい(プリドライブでかけていけないわけではないが、コーラスほどはプリドライブの出番が多くない)。ということで、この2つはラックで(多くの場合はコーラス>ディレイの順で)かけるか、ディレイやモノラルコーラスならアンプのセンドリターン(イフェクトループ)を使うことになるだろう(たいていの機種ではマスターボリュームの後ろでセンドするため、シリアルならここでレベル調整できる)。
ドライブアンプより前に置くのはダイナミクス系が中心になるだろう。順序や組み合わせで音色を変えられるが、アンプ直結の音だけでもバリエーションは相当豊富で、結局ここに帰ってきてしまう人も多い。ペダルで歪ませてクリーンアンプ(orミキサー)に出す方法ももちろん有効で、アンプやキャビネットを決め打ちできない場合に便利。実機のチューブアンプ(初段が真空管増幅のもの)を使う場合、ペダルとアンプの間にリバースDIを噛ます案もなくはないが、筆者には、わざわざ機器を足してまでやるようなことではないように思える。
マルチを2台連発するのは意外と便利で、アンプやキャビネットのシミュレータが気に入ったものを後ろに置くとよい。普通のマルチから多機能ギターアンプに繋いだ場合も結果的に似た構成になるし、フロアマルチからラックマルチに入れるようなパターンもあり得る。コンプやコーラスやゲートをプリとポスト(=アンプ前とアンプ後)で使い分けたり、前段のマルチ(エクスプレッションペダル対応だと便利)をプリアンプ的に使ったり、クリーンアンプを重ねがけしてブルースクランチ(クリーンアンドラウド)っぽい音色を狙ったり、小細工がいろいろとできる。
マルチ2台なら前の方に1台置くのも面白く
ギター>マルチ>ペダル各種>マルチ>ミキサー
とすると役割分担を明確にできる。先のマルチはダイナミクス系(クリーンブーストとかコンプとか:ボリュームペダルがあると便利)とプリドライブ変調系を担当。ミドルレンジ以上の機種はDIも兼ねるものが多く、ほとんどの機種はチューナーとしても使えるはず。後ろのマルチはアンプとキャビネット担当で、ポストドライブの変調系なども(ラックやソフトウェアでかけるのでなければ)ここで。リズムマシンとしての機能もあれば練習用に都合がよいかもしれない。
引っ掛かりがちなポイントや悩みどころなどを挙げる。筆者はこうやっているという紹介が主になるが、好みや目的などによって適するやり方が変わるので参考までに。イフェクタの基礎的な理解についてはイフェクタを知ろうのページを参照。
フィードバック奏法の練習をする場合や大音量設定にする場合、耳や機器への危害がないことを確認しながら徐々に大きなボリュームを試そう。たとえばCELESTIONやEMINENCEやJENSENなどの大手メーカーがギターアンプ用にラインナップしている12インチ8~16Ωのスピーカは感度100db前後(たいていは大きな密閉キャビネットに入れて無響室で測定した値か、ごく大きな平面バッフルで測定した値だが、背面開放キャビネットに入れて普通の室内に置くとドンブリ勘定でだいたい似たようなレベルになると思う)で、これに1Wの信号を流して1mの距離でモニタすると「防音保護具なしの場合は最大暴露時間2時間/日」とされるレベル(100dbSPL)になり、40Wも流せば「防音保護具なしの場合は最大暴露時間15分/日」とされるレベル(115dbSPL)を超える(メルクマニュアルより)。
長時間の練習ではとくに「85dBを超える音に長時間曝される場合は防音保護具の使用が推奨される」(出典同上)という数字を目安にするのが無難だろう(上記の条件なら0.03Wで85dbSPL@1m相当、0.01Wで80dbSPL@1m相当:6.5インチ前後のフルレンジでも85dbというのは相当低い感度なので、普通の機種なら1Wまでは突っ込まずに同等レベルになるはず)。2013年1月現在筆者が知る限り、この危険についてしっかりとした情報を提供しているアンプメーカーはPEAVEY(たとえばVypyrのマニュアルでは、米国労働安全衛生庁 (OSHA)のデータを引用して説明している:スピーカユニットの定格表示などでも、RMS、PGM、PEAKを明示してある機種が多く、安全への配慮が伺える)だけで、ベリさんは言うに及ばず、フェンダーもマーシャルもローランドもKORG(Vox)も、マトモな情報を提供していない(2014年7月追記:フェンダーもSuper Champ X2のマニュアルでは注意を呼びかけていたのを見落としていた)。
他のコーナーでも何度繰り返したかわからないが、最大音量を考える上でより重要なのは、アンプのワット数ではなくスピーカの能率である。大きくて軽いものほど高能率な傾向があり、同じ用途や大きさのものでもそれなりにバリエーションがある。たとえばギターアンプ用の12インチ8Ωでは、EMINENCEの高能率モデルTHE WIZARD 8OHMが103dbなのに対して、低能率モデルMAVERICK 8OHMは99.44db、JENSENの低能率モデルC12R-8は93.8dbである。EMINENCEとJENSENでテスト条件がどこまで同じなのか確認できないが、少なくとも、MAVERICKに20W突っ込むよりTHE WIZARDに10W入れた方が音がデカいだろうことはほぼ間違いない。カタログ値が性能通り(ということは普通ないが、もし仮に)だとすると、THE WIZARDに3W流した方がC12R-8に20Wねじ込むよりも音がデカいはずである。
なおボリュームカーブは機種やメーカーにより異なり、音響機器全般についていうと、ボリューム全開に対しボリューム半分で10~20dbくらい出力が下がるものが多い(典型的な値としては、10、12、16、20dbあたり、大音量機器ほど値が大きい傾向がある:設定範囲が最小7時~最大5時だとして、3~9時くらいを(デシベルに対して)だいたいリニアに、大音領域の変化を穏やかに、小音量域は一気に絞る設計も見られる)。ギターアンプでどのくらいが主流なのかわからないが、たとえば最大出力100Wに対し16db絞ると2.5W、20db絞ると1Wの出力になる。もちろん、同じ出力でも距離が近ければ耳への影響が大きくなる。アンプから同じ音が出ていても部屋の特性で耳に届く音量が(多少は)変わるし、チューブアンプの場合真空管のコンディションによって同じ設定でも音量が変わるため、慣れている機種でも油断は禁物。
アッテネーターも注意が必要な機器で、たとえばマーシャルの公式FAQには
Q: アッテネーターを使用する際、注意しなければいけないことは何ですか?とある(個別の製品に関する情報は取扱説明書を参照:専用設計のアッテネーターを内蔵している機種では、上記よりも出力を絞れるものもある)。
A: まず、「アッテネーターはマスターボリュームではない」ということを忘れないでください。聴感上の音量を半分程度下げるに留めておくことが肝要です。アンプのボリュームを極端に上げ、今度はアッテネーターで極端に小音量にして長時間使用することはアンプの故障の原因にもなりますのでご注意ください。
Q: ソリッド・ステートのモデルにアッテネーターを使用しても問題ないですか?
A: いいえ。アッテネ−ターは、パワー部がソリッド・ステート(トランジスタ・タイプ)のアンプにはご使用になれません。アンプ、アッテネ−ター双方にダメージを与え、発火等の恐れもありますので絶対にお止め下さい。
輸入品では電源が問題になることもあるが、デリケートな問題なのでメーカーの指示(マーシャルは上のリンク先で詳しく説明してくれている)をよく読んだうえで、不明な点があればメーカーと販売店に相談しよう。また大電力を扱う機器なので、アース(接地)を浮かせることは(浮かせて問題ないとメーカーが言っている場合を除き)絶対に避ける。
電源を入れる順番(配線が正しくボリュームがゼロなのを確認するのが最初、パワーをオンにしてチューブが温まってからスタンバイをオン)などについては解説が多くあるので繰り返さないが、チューブが熱い状態で衝撃を加えると機器の寿命に悪影響があるので、動かすときは冷えるまで待った方がよいということを付け加えておきたい。フェンダーは「ラックに搭載したパワー アンプリファイアの場合は(略)ラックのケースからユニットを取り出す前にユニットを2分間冷却させてください」としている。プラグの抜き挿し時はボリュームをゼロにしてから行う(ゲインもある機種では、操作ミスへの備えも兼ねてゲインもゼロにすると安心)。またジャックやプラグに接触不良がないことはあらかじめ確認しておこう。スタンバイスイッチの使い方についてはいろいろなことが言われるが、電源スイッチがオンでスタンバイスイッチがオフの状態はヒーターだけ作動して真空管が作動していない状態で、少なくとも、あまりに長く続けると真空管が痛む(すでに温度が高い場合はとくに)。
電源投入時の待ち時間について、Marshallは「最低1分、できれば2~3分程度経ってから」(JPサイトのFAQより)、Fenderは「1分間ほど」(01年モデルTwin-Ampのマニュアルより)、Vox(KORG)は「2~3分」(AC30CCのマニュアルより)としている。電源を切る場合は、マーシャルの「音がでなくなったのを見計らって」というのを参考に、また「スタンバイスイッチを操作する際はツマミ類を0にする必要はありません」(JPサイトのFAQより)とあるが、急なハウリングなどを避けるため筆者はツマミを絞っている。インジケーターがある機種は、電源を切る前にランプが完全に消灯するのを目でも確認するとよい。いづれもアンプの回路や仕様によって事情が変わり、たとえばAC30のようにA級動作のものはAB級のものより無信号時の発熱が極端に大きいはずで、スタンバイスイッチもオンにして暖気する時間は比較的短くした方がよいはずである(きっと)。
休憩時にボリュームだけ落とすかスタンバイを切るか電源スイッチまで切るかについては、電源オンオフや再ウォームアップによるストレスと空ぶかしによる劣化のどちらが大きいかという問題で、やはり回路や使用部品によっても適する時間が異なる。Fenderは「休憩時に、アンプを切る目的でPOWERスイッチをOFFにする代わりにこのSTAND BYをご使用下さい(最長1時間)。これによって、再びアンプを使用する際、真空管の通常のウォームアップ時間が必要なくなり、真空管を長持ちさせます」としているいっぽう、Voxは「ライブで演奏するときなどに、[Standby]スイッチは演奏の幕間に真空管の温度を保つために、とても便利です」と利便性だけに触れており、マーシャルは「スタンバイ・スイッチを活用」「このスイッチを利用することにより真空管の寿命をのばすことができます」としか書いていない(出典同上)。
アンプの操作はギターを持たずに(アンプから離れたスタンドに置いて)、ギター本体のボリュームをゼロにして行うのが望ましい。高域でハウリングが生じたときに耳を直撃しないよう、ギターを持っていなくてもアンプの正面から顔を近づけるのはやめよう。ギター側のプラグはL字のものにしておくと、誤って踏んでも抜けにくく(ストラトのような斜めジャックの機種を除く)横からぶつけたときのジャックへのダメージも軽減できることが多い。
なお、パワーアンプ(に限らず精密機械)の置き場所として「スピーカキャビネットの上」というのは最悪に近く、機器の寿命が縮むだけでなく性能的にも不利で、とくに真空管を使ったアンプでは悪影響が強く出る。この悪影響(たとえばマイクロフォニック挙動によるフィードバックとか)を音楽的に活用したい場合もないではないだろうが、アンプを長く使いたいのであれば、セパレートのパワーアンプは振動の少ない場所に置いた方がよい。またコンボアンプをごく大音量で使用する場合、アンプ部にかなりのストレスがかかることを覚悟しておくべきである。
エレキギターをエレキギターアンプに直接繋いで音色を作るためのコツ。まずは「どんな弾き方をしても破綻のない範囲」を探そう。これは「楽器本来の鳴り」(という表現は胡散臭くて嫌いなのだが)を引き出すということに繋がる。
たとえば自分のギターにフロント(ネック側)ピックアップとリア(ブリッジ側)ピックアップの2種類が搭載されているとしよう。一般に、フロントは低音が豊富でリアは高音が豊富である。であれば、アンプのローはフロントで低音に埋もれずリアで軽くなりすぎない範囲、アンプのハイはリアで耳に刺さらずフロントで元気がなくならない範囲を目指せば「楽器の持つ音色のバリエーションを受け止められるアンプセッティング」に近くなる。破綻があるないと言うと難しく響くが、フロントピックアップを選べば低音が豊かなサウンド、リアピックアップを選べば高音が豊かなサウンドが楽しめる、という状況をとりあえず目指すわけである。音の扱い方に熟練すればするほど楽しめる音色の種類も増えるので、最初のうちは窮屈になりがちだが、すぐに慣れるはず。
もちろん「楽器の鳴り」自体が「奏者あってのもの」に違いなく、筆者(フロントを使ったりリアを使ったりミックスポジションにしたり、分厚いカーボンナイロンやらUltemジャズピックやらペラペラTortexやらをコロコロ使い分け、指弾きでは嘘スラップにプラッキングにラスゲアードセコもどきと、とにかく落ち着きがない)のように変な音を出すのが大好きな人もいれば、一定の弾き方で通すことにコダワリがある人もいるだろう。もし「自分はリアピックアップしか使わない」という信念の持ち主がいれば、リアの音こそが「その人が弾く楽器の音色」なわけで、使いもしないフロントに合わせて音作りを制限する理由はどこにもない(無視できる要素が増えれば増えるほど、ケアすべき要素を自由に設定できる)。いづれにしても、たとえば弱い音色が欲しいときに弱く弾けば弱い音色が破綻なく、甲高い音色が欲しいときに甲高く弾けば甲高い音色が破綻なく出てくる、という範囲を見つければ、楽器の音色を活かせる設定にかなり近付けるはずである。
この範囲を把握してしまえば、あとはその中でより気に入ったポイントに移動するなり、あえて範囲を外れて変わった音を追求するなり、自分の意図を反映する段階に進める。たとえ毎日使っているアンプでも、もしチューブアンプなら、この範囲確認は毎回やった方がよい。チューブアンプというのは個体差が大きいだけでなく、環境の影響を強く受け特性の時間変化も大きい(世の中にはチューブらしさが微塵も感じられない「フルチューブアンプ」もあるので、部品として真空管を使っていれば必ず必要な作業、というわけでもないが)。真空管が温まったらまず「今日の機嫌」を把握するのがよい作法だろう。
具体的な操作として筆者がやっているのは、フロントピックアップをフルテンにしてフラットピックで思い切りストロークして、先にハイ、次いでローを「暴れすぎる手前」に持っていく調整。「これ以上キツい音は出さない」という最大パターンで「ほどよく暴れる」ポイントを目指す意図でこうしている(リアピックアップでハイが強くなってもゲインが微妙に落ちる影響で耳には刺さりにくいし、うるさかったらギター本体のトーンで落とせる)。とくにクリーンアンドラウド方面の音作りではハイの絶対量を決め打ちする必要が(程度に差はあるが少なからず)あり、ギター本体のボリュームとトーン、アンプのボリュームやEQやプレゼンスやブライトスイッチなどを総動員して「必要十分な量の高音が得られて、かつ中域以下のコントロールが可能な設定」を探す必要がある。
誤解しないで欲しいのは、ピックアップの電気信号をそっくりそのまま再生しても(普通は)意味がないし、イコライザ(EQ)「で」音を作るのではなく音作り「に」EQを使うのだということである。単純にフラット再生したいならDIからミキサーに入れてスタジオモニタかPAスピーカに出した方がはるかに手っ取り早いし、そこからEQで音を作れるならラックでかけてやれば事足りる。それで済むならギターアンプの出る幕などない。奏者の演奏を楽器が受け止め、楽器の出力をアンプが受け止め、最終的に音色が出来上がるプロセスを助けるためにEQがある。
アンプEQのキャラについてはローコスト制作の感想コーナーにあるエレキギターアンプのページで触れている。フェンダーはベースとトレブルがシェルビングのブースターっぽく(最小だとノーブースト)ミドルは中域削り(最大だとノーカット)で、トレブルの設定がMID FREQ(トレブルを上げると作用周波数が下がる)のように振る舞うのとミドルカットで弱いブーストがキャンセルされる(ベースやトレブルが3くらいの設定だと、ミドルに巻き込まれて削れる)のが特徴。Vox(CCシリーズで言うスタンダードEQ、他のシリーズでインタラクティブEQと呼ばれているもの)は両方ゼロの状態が回路的にはほぼ平坦で、ベースを上げると低域のピーク周波数が下がりつつミドルのディップが深くなり、トレブルを上げると高域がシェルビングっぽく持ち上がりつつ低域が削れ、フェンダーと同様のMID FREQ効果も出る。マーシャルはVoxのベース+フェンダーのミドルとトレブルといった雰囲気で、ミドルを削ると低域が巻き込まれる。
ブライトスイッチorブライトネスは多くの機種で「高音だけボリューム回路を迂回させる」スイッチで、ボリューム最大だと押しても意味がない(効き自体はシェルビングイコライザっぽい感じ)。MID FREQの都合でトレブルを下げたときに代用で入れたり、ボリュームを下げるときのラウドネス補正に使える。プレゼンスは高域だけネガティブフィードバックを減らすものが多く、上げるとハイが強まるとともに荒っぽくなる。音量を下げて高域の荒れが減ったときに補ったり、プレゼンスを少し入れてトレブルを下げメリハリをつけるのに使える(穏やかな高音を大きめに出すか、荒っぽい高音を小さめに出すかという選択)。これにギターの出音やキャビネットの特性や部屋鳴りを加味してセッティングを決めていくのだが、低域は部屋の特性や設置位置や設置方法、中域は音量(というのは原理からすると反対なのだが結果的に)、高域はスピーカに面する角度と弦やギターの特徴が強く影響することを覚えておきたい。
周波数特性の意味合いは音量域によって変わる。トランジスタアンプやドライブチャンネルでもラウドネス(同じバランスでも、大音量になるとドンシャリ傾向に、小音量になるとカマボコ傾向に聴こえる)の影響は受けるが、顕著なのはやはりチューブアンプ(真空管をイフェクタ的に実装している機種では効果が出ないことがある)のクリーンチャンネルだろう。大音量設定(試すときは耳の保護に十分注意すること:耳栓やイヤーマフなどの着用を強く推奨する)で1弦3~5フレくらいの単音(周波数にすると基音が400Hzちょっと)を強く弾いてみるとわかるが、ボリュームを上げていくと、ごく高域の圧迫感というか刺さり具合というか、鋭さのようなものが一気に増すポイントがあると思う(歪みが増えるのもあるし、高域は耳に痛くなる閾値がわりとはっきりしている)。低域の厚みも、一定のレベルで頭打ちになり歪みが増えるばかりになる(スピーカユニットの特性が強く出る)。この音量域より上と下で、演奏に必要なアンプ設定は大きく変わる(本気のクリーンアンドラウドでは、暴れるハイを押さえ込みながら、追いついてこないローエンドにローミッドを被せ、中域のディップで隙間を作るような格好になることもある)。
その他の基本的な注意として、アンプキャビネット(スピーカ)は壁から離して設置しよう(固定設置のものを除く)。ギターの最低音(レギュラーチューニングの6弦開放)が82.41Hz(E2)で、音速340m/sとすると波長413cmだから、2.5mくらい離せると気分がよい。ハコの都合で仕方ない場合もあるだろうし、壁に密着させた音が好きだという人もいるだろうが、とくにチューブアンプでは「後ろが塞がっていない」前提で熱設計をしているものもあるだろうから、最低限火災の恐れがないことだけは確認しておこう。
筆者は音作りでも演奏でも録音でも「作業の流れ」や「引っ掛かりのなさ」を重視しており、簡易に済ませるところがいくつかあってもよいと考えている。最優先しているのは、プリアンプより前で大きなノイズを入れないことと、ドライブアンプ(マイク録りならキャビネットとマイクも)で狙った応答を得ること、あとは演奏自体である。
もちろん、それ以外の部分で作る音色が重要な役割を果たすこともあるのだが、常時気にした方がよいパートはせいぜい数箇所くらいだろう。筆者の場合、アンプシミュレータやキャビネットシミュレータの設定はかなり執念深く調整する。チューブスクリーマーにもそれなりに気を使うが、半分くらいは勘で決めてしまう。コーラスやコンプは「なし」「弱く」「強く」の3段階くらいでしか考えないことが多い。
繰り返しになるが、コンプのキャラやコーラスの質感が重要になる場面がないわけではない。しかし、そのような場面になってから「さあどうしましょうか」と考えても、実際には大した問題にはならないことが多いように思う。ケアできる範囲に限界があることを考慮して、重く扱うところと軽く流すところを分けておき、必要になってから再配分を検討するのが効率的ではないだろうか。
弦の張り替え、ピックの磨耗、爪や指のコンディション、温度や湿度など、楽器自体の出音が変わる要因が無数にある。これらを(吸収するのかそのまま流すのか強調するのかは別として)どこでコントロールするのかをある程度決めておいた方がよい。
上記のような避けようがない変化の他に、ピッキング方法を変えたとか、弦やピックの種類を変えたとか、ギター本体のパーツやセッティングを変えたとか、あるいは曲側の都合で、テンポを変えたとか、ベースラインを変えたとか、パッドの音色を変えたとか、そういった積極的な変化に対応するためのポイントも、いくつか候補を得ておくと便利である。
筆者の場合、大まかなキャラ操作はチューブスクリーマー(TO800)のオンオフや設定で行い、細かい部分はPANDORA miniのキャビネットシミュレータでやりくりすることが多い。そうすることで「欲しかった音」と「実際に出た音」のギャップを埋めたり、放置したり、さらに掘り下げたりといった操作が把握しやすくなる。音決めの手順も、キャビネットをバイパスした状態でスクリーマーをイジり、だいたいの着地点が決まったらキャビネットに手をつけることにしている。
バランスというか、単音の響きだけを追求して音を作ると、和音の機能が弱まることがある。単音弾きでもアルペジオ的に和音解釈が(リスナーの頭の中で、たいていは無自覚的に)なされることは普通にあるため、これはコードストロークだけに影響する問題ではない。
和音の機能が強い方がよいか弱い方がよいかは場面や他の奏者の動きによるため、どうするのが正解というようなものではないが、音色と和音の関係には注意を向けておいた方がよい。とくに、クリーントーンで中高域をイジった場合に影響が出やすい気がする(因果関係は知らないがフォルマントの問題とも似ている)。
筆者が単音用の音作りをする場合、ある程度見通しが立ったらローコードでルート弦がコロコロ替わるフレーズ(G>C>Em>Dとか)をストロークしてみて、和音の響きを確認してから作業を進めている(弱く遅いストロークだと特徴が出やすい:反対に、強く速いストロークばかりなら影響をある程度無視できる)。
ベキベキのドライブトーンを作ろうとすると、ノイズの問題を避けて通れない。まず知っておきたいことは、バズノイズ(ハムノイズの強烈バージョン)はギター本体で相当落とせるということである。
手元には荒井(ブリッツ)のSGモドキしかないが、レスポールまたはSGのレプリカモデルならたいてい、ミックスポジション(ハーフトーン)でないときにボリューム全開のトーン最小にするとバズがごく小さくなるはずである。この状態で目的の音(いわゆるウーマントーンになる)が作れるなら苦労はあまりないが、それだと解説にならないのでトーンを上げる工夫を検討してみる。
ここで活躍するのがミックスポジションで、フルテンかつブリッジアースが落ちた状態から、リアのトーンを落として音色とノイズのバランスを探り、適当なところで切り上げてフロントのボリュームを微妙に落としてノイズが少ないポイントを探し、最後にリアのトーンを微調整する(同じギターで同じ部屋で同じ配置でもベストセッティングは一定でないため、多少の試行錯誤は必要)。この作業が面倒な人は、フルテンからリアのトーンだけ6に下げ、ノイズが消えなければフロントのボリュームを8に下げ、それでも気になったらリアのトーンを4に下げよう。
もちろんボリュームコントロールやトーンコントロールによってアンプに送る音が微妙に変わりはするのだが、ハイゲイントーンではいかに効率よく潰すかが問題であって、ドライブ前に多少音色が変わってもほとんど無視できる。また最終的にゲートをかける場合、ある程度のノイズは残せるため設定の幅が広くなる。追記:ストラトのフロント+センターでセンターの、テレのハーフトーンでリアの、トーンを6ぐらいまで絞ってボリュームは全開にしておくと似たような効果が得られるはずなのだが、工事が終わって筆者の部屋ではハーフトーンで聞き分けられるほどのノイズが乗らなくなったので、実験はしていない。
上記の調整を実際にやったサンプル(ノーマライズだけ、ハイパスとゲートを追加:ダブルコイルのミックスポジションを指弾き)も掲載しておく。接続はGDI21>TO800>G1Nのedゲイン全開で、GDI21はDIとしてだけ使っている(バイパス)。最初がフルテン状態、ボリュームとトーンを仮決め、TO800を調整(アンプでの歪みを最大に得るのが目的なので無駄にゲインを上げない:トーンは8時固定でイジっていない)、ボリュームとトーンを調整、アルペジオの濁りを確認、トーンをさらに落として渋滞緩和(ハイゲインサウンドでは叩く前に中高域を整理しておかないと、グチャグチャになって収拾がつかなくなる)、といった手順(G1Nはずっとフルテンのまま)。引越し以来強烈なバズノイズ(おそらく室外からのもの)に悩まされている筆者の環境でも、このくらいの録音にはなる。
レスポールやSGのミックスポジションでは、2ボリューム2トーンの構成を活かしてきめ細かい音色調整ができる。
回路については直球勝負のエレキギターに譲るが、仕組みはともかく、ミックスポジションで全ツマミフルテンにすると、中域が豊富で、低域はリアを基本にフロントを少し足し、高域はフロントを基本にリアを少し足したような音色になる(基本的に同相だが差分がコイルからグランドに落ちやすいローと、トーンが全開でグランドには落ちにくいが位相が入り乱れるハイで、微妙に事情は異なるが割愛)。ここを出発点にしよう。
フルテンからフロントのボリュームを絞っていくと、全体の音量は落ちるのだが、高域にリアピックアップ由来の成分が増えてやや持ち上がり、フロントピックアップ由来の成分が減ることで低域が削れる。同様にリアだけボリュームを絞ると、低域が持ち上がって高域が削れる。だいたいの感覚として、フルテンからフロントのボリュームだけ3~7くらいに絞ったミックスポジションはリアの高域を丸めて微妙に低域を足した音色、フルテンからリアのボリュームだけ3~7くらいに絞ったミックスポジションはフロントの低域をシェイプアップして微妙に高域のクセを付加した音色に近くなる(ボリュームを大きく絞ると単体ピックアップの音色に近付く)。
両方のボリュームを同じだけ絞ると、2つのピックアップが独立して働く状態に近くなる(フルテンだと共通部分が強く出るが、絞ると単純な和に近付く)。フロント由来の成分が低域、リア由来の成分が高域に張り出すのだが、トーン回路でグランドに落ちる成分が増え、リアとフロントでの干渉(12フレットまでの基音と開放弦の2倍音以外はフロントとリアで位相が異なることがある)も強まるため、独特のモサっとした音色になる(単独ピックアップのボリューム絞り音色よりは、濁った感じが強く出る)。フロント7のリア3くらいだとフロント単独からローをやや削り、フロント3のリア7くらいだとリア単独からハイをやや削り、どちらも少し濁らせたような音色になる。
フルテンからトーンだけ絞ると、どちらのトーンも同様に効いて普通にハイが削れる。ボリュームを7くらいよりも下げると、そのピックアップのトーンはあまり効かなくなる。音色的に面白いのはフロントとリアを両方7くらいにしたときのトーンの効きで、もちろんリアの方が強く効くのだが、フロントはフロントでまたキャラの違う効き方になる(フロントピックアップ由来の高域成分が減るので、例のモサっと濁った感じが緩和される)。フルテンからリアだけボリューム7にしてトーンを大きく上下させたときの変化(高域のキャラがスルスル入れ替わる)や、フロントはボリューム3のトーン7くらいにしてリアをフルテンにしたときの音色(説明しにくいが、フロントとリアを足して1.5で割ったような感じになる)も興味深い。
扱いやすいのはやはり、フルテンから片方のボリュームだけ下げた設定で、設定例は一足飛びの無駄なく始めるエレキギターに掲載した。両方のボリュームを3~7くらいの間(同じ値でも違う値でも)にした設定は、どの帯域にどちら由来の成分をどれだけ混ぜるかで、非常に多彩な音色を作れる。両方のボリュームを上げると共通成分が強調され、両方下げるとややハイ落ちして濁りも出るが混雑はトーンで緩和でき、片方を下げもう片方を大きく下げると単独ピックアップのトガったところをやや削って両方下げと似たような濁り方、といったところを押さえておくと設定を探りやすいだろうか。ピックアップセレクタを切り替えながら演奏する場合、ミックスポジションと片方の単独ピックアップの2種類だけ使う手があり、残った1つをミックスポジションの音色調整に使える(レスポールだとスイッチの位置がアレだがSGならラク)。
ピックアップスイッチをゲイン操作に使う場合は、強く出す方(たいていリア)を7くらい、弱く出す方(たいていフロント)を3くらいに設定すると、フロント・ミックス・リアのバランスを取りやすい(もちろんアンプやギターやピックアップの設定にもよるのだが、たとえば10と5などの設定より先に試してみるとよいかもしれない、という程度の話:すでに紹介したようにミックスポジションでは、片方10のままもう一方のボリュームを絞っても、帯域が削れていくだけであまり音量が落ちない)。筆者はこれを「シチサン設定」と呼んでいる(演奏サンプル:SGもどきでピックアップセレクターだけイジりながらピック弾きしたものをPX5Dに出してモダンマーシャルのアンプフルテンとキャビのシミュレータをかけたもの)。フロント単独とリア単独の音色差を緩和する方向で考えるなら、トーンはフロント10のリア7くらいにすればよいだろうか。あとはボリューム変更でミックスポジションの音量が巻き込まれる(どちらのボリュームを上げ下げしても、ミックスポジションの音量がいくらか引き摺られて変わる)ことを頭に入れて微調整すればよいだろう。なお、マスターボリュームしかない機種でもピックアップの高さやトーンツマミや弾き方でいくらでも変化はつけられるため、ギブソンタイプのギター専用の技と言うわけではない(演奏サンプル:ストラトもどきでピックアップセレクターだけイジりながらピック弾き、G1Nでピーヴィーのゲイン半分アンプシミュレータ、PX5DでMDNキャビのシミュレータをかけたもの)。
字で書くと当たり前のことなのだが、実践するのはそれなりに難しい。
たとえばヘビーメタルの音を作りたいとする。ヘビーメタルのギターサウンドというのは、矩形波系歪みをベースに他の歪みやドライの低音成分を混ぜたような格好が代表的で、サウンドメイキングとしてはかなり単純な部類に入る(やっていること自体は複雑なのだが、一般的にはその複雑な部分をペダルというオールインワンパッケージに頼る:サウンドメイキングの枠を外れて運用に踏み込むと途端に手強くなるのはまた別の話)。これを実現するにはディストーションペダルをミキサー(楽器用アンプを使うならトランジスタアンプのクリーンチャンネルかパワー段入力)に直結するのがもっとも手っ取り早い(マルチを使ってもいいけど)。単純な音色は単純なシステムで作るのが順当で、いたずらに機器を増やしても面倒が増えるだけである。
とくにチューブアンプの導入には注意が必要で、せっかく毛羽立てたパルス成分を丸められても困るし、そもそも様式美と予定調和の世界に機嫌で出音の変わるチューブサウンドは必要ない。どうしても使うなら、トランジスタアンプにディストーションペダルを内蔵して真空管回路の電気ストーブを抱き合わせたような、音に影響しないチューブの使い方をした製品(素人目には無駄が多いようでも需要のあるものはちゃんと市販されているし、見栄えの都合でデカいアンプを選ばざるを得ないプロミュージシャンの皆さんもライブでは普通に使っている)を選ぶべきである。
あとは奏者の耳とメンタリティ次第で、出るべき音色はちゃんと出ているということを正しく認識して余計なことをやらずに演奏技術を磨けば、少なくとも酷い音にはならない。
音圧が足りないという話もよく目にするが、その場合の対処はアンプのボリュームを上げることが第一である。言葉尻を捕まえて揶揄しているのではなく、帯域ブーストでなんとかしようという発想がまず奇妙で、音圧が必要ならボリュームをまず上げ、邪魔になった帯域をカットするのが自然な方法といえる(反対の方法でやるのは何倍も難しい)。ただ、波形率を考えると「音圧が低いアンプ」というのがないともいえず、ちょっとメンドクサイ話だったりもする(ムリヤリな理屈には違いなく、普通に使う分には気にしなくてよい:RMSが低くなるというよりピーク音圧が膨れるというだけで、位相が乱れがちなチューブアンプで顕著)。
いづれにしても、音圧を上げるにはボリュームツマミを捻るのがいちばん手っ取り早く、それによって「邪魔になった帯域」を削る場合にまずイジるのはEQではなくディストーションのゲインである(だって大量の歪み成分をモリモリ放出してるんですもの)。音が埋もれるのもたいていは歪ませすぎが原因(周りの音に埋もれているのではなく、自分が出した歪み成分に埋もれている)で、いちどクリーントーン(余計な帯域は出ていないわけだから、歪ませたときにこれ以上音圧を稼げることはない)で「運用可能な音圧の最大レベル」を確認し、そこから「どのくらいまでなら悪影響なく歪ませられるか」探るのが手っ取り早い。
音量を出さないとアンプのおいしい部分が出ない(ボリュームが0から10までだとしたら、5ぐらいは出さないと本領を発揮しないアンプがほとんど:安易に試すと危険なので厳重に注意)というのはわかる話だが、大会場や屋外で使うために開発された大型アンプを小さなハコで鳴らすこと自体がムリなので、これは仕方ない。なお、音圧が必要でないのに足りないと勘違いしている場合は、耳を鍛えるか頭を冷やす以外に対処法方がない(もしコピーバンドをやっているなら、自分たちの録音とオリジナルの録音を聴き比べると効率よく頭が冷える)。
ギターが何本もあり、イフェクタも数が増えてごっちゃりした環境をムリなく運用する方法を考える。
これは順当な考えで、クリーンなプリアンプを用意するというだけでなく、ミキサーの機種によってはハイパスローカットやリミッターなどもかけられるし、複数のギターで同じイフェクタを共有する場合、初段にEQがあると便利なことも多い。ギター用のA/Bスイッチなども市販されているが、価格、拡張性、汎用性などを考えるとミキサーの方が魅力的だと思う。
たとえば、楽器からDIを介してサブミキサーのモノチャンネルに信号を入れ、メインアウトとコントロールルームアウトとAUXセンドを(ステレオ出力のものは左右で分岐するか、ステレオスプリッターにでも入れてさらに増やす)それぞれ別のイフェクトループに繋ぎ、イフェクタからの返りは(必要ならコンバイナーでまとめてから)メインミキサーに入れてしまう。余った出力もついでに送っておけば、リアンプやドライミックスに使える。
リアンプ用にクリスタルクリーンのデータを残したい場合や、複数の経路で録音(たとえばラインとアンプとアンビエントとか)する場合は、マルチチャンネルのデジタルMTRも有用。ミキサーに比べて価格が多少上がるのとバス数が充実していないデメリットはあるが、なにしろ本体でマルチトラック録音できるので、ごっちゃりした配線をメインミキサーに繋ぐ必要もなければ高価なADATを導入する必要もない。
筆者のようにミキサーから多機能サウンドユニットに繋いでいる場合、DIからミキサーに入れて、パソコンへの出力とイフェクトループへの出力にスプリットし、イフェクタの出力をパソコンに直接持っていくのが便利だろうか。バスのボタン切り替えができる機種なら、いったんミキサーに戻した方がモニタがラクかもしれない。
チューナーアウトなどが必要な場合、プリフェーダーでセンドしてやると便利には違いないが、音量を独立制御できる貴重なFXバスをたかがチューナーのために潰さなくても、後ろでミュートした方が節約になる。
どんなに機材が増えても、メインで使う機種はそんなに多くならないのが普通である。ルーティングをいたずらに混乱させないために、常用する機器とそうでない機器に大別しておくと効率がよいだろう。また、ある程度数が多い場合、すべての機器を万全の体制でスタンバイさせようと頑張るより、めったに使わないものは「とりあえず音は出せる」状態にしておいて、出音を聴いて真面目に使いたくなったら繋ぎなおす形の方が柔軟に構成できる。
そのためには、複数入出力のある機材をうまく使いたい(むやみにミキサーを増やすと操作で混乱するし、置き場所にも困る)。筆者の手元の機材でいうと、GDI21が出力2つなのでTO800を通るルート(本線)と通らないルート(支線)に分岐させている。集合もミキサーではなく、US-100のマイク入力に入れるかライン入力に入れるかで分けた。もちろんミキサーも併用しているが、ミキサーでなくてもできる仕事は他の機器に任せてもよいということは覚えておいて損がない。
ミキサーを増やす場合はある程度計画を立ててからにして、普通のフロアミキサーのほかに、BEHRINGERのMX400 MICROMIXのようなコンパクトミキサー、REXERのMX-6(筆者も所有)やDODの240のようなパッシブミキサーも検討してみるとよいだろう。パッシブミキサーは音量が落ちる(ツマミ全開でも逆流防止の抵抗は通る:単体接続で10~12db、他に機器をぶら下げるとフェーダー位置次第でさらに落ちる)もののスプリッター代わりになる(リバース使用:チャンネルボリュームを、簡易なアッテネーターというか、レベルマッチ用途に使える)のが便利。ラックがあるならもちろん、ラックマウントのラインミキサーやディストリビューションミキサーも候補になる。
なお、あまり使わない機材をルーティングから完全に外してしまうと、音を出すだけで手間がかかり、よりいっそう使わなくなってお蔵入りしてしまう可能性が高い。ので、支線の方は多少ムリがあるルーティングになってもバリエーションを優先するのがよいだろうと思う。支線を作っておくと、新しく買った機材や友人知人が持ってきた機材を「とりあえず」で繋ぐときにも便利である(臨時線用に、どこかで小型パッチベイを噛ましておくのも手)。繋ぎ替え用の副線(配線的には本線とパラ)を用意する手もあるがやや煩雑になるか。
利便性を追求すると、こんな感じになるのではないだろうか。
楽器>多機能DIとかサブミキサーとかMTRとか>ペダルorフロアイフェクタ>メインミキサーorサウンドユニット>ラックイフェクタなどその他の処理
高性能なミキサーならサブミキサーを用意せずバス数だけで押し切ってもよいが、演奏時にサブミキサーが手元にあるのも便利なのでお好みで。MTRを使わない場合、リアンプ用のデータはサブミキサーの出力から取り、サブミキサーのチャンネルに戻せばよい。
スイッチャーやループセレクターは、あれば便利なのだろうが専用品は値段が高い。アメリカでは小規模ベンダーが40ドルくらいでワンループのパッシブを売っているようなのだが、日本では需要がないのかローエンドのラインナップがスカスカである。ABセレクターやABCセレクターならローエンドのアクティブがそこそこ安く、ブースター兼用でなら仕入れても面白そう。
簡易PAでも最初にデジタルMTR(一般にミキサーよりも加工機能が充実している)でまとめる形は便利だが、ヴォーカルなども入る場合はバス数がそこそこ必要になる。複数楽器でのイフェクタ共有をしないなら、最終段(PAに送る直前)をMTRにする手もある(こっちの方が利便性で有利かな)。
筆者もあまりわかっていない話。
前提知識として、ほとんどのギターアンプはモノラル入力(後述するようにリターンがステレオになっている機種はある)で、インプット>プリアンプ(ドライブアンプ)>センドリターン>パワーアンプ>キャビネットという順になっており、ギターとアンプインプットの間にペダルを置くとプリドライブ、センドリターン端子を使うとポストドライブになる(もちろん、ドライブペダルをメインの歪みにするような場合は、文字通りドライブの前に入れるか後ろに入れるかという問題になる)。ワウ以外の変調系はポストドライブで使うことが多いのではあるが、パラ出ししてウェットにだけ他の加工を施したいこともあれば、あえてプリドライブで使いたいこともたまにはある(とくにクランチトーンの場合、歪み始めたときの音色の乱れ方に独特の味が出る、と思う:プリ・ポストどちらでかけるにしても、特殊な効果を狙うのでない限り、ディレイやリバーブよりは前に入れるのが普通)。
また変調系イフェクタの多くは、原音と変調した音(一部のマルチボイス機種では変調した音と変調した音)を混ぜる設計になっている。たとえばコーラスは、モジュレーション(音程のビブラート)をかけた音を原音に混ぜることで作られる(ので、シングルボイスコーラスのドライレベルをゼロにするとモジュレータに、モジュレータの出力をドライと混ぜるとコーラスになる)。ステレオ出力のコーラスイフェクタには、ドライとウェット(原音とモジュレーションがかかった音)を別々に出力するもの、同じ設定でモジュレーターLFOの初期位相だけ異なる音を出力するもの(左右合算でマルチボイスコーラスになる)、左右の出力を独立に制御orボイスごとにPAN設定できるもの(筆者はソフトウェアイフェクタでしか見たことがない)などがあって、機種ごとにバラバラである。ドライウェット分離式は用途がわかりやすく、ようするに「パラ出しするから好きにイジって混ぜてね」と、そういうことである。合算マルチボイス式はいわゆる「ステレオコーラス」らしい雰囲気を出しやすい。独立制御式は、左右で別のLFOを使うなどして複雑な効果を出したい場合に手軽だろう。どの方式にせよ、ステレオ(=左右で出力が異なる)でギターアンプに出す場合はちょっと面倒になりがちで、中には「アンプを2台用意するのが理想」という設計の機種もある(が、それはちょっと大げさだし、シミュレータでやるにしてもわずらわしい:アンプだけでなく、変調系よりも後段がすべて複線になる)。
このためアンプor他のペダルより前に入れる変調系は「モノラルでも効果が損なわれないもの」を選ぶのが無難だろう(複数のインプットを同時利用できるアンプでもキャビネットまで届いた時点でモノミックスされてしまうのが普通だし、近年のJCシリーズなどステレオリターン端子があるアンプでも、キャビネットの大きさと通常の使用距離を考えると「ステレオで出してナンボ」の機種は選びにくい:録音用途でオンマイクを2本立てるような場合は話が別)。つまるところ、ギターアンプから音を出していること自体が(キャビネットを複数持ち込めるような環境でない限り)ネックになってしまうわけで、いわゆるステレオコーラスをかけたければいったんミキサーに渡してからラックで処理して、音はPAスピーカから出すなり録音なら返りだけもらうなりするのが順当ではある。これを足元で何とかしてしまうには、先に触れたようにマルチイフェクタを複数台使ってしまうのが手っ取り早い。
演奏中に変調系の設定を切り替えたい場合や、変調系のオンオフに連動して他の加工も行いたい場合、マルチ連続構成で前段のマルチに変調系を任せると便利である(筆者は演奏中には切り替えないが、利便性向上のためG1Nでこれをやっている:プリドライブにしたい場合は後段のマルチで歪ませる)。プリセット作りが面倒で呼び出しがラクなマルチと、設定がラクで変更が面倒な単体ペダルと、どちらを選ぶかは好み次第だが、たとえばコーラスとフランジャーとフェイザーをそれぞれ置くより、マルチに任せた方がスマートかなとは思う。別の解決方法として、プリドライブで変調系をかけられるマルチを使うとか、実機ではなくソフトウェア実装のアンプシミュレータを使う(2台分動かしてシリアルに繋ぐのが簡単)などの手もある。プリドライブとポストドライブの両方で変調系をかけ、しかも同期(あるいは任意にズレ)させたいなどという場合(はレアだろうが)、やはり1台のマルチでこなしてしまうかソフトウェアを使うのが便利だろう。さらに変わったやり方として、ステレオ出力を(ミキサーかなにかに入れて)モノミックスしてしまう案もあり、ドライとウェットを別チャンネルで出す機種でなければ、多くの場合デュアルボイスコーラスとして機能するはず。
チューブ歪みは「電気信号を入力して電気信号を取り出す」過程で生じるものなので、等価回路を(完璧ではないにせよある程度の精度で)作ってやれば「ある瞬間の状態」はそこそこ再現できる(ただし、素子の配置が異なるため外来ノイズへの反応などは同じにならないし、回路の特性が経時的に変化するところ(たとえば過熱によるヘタリとか)までは、少なくともアナログ回路でのシミュレートが難しい)。
それに対してキャビネット歪みはいったん空気の振動に変換された後(または変換される際)に生じるものなので、電気的な等価回路を組むのが難しく(可能なのかどうか筆者は知らないが、バスレフエンクロージャの等価回路なんてものもあるくらいだから、もしかしたらあるのかもしれない)、線形でも時不変でもないためインパルス応答での把握も一筋縄ではいかない。これにマイクでの歪みが加わるとさらに厳しい(部屋による間接音の歪みまで考えると完全にお手上げ)。
一番よいのはもちろん、実機アンプで大音量をぶっ放してマイクに突っ込んでやることで、5Wくらいのチューブアンプから6.5~8インチくらいのキャビネットにフルテンで突っ込むというのはけっこう有望なんじゃないかと思う。もっと手軽な方法として筆者がやっているのはクリーンアンプのシミュレータを使う方法で、G1Nのツイードorハイワットにプリアンプからの大信号(ただし許容入力以内)を突っ込んで「微妙な歪み」を得ている(ただし機種を選ぶ必要があり、筆者の手元にはG1N以外に適任のものがなかった)。
なんというか「キュウリにハチミツをかけるとメロンの味になる」とか、そういった類の話と大差ないやり方ではあるが、キャビネット風味の歪みを手軽に得るワークアラウンドとしてはそこそこ便利だと思う。もちろん、キャビネットシミュレータを使う案もあるが、普通の機種では入力と無関係に同じ応答をするはずなので、クリーンアンプシミュレータでの代用とはちょっと傾向が異なる(とくにIRフィルタは線形時不変な処理なので、キャビネット歪みの再現には向かない)。なお、単体でキャビネット歪み込みの音を目指したイフェクタもある(アンプモデラーを名乗っているものや、アンプ再現系のオーバードライブなど)。
このほかに厳しいものとしてチューブアンプの機械的フィードバック(動作中のチューブアンプはコンデンサマイクに近い挙動をけっこうな割合で示すため、とくに大音領域で、スピーカの振動がアンプに戻る現象が起こる:いわゆるマイクロフォニックノイズ)もある。これも、球の機械的構造やらマウントの方法やらアンプの置き場所まで考慮しないと再現できないもので、普通のやり方では歯が立たない。
たんにセンドリターンするのとなにが違うのかというと、アンプのセンドレベルと違ってボリュームペダルは演奏しながらでも操作できる(反対にいえば、何かしらの方法でアンプのセンドツマミを演奏しながら操作でき、あえてこの繋ぎ方にする必要はない:)。
スペースを消費して利便性を上げるための方法。やり方は簡単で、同じコンパクトイフェクタを直列に繋ぎ、どちらか(または両方)をバイパスする。もちろん、両方のペダルをオンにした音が好きならばそれも使って差し支えないが、オーバードライブやディストーションを連続させる場合、すでに触れたように、両方有効にするとハウリングが生じる可能性があるので十分注意したい(というか、増幅率を大きく取れるアナログイフェクタは連続繋ぎにしない方が無難である)。
メリットとしては、音色切り替えが素早くできるほか、音作りで出音の比較がしたい場合にも便利だろう。流れを切らずに違う音色で演奏したい場合には録音でも有効かもしれない。デメリットとしては、当然ながら、費用と設置スペースが倍必要になる。最初から2台とも使うつもりで、別の役割を担当させることももちろんできる。
有名人ではStevie Ray Vaughanがこれをやっていたらしく、Voxのワウペダル>テキトーなTSシリーズ(おもにTS808かTS-9)>TS808(踏みっぱ)>Uni-Vibe>フェンダーのアンプと出していたそうな(録音ではワウを2発噛ましていたこともあったとか:Uni-Vibeはレスリーユニットシミュレータの名前)。
なお、たとえばドライブアンプの前と後ろにコーラスを入れるようなパターンもシリアル繋ぎには違いないが、連発で繋ぐのとはちょっと意味合いが異なる。
まあいつものノリで。
インチサイズを引き摺っている製品が多いので一応掲載。正確には1インチ=25.4mmだが、1959年に発効した国際ヤードに準拠する数字なので、発効以前または発効後工場設備が更新されるまでに作られた本気でオールドなギターやアンプなどでは微妙に基準が異なる(しかもイギリスとアメリカで別規格:どちらも工作精度を考えたら誤差以下だが)。4インチ=101.6mmは覚えておくとよいかもしれない(1インチ≒2.5cmで概算することもある)。
ギター本体なら、レスポールの代表的構成がトップ(メイプル)0.5=12.7mmとバック(マホガニー)1.75=44.45mmで合計57.15mm、SGは製造年により1.25=31.75mm~1.5=38.1mmくらい(61~65年のモデルは35mmくらいみたい:SGに限らず、同じ年のものでも数ミリくらいは平気で違う)、テレとストラトの代表厚1.75=44.45mm。スケール(弦長)なら、エレキギターレギュラースケールの25.5=647.7mm、ミディアムスケールの24.75=628.65mmくらい。一部に24.8=629.92mmのものも。
指板のRなら、ナイロンギターでたまにあるらしい24=609.6mm、マーティン鉄弦アコギの代表サイズ16=406.4mm、ギブソンエレキorアコギの代表サイズ12=304.8mm、コンパウンドラジアスでよく使われる10=254mm、モダンフェンダーの9.5=241.3mm、カスタムフェンダーの8.25=209.55mm、オールドフェンダーの7.25=184.15mmあたりか。クラシックギターはフルフラットのものが多い。
ピックなら、.015=0.38mm=exThin、.02=0.51mm=Thin、.03=0.76mm=Midium、.035=0.89mm=Heavy、.04=1.02mm=Heavy、.045=1.14mm=Heavy、.06=1.5mm=exHeavyくらい。メーカによっても異なるが、Heavyの範囲がけっこう広い。多くのメーカーでは、おそらく200分の1インチ(.005)が単位長さで、8/200インチが1mm相当。
弦なら、エレキミディアムゲージの.010-.046=0.25-1.17mm、エレキヘビーゲージorアコギライトゲージの.012-.054(.053)=0.3-1.37(1.35)mmくらい。
ピックアップはギブソンサイズのダブルコイル(ハムバッカー)で2.75×1.5=69.85×38.1mm、ストラトのフロント(シングルコイル)で2.75×0.75=69.85×19.05mm、ソープバー(P-90)で3.3×1.28=83.82×32.512mmくらい。
国際ヤードを決めるときに「25.4じゃなくて25にしようよ」と言った人もきっといたと思うのだが、できることなら、後の世の人たちの便宜のためにもうちょっと頑張って欲しかった(イギリスなんて1834年に原器焼いちゃってるんだから、しれっと「あーこのくらいだったよねー」とか言いながら25mmにしちゃえばよかったのに)。なお重さがポンドで示されていることもあるが、1ポンド=453.59237グラム(ただしこれも59年発効の国際ポンド)である。2ポンド≒900グラムの概算もけっこう有効。
「ゲージ」という言葉はもちろん、英語の「gauge」(寸法の規格)のことだが、ミディアムだのライトだのという分類ができた経緯はちょっと面白い。
初めてライトゲージを使った(というか作った)有名人はNokie Edwards(ベンチャーズのギタリスト)で、ミディアムゲージ(当時は3弦ワウンド)の1~5弦を2~6弦として使い、1弦にはバンジョーのものを使ったそうな。もっと前に似たようなことをやっていた無名の人がもしかしたらいるのかもしれないが、現在はノーキがライトゲージの発明者ということになっている模様(James Burtonが先だとする人もいる)。
初期には1弦だけ普通の弦にしていたらしく、予備の1弦がオマケでついてくるセット(ROTOSOUNDのR11 ROTO REDS MEDIUMとか)を使えば普通の市販品でもマネできるが、そうすると011、011、014、018、028、038というかなり細いセットになる(ダダリオのEXTRA-SUPER LIGHT(EXL130)で008、010、015、021、030、038)。
反対にミディアムゲージの2~6弦を1~5弦として使い、EXTRA HEAVYから6弦だけもらう(またはバラで買う)と、014、018、028、038、049、060というアコギのヘビーゲージ並に太いセットも作れる(ダダリオのアコギ用HEAVY(EJ18)が014、018、027、039、049、059:普通のエレキギターに張ったら多分壊れるし、そもそもナットの溝が足りないと思う)。
既製品としては、当時ギター専門の楽器店(弦メーカーではなく)だったアーニーボールが、フェンダーやギブソンに「小さいゲージを作ってくれ」と頼んだところ断られ、だったら自前でと工場に特注して売り出したSlinkyが最初らしい。なお、Slinkyの発売が1960年代で、本格的な生産は67年かららしく、少なくともそれ以前のエレキギターにはミディアムゲージが張られていたことになる(ワウンドはピュアニッケルだけだったろうと思う:根拠なし)。
ライトゲージ(は現在すでに変則ゲージではないが)以外の有名ゲージとしては、010、013、015、026、032、038のジミヘンゲージ(ダウンチューニングも多用)、013、015、019、028、038、058のSRVゲージ(ローラーワウンドの半音下げチューニングで、とくに1弦は変動が多い)など。
また、エレキギター弦の大きめゲージにはいくつかパターンがある。
013、017、026w、036、046、056:ジャズギターのミディアムゲージでダダリオのEJ22がこれ、アーニーのMEDIUMは4弦が034、アコギのミディアムゲージとほぼ同じくらい。
012、016、024w、032、042、052:ジャズギターのライトゲージでダダリオのEJ21もアーニーのMEDIUM LIGHTもこれ、アコギのライトゲージよりは6弦が細め。
多分ここが基本で、ダウンチューニング用でない3弦プレーンの012ゲージは
012、016、020、032、042、052:ダダリオのEXL145。
012、016、019、028、038、052:GHSのGBH。
と分かれる。
いっぽうジャズギターのエクストラライト相当は、
010、014、022w、030、038、049:ダダリオのEJ20。
010、014、020w、028、040、050:アーニーのEXTRA LIGHT。
010、013、018w、026、036、046 :ギブソンのSEG-900L L5。
とバラけるが、だいたい
010、014、020w、028、038、049:アコギのエクストラライトは010、014、023、030、039、047が代表的。
くらいか。3弦プレーンの011ゲージを見ると、
011、014、018、028、038、049:ダダリオやROTOやDR(6弦は048~050で差がある)。
011、015、018、026、036、050:GHSやSITの11-50、ダダリオの115BT。
に分かれる。
ようするに、ジャズギターのゲージから1弦を太くして3弦をプレーンに変えたのがダダリオやROTOやDRで、さらに4・5弦を細く、2・6弦をやや太くしたのがGHSやSITということになる。後者は、アーミング用にテンションを揃える意図なのだと思う(ダダリオもEXL115BTは11-50)。
詳しい話は省略するが、他の条件が同じでスケール(弦長)がn倍になったら、テンションをn^2倍にしないと同じ音高にならない(スケールが長いとテンションが高く、スケールが短いとテンションが低くなる)。以下代表的と思われる呼称と数字を勝手に採用し、計算結果は適当に丸めた。
エレキギターのレギュラースケール(25.5インチ)とミディアムスケール(24.75インチ)の場合:
レギュラースケールからミディアムスケールを見るとテンションは0.942倍、ミディアムスケールからレギュラースケールを見るとテンションは1.061倍になる。大雑把にいって「5%くらい」テンションが変わることになる。同じテンションでスケールだけ変えると51.68セントの変化。
エレキギターのレギュラースケール(25.5インチ)とショートスケール(24インチ)の場合:
レギュラースケールからショートスケールを見るとテンションは0.885倍、ショートスケールからレギュラースケールを見るとテンションは1.129倍になる。大雑把にいって「1割ちょっと」テンションが変わることになる。同じテンションでスケールだけ変えると104.96セントの変化。
鉄弦アコースティックギターのノーマルスケール(25.4インチ)とショートスケール(24.8インチ)の場合:
エレキギターのレギュラーvsミディアムとほぼ同じなので省略(メンドクサイ)。
エレキベースのロングスケール(34インチ)とミディアムスケール(32インチ)の場合:
ロングスケールからミディアムスケールを見るとテンションは0.885倍、ミディアムスケールからロングスケールを見るとテンションは1.129倍になる。ギターのレギュラースケールとショートスケールの場合と比が同じ。
エレキベースのロングスケール(34インチ)とショートスケール(30インチ)の場合:
ロングスケールからショートスケールを見るとテンションは0.779倍、ショートスケールからロングスケールを見るとテンションは1.284倍になる。大雑把にいって「4分の1くらい」テンションが変わることになる。同じテンションでスケールだけ変えると216.69セントの変化。
グランドピアノの大型タイプ(低音弦で2mくらい?)と小型タイプ(低音弦で1.5mくらい?)の場合:
大型タイプから小型タイプを見るとテンションは0.5倍くらい、小型タイプから大型タイプを見るとテンションは2倍くらい。まあ最初の数字が当て推量なので信憑性はないに等しいが、倍くらい違うのかなという結果になった。
エレキギターでは、ショートスケールのレギュラーチューニングとレギュラースケールの半音下げチューニングがほぼ同じテンションになる(1フレ~4フレ間の距離を単純計算すると、ショートスケールで91mm、レギュラースケールで97mm:フレットの厚さなどは無視)。エレキベースのミディアムスケールとロングスケールも同じ関係(1フレ~4フレ間の距離を単純計算すると、ミディアムスケールで122mm、ロングスケールで130mm)。
なお、たとえばEXL110の合計テンション46.98kgとEXL110+の合計テンション52.12kg(どちらもパッケージ裏面記載の値を単純合計)を比べるとだいたい1割くらいの変化、EXL120+の合計テンション(公式サイト掲載値)41.18kgとの比較だと8分の1くらいの変化になり、半ゲージの違いでもレギュラースケールvsミディアムスケールより影響が大きい(この比較は少し特殊なゲージだが、だいたい1ゲージで1.5割くらいの差だろうか)。半音下げチューニングするとテンションは約0.89倍になり、半ゲージくらいの効果。
488mmスケールのキッズギターでも、ヘビーゲージ(ダダリオならEXL140)を張ると、ライトゲージ(同じくダダリオならEXL110)を張ったレギュラースケールギターと(同じチューニングで比較して)ほぼ変わらないテンションになる(ナットやサドルの溝の幅が足りるかどうかは別として)。
メーカーによりテンショナーとかテンションピンとかストリングリテイナーなどとも呼ばれ、ロックナットを採用したギターについている棒状のものはテンションバーと呼ばれることもある(が、真面目に呼び分けている人はあまりいない)。これは名前の通り弦の張力をコントロールする部品なのだが、コントロールの対象はナット~サドル間のテンションではなく、弦をナットに押し付ける力を強めるためのもの。
すでに触れたロックナットのほか、フラットヘッドでナットとペグの距離が遠い(というのは正確な条件ではないが、ようするに、弦の振動の端になったりネックに音を伝えてヘッド鳴りを作ったりといった役割を、ナットが十分果たしていない)場合にも用いられる。とくに、フェンダーのエレキはフラットヘッドで高音弦がナットから遠いものが多いため、ロックナット式でなくてもストリングガイドを装備しているものが多い。
ナットへのテンションを変えると何が変わるかというと、もちろんヘッド鳴りが変わる。エレキギターのピックアップはヘッド鳴り自体をほとんど拾わない(疑う人は弦に軽く触れてミュートしたままヘッドを壊れない程度に爪で弾いてみよう)が、ヘッド鳴りによる弦へのフィードバックは拾う(弦をミュートしないでヘッドを叩くとわかる)ため、ヘッド鳴りが楽器の音の一部であるアコギほどではないが、音色に影響が(少なくともいくらかは)ある。
指弾きの自由さとピック弾きの音色を両立するため(というのがオリジナルの動機だったのかどうか知らないが、現在では多くの場合)に、親指or指に装着するピックもある。
親指(thumb)用のものはサムピックと呼ばれ、指を1周して少しはみ出るような形状で、はみ出た部分(爪)で弦を弾く。エレキにはあまり用いないが、ブリッジミュートのパワーコードをカリっと弾きたい場合などには使えるかもしれない(エレキブルースなんかではけっこう使っている人がいる)。金属製のものとプラスチック製のものがあり、爪が大きくフラットピック(平らなピック:ようするに普通のピック)と似た感覚で扱えるようデザインされたものもある(山崎まさよしモデルや、キクタニのPOPピックなど:筆者はどちらも苦手)。
親指以外の指(finger)用にはフィンガーピックがあるが、アコギでもサムピックほどは多用されない(ドブロギターをはじめとするリゾフォニックギターで使うのと、サムピックの音色とバランスを取りたいときくらい:ドブロ用だと金属製が好まれる)。普通のフィンガーピックは手の平側から手の甲側への反りを指先に合わせて装着する(金属製のものには、指先の肉でミュートするための穴が開いているものもある:本来の爪を覆うような感じで装着するのは、次で紹介するアラスカピックなど例外的なものだけ)。金属製なら多少変形させられるが、プラスチック製だと指に合う物に出会うまでひたすら数を試すしかない。
アラスカピック(aLaska Pik)とかFreedomフィンガーピックという名称で「本来の爪の延長」的なフィンガーピックも市販されているし、スカルプチャー(つけ爪)もギター用のものが少数ながらある。フラメンコギターなど爪を酷使するくせに繊細な演奏が要求されるジャンルでは、自分の指の爪を強くすればよいという発想で補強剤を使うことが多い。専用のものも市販されているが、本場のスペインではなぜかアロンアルファの釣名人が人気らしい(真偽のほどは知らないし、身体に塗るのは用途外なので、専用のものが無難だと思う:ちゃんと処理をしないと、爪とコーティングの間で緑膿菌やら白癬菌やらが繁殖する可能性もある)。フィンガースリーブなどの名称で左手用の指サックみたいなものも売られているが、筆者は使っている人を見たことがない(し、使ってみようとも思わない)。
エレキしか弾かない人でも爪の手入れ(10本の指全部)だけはした方がよく、爪やすりなども楽器店などで普通に売っている。
これも面白い小物で、左手の指に装着して音を滑らかに変化させる。どの指につけるかは好みや演奏上の都合で変わり、有名人だと、Ry CooderやJohnny WinterやSonny Landrethは小指、Duane AllmanやDerek Trucksは薬指、Jeff BeckやRon Woodは中指につけていることが多く、Eric Claptonは小指か薬指につけている。
すでに触れたが、座奏の場合も補助的にストラップを使うことがある。実は使い方としてかなり歴史が長く、古楽器/ギター演奏家:竹内太郎のページというサイトの紹介によると、バロックギターの時代からあるようだ。
上記の解説で「低い椅子」というのが紹介されているが、現在もオットマンとかフットスツールといった名前(用語が一定しない)のものが家具として売られている(基本的には椅子で、尻で座れるものが多い)。高級品の足台にも外見がオットマンなどに似たものがある(歴史的な経緯は知らない)。
ストリートだと、アンプ、釣り用の小型折り畳み椅子、ギターのハードケースあたりを低椅子代わりにしている人を見たことがある(壊れたら悲しいので強度を確認しておこう)。最近はロケーションが減ったが、ホコ天の場合は歩道の縁石が定番だった(今どうなのかは知らない)。胡坐で弾く場合右腿にギターのくぼみを合わせる人が多いが、ギターを立てて抱くようにする人もいるし、左足だけ崩して(立てて)左腿にギターのくぼみを合わせることもある。
なお立奏でも必ずストラップを使うとは限らず、椅子を足台のように使うこともあれば、マイナーな道具だが立奏用のギタースタンドなんてものもある(インギー様がアコギに使っていたのが有名だが、まあエレキでやる人はごく少数だろう)。
座奏がやりにくいと評判のレスポールモデルだが、実際、ボディのヘコミが急角度過ぎるのがやっかいである。
比較的素直な考えとして、右腿にボディのヘコミを合わせて、表板を正面近く(真正面よりはやや右上)に向け、尻が下がる場合はストラップで補助するという方法がある(Lukeがこれに近い)。脚の開き方と腰のひねりでかなりバリエーションが増える(右脚の方向、腰のひねり、左足の位置とフォームを決めていくと手っ取り早い)が、やや姿勢が悪くなる。やっている人の数で言うと、おそらく一番人気だろう。
他に安定するのは左腿に右足首を乗せるルシア風の構えで、膝が右を向く分ボディと腿がフィットしやすい(ようするに、ボディと腿が直角に近い角度で交差すればヘコミの急角度さがデメリットになりにくい:元はといえば、普通のアコギよりも薄いフラメンコギター向きの構えなので、エレキにも応用しやすい)。メインの支持ポイントがボディのヘコミなのは上記と同じで、尻が下がる場合の対応も同じくストラップを使うとよい。ヘッドがやや前に出た形になるはずなので、短いストラップ(体格などにより90~100cmくらいか)を右肩にだけかけるのも有効。
筆者がやってみたら意外とラクだったのは左足を足台に乗せる形で、高さのある足台をすぐ近くで使い、左膝が鳩尾と同じか高くなるくらいの極端な姿勢にする。この状態で左腿にボディのヘコミを合わせ、ジャックとストラップピンの間~ジャックギリギリあたりを右腿で支える。上の2つと違ってネックを立てられるのがポイント。少なくとも筆者が手元のコピーモデルで試した限り、ストラップなしでも十分安定する。ただ、足台に40cmくらいの極端な高さが必要で、普通の市販品だとちょっと厳しい(筆者はK&Mの14670を本来の調節範囲以上の高さにして、さらに前後反対にしてこれをやる:10インチ単発くらいのコンボアンプがあれば、足台代わりにちょうどよさそうな気もする)。
Beyond The Soundというサイトに詳細なチャートが掲載されているが、ハーモニクスポイントというのは意外に多くある(上記リンク先のチャートでは、ナット~12フレまでの間に22ポイントある:数字にはナットと12フレを含まない)。また、平均律と純正律が一致する12フレットを例外に、フレットの山とハーモニクスポイントは同じ位置ではない。
よく知られている7フレハーモニクスと5フレハーモニクスは平均律と純正律のズレが小さいので、フレットの真上のつもりで押さえてもたいてい音は出る。ちょっと変わったやり方として、19フレハーモニクス(7フレハーモニクスとほぼ同じ音)や24フレハーモニクス(5フレハーモニクスとほぼ同じ音)もできる。さらに変な技として、弦を12or17or19or24フレに叩きつけてやると、フレット頂上とハーモニクスポイントのズレが小さいためハーモニクス音が出る(スラップハーモニクスというらしい)。
あまり一般的でないが比較的容易にできるものとして、4フレと9フレと16フレのハーモニクスがあり、いづれもフレットより少しだけナット側で、開放弦から2オクターブと長3度上の音が出る。4弦4フレハーモニクスと5弦5フレハーモニクスを合わせてチューニングすると、4フレハーモニクスは平均律と純正律のズレが大きいため、5弦がかなりフラットしたチューニングになる。17フレほぼ真上のハーモニクスは非常に高い音(3オクターブ上)を出したい場合に使える(8フレややブリッジ側のハーモニクスも同じ音だが微妙にやりにくい気がする:もっと高い音が出るポイントもあるが半端な位置だし音を出すのも難しい)。
アンプに必要なセクションを列挙すると、プリアンプ、パワーアンプ、キャビネットということになる。これらを全部まとめた構成がコンボアンプで、一般的なセパレートアンプはプリアンプ+パワーアンプ=アンプヘッドとキャビネットで構成される、というところまでは多くの人が了解していると思う。ここでは、もう少し変わったパターンの製品を眺めてみたい。
まずはアンプヘッドをペダルサイズに小型化した機種。ELECTRO-HARMONIXの22 CALIBERと44Magnumが代表機種で、トランジスタアンプのコンパクトさを活かした構成といえる。サイズ的な制約がキツいのは大出力を求められるパワーアンプ部なので、プリアンプ(ブースターとしてのプリアンプではなく、アンプヘッドのプリ部の置換という意味のプリアンプ)だけなら小型化がより容易になる。AMT ELECTRONICSのSSシリーズやHUGHES&KETTNERのTUBEMANIIやALBITのA3GPなど、真空管を使った機種が目につく。
アンプをラックマウントにした製品ももちろんあり、ROCKTRONやENGLのラインナップが豊富。ペダルよりもサイズ的な余裕があるためか、プリアンプ単体、パワーアンプ単体、プリアンプ+パワーアンプとバリエーションが多い。いわゆるラックマルチとの区別は曖昧だが、想定しているおもな入出力先の傾向が異なる(アンプヘッドを名乗っていても、スピーカ出力のほかにキャビネットシミュレータつきのライン出力を用意して、ラックマルチと同様に使える機種もある)。
プリアンプからキャビネットまで丸ごとシミュレートして、場合によりマイクシミュレータまで追加した機種はアンプシミュレータを名乗っていることが多く、ほとんどのデジタルマルチがこれを兼ねるためラインナップが豊富である。出力先のバリエーションも、クリーンアンプのギター入力、パワーアンプ、ミキサーなど設定で選択できるものが多い。変り種ではマイクシミュレータに特化したPALMERの機種があり、ラックサイズとペダルサイズの両方を用意している。
単品アンプヘッドやコンボアンプにキャビネットシミュレータを追加した機種ももちろんあり、普通にセパレートorコンボアンプとして使うこともキャビネットシミュレータ経由でミキサーに出すこともできる。
もちろん、アナログアンプに過大入力を突っ込むのが本来のオーバードライブではあるが、それを模したイフェクタの出力にはある程度傾向の違いがある。加算する歪みのタイプで、矩形波系、鋸波系、パルス波系というのが筆者の(勝手な)分類である。波形についてはイフェクタを知ろうのページを参照。
矩形波系は奇数倍音主体の歪みで、ソフトなクリッパー(というかクリップする手前の部分を使う)に通すか、ハードなクリッパー(ダイオードで一定電圧以上をグランドに捨てる、トランジスタアンプに過大入力を与えるなど:ディストーションに分類されることが多い)の後ろにローパスを置くことで得られる(ハードなクリッパーを深くかけて後ろにローパスを置かないものはファズと呼ばれる)。ピーク音圧準拠のデジタルオーバードライブも矩形波っぽい出力になる。情報量のロスが比較的大きい(閾値以上の部分が一定値に均される)ため、単体で深く使うと単調な音になることがある。なお、オクターブファズと呼ばれるものはファズの前に全波整流器(の動作をソフトにしたようなもの)を置き整流歪みを乗せたもの。
鋸波系はいわゆる整数倍音歪みで、デジタルでは矩形波系の出力と鋸波系の出力を混ぜて中間的な音色が作れる機種もある。動作としては、音圧がゼロから遠ざかる場合とゼロに近付く場合で応答の鋭さを変えているのだと思う。アナログでは、チューブスクリーマーやアンプの前段に置く前提のオーバードライブに多く見られる。普通の入力だと矩形波系の応答でごく大入力を突っ込むと鋸波っぽい波形になるもの(矩形波のカドを削ったような感じ)もあるし、上下で逆相(鋸の刃を半分(音圧ゼロのライン)でちょん切って、前後反対にしてまたくっつけたような波形:矩形波を浅めのハイパスローカットフィルタに通すと似たような波形になる)のものもある。
パルス波系は矩形波や鋸波を微分する(ハイパスに通す)と得られる成分で、毛羽立ち矩形波型(矩形波とパルス波を足した格好)や電圧折り返し型(折り返し成分だけ増幅すると歪み成分の波形がよりパルスに近付く)や一部のクロスオーバー歪みが該当する。ジャリジャリした質感を出したい場合や、ごく深い歪みを作りたい場合などに使うことが多いだろう。
なお、種類が異なるオーバードライブを複数段でかける場合、先に通した方のキャラがより強く現れることが多い(多いだけ)。たとえば矩形波系>折り返しパルス波系と繋ぐと、信号がパルス波系に渡った時点でかなり丸まっており、折り返し方がゆるやかになる。反対にパルス波系>矩形波系とすると、浅い折り返しはある程度潰れるが深い折り返しは強調される格好になる(波形の紹介などはAudacityコーナーのもう少し複雑なイフェクトのページを参照)。
実際には、チューブ風のプリで微かに丸めてからペダルで折り返し歪みを足してドライブアンプで叩くとか、もっと複雑に組み合わせることが多いだろう。また一般にディストーションと呼ばれるイフェクタは、鋸波系歪み>矩形波系歪みの2段ゲインにしたり、ローカット>歪み>ドライから分離しておいたローを足す(低音が豊富な波形を強く歪ませると中域が混雑しすぎるため)とか、単体で深い歪みを作るための工夫がなされていることが多い。アンプでは、クリーントーンも出せるチャンネルをクランチチャンネル、歪んだ音に特化したチャンネルをドライブチャンネルと分けていることがある(違う基準で呼び分けていることもある)。
余談の余談:オーバードライブは筐体の色でキャラを主張している製品が多い(多いだけ)。山吹色のOD系とSD系、琥珀~緋色のHoney系、青のBD系と緑のTS系などである。銀色はブースターやTrue Tubeモノに多く見られる配色だが、ファズ(なかでもMuff系)の代表色でもある。
まずはやっぱり本体。同じメーカーの同じモデルでも(長く売っているので仕方ないのだが)微妙に仕様が異なり、リイシューモデルとオリジナルでもやはり仕様が異なり、なんとかカスタムとかかんとかスペシャルとか、ヘタをするとうんたらカスタム2とかかんたらカスタムスペシャルとかいう名前で派生ラインナップも出ていて、本当に混沌としている。弦の種類も他の楽器とは比べ物にならないほど多いし、ピックなんて販売サイトでリストを全部眺めきれないくらいある。
イフェクタも種類が多い。たとえばローランド(BOSS)の歪み系ペダルだけでも、オーバードライブ系、ディストーション系、ファズのクラシカルなラインナップから、オーバードライブ/ディストーション、フィードバッカー/ブースターなどの変り種、メガディストーション、メタルコア、メタルゾーンなどの深く歪む機種、コンボドライブやパワースタックのようなシミュレータ、FBMやFDRといったデジタルモデリングなど、呆れるくらい種類がある。
さらにアンプやキャビネットもえらく種類が豊富で、チューブやらソリッドやらデジタルやら、1発やら2発やら4発やら(マイナー機種には3発とか斜め2発なんかもある)、コンボやらセパレートやらヘッドフォン専用やら、なにがなんだかわからないくらいある。実機だけでなく、VSTプラグインなども(商用のものも非商用のものも)他と比べて「ちょっとおかしいだろ」というくらい種類が多い(ようするにエレキギタリストというのはそういう人たちなのだろう)。
ただし、すでに触れた本体や弦などに限らず、ポピュラーな製品というのはそんなにたくさんはない。
フェンダーとギブソンの有名モデルだけ。
フェンダーは、
ギブソンはというと、
初期のエレキベースは名称が紛らわしく、EB-1(ソリッドのヴァイオリンシェイプ)は52試作53年発売58年生産打ち切りで68年と69年に再発売、EB-2(セミアコ)が58年発売、EB-0の旧モデル(SGを丸くしたようなシェイプのソリッド:レスポールスペシャルのシェイプだそうな)が59年発売、SGシェイプのEB-0(1ピックアップモデル)とEB-3(2ピックアップモデル)が61年発売、だと思う。
経営の変遷を追いかけると、フェンダーは65年にCBSに売却され、85年にはBill Schultz(元ヤマハUSAの営業で、81年から勤務していたそうな)を中心とした従業員が会社を買い取る。2012年のIPO申請時点で、大株主はWeston Presidio(投資会社)、山野楽器、神田商会。ギブソンは69年からECLのCMI部門傘下、74年からNorlin Musical Instruments(Norlin Industriesの楽器部門:ECLのトップNortonさんとCMIのトップBerlinさんの名前をくっつけたそうな)の子会社になる。同じく74年にナッシュビルへの移転が始まり、75年に新工場が完成、カラマズー工場は特注品のみの生産に移行した後84年に閉鎖。このとき従業員の一部が独立しギブソンから工場などを買い取りHeritage Guitarsが設立される。86年にはHenry Juszkiewicz(2012年現在のCEO)、David Berryman、Gary Zebrowskiらに売却された。2012年からオンキヨーと業務資本提携している。
なお、マーティンのアメリカ移転が1833年(1838年に引っ越して本格生産開始)、山葉風琴製造所の創業が1889年、ダダリオがヴァイオリン用の弦を作って売り始めたのが1918年らしい。
50年のブロードキャスター発売から、BassmanとTwin発売、レスポール発売、ストラト発売、レスポールにハムバッカー搭載ときた57年くらいまでに最初期のサウンドが形成されたのだと思う。その後数年の間に、変形ギターや高出力アンプなどが製品化され、SGやTwin Ampが出てくる。Vox(JIM)のAC15とAC30は58年(トップブーストは60年代前半)、マーシャルのJTM45は62年らしい(アメリカの110~120Vに対してイギリスは220~240Vと商用電圧が違ったことも、イギリスアンプの普及を後押ししたようだ)。フルアコやセミアコもまだ主流の座にあり、グレッチ(フェンダーギターのお手本になったとか)の6120(チェットアトキンスモデルのカントリージェントルマンは6122)や、リッケンバッカーの300シリーズ(325など)が発売されたのも、ダダリオがピュアニッケルのワウンド弦を作り始めた(それ以前はニッケル合金が中心だったらしいが、ピュアニッケル自体がどこの発案なのかはわからなかった)のも50年代。ニッケルワウンド系のミディアムゲージを低能率なピックアップで拾い非力なアンプを引っ叩いていた時代。
日本でのギターやアンプ生産も早く、グヤトーン(東京サウンド:2013年1月31日に業務を終了)が50年代末、アイバニーズ(星野)が62年、グレコ(初期の生産はフジゲン)が63年くらいかららしい。リッケンバッカーはラジオ&テレビジョン・イクイップメント(フェンダーの代理店をやっていた楽器店)が53年にドイツ系のイロモノギター工房を買い取って始めたのだとか(製品として売られた最初のエレクトリックラップスティールと言われるフライングパンはここの製品で、販売期間は32年~39年:エレキギターに本腰を入れたのはラジオ&テレがフェンダーと切れた55年前後かららしい)。初代のダンエレクトロは40年代からアンプやエレキギターを下請け生産していた(66年に事業を売却、69年に生産終了している)。ちなみにFrench American Reeds Manufacturing Company(Mario Maccaferriというギタリストが手の負傷で引退後に作った会社で、64年に改称してMastro Plastics Corporation、69年に楽器部門をCarnival Industriesに売却)がプラスチックギター(ジェフベックが愛用していることで有名)を作り始めたのが53年(64年に生産終了)。
世間の動向としては、アメリカでのロカビリーブームが1955年ごろ、エルヴィスプレスリーのRCA移籍が1956年、バディホリーのコーラル移籍が1957年、スキッフルブームが一気に下火になったのが1958年、モータウンレコードの設立が1959年、ベンチャーズのデビューが1960年、ビートルズとローリングストーンズとボブディランのデビューが1962年、クラプトンのヤードバーズ移籍が1963年、ジミヘンドリクスが軍隊から追い出されてミュージシャンになったのが1964年(除隊は63年)、といった感じ。
フェンダーアンプがブラックフェイスへの移行を完了したのが64年で、余裕のあるクリーントーンが得られるようになった。60年代後半になり、ライトゲージの弦やマーシャルの1959(Plexi仕様)が出てくる一方、フェンダーがCBSに買収されトランジスタアンプやラージヘッドのストラトが出てくる。有名ギタリストが使い道を発見したことで、レスポール、マーシャルアンプ、各種変形ギターなどが人気になり、68年にレスポールがリイシューされる。イフェクタも充実して、Fuzz Faceが66年、Big Muffが68年、VoxとThomasのワウが67年(66年試作)、シンエイのUnivibeも69年にはギターに使われていたらしい。エレキギターサウンドの試行錯誤が本格化したのも多分この頃だろう。ピーヴィー、オレンジ、ハイワットなどがアンプを市販しだすのも60年代後半で、モーリスやハミングバード(トーカイ)やアリア(マツモク+荒井)やフェルナンデス(斉藤)がエレキを作り始めたのもこの頃。ワウンド弦の主流がピュアニッケルからニッケルメッキスチールに移行したのも60年代らしい。
一通りのネタが尽きて環境が落ち着くと、ハイゲイン傾向やサステイン重視が強まり、ギター本体も重厚なモデルが増える(ハウリングマージンを稼ぐもっとも直球な方法は、重いボディに硬いネックをガッチリくっつけることである:といっても、70年代後半のような極端なものではない)。混迷期的なモデルが出現するいっぽう、実用的な機能の実装も進む。マーシャルは69年にプレキシフェイスからメタルフェイスに移行(回路や部品もかなり変わる)、70年代半ばにはマスターボリューム付きの機種を発売する。72年にはメサブギがMarkIを発表、73年にはピグノーズから7-100Rが出てくる。G&Lとミュージックマンの設立が72年。ツェッペリンやピンク・フロイドやディープ・パープルあたりの調子が良かった時期と重なる。ロリーギャラガーのソロあたりは微妙に遅れるか。
70年代後半からは、新しいテクノロジーによるものと、熟成が進んだものと、袋小路的な進化で先鋭化したものと、特定ジャンル向けに特化したものと、復刻版やレプリカ的なものが、よりいっそう入り乱れる。フェンダーがストラトのボディにホワイトアッシュ(単にアッシュというとこれを指すことが多く、最初期のスワンプアッシュより重く硬い傾向がある)を使い出したのが74年、ギブソンがメイプルネックのレスポールを発売したのが75年か76年らしい。75年にJC-120とdistortion+、78年にOD-1とDS-1、80年にTS-808のワイドボディとOD-808のラージボディが出てくる。メサブギは78年にMarkIIを、マーシャルは81年にJCM800シリーズを発表。クイーンやエアロスミスあたりの調子が良かった時期と重なり、またアース・ウィンド・アンド・ファイアやABBAなども登場する。