エレキギターアンプ


共通事項 / Twin-Amp ('01) / AC30CC2X / JC-120 / 1960
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<この記事は不定期更新です>

ギターアンプの基礎知識については急がば回れのエレキギターの扱い方のページを参照。チューブアンプについては、中林歩さんのAyumi's Lab.というサイトに詳細な解説がある。

重要な情報
この記事は筆者がレンタルで使用した個体に関するもので、レンタル元へ納入後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。チューブアンプは個体差やメンテナンスの差が出やすい製品で、またレンタル品のため内部の部品交換などを把握していません。


共通事項

特定の機種に限定しない特徴。

エンクロージャ

エンクロージャ(キャビネットのガワのハコ)はオープンバック(背面開放or後面開放とも)とクローズバック(密閉型とか密閉箱とも)が主流。ベースアンプ用と違ってバスレフ構造のものやツイーター付きのものはほとんどない(ごく小型のモデルにバスレフのものがまれに見られるくらい)。

オープンバックは平面バッフルを折り曲げただけの構造(極端に太く短いので閉管としての振る舞いはほぼ無視できる、はず)で、スピーカ背面から出た逆相の低音が回り込んできてローエンドが弱くなる。軽いことや内部にアクセスしやすいことが特徴だが、ホコリが入らないよう注意したい。壁などとの距離に敏感なのはもちろん、スピーカ背面から出た高音の反射のコントロールなどでもキャラが変わりやすく、セッティングが奥深い。

クローズバックは空気をバネとして使う発想で、低域の落ち方が穏やかになる。空気バネの特性が体積(と吸音材の詰め込み方)で決まるため大きい方が素直な特性にできるのだが、板が1枚多いだけでなく丈夫に作らないと密閉する意味がない(音圧に負けて変形したら力が逃げてしまう)こと、箱が大きければ大きいほど変形しやすく補強が必要になることから、大きく重いキャビネットになりやすい。反面、小さいスピーカユニットで低域を出したいときにも使われ、この場合は小ささと材質の丈夫さで重さをカバーすることになる。

チューブアンプのパワー段は一般に、スピーカのインピーダンスカーブの影響を受けやすい。インピーダンスカーブは電気的な要素(誘導性リアクタンスなど)だけでなく機械的な要素(スピーカ自身やエンクロージャによる共鳴など)にも左右され、密閉型エンクロージャに入れるとf0にあったピークが鋭くなり高い周波数にシフトする。インピーダンスが上がる周波数域ではゲインが上がり制動が弱くなる(といっても正常な設計であれば高々6db)。

スピーカユニット

スピーカユニットの大手メーカーはCELESTION、EMINENCE、JENSENで、10~12インチの8~16Ωがメインストリーム。一部に8インチや4Ωのラインナップもある。2~4KHzくらいの中高域にピークを持ったものが多い。12インチクラスだと3~5kgくらいのものが中心。アルニコ磁石を使ったものは経年変化で磁力が弱まりやすいため注意が必要。ネオジム磁石は温度上昇に対する磁束密度低下が大きいが、普通のもので80℃くらいまでは使えるので実用上の影響はないだろう(フェライトは200℃、アルニコは500℃くらいまで耐えるが、そんなに温度が上がったら導線の抵抗が上がってコイルが焼き切れる:キュリー温度(Tc)に至っては気にしても意味がない)。

大手の中でもっともノーマルな感じのスピーカをラインナップしているのはセレッションで、穏やかな特性のものが多い。6~8dbくらいの中高域ピークからやや粘ってハイが落ち、ごく高域で微妙に持ち直すような格好、ローも150Hzくらいからダラっと落ちるのが特徴。100Hz~1KHzくらいまでは平坦傾向。インピーダンス変動は資料が見つからなかった。12インチだと4kg台のユニットが多い。イギリスメーカーなのでVoxやマーシャルに採用されていることが多い。

エミネンスはもう少しクセのある感じで、10dbくらいの中高域ピークからハイがストンと落ち、ローも150Hzくらいからスルスルと落ちる。ピーク手前の1.5KHzくらいに大きなディップがあり、1KHz周辺が微妙に持ち上がっているモデルもある(この特性自体は珍しいものではないが、ガッツリと落ち込んでから急激に立ち上がる)。100Hz~1KHzくらいまでは平坦傾向。フェライトを使ったラインナップが多いせいかインピーダンスが暴れるものが多く、とくにf0では8Ωユニットでも100Ωの大台を超えるものがある(高域も50Ωくらいは余裕で超えてくる)。測定条件が「applying 1W/1m into the nominal impedance. Ie: 2.83 V/8 ohms, 4 V/16 ohms」「microphone (software calibrated) mounted 1m from wall/baffle」「2 ft. X 2 ft. baffle is built into the wall with the speaker mounted flush against a steel ring for minimum diffraction」「Hafler P1500 Trans-Nova amplifier」「2700 cu.ft. chamber with fiberglass on all six surfaces」らしく、繋ぐのがチューブアンプだともう少しローとハイが出るはず。15インチのラインナップが豊富なのも特徴。3kg台後半のユニットが多い。アメリカメーカーなのでフェンダーアンプに使われていることが多い。

ジェンセンは超絶変態仕様で、機種によってもかなり違うが、基本的には中高域がバキっと突き抜けるように出て、400Hz周辺に変なディップがあり、150Hz付近(f0よりちょっと上くらい)にまたモコっとピークがある(データ採取は平面バッフルでやっているそうな)。1.5KHz周辺のディップは目立たない機種も極端に深い機種もある。インピーダンスの暴れ方もモデルによる差が大きいが、フェライトの機種でもエミネンスほどは暴れないものが多い。リイシュー系のモデルが多いせいか8インチ以下のラインナップもけっこうある。3kg以下から5kg超までバリエーションがあるが、どちらかというと軽量モデルが目につく。ここもアメリカメーカーだがイタリアのSICA(ベースアンプやPAスピーカ用のユニットを作っている)に買収された。リイシューもののアンプや軽量安価なモデルなどに使われている例がある。

EQ

エレキギターアンプのEQはメーカーによりクセがあるが、調べてみると各社ともなるほどと思わせる合理性を備えている。以下、Duncan's Amp Pagesというサイトで公開されているTone Stack CalculatorというソフトでシミュレートしたEQ特性を紹介する。カーブ全体の上下位置は損失の度合いを示すだけ(上下の平行移動に相当するボリューム調整で相殺できる)なので、とりあえず無視してよい。また、エレキギターの最低音(レギュラーチューニングの6弦開放で82.41Hz、ドロップDでも73.42Hz)より下を出す必要はないことに注意して欲しい。グラフは機種差や個体差を考慮しておらず、出力トランス、スピーカユニット、エンクロージャ、パワー段の帰還ゲイン、設置する部屋の特性、カップリングコンデンサによるロー削りなども無視している。ギターアンプ用の12インチスピーカユニットは、低域が70~75Hzくらい、高域が5~6KHzくらいで10dbドロップするものが多い。

クリーンアンドラウドっぽいセッティング(ハイを基準に設定することが多い)を想定して、ベースブースト+1kHz周辺カット+ミドルコントロールがある機種は最小に設定するとこんな感じ。ハイエンドにクセを出す場合はプレゼンスで持ち上げることになるだろう(プレゼンスが「トレブルよりも高い周波数のコントロール」用だと説明されるのは、この使い方を前提にしているのだと思う)。

スカーレット(下)がフェンダー(ベース最大ミドル最小トレブル6分の1くらい)、ダックブルー(中)がVox(ベース10分の9トレブル4分の1ちょっと)、シルバー(上)がマーシャル(ベース最大ミドル最小トレブル3分の1ちょっと)。Vox(CCシリーズのカスタムEQなどは挙動が違うので注意)だけ低域ブーストにやや余裕があるが、ここからベースをさらに上げても、100Hz以下のごく低域が持ち上がって中高域の特性が乱れるだけなので最大にはしなかった(Voxの特徴として、ベースを9割くらいより上げると中高域への干渉が加速度的に強まり、99%~100%の間でとくに大きな変化が出る)。

暴れるハイを押さえ込みながら、歪むばかりで追いついてこないローエンドをとにかく叩き(叩いてもローは厚くならないが歪みが増す)、中域のディップで隙間を作るというクリーンアンドラウドの基本線は共通で、もっともその傾向が顕著なのはフェンダーだろう。10KHzから見て、1KHzのディップは-11dbくらい、100Hzの持ち上がりは+12dbくらい。マーシャルはローの持ち上がりが少なく+6.5dbくらいで、歴史的経緯(bassmanの回路を参考にしたとかなんとか)はともかく現在のキャビネットの都合に合っている(フェンダーの代表的構成といえばTwinの12インチ2発だろうが、それに対してマーシャルの代表的構成は1960A+1960Bなどで、低域の効率が高く歪み始めるまでのマージンも大きい)。低域の歪みが少なければ中域のディップも小さくなり-8.5dbくらい。Voxのカーブをローブーストが控えめと見るかハイが全般に厚いと見るかは微妙なところ。AC30はスピーカへの出力が小さいため、ローエンドを引っ叩いたりハイエンドをねじ伏せたりする必要性があまりなく、穏やかなカーブの方がマッチするのだと思われる(設計を間違えて変な挙動になったという説明もあるが、出力自体はそれなりに考えて作られている印象:もちろん、挙動が変だというのは否定しない)。ただしキャビネット歪みはけっこう出る。

通常音量域だとキャビネットは比較的リニアに働いているはずで、10KHzに対して100Hzが-10db、中域のディップがさらに-5dbになるようハイ上がりサウンドを作るとこんな感じ。

フェンダーはベース4分の1ミドル最大トレブル5分の4、マーシャルはベース8分の1ミドル最小トレブル最大、Voxはベース12分の1トレブル4分の3くらい。中域のディップが鋭いフェンダーvs緩やかなマーシャルで、ミドルの設定が両極端になった。ハイ上がりとはいってもアンプのツマミでトレブルが上がっているだけで、実際には5~6KHz周辺がスピーカユニットの特性で1KHzよりも10dbくらい落ち、反対にハイミッドはスピーカ特性で持ち上がるので、ハイミッドにピークができてごく高域が落ち込む形になる。低域も70~75Hzくらいで10dbドロップするが、キャビネットの特性(オープンバックだとより周波数依存の強いカーブになりやすい)も出る。

フェンダーはごく低域の持ち上がりが特徴的で、中域のディップも低い周波数、スピーカユニットでのロー落ちに対してバランスを取っているのだと思われる。マーシャルは反対の方針でローミッド勝負、ごく低域は落ちるに任せている。Voxは相変わらず中庸で、マーシャルのカーブを穏やかにした感じにも、フェンダーのクセを中和した形にも見える。キャビネット形式の違いも考慮すると、マーシャルにより近い感じだろう。全体的な損失がけっこう大きく、マーシャルと比較すると10dbくらい落ちる。こうして並べると、ローエンドを持ち上げてローミッドを削るフェンダーのやり方が特徴的である(ほかの2つと比べてディップ周波数が1オクターブくらい低く、1弦開放の基音くらいの音域)。

EQカーブの比較

フェンダーでベース半分ミドル4分の3トレブル半分、マーシャルでベース最大ミドル4分の1トレブル4分の3、Voxでベース5分の1トレブル5分の3くらいにすると、スピーカユニットの特性と合計でだいたいフラットな特性になる(中高域に穏やかな、中低域にごく穏やかなピークができる)。

EQ自体のキャラはあまり出ない設定で、クセが残っているフェンダーもベース4分の1ミドル半分トレブル4分の1にしてプレゼンスやブライトスイッチでハイを補うと他と似たようなカーブになるが、

どうせフェンダーアンプを使うならトレブルは上げめにしてローミッドの削れたサウンドを楽しみたい気もする。

Voxとフェンダーの関係は面白く、フェンダーのベース3分の1ミドル半分トレブル3分の2とVoxのベース3分の1トレブル3分の2を比べるとハイシェルビングイコライザをかけた感じでVoxのハイが弱く、

Voxだけトレブルを全開にすると似たようなカーブでハイエンドが伸びる特性になる。

フェンダーの特性をVoxに似せるには、トレブルを下げてベースを少し上げプレゼンスを入れてやればよく、Voxの特性をフェンダーに似せるには、ブリリアンスで高域を全体に持ち上げるかトレブルを上げてCUTで削ればよい、ということのようだ。Voxのトップブースト(ブリリアンスユニット)はブライトスイッチが強制オンで、ゲインが下がるにつれハイ上がり傾向になることにも注意。

最後はドライブトーンで多用されるであろうトレブル全開サウンド。

フェンダーはベース半分ミドル最小、マーシャルはベース最小ミドル半分、Voxはベース10分の1、トレブルはすべて最大。中低域をガバっと掘ってローエンドを持ち上げるフェンダー、ミドル特盛りでローエンドをスパっと捨てるマーシャル、穏やかに中域を抜きつつハイエンドを伸ばすVoxと、それぞれの特徴がよく現れていると思う。


Twin-Amp ('01)

FenderのTwin-Ampについて。筆者が所有する機材ではなく、よく使うリハーサルスタジオに常設機材として置いてあるもの。1部屋に1台あるがすべて01年モデル(当然ながら購入時期や使用頻度などは不明)。

全体的なキャラとしては「真空管使って大雑把に増幅しました」と言わんばかりのアメリカンテイスト(日本で設計したわけではないのかなぁ)でありながら、雑味は多いが癖はつけないというか、キャラ自体は素直な感じ。AC30CC2Xとはいろんな意味で好照的だと思う。

とりあえず、消えないうちに仕様をメモっておこう。2013年1月現在のフェンダージャパンの公式サイトより。

Price:
\283,500 (税込)
Output:
100 watts into 4 ohms
Tubes:
4 X 6L6,7 X 12AX7A, 1 X 12AT7, Solid State Rectifier
Power Handling:
N/A
Speakers:
2-12" Special Design Eminence 8 ohm, 50 watt Speakers
Controls:
[Normal Channel] Volume, Bright Switch, Treble, Bass, Middle,
[Drive Channel] Gain, Treble, Bass, Middle, Volume, Channel Select Switch,
[Reverb,Tremolo] Speed, Intensity, Presence
Weight(Kg):
36.3
Size(HxWxD)cm:
50.7 x 67.3 x 32.8
Accessories:
4-Button Footswitch for Channel Switching, Effects Loop On/Off, Reverb On/Off,Tremolo On/Off,
Cover,Removable Casters
フェンダージャパンの扱いではSuper-Sonicシリーズ(Twin Comboとは別製品:94年モデルのマニュアルには「ツインリバーブやベースマンの直系」とあり、01年モデルのマニュアルには「Pro Tube series」の文字が踊っている)のようで、2013年1月現在筆者が探した限りFenderUSAでは扱っていないラインナップ。

モデルチェンジ前後でけっこう仕様が異なる('01Twin-Ampのマニュアル'94Twin-Ampのマニュアル)。すぐにわかるのがブライトスイッチとチャンネルセレクトスイッチで、94モデルはボリュームノブをプル、01モデルはラッチ式のボタン。実質的なチャンネル数も94モデルの3つ(Channel One CleanとChannel One Vintage DriveとChannel Two)から2つ(Normal ChannelとDrive Channel)に減った。背面開放キャビネットに12インチ2発という構成は同じだが、出荷時搭載ユニットは94モデルの「Two Fender P / N 026488 Special Design 12” 8 ohm speakers wired in series.」から01モデルの「2-12" Special Design Eminence 8 ohm, 50 watt Speakers」になった(エミネンスっぽさはキツくなく、セレッションのサウンドに近いような印象)。背面パネルの見た目もけっこう違い、センドリターンが普通のボリュームツマミになっている。

マニュアルの日本語は崩壊しているが回路図があった(この辺のアンバランスさがアメリカンだよね)ので、大まかな流れを(わりと本格的な図なので筆者はあんまり理解できなかったがなんとなく)まとめるとこんな感じだろうか(クリーンチャンネルとドライブチャンネルは選択式、センドリターンはシリアル)。

役割とか種類とかを区別しないで(というか筆者は区別できないため真空管が入っているところをヤミクモに)ただ「アンプ」と書いたが、単純なバッファや位相反転アンプなどもあるだろうから実際の増幅段数はもっと少ないと思う(多分)。パワー段はよくわかんないので略(わかる人が見ないと意味がないだろうし、わかる人は筆者のインチキ図より本家の資料を見た方が早い)。

操作の基本

クリーンチャンネルはワンボリュームで、ギターの性能やアンプのコンディションや後述するEQのセッティングでも大きく音量が変わるのだが、目安としては2前後にすると生ヴォーカルと合わせてちょうどくらいになる(ギタリストとヴォーカリストの両方が一定以上の技量を持っている場合)。4くらいまで上げると小さなスタジオでは耳がやられるくらいの音量(危険なので安易に試さないこと)、背面パネルのアウトプットスイッチを「1/4」にすると6dbくらいアッテネートされ、キャビネット歪み(もともとそんなに派手ではない)を抑えつつパワー段歪みを出せる(この機能自体は、87~94年に製造されたTwin Reverb IIのレッドノブモデルにもあった)。ドライブチャンネルはゲイン+ボリュームで、ゴリゴリしているがカドはない不思議な質感。

フェンダーアンプのEQは基本的に、ベースとトレブルがシェルビングのブースター(最小でノーブースト:パッシブなので実際には削っているだけだが、出力的に)っぽい挙動を示し、ミドルは帯域カット(最大でノーカット)を基本にしつつ「ブーストされていない帯域を巻き込んで」かかる。トレブルを上げるとミドルの作用ピークが下がり、トレブルが4分の1だと800Hz、半分だと400Hzちょっと、全開だと300Hzがピーク(いわゆるMidFreq)になる。ミドル操作によるディップのでき方もやや変わり、トレブル全開だと狭く、半分だとやや狭く削れて、そこからだんだん広い削れ方になる。

結果的に、ベースとトレブルが両方最小だとミドルがボリュームのように効き、両方最大だとノッチのように振る舞い、片方最大でもう片方が最小だと低い方の平坦部をスロープに巻き込むような形になる(ベースorトレブルを最大にして残りの2つを最小まで絞ると、単純なローパスorハイパスフィルタに近付く)。たとえばトレブル7、ベース5、ミドル10から、トレブル7、ベース5、ミドル5とミドルを下げるのと、トレブル9、ベース9、ミドル10とトレブルとベースを上げるのとでどう違うのかというと、前者は単純にディップが深くなるのに対し、後者はボトムエンドとトップエンドがやや持ち上がりつつディップ周波数が低域にシフトする。

12インチフルレンジ2発+背面開放ということは、キャビネット部分はハイが弱くミドルが出てローがそれなりくらいだろうから、アンプヘッド部分の特性と合算して考える必要がある。クリーンドライブを問わない性能上の最大音量を、同じ12インチ2発背面開放のAC30C2と比べると、パワーアンプの出力で5db、スピーカユニットの効率で多分5dbくらい上積みされて10dbくらい大きい(ドンブリ勘定で最大125dbSPL@1mくらいの)はず。

クリーンチャンネル直結

クリーンチャンネルは低音がやたらと出る。フェンダーさんの「ウチのギターは低音が出ない?カシャカシャ?そんなことありません、他が出しすぎなだけです」という熱いメッセージがヒシヒシと感じられるくらいに出る(シングルコイルでEQ全部5にするとけっこうバランスの取れた音色になるはず)。ダブルコイルのギターだと、本体はフロントピックアップでフルテン、ボリューム2、トレブル5、ベース2、ミドル10、プレゼンス0くらいから出発して、トレブルとベースはブースト、ミドルはカットの方向で設定していくとラクだろうか。この機種の場合、EQについての項で紹介した典型的なフェンダーEQよりはミドルの効きが穏やかな(というかミドル10の時の削れ方が少ない)ようだ。

まずボリュームとトレブルのバランス(他への影響が大きいので早めに決めたい)を検討する。必要十分なハイが得られる範囲で、ボリュームを上げてトレブルを下げるとミドルの効きが高音側に寄り、ボリュームを下げてトレブルを上げるとミドルの効きが低音側に寄る。仮決めしたら高音と釣り合うようにベースを調整する。オープンバックのため壁際に置くととくに強い影響を受けることに注意。フラットピックでガシャっとストロークして、低域と高域を「暴れすぎる手前」に持っていくのが筆者のパターン。プレゼンスを上げると高域の荒っぽさが増すが、ボリュームを上げると勝手に荒れるので、さらに荒っぽさを足したい場合に使う(プレゼンスを入れたらトレブルを少し絞るか、ボリュームを下げてベースを上げる)。ブライトスイッチは高域だけボリュームを素通りさせる(シェルビングイコライザで持ち上げたような効きになる)もので、MID FREQを変えずに高域をブーストできる。

ベース控えめトレブル多めのセッティングだと、ミドルは中低域のディップと低域全体のボリューム感に影響することになる。中低域をスッキリさせておくことは全体の音色にとってメリットが大きく、また低音域の必要量はソロかベーシストがいるバンドかで変わる。ごく低域だけボリュームを出すならトレブルとベースを両方上げてボリュームを少し絞り、ミドルをトレブルとベースの上げ幅と同じくらい下げるとよい。ここで反対にミドルを上げると普通のドンシャリになる。低域全体を薄めにしてディップも緩やかにするなら、ベースを少し下げてミドルを上げればよい。さらにトレブルも少し下げてやれば全体がもっと穏やかな特性になる。目的意識を持って操作しないとワケがわからなくなるので注意しよう。

筆者がレンタル品のエピフォン製レスポール(以前はSITのライトゲージだったと思うが、スーパーライトゲージに変わったっぽい:変わったのがゲージだけなのかどうかは不明)に合わせると、だいたい、ボリューム2~3、ベース2~4、トレブル6~7、ミドル8~9、プレゼンス2くらいになることが多い(個体差もあるし部屋の都合もあるしその日の気分もある:レンタル品のレスポールは2本あるようで、ピックガードなしの機種が当たった日はベースをもっと上げている)。

この状態はアンプの懐の広さを活かせる設定で、少なくとも筆者(フロントを使ったりリアを使ったりミックスポジションにしたり、分厚いカーボンナイロンやらUltemジャズピックやらペラペラTortexやらをコロコロ使い分け、指弾きでは嘘スラップにプラッキングにラスゲアードセコもどきと、とにかく落ち着きがない)は、いったんセッティングしたアンプをほとんどイジらずに弾いている(ボリューム操作やチャンネル切り替えは頻繁にやるけど)。なお、トレブルを下げた分はブライトスイッチで補う手もあり、ハイブーストの効きがボリューム依存になるため一時的に音量を上げたときにハイが暴れにくくなる(ボリュームを上げるほど聴覚上のローが厚くなるセッティング)。

ドライブチャンネル直結

ドライブチャンネルは歪みがやたらと深い。フェンダーさんの「ウチのギターは音量が出ない?ペナペナ?そんなことありません、他が出しすぎなだけです」という熱いメッセージがヒシヒシと感じられるくらいに深い。シングルコイルのリアピックアップでリードプレイをするとしても、ゲインは8くらいにすれば十分だろう(ダブルコイルのフロントからゲイン10に突っ込んだ音も楽しいけど)。

SUNN(フェンダーに買収されたアンプメーカーで、なんでも、the Kingsmenというバンドのベーシストが自分用にベースアンプを作っていたのが始まりだそうな)の回路を組み込んだとかなんとかで、事情はともかく使い勝手のよい音が出る(ゲインさえ上げすぎなければ)。

ドライブチャンネルのEQはノーマルチャンネルと定数が違う。マニュアルに「TREBLEは、MIDDLEが3以上に設定されると効果が薄くなります」とあるように、ミドルでトレブルの効きをコントロールできるのだが、筆者はトレブルを10に固定してミドルで変化を付けベースを微調整する手順の方が好き。中域のディップは1KHzあたりから動かず、トレブルはディップからの持ち上げ量を操作する格好、ベースはシェルビングとピーキングの中間みたいな感じ。ベース3分の2、トレブル全開、ミドル全開くらいだと、スピーカ特性と合計でだいたいフラットくらいだろう(EQ回路だけ見ると、ベースとトレブル最小のミドル最大でほぼ平坦)。

ダブルコイルのギターで普通に使う場合、ゲイン小さめのEQフルテンから削るのが早いと思う。本体はフロントピックアップでフルテン、ゲイン1.5くらい(音量が急激に落ちる手前)、ボリューム4~5、ベース10、トレブル10、ミドル10くらいから出発するとラクだろうか(プレゼンスはクリーンチャンネルの都合に合わせたままで大丈夫)。

ローを軽く削ったらミドルを調整、絞った方がスマートでスッキリとした音になるが、あまり絞らず押しの強さを残しても面白い。微調整はベースだけやればOKで、やはりフラットピックでジャカジャカとストロークして低域がダブつく手前に持っていく。筆者の設定はだいたい、ボリューム5~6、ベース7~8、トレブル10、ミドル5くらい。

ドライブトーンもやはり懐が広く、ゲインを絞ったままクランチで弾いても楽しいし、上記からボリュームをやや下げゲインを4くらいまで上げてドライブトーンにしてもキモチイイ。

イフェクタとの併用

歪ませるポイントは以下の通り。

外部のブースターでプリ段を歪ませる、ドライブチャンネルの内蔵イフェクタを使う、音量によりパワー段やキャビネットなどで勝手に歪むのに任せる、と大きく分けて3通りの歪みを得られる。

チューブスクリーマーで軽く歪ませてからクリーンチャンネルに通すと、独特の暴れるキャラが緩和される。おとなしくなりすぎない範囲でトゲだけ抜いてやれば、扱いやすさと音色の魅力を両立できる(はず)。

クリーンチャンネルが歪みにくい作りなので、外部イフェクタは全般に違和感なく使えるが、ドライブトーンが欲しいなら素直にドライブチャンネルを使うのが妥当だろう。チューブスクリーマーを繋ぐと歪みのキャラが普通に変わるし、ブースターっぽくプリ段を叩くこともできる。

リバーブは内蔵のものが高品質なのでムリに別途用意しなくてもよいだろう。センドリターン端子があるのでディレイも普通に挟める(出力レベルを変えられるので、ラックではなくペダルを使うのも手軽)。


AC30CC2X

VoxのAC30CC2Xについて。筆者が所有する機材ではなく、よく使うリハーサルスタジオにレンタル機材として置いてあるもの。スタジオ全体に1台だけ。

全体的なキャラとしては「変態的な挙動とどこまでも音色を作り込める繊細さ」が同居する不思議なアンプ。音色の多彩さを喩えると「1m刻みで10段階の選択」ではなく「1cm刻みで100段階選べる」感じ。Twin-Ampとはいろんな意味で好照的だと思う。

Custom Classicシリーズはすでに生産終了したラインナップで、2010年2月発売のCustomシリーズ(AC30C2など)が後継機種。本家サイトから仕様を抜き出しておくと、

VOX AC30 Custom Classic Specificaitons

Front panel controls:
Inputs x 2 (Top Boost & Normal);
Input Link Switch for blending channels;
Normal Volume;
Brilliance Switch;
Top Boost Volume;
Treble;
EQ Standard/Custom Switch;
Bass; Reverb Controls (Tone, Mix, Dwell Switch);
Tremolo Speed & Depth;
Tone Cut;
Master Volume;
Standby Switch;
Power Switch

Rear panel controls
Loudspeaker output jack x 2 (Extension & External);
Output (O/P) Impedance Select (8 or 16 Ohm);
Output Bias (82 "Warm" or 50 "Hot");
Smoothing (22uF "Vintage" or 44uF "Modern");
FX Loop (Send, Return and Bypass Switch);
Footswitch Jack (Tremolo and Reverb);
HT Fuse;
Mains Input;
Mains Fuse;

Valve/Tube Complement:
4 x EL84/6BQ5 --- 3 x 12AX7/ECC83 --- 1 x GZ34

Model Dimensions/Weight:

AC30CC1 60.94 lbs. 24" (W) x 10.4" (D) x 21.25" (H)
AC30CC2 76.21 lbs. 27.75" (W) x 10.4" (D) x 21.25" (H)
AC30CC2X 76.87 lbs. 27.75" (W) x 10.4" (D) x 21.25" (H)
AC30CCH 46.07 lbs. 24.2" (W) x 10.4" (D) x 10.83" (H)
V212BN 47.65 lbs. 27.75" (W) x 10.4" (D) x 21.25" (H)
V212BNX 48.22 lbs. 27.75" (W) x 10.4" (D) x 21.25" (H)
V412BN 90.33 lbs. 27.95" (W) x 14.37" (D) x 30.7" (H)

*Specifications and features are subject to change without notice.
だそうだ。CC2とCC2Xはスピーカと重さだけが違う模様で、マニュアルによると
AC30CC1: 1x12" combo with a custom voiced VOX NeoDog speaker
AC30CC2: 2x12" combo with a pair of custom designed GSH12-30 speakers which add a top end mellowness and smooth bass response
AC30CC2X: 2x12" combo with the world revered Celestion “Blue” 15 watt AlNiCo speakers as used in the original AC30 combo
といづれもカスタムスピーカのようだ。2013年1月現在のラインナップで、セレッションの12インチ8ΩアルニコブルーというとBLUE/8(15W、100dB、75Hz~5KHz)、GSH12-30はよくわからないが後継のAC30C2が採用しているG12M GREENBACK/8(25W、97dB、75Hz~5KHz)の派生だろうか。Twinと同じく12インチフルレンジ2発+背面開放なので、ハイが弱くミドルが出てローがそれなりくらいだろう。クリーンドライブを問わない性能上の最大音量をTwinと比べると、パワーアンプの出力で5db、スピーカユニットの効率で多分2~3db(ブルーバック)or5db(グリーンバック)くらい落ちて7~8or10dbくらい小さい(ドンブリ勘定で最大112or110dbSPL@1mくらいの)はず。

コドモ・ドラゴンとその仲間というブログにAC30シリーズ基本部分の非公式なブロックダイアグラムを掲載したエントリーがあったので紹介しておく。筆者がサービスマニュアルを眺めながらひねり出した図はこちら。

例によってアンプの種類はごちゃ混ぜ(筆者は把握していない)、センドリターンはシリアル。チャンネルリンクの合流に差動アンプを使っているのが面白い。整流回路に半導体ダイオードではなくダイオードチューブ(GZ34/5AR4)を使った気合の設計でありながら、信号回路の途中にはサラっとオペアンプを入れるセンスも筆者好み(そして気合の入れすぎでユーザーから生ヌルいリアクションが返ってきて、ヘコんで消沈するあたりも愛くるしい:ちゃんと確認していないが、どうやらC2からはソリッドステート整流に変えた模様)。

操作の基本

非常に凝った操作体系で、ほとんど全部盛りに近いバリエーションを誇る(後継機種ではここまで変態的なことはやっていない模様)。

インプットはトップブーストとノーマルの2つだけだが、インプットリンクスイッチがついており、パッチケーブルなしでチャンネルリンクができる(トップブーストからノーマルへ分岐:ノーマルチャンネルのインプットは無効になる)。普段はこれをオン(下=キャビネット背面側)にしておき、各チャンネルのボリューム操作で使い分けるとラクだろうか。分岐する影響か微妙にゲインが落ちる気がする(気のせいかも)ので、ノーマルチャンネルしか使わないならノーマルチャンネルに入れればよいだろう。

モダンモデファイだけあってマスターボリュームとマスタートーン(TONE CUT)がある。マスターボリュームは普通でノーマルチャンネルにも効いてくれるのが便利。CUTはパワー段のトーンコントロール(回路を見る限り普通のハイカット)なのだが、時計回りに回すとハイが削れ、反時計回りに回すとハイが強く出る(マニュアルに「What this does is the opposite of what you may think.」とあり、わかっているなら操作を反対にすればよさそうなものである:まあKORGとVoxがタッグでやってることだから、深くは追求するまい)。

マスターボリュームの効きにもちょっとクセがあって、小音量域は一気に立ち上がり大音領域は変化が緩やかに感じられる。とくに、プリ段を完全フルテン(チャンネルリンクしてボリュームとEQを全部最大)にすると、実用音量域の下限がけっこう大きめになる(個体差はあるが、Twinよりはデカい音になるはず:まともな声量が出せないヴォーカルだとマイクが欲しくなるくらい)。また感度100dbクラスのスピーカ2発に15Wづつ突っ込めることからもわかるように、最大音量は生ドラムなんぞ問題にならないくらいのレベルだが、さすがにTwinほどパワフルではない(危険なので安易に試さないように)。

ノーマルチャンネルはボリュームとブリリアンススイッチのみ。ブリリアンスはようするにブライトスイッチ(高域だけボリュームをバイパスさせる)で、上(キャビネット前面側=Brillianceと書いてある方)がオフで下(キャビネット背面側=何も書いていない方)がオンである(いつものことなので気にしないでおこう:名前が変なのはトーン回路をブリリアンスユニットと呼んでいた名残だと思う、多分)。この2つとマスターコントロール(と後述する背面パネルの設定)で音を作るわけだが、地味ではあるもののごく多彩な変化が可能である。

トップブーストチャンネル(クランチチャンネルのようなもの)には2極EQとスタンダード/カスタムスイッチがついている。EQをスタンダードモードにするとVox独特の「インタラクティブEQ」(トレブルを上げると低域が削れ、ベースを上げると高域が削れる)に、カスタムにすると比較的普通の効きになる(インタラクティブEQの方を「スタンダード」と言い張るあたりがお茶目さん)。両方のノブを平行(同じ値)にするパラレルセッティングや、対称(片方上げたら片方下げる)にするシンメトリックセッティング、片方だけ固定してもう片方を動かす方法などで音を探すのが便利なため、筆者はスタンダードモードを使っている。

チャンネルリンクも面白い。もとは音量を稼ぐ(というかパワー段をオーバードライブする)目的だったのだろうが、EQが変態的なため、クリーンに近い音同士をミックスしてやるだけで妙にクセのある音色を作れる(グループディレイで位相がぶつかるのだと思う、多分)。もちろん、トップブーストチャンネルを強くオーバードライブしてノーマルチャンネルを「芯」のように使うこともできるし、ブリリアンスオフのノーマルチャンネルにハイブーストしたトップブーストチャンネルを混ぜても面白い。なお、チャンネルリンクを有効にするとノーマルチャンネルのインプットが無効になる。

リバーブとトレモロは両方のチャンネルにかかる。リバーブにはモード選択スイッチがあり、Low Driveがハイゲイン用でHigh Driveがローゲイン用らしい(ようするにウェット成分専用のオーバードライブで、すでに潰れている場合には弱く、クリーントーンなら強く叩こうという趣旨なのだと思うが、あいかわらず表記がアレである)。

背面パネルには出力管のバイアス設定まであり、82 Warm(クリップ手前出力が約22ワットで、狭いヘッドルームと暖かい音色「similar to an early 4 input AC30」らしい)と50 Hot(クリップ手前出力が約33ワットで、広いヘッドルーム「similar to a standard 6 input AC30」らしい)が選べる。パワー段が無帰還自己バイアス(カソードバイアス)で強く叩くと独特の歪みが出るらしく、82Ωにするとその辺の荒っぽさが出る前に頭打ちになる(矩形波系の歪みが先に取って代わる)。

さらにはスムーシングスイッチ。平滑回路(smoothing circuit)のフィルタ用キャパシタ(filter caps)=ようするに平滑コンデンサの容量を操作する(音色がスムーズになるスイッチではない)。22μf Vintage(オープンでルーズなサウンドだがハムが微妙に増え「similar to vintage AC30s」だそうな)と44μf Modern(タイトなサウンドでノイズが減り「act more closely to a modern AC30 such as the hand wired AC30HW」だそうな)が選べる。22μf Vintageはゴーストトーン(ギターの音程と異なる小さな音)が出るのが特徴らしい(発想としてはMesa/BoogieのRectifierシリーズが先なのだろうが、もともと細かい芸にさらに細かく張り合うのがVoxの見上げたトコロである)。

ノーマルチャンネル直結

たいへん奥が深い。基本的に、ブリリアンススイッチのオンオフ、チャンネルボリュームとマスターボリュームのバランス(とくにブリリアンススイッチをオンにした場合、チャンネルボリュームを絞ってマスターボリュームを上げると高域が強まり、チャンネルボリュームを上げてマスターボリュームを下げると高域が弱まる)、マスタートーンあたりで音色を調整する。EQを通らないためミドルが削れないことと、ブリリアンスをバイパスできることが特徴になるだろう。

バイアススイッチはパワー段歪みの質と量を変えるもので、パワー段が歪むほどの音量(リハスタクラスの部屋で出す人はあまりいないと思う:ツマミを背面から操作する前提であることからもわかるように元はPA用の機器で、狭い部屋の中で使うのは本来の用途でなく、ガンガンにぶっ叩くのはかなりムリがある)を出さないならあまり気にしなくてよいかもしれない。スムーシングスイッチは好みでよいが、どちらかといえば44μfが無難だろう。

高域をイジれる要素として、ギター本体のトーン、ブリリアンス、マスタートーンと少なくとも3つあるわけだが、どれを使ってもそれぞれに味のある変化で、ブリリアンスで持ち上げてマスタートーンで絞るとか、ギター本体のトーンをやや上げてマスタートーンもやや上げるとか、組み合わせた設定も面白い。

筆者としては、ギター本体のトーンは8割くらい(イジりたいときにサっとイジれるよう余裕を残しておく)にしてブリリアンスを入れ、チャンネルボリュームは歪み方と相談、最終的な出力はマスタートーンで調整するのがラクだと思う(まあ妥当といえば妥当な使い方)。

トップブーストチャンネル直結

ノーマルチャンネルとの大きな違いは、ボリュームの後ろに歪ませ用のアンプがあることとEQがついていることである(反対に言えば、歪ませアンプと2極EQがいらないならノーマルチャンネルの方がスマート)。歪み方は「細かくてトガった」感じ、スタンダードEQの効きも楽しい。

ゲイン、EQ、トーン、ボリュームで、これまた細やかな作り込みができる。やはり、ゲインとボリュームで歪みの深さを調整し、EQで大まかに絞ったり持ち上げたりして、トーンで仕上げというのが無難だろうか。こういう「1箇所動かすと他も連動する」タイプの操作体系では、大まかなところを大まかに決め、細かいところを細かく検討するというメリハリが重要になる(仮決めとブラッシュアップを明確に分け、一気に決めようとしない方がよいと思う)。

ゲインを上げれば「しっかりと歪む」ということに間違いはないのだが「増幅でごんす」「クリップでごんす」「ディストーションでごんす」と直球でぶっ通すわけではないのがAC30(実際、メーカーの主張としては「クリーンチャンネルとドライブチャンネル」ではなく「ノーマルチャンネルとトップブーストチャンネルorブリリアンスチャンネル」である)。

イフェクタとの併用やチャンネルリンクなど

歪ませるポイントは以下の通り。

外部のブースターでプリ段を歪ませる、ドライブ(トップブースト)チャンネルの内蔵イフェクタを使う、音量(おもにマスターボリューム)でパワー段やキャビネットなどを歪ませる、と大きく分けて3通りの歪みを得られる。

チューブスクリーマーはノーマルチャンネルだと普通に使えて意外とクセを感じない。TS系は帯域強調が簡単なので、音色調整の候補がさらに増える。ノーマルチャンネルに2極EQと歪ませアンプを足すとトップブーストチャンネル相当になるのはすでに触れた通りで、EQつきの歪みペダルを繋ぐと似たような効果(かつ違ったキャラ)が出る。トップブーストチャンネルをブースターでさらに叩くのも面白い。

ノーマルチャンネルでブリリアンススイッチオフの場合、チャンネルボリュームとマスターボリュームの違いはセンドリターンの前か後ろかということだけ(プリアンプの出力を削ってパワー段に渡す役割は一緒)なので、チャンネルボリュームをセンドレベル、マスターボリュームをリターンレベルとして使って差し支えない。ブリリアンススイッチオンの場合やトップブーストチャンネルでは、ゲインを絞ると高域が強調される。

チャンネルリンクはすでに触れたように、クセのある音色を作ったり、歪ませた音に芯として原音を忍ばせたり、クリーントーンのドレッシングとして歪み成分を織り交ぜたりといった使い方ができる。チャンネルリンクをあえてしないのも面白く、ステレオ出力のコーラスペダルから各チャンネルに入れるとか、ディレイをパラで出してドライとウェットを別のチャンネルに入れるとか、まあその辺は発想次第だろう。ごく素朴に、各チャンネルに別のギターを繋ぐとか、片方にマイク経由でブルースハープを入れるといった使い方ももちろんできる。もっと変態的に、たとえば、ノーマルチャンネルにコーラスのウェット、トップブーストにドライシグナルを入れておいて、リンクスイッチを切り替えることで「トップブーストドライ+ノーマルウェット」と「トップブーストドライ+ノーマルドライ」を切り替えるとか、仕様を活かした使い方も考えられる。カジュアルユースでリンクスイッチを常時オンにしてゲイン調整でチャンネルを使い分けるのも便利だろう。

内蔵リバーブはTwinに劣らず質が高いが「リィバァーァブゥかぁけぇまぁしぃたぁ」みたいなガッツリとした効きにはならず、上品にかかる(この傾向はリバーブに限らない:繊細で上品だが変態、変態だが繊細で上品、という姿勢が一貫しており清清しい)。だからといって薄味なリバーブなのかというと、そういう使い方もできるが、量を増やしてもモコモコしにくいため結果的にごん太リバーブもかけやすい。外部へのセンドリターンもレベルは切り替えられるので不便はないだろう。


JC-120

ROLANDのJC-120(Jazz Chorus)について。筆者が所有する機材ではなく、よく使うリハーサルスタジオに常設機材として置いてあるもの。

どこのリハスタにもたいてい置いてある大型トランジスタアンプ。真空管アンプでは得られない安定した応答と、ギターアンプらしさを出すのに必要十分なクセ、シリアルorパラレルが選択できるセンドリターン、CE-1相当(というか元ネタ)のコーラス、実機スプリングリバーブなどを装備した、どこにでもある割にはやたらと豪華なアンプ。ただし業務用機の性格が強いので、機能満載の作りにはなっていない(推測に過ぎないが、ホームユースの需要に対してプロユース(リハスタなどプロが購入してアマチュアが使用する例を含む)の需要が圧倒的に多いのだろう:古典的なチューブアンプと比べて設計時期が新しいことも考えると、ラックイフェクタをキッチリそろえて音色を作り込んでいったときに真価を発揮するのかもしれない)。

仕様情報は大したものが公開されていないので割愛。とりあえず、12インチ8Ωが2発で60W+60W=120W。チャンネル1には、ハイゲインとローゲインのインプットジャック、ブライトスイッチ、3極EQ、チャンネル2にはさらに、ディストーション、リバーブ、コーラスorモジュレーション、シリアルorパラレルを選択可能なセンドリターンがある(メーカーのFAQによると、チャンネル1とチャンネル2は、設定が同じなら同じ挙動らしい)。マニュアルの図を見る限り、インプット>EQ>ボリューム>(センドリターン)>内蔵イフェクタ>パワーアンプ>キャビネットという普通な流れ。EQは全部12時が基本ポジションらしい。

抜群の安定性

特筆すべきはやはり安定性で、とくにデジタルマルチとの相性は最高。というかデジタルマルチとチューブアンプの相性が悪すぎる。設定が面倒で呼び出しが簡単なのがデジタルマルチの特徴であるいっぽう、チューブアンプは同じ個体でもそのときの機嫌やコンディションで音が変わる(まして部品が違ったり、同じ製品でも違う個体だったりすると別物のような音になる)のが特徴、とくれば作業が泥沼化するのは目に見えている(音なんか違っても気にしないことにする、という解決策はある)。もちろん、操作フィール(内部処理ではない)をアナログ機器っぽくして、セットアップ時のツマミ操作で自然な追従ができるようにしている機種もあるだろうが、少なくとも、プリセットからパッチを選んでそのまま使うといったやり方だとトランジスタアンプは圧倒的に有利である(自分のアンプを知り尽くしていて、このアンプのブレ幅はここからここまでだ、と決め打ちできる人は別)。

チューブアンプとは比べ物にならないくらい低歪み(ディストーション機能オフの場合)なので、ディストーションペダルやアンプモデラーとの相性もよい。実機の波形を急がば回れのイフェクタを知ろうのページに掲載しているが、ディストーションペダルというのは追加で歪み系イフェクトをかけられると質感が大きく変わる。その音が好きなら何の問題もない話ではあるが、一般的には、ディストーションペダルの後ろにはそれ以上積極的に音を歪ませるものを置かないのが無難である。単体で音色を完成させる傾向が強いアンプモデラーにも同様の事情がある。

これらの「それ以上イジりたくない音」をソリッドステートのギターアンプから出すかミキサー経由でPAスピーカから出すかというのは難しい問題で、強制的な音色変化の少なさや積極的な音色変化の加えやすさを考えると後者なのだが、手軽さを考えると前者にもメリットはある。とくに複数人での練習時に、モタつかずに音を出せることや他の奏者から独立したスピーカを使えることは大きい(練習しないと上手く弾けないわけだから、練習しやすいというのはたいへん重要なことである)。また、PAスピーカはハコによって全然別のものが置いてあるが、JC-120は(製造年によって多少仕様が異なるものの)どこに行っても同じ機種が置いてあるため、セッティング面で有利だろう。

なお、ローランドのGT-6のように最初からリターン端子直結で使うことを前提とした機種(JC-120に繋ぐときは「MAIN IN または RETURN」に入れるよう説明書に指示がある:現行機種ならRETURN、古い機種ではMAIN IN)やLine6のPOD HDシリーズのようにプリアンプだけシミュレートするモードがある機種(パワーアンプ接続用セッティングが用意されている)を例外に、マルチイフェクタは普通のインプット端子に繋ぐのが無難である。ギターアンプとしては抜群に素直なJC-120といえども、鳴らしているのはハイファイスピーカではない(オープンバックで12インチのフルレンジ2発なんて、もしPAスピーカだったらアホ以外の何者でもない)。ソリッドステートなのでパワー段はフラット近い特性だろうから、プリ段でいったんクセをつけてスピーカとエンクロージャで落としているのだと思われる(まったくの未確認)。またプリ段をバイパスしてしまうとEQも効かないため、環境(パワーアンプの個体差はそれほど大きくないはずだが、スピーカユニットだけはどうやったって特性が変わるし、背面の空間に敏感なオープンバックであることも忘れるべきでない)に合わせた調整が面倒になる(イコライザーを日本語にすると等価器、つまり帳尻を合わせるための装置である)。

さらに余談になるが、こんなにデジタルマルチとの相性がよいのに、多くのマルチイフェクタ(ローランド製以外)には無視される格好になっているのがたいへん愛くるしい。ミドルレンジ以上のマルチにはたいてい出力先補正がついているが、定番は「ラインorヘッドフォン、フェンダー2発オープンバック、マーシャル4発クローズバック」の3択(または自社製キャビネットを含めて4択)である。

機能など

強く加工されたトーンの受け皿として有用ないっぽう、単体で特徴的な音色はやはりクリーントーンだろう。筆者はこの手の記事であまり演奏例の紹介をしないのだが、rehpotsirhcjという人のデモ(ストラト編レスポール編)がすばらしいので挙げておきたい。コメント欄によると「アンプ直だけどレコーディング機材はそれなりのを使ってる」(その割にはギターケースにマイクスタンド乗っけてるが・・・)そうで、よくメンテされたギターにマッチした弦を張って上手くピッキングして適切なマイキングで拾わないとこの音にはならない。入力と回路が同じなら出力もだいたい同じ(もちろんイフェクタ部分を除く)なのがトランジスタアンプの特徴なので、チューブアンプとではなく他のトランジスタアンプと比べたときの特徴は、おもにキャビネットによるものだと思う。

この機種もチャンネルリンク(ただしケーブルが必要)ができ、チャンネル2のイフェクタやセンドリターンが充実しているためAC30よりもさらに活用の幅が広い。たとえば、

といった利用方法が考えられる。チャンネルリンクせず、外部イフェクタからパラの出力(ウェットとドライとか、ステレオのLとRとか)を別のチャンネルにもらう手もあり、2つのチャンネルを等価に扱えるので、結果的にステレオ出力をモノミックスできる(AC30のような構成だと、片方だけ違う回路を通ってしまい等価には扱えない:どちらがよいかは状況と欲しい音次第)。フィードバックを利用した荒業もあるにはあるのだが、このサイズのアンプでやるのは危険なのでオススメはしない。

アンプ本体のディストーションはGibson・Epiphone系(GAシリーズとかElectarシリーズとか:なかでもGA-5やGA-15などの古いモデル)を意識した感じのカリカリ音色(作った人の意図は知らないが聴いた印象として)。わりとストレートな潰れ方をするので「最終段の歪み系」としての使い勝手はそんなに悪くない(TO800やOD400のようなオーバードライブペダルを単独で噛ますと便利さがわかりやすい)と思うのだが、世間的には人気がない模様。ペダルで天井を決め打ちして使う(アンプの前に別の歪み系を挟むと、最大振幅が一定値に収まりやすくなるため、アンプでの歪み方をコントロールしやすい)のはもちろん、アンプ直やブースター経由でも、高めのゲインでギャンギャンに鳴らすとか、低めのゲインでグラッシークランチにするとか、使い道はけっこうある。

その他

JC-120本来の優位性は、耐久性(酷使してもヘタりが遅い)、普及台数(壊れても代替機の手配がしやすい)、大きい最大音量(オマケで触れている)、ノウハウの蓄積(操作できる人も運べる人も設置できる人もメンテできる人も多く作業内容や必要なケアを想定しやすい)など業務用としてのものだろうが、シロウトがイジって楽しむオモチャとしても他のギターアンプに引けを取らない(オモチャとして見るなら好みの問題は避けて通れないが、少なくとも遊び甲斐のない機種ではないと思う)。

いちおうの注意として、あまりに丈夫なため極端に長い期間現役の個体がけっこうあり、製造年代によって現行製品と仕様が同じでないことがある(いわゆるヴィンテージアンプにも年代による仕様変更は多くあるが、JC-120の場合何の変哲もなく普通に酷使されている個体がえらく古いものだったりする)。ソリッドステートのオープンバックで28kgの重量は伊達ではないのだろう。

なおアンプの性能とは関わりがないが、マニュアルがごく普通の日本語で書かれており素早く読める。


1960

Marshallの1960について。筆者が所有する機材ではなく、よく使うリハーサルスタジオに常設機材として置いてあるもの。

どこのリハスタにもたいてい置いてある大型キャビネット。単体キャビネットだが「ギターアンプの一部」には違いないのでここで扱おう。

仕様

重要な情報
キャビネットの仕様や扱い方に関する正確な情報は取扱説明書を参照してください。

2013年1月現在、現行品の1960はCELESTIONのG12T-75/16(75W、97dB、80Hz~5KHz)、1960VはVINTAGE30/16(60W、100dB、70Hz~5KHz)を搭載し、2発並列を2セット並列で都合4発並列=4Ωモノ、2発並列2セット独立=8Ωステレオ(縦2発が連動)、2発並列を2セット直列=16Ωモノの3通りで使用できる(のだと思う、多分:16Ω2発並列で8Ωの縦2連キャビを2台くっつけてあるのだと考えると手っ取り早い)。入力端子のところに「300w RMS (use one input only)」「150w/CH STEREO」などと書いてあるのはスピーカの許容入力に準拠した値なので、1960と1960Vで異なる。

注意書きにあるとおり、モノラルモードでは片方の端子だけを使い、両方の端子に接続するときはステレオモードを使う。両方の端子に接続したままモノラルモードにすると、出力がアンプに逆流して危険である。ステレオモードで片方の端子だけ使っても問題はないはずだが、スピーカは2つしか動かない(許容入力が半分になるので注意)。

ケーブルはスピーカキャビネット用のものを使い、ギター用のシールドケーブル(大電流に耐えられず火災の原因になる)は決して使用しないこと。大電流を扱う機器であり、また多くのアンプヘッドはスピーカに接続しないで運転すると故障する(とくにチューブアンプでは出力トランスがやられて大変なことになる)ので、ケーブルに断線がないことはしっかり確認したい(音が出ないときはまず接続を確認)。持ち込みケーブルがトラブルの原因になっても困るので、可能なら、キャビネットをレンタルする際はケーブルも借りてしまった方が安心である。

公式な資料は探せなかったが2次資料を付き合わせたところ、1960B(ストレート)は76W×83H×36Dcmの37kg、1960A(スラント)もほぼ同じ重さでスラント部分は11度、天面の奥行きは27cmくらいらしい。

特徴など

特筆すべきはやはり、インピーダンス切り替えが可能な点だろう。4Ωでも16Ωでも半分だけ8Ωでも動くというのは便利である(まあ4Ωなんてめったに使わないだろうが、全部揃っているモデルはあまりなく、ローエンドだとBUGERAの212Vくらいである:仕組みとしては8Ωのユニットが2発あれば作れるのだが、16Ω2発で8Ωモノor16Ωステレオにしている機種が多い)。

1960と1960Vで能率が3db違うが、大音量域だとけっこうな差である。単純計算上、1960に100W突っ込むのと、1960Vに50W突っ込むのはほぼ同じ音量になるはず。オープンバック(開放型)と比べてローが出るクローズバック(密閉型)キャビネットに加え、スピーカの数でストローク量を節約でき、1960Vはスピーカユニットも低域強化されているため、ローエンドが出る。反面、4発キャビネットのため高域にクセが出やすい。

サイズの割にハコ鳴り(キャビネット歪み)は出るように思うが、歪み始めてからの粘りがあるというか、歪みの増加が穏やかな気がする。限界音量での挙動は、試したことがないので不明(だいたい300Wも突っ込めるアンプヘッドが手近にはないし、もし突っ込めたとしても音量がとんでもないことになる)。

能率が高い(スピーカ4発分を単純合計すると、1960で103dbSPL/W@1m、1960Vで106dbSPL/W@1mになる)ため、小出力のアンプを接続する用途にも向く。1960と丸七のボリュームアンプというポータブルパワーアンプ(単四電池2本=3V駆動の4Ω接続だから0.35Wくらいの出力:セリアで100円)を使い、レスポール>OD3>ボリュームアンプ>1960(アンプ以外全部レンタル品:プリ部をすっ飛ばしているので、アンプシミュレータを持っていくべきだったと思う)というシーケンスを試したところ、ヘタレなヴォーカルがマイクを欲しがる位の音量は確保できた。

異種スピーカ

これは理屈上できるはずだというだけで実際に試したわけではない。また電気的な負荷がイレギュラーになり、スピーカに投入される電力が通常の接続よりも大きくなるため、アンプやスピーカに問題が生じないことを自分で確認できない人はテストするべきでない。

1960ではスピーカ2つ組を並列にした後、直列(16Ωモード)または並列(4Ωモード)に繋ぐことができる。このため、違う種類のスピーカを各2つ用意すると面白いことができる(はず)。たとえば、右上と右下にセレッション(この2つは並列になる)、左上と左下にジェンセン(この2つも並列になる)なんていう配置ができる。

この状態で4Ωモードにすると、各スピーカには同じ電圧がかかり、アンプから見た負荷インピーダンスは低い方が支配的に振る舞う。16Ωモードにすると、電圧がインピーダンスにほぼ比例して分配され、アンプから見た負荷インピーダンスは2種の合計で決まる。つまり、並列では両者のクセがある程度緩和され、直列ではより誇張される。

どちらの接続でも遠く離れてしまえばそれほど極端な影響ではなさそう(2組のスピーカから多少異なる音が出ていても混ざる)に思えるが、ここにオンマイクを使うとなると話が違ってくる。マイキング次第で両者のクセを拾ったり落としたりできるはずである(多分)。

異種スピーカの組み合わせ自体は、個人が改造でやっていたのを除き製品として売られたものだけ考えるとおそらくBuzz Feitenが最初(これはマウント位置も斜めになっている変態仕様)で、2013年4月現在Dr.Zというブランドも異種スピーカ搭載キャビネットをラインナップしている。ちゃんと確認したわけではないが、写真や仕様を見る限り、前者は8Ω直列で都合16Ω、後者は16Ω並列で都合8Ωではないかと思われる(まったく未確認)。なお、1960のスイッチを4Ωモードにしてスピーカ3発(余ったスピーカユニット取り付け穴は板かなにかで塞ぐ)にしてやると、Vibro-Kingみたいな構成にもできるはず(16Ωの3発並列だと5.3Ωくらいになる計算)。


オマケ1(歪みとクリーンアンドラウド)

非常に重要な注意
以下に紹介するアンプの使用方法は、聴覚の不可逆的な障害を引き起こしかねない危険なものです。飲酒や喫煙と同様、健康に悪影響があることを承知で快楽を追及したい成人以外は手を出すべきではありません。操作に慣れない場合は熟練者の同伴と指導を仰ぎ、使用する機材やケーブルに接触不良や断線がないことをしっかり確認し、アンプのゲインを上げたままギター本体を近づけることは厳重に避け、ギターから手を放す場合は必ず本体のボリュームをゼロにしましょう。休憩時間や休止期間を適切に設けるとともに、アンプへの接近時やセッティングの変更時はイヤーマフなどで耳を保護し(ブースターも併用する場合はとくに、電気回路の相互作用で発振することが普通にある)、時計(発光を併用したアラームタイプが便利で、あらかじめ決めた演奏時間を決して超えないようにする)とSPLメーター(感覚は必ず麻痺してくるので判断基準として頼り切るのは危険:ただしメーターが同じ数字を示していても周波数の偏りで耳への攻撃性が違い、その変化の度合いが通常の音量域とは異なること、一般的な騒音計(8KHzくらいまでしか計測対象でないものが多い)はもとより、フルスペックのSPLメーターでも超音波域には感度がないものがほとんどであることに注意)を用意し身体的負荷の把握補助とすることを強く推奨します。

重要な注意
音量を限界まで叩くとアンプに負荷がかかるので、扱いに注意してください。正しい扱い方については取扱説明書を参照するのが第一ですが、パワーのみオンで1~3分くらい(機種による)、スタンバイもオンにして5~10分くらい、通常音量から始めて5分前後、合計15分程度の暖気を兼ねて、様子を見ながら音量を上げるのが一般に無難な方法です。電源を切るときはスタンバイスイッチを切った後15秒くらい待って(インジケーターのある機種は完全に消灯したのを確認して:たとえばTwin-Ampの場合、背面パネルのランプがグリーン>レッド>消灯と変化する)パワースイッチを切り、真空管が冷えるまでの間はとくに衝撃に注意します。

さて、筆者は歪んだエレキギターサウンドが好きである。ハイゲインアンプやディストーションペダルの音ももちろん好きだが、もっとも好きなのはクリーンアンドラウド系の音で、なかでも「いたるところで全部歪んでいる」サウンドが大好きである。まず弦で歪ませる。ギターの弦というのは太いのを強いテンションで張ってゴツいピックや指の爪でぶっ叩いてやると歪んだ振動をする。振幅が過大になるので当然ピックアップでも持て余す。それをチューブアンプのクリーンチャンネルに突っ込んでゴリっと増幅するとまた歪み、叩かれたパワー段がヨレる。ぶん回されたスピーカユニットが分割振動を起こし、大音圧でキャビネットが軋む。アンプからギターへのフィードバックがエラいことになってフィルタやら発振やらが生じる。録音ならそれを至近距離でダイナミックマイクに入れてやるとマイクやマイクアンプも悲鳴を上げる。そして最後に人間の耳が歪む(これがもっとも奥深く、かつ危険な要素)。

本当に音量だけを追求したセッティングには賛否両論あるだろうが、たとえば自動車競技にドラッグレースやボンネビルのスピードウィーク(F1やMotoGPのように走って曲がって順位を競うのではなく、ただ真っ直ぐ走ってタイムや最高速度を競う)があるように、アンプサウンドにも音楽性とか演奏内容などとかけ離れた領域が存在する。スピードと同様音圧にも、他の要素が意味を失って別世界が始まる閾値のようなものがあり、ノーヘル半袖半ズボンにサンダルでサーキットに出たりしないのと同様、そのラインを越えるにはそれなりの準備が必要になる。アンプの設定も通常の音色作りとは意味が変わり、暴露限界の低い帯域を削っては音量を上げていく作業になる。

このサウンドを追求する場合まず太い弦が必要で、弦が太ければピックアップへの入力も大きくなるのだが、太すぎると弦の振幅が小さくなってピックアップのところで暴れが得られない。ミディアムゲージくらいがよいと思う。同じ理由からラージポールピースやバーポールピースよりも、ごく普通のポールピースだと弦が行き過ぎてしまったニュアンスを出しやすい。ギター本体は重い方がよく、軽いと音声的なフィードバック(アンプの音でギターが振動してまた弦に戻る)が強く出て簡単にハウリングを起こす。ブースターを噛ます場合、電気的な発振にも注意が必要。位相反転スイッチがあると音声フィードバックのコントロールに使えて便利。

今回取り上げたTwinは、クリーンアンドラウドで本格的に歪ませようとするとちょっと手ごわい。出音の特徴としては向いていると思うのだが、なにしろ作りがゴツく最大音量のキャパがやたらとデカい。10畳ちょっとのリハスタで全開にすると、レンタルでの酷使でそれなりにヘタリが出ているだろう個体を細心の注意でセッティングしても、音圧に酔って理性がぶっ飛んでいる状態でなお指が全力ピッキングを拒否して弾けないくらいのレベルになる。だがしかしキャラがクリーンアンドラウド向きなのは間違いなく「もうちょっと音量を上げたらさぞかし」という思いが常について回る、なかなかイケズなアンプである(カタログスペックでは1KHz正弦波@100W出力でTHD5%以下だから、アンプ回路単体の歪みはそう大きなものでなく、微妙な歪みの累積があの質感を生んでいるのだろう)。

AC30はややパワーが(Twinよりもパワーアンプの出力で5db、スピーカユニットで2~3db、グリーンバックスピーカならもう2~3dbくらい)落ちるはずだが、10畳ちょっとのリハスタで全開にすると、レンタルでの酷使でそれなりにヘタリが出ているだろう個体を細心の注意でセッティングしても、体調が悪いと3分で弾いている本人が吐き気に襲われるくらいのレベルになる。キャビネット歪みが比較的派手で、マイクを立てるならややオフにした方がエキサイティングな音色になると思う。

JC-120は多分もっとも手ごわい。ヘッドマージンが大きいためか普段はおとなしい性格に見えるが、完全フルテン(チャンネルリンクしてボリュームとEQとディストーションを全部最大:耳への攻撃性が強い高音域をブーストするのは非常に危険なので厳重に注意)にしてブースターでプリ段も飽和させてやると、ものすごい音量になる。いくら趣味の世界とはいえ、たかだか10mくらいの距離でこれをやるのは完全に無謀で、たとえるならスピリタス(とても強いウォッカの名前)を瓶ごと一気飲みするようなものである。よい子やいい大人でなくとも、これだけは禁じ手にして欲しい。カジュアルユース用の耳栓くらいで耳を保護できるレベルではない。

キャビネットとして見ると1960も非常に手ごわい。なにしろスピーカユニットが4つある。すでに触れた低域の能率のよさに加えて、スピーカ歪みが出にくい構成である(スピーカの許容入力は一般にスピーカが壊れない限界を示しており、音が歪まないレベルを示しているわけではない)。歪まないということはアンプの出力が丸ごと音になるということで、音声としての最大出力がそれだけ大きくなる(2発キャビと比べて高々2倍=3dbではあるが、ギリギリまで叩くときにこの差は大きい)。1960Vだとスピーカユニット自体の能率もそこそこで、アンプヘッドの出力が大きいとJC-120のフルテンを凌ぐ音量になる。

この手の総動員サウンドで重要になるアンプ性能はやはりアコースティックな部分、端的にはスピーカとキャビネットの能力だろう。スピーカが小さすぎるとキャビネットで歪ませる前に耐入力や低域のキャパで引っ掛かるし、大きすぎると効率が上がってパワー段歪みを引き出す頃には人間がもたない。低域のキャパ、高域の歪みやすさ(ツイーター付きの機種は却下)、サイズと効率などのバランスを考えるに、ベース用のコンボアンプなんかもよさそうな気がするのだが、試す機会に恵まれていない(Bassmanはちょっとデカいし、お手ごろなのないかな)。


オマケ2(チューブアンプのクリーントーン)

チューブアンプに何を求めるかは人それぞれだろうが、筆者はやはりクリーントーンを筆頭に挙げたい。クリーンアンドラウドでない普通のクリーントーンと、一般にはクリーン扱いかもしれない軽いクランチ、これらを鳴らしてもっともオイシイのは、2013年2月現在やはりチューブアンプだと思う。

ドライブトーンなら、別にチューブでなくてもエキサイティングな歪ませ方はできるし、キャビネットさえ選べばチューブアンプのような音色もおおむね作れる。同じクリーンでも時間空間系をかけてしまうなら、デジタルのクリーンアンプシミュレータの方が便利だろう。しかし単品のクリーントーンでは、たとえ音の特徴を真似たとしても、チューブアンプ独特の不安定な挙動が欠けては雰囲気が出ない(反対に、JC-120の項で紹介したようにソリッドなりの魅力的なクリーントーンもあり、チューブアンプには真似ができない)。

このページで真っ先に取り上げた01TwinとAC30CCは、もちろん筆者好みのアンプでドライブトーンも好きだが、なんといってもクリーントーンが抜群によい。リハスタを2時間取ってペダルセッティングのテストをしようと思っていても、せっかくだからとまずはクリーンで弾き始め、ああでもないこうでもないとツマミをイジり、ドライブトーンも少し齧っておこうと脱線し、気がついたら時間切れでせっかく持って行ったペダルは繋ぎもせずに帰る、なんてことがある。そのくらいキモチイイ鳴りである。

普段からじっくりと鑑賞している人はそれほど多くないと思うが、もし機会があれば、クリーンチャンネルにギターを繋いだだけの音色を楽しんでみて欲しい。



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