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用語やスタイルの紹介、必要な機材、音質向上のためのチェックポイント、初心者向にも扱いやすいと思われるマイキングなどを紹介する。
録音に関する技術的な事柄については、外部リンクのページから辿れるサイトや、Windows版Audacityを使った実際の作業、ローコストな音楽制作、録音関連の他の記事なども参照。演奏にも少し触れるが、筆者はドシロウト以下なので細かいことは書けない。練習ではなく体験をしてみたい初心者は一足飛びの音楽制作を参照のこと。
これは厳然とした事実だが、筆者は、読者が妙な買い物をして散財しても痛くも痒くもない。どうかこのことを念頭において欲しい。もちろん、リアルの友人知人に商品を勧めるときと同じだけの注意を払うよう努力はしている。しかし、その努力が必ずしも成功する保証はどこにもない。
もう1つ、筆者は読者のことを何も知らない。どんな音楽を作っていて、どの程度の経済的余裕があって、使いこなしに割ける労力はどのくらいで、ソフトやハードの知識がどの程度あって、すでに所有しているソフトやハードはどれとどれで、どのような住宅事情と交通事情を抱えているのかまるで知らない。もちろん、できるかぎり無難な選択になるよう努力はしている。しかし、そのために「本当はうまみがある選択」を見逃してしまうこともある。
また、筆者の嗜好や贔屓で特定の製品を持ち上げたり貶したり、思い込みでできないことをできると書いたり、使い方を間違えただけの製品を悪く書いたりといったことが、ないように努力はしているがきっとあるだろう。そういう難しさがあることを、ぜひ知っておいて欲しい。
基本方針として、自分で「何が必要なのか」わかるようになるまでは「最小限の出費」に抑え、資金を残しておいた方が効率的だと思う(ソフトもハードも日進月歩でいいものが出てくるし、とりあえずで買って死蔵するのはもったいない:例外はタマ数が乏しい中古くらい(たとえばアナログMTRをぜひ使いたいと思うなら、早く買っておかないと入手性がどんどん悪くなっていくはず)だが、初心者がそんなモノに手を出す機会もそうあるまい)。
なお、筆者が所有する機材に関する感想をローコスト制作の感想コーナーで、買い物に関する荒っぽい説明を一足飛びの音楽制作で公開している。
これはぜひとも理解しておきたいことなのだが、どんな技術や機材を駆使しても生演奏をそっくりそのまま記録することはできず、生音と録音した音はどこかしら異なったものになる(その差異を「音楽的に有利なor不利でない方向」に持っていくのがレコーディングエンジニアの腕前だともいえる)。
録音以前の段階でも、奏者が聴いている音と他の人が聴いている音は大きく違う。ヴォーカルや金管楽器など人間が直接音を出す楽器で顕著だが、たとえばエレドラムのようなものでも、指先から伝わるアタック感があるのとないのとでは大違いである。身体動作自体にも音(の認識)を変える効果があり、たとえばギターの録音を聴きながらエアギターをやると、意外なほど音の印象が変わる(シェイクヘッドあたりにも、これの簡易or抽象的なバリエーションとしての性格があるのではないかと思う)。
他人の演奏を聴くにしても、生音を聴くのと録音再生した音を聴くのとでは決定的に異なる。たとえばバイノーラル方式(ダミーヘッドと呼ばれる頭部人体模型or生身の人体の耳部にマイクをセットして録音し、ヘッドフォンなどで再生する)を使うなどして「鼓膜に届く音波」の再現性を高めることはできるが、それ以外の情報(たとえば皮膚への圧迫感や骨を通して伝わる音など)は切り捨てることになる(耳への情報が非常にリアルでその他の情報がほぼゼロ、という極端なバランスなので、独特の違和感がある)。
・・・というハナシを初心者向けの記事であまり長々やるのもアレなのでぶっちゃけると、たいていの場合、奏者が聴いている音に比べて他の人が聴いている音はショボいし、生音に比べて録音再生した音はショボい(ショボいといって語弊があるなら、情報量が豊富でない)。さらに、人間の耳は「よかったイメージ」に引き摺られがちである。
このため、録音直後に聴き返すと「あれ、もうちょっと弾けてたような」という印象になりがちだし、一晩おいて聴き返すと(生音のイメージが薄れる分)「あれ、もうちょっとよく録れてたような」という印象になりがちである(この不正確さを避けるため、本格的なレコーディングではコントロールルームという生音を遮断した部屋を用意する:利便性との兼ね合いもあるが、モニタの正確性を優先するなら、奏者が演奏している様子=視覚情報も遮断すべきだろう)。
実際のレコーディングでどういった対処をするかはおいおい工夫していくとして、そういったギャップが「ある」のだということを(無駄な悩みを少しでも減らすために)まず覚えておいて欲しい。
長々と説明したが、結局「奏者が出した音」と「録れた音」と「奏者が出したと思っている音」と「出したい音」と「出すべき音」と・・・他にもいろいろ考えられるが、とにかくすべて別のものである。これらのギャップをコントロールするのが録音エンジニアリングなのではなかろうか。
コントロールルームを使う場合モニタ中は生音を遮断するわけだが、モニタだけ聴いたのでは「録れた音」しか把握できない。事前に奏者の生演奏でどんな音が出ているのか知り、またどんな音を出したいのか探ることが、どうしても必要だろう。
また「急がば回れ」の表題どおり回り道の推奨を何度もしているが、ここでも、まずは「録れた音」を「出ていた音」に近付け、それを「出したつもりの音」までもっていき、さらにその先へ作業を進めるといった回り道が、結局「出したかった音」や「出すべきだった音」に最接近できるルートではないかと思う。
筆者は、ある友人(仮にMとしよう、仮に)の録音でエンジニアリングをやって、自宅でチマチマ編集したデモを提出したときに「これって録ったときのまんまの音だよね」と真顔で言われたことがある。上の話でいうと「録れた音」と「奏者が出したと思っている音」のギャップを埋めたわけで、正直これは魂が削れる作業である(いやホントに)。
思わず、その録ったときのまんまの音をヘッドフォンから出すためにどれだけの気合と技術と労力が必要か力説してしまったが、エンジニアリングをやらない人の認識ってのは、ぶっちゃけそんなモンだったりもする。
フィーリングでわかる、という人は次の項まで読み飛ばしてよい。
以下で言う「ライブ録音」は「すべてのパートを一度に録音する」ことを指し、ライブ/ステージ/コンサートの内容を録音する含意はない(後者の意味で言う場合は「ライブの録音」と書く)。「リハスタ」は「リハーサルスタジオ/練習スタジオ」、「レコスタ」は「レコーディングスタジオ/録音スタジオ」の略だが、リハスタは「ライブのリハーサル用」ではなく「楽器の練習用」のものを指す。
「アコースティック楽器」は「アコギやアコピやハーモニカなど(ヴォーカルも含む)」、「エレクトリック楽器」は「エレキギターやエレキベースやエレピなど」、「エレクトロニック楽器」は「デジピやシンセや電子オルガンなど」、「アンプ」は「スピーカ一体型のアンプ」、「生音」は「アンプやスピーカやイフェクタを一切通さない音、または、アンプは通すがイフェクタを通さない音」、「オフマイク」は「遠くに置いたマイク」、「オンマイク」は「近くに置いたマイク」、「マイクの軸」は「マイク正面近くの、効果的に録音できる角度」、「軸外特性」は「音源がマイクの軸を外れたときの特性(音質)」、「フェーダー」は「ミキサーなどの音量ツマミ」、「PA」は「音声放送用の設備、音声放送のための作業、音声放送のための作業を担当する人、のどれか」、「PAスピーカ」は「放送用の大きなスピーカ」を指す。
「アンプを通す」は「アンプで増幅してからスピーカで音を出す(PAスピーカを使う場合を含み、デジピなどで内蔵アンプと内蔵スピーカを使う場合は含まない)」、「ラインで入れる」は「アンプやエレクトロニック楽器のラインアウトからミキサーまたはレコーダーに音を入れる」、「モニタする」は「ヘッドフォンなどで音を確認する(スピーカを使ってもよいのだがハウリング対策が面倒)」、「かぶる/かぶり」は「録音のメインターゲットでない音が重なること」、「オーバーダブ」は「後から他の音を重ねること」の意味である。
マグネティックピックアップがついたエレクトリック楽器を(アンプやマルチイフェクタを介さず)ミキサーに直接つなぐときはDIという機材を噛ますのが原則だが、最近はDIの機能を内蔵したミキサーが多い(たいてい「GUITAR IN」とか「Hi-Z Input」などの名称になっている)。
録音のやり方はいくつかに大別でき、それぞれ長所と短所があるので、目的や予算に合わせて適宜選ぶ必要がある。録音方法がすでに決まっている人は次の項まで読み飛ばしてよい。
やり方は簡単(凝ったことをやろうとすると相当手ごわいが、詳細はステレオ録音のページに譲る)。普通にバンドで(または弾き語りやソロで)演奏して、ちょっと離れたところにマイク(できる限りオフマイク用のもの)を置いておくだけである。極端に音量の違う楽器がないことが前提条件になる(生ドラムが入っても上手いドラマーならキッチリ合わせてくるし、オペラ歌手のようにオーケストラ規模のバックで生音勝負をするケースもあるので、楽器の種類というよりは技量の問題:マイクまでの距離を調整することでもある程度対応できる)。
マイクだけで録音するのだから、アコースティック楽器以外はすべて何らかの形でスピーカから音を出すことになる。ステレオマイクを使うのが手軽で、マイクを1箇所にしか置かないことからワンポイント収音という呼び方もする(ワンポイント収音用のマイクはワンポイントマイクと呼ばれる)。モノラルマイクを2本使う手もあり、手間が増える分マイキングの自由度が広くなる。モノラルマイク1本でもできなくはない。
極端に音量が少ないアコースティック楽器(たいていはヴォーカルだが)があって応急的に対応したい場合は(ギターアンプなどに居候するなり自前でアンプを用意するなりして)簡易PA的な対応をする。この場合はハウリングに十分注意するとともに、生音とアンプの音のかぶり具合にも気を使う。
音作りは楽器やアンプで行う。とくに加工しなくても「いかにもライブっぽい」音が録れる(なにしろ演奏形態が本物に近い:オマケ4も参照)のが特徴だか、録音場所の部屋鳴りがそのまま出るので、リバーブ/ディレイだけは工夫した方がよい。非常に万能な録音方法で、これだけで通すことも可能である。プレイヤーからぜひ欲しいというリクエストがない限りモニタも必要ない(自分の音だけ必要なら、アンプのモニタ出力などから各自取ればよい)。
この方法である程度質の高い録音を行いたい場合、マイクの性能がネックになりがちである。オンマイク用のマイクには安価でもそこそこの性能を持った機種がいろいろとあるが、オフマイク用のマイクはローエンド付近の選択肢が乏しい。AIWAが健在だった頃はリーズナブルな製品をラインナップしてくれていたのだが、2008年現在は2~3万円クラスが選択の中心になってしまっている(マイクカプセルだけなら普通に使えるものが百円程度で買えるので、ローエンド機種を作ろうと思って作れないわけではないと思うのだが、数千円クラスの完成品マイクにはなぜがイマイチなものが多い:オマケ3を参照)。
ミキサーを使って音を混ぜてからレコーダーに録音する(またはミキサー機能内蔵のレコーダーを使う)。ミックスアウトは「音を混ぜて(ミックスして)出力(アウトプット)する」という意味。ミックスした音声はステレオ(右と左で合計2ch)にすることが多く「ステレオミックス」とか「2ch-mix」という呼び方をする人もいる。オフマイク録音からの移行理由としては、ヴォーカルの音量不足(または生ドラムの音量過大)がもっとも多いだろう。PA卓からステレオミックスをもらってライブの録音をする場合もこの方法になる。
アコースティック楽器にはマイクを立て、エレクトリック楽器やエレクトロニック楽器はアンプにマイクを立てるかラインで(または直接)ミキサーに入れる。もちろんマイクはすべてミキサーにつなぐ。モニタは原則的に必要だが、アンプから音を出すスタイルなら必要な人だけ使う形でも構わない。裏技的にアコースティック楽器をスピーカでモニタするという手もなくはないが、それならオフマイクにしてしまった方がスッキリする。マイクの本数が増えるということは、かぶりによって高域の特性が曇るということ(詳しくはパート別の注意と機材の項で後述)でもあるので、音の素直さをとことん追求したい場合には向かない(かぶりを減らすことで緩和はできる)。
PANや音量をフェーダーワークで自由に振れるのが利点ではあるが、かぶりが強い場合は大きな動かし方をしにくい(かぶった音も巻き添えで変化するため、フェーダーをいじったら他の楽器の定位が変わったとか、PANを振ったら他の楽器もいっしょに動いたとかいうことになりがち)。ダイナミックな操作を多用したいなら、かぶりを最小限に抑えておく必要がある(録音時に使用するスピーカの数と音量をとにかく減らして、音の大きなアコースティック楽器の近くに他のアコースティック楽器を置かないなど:この場合は全員がヘッドフォンでモニタする必要がある)。
上記のフェーダーワークや定位操作のほか、部屋鳴りがあまり反映されないのでリバーブ/ディレイもやりやすくなるし、ヴォーカルのイフェクトもかけやすい(ミキサのセンドリターンでやってもよいし、ミキサの前にプロセッサを噛ませてもよい)。また、部屋鳴りの薄さからオーバダブが比較的やりやすくなる。
3ch以上同時の、いわゆるマルチトラック録音である。パラレルアウトは「別々の音を同時に出力する」ことで、「パラ出し」とか「パラアウト」とか「平行出力」と呼ぶ人もいる。必ずしも「すべての音」を独立させる必要はなく「コーラスは3人いるけど1chにまとめる(または最初から3人で1本のマイクを使う)」とか「ドラムスはマイクを4本使うけど2chにまとめる」などと一部だけ先にミックスしてしまうこともある。ミックスアウトとの違いは、音をあらかじめ混ぜてしまわないので後から個別に加工可能な点。音量のバランスを見直したり、ノンリニアでフェーダー操作をしたり、といったことができる。
ただし、全ての楽器が同時に演奏している都合上マイク録音のパートには必ずかぶりが入るので、自由自在に加工できるわけではない。たとえば、後からヴォーカルにコーラスイフェクトを追加したらヴォーカルマイクにかぶっていたドラムスにまでうっすらコーラスがかかった、などということがあり得る。また、パンチング録音など「切った貼った」の加工を多用するのも難しい(バレないようにやろうと思わなければ普通に可能)。マイク本数やかぶりの度合いが増えると高音が曇りがちなのはミックスアウトのときと同様。
かぶりを減らすためには「ライン入力や直接入力が可能な楽器はスピーカから音を出さない」というのが原則になる(モニタは全員がヘッドフォンで行う)が、キャビネット(スピーカ)の鳴りがよいアンプを持っている場合などは、かぶりの少なさとキャビネットの音色のどちらを取るか悩ましいところだろう。
それなりの制限はあるものの、編集の自由度はミックスアウトに比べてかなり高い。ライブ録音のノリ(やはり顔をつき合わせて演奏するのと音だけを頼りに演奏するのではノリが違う)を保ちつつ編集作業の余地もある程度残しておきたい場合には有効だろう(というか、マルチトラック録音が可能なのにわざわざステレオミックスにしてから録音する必要はほとんどない:音を混ぜるだけなら後からやればよい)。録音トラック数に余裕があるなら、モニタ用にミックスした音も録音しておくとよい(音源として使う機会はあまりないだろうが、後からイメージを練り直すときの参考になる)。
本格的なレコーディングスタジオ以外では多分行えないと思うので参考までに(リハスタなどでも、アコピや生ドラムだけ別ブースになっているところはたまにある)。各プレイヤーが(防音壁で仕切られた)別々の部屋で演奏をして、音の把握はモニタシステム(キューシステムとも)で行う。こうすることでかぶりを最小限(せいぜいヘッドフォンの音漏れくらい)に留めることができ、ライブ録音なのに(切り貼りも含めて)編集や加工をし放題、というわけである。
もう少し素直に考えても、多重録音と同等の加工や編集を施しつつライブ感も最大限残すという意味で有効な方法である。ただしその場合、切った貼ったをやりまくるのはナンセンスだろう(一応断っておくが、筆者は切り貼りが嫌いなわけでも自分で切り貼りをしないわけでもなく、音楽的に(=耳で聴いた結果)曲が「良くなる」のなら、ためらいなくやるべきだと考えている:複数のパートを一斉に演奏する都合上OKテイクを出すのが難しいため、ライブ感を残す気がないなら最初から多重録音した方がラクだということ)。
音質の面で言うと、かぶりがない分(1つの楽器に複数のマイクを使うのでなければ)高音の曇りとも無縁で、やっていることが複雑な割に素直な音が録れる。また、録音の管理をコントロールルーム(エンジニア専用の部屋)で行うため、正確なモニタが可能である。他の録音方法でもコントロールルームを使うことはあるが「マイクに入った音だけをモニタする人」がいるのといないのとでは、精度が段違いになる(コントロールルームがなくても録音の聴き返しによるチェックは可能だが、生音を耳に入れてしまった場合、少なくとも1晩くらいは空けないとプレーンな状態でのモニタが難しい)。
もう少し変わった例では、ライブの録音(おもにパラレルアウトによるもの)を複数テイク用意してツギハギするという方法もあり、市販のライブ盤CDなどでたまに使われている(ギターソロだけ別公演のテイクに差し変わっているなど)。
オーバーダブを繰り返して録音を完成させるスタイルである。機材や環境の制限が緩く、凝った加工や編集もやりやすく、マイクの同時使用数が増えることで高音が曇る問題も(一部の大型アコースティック楽器以外は)あまり気にしなくて済む。また、少人数で多数の楽器を収録したい場合に有効な方法でもある。ライブ録音と違って全てのプレイヤーが同時にOKテイクを出す必要がない反面、息が合った演奏を聴かせようとすると高い技量が必要になる。
MTRソフトウェアの普及などで初心者にも手を出しやすくなったが、一方で「やろうと思えばできること」がほぼ無尽蔵にあるため、混乱が生じやすいやり方でもある。そのため、楽器数が多い場合はとくに、ゼロから始める初心者が最初からこのスタイルに挑戦するのはあまりオススメできない。少なくとも、オフマイクによるライブ録音を1度は経験して、録音作業の「雰囲気」を掴んでからの方がよいと思う(本格的にやる必要はまったくない:適当なマイクを適当な場所に立てて「せーの」で演奏してみるとか、1人制作ならベーストラックをスピーカで流しながら録音してみるとか)。
編集や加工の自由度が非常に高く、熟練したエンジニアが十分に技量を発揮できるとともに、エンジニアリング自体が好きな人も存分に楽しめるスタイルである。ただし、どこまで行っても「まず演奏があってこそのエンジニアリング」なので、やりすぎには十分注意しよう。自由度が高いということを反対から考えると、エンジニアリングによって曲が台無しになる可能性もそれだけ高いということなので、慣れないうちはあまり凝ったことをしようと考えない方がよいと思う。
大まかな注意点と、これから録音を始める人が用意すべき機材について。リハスタなどで録音する場合、マイク数本とレコーダーくらいは追加料金なしで借りられることが多い。宅録前提の環境構築やサンプル音声については急がば回れの録音と加工のページに掲載している。
指向性マイクは距離が近いほど低音が強くなる(=近接効果:オンマイクで強調された低音を削るのは比較的ラクだが、オフマイクで抜けた低音を補うのは結構やっかい)。またオフマイクにするほど部屋鳴りの影響が強くなると同時に環境雑音の影響も強まる(ので、環境が悪い場合はオンマイクにせざるを得ないことが多い)。マイクスタンドはしっかりとしたものを(またはしっかりしたものを置いているスタジオを)選び、ケーブルには多少の遊びを持たせる(ピンと張ったヒモが振動をよく伝えることは、カナル型イヤフォンを使ってみればよくわかる)。ショックマウント(サスペンションホルダー)が必要なマイクにはたいてい専用マウントが同梱されているのでムリに汎用品を買うこともないかなという気はするが、棒状シェイプのコンデンサマイクを録音に使うなら導入を検討してもよいだろう。
同時に使うマイクの本数は極力減らすべきである(録音はしてもよいが混ぜない)。マイクの本数が増えれば増えるほど、ディレイがかかった音が何度も重なって高域の特性が台無しになる(単品録りでディレイを補正できる場合は除く)。音波は1秒間に340m程度しか進めない一方、音楽の録音ではキロヘルツオーダーの音波も普通に扱わなければならない。たとえば、17KHzの音波の位相がπ/2ずれる間に音波はたった5mmしか進めないし、当然のことながら1.7KHzでも音波が5cm進む間に位相がπ/2ずれる(これはシャレにならないくらいの数字だが、これだけ遅いからこそドップラー効果なども派手に現れて、レスリースピーカのような発明品もできたわけである)。πとかHzとか言われてもよくわからないという人は、音源から20cmと30cmの位置(だいたいでよい)にマイクを1本づつ立てて録音し、両方の音を混ぜたものとそれぞれ単品の状態を聴き比べてみよう。
マイクは指向性が強くなるほど癖(軸外特性の乱れや近接効果の出方)も強くなる。ライブ用なら超指向性のもの(マイクの正面から120度くらいの方向に感度がないので、そこにモニタスピーカを置く)、それ以外なら単一指向性のものが無難。指向性が強いほどかぶりに強いが、軸を外しやすくなるうえ、真後ろや斜め後ろなど妙な方向に感度が出る。たとえば単一指向性のSM58と超指向性のBETA 58(いずれもSHUREのヴォーカル用ダイナミックマイク)を比べると、後者の方が周波数による感度の乱れが大きく、真後ろからの音も拾ってしまうことがわかる(とくに、音の反射をコントロールできない宅録環境で超指向性マイクを使うのは面倒)。
演奏パートではないが、機材の面で注意が必要なので最初に紹介する。
ローコストな音楽制作の機材関連の項でも同じ話をしたが、モニタ環境(録音中の音や編集中の音を確認するための機材)にだけはそれなりにお金と気を使って欲しい。モニタ環境がまずいとどんな作業もうまくいかない。また安全性確保のため、万が一ハウリングが起きても耳を傷めない設定を用いるとともに、可聴域外の音声(誤って高い音量レベルで再生された場合、気付くのが遅れる:低域由来のハウリングに比べ、高域由来のハウリングはマイクの向きや位置で突発しやすい)は極力遮断しておく。PAほど頻繁には起きないが、ルーティングミス(誤配線や誤設定)やソフトorハードのバグも含め、録音でもハウリングが起きることは普通にある。
リンク先の記述と重複するが、重要なのはアナログ以降の部分だけで、ヘタっていないエンジニアリング用ヘッドフォンが1つと、マイク録音用のヘッドフォンが1つあれば実用上の問題はない(本気でやろうと思ったら自宅の防音工事から始める必要があり、1000万くらいはかかると思う:すでに触れたが、真面目にやるなら「録音場所から音響的に隔離されたコントロールルーム」がどうしても必要)。
モニタヘッドフォンと称して売られている製品にも、PA用やレコーディング用やエンジニアリング用などいろいろと種類があるが、まずは自分の頭に合う(疲れたり痛くなったりしない)モノを探そう(試着はぜひするべき)。そのうえで、レコーディングや演奏に必要な動作を妨げないモノが見つかればさらにラッキーである。出音については1万円台の業務用モニタヘッドフォンでもそれなりにバラつきがあるので、サインスイープ(加工のページにファイルと使い方を掲載している:サンプルファイルはflacだが、lilithでWavに変換してCDに焼くなどすれば出先でも使える)くらいは確認してから買うのが理想。
ヴォーカルや小型吹奏楽器など「耳に近い場所から音が出る楽器」を奏者がヘッドフォンモニタしながらマイク録音する場合、意図せず音がぼやけることがある。これはフィードバック(ヘッドフォンから出た音がマイクに入り、録音機器を経由してまたヘッドフォンから出てくること:ハウリングもフィードバックが引き起こす現象の1つ)によるもので、フィードバックディレイやコーラスイフェクトとほぼ同じ作用になる。対策としては、音漏れの少ないヘッドフォンを使うか、モニタなしで録音するのが手っ取り早い。なお、程度が小さく気にならないだけで、どのようなマイク録音でも(録音中の音を奏者がモニタする限り)同様の現象は生じている(PAなどでスピーカモニタする場合、電子楽器以外全般で問題になり得る:ただし、ある程度までなら積極的に利用できなくもない)。
できればモニタ用スピーカなども欲しいが、部屋の環境を整えようと思うと大掛かりになるので、ムリのない範囲に留めて欲しい。本格的にやりたい場合は、貸しスタジオのミキシングルーム(コントロールルームという名前になっていることもあるし、演奏用の部屋にブース形式で併設されていることもある:コントロールルーム単体でのレンタルは、民間でやっているところももちろんあるが、公営施設の方が探しやすい)を借りた方が早い。音響的にグダグダな部屋(一般住宅とか)で高級スピーカを使うより、ちゃんとした部屋(音楽スタジオとか)で普通のスピーカを鳴らした方が間違いなく良好なモニタになる。
また、上記でいうモニタ環境はエンジニアリング用のもので、演奏時にプレイヤーが使うものではない。演奏用のモニタは録音スタイルによって事情が変わる(多重録音だと音漏れの少ない密閉型が適するし、ライブ録音だと開放型の方が便利なこともあるなど)が、性能面よりも「演奏の邪魔にならないこと」を優先して選ぶべきである。
録音中に声質が変わってしまわないようしっかり準備する。モニタのバランスで歌いやすさがかなり変わるので工夫したい(リズムを取るためにドラムスが重要なのはもちろんだが、音程を取るためにベースに頼る人とコード伴奏に頼る人がいる:曲によっても事情が変わる)。
マイキングが結構難しいのだが、以下のような配置を基本に考えるのがよいと思う。
非常にアレな図で申し訳ないが、意味は伝わると思うのでそっとしておいて欲しい。目線を落とすのは、自然にアゴを引いて空気をマイクの下に逃がす(=マイクに当てない)ため。譜面を立てるときはヴォーカリストの正面を避け、音が跳ね返らないようにする(視線を上げない意味でも、低めの位置に置くとよいだろう)。
上記のセッティングだとマイクが遠く感じる人もいるかもしれないが、近いと距離の管理がシビアになってしまう(距離が2倍になると音圧が-6dbになる:ただしあくまで単純計算で、部屋の環境はもちろん、口の大きさなどによっても変わる)。もしマイクとの距離が20cmなら、20cm後ろに動くと-6db、10cm前に動くと+6dbの変化になる。一方、マイクとの距離が10cmの場合、10cm後ろに動くと-6db、5cm前に動くと+6dbの変化になる。
かぶりが問題になる場合は、上記のまま数cmの距離までマイクを近付ける。近接効果で低音が強くなるなど音のバランスはやや悪くなるが、レコーディングでもこの方がやりやすいという人はそれでも構わない(いずれの場合もイコライザなどによる補正が必要)。このセッティングでマイクを吹かないように声を出すのはそれなりに難しいので、ムリがあるようなら後述の左右ずらしを検討する。ライブなどで顔を隠したくない場合はマイクをもう少し低い位置にすることもあるが、そうするとさらに吹かれやすくなる(顔の左上または右上から斜めに口元を狙った方が音のバランスはよいと思う:後述)。
顔がマイクで隠れるためライブにはあまり向かないが、下向きに角度をつける吹かれ対策もある。
図では大げさに描いてあるが、実際には10~15度くらいの傾きである(距離が遠い場合は傾きを小さめに、距離が近い場合は傾きを大きめにする)。あまり角度を付けすぎると、ヴォーカリストがあえて前後に動いてダイナミクスを変化させた場合にマイクの軸から外れやすくなるので注意。顔を見せるために、マイクを思い切り上向きにしたうえで下顎のあたり持ってくるハンドマイク風のマイキングもあるが、音のバランスは上記に劣る(人間の口と耳がほぼ同じ高さについていることからもわかるように、声は前に飛ぶというのが基本)。マイクが近いと音声ノイズの影響を受けにくくなるが、その分録音はシビアになるので、ヴォーカリストがプレッシャーを感じない範囲で調整しよう。マイクが極端に近い場合、pやbなどの破裂音(tやdも似たような性質)よりも、f・v・w・ph・hあたりの音の方が吹かれノイズになりやすい。また、マイクを口の正面に置くとshやchなどの擦過音がキツくなりがちである。
ヴォーカリストが素人の場合やライブで顔を見せたい場合、左右のずらしを使って唇の端あたり(距離が遠めの場合は中央)を狙う手がある。
これは上から見た図だが、ここからマイクを遠くすると吹かれに強くなるがかぶりが増え、マイクを正面近くに持っていくと音色が素直になるが吹かれやすくなる。10cm/45度や20cm/30度くらいのセッティングはレコーディングにも使える(吹かれの原因になる風は、左右には意外と広がらない:マイクの尻を上げてヘッドを下げる吹かれ対策を併用してもよい)。音色、吹かれ強さ、かぶりのコストパフォーマンスに優れたマイキングだと思うが、マイクが横を向くのでプレイヤーやモニタスピーカの配置に注意が必要。動きの多いプレイヤーには使いにくいが、譜面が正面にないとダメという人には適する。ハンドマイクの場合にも唇の端狙いは有効。
かぶりがどうしても問題になる場合「正面からマイクのヘッドに鼻の頭を軽ーーく触れさせる」ようにしてやると一応の対策になる(マイクの高さをやや下げて上唇も触れさせてもよいが、多少吹かれ弱くなる)。マイクは水平か、尻を上げて(=ヘッドを下げて)30度くらいまでの下向きにしてやる。吹かれが酷いときはマイクの高さを上げる(下げた方がかぶりは減る)が、ポップガードの使用も検討してみるとよいだろう。このセッティングではとくに、マイクスタンドの品質に気を使おう。極端なオンマイクになるので低音の調整を忘れずに。
ライブでもアコースティックブルースの弾き語りなどでは30~50cmくらいマイクを離すことがある(オンマイクとオフマイクの中間的な使い方)し、身体を大きく動かさないとノリが出ないという人はライブでも遠めのマイク(またはラベリア)を使った方がよいかもしれない。動かないに越したことはないが、レイチャールズのような例もあるので、動くのがダメと決め付けるべきではない。オンマイクでマイクの尻を下げるセッティングもあり、難易度はやや上がるものの、超指向性マイクと組み合わせると大音量楽器が多い場合に向く(ドラムセットやギターアンプなどをマイクの軸から外しつつ、顔が隠れないようにするワークアラウンドとして有効:水平セッティングだとヴォーカリストの動きで遮蔽が変わり、かぶり方の乱れが大きくなりがち)。
機材は、SM58クラスのマイクが1本あれば問題ない(たいていの練習スタジオでは無料でレンタルできる)。同じSHUREのマイクに565SDというのもあり、音の安定性(とくにズボラに扱ったとき)が高く無加工で「使える音」に近い録音ができるため、初心者には58よりも565かなという気がする(ただし、安定度が高いということは積極的に音を作ろうとした場合の反応が鈍いということでもある)。宅録用に必要でかつお金がないなら、3000円クラスのヴォーカル用ダイナミックマイクを1本用意しよう。
生楽器のメリットが非常に大きいパート。生楽器で録音する場合はベース(とドラムス)をしっかりモニタする。
アコギの場合、SM57クラスのマイクが1本あれば問題ない(無料レンタルしてくれる練習スタジオもけっこうある)。PG57あたりでも(使ったことはないが)さほど支障はないだろうし、SM58クラスのヴォーカル用マイクでも代用できるが、3000円クラスのヴォーカル用マイクは避けた方がよい。ソロ(またはそれに近い編成)やクラシック曲ならコンデンサマイクの利用も考慮したいが、ギター本体に取り付けるタイプ(マイクとしてではなくピックアップとして売っていることが多い)のものが使いやすいだろう。
アコギのサウンドホールは「音が出る穴」には違いないが、構造的には結局「バスレフのダクト」と同じで、空気ばねが特定の周波数の音を強調してクセをつけている(ヘルムホルツ共鳴器と呼ばれる)パーツである。音自体は指板や表板も含めたギター全体から出ている(弦からの直接音もある)ので、少なくともサウンドホール「だけ」から音が出ているとは思わない方がよい。他のアコースティック楽器と同様、多重録音であれば、オフマイクをメインにしつつオンマイク(ついているならピックアップも)の音を補助的に混ぜてやると自然な感じを出しやすい。
エレアコをライン録音するならマイクは必要ないし、ギターアンプも必須でない。エレアコというのは基本的に「ラインの音のために生音を犠牲にする」設計志向で作られているため、マイクを使うとしても補助的な使い方が多いだろう(ピックアップつきのアコギ、エレアコ、フルアコの区別は厳密なものでなく人によって異なるが、生音優先なのがアコギ、ピックアップからアコギっぽい音を出すのがエレアコ、ピックアップからアコギっぽくない音を出すのがフルアコ、と解釈しておくと実情に近いだろうか)。
エレキは生音が(エレアコよりは)小さいため宅録する機会も多いと思う。電磁ノイズに(ベースほどではないものの)敏感なので対策をしっかり行おう。実機のアンプシミュレータ(普通はキャビネットシミュレータもオマケでついている)を使うのがいちばんラクだが、アンプからラインで出してキャビネットシミュレータだけかけたり、直接録音からアンプシミュレータとキャビネットシミュレータをかける案もある(アンプのライン出力は「キャビネットに送る前の信号」を途中で取り出すためキャビネットシミュレータをかけないと高域がキツくなりがち)。アンプ(キャビネット)からマイク録音する場合はSM57クラスのマイクが1本あれば、まあ何とかなると思う。
アコギでは低音と高音のバランスが重要で、どちらも強過ぎると曲の邪魔をするし、弱すぎると物足りない音になる(録音とは関係ないが、1万円近いエンジニア料を取るライブハウスでもこれをまったく理解していないところがあって、非常にグッタリする:アコギソロや弾き語りを扱う機会が少ないという事情もあるのだろうが)。マイクを立てる場合、高音はマイクの向きで、低音は距離でコントロールすることが多い(単一指向性マイクを使う前提)。もちろんイコライザ(略してEQ:ミキサーやレコーダーについている3極くらいのもので十分)も活用するが、基本はマイキングでの調整である。エレアコのライン録音なら本体のトーンツマミで調整できる。
筆者がエレアコを録音する場合、マイクとラインの両方で録音して、ラインの方にだけオーバードライブをかけたうえでミックスすることがある(ただし、マイクを増やしたときと同様、高音域が痩せる問題があるためムリに挑戦する必要はない:初めてやる場合は細かいことを考えず、まず1つの方法にしっかり慣れた方がよいだろう)。エレキでも、キャビネット経由のマイクとラインの両方で録音する手がある(フロントとリアから別々に出力できるギターもある)。
プレイヤーに任せ切るのが一番よいと思う(マイク選択も、慣れたベーシストなら自分の音作りに合わせたマイクを自前で持っている人が多い)。打ち込みの便利さがもっとも発揮されるパートでもある(慣れた人が打ち込めばまずまず破綻のない音が作れるという意味:下手なベーシスト、普通の打ち込み、上手いベーシストの間に、とてつもなく大きな差がある)。生楽器を使う場合はドラムスをしっかりとモニタすること。
エレキベースを録音する場合はハムノイズ対策をしっかりやる(パソコンを使った宅録など環境がよくない場合、アクティブピックアップだとやや有利になる:ベースの録音にパソコンを使わない方がよいのは言うまでもない)。アンプからマイク録音しようと思うと、低音用マイクがどうしても欲しくなる(アンプシミュレータから録音してしまった方がお金はかからない)。
もっと厳しいのはアコースティックベースやコントラバスの録音で、機材的な要求はもちろん、エンジニアリングの技術的なハードルも高い。
録音前に音のバランス(音量が小さすぎる/大きすぎる楽器がないかなど)を必ず確認する。打ち込みの方が無難ではあるが、生楽器で録音するメリットもかなり大きい(ただし、労力も時間も費用も他の楽器よりはるかに多く要する)。録音時にはベースをしっかりとモニタする(自信がある人以外はクリックもモニタした方がよいだろう)。
録音作業の難易度が高いので、手に負えないならレコスタを使おう。リハスタで録音する場合は、何とかしてコンデンサマイクを用意したい。オーバヘッド(=頭上からの)収録はセッティングが大掛かりになるため、最初から用意されている環境でなければ、普通のオフマイクが妥当な線か(録音方法として、必ずしもオーバーヘッドより劣っているわけではない:オーバーヘッドブームスタンドなどが用意できてかつ扱えるなら、オーバーヘッドでももちろんよい)。バスドラムなどが入るので低音用マイクも必要。
(ドラムトラックの)トラックダウンまで想定して録音作業をする技術がないのであれば、肩口またはドラムセットから1mくらいの地点でのステレオ録音をメインに、補助としてバスドラムとスネア、余裕があればハイハットまたはライドとフロアタムあたりにマイクを立てるのが無難だろうか。補助マイクはなるべくオンめにしておこう。チューニング(ミュート含む)とモニタの調整は(他の録音でも重要だが、とくに)慎重に。
各マイクに位相のずれた音が入る(たとえば、スネア用マイクにはハイハットの音が遅れて入るし、ハット用マイクにはスネアの音が遅れて入る:音波は1msで34cmしか進めない)ので、メインマイクのローを切って低音マイクの音と合わせ、あとは本当に補助的に使う。メインマイクに足りない部分を、バンドパスフィルタをかけた補助マイクで増強する方法も比較的見通しがよいと思う。
もっと本格的なマルチマイクについて筆者の(ヘタクソなりの)意見を述べておくと、マイクはとにかくたくさん立てて、数を絞った基本セットを作り、必要に応じて他の音を混ぜるのがよさそうに思える。基本セットは、バスドラ1本+スネア2本+刻みシンバル1本+オーバーヘッド2本くらいが最大ライン(キック+スネア+ステレオオーバヘッドが本当の基本で、スネア裏と刻みシンバルは補助的なものと考えた方がよいかも:ツーバスの場合バスドラが1本増えるが、初心者はリモートペダルでお茶を濁すのが無難)で、これらのミックスでドラムスの演奏がしっかり再現できるところまでは録音時点で見通しを立てておかないと、後が泥沼化する(ゲートを振り回したくなるのだが、ギクシャクしがちなので自制心が必要だと思う)。反対にここまでが上手くできれば、あとは特定の音が欲しい部分に他のマイクの音をスポット的に混ぜていけばよい。
オフめのマイクを使うことから部屋鳴りの影響が大きくなるため、自宅にドラムセットを持っている人でも、録音はそれなりの環境(少なくともリハスタと同程度)でやった方がよい(自宅録音をあえて強調する路線であれば別)。
打ち込みデータとしての記録も同時にできるならやっておいた方が何かと便利。打ち込み/生楽器の選択に関してはかなり融通がきくパート。
エレピやオルガンの場合アンプ録りの需要もなくはないと思われるが、いいマイク(音域がやたら広いので、フラット系のコンデンサマイクを使うか、曲ごとに選択する)を使ってハムノイズに注意しながらやってね、以上のことは言いにくい。実機のレスリーユニットを使う場合はややオフめのマイキングがよいようだ(筆者は実機を見たこともないので詳しいことはなんとも)。
アコピのマイク録りは非常に難しいので、もしどうしてもやらなければならないならドラムスと同様に、オフマイクだけorオフマイクをメインにオンマイクを適宜混ぜるか、演奏者の肩越しか頭越しにマイクを2本立ててお茶を濁そう(アコピの録音ができるスタジオなら最初からマイクがセッティングしてあることが多いだろうから、そのまま使えば問題ない)。
当然のことながら、録音にはなにかしらのレコーダーが必要である。他のページでも同様のことを書いているし冒頭でも触れたが、たいていのリハスタには録音設備があるし、宅録ならパソコンが使えるので、多重録音なら専用の機材は必須でないと思われる。ぶっちゃけ、生ドラム以外の楽器が単独で3ch以上使うことはあまりない(アコピを本格的に録音する場合はマルチトラックでやるが、普通にやるならステレオミックスにしてもそれほど支障はない)。
反対に、同時演奏が多い場合はチャンネル数の消費が激しい(3~4人以上の構成なら、ミックスアウトの録音やオフマイクのみの録音も考慮してみるとよいだろう)。また、生ドラムは単独の録音でも4ch/4trくらいは欲しい。弾き語りをやるので3ch/3trくらい使いたいという場合は、パソコンで複数のサウンドカードを併用する手もある(環境によってはリソースが衝突することもあるようだが、手元でオンボードサウンドに加えてSB Audigy LSをインストールしたマシンでReaperによる4ch同時録音を試したところ、とくに設定の必要なく録音できた)。
多重録音の順番について。
まずはリズムトラックを用意しないと話にならない。後で差し替えても構わないのでドラムスとベースだけは先に録音しておく。ついで、ウタものの場合はヴォーカルを、インストの場合はリード楽器を仮録音するが、録音用に用意する伴奏は簡易なものでも構わないと思う(このとき仮に録音したヴォーカルを「仮歌」などと呼ぶ)。
大まかには、土台パート>簡易伴奏とリードパート>土台パート直し>その他の伴奏>リードパートと1往復半させる感じだろうか(結果的に2往復半とか3往復半になることはままある:1人制作だと心ゆくまで自由に何往復でもできるのが強みになる)。予算や時間の都合で生ドラムの再録音を避けたい場合は、ある程度完成形が見えた状態で録音を開始する必要がある(ドラマーの技量にも大きく左右される)。
バンドでの制作であれば「合わせ」のときにアイディアを煮詰めることができるが、1人録音や遠隔地での多重録音の場合は「まずすべてのパートを仮にでも出揃わせる」ことが大切である。とりあえずデモを作って、そこから構想を練り直した方が結局は早いだろう。生ドラムの録音には非常に時間がかかるため、スタジオでの収録を考えている場合はそれなりに配慮が必要である。
それほど大げさな話ではないのだが、録音の時点でどこまで音を作るかによって、その後の処理がやや変わる。
まずはマイク>単機能のマイク/ラインアンプ>単機能のレコーダーと繋ぐ場合。単機能マイクアンプというのは単純に音を大きくするだけのもので、製品名で言うとオーディオテクニカのAT-MA2やM-AUDIOのDMP3など。単機能レコーダーは入力した音声をただ記録するだけのもので、多くのローエンドサウンドカードが相当するが、多機能なレコーダーでもフラット設定にすれば同様に使える(たとえば高級デジタルMTRでも、EQやイフェクタなどをフルフラットにしておけば「入ってきたままの音」を録音できる:当たり前といえば当たり前)。
このスタイルの場合、音作りと録音を完全に分離することになる。ノンリニアでアンドゥやリドゥやオートメーションを駆使しながら編集できるのが利点だろう。たとえばアコギなどを録音する場合にEQが使えないと感覚が狂いやすい(奏者にもよる)など、デメリットももちろんある。ヴォーカルあたりだとそれほど気にならないことが多いので、比較的適するのではないかと思う(筆者自身、ヴォーカル録音はたいていフラット設定でやっている)。モニタだけEQを通して返すという技もなくはないが、初心者向けでないためここでは扱わない。
マイクからレコーダーまでの間にEQなどを挟む方法もある。マイク>多機能のマイク/ラインアンプ>単機能のレコーダー、マイク>単機能のマイク/ラインアンプ>多機能のレコーダー、マイク>多機能かつアンプ付きのレコーダーのうちいずれかのパターンになるだろう(ごくまれにEQやコンプが付いたマイクもあるが、ここでは考慮しない)。実際上は、MTRやミキサー(ヘッドアンプのところにEQくらいはついているのが普通)を使って録音するパターンがこれに当たる(筆者はヴォーカル以外このパターンが主で、パソコンで録音するときはMT4XのヘッドアンプとEQ、MTRで録音するときも788のEQを使っている)。
このスタイルの場合、大まかな音作りを録音前にやってしまうことになる。が、だからといって後からイジりにくくなるかといえば、普通の設定でやっている限りそんなことはなく、困るのはミスって変な設定で録音したとき(たとえばギター用のプリセットとブルースハープ用のプリセットを気付かないまま間違えて使ったとか)くらいである。前述のアコギなどは、ある程度音を作ってからモニタを返してやった方が弾きやすいという人が多いので、このスタイルが適すると思う(低音を削っておかないとベースが聴こえにくくなるし)。
マイクからレコーダーまでの間に、もっと積極的な音作りをする機器を挟むこともある。このとき用いる機材は、メーカーや用途によって、チャンネルストリップだのサウンドプロセッサだのマルチイフェクタだのペダルイフェクタだのといろいろな名前で呼ばれる。具体的な機種としては、BEHRINGERのMIC800 MINIMICやdbxの286Aのほか、ギター用のイフェクタやギターアンプ、キーボードアンプなども含めてよいだろう。もちろん、パソコン上でこれらをシミュレートする(いわゆる「かけ録り」)こともできるし、ワークステーションタイプのMTRにもそのような機能がついている(前述の788にもコンプやリバーブやオーバードライブやコーラスなどがついているが、筆者はノンリニア派なのでほとんど使っていない)。
生音をパラ出ししていない限り、後から「やっぱりオーバードライブがキツすぎた」などと思っても修正できないのがデメリットだが、多機能な機材の場合たいていはパラ出しも(手間は増えるが)できる。メリットはやはり完成形の音をイメージしやすいこと(とくにエレキギターなどは、生音だけでの録音などとてもやっていられない)と、機材の組み合わせによってはプレイヤーが手元で音をコントロールできること(たとえばペダル式のギター用イフェクタや多機能なチャンネルストリップなど)だろう。筆者が(他の人が演奏する)エレキギターを録音する場合、音は手元で作ってもらうことがほとんどである(パラ出しできる場合はパラでも一応もらうが、めったに使わない)。
で、初心者の場合どういうやり方がラクかというと、ヴォーカルならすっぴん録音かEQ(おもに近接効果の調整に使う)だけ、アコギならEQ(ベースとかぶらないようにするのと、高音がしゃしゃり出過ぎないようにする)だけ、エレキなら加工済みの音をもらうのがよいのではないだろうか。エレキの場合はイフェクタの設定をメモった上で生音をパラ出ししておく手もあるが、やや面倒である。鍵盤系電子楽器の場合は生音もへったくれもないので、ラインから出る音を普通に録音すればよい(MIDI出力可能なら平行して記録する手もある)。その他のアコースティック楽器はすっぴんで録音するか、奏者の手元である程度音を作れるようにしておけばよい(高価な機材をわざわざ用意しなくても、4chくらいのアナログミキサが1台あればたいてい足りる)。
プレイヤーもエンジニアも初心者の場合に、とりあえずこれを試してみたらよいだろうというマイキング。多重録音の前提。
マイクの種類だが、環境と録音技術のどちらかに不安がある場合、コンデンサマイクやエレクトレットコンデンサマイク、とくにラージダイヤフラムのものは避けた方が無難である(後述のオフマイク録音で無指向性マイクを使う場合を除く)。少なくとも練習スタジオクラスの環境(防音だけでなく、温度/湿度の安定性や電磁ノイズ対策なども含む)とマイキングで積極的に音を作れる技術(と耳とモニタ環境)がないと、メリットをなにも得られずにデメリットだけ残るハメになりやすい。ダイナミックマイクを使う場合でも、宅録は難易度が高くなる(マトモな録音にするために必要な技術や工夫が多い)ことを覚えておこう。
コンデンサマイクでないと音質的に不利な楽器(シンバルなど)を録音しなければならない場合は、覚悟を決めて挑戦するか、ムリせず妥協するか、お金を払ってプロに任せるか、あらかじめ検討しておこう。また機材の項で述べたように、多重録音やソロ録音には単一指向性マイク、オフマイク録音にはオフマイク用マイクか無指向性マイク(オンマイク用マイクしかなくても、ある程度の補正は可能)、複数マイクでの同時録音には超指向性マイクを使うのが無難である(弾き語りは楽器によるが、多くの場合、単一指向性マイクの方が使いでがあると思う)。
楽器の種類に関わらず、もっとも簡単なのはオフマイク(0.5~2.5mくらい:楽器のサイズや音量などによる)でのモノラル録音である。欲を言えば無指向性のコンデンサマイクがよい(冒頭の記述と矛盾するようだが、オマケ3で触れるような都合があって、マイクの選択が非常に微妙)のだが、部屋鳴りがモロに出るので環境面に注意したい(高音が乱反射すると音が遠くなるというか、篭ったような音になる)。また無指向性マイクは低音の跳ね返りに弱いため、低音楽器のオフマイク録音にはあまり向かない(アコギくらいなら、後述の反響対策でなんとかなることが多い)。ポータブルレコーダーなどでステレオ録音しかできない機種の場合、ステレオで録音して片方の音を捨てればよい(音を残す方のマイクを音源に向ける)。
壁でももちろん音は反射するが「平らで硬いもの」があると最悪なので、宅録の場合はガラス窓のカーテンを、練習スタジオに大きな鏡がある場合は扉を閉めておこう。同じ理由で、至近距離から壁に向かって音を出す状況も避ける(単一指向性のマイクを使っても壁からの反射音を完全に遮断することはできないので、跳ね返る音量自体をある程度コントロールしなければならない:やむを得ず壁が近い場合は、真正面ではなくやや斜めを向くことで悪あがきするが、逆効果になるので「カド」を向かないこと)。たとえ壁と床をなんとかしたとしても、普通の住宅だと天井はどうにもならない(集合住宅だと騒音問題でもネックになりやすい)だろうから、あまりムキにならずに調整して欲しい(余談だが、音楽スタジオが音響性能にどのくらい気を使っているか、天井を見るとだいたい予想できる)。
以下、オンマイク録音に挑戦する場合の注意点などを楽器別に紹介する。
ヴォーカルは、耳の穴(左右どちらでも)の正面約15~20cmくらいにマイクのヘッド(音を拾う部分)が位置するようにして口元を狙う。もし吹かれの問題が出ないようならマイクをやや近くしてもよい。ブルースハープはヴォーカルと同じマイキングで録音する(直でギターアンプに通すのでなければことさらオンマイクにする必要はない)。
アコギ(ラウンドホールの場合)は、ボディの底(裏板のところ)でサウンドホールの中心とぶつかるようにマイクを向け、サウンドホールの縁と1弦の交差点(2箇所あるはずだがブリッジ側)を40cmくらいの距離で狙う。または、真正面からサウンドホールの縁と1弦の交差点を狙う。イコライザ(ミキサーやレコーダーについている3極くらいのもので十分)での補正が比較的重要な楽器で、単品の音だけでなく(ソロでないなら)バンドサウンド中での鳴り方を意識しながら調整してやるとよい(ベースがいる/いないで低音の必要性が変わるし、中音域がヴォーカルに干渉しやすい)。
楽器の種類に関わらず、アンプにマイクを立てての録音(アンプ録り)の前にアンプのラインアウトからの録音(ライン録り)を試してみよう。どうしてもこのキャビネットでというアンプがあるなら、正面40cmくらいにマイクを立ててみる。
アコピや生ドラムの録音は(それなりに経験を積むまで)全力で回避しよう。もしやるハメになったら、楽器から3mくらいの距離(椅子に座った人の耳くらいの高さ)にステレオマイクを1セット立ててやり過ごそう(プレイヤーのそばで録音する手もあるのだが、やっぱり本来音が飛ぶ方向から録音するのが自然だし、プレイヤーが出す音声ノイズの問題もある程度回避できる)。フルートやオカリナなど「息を吹いて鳴らす音が小さい楽器」も録音が難しい(マイクを吹かれない程度に近付いて録音しよう)。単品パーカッションはコンデンサマイクでないとマトモに録れないものが多い(トライアングルやウインドチャイムで顕著だが、ボンゴなど太鼓系のものでも相当厳しい:部屋鳴りにも敏感な楽器なので十分気を使おう)。
宅録の場合、当然ではあるが近所迷惑に配慮し、時間帯に気を使おう。電子楽器でスピーカから音を出さない人も、鍵盤など(ペダルを使う場合はなおさら)はけっこう操作音が響くので注意。反対に、録音中外で自動車のクラクションがパパーっと鳴るなどということも普通にあるので、最初から「そういうものだ」と心得ておこう。宅録で固定電話や玄関チャイムが鳴ってしまうのはある程度仕方ないが、録音中に携帯電話を鳴らす奴はサイテーなので、電源を切っておこう(電磁ノイズも出るので無音モードにするだけでは不十分)。
はじめて外部(リハスタなど)で録音するのなら、自宅などで一度録音手順を予習しておこう。必要な機材(ACアダプタ含む)を列挙して「持ち物チェックリスト」を作っておくとよい(仮ベーストラックや仮ウタをあらかじめ用意してある場合はデータの「忘れ物」にも注意:筆者はこれで大いに焦ったことがある)。楽器と機材両方に同じことが言えるが、重かったり大きかったり衝撃に弱かったりするものが多いので、運び方の計画をしっかり練っておこう(自動車で運ぶ場合はどの駐車場から運ぶかまで考えておく)。慣れないうちはとくに、レンタルできるものはレンタルで済ませるのも手。安物のケーブルなどは荷造りと荷解きを繰り返すうちに断線することもあるので、何本か予備を持っておくと安心。
人数や構成によって変わるが、録音にはとにかく時間がかかる。筆者が2~3人でデモ作りをやる場合、スタジオに入って、機材を広げて、配線して、マイクを立てて、音出しして、セッティングを調整して、音の出入りが確実にできているか確認して、とりあえず軽めに録ってみようか、というところまで20分くらいだろうか(マイクを立てるくらいまでに、楽器のチューニングとヴォーカリストの声出しを終わらせてもらうようにお願いしておくこと)。全員が初心者の場合、セッティングに1時間、撤収に30分くらい見た方がよいだろう。生ドラムのマルチマイク録音は、慣れた人でもゼロからやると1時間はかかる(全員が初心者ならワンポイントマイクをポンと置く以上のことはやらないのが無難)。
正味の録音時間は作業方針によって千差万別だが、たとえば5分の曲(打ち込みドラムスのトラックを前もって用意してある)を、とりあえず通しでライブ録音、聴き返す、サビのギターがどうだブリッジのコーラスがこうだとモメる、じゃあこんな感じかなと合わせてみる、聴き返す、もうちょっと詰めてからパートごとに(仮に、ベース、ギター、ヴォーカルの3パートとしよう)録音、本人からの「泣き」や他のメンバーからの「ダメ出し」で2回くらい再録音、パンチング録音をちょこちょこ、仮ミックスして聴き返し、さらにまたモメる、再録音1回とパンチング録音2~3箇所くらい、話の中から「こんなのもアリだと思うんだよね」という演奏が出てきて別テイク2本、くらいの流れだと、スムーズにやって2時間くらいだろうか(実際には途中どうでもいい話でダベる時間やヤニ休憩などがあるのでもう少しかかる:時間が押しているときにはそんなヒマはないが、リラックスして録音したり頭を切り替えたりするために必要なことではある)。
だいたいの目安だが、アレンジを仮決めした状態で全員初心者の3~4人バンドが4時間でデモ録り(各自からの「アイディア出しのデモ」や「仮歌」や「仮ベーストラック」などはすでに行き渡っている前提で「合わせデモ」を作る:セッティングや撤収も込み)した場合、1曲最後まで終わればまずまずの手際だと思う。アレンジも考えながらの作業だと、筆者がやった例で、7分の曲にエレキとコーラスを仮入れするだけで5時間くらいかかったこともある(セッティングとエレキの音決め、エレキのアイディア出し、エレキの録音、コーラスのアイディア出しと録音、その他中だるみや撤収に各1時間くらいだったかな)。
デモができて方向性がカッチリ決まったらデモを元に各自が練習、一度どこかで軽く合わせて音の確認(または2回目の合わせデモ作り)をして、微調整部分を練習してから本番録音する。本番録音にかかる時間は、楽器の腕前、微妙なミスへのこだわり、イケてるテイクが何回目に出てくるかの運などが絡むので、これだけで終わるという目安はない(一応、OKテイクを決める都度聴き返しながら生ドラムなし3パート合計12テイク+ラフミックスを聴いてパンチングがちょこちょこくらいの進め方だと、慣れた人がサクサク進めて正味2時間ちょっとだと思う:どんな曲でも1発OKを出せる凄腕プレイヤーが3人揃っていれば正味1時間かからずに終わるし、1人で10テイクくらいNGを出せばそれだけで1時間以上かかる)。
たとえキッチリ練習していても、その日の調子やノリの噛み合いなどで、何テイク録ってもOKが出せないことが実際にある。そういう場合どうするのか(後日改めて録音するのか、OKテイクが出るまで気合と根性で粘るのか、パンチング録音やニコイチでなんとかするのか)、1人制作なら自分の都合と調子だけ考えて決めればよいことだが、バンドでやる場合は各メンバーの都合やプレイヤーの特性を考慮して判断する役割の人が必要になるだろう(そもそもどういう基準でOKを出すのかも、ある程度決めておいた方がよい:ベテランが1人いるなら完全に任せてもよいし、本人を含めても含めなくてもとにかく2人OKを出したら次に行くという形でもよいし、ベースにはギターからとかギターにはヴォーカルからといった形でパート別にOKを出してもよいし、その辺は適当に)。
完全な余談ではあるが、バンドで合わせデモを作る場合、休日の午前から4時間スタジオ>みんなで遅めの昼(ヴォーカリストは食べ過ぎないこと)>また4時間録音>反省会を兼ねつつ打ち上げをやって解散、といった和やかなスケジュールも悪くないが、平日(金曜日はスタジオ代が高いので月~木曜)の夜に集合(なぜかアルコールが入っている奴がいる)>ぶっ通しで録音(途中で言動がおかしくなる奴がいる)>フラフラしながら牛丼屋で始発待ち(気絶するように寝る奴がいる)>半死半生で翌日出勤or登校(マジ寝するので仮眠はしちゃダメ)>帰宅即泥のように眠る、というギスギスしたコースも筆者は好きである。
たいていの場合、打ち込みに頼る部分が大きくなると思う。外部リンクのページから辿れるサイト、とくにヤマハの上級打ち込み講座はぜひ参照しておくべきだろう。
前の項目とも重複するが、ドラムスとベースは打ち込みのメリットが比較的大きいのでムリに生楽器を使う必要はない(弾けるのに封印する必要もないが)。鍵盤は自由がきくので、生楽器で録音してもリアルタイム打ち込みを加工しても最初から完全打ち込みでもよいだろう。
ポピュラーミュージックで多用される楽器の中ではギターが一番のネックである。もし打ち込みと楽器が両方初心者であれば、多くの場合、打ち込みでギターらしい音を出す練習をするより本物のギターを練習した方がずっと早いと思う。反対に、ギターを弾ける人は1人制作を行う上で非常に有利である。複数人数での制作も視野に入れて考えたい。
ヴォーカルは生録音以外に選択肢がない。声質の問題があるので、作曲や作詞の段階からヴォーカリストの特性を意識して作業すべきである。選択肢としてヴォーカルシンセ(ボーカロイドなど)という手もなくはないが、2010年1月現在、どうがんばっても「生ヴォーカルの代替」には程遠い(ギターの方がまだラクなんじゃないだろうか)ので、やはり最初から特性を意識して作業を進めるべきだろう。
マルチプレイヤーでない人が打ち込みに頼らず1人演奏するとなると、必然的に弾き語りに近い形態になると思う。これはこれで面白い編成で、なにより自由がきくのが嬉しい。ドラムスとベースのみ打ち込んでコード楽器とヴォーカルを重ねるようなパターンも、柔軟性と表現力のバランスを考えるとうまみがある。
音声加工によるノイズ対策はノイズ対策のページ、パソコンを使用する場合の注意点などはサウンドカードへのマイクレベル接続のページ、音楽以外の用途で多少の音の変化を許容する例はストリーミング放送の収録と加工のページに紹介がある。Audacityの操作がわからない人はAudacity2の初心者お助け講座を参照。
マイク録音を例に説明するが、ライン録音でもやることはほぼ同じである。パソコンを使わずに録音した場合は、SDカードやUSB端子などからパソコンにデータを移して同じことをやる。また、楽器の音や声が大きければ大きいほど良好な録音がしやすいということを覚えておこう(とくに、初心者のヴォーカル録音が上手くいかない原因として、声の小ささは非常によく見られる)。
マイクの手前の段階でまともな音量が出ていないと、以下に挙げる機材のチェックを行っても無意味である(1mの距離で「はっきりとした話し声」くらいの音量が出ていればマイクを近くすることである程度対応可能だが、それでもハンデにはなる)。
未確認だが、プラグインパワー経由でノイズを拾ってしまうマイクがあるようなので、レコーダーやサウンドカードの能力を確認したいなら、プラグインパワー対策のなされたマイクを使わないと誤解の原因になり得る。
以下では変動が少ない部分のピーク音圧を基準に測定を行っているので、機器のカタログなどに記載された値(電力換算の平均を取ってからA特性という計算式に当てはめて補正してある)とは(程度の差はあれ)異なった結果になる。値は目安程度に受け取って欲しい。
ハムノイズやバズノイズ(ブーンという音)が混入する場合、真っ先に疑うべきなのはケーブルである。スピーカ用のケーブルをマイクに使っていないか、断線しているケーブル(交換するとノイズが消える)はないか、グランドリフトスイッチを「リフト」にしている機器はないか、スピーカケーブルや電源コードなど大電流を流すケーブルの近くにマイクケーブルなどを這わせていないか(どうしてもやむを得ない場合は垂直に交差させる)といったチェックを行う。
とくにマイクケーブルでは、床を這わせたコードが床下の電気配線からノイズをもらうことがある(集合住宅で顕著だが、配線次第では一戸建てでも普通に起きる)。屋内の固定利用では長すぎるケーブルを使わないようにしたい。
バスノイズはマイクやエレキギターなどが拾うことも多いが、これについては場所や向きを変えてやってノイズが増減するかどうか試せばよい。ただしこのとき、ケーブルが半端に断線していると移動した拍子に接触が変わってノイズが増減することがあるので、テストには新しいケーブルを使った方がよい。
まず、普段録音を行っている状態にセッティングする。デジタル録音の場合、一番大きな音を録音したときに-12dbFS(最大音量より12db小さい)くらいになるよう余裕を持たせて設定する(慣れないうちはもう6dbくらい小さくしてもよい)。用語に混乱があるが、以下この余裕のことを「ヘッドマージン」と呼ぶことにする(本来は「最大入力レベルと規定入力レベルの差」を指す言葉:「ヘッドルーム」とか「ヘッドルームマージン」という場合もある)。音楽制作用の録音で20dbを超えるようなヘッドマージンが必要になることはほとんどない。
本来的な話をすると、普通はアナログよりもデジタルのダイナミックレンジの方がはるかに広いので、アナログアンプの入力換算ノイズや歪率のバランスが取れるよう設定して音量はデジタルアンプで調整するのが理想だが、話がややこしくなるのでここでは相対音量で決め打ちする(真面目に計算すると、たとえばデジタル化直前までの合計ノイズフロアが70dbだった場合、16bit録音の量子化ノイズは-96dbなので、8db程度のデジタル増幅は音質にほぼ無関係、18dbくらい増幅しても大きな影響は出ないことがわかる:凝ったセッティングを検討する場合は、最初にどの程度のマージンがあるのか確認しておくとよいだろう)。
ただし、ローエンド機器のヘッドフォン出力やミキサーのトリムなどは、ボリューム全開にするとヤケクソなほどノイズが出るものが多く、ちゃんと切り分けないと「アンプが出すノイズが増えている」のか「アンプより前で入ったノイズが大きく増幅されているだけ」なのかわからないが、常用範囲は「ノイズが耳につく手前」くらいまでにしておくと無難だろう。またオンボードサウンド(パソコンに最初からついている音声入力)などでは音量の設定値が極端なものがあり、たとえば筆者の手元のEndeavor NP11-Vというパソコンは録音マスター音量を5分の1にしてもまだ増幅がかかるような仕様になっている。アナログ機器の音量を上げてパソコンの録音レベルを下げても音が割れないなら、そのような設定を試してみた方がよい。
サウンドカードやレコーダーの前にアンプを噛ましてラインで入力している人は、アンプのボリュームを70~80%くらい(標準位置があるならその位置)にしてサウンドカードのボリュームを調整するとよい(サウンドカード側のボリュームで調整しきれない場合にアンプのボリュームを変える:ただし、ラインの録音レベルを変更できないレコーダーでは常にアンプ側で調整する)。ちなみに、以前連協の森田さんが「ギター本体のボリュームを絞ってでもギターアンプのボリュームを上げるべし」という旨のコメントをしていたが、これもおそらく歪率などが影響していると思われ、単純にハイファイ方向に振ればよいというものでないことがわかる(・・・が、すでに述べたように、ここでは単純化のため録音レベルを合わせることだけを考える:音量ツマミを標準位置にしておけば、たいていのアンプは本来の特性で出力してくれるはずである)。
準備ができたら、設定を変えないままサウンドカードまたはレコーダーからプラグを抜き(抜き挿しは取扱説明書に従って行うこと)10秒間録音する(プラグを抜くと録音できなくなるサウンドカードではこのテストができないので省こう)。それをAudacityに読み込んで(または最初からAudacityで録音して)トラック全体を選択、効果>正規化と選び「どんなDCオフセットも削除します」だけにチェックを入れてOKボタンを押す。
ついでトラック全体を選択したまま、効果>増幅で50db増幅する(24dbの増幅を2回と2dbの増幅を1回の、計3回に分けて増幅する)。
もしここで50dbの増幅ができない(音量オーバーでクリップする)ようなら、サウンドカードまたはレコーダーの故障か性能不足が考えられる。トラック全体を選択して解析>スペクトル表示を選んでみよう。
ノイズレベルが高くてかつこのように「全体に右肩下がりで右端がちょっと上がる」グラフが表示されたら、サウンドカードの性能不足(またはマイクに入れる音が小さすぎる)が疑われる(左下の4項目は図と同じに設定しよう)。機種によっては右端が上がらないケースもあるかもしれないが、これは異常ではない。また、たいていのサウンドカードでグラフが上図と似た形になるが、ノイズレベル自体が低いのであれば気にする必要はない(機種によっては、AD変換のハイパスの仕様で左肩が下がることもある)。
このように「普通のグラフ+変な突起」がある場合、外部からノイズが混入していると考えられる(一番低音側の大きな突起は、東日本では50Hz、西日本では60Hzの周波数になるのが普通)。
先にやったケーブルや接続のチェックをもう一度見直すとともに、携帯電話や無線ルーターなどの無線機器、ACアダプタや調光器やパソコンの電源など電気を加工する機器、テレビやビデオやパソコンのモニタなどの映像機器、LED電球や蛍光灯などの照明機器、スピーカやアンプなど他のオーディオ機器、電源タップ、電子レンジなど、電磁ノイズ源が近く(壁や床の向こうも含む)にないか確認してみよう。なかでも無線機器と調光つき照明器具は極悪なノイズを発生させることがあり、真っ先に電源を抜いてノイズの変化を確認したい。もしまったく心当たりがなければ(とくに電源部の)故障や能力不足が疑われる。電池orバッテリー駆動できる機器の場合、電池で動かしてみると問題の切り分けがしやすい(もし電池駆動してノイズが消えるなら、AC電源が犯人である可能性が高い)。とくに調理器やエアコンなど大電力を消費する家電が同じコンセント(に見えなくても電気的につながっていることがある)を使用していると、他の機器に悪影響を与えることがある(エアコンなどは単独使用以外不可としている機種が多い)。いわゆるPCマイクを接続してテストした場合も似たようなグラフで高めのノイズレベルになるが、後述するように、サウンドカードやレコーダーの能力よりもマイク内蔵のプリアンプが疑わしい。
間にアンプを噛ます人は、上記の作業の後アンプをサウンドカードまたはレコーダーにつなぎ、マイクをアンプから抜いて同じ作業を繰り返そう。もしここでノイズが大幅に増える(50dbの増幅ができなくなる)ようなら、アンプが故障している可能性が高い。また、アンプを噛ますとスペクトル分析時に上図のような「変な突起」が出るはずだが、アンプとサウンドカードをつなぐケーブルから入るノイズもあるので、多少なら気にしなくてよい。あまりに酷いようなら、稼動状態のアンプをつないだ場合と電源を切ったアンプをつないだ場合のノイズを比較して、ノイズ源がアンプなのかケーブルなのかを突き止めよう。
もしこのように「鋭いトゲが何本もある」形になったら、アンプかケーブルの近くに強力なノイズ源があると考えられる(グラフの左の方が妙に盛り上がっているのはマイクをつないだせいなので気にせず、トゲの部分にだけ注目して欲しい)。
さて、無事に50dbの増幅ができた人は、10秒間の波形のうち「もっとも大きく増幅できそうな(=波形が大きく上下していない)1秒間くらい」を適当に選択して、効果>増幅を選んでみよう。ここで表示される数字に50(先ほど増幅した分)を足して符合をマイナスにしたものがサウンドカードまたはレコーダーのノイズフロア(最低限これだけのノイズがあるという値)にほぼ等しい。
上の図では21.4dbなので、ノイズフロアは-71.4dbということになる。
だいたいの目安だが、-70db以下であれば良好な性能、-60dbくらいなら普通の性能、-50db以上だとやや問題のある性能だと言えるだろう。ちなみに筆者の手元では、オンボードとSound Blaster Audigy LSのマイク入力がともに-60~-55dbくらい、ライン入力がともに-78~-74dbくらいで、MT4Xをライン入力につなぐと-76~-72dbくらいになる。ノイズフロアを-80db以下に落としても、現実的なメリットはあまりない(後述)。この時点でノイズフロアが-50dbを越える場合は、調子の悪い機器を特定して購入店やメーカーで点検してもらうべきだろう。
さて、サウンドカードまたはレコーダーのチェックが終わったら、現在の構成にスイッチをオフにしたマイクを追加接続して同じチェックを行ってみよう。スイッチのないマイクを使っている人はこのチェックを省いてもよい。通常は、ノイズレベルにさほど大きな変化はないはずである。ノイズが大幅に(6dbとかそれ以上)増える場合は、マイクケーブルに不具合があるか外来ノイズを拾っているはず。
スイッチをオンにしたマイクでチェックすると、ノイズレベルはそれなりに上がるはずである。電磁ノイズと音声ノイズは、慣れれば各種分析ツールと耳を使って判別できるようになるのだが、初心者にはやや難しいと思う。しかし、マイクの種類によってある程度の傾向があるため、それだけ覚えておけばだいたいの指針は立つ。基本的に、右肩下がりのノイズはアンプ、トゲは電磁ノイズ、それ以外は音声ノイズである可能性が高い。
ダイナミックマイク(ムービングコイル式)の場合、とくに大きな外来ノイズがなければ、
上図ように「低音側に山+短めのトゲ数本」になる。低音ノイズはせいぜい10~20Hzくらいまでの音域なので無視して構わない(加工時にハイパスフィルタで落ちる)。問題は何度も出てきているトゲのようなノイズだが、上図くらいならほぼ無問題だろう。先ほども紹介した下図のように、
鋭く長いトゲが何本も現れる場合、近くに電磁ノイズ源がある可能性が高い。基本的に、ダイナミックマイク自体が大きなノイズを発生させることはほとんどないが、外部のノイズは比較的拾いやすい。なお、同じく外部ノイズを拾いやすいパッシブのマグネティックピックアップを搭載したエレクトリック楽器の場合、もし楽器本体のボリュームをゼロにしてノイズが消えるようなら、楽器~ケーブルまでの間で拾ったノイズがおもな問題なのだろう(さらに、ケーブルを楽器から抜いて(プラグの金属部分を含め)どこにも触れない状態にすることで、楽器とケーブルのどちらが主犯か推測できる)。
エレクトレットコンデンサマイク(いわゆる「PCマイク」や「PCヘッドセット」はたいていこれ)の場合、サウンドカードやレコーダーと似たようなノイズが乗ることがある。このノイズが大きい場合、マイク内部のプリアンプが悪さをしているのではないかと疑われる。
ノイズレベルが高いエレクトレットコンデンサマイクが拾うノイズの典型的なグラフはこのようになる。上図はサウンドカードからプラグインパワーモードで動かしたAIWAのCM-TS22のノイズを分析したもの(電池モードならもう少しおとなしくなる)だが、この手のマイクには強烈なノイズを乗せてしまうものがある(もともと音楽用ではなく文句は言えないが)。またこの例のようにマイクの内蔵アンプで大きなノイズが発生している場合、マイクより後ろの機器でなにをどうしてもあまり効果がないことに注意して欲しい。
部屋の防音環境にもよるので一概には言えないが、自宅でのマイク録音なら、スイッチをオンにしたマイクをつないで普段録音している設定にした状態でノイズフロアが-60dbを下回っていると理想的である。具体的な計算は他のページに譲るが、環境雑音が50dbの「昼間の普通の部屋」で70db@1mの「大声」を10cm先のマイクに入れる場合、マイクに入ってくる音声ノイズだけで-40dbになる(つまり、部屋を静かにするか録音する音を大きくするかマイクを音源に近づけるかしないとこれ以上ノイズは減らせない:環境雑音が40dbの「静かな部屋」で80db@1mの「かなり大声」を10cm先のマイクに入れて、音声ノイズがやっと-60dbになる)。
簡単に「ノイズフロアが-60db」とは言ったものの、これを達成するにはそれなりに費用がかかる。前述のように、筆者のオンボードサウンドとSound Blaster Audigy LSはマイク入力単品でも-60db以上のノイズフロアがあるため、外部アンプを用意してライン入力する以外に方法がない。詳しくはローコスト制作の機材関連のページ(ノイズフロア約-53db、ヘッドマージン約-8dbで録音したサンプルも掲載してある:大音量で再生するとわかるがノイズの主成分はパソコンの動作音で、これにはかなり手を焼いた)に譲るが、筆者の宅録環境には総額7000円くらいかかっており、ノイズを注意深く避けたセッティングでノイズフロア-61.7dbが最高であった(あくまで最高値で、平均すると60db前後:ここにノイズ対策の加工を施すと影響はもう少し減る)。
追記:一足飛びの録音と加工のページに、初心者が実際に録音したサンプルも掲載した。使用した機材は、ギターがマーティンのナイロン弦、パソコンがNECのVN500R(Vista搭載)、マイクがSHUREのSM57、マイクスタンドがK&Mの25900、アンプ代わりのアナログミキサがBEHRINGERのXENYX802、オンボードサウンドなので、ギターとパソコン以外で総額2万円ちょっとかかっており、ソフトウェアはReaperとASIO4ALLである。詳しくはリンク先を参照。
マイクを音源に近づけることで音声ノイズの影響を減らせるが、指向性のマイクだと近接効果が出て音が不自然になる(低音を削ることで補正できるが、不自然な音を録音してから補正するよりは最初から自然に録った方がいいのは言うまでもない)ほか、ヴォーカルや吹奏楽器だと吹かれ(マイクに息が当たってノイズになる)の問題もあるため、演奏者とエンジニアの両方にある程度の慣れが必要になる。パソコンなど明らかなノイズ源(音声ノイズか電磁ノイズかに関わらない)がある場合、距離を離すことで影響を抑えられることも覚えておこう(目安だが、距離を2倍にすることで影響を6db近く減らせる:ケーブルが長くなるとケーブルが拾うノイズが問題になるので、アンプを通してから信号を送りたい)。また、AC電源など大電流が流れるケーブルと平行させてマイクケーブルなどを這わせると大きなノイズが乗るので、距離を離すか、やむを得ず近距離で交差させる場合は垂直に(「十」の字を描くように)配置しよう。
何度も書いていることだが、ノイズの大きさは対数で扱うものなので、たとえば-60dbのノイズと-80dbのノイズがある場合、両者の音圧は10倍も違う(10倍=20dbと2倍≒6dbは覚えておいても損はないだろう)。とにかく「大きなノイズから順に」処理していかないと話が始まらないわけである(この例で-80dbのノイズを完全に消し去っても、ノイズの合計レベルは0.8dbくらいしか減らない)。このことはしっかりと覚えておこう。
上記以外のノイズレベルの目安を挙げておく。筆者が独自に測定したものやメーカーが公表しているカタログスペックをいくつか拾って推定したものが多いので参考までに(単位はdbFS、マイク録音の場合は入力音との差)。大体の目安として「一番大きなノイズより8db以上小さいノイズの影響はかなり小さく、18db以上小さければ(よほど数が多くない限り)ほとんど無視できるレベル」になる。
また、たとえばデジタルピアノのライン出力から録音をするような場合、マイクを使った録音に比べてかなりノイズは少なくなるが、やはり「ノイズは大きいものから潰さないとダメ」なのは変わらず、デジピの音をどうこうする前に(後でデジピの音に混ぜるはずの)マイク録音の音を何とかしなければならない。マイク録音を一切行わない場合もっと低いノイズレベルで録音することは可能だろうが、再生環境との兼ね合いもあって、せいぜい-80~-70dbくらいのノイズフロアであれば十分である。ごく大音量の音源(生ドラムとか大型ギターアンプとか)をレコーディングスタジオで録音する場合、プロならマイク録音でもこの水準に迫れるようだ。
各種のテストを行い外来ノイズも取り除いたが、機器の内部ノイズだけでも許容範囲を超えている、という場合の苦肉の策。
ラインレベルで音声を入れている場合、残念ながら対策のしようがない。というか、ラインレベルの音声に明らかなノイズを乗せてしまうような機材は一刻も早く捨てた方がよい(アンティークものでボロいことに意義がある場合を除く)。
マイク録音の場合、とにかくマイクを音源に近付けて(=オンマイクで)大きな音で録音しよう。近接効果などは後で補正する。ヴォーカルなどが録音対象で吹かれが問題になる場合はウインドスクリーンの使用も考慮する(グリルボールに被せるタイプのものを使い、上唇をくっつけるようにして録音する)。
外部に用意したアンプ(とくにマイクアンプ)でノイズが乗る場合、音量(トリム)を「90~95%以下」にしてみよう。100%にするとヤケクソなほどノイズが乗る機種がある(多くの機種ではフェーダーは全開でもよい)。外部アンプが悪さをしていない場合や、悪さをしているが(パソコンの)内部アンプよりはマシな場合は、外部アンプの出力を(音が割れない範囲で)上げて、内部アンプをできるだけ使わないようにする。
ライブの録音をどの形式で行うかは意外と難しい問題である。真っ先に思いつくのは客席(またはPA卓周辺)からオフマイクでワンポイント録音する(いわゆる「オーディエンス録音」と同じ)方法だが、ハコ鳴り(会場の反響)がしっかり反映される一方でオーディエンスノイズが比較的強く入る。PAスピーカをマイクの正面近くに捉えることと、左右のスピーカからの距離を等しくすることに気をつければ、そこそこ無難な録音ができると思う(詳しくはステレオ録音のページを参照)。
このとき、客席のテーブルなどにレコーダーをただ置くというのは望ましくない。近くを誰かが歩いたり、テーブルに触れたり、物を置いたりすると意外なほど大きいノイズが入るし、音がテーブルの表面で跳ね返って妙な響きになる。卓上用のマイクスタンドにショックマウントをつけて使うのが理想的だが、防振マットなどを用意してテーブルの前端近くにセッティングすることでもかなり改善できる。
PA卓からステレオアウト/ラインアウト/REC OUT/AUX OUTをもらって録音する(いわゆる「ライン録音」)場合オーディエンスノイズは小さくなるが、スタジオでのライブ録音と比べて音のコントロールが難しいという問題が出る。ライブ会場で聴いている分には気にならなくても、ライブ盤の音源として改めて聴くとアラが目立つことがあるので注意したい。ハコ鳴りはあまり反映されない。
PA卓からパラレルアウトがもらえるハコはそうそうないが、もし可能ならステレオミックスで録音するよりも融通が利く。プリフェーダー(音量やPANを調整する前の音)でもらえばさらに柔軟性が高まる(ただし手間は増える)。ライン録音と同じくハコ鳴りやオーディエンスノイズは小さくなるが、パラレルアウトをプリフェーダーでもらえるようなハコならアンビエントマイク(ハコ鳴りを録音するマイク)が用意されているかもしれない。
まずは「PA卓から音をもらえるかどうか」で否応なしに選択肢が制限される。音がもらえる場合、ライン録音が上手くいかなかった場合の保険としてオーディエンス録音もしておくとよいだろう。
編曲のページでやったように、中央をやや空けて低音側と高音側をやや振ってやる形であれば、面倒はあまりない。ここでは鍵盤を丸ごと左右に振る場合を考える。鍵盤の定位を振る場合は(聴き手から見て)左側に置くのが基本(理由はPAの初心者お助け講座のオマケを参照)なのだが「低い音は中央近くに」という原則に合わせると「低い音が右、高い音が左」の配列が好ましいということになる。ソフトウェアシンセのピアノトーンなどをそのまま録音した場合「低い音が左、高い音が右」になっているはずなので、必要に応じて左右を反転してやるとよい。
Jazzなどでアップライトピアノを使う場合は右に置くことが多いが、これも低音を中央に寄せる意味では理に適っている(聴き手に背を向けて演奏するので「低い音が左、高い音が右」になる)。デジピは普通正面を向いて(少なくとも背は向けずに)弾くし、鍵盤の位置通りに音が出るのが自然なので「低い音が右、高い音が左」が基本になる。エレピも似たようなものだが、コーラスやらフェイザーやらがかかるのであまりこだわらなくてよいだろう。シンセに至ってはほとんど「なんでもあり」なので、曲の都合優先で処理して構わないと思う。
そもそもの話をすると、鍵盤は必ずしもステレオで収録しなければならない楽器ではなかったりする。少なくともグランドピアノの場合は聴き手に向かって響板を開けるわけで、音の高さと左右の定位は本来無関係である(低音弦が奥、高音弦が手前という位置関係になる)。アップライトピアノにしても、楽器と聴き手の距離と鍵盤の幅を考えると、必ずしも左右に広げなければいけないようなものではない。まあ、聞いた感じが自然なら楽器本来の構造と多少食い違っても問題ないわけなので、この辺は深く考えないでおこう。
安くても使えるマイクはある。とくにヴォーカル用ハンドマイクは数が出るのでコストパフォーマンス面で有利で、3000~5000円も出せば宅録にはオーバースペックなものが買える。しかし、微妙に気が利いていないように思えてならない。
初心者用マイキングの項で述べたように、音楽用の録音でもっとも扱いが簡単なのはモノラルの無指向性マイクである。ステレオにすると位相差による高域特性の乱れを考慮しなければならないし、単一指向性にすると近接効果や軸外特性などを考慮しなければならない(詳しくはステレオ録音のページを参照)。
もちろん、近接効果や軸外特性を積極的に使って音作りをするとか、ステレオマイクによるハース効果やコムフィルタ様効果を利用して臨場感を出すといった手法は有効なものだが、初心者が「ただ鳴らした音を録音したい」場合にそんなものを使うかというと、ほとんどの場合使わない。
で、実際のラインナップ(2009年現在)を見ると、数千円クラスの無指向性マイクはエレクトレットコンデンサのものがほとんどなのだが、残留ノイズレベルが高すぎるものが多く、音楽用に使うのはかなり厳しい。ではダイナミックマイクならどうかというと、もともとオフマイクが苦手な方式だし、無指向性はほとんど製品がない(1万円台の製品にはSM63などがあるが、これらはインタビュー用で低域が意図的に削られている)。
ポータブルレコーダーの類は最初からマイクを内蔵しているものが多いが、機材コーナーのポータブルレコーダーのページでも触れたように、用途的に微妙なマイクセッティングや極端な味付けをしている機種もあって、必ずしも扱いやすいとはいえない。
自作ならラインアンプ込みで2000円もかけずに組めてしまうのだが、極限ローエンドとなると大手メーカーはなかなか手を出してくれない(その割に、松下のWMシリーズなど、単品カプセルは普通に小売されていたりもする:カプセルだけじゃなくてミニプラグか何かつけたのも売ってくれれば、入門用にかなりよさげなのだが)。
まあ当たり前といえば当たり前の話なのだが、自然な音を出したければライブ録音(それも1つの部屋に集まって一斉に演奏するスタイルのライブ録音)が一番である。お互いの顔が見えていることが演奏に及ぼす影響というのももちろんあるが、音質だけに注目しても大きな違いがある。まずはこのサンプルファイルを聴いてみよう。
2回鳴る音はどちらもサイレントギターの1弦開放と2弦開放で和音を作りライン録音したもの(ハイパス、ハム消しノッチ、ごく軽いオーバードライブを両方に入れている)だが、最初の方は「妙な圧迫感がある感じ」で、あとの方は「弦が2本そろって鳴ってる感じ」に聴こえないだろうか。
実は、最初の和音は1弦と2弦を別々に鳴らして後から(ちょっとだけ時間差をつけて)ミックスしたもの、後の和音は普通に1弦と2弦をピッキングしたものである。別に録音してミックスした方は、弦同士の相互作用がゼロでまったく独立して音が出ている(録音時に音を出さない弦はミュートした)ため、波形に妙な揺らぎが出る。
録音レベルが厳密に揃っていないので参考までだが、スペアナ画像を重ねるとこんな感じになる(赤が別録音でミックス、青が普通に同時ピッキング:上記サンプルはmp3に圧縮した都合で高域が切れていると思う)。
同時ピッキングだと低音域の音程感がやや丸く、別録音ミックスだと高音域(とくに10KHzくらいから上)が強く出ている(ただし、サンプルがこれ1つだけなので、ピッキングやディレイタイムの都合でたまたまこうなった可能性は否定できない)。基底音(B3=246.9Hz)より下の音もやや違うが、160Hz以下はフィルタが入っている。
上記はもともと、サンプリング音源の特性について検討するために作ったものだが、生録音においても「ベースの弦とピアノの弦の相互作用」とか「ギターの弦とスネアドラムのスナッピーの相互作用」など、いろいろな相互作用が働いて「統一感のある音色」が作られているのだと思う。
各楽器の奏者を空間的or時間的に隔離してしまうと当然相互作用は失われるわけで、どうにもちぐはぐでしっくりこない音ができやすい(とくにアコースティック楽器)。また、同じライブ録音でも、オンマイクを使うといわゆる「自然な音」からはかなり遠くなる(というか、オンマイク自体が不自然な音を積極的に作るための工夫である)。
もちろん、多重録音やオンマイクを使った積極的な音作りも有用だし技術的に面白いが、アコースティック楽器中心の演奏などはとくに、下手に凝ったことを考えるよりも素直にワンポイントで録音してしまった方が「味」が出ることも多いので、もしそういう機会があったら思い出してみて欲しい。