このページではおもに、実測データを使用した分析を紹介する。初心者向けの(なるべく)簡単な機材チェック方法は急がば回れの録音の注意を、Aucacityを使ったノイズ対策の手順はAudacityコーナーのノイズ対策のページを参照。
パソコンを使ったマイク録音をいかに上手くやるかという話をする前に、そもそもパソコンはマイク録音に向いていないということを知っておいて欲しい。パソコンは音声的にも電気的にもかなり大きなノイズ源になるので、よほど工夫しないとマトモな録音には使えない。手をかけて無理に録音するくらいなら他の方法(MTRとか)を使った方がずっと早い。このため、パソコンでの録音はあくまで簡易なものだと考えて欲しい。
以下、特に断りがない限りAT-VD3(オーディオテクニカのダイナミックマイクで実売2000円ちょっと:プラグインパワーに対応していないマイクなので問題があるのだが、引っ越しでF-V420を捨ててしまったのでこれしかなかった)を使用して録音した。マイクケーブルもすべて同じもの。
なお、ノイズの評価にはA特性で重み付けした実効値(=平均値)を用いるのが普通だが、以下では変動が少ない部分のピーク音圧(=最大値)を用いている。
一部のサウンドカードには、マイクインのゲイン(音量)が不十分なものがある。そういった機種ではマイクブーストという機能(多くの機種では、固定ゲイン+20db程度のアナログアンプのようだ)を提供して音量を稼いでいる。
マイクブーストの設定は、筆者が使っているオンボードサウンドの場合、録音コントロールのプロパティからトーンの調整にチェックを入れ、
トーンボタンを押し
マイクブーストにチェックを入れると有効になる。
機器によって名称が違うだろうし、この機能を提供していないサウンドカードもあると思う。以下はSound Blaster Audigy LSのトーン調整画面だが、録音コントロールのトーン調整にはマイクブーストの項目はない。
なぜか再生コントロールの方にマイクブーストの設定がある(しかも、録音コントロールで選択していないソースは再生コントロールのミュートを外しても再生リダイレクトに信号が回らない)。
設定画面は再生コントロール内にあっても、録音/再生時ともにこの設定が反映される。
普通のダイナミックマイク(ムービングコイル式でアンプなし)を接続する場合、アナログアンプ式のマイクブーストを(機器の仕様により効果はマチマチだが)ノイズ対策として利用し得る(ただし、プラグインパワー非対応のマイクにプラグインパワーをかけないように注意)。
ローエンドのアンプ内蔵マイク(いわゆる「パソコン用マイク」のほとんどを占める、プラグインパワー動作のエレクトレットコンデンサーマイクなど)の場合、マイクの内蔵アンプの性能が支配的であることが多く、ノイズ対策としての効果は小さくなる。音声を扱いやすくする手段としては普通に使えるが、高効率なマイクだと音量オーバーになることがあるので、まずブーストなしでできるだけの大音量をマイクに入れ、それでも必要なら使う方針が無難。
準備中。
ではオンボードサウンドよりもSound Blaster Audigy LSの方が必ずしも高性能かというと、実はそうではない。
これはサイレントギター(ARIAのsinsonido、圧電式のアクティブピックアップ採用でかなり古いモデル:一般にアクティブピックアップのギターはダイナミックマイクよりも音量が大きいのだが、このギターをフルボリュームにすると、MT4Xのヘッドアンプをライン設定(増幅なし)にしてつないでも最大音量部が歪むくらいの出力がある)をマイク端子に直結して録音(ギター側のボリュームは最大)したもので、
オンボードサウンド(上)は普通に音が録れているのに対し、Sound Blaster Audigy LS(下)はまともに録音できていない(どちらもマイクブーストオフで、オンボードサウンドはボリューム最低、Sound Blaster Audigy LSはかなり低いボリュームで録音)。もちろん、どちらも増幅はかけていない。
波形から、Sound Blaster Audigy LSは(感度が高いためか、単に設計方針として安全側に振ってあるのか)マイクインにリミッターを入れているのだと思われる。筆者の環境でなら、ギター側でボリュームを絞ってやれば問題なく録音できるが、音源とサウンドカードの組み合わせによっては問題が出る場合もあるだろう(筆者の環境でも、Sound Blaster Audigy LSを使って低いボリュームで録音するより、ゲインをギリギリまで絞ったオンボードサウンドにめいっぱいのボリュームを突っ込んだ方がS/Nがよくなるかもしれない:Sound Blaster Audigy LSにライン接続するという手もあり、その場合最大音圧でも-11db程度になる)。オンボードサウンドの方は無茶な入力にもある程度耐えるようだ。
処理の順番を調べるため、ギターのボリュームを中くらいにしてSound Blaster Audigy LSで録音してみた。
上がマイクブーストありを-5db増幅したもの、下がマイクブーストなしを15db増幅したものである。この結果から、Sound Blaster Audigy LSではマイクブーストの後にリミッターがかかっていることがわかる(前述の通り、マイクブーストはアナログアンプで実装している機種が多いため、オンにするとサウンドカード本体に音が入る前に増幅されるのだと思う)。
さらに、ギターから過大信号を入力しつつ録音レベルを下げていった場合の録音波形(上がマイクブーストあり、下がマイクブーストなし)だが
録音レベルはリミッターの後に反映されていることがわかる。ようするに、マイクブースト>リミッター>録音レベルの順である。よい音質で録音するには、まずリミッターがかからない範囲で音源のボリュームを上げ、それから録音レベルでの調整をした方がよいということになる。
以下は録音レベルを最大にしたSound Blaster Audigy LSで録音した波形で、マイクブーストありのものは48db、なしのものは68db増幅してある。
上から順にマイク未接続でマイクブーストなし(ノイズのピークレベル-5.4db)、マイク未接続でマイクブーストあり(ノイズのピークレベル-10.5db)、スイッチを入れたAT-VD3を接続して無音録音マイクブーストなし(ノイズのピークレベル-2.3db、波形の落ち着いた部分で-5.4db)、スイッチを入れたAT-VD3を接続して無音録音マイクブーストあり(ノイズのピークレベル-4.1db、波形の落ち着いた部分で-7.8db)である。マイクブーストをオンにするとマイク未接続時のノイズレベルが5dbほど下がるほか、マイクブーストなしのものはデジタル増幅のし過ぎで波形が荒くなっている(20dbのデジタル増幅だと、ビット深度にして3bit分ちょっとの情報が失われる)。マイクブーストが使えるならば使った方がよいということだろう。
上記はあくまでSound Blaster Audigy LSの仕様なので、サウンドカードによって違いがあると思う。自分が使っているサウンドカードの仕様を把握しておくと、音質向上に役立つ場合があるだろう。
これははっきり言ってまるでわけがわからない。この項目は未完成な記事なのでそのつもりで。また、プラグインパワーの問題についてはオーディオの初心者お助け講座のページでも触れている。
まずこの波形を見て欲しい。
上2つは同じ設定のSound Blaster Audigy LSでAT-VD3と押し入れの奥にあったイヤホン一体型マイクを使って録音方法による音質の違いの項と同じ録音を行ったもの、下2つはオンボードサウンドで同じことをやったものである(いづれもAT-VD3が上、イヤホンマイクが下)。
波形が安定した部分の音量差は、Sound Blaster Audigy LSで9.6db、オンボードサウンドで24.4dbであった(参考までに、練習用に使っているAIWAのカセットレコーダーTP-S50でも試してみたが、聴覚上6~9dbくらいの音量差だった)。
Sound Blaster Audigy LSとTP-S50が正常なのだとすると(いくら何でもオンボードサウンドの方が正常だとは思えないが)、オンボードサウンド使用時にはAT-VD3のゲインが下がっているか、イヤホンマイクのゲインが上がっているか、もしくはその両方ということになる。
そこで、hgwからAIWAのCM-TS22(電池も利用できるエレクトレットコンデンサマイク)を借りてさらに実験してみた。PanasonicのLR44という電池(1.5V)で駆動したCM-TS22とAT-VD3をMT4XからSound Blaster Audigy LSにライン接続して、まず2つのマイクの感度を確認した。以下は同じ録音レベルで、念のため電池は新品を使った。
音量差はピーク値で3.1dbだった。
オンボードサウンドとSound Blaster Audigy LSのマイクインに直接接続した場合、以下のようになった。
上から順に、オンボードサウンドでCM-TS22をプラグインパワー駆動、オンボードサウンドでCM-TS22を電池駆動、オンボードサウンドにAT-VD3、Sound BlasterでCM-TS22をプラグインパワー駆動、Sound BlasterでCM-TS22を電池駆動、Sound BlasterにAT-VD3の順で、上3つと下3つはそれぞれ同じ録音レベルで、CM-TS22をプラグインパワー駆動したときを基準にノーマライズしてある。
プラグインパワー電流の影響を受けない(はずの)電池駆動のCM-TS22を基準に評価すると、オンボードサウンドでプラグインパワー駆動すると9.8db、Sound Blasterでプラグインパワー駆動すると6.7db音量が上がる。電池駆動のCM-TS22とAT-VD3の差は、オンボードで2.4db、Sound Blasterで0.9dbとだいたい一定している。どうやら、AT-VD3のゲインが下がるのではなく、CM-TS22のゲインが上がるようである。
それにしても、電池駆動時(おそらくこれが理想的な動作状態)とプラグインパワー駆動時でCM-TS22の感度が変わるのがおかしい。マイク自体は同じものを使っているわけだから、マイク内部のアンプで変化が起きているのだろうが、電池駆動時とプラグインパワー駆動時で条件が異なるのは電源電圧くらいである(もしかすると電源電圧に依存してゲインが変わるアンプなのかもしれないが、確認できない)。
とりあえず、妙な電流を流すマイクインにはマイクをつながない、エレクトレットコンデンサマイクは常に電池駆動させるといった基本的な対応を徹底しておくのがよいのだろう。
下の図は、MT4XからSound Blaster Audigy LSにライン入力してAudacityで録音(サンプルレート48000Hz)した波形(すべてDCオフセットを取り除き、一部を除き48db増幅してある:ノイズレベルは48db増幅する前の値で示した)。マイクケーブルはAT-VD3に付属のXLR-3-12C<>ミニプラグ3m、オス-オスのケーブルはSonyのミニプラグ<>ミニプラグ1.5mを使用、適宜モノラル標準プラグ<>ステレオミニプラグの変換を行った。Sound Blaster Audigy LSの録音レベルは最大。
無接続の場合にピンクノイズ+ホワイトノイズ状の信号が記録されているが、これがSound Blaster Audigy LSの内部ノイズだと考えてよいだろう(フリッカーノイズ+ショットノイズ+高域ノイズと考えられ、オーディオ機器のノイズとしてはごく一般的なスペクトル:高域ノイズの持ち上がりは18KHzくらいから始まり、いわゆる1/fコーナーが1~2KHz周辺、フリッカーが大きくあまり品質はよくないがピークレベルで-76.4db程度のノイズなら目くじらを立てるほどではないだろう)。
その下3つは似たような結果になったが、Sound Blaster Audigy LSの内部、Sound Blaster Audigy LSからMT4Xまでのケーブル、MT4X内部、MT4Xから音源までのケーブルの4区間で乗るノイズの合計がこの程度だということになる。-76.4dbのノイズが-74.7dbになっただけなので、Sound Blaster Audigy LSの内部ノイズの方がその他3区間(ノイズプロファイルとしてはハムノイズが主:後述するが、ケーブルから入ったものが大部分ではないかと思う)を合計したより大きいのだろう。
サイレントギター接続時には(マイクと違って部屋の音声ノイズを拾わないせいなのか)ハムノイズが大きく目立っているが、これがエレキベース(ハイパス/ローカットフィルタを大胆にかけられない)だったらと思うとぞっとする。
すべてフェーダー標準位置で録音。
上から順に、まったくの無接続(入力ジャックにプラグを挿していない):ノイズレベル-74.7db(ピーク)
マイクケーブルだけを接続し、ショートさせない:ノイズレベル-64.3db(ピーク)
AT-VD3で無音を録音:ノイズレベル-57.0db(ピーク)、波形の安定した部分では-65.7db
SM58で無音を録音:ノイズレベル-59.9db(ピーク)、波形の安定した部分では-62.7db
まず、何も入力がなければラインレベルとマイクレベルに大きな違いはないということがわかる(つまり、MT4Xのヘッドアンプは無信号時に大きなノイズ源になっていない:カタログスペックのS/Nは68dbだが、これは規定レベルの入力があった場合の数値で、無信号時と比べてフリッカーノイズがかなり増えるはず)。AT-VD3もSM58もノイズレベル自体はあまり変わらない(まったく同じレベルにはならなかったが測定誤差だろう)。ターミーネートインピーダンスはAT-VD3接続時で600Ω、SM58接続時で150Ω、ショートさせたときで数Ωくらいだろう。
また、Sound Blaster Audigy LSに直接マイクを接続した場合の結果(前掲)と比べると、10dbくらいノイズレベルが減っている(録音レベルを厳密に合わせたわけではないので参考までだが)。
ケーブルだけ接続した場合のハムノイズ/バズノイズがラインレベル入力と比べて非常に大きいが、MT4Xのヘッドアンプがカタログ値で40dbゲインであることを考えると妥当な数値だろう。ケーブルのみの接続でもケーブルの種類や長さによってノイズレベルが大きく変わることから、ハムノイズのほとんどはマイクケーブル由来のものではないかと推測できる。
HP-X122付属の延長ケーブル(ステレオミニプラグ)はかなり安っぽいもので、本体側のケーブルをバラしてみたところ、左右のチャンネルそれぞれにホットとグランドが並んで入っていた(この手のケーブルはかなり断線しやすいが、実際には中で線が切れているのではなく、無理な折り曲げなどでグランドとホットがショートしているケースが多いだろうと思う:1本の絶縁チューブに2本の導線を押し込んでいるのだから無理もない)。Sonyのケーブルの構造は不明(似たような感じのステレオミニプラグだが、片方のグランドをリフトしているかどうか外見からはわからない)。先に取り上げたAT-VD3の付属ケーブルはXLR-3-11C互換<>モノラルミニプラグ。
チップ-リング-スリーブをショートさせたときにノイズレベルが約6db上がっているが、HP-X122の本体ケーブル(1.5mくらいに切断)を加工してガッチリしたショートを作り同じ方法で再度実験したところ、ショートさせないと-22dbくらい、ショートさせると-19dbくらいのバズノイズ(奇数倍音主体)が記録された(後から単発で実験したためスクリーンショットに波形が入っていないが)。
マイクを接続したときのノイズレベルが小さい理由は今ひとつわからない。また、HP-X122の延長ケーブル単体よりもHP-X122の延長ケーブル+マイクをつながないAT-VD3の付属ケーブルの方がノイズレベルが3dbくらい低かった。
上記から(40dbも増幅するのだから当然といえば当然なのだが)ノイズレベルを下げる(とくにハムノイズを避ける)うえでマイクケーブルの品質と長さが非常に重要であることがわかる。ケーブルを延長して4.5mにしたときのノイズレベル-18.6dbという数字は、マイクをつなげばかなりノイズが減るとはいえ、音楽用としては論外なレベルである(まあ、本来マイク用でないケーブルをむりやり接続しているのだから、当然といえば当然なのだが)。
参考までに、AT-VD3の付属ケーブルのみ(上)とAT-VD3の付属ケーブル+HP-X122付属の延長コード3m(下)にAT-VD3を接続して無音を録音した波形(どちらも24db増幅)も掲載しておく。
増幅前のノイズレベルは、延長コードなしの場合が58.3db、ありの場合が40.3dbで、18dbもの差が出た。
これは当て推量だが、プラグインパワーでマイクを駆動するとホットとグランドが給電されたループに近い状態になるため、もしかするとハムノイズを拾いやすくなるかもしれない。
下の図は、マイクレベル設定フェーダー標準位置のMT4Xから録音レベル最大のSound Blaster Audigy LS(筆者が普段マイク録音に使っているのと同じ設定)に無音を録音し、クリッピングを無視して48db増幅した波形である。
上から順に、AT-VD3を机の上に設置(-60db)、AT-VD3を手持ち(-40db)、SM58を机の上に設置(-63db)、SM58を手持ち(-54db)の順(括弧内は波形が安定した部分のおよそのノイズレベル:増幅前の値)であるが、ハンドマイクにするとかなりノイズが入ることがわかると思う(マイクの向きは極力同じにしたし、ハンドマイク時はかなり慎重に持った:ハンドマイクで歌うとなると、この程度のノイズでは済みそうにない)。
ハンドマイク時のノイズの少なさはさすがにSM58に軍配が上がるが、それでも、SM58をハンドマイクにするよりはAT-VD3を固定した方がずっと成績がよい。このノイズはアンプの性能差を帳消しにするくらい大きく、AT-VD3を手持ちするとどのマイク/ラインアンプを使っても似たようなノイズレベルになってしまう。
よほどの理由がない限りハンドマイクは避けねばならないし、もしやむを得ずハンドマイクにする場合は、ハンドマイクでの使用を想定したマイク(SM58やOMシリーズなど)を使う必要があるだろう。
マイクスタンドが使えなかった(あるにはあるのだが、マイクホルダーとスタンドのネジが違って使えない)ため机の上に置いてのテストとなったが、まともなマイクスタンドならもう少しノイズが減るのかもしれない。
Sound Blaster Audigy LSの内部ノイズが-76.4db、MT4Xをつないで-74.7dbなので、MT4X~Sound Blasterの直前までが差し引き-89.7db、そこにマイクをつないで-60dbとするとマイク~MT4Xの直前までが差し引き-61.8db(40db増幅された値)、同様にサイレントギターをつないだ場合はギター~MT4Xの直前までが差し引き-64.8dbになる。
ハンドリングノイズは-40~-60dbくらいのオーダーで、ケーブルのノイズはAT-VD3付属のもの@筆者の部屋で-67dbくらい(いづれも40db増幅された値)。時間帯を選びつつマイクスタンドを使って録音すれば、60dbくらいのノイズレベルは達成できそうな感じである(録音レベルをもっと絞って、大音量で録音すればさらにイケるはずだが、さすがに近所迷惑だろう)。
ムービングコイル方式のマイク(いわゆるダイナミックマイクはほとんどこれ)やマグネティックピックアップは、コイルを使用する都合で電磁ノイズを拾いやすい。距離さえ離せば大きな問題にならないことが多いが、今回はあえてノイズ源にマイクを近付けて、どのようなノイズが発生しているか検証してみた。以下はノイズをスペアナにかけたもの。
電磁ノイズがあまり入らない状態(ハンドマイク)だとピークレベル-38dbくらいのノイズフロア。50Hzのノイズはハンドリングノイズに埋もれてうっすらとしか確認できない(475Hzに妙なノイズが入ったが、ハンドマイク時のノイズとしてはまあこんなものだろう)。間違えて24db増幅してからスペアナにかけたのでグラフが上に平行移動している(特性は変わらないので無視して欲しい)
CRTディスプレイの手前2cmくらい(紫外線遮断フィルタ越し)まで持っていくと-20dbくらいのノイズが入る。
サージガードつき電源タップの手前5cmくらいだとやはり-20dbくらい。50Hzから始まるほぼ完全なバズノイズ。
パソコン電源の手前5cmくらいだと-15dbくらいだが、これはファンの音声ノイズも拾っているため参考程度。
蛍光灯の下10cmくらいだと-20dbくらいだが、やはり蛍光灯の音声ノイズも拾っている(低域の盛り上がりが多分それだと思う)。
ヤマハのシンセサイザーEOS B900の液晶パネルの上。50~300Hzのバズノイズと、570Hzから始まる大きなバズノイズがある(25Hz周辺もやや盛り上がっている)。これだけ後から調査したので録音レベルが合っていないが、上記と同じ条件に換算するとだいたい-25dbくらいだと思う。また、これだけハンドマイクでない(液晶の上に直接置いた)。
これらのノイズがやっかいなのは、ハムノイズ(一定の周波数だけで正弦波に近い波形)ではなくバズノイズ(倍音が豊富でとくに奇数倍音が強く、矩形波のような波形が多い)である点で、低域のハムノイズであればハイパスフィルタやノッチフィルタでなんとでもなる(低音楽器以外)のだが、バズノイズが入ってしまうとほぼお手上げである。
対策としてはとにかく距離を離すことが肝心で、距離を10倍離せばノイズの影響は40db小さくなる(5cmの距離で-20dbのノイズなら、50cm離れれば-60dbになる:これは音声ノイズでも同じ)。もちろん、不要な電気機器はコンセントプラグを抜いておくという基本的な対策も重要。
またここまで触れていないが、強い電流が流れるケーブル(電源ケーブルやスピーカケーブルなど)は他のケーブルに近づけないようにしたい。配置の都合でやむを得ない場合は、直角に交差するように心がける(2本以上を平行に沿わせるのは極力避ける)。また、ケーブル類を束にしたまま使ってはならない(大電流が流れるものでは過熱や発火の危険があり、小電流を流すものではアンテナの役割を果たしてノイズを拾う)。
意外と盲点なのだが、壁や天井や床には電源用の配線が埋まっているのが普通で、一般住宅だとかなり近いところを這っていることがある。どの程度の影響が出るかわからないため、実際にいろいろな配置or引き回しで試してみるしかない(おもにハムノイズの乗りに関係する)。
ノイズレベルを下げて音質改善をする場合の重要度は、マイクケーブル>マイクスタンド>マイク/ラインアンプとなるようだ。反対に、この3つさえしっかりしたものを使えば、他の機材が故障でもしていない限りそこそこ以上の音質で録音可能だと思われる。これは高級ケーブルや高級スタンドが必要だということではなく、最低限のレベルをクリアしないと音質悪化が激しいという意味。ケーブルでいえばAT-VD3の付属ケーブルもそこそこの品質ではあるし、スタンドを使わず机の上にマイクを置いても(ハンドマイクに比べれば)ノイズはかなり減る。
マイク~アンプの直前までのノイズが大きく影響するということは、マイクに入れる音自体を(マイクの許容入力を超えない範囲で)大きくしてやると効果が大きいということでもある。マイクに入れる音を10db大きくしてマイク/ラインアンプのゲインを10db下げてやれば、少なくとも計算上、マイク~アンプの直前までのノイズも10db小さくなるはずである(その意味では、宅録の場合、普通の高性能マイクよりもひたすら許容入力が大きいマイクを使った方がノイズレベルは低くなるのかもしれない)。
反対に、ラインレベル以降の部分は音質にほとんど影響しない。Sound Blaster Audigy LS内部で-76.4db、MT4X~Sound Blasterの直前までで-89.7db、マイク~MT4Xの直前までで-61.8dbというノイズレベルから考えると、たとえばSound Blasterをまったくノイズが発生しない理想的なサウンドカードに取り替えたとしても、全体のノイズレベルは1.4dbくらいしか下がらない。宅録だと、これは完全に誤差以下のレベルである。ただし、ライン録音(ギターアンプやデジピのライン出力からの録音で、アンプのノイズも「録音すべきシグナル」だと言い張る場合)ならそれなりに効いてくると思われる。ノイズ対策はもっともノイズが大きい部分に対して行わないと効果が薄い(場合によってはほとんど無意味である)ということを十分理解しておこう。
上記では入力信号が大きくなるにつれて増えるノイズ(フリッカーノイズなど)に関する考察を行っていない(測定が難しいため)が、大入力時に多少ノイズが乗ったとしても人間は知覚できない(マスキング効果)ため、検証の必要性はあまりないと思われる。全高調波歪み(THD)が0.3%を超えると知覚できる人が出てくるらしいが、よほど酷いアンプを使うかカセットテープ式のアナログMTRで録音するのでもない限り、問題になるような数字ではない(ちなみにゲイン最大時の歪率は、MT4Xのミキサー部で0.1%、ローエンドのマイク/ラインアンプAT-MA2で0.2%である:いづれもカタログスペック)。プロ用のコンデンサマイクU 87あたりはTHD0.5%以下での使用を想定しているようだから、大音量時にはその程度の歪みは問題にならないのかもしれない。IM歪み、TIM歪み、過渡特性などについては、どの程度でどのくらいの影響があるのか自体よくわからなかった。
いづれにせよ、アンプに入る前の信号にノイズを乗せないことが最重要といえるだろう。ちなみに、たとえばノイズがまったく入っていないデジタルシンセの直接出力データを伴奏にしてヴォーカルと同じ音量でミックスした場合などは、信号が2倍の大きさになってノイズの大きさが変わらないわけだから、S/Nが6dbほど向上する(あくまで単純計算だが)。
少なくともWindowsXPまでのNT系で、音量は2バイトのリニアで管理されているようだ。QuickMixのiniファイルで「Type=1342373889」のデータを調べた限り、どうやら「llmm0000llmm0000」という形式、mが上位バイトでlが下位バイト、先の4バイトが左チャンネルで後の4バイトが右チャンネル、PANは左右チャンネルの音量比から算出しているように見える。0で埋まっているバイトの使い道は不明だが、参照されていないのではないか。「Type=536936450」のデータは「Value=0100000001000000」で固定のようだ。
Wave出力とマスター出力を両方FFFFにして音量を絞った再生リダイレクトに回したところ、左チャンネルだけ派手にクリップした(再生したのはモノラルファイル、録音されたファイルはどちらも-2dbFSピーク)。再生リダイレクトがどうやって実装されているのか知らないが、間にアナログアンプがありそうな雰囲気がヒシヒシと感じられる(鋸波のループバックを見てもあまりデジタルっぽくない)。両方音量0080にするとクリップ系の歪み方はしなくなるが、左右バランスは揃っていない。
手元のマシンでは、Wave音量0080、マスター音量0080、再生リダイレクト固定音量(おそらく1倍)、録音マスター0040という条件でループバックすると、盛大には歪まない波形が1dbくらいのヘッドルームで録音される。またASIO4ALLに出したものを録音マスター0040にリダイレクトすると音量オーバー、録音マスター0020くらいでクリップしなくなる(サイン波応答ならもっとゲインを上げられるが、いろんな音を送った場合にほぼクリップしなくなるのがこのレベル)。途中でノイズもあれば歪みもあるだろうからピークだけ比べても意味はないが、ASIO出力の前にリミッターを置くならこのくらいが設定ラインか。