鍵盤


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<サンプルのMIDIファイル(SMFフォーマット1)が再生できない方はQuickTime Playerを使用してみてください>


鍵盤について、もう少し実践的なことを知りたい人のためにいくつか補足する。ピアノを中心に説明を進めてはいるが、コード伴奏楽器としてのピアノにはけっこうクセがあるので、ソフトウェア音源を使っている場合は他の音色(ドローバーオルガンとかエレピとか)も試してみるとよいだろう。ヴォイシングの基本的な考え方などは基礎完成編などを参照。


鍵盤とかテキトーでよくね?

酷い見出しだが筆者の本心である。ぶっちゃけ、専門的なレッスンを受けていない人(筆者を含む)が本格的なキーボードアレンジをやること自体にムリがあるので、気張ったことは最初からやらないのがよさそうに思える。

とはいっても、いわゆる「オイシイ技」というのはいくつかあるので紹介しておきたい。まずはこのサンプルを聴いて欲しい。最初のパターンは、メロディ(と呼ぶのもためらわれるような単純なパターンだが)にコード(Key on Cで1541)をつけただけのものである。いくら「テキトー」とは言ってもこのままではあまりにアレである。

2番目のパターンは、最初のものにシンコペーションを追加したもの。シンコペーションという語はいろいろな意味で使われるが、ピアノのシンコペーションは、このように「前の音(とくに小節の最後の音)と次の音をタイで結ぶ」ことを指す(ピアノでスラーは表現できないので、音程はどちらか一方に合わせる)。3番目はシンコペーションの入れ方を少し変えて休符なども入れたもの。

4番目は、3番目のパターンを元に音を厚くしたもの。単純に、厚い音が欲しい部分にコードトーンを重ねているだけだが、パワーコード(1度と5度の和音)やアクシスフォーム(1度と3ないし7度の和音)のことを思い出しつつ、厚くしやすい部分を見抜こう。これでやっと「一本指奏法」から脱却できた。

5番目は、音をさらに厚くして左手が担当しいていた全音符のコード弾きをやめたもの。両手で同じコードを押さえる意味はあまりないので、余計な音はさっさと省いてしまう。ペダルも適宜使っているが、これはタイでつなぎたい音を適当につないでいったらたまたまこうなっただけで、最初から「ここでペダルを」と考えながら打ち込んだわけではない(生楽器での演奏も視野に入れる場合、あまりよくないやり方なのだろうとは思う)。

最後のちょっと長いパターンは、ピアノは5番目と同じ演奏で、ベースやドラムスを少し変えてみたもの。ピアノだけで曲に必要な表現をすべてこなす必要はまったくないことに注意して欲しい。コード弾きをやめて音が薄くなった分をストリングスのトーンで補っているが、裏メロ的に動いている部分とコード伴奏的に動いている部分がある。

元が元だけに大してぱっとした演奏にはなっていないが、それでも、まあなんとか曲のパーツとしてどこかで使えそうな雰囲気には近付きつつある。実際の曲でたとえばピアノ間奏を入れたいとか、そういう場合には、Aメロなりブリッジなりのメロディを流用して同じことをやれば、なんとなくそれっぽい演奏を比較的少ない労力でデッチ上げることができる。


アタマの重さ

これはコード伴奏をするとき、とくに複数の楽器で伴奏する場合の注意点。1451を回したサンプルを用意したが、ようするに小節の最初に(バンド全体が)出す音の数を多くするか少なくするかということである。もちろん、これは鍵盤の演奏だけで決まるものではないが、なにしろ同時にアタックさせられるトーン数が多い(その気になれば10音以上の同時アタックも不可能ではない:鍵盤以外の楽器では、ドラムスで4~5発程度の同時打ちができるくらい)ため、関与の度合いが大きい。

サンプルを聴けばわかると思うが、アタマを重くすると小節の「区切れ」が明確になり「ここから次の小節です」という主張がハッキリとする。(バンド全体の合計値としての)アタックが強くなるということでもある。反対にアタマを軽くすると小節の区切れが曖昧になり、アクセントが弱くなる。

実際には、他の部分でも常に重さ(というか、バンド全体の音数とアタック感)は意識すべきなのだが、小節のアタマはとくに重さの過不足(アタックが過剰になったり、音色がごちゃっとしたり、反対に迫力や歯切れに欠けたり)が出やすいので注意したい。


ヒマにしててもいいんじゃないの

鍵盤、とくにピアノは、曲中ずっと出ずっぱりで演奏する必要性があまり高くない。というか、音色自体が目立ちやすい楽器なので、いわゆる「ピアノ伴奏の曲」以外では多少控えめにした方がよいだろう。また、常に両手でフルに音を出す必要もない(一本指奏法はさすがにアレだとしても)。

ライブでの演奏を考えるとあまりヒマなのもどうかとは思うが、プロのライブなどを見ても、鍵盤の人がずっと弾いていたとしても音は入っていないパートがかなりあるのが普通である(ただし、シンセでパッドを入れている場合や、オルガンでパワーコードを鳴らしている場合にはサボっているヒマはない)。

またこれは筆者の持論なのだが、デジピ/アコピをレコーディングに使う場合、フェーダーをあまり細かく動かすべきではない(意図的にフェードイン/アウトする場合は例外)。ピアノは(元がピアノフォルテという楽器だったことからもわかるように)ダイナミックレンジが広い楽器で、しかもタッチの強さで音色が大きく変わる。これをフェーダーで大きく持ち上げたり絞ったりすると、弱いタッチの音色が大きく聴こえたり、強いタッチの音色が小さく聴こえたりして非常にキモチワルイ。ピアノを歌モノに使う場合、ヴォーカルが声を出している間のタッチはかなり弱く、フィル的な音のタッチはかなり強くした方が、スッキリとした演奏になると思う。

電子オルガンなどエクスプレッションペダルがついている楽器はフェーダー操作と相性がよいが、ペダル操作があくまでプレイヤーの守備範囲であるということは意識しておきたい。



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