作曲の知識補充編には目を通してある前提で進める。
ドミナントコードV7はIIm7>V7またはIIm7 on V>V7に分割できるという話にはすでに触れた。メジャーキーでの演奏してみると、たとえばこのようになる(前半が分割前、後半が分割後)。セブンスコードや強進行を好むジャンルで多用される技法なので、13625の強進行にしたうえでコードもセブンスにしてある(ベースの上にピアノで四和音を乗せる場合、右手のルート音はたいてい省略する)。
もう少し地味な用法としては何度か触れたベースによる分割がある。Vsus4>Vという展開もすでに紹介したが、これもコード分割に使える(VをVsus4>Vにする)。これらを活用すると、たとえばこのようになる(これはサンプルとしてあえて全部盛りにしているだけなので、実際の作業でここまで頻繁に分割を行う必要はない:やりたければもちろんやってよい)。Vsus4とIIm7 on Vは構成音がよく似ており、効果もかなり似通っている。V>Isus4>Iのような使い方も可能である。
ドミナントには裏コードと呼ばれるものがある。V7の「威力」は3度と7度の音が減5度で並んでいること(トライトーン/三全音)に由来するが、この音をキーのルートから見ると7度音(vii)と4度音(iv)に当たる。基本的に、この2音を含むコードはドミナント代理扱いになり、メジャーキーでVIIφがドミナント代理になるのもこれが理由である。
ここで「もっと変な音が出るコード」でドミナント代理ができないか考えてみよう。ドミナントコードが鳴る個所は不安定感を演出したいパートなので、違和感のあるコードも使えると表現の幅が広がる。これにはたくさんの候補があるのだが、いろいろな人が試した結果非常に使いやすいコードが発見された。それはbII7である(杓子定規に考えるとV7(b9,#11)omit1,5の回転形とも解釈可能で、つまりV7にオルタードテンションを乗せて半音でぶつかる音を省いてやるとbII7になる:もしV7(b9,#11,b13)omit1,5だとbII7(9)になる)。
V7と同じドミナントセブンコードで、viiとivをしっかり含んでおり、ルートと5度の音がダイアトニックでないためちょっと調子が変わる感じも出せる。セブンスを省略してbII単独で使う場合もあるし、bII7からルート音を省略してIVm(-5)の形で使ってもよい(ドミナントセブンコードのルート音省略については作曲の知識補充編を参照)。
裏コードの音を聴いてみよう(Iに9thを乗せた個所がいくつかある)。後半には分割した場合の音が入っているが、分割、分割して裏、裏にして分割、裏にして分割して裏、と4通りの分割が考えられる(分割しないパターンも合わせると6通り、オンコードを使う/使わないも含めると10通り、ダブルミナントになるパターンも数えると14通り、ドミナントセブンのルート省略でディミニッシュマイナーを作るパターンや7th省略やsuspendedコードが絡むパターンも考慮すると数え切れないくらい)。ルートが2>5>1と動くIIm7>V7>IまたはII7>V7>I、半音づつ下がるIIm7>bII7>I、Vsus4>V7と似た響きになるIIm on V>V>I(IImをIVに変えることもある)あたりがよく見られるほか、bII7omit1=IVm(-5)もたまに使われる。プライマリードミナントのV7だけでなくセカンダリードミナント(狭義/広義とも)を裏返すこともあり、たとえばII7を裏返してbVI7とか、I7を裏返してbV7 or #IV7にする例などが挙げられる。
なお、ナチュラルメジャーの音使いのまま裏コードを使うと、裏コードのルートから見たオルタードスケールを使ったのと似たような結果になる(オルタードはナチュラルメジャースケールをルート以外すべてフラットさせたスケールで、半音上のメロディックマイナーを第7音から始めたものとも一致する)。たとえばCメジャーでG7の裏のbD7を使う場合、Cメジャースケールの音をそのままコードの上に乗せてやると、bDオルタードスケールからテンションを取り出したのと同じような結果になる(第i音としてC音を使うかDb音を使うかの違いだけ)。また、Db7はもともとGbに対するV7だが、GオルタードとGbナチュラルメジャーの違いも同様に第1音が半音上下するだけ。
オルタードは半音上のメロディックマイナーと構成音が一致すると説明したが、IIm>V>Iの流れをIIm>IIb>Iに変更した場合、IImのところを転調的に解釈することも可能である。たとえばCメジャーでG7の裏のbD7を使う場合、Dm>bD7>Cという流れを(Dメロディックマイナーに転調してImの)Dm△7>(掛け橋としてオルタードスケールを使い)bD7>(Cメジャーに戻ってIの)Cと解釈するわけである。話がやや前後するが、表コードとオルタードスケールを併用するとテンションだけ裏コードから借りてきた形、裏コードとオルタードスケールを併用するとテンションだけ表のままになった形に近くなる。
オンコードについても少し補足しよう。まず、同じファンクションのコードからベースだけ借りてオンコードを作ることがある。たとえばCメジャーでC on Eを使うような場合がこれに当たる(同じ発想でC on AやF on Dなどもあり得るはずだが、普通はAm7やDm7と書くだろう)。
すでに少し触れたが、オンコードが回転形扱いにならない場合sus4コードに類似した響きになることが多い。ダイアトニックトーンのベースにダイアトニックコードを乗せる場合、コードの構成音が1・3・5・7度(ベースに回すとコードネームが変わる6度は除外して考える)であることを考えれば「コードの構成音以外」というのは4度か2度かどちらかということになる。4度または2度の音が掛留されてできたのがsuspendedコードなので、似た音になるのは当然の帰結である(つまり、コードトーンでない音がベースに回ったオンコードは、テンションが乗ったsus4コードまたはその回転形だと解釈できる)。
さらに応用すると、IIm7 on VをVsus4と類似した用法で使ったのと同様に、IV on Vなども似たような用途で用いることができる。ポリコードやUSTなど(詳細は鍵盤あれこれのページを参照)を考える際の根拠となる考え方なので、音を積むアレンジに興味がある人は覚えておくとよいだろう。
クラシック方面の知識をもう少し齧ってみよう(本質的な部分は完全無視で、コストパフォーマンスよくポピュラーミュージックに応用できそうなものをうわべだけつまみ食いする:ちゃんとした理論が知りたい人は他を当たってほしい)。ルールというよりは方針に近いもので、絶対守らなくてはならないようなものではないことに注意して欲しい。また、流派やら学派やらが星の数ほどあるので「~とする人が多い」程度の話である。とくに禁則関連では「あえてやると変わった音を出せる」と反対から捉えた方が面白いものも多い。
具体的な紹介の前に、外声(和音の中で一番低い音と一番高い音のことだが、ベースとメロディだと思っておけばよい)、声部(和音の中で一番低い音、次に低い音、その次に低い音・・・という順番のこと)、平行(ベースとメロディが両方上がる、または下がる動き:並行または直行という呼び方もある)、反行(ベースが上がってメロディが下がる、またはベースが下がってメロディが上がる動き:反進行とも)、斜行(ベースとメロディのどちらかが同じ音程を保って片方だけ動く)、順次進行(2度の動き:増2度を考慮するかどうかは時と場合によるが、単純に「半音または全音の動き」と認識しても大きな問題はない)、跳躍進行(3度以上の動き)、上行(音が上がる動き)、下行(音が下がる動き)、先行音程(前に鳴っている音の音程、とくに小節の頭の音の音程)、後続音程(次に鳴る音の音程、とくに小節の頭の音の音程)、という言葉を一応覚えておこう(覚えられない人は無視して構わない)。
方針その1「連続の進行」について。連続の進行とは「特定の声部間で、先行音程と後続音程が同種の完全音程をなす進行」のことで、禁則として扱われる。・・・意味がわからないと思う。ぶっちゃけて説明すると「ユニゾンまたは5度ハモリの連発は注意して使え」という意味である。たとえば、C>F>G>Cという進行をこのサンプルファイルのように演奏すると、一番低い音とその次に低い音が常に完全8度の関係、一番低い音と一番高い音が常に完全5度の関係、2番目に低い音と一番高い音が常に完全5度の関係になる。上に乗っているコードを回転形にすることで、これを回避できる(サンプルファイル)。ベースや裏メロやハモリを入れる場合に注意すべき事柄である(ユニゾン連発が全部ダメ、というわけではなく「みんな一斉に動いている感じ」になって「それぞれのパートが独立したメロディを演奏している感じ」が出しにくくなるよ、という話:反対の発想で、ずっとユニゾンorオクターブユニゾンにすれば、異なる楽器が1つの声部を担当する形も作れる)。また途中に違う音を入れても回避にならないことが多い(にも関わらず、途中に入れた音が連続の進行を作ることはある)。禁則というよりは、声部の独立度を把握and/orコントロールするための技術として捉えるのが便利。
方針その1の補足。連続5度と似た用語に平行5度というのがあって、こちらは「先行音程が増or減or完全5度」「平行」「後続音程が完全5度」のすべてを満たす場合を指すのが本来(のはず)。反行による連続5度も連続の進行には変わりない(連続5度を禁則とせず平行5度を禁則にする人もいる:上記の定義とは矛盾するが「5度音程が連続してかつ後続音程が完全5度」の場合のみ連続の進行とみなす流儀もあるようだ)。
方針その2「限定進行音」について。限定進行音とは「解決が必須な音」のことである。・・・意味はわかると思うのでぶっちゃけた説明はしない。たとえばV7またはVm7の(コードのルートから見た)3度音(=キーのルートから見てviiまたはbvii)と7度音(=キーのルートから見てiv)が代表例で、前者は2度上行してiに、後者は2度下行してiiiまたはbiiiに解決する(「または」と注記してあるのは、マイナーキーの場合も考慮しなければならないため)。一般に、コードのルートから見て7度または9度の音は、2度下行して解決するか次のコードでも同じ音を出す。また、限定進行音をオクターブ違いで重ねると厄介なことになる(とくに、V7コードを第一回転形で使った場合、他の声部が3度音を出すと面倒:他のコードでも、第一回転形の上にさらに3度音を積むのはなるべく避けた方がよいが、あくまで「バンド全体」の話であって「ピアノの左手がどんなフォームか」だけで決まる話ではないため注意)。ただし、限定進行音の重なりをあまり気にしない楽器もある(たとえばギターでG7のローコードをストロークするとB音がオクターブで重なるが、あえて5弦をミュートするようなことはあまりない:小指が余っているはずなので、必要ならミュートしてももちろん構わない)。
方針その2の補足。ノート単位で考える「解決」は「近い音程の音への移行」でなされる。ここでいう「近い」は相対的なもので、本来の解決先よりも近い音程で別の音が鳴っていると解決を奪われることがある。たとえばE音をD音に解決しようとしたらD音と同時にF音も鳴っていたとか、E音をD音に解決しようとしたらD音と同時にE音も鳴っていた、といったケースである(E音がD音に変化した印象よりも、E音がF音に変化した印象や、E音が鳴り続けている印象の方が強くなる)。オクターブ違いの音をどう扱うかは、ジャンルや流儀や楽器の音色などによって一定しない。ノートの解決は順次進行で行うのが暗黙の了解になっている場合もある。
方針その3「予備」について。予備とは「次の和音に含まれる音を前の和音に含めておく」ことで「予備が必要」「予備が不要」という言い方をする。また、予備が必要な音の代表例は「V7以外のコードに使う7度音と9度音」である。・・・意味がわからないと思う。ぶっちゃけて説明すると「予告してから使った方がよい音があり、その代表が7thと9thの音」という意味である。たとえばC△7のコードを鳴らす場合7thの音はB音だが、前の小節にB音が含まれていないとちょっと唐突な感じになるよ、ということである。ただし、I>V9の進行は許容することが多い。また、7thや9thの音は、次のコードで解決(多くは2度下行:その4も参照)するか同じ音をもう一度鳴らすのが原則である。
方針その4「基本音程」と「応用音程」について。基本音程は1・3・5・6・8度で応用音程は2・4・7度である。・・・意味がわからないと思う。ぶっちゃけて説明すると「1・3・5・6・8度は裏メロやハモリに使いやすい、2・4・7度は注意して使おう」ということなのだが、その1で説明したように1・5・8度も実は使いにくいので、裏メロやハモリメロディを作るときは3度と6度が活躍することになる。応用音程を使う場合は「高い音と低い音のどちらかが順次進行した結果応用音程になる」または「反行の結果応用音程になる」という前提条件がある。また解決も必要で、後続音程が3度になるのが良好とされる。
方針その5「平達の進行」について。平達の進行とは「外声が平行し、かつ高い方の音が跳躍進行した結果、後続音程が8度または5度になる進行」のことで、禁則として扱われる。・・・意味がわからないと思う。ぶっちゃけて説明すると「ベースが下がるときにメロディも大きく下がっての5or8度音程、またはベースが上がるときにメロディも大きく上がっての5or8度音程は注意して使え」という意味である。外声に限定せずまた上声が跳躍か順次かに関わらず、任意の2声について平達1度を禁則とすることもある。その場合、V(1・3・5・1のヴォイシング)>I(1・1・3・5のヴォイシング)でテナーとバスが平達するのは許容することが多い。平達ではなく直行とか隠伏と呼ぶ人もいる(もしかしたら細かいニュアンスが違うのかもしれないが筆者は把握していない)。
方針その6「声部の音域」について。バスがF2(E2)~E4、テナーがC3~A4、アルトがF3~D5(E5)、ソプラノがC4~A5とされる。・・・意味はわかると思うが、ジャンル(声楽・弦楽・管楽など)や流儀にもよるので一定しているわけではない。各声部間は1オクターブ以内(バスのみ、テナーから1オクターブと完全5度まで離れてよい)で、声部が交差するのは避けるのが普通。
方針その7「和声」と「和声進行」について。コテコテにクラシック風な曲を作る場合、ポピュラーミュージックで一般的な原則と比べて制限が多い。・・・意味はわかると思うのでぶっちゃけた説明はしない。たとえば、IImからはVへの進行のみとするとか、D>SDの進行を避けるとか、縛りがいろいろとある。ジャンルや流派によっては、iiをルートにした和音は不安定な音なので使わない(純正律が前提)とか、長調のVIIφはV9omit1扱いにして7度音ルートのコードには同主調借用のbVIIを使うとか、さらに細かく分かれる。
方針その8「定位音」と「変位音」と「転位音」とについて。和音本来の構成音(コードトーン)を定位音、それが半音上下したのを変位音、全音上下したのを転位音という(全音上下してさらに半音動いたのは変位転位音)。解決の要不要や解決方法、修飾音の有無などにいろいろと作法があるようだが、それはさておいて、代理和音や偶成和音を考えるときに思い出すと役立つことがある。
方針その9「旋律進行」については・・・有名無実な方針や流派によって解釈が異なる方針や練習専用の方針が入り乱れており、正面からやってもあまりメリットがないのでとりあえず放置。代表的なものでは「増音程の進行を避ける」とか「跳躍音程は最大1オクターブ」など。
メロディを感じさせるベースラインを作る場合、メロディ感のないベースラインと比べて、音の動きが多くなるはずである。しかし、ベースは影響力が大きい楽器なので、無計画にただ動かしたのでは曲が崩壊してしまう。そこで、前の項目の理論にいくつか追加をしてガイドラインとしての活用を考えてみる。
ベースラインに使いやすい音といえば、まずはコードトーン(1・3・5・7度:この項目では「内音」と呼ぶ)である。6度はコードネームを変えてしまう特別な音だった。3度もこれに近い性質をいくらか持っている。5度が「コードの雰囲気を変えずに不安定感を出す」こと、2度と4度がsus4的な響きを作ること、ルートからの半音上昇でパッシングディミニッシュを作れることなども既に紹介した。
ここで追加するのは外音(コードトーンでない音:「和声外音」の略で「非和声音」とも)の使い方についてである。クラシック方面の文脈では、ベースラインの音に限らず、外音は内音(「和声内音」の略で「和声音」とも)への解決を要求する(内音にアプローチする)音である。つまり内音>外音>内音の動きが基本になる。前の項目で紹介した基本音程と応用音程の話とごっちゃになるかもしれないが、あれはあくまで「2つの旋律をハモらせる場合」の話で、コードの中で音を動かすときの話ではない。
外音をコードのルート音に解決すると安定感が強く出るので、ジャンルによってはそのようなパターンが好まれないこともある(ただし3度>2度>1度の動きは許容されることが多い)。内音>外音の動きが跳躍進行だった場合は上行(跳躍)>下行(順次)または下行(跳躍)>上行(順次)の形が好まれ、そのようなパターンで出てくる外音をとくに倚音(いおん)と呼ぶ。内音>外音の動きが順次進行だった場合は、最初と同じ内音に戻る形(刺繍音)や、さらに順次進行して別の内音に解決する形(経過音)がよく見られる。メロディ作りへの応用例を一足飛びのメロディのページのオマケで紹介した。
上下の音程(コードのルートに対して何度を弾くか)だけでなく、メロディのつながり(何度の上下行でつぎの音に移るか)も考えてみよう。よく言われるのは順次進行と強進行(つまり、半音1つまたは2つの上下行、4度上行、5度下行)でまとまりを出すというアイディアである。
順次進行と強進行の関係を考えてみるとちょっと面白い。パッシングコードの項で後述するように、ドミナントモーション2回分で全音下行と同じ移動量になる(半音下行はそれ自体が裏ドミナントモーション)。半音上行では上行導音(V>Iと動くとき、Iのルートiに解決するVの3度音viiが上行導音)としての性格が強く出て(ディミニッシュからのモーションとしても解釈できるが、ディミニッシュ=ドミナント7omit1だと考えると結局同じ音)、やはり2回分で全音上行と同じ移動量になる。なお、一時的に使ったスケールを元に戻す(解決する)際にも半音の動きが出現しやすい。
普段はそれほど神経質にならなくてよいが、ベースラインがメロディとして今ひとつしっくりこないという場合に見直してみるとよいだろう。裏メロやメインメロディの修正にも役立つ場合があるかもしれない。
同じメロディを別のキーで解釈しなおすときの作業についてはあまり触れなかったが、これは勘でやってよい。・・・というだけで話を終わらせても構わないのだが、一応作曲の知識補充編で使ったサンプルを再利用して説明する。
まずは元になるメロディとコード伴奏を用意する。Cメジャーで4小節を2回繰り返すメロディで、ここでは1451に解釈してある。これをコピーアンドペーストで引き伸ばし、途中のコードだけを変更する。今回は4小節6回の繰り返しにして、3回目と4回目をFメジャーに変更することにしよう。Fメジャーの1451はF>Bb>C>Fなので、作業するとこのようになる。
当然のことながら、このままではメロディと伴奏が食い違ってしまうので、変な感じだと思う場所の音符を適当に動かしてやる。次のサンプルファイルを聴く前に、自分でメロディの調整をやってみよう(シーケンサーの機能でキーから外れた音を色分けしておくと便利)。勘でやってもそれほど大きな支障はないし、ここまでの項目で紹介した知識(テンションの解決とか外音の処理とか)を総動員してしつこく微調整してももちろん構わない。
筆者が作業したところこんな感じになった。同主調のCマイナーや3度上のEメジャーへの移動もやってみよう(これもサンプルファイルを聴く前に自分で作業してみること)。筆者が作業したところこんな感じやこんな感じになった。なお、半音上や全音上のキーへの移動は音程が近いため、わざわざ手を入れずメロディ込みで丸ごと平行移動してもよい。
遠めの調に直そうとするとメロディと伴奏の乖離が激しくなり作業がしにくいかもしれない。そういう場合、たとえばCメジャーで書いたメロディをG#メジャーに直したいなら、一度Gメジャーに直してから丸ごと半音上げするなど、適当に工夫する。今回のサンプルでは比較のため前後に「元のキーの演奏」を残しておいたが、必要なければ省いてもよい。
言うまでもないことだが、上の項目と同じ方法で、いわゆる一時転調(サンプルファイル)も作れるし、キーではなくコード進行に手を入れて複雑にした場合(代理コード、循環コード、ダイアトニックパラレルモーション、裏コード、コード分割などの手法を使うことになる)のメロディ調整も似たような作業になる(もちろん、無調整ですんなりイケる場合もあれば、いびつな感じを出すためにあえて調整しない場合もあるだろうし、最初からメロディを変えない前提でコードなどをイジる場合もある:More Jamの解説に、メロディを変えずにいろいろとイジった例が掲載されている)。
転調する際の違和感(というか雰囲気が変わったインパクト)を出したり隠したりする手法については次の項で触れるが、基本的に、平行調>同主調>属調>下属調くらいの順で行き来がスムーズである(「派手めに行って落ち着く感じで帰還」という意味では属調やメジャーキーからの同主調が比較的使いやすい:帰りを気にしないなら半音上昇や全音上昇もラク)。増4度/減5度上下は本来もっとも遠い調のはずだが、裏コードでつながっているため行き来自体は難しくない(たとえばCメジャーの曲で、Db7を鳴らした後F#に進むとか、G7を鳴らした後F#に行くとか)。
おおまかな特徴として、半音上昇感、全音上昇感、メジャー/マイナーの入れ替わり感あたりに注目して、必要なイメージ(と、後で戻る場合は帰り道の都合)に応じて行き先を選べばよいだろう。なお、一時転調で本来のキーにない音が出てきた場合、トニックが出てきて区切りがつくまでその影響を引きずっておくと違和感の解決がスムーズである。
作曲の基礎完成編でも触れたように、転調はどうしても必要なものではないし、入れただけで曲が良くなるようなものでもない。ただし、クラシックのソナタ形式など、転調を入れることがルールとして決まっているスタイルもある(古典的なスタイルでは、提示部と呼ばれる最初の方のパートで、主調(メインのキー)が長調であれば属調に、短調であれば同主調に転調する)ため、そのような形式を模倣したい場合は必須である。
転調を意図的に入れる方法をこれまでに3通り紹介したが、最初から転調を頭に入れてメロディを作ってもよいし、コードだけ先に決めてメロディをつけてもよいし、メロディが出来上がってからキーだけ変えてもよい。作曲のトラブルシューティング編で触れたように、メロディと伴奏を丸ごと平行移動させて転調する場合もある。好みと得手不得手に合わせて選ぼう。
場面転換をどういう手順でやるかという話。転調直前に下準備のためのパートを作ったり、別の調を経由してから本来行きたかった調に移ったり、といった作業を中心に紹介する。
本来はピボットコード(転調前と転調後の両方のキーで解釈可能な、過渡部分のコード)やファンクション(T/D/SD)共有などを吟味して、前の調のケーデンスがどういう形で途切れて(あるいは完結して)次の調のケーデンスがどういう形で始まるのか検討すべきなのだが、「強めの進行で勢いよく転調しよう」とか「似た音を使ってドサクサ紛れに転調しよう」とか「何の脈絡もなく唐突に転調してやろう」といった意識だけあれば、それほど身構えてやらなくてもあまり問題はない。
下準備の例としてぱっと思いつくのは、下属調への転調なら(転調前のキーから見た)1>4の展開で(念を入れるならI7を使う)、属調への転調なら1>5の展開かII7を使って、同主調への転調なら5>1の展開かサブドミナントのメジャー/マイナー入れ替えを使うといったあたりだろうか。このような半小節くらい~せいぜい4小節の「ミニブリッジ」的パートは手軽なのでよく使われる(基礎完成編で使ったサンプルも参照)。
別のキーを経由する例としては、たとえばCメジャーから裏コード経由でF#メジャーに行ってまた戻るとき、F#メジャーからBメジャーを挟んでCメジャーに戻るといったやり方が考えられる。F#メジャー>Cメジャーは増4度/減5度上への転調だが、間にBメジャーが入ると完全4度上昇(下属調転調)+半音上昇になる。もちろん、単純にCメジャーから裏コード経由でF#メジャー、F#メジャーからまた裏コード経由でCメジャーの形でもよいし、Cメジャー>Fメジャー>F#メジャー>Cメジャーのような形でもまったく問題ない。結局重要なのは、F#メジャーに転調した「異世界感」のようなものを、どうやって活かしたいかということである。
せっかくなので理詰めでゴチャゴチャやる例も挙げておこう。たとえばCメジャーでC>F>Dm>G>>C>F>Dm>G>>C>Am・・・という曲があって、最後のC>Amの部分から先をAメジャーに変えようと思い、作業の結果C>F>Dm>G>>C>Em>Am>D>E>>A>F#m・・・の形がいいかな、ということになったとする(一応、コード回しだけはファイルにしたが、面倒なのでメロディはつけていない)。この場合「C>Em>Am>D>E」の部分(ミニブリッジ的なパート)もコードが変わることになるが、同じようにメロディを修正してやればよい(もちろん、別のメロディを改めて書き直してもよい)。
上記はCメジャー>>Eマイナー>>Eメジャー>>Aメジャーと移る方法で、生真面目に分析すると、EmがCメジャーとEマイナーのピボットコードでファンクションを共有(両方T)、Amはファンクションを共有しないピボットコード、DはCメジャーから見るとセカンダリードミナントの7度省略(次にGを予感)だが解決されずCの調性感はここで終わる印象/Eマイナーから見るとサブドミナント代理でD>SDになり次にTを予感/Aメジャーから見ると普通のサブドミナント(EマイナーとAメジャーでファンクションを共有)、EはEメジャーから見たトニックでマイナーからメジャーへのモーダルインターチェンジ/Aメジャーから見るとドミナントでSD>Dの動きになり次にTを予感、ということになる。まあ実際は「CメジャーからEを通ってAメジャー」ということだけ決めて強めの進行を中心に組み立てれば、何も考えていなくても上記と似たような構成になるだろう。
もちろん「CメジャーからAマイナーを通ってAメジャー」という方法もありこちらの方がやや地味に移行できるし、Gを通る(主調>属調>全音上昇)とかCメジャーから直接行く(セカンダリードミナントのE7またはEあたりから進む)とか、他にもやり方はいくらでもある(思いつく限り試してみればよい)。うまくいかなければ「各キーの調性感が(との辺から始まって)どの辺まで続くか」ということだけちょっと気にしてみよう。もちろん、何の前触れもなくイキナリ転調するのもショッキングで面白い技である(いわゆる突然転調)。この場合前のキーのトニックを挟む用法が好まれる(トニックは安定感があるとともに「終わり」や「区切り」を感じさせる音なので)。
上で触れた明らかな転調とは別に、キーを保持したままモードを変えたり、コードに合わせてスケールを拡張することを考えてみる。一応、キーが変わって転調した感じを強調したサンプルと、モードだけ変わった感じを強調したサンプルを再掲しておく。
もっとも大きな動きが出るのは「マイナーをメジャーに解決する」パターンで、たとえばCマイナーで始まった曲をCメジャーで終わらせるようなケースである(マイナーの曲の後半をメジャーアレンジしても作れるし、メジャーの曲の前半をマイナーアレンジしても作れる)。とくに、ハーモニック/メロディックマイナーのV7を(Imではなく)Iに解決させることで場面を展開すると、ダイナミックで劇的な動きになる(クラシックにもよくあるパターン)。一時転調と同様、モードを変えた後にメインのモードに戻る(または、より安定感のあるモードに解決する)タイミングもトニックの出現位置が第一候補になる。
コードの構成音とキーを中心とした核音(iとivとv)を含むモードを利用する手もある。利用可能なモードの一覧はデータのページを参照。各モードの特徴音はメロディに取り込んでもよいだろうし、コード伴奏にテンションとして乗せてもよいだろう。核音にこだわらず、コードのルートを中心にモードを再構成してもよい。
V7にオルタードテンション(b9,#9,#11,b13のうち任意のもの)を乗せる場合、b9とb13しか使わないなら、ハーモニックマイナーモードでV7を使っているだけだと解釈してしまった方がラクな場合がある(ハーモニックフリジアンなら#11も一応出てくるし、ナチュラルメジャーへの一時的な移行を許せば苦しいながら#9の説明もできなくはない)。
オマケとして、音階とモードの関連を図で示しておく。キーはCとしよう。ピアノの鍵盤と音の対応は下図のようになっているが
モーダルインターチェンジにより以下のような動きがありえる。
核音は動かないのが原則なのでbvの音は出てこないが、すでに触れたようにbvは裏のルートになる(たとえばCメジャーでG7の裏のDb7を使うということは、GbメジャーのV7を借用するということ)。またセカンダリードミナントのII7orIIを使う際に、コードのルートから見た3度音としても出てくる(リディアンを中心にした「シャープ系モード」の枠を別途用意する案もなくはないが、モーダルインターチェンジとは別枠で処理した方が面倒でない)。
ともあれ、核音が動きにくい音なのは間違いなく、モードの特徴はおもに浮動音(モーダルインターチェンジで動く音:反対に言うと、核音でない音)が作る。モーダルインターチェンジの文脈のモードはまず3度音の長短で大別され、これを動かすと比較的大きな動きになる(長3度ならメジャー系、短3度ならマイナー系に分類される)。2・6・7度音はもう少し穏やかな効果で、メジャー系マイナー系どちらでも7度音は頻繁に動く。
7度音はV7が使えるかどうか(vとivは核音なのでモードに関わらず使えるし、iiは必須でないから、結局viiかbviiかだけの問題になる)を決定し、使える場合はハーモニックなモードになる。6度音は7度音との関係に注目して考えることが多く、bviとviiの間に増2度移動ができるのを避けて動かすとメロディックなモードになる。biiの音は一時的な使い方が多い(とくにメジャー系モードではbiiとiiiの間に増2度移動ができるのもあって不安定)。
「音をつなぐ行きがかりで」あるいは「音に変化をつけたため」にできる和音を総称して偶成和音(アクシデンシャルコード:「たまたまできた和音」という意味)という。基礎完成編で「ベースが動いた影響でコードネームが変わる」例をいくつか紹介したが、上モノが修飾音(飾りの音)や経過音(つなぎの音)を鳴らした場合にも偶成和音ができることがあり、主要コードと代理コードが入れ替わったり(たとえばCの5度音が全音上がってAmになるなど)、5度上下のコードと入れ替わったり(たとえばたとえばCの3度音が半音、5度音が全音上がってFになるなど)する動きがよく見られる(和音を「横(時間軸方向)に広げる」意識が比較的強い:分散和音を絡めればもっと広げることも可能)。一時的な音なので、コードネームやファンクションは必ずしも考慮しなくてよい(もちろん、考慮していけないわけでもない)。
パッシングコード(経過和音)とか、オーナメントコード(装飾和音)という括り方もあり、結局は使い手と聴き手の意識の問題で厳密に分けようとしてもあまりメリットはないのだが、この項ではコードとコードのつながりに注目するので以下すべてパッシングコードと呼ぶことにする(基礎完成編ですでに、ディミニッシュを使ったパッシングコード=パッシングディミニッシュを紹介してある)。でそのパッシングコードだが、コード進行にギクシャクした感じがあるときに便利な技である(スムーズに進行しすぎるときにあえて変なコードを挟むことも可能ではあるが、初心者向けではない)。なので、強めの進行(ここでは「解決感がある」程度の意味に捉えて欲しい)を取り入れる意識が強くなる。メジャーキーで「とりあえずVIm」を挟む用法も便利だが、ちょっと毛色が違うためここでは触れない(VImほど万能ではないが、IIImも面白い響きにできる)。
強い進行の典型例といえば、ドミナントセブンからの5度上行(たとえばG7>CとかE7>Amとか)である。ドミナントセブンをomit1にすることでディミニッシュから半音上行(Bdim>CとかG#dim>Amとか)することもできる。裏コードを使えばドミナントセブンから半音下行(Db7>CとかBb7>Amとか)という案もあるし、さらにomit1にしてディミニッシュから5度上行(Fdim>CとかDdim>Amとか)してもよい。サスペンドコードの回転形も使えるだろうし、マイナーシックスから全音下行という考えもなくはない(Dm6>CとかBm6>AmとかDm on G>CとかBm on E>Amとか)。
ドミナントモーションを利用する候補だけでもぱっと考えてこれだけある(もっと詳しい考察や網羅的な情報は、オマケの項やデータのページに譲る)のだが、さらに、パラレルモーション、dim7(前後をなし崩し的につなぐ機能がある)、クロマチックアプローチ、モードの解決なども考えると膨大な数になる。使用頻度が高そうなものや筆者が個人的に好きなパターンを中心にいくつか紹介したい(マイナー>マイナーの変進行(5度上行)、メジャー>メジャーの変進行(5度上行)、全音上下行)。
上記サンプルではIまたはImで始まって終わる形にしてあるが、演奏をまとめるためなのでこの通りの使い方をする必要はない。パッシングコードの音価もサンプルでは8分音符分に統一しているが、自由に決めてよい(さすがに、1小節丸ごとだとパッシングコードというよりは普通の展開に聴こえると思うが、そういう発想で展開を変えてしまっても問題はない)。煩雑さを避けるため、以下、ディミニッシュマイナーもハーフディミニッシュもディミニッシュセブンも単にdimで済ませる個所、裏コードやセカンダリードミナントの7th省略に関する説明を飛ばす個所などがある。
IIm>VImの場合、間にVかV7を挟んでIIm>V>VImとするとドミナントモーションのマイナー受けになる。非常に使いやすくメジャーキーらしさが出るやり方。IIm>IIIm>VImとしてやると、平行調の4>5>1を借りた形になってマイナーっぽさが出る。セカンダリードミナントでIIIかIII7(IIIの3度音は#vであってbviではないが、結果的にはハーモニックメジャーをナチュラルメジャーに解決する動き)を使うのも安定するが、IIm>III7のつながりに違和感があるならIIdim7(III7(b9)omit1の回転形)でもよいだろう。半音と全音の上昇感がごちゃまぜになるIIm>VIIm>VImも面白い。サンプルでは省いたが、IIm6>VImと代理>代理でドミナント解決する形もある。
筆者はあまりやらないVIm>IIImの場合、間にVかV7を挟んでVIm>V>IIImとするとドミナントモーションの半端なマイナー受けになる。間をVIIdimにしてやるのも一応安定。IVdimを挟んでクロマチックな感じを出すのはなかなか面白いと思う(解釈としてはV7の裏コードをomit1にして半端にマイナー受けした形)。ディミニッシュの響きがキツすぎると感じるならIIIに変えるのも手。
Im>Vmの場合、間にIIdimを挟んで強進行、IImを挟んでメジャーのツーファイブを一部流用、IIかII7を挟んでダブルドミナント風などの案がある。IImを裏返して#Vm、II7omit1で#VIdim、#V7omit1でIdimなどの動き(数が膨大になるし裏コードの項と重複するのでサンプルファイルにはIIdimを使ったもののみ掲載)を含めて、トニックからの流れなので多少ムチャなパッシングコードを使ってもあまり問題にならない。半音上昇感を前面に出すならbII系(ナポリ和音と呼ばれ、もともとIVmの代理でMaj7の第一回転形が好まれるが、ポピュラーミュージックではルーズな使われ方も多い:構成音上の裏コードとの区別は7thの長短だけで、省略した場合ファンクションやモードの意識の問題になる)も面白く、さらにイロモノで#IVm系(ナポリ和音に近い響き)やVI系(裏コードっぽい響き)bIIm系、(嘘パラレルモーション)などもある。
IVm>Imの場合、トニックへの変進行になるので単体でそこそこの解決感がある。強く進行したければドミナント(表裏どちらでも)系を入れるか、ディミニッシュ(V7の裏のomit1)にでもすればよいのではないだろうか。ナポリ和音もまあ使えなくはない。サンプルでは省いたが、IVm6>Imもなくはない。
I>Vの場合、Im>Vmと同様ツーファイブ系の変化が多数ある(サンプルファイルにはIImを使うもののみ掲載)。クロマチックな感じを出すならIIImを経由するとそれっぽいし、単純な響きを狙ってpowerVとか、Isus4やVsus4を置くのも面白い。もっと変なことをやりたければIdim(II7の裏のomit1)やVaug(増5度を完全5度に解決)という手もある。
IV>Iの場合、VIm>Imと同様単体でそこそこの解決感がある。やはり、強く進行したければV系を入れるか、ディミニッシュ(V7の裏のomit1)にでもすればよい。もっと微妙に、ドミナント寄りの代理コード(IImとか)やサブドミナントマイナーのIVmに差し替えてやる手もある。
bIII>bVIIの場合、I>Vのときと似ている(オーギュメントが使いにくくなるがパワーコードの響きはけっこうよくなる)が、Im(powerIでもよい)を間に入れると面白い響きになる。IVやIV7(平行調のダブルドミナントを借用)も普通に使えるし、IVsus4を挟むのも面白い。
bVI>bIIIの場合、やはり平行調のケーデンスを借りてbVIIを挟むのが安定だが、メジャーっぽい響きが強くなる傾向がある(bVIIsus4にすると微妙に緩和される)。似た理由でbVImもちょっとメジャーっぽい気がする。筆者自身あまりよくわかっていないパターン。
マイナーからメジャーの変進行はナチュラルメジャー/ナチュラルマイナーにはないし、メジャーからマイナーの変進行はV>IImとbVII>IVmだけであまり使わないのでサンプルは省略。
もしやるとしたらV>IImはトニック系を挟む形でよさそう。bVII>IVmはよくわからないが、フリジア系に行ってbVIIm6でも挟めばばいいんじゃないかと思う。
マイナーからの変進行で5度音を半音下げてディミニッシュ(ドミナントの裏のomit1)を作るパターン(たとえばDm>Ddim>Amなど)は、メジャーからの全音上行でベースを半音上げてディミニッシュ(ドミナントのomit1)を作るパターン(たとえばF>F#dim>Gなど)とあわせて、覚えておいてもよいかもしれない。
メジャー>メジャーの全音上行については基礎完成編で触れた通りなので繰り返さない。マイナー>メジャーの全音上行についてはナチュラルメジャー/ナチュラルマイナーでやっている限り出現しないので割愛。メジャー>マイナーの全音上行など、パッシングコードの必要性が低そうなものも省いた。
全音下行全般について、強進行2回に差し替えることが可能。たとえばG>FをG>C>Fとか、Em>DmをEm>Am>Dmとか、Am>GをAm>Dm>Gとか(メジャー>マイナーの全音下行は、やはりナチュラルメジャー/ナチュラルマイナーに存在しない)。また、上記のパターンで間に挟むコードを裏返してやると、ドミナントモーションがかかりつつ半音下行になる。たとえばG>FをG>#F7>FまたはGm>#F7>Fとか、Em>DmをEm>#D7>Dmとか、Am>GをAm>#G7>Gとか。もちろん、セカンダリードミナントをomit1してディミニッシュを作ってもよい。
マイナー>マイナーの全音上下行全般について、間に半音違いのマイナーコードを挟んでパラレルモーションにすることが可能。たとえばEm>DmをEm>#Dm>Dmとか、Dm>EmをDm>#Dm>Emとか。メジャー>メジャーの下行でもパラレルに動けるが、裏ドミナントモーションの印象の方が強くなる。メジャーからの上行は、ディミニッシュを挟む(ベースが半音上がる)ことでomit1の強進行に差し替えることが可能。たとえばF>GをF>F#dim(=D7omit1)>Gとか、G>AmをG>G#dim(=E7omit1)>Amとか。Dm>EmをDm>D#dim(=B7omit1)>Emなど、マイナー>マイナーにもディミニッシュを挟めなくはないし、メジャー>メジャーの全音上行でパラレルモーションを使っていけないわけでもない。
ここまでの話は、数が膨大になるしやっていること自体が普通なのでサンプルファイルには原則として盛り込まない。
V>IVの場合、Vmを挟むと軽めに半音進行感を出せる(#IV7だとコッテリ系になるが、これはこれで使える)。Iを挟む安定パターンに対して、Isus4やIaugやVImを挟むことで解決感を出しすぎないことも可能。Vsus4もけっこう面白い。
bVII>bVIの場合、Imを挟むことでマイナーっぽさを多少強調できる。
IIm>IIImの場合、あえてパラレルモーションにせずIIdim系を使ったり、bIIm(解釈としてはVmを裏にして半端に受ける形なのだろうか)あたりも、上下行の感覚が面白い。前がIImなのでVやbII系のコードは比較的自由に挟める。
IVm>Vmの場合も似たような動きができるが、メジャーからツーファイブ系の動きを借りるとマイナーキーの存在感が薄れる。マイナー系のイメージを前に出したいなら、IIdim系やナポリ和音を挟む手もある。
IIIm>IImの場合、途中にIかIsus4を入れてやるとケーデンスが落ち着く。
Vm>IVmの場合、Vを挟んでやると上下行の感覚が面白い(チラっとだけハーモニックマイナーに行って、トニックの出現を待たずに戻る形)。
とりあえず、ダイアトニックパラレルモーション、循環コード、ドミナントペダル、コード分割あたりを覚えておけばよいのではないか。すでに紹介したものも改めて見ていこう。
ダイアトニックパラレルモーションは「7音スケールに従ってコードのルートが順次進行する」ように変化をつけることで、メジャーキーでIまたはIImまたはIIImまたはIVを使うパターンが好まれる。たとえばI>I>I>VImをI>IIm>IIIm>IV>IIIm>VImにするなど。
循環コードは言葉のとおり「一定のコードパターンを繰り返すこと」を指し、作曲のページでもそのように紹介したが、循環コードでよく使われるI>VIm>IIm>Vなどのパターンへの差し替えも普通に行われる。たとえばI>I>I>IをI>VIm>IIm>V>I>VIm>IIm>Vにするなど。
もっと単純に、同じコードが続くパートを「コードのルートを中心としたケーデンス」に差し替えてやることも可能で、IVが続くパートをIV>Vm>I>IV(IVから見るとI>IIm>V>I)にするパターンはとくによく見られる。ivをルートとするキーに一時転調しているとも解釈できるが、IVがずっと続くパートは当然ivが支配的なパートなので、その「支配力」をちょっと強めてやっただけである。
ドミナントペダルはペダル(コードが変わっても同じ音程の音を続けて演奏すること)の一種だが、用語がちょっと面倒である。ポピュラーミュージックで単に「ペダル」というと、ベースのペダルを指すことが多い(オルガンの足鍵盤風の奏法なので、クラシック方面ではオルガンペダルと呼ばれる:これに対しトップノートのペダルはソプラノペダルと呼ばれる)。どの音を使うかでの分類もあり、ドミナントペダルはドミナントの音(v)を使ったペダルである(トニックの音(i)を使うのはトニックペダル)。
結局ドミナントペダルは「コードが変わってもベースがずっとvを弾く」「on vのコードを続ける」ことなのだが、反対に考えると「ベースがずっとvを鳴らしているパートで上が違うコードを弾く」という順番でも同じことができるはずである。ということで、Vが続くパートに変化をつけたい場合に使える。なお、ベースがvを弾くのは小節の頭だけで差し支えない。
コード分割はすでに何度も紹介しているが、必ずしも「小節の途中」で分ける必要はなく、たとえばV>V>V>Vという4小節をIIm>V>V7>V7に変更してもよい、ということに注意して欲しい。ブルースでよくある「パワーコード>3度下マイナー」の繰り返しを取り入れて、たとえばI>I>I>IをI>VIm>I>VImとするのもアリだし、sus4や5度上下のコードに行って戻る動きも面白い(とくに、Iが長く続くパートに一瞬IVを差し込んでやるなど)。
コードのヴォイシングを考える上で、中心となるルート音(ただしオクターブで重ねる必要はない)、メジャー/マイナーを決定する3度音、コードの性格を変化させる7度音、あまり仕事をしていない5度音があり、5度音は省略しても構わないという説明を何度かした。
これを反対から考えると、3度音と7度音を省略して「ルート音と5度音だけの和音」を作ってやれば、コードのイメージにほとんど影響を与えない伴奏をつけることができる。名前はすでに紹介してあるが、これをパワーコードという。
パワーコードは「ルート音の主張」が非常に強く、たとえばC音の上にG音を重ねたPowerC(すでに触れたように、G音の上にC音を乗せた場合もPowerCの扱いになる)は「CつったらC」というイメージが鮮明である。もっと言えば、C音だけをオクターブ違いで重ねた方が「Cの主張」は強く感じられるのだが、そこまでやると響きが単純すぎてコード(和音)が鳴っている感じがあまりしない(ので普通はコードとして扱わない)。
ヴォイシングの制限が厳しく倍音の多いディストーション系エレキギターで多用される伴奏法で、ドロップDチューニング(セーハしただけで4~6弦がパワーコードの形になる:1~3弦はメロディ的な音に使う)によって演奏性を向上させることもある。ギターの場合は5~6弦だけを使って5度音がトップノートになる形もよく使うが、オルガン(やはりディストーションサウンドが好まれる)などで演奏する場合は1度音がトップノートになるよう回転させることが多い。
注意点として「ベースがすでに弾いているはずのルート音と、本来必須ではない5度音をあえて鳴らす」のだということを忘れないようにしたい。もちろん、ルートがオクターブユニゾン(ギターで4弦も鳴らす場合は3オクターブユニゾン)になって音が厚くなる効果は便利なのだが、不用意に使うと音がダブつく(それが問題になる場合はミュートをきかせてロングトーンを避け、ここぞという場面でだけ分厚い音を出す:問題にならないならバンバン厚い音を鳴らしても差し支えはない)。なお、どの声部にも3度音が出てこない(=バンド全体で見てもパワーコードになる)場合、クラシック方面では空虚5度と呼んで禁則扱いすることがある
また、ベースとギターなどが常に「連続の進行」を作ることになる=音程的な一体感が非常に強いので、タイミングやダイナミクス(音量)の一体感もキープしないと聴き苦しくなる(禁則を無視しているとみなすより、ギターとベースを「独立した声部」ではなく「1つの声部」として扱うのだと考えた方がいろいろと便利)。必ずしもアレンジャーが心配すべきことではないが、演奏上の注意として頭の片隅に入れておこう。
各楽器に固有のヴォイシングではなく、バンド全体としてのヴォイシングを考える(鍵盤のヴォイシングについては鍵盤あれこれのページを参照:パッド系のシンセやストリングスなどは2オクターブくらいを使用した広めのヴォイシングが無難)。実例についてはオクターブ選択の実例の項を参照のこと。
基本的には、バス(C1~G2くらい)、テナーとアルト(E2~E5くらい)、ソプラノ(C4~A5くらい)の3音域を想定して、これを埋めてやる感じが基本線になる。バス(英語だとベース)は名前のとおりベース、テナーとアルトはコード伴奏、ソプラノ(トップノート=和音の中で一番高い音)はメロディという担当だとスッキリする。ピアノやギターなど単体でコード演奏ができる楽器はもう少しアバウトに考えてよい(とくにアコギは、メインメロディなどと多少被ってもあまり問題ない)。
基礎編の冒頭で述べた通り、ヴォーカルがテナーやアルトの音域にかかっていると、コード伴奏と衝突して音が濁ることが多い。定位を振ったり時間軸の出し入れ(掛け合いのような構成)を利用して対処するのだが、男声ヴォーカル+アコースティックギターなどの構成ではあえて小細工をしない場合もある。
ソプラノの領域が空白になっている場合、ドラムスのシンバルなどが活躍することになる(反対に高域が埋まっている場合は、シンバルを好き勝手な音色にはできない)。シンセパッドで埋め立ててしまうこともできるが、やはり、シンプルな構成ではあえて音域の空白を埋めないことがある。
ピアノなど音域の広い楽器を使う場合、どの音域にも自在に顔を出せてしまうが、あまり奔放にやるとアレンジの難易度が大幅に上がってしまうので、慣れないうちは慎重にやった方がよいだろう(音域の広さはピアノの特徴の1つなので、とことん出し惜しみする必要はないが)。
オマケとして、鍵盤のヴォイシングについて少し触れておく。とりあえず鍵盤単体で考えるが、ベースやメロディを誰が担当するかでも事情が変わってくることに注意。マイナーセブンの基本形クローズドヴォイシングを元に考えよう。
この状態では「3度の重なり」を3回繰り返した形になっている(大げさな用語を使うと「3度堆積」と呼べるが、呼称は覚えなくてよい)。テンションを入れる場合は「すぐ下のコードトーン」を省くのが原則(3度音は省略しないことがある)。
ドロップ2nd(上から2番目のトーンを1オクターブ下げる)するとこんな形。
外声が10度(3度のオクターブ上)で重なるのがポイント(第一回転形からドロップ2してかつ10度の外声がぜひ欲しい場合は、音を動かす必要がある)。上下に分割すると、PowerAの上にPowerCが乗った(=パワーコードが2つ重なった)形にも見える。単体でも比較的よく使われるヴォイシングで、空けた音域にテンションを詰める場合やブロックコードなどにも利用される。
ドロップ2nd and 4thはドロップ2してから新たな3rdトーン(上図ではA音)を1オクターブ下げたのと同義なので、パワーコードが上下に重なった形になることは変わらない。
マイナーセブン、メジャーセブン、メジャーシックスの場合、どの回転形からドロップ2またはドロップ2and4しても「パワーコード2つ積み」の状態になる。ドミナントセブンとその派生コード(ディミニッシュやマイナーシックス)では、ディミニッシュセブンに変化させてしまうことも多い(トライトーン=減5度を2つ積んだ形になる)。上図では単純にオクターブ下げで作業しているが、ベースが入る場合このままだと重なるはずなので全体を1オクターブ上げる必要があるだろう。音域が非常に広くなるのが特徴で、パッドなどで使われることがある。
ドロップ3rdは上2声が3度の関係になる(やはり、第一回転形からドロップ2した場合は例外)。
音程間隔が高音ほど狭くなるのが特徴なので、上図のままでなく(ベースが他にいる前提で)全体を1オクターブ上げても(音域的にソプラノまで突っ込むことになるが)面白い。ドローバーオルガンなど分数倍音を出す楽器や、メインメロディよりも高い音域にパッドを入れる場合に試してみるとよさそう。
なお、ドロップ1stはナンセンス(コードを回転させるのと同義)なので普通想定しない。ドロップ4thやドロップ3rd and 4thは音程が離れすぎる(1オクターブ以上になる)のであまりやらない(絶対ダメというわけではない)。ドロップ2nd and 3rdというのも聞いたことないなぁ。ちなみにギターでは、ローコードのDを基本にした4弦ルートフォームが第二回転形のドロップ2(それ以外のヴォイシングや回転形も、頑張ればできるものがけっこうある:ドロップ2は全般にやりやすい)。
強弱のつけ方(ダイナミクス)についてまとまった紹介をしていないのでこの辺で。編曲だけやるなら、奏者に「強く」とか音楽用語で「フォルテで」とか、そういった抽象的なリクエストだけ(譜面なり口頭なりで)出せばよいが、自分で打ち込みもやる場合は最終的に「ベロシティでいくつ」「チャンネルボリュームでいくつ」というところまで決めなければならない。
まず楽器別の注意だが、低音楽器はダイナミックレンジが狭い。つまり、微妙な音量変化でも大げさな動きに感じやすい。中音域メインの楽器はダイナミックレンジが広く、高音域メインの楽器はやや狭い。これは人間の耳の特性によるものである。
生楽器ではスネアドラムなどでこの傾向が顕著で、思い切り引っ叩くと、聴覚上の音量はさほど変わらないのに録音波形(ピーク音圧)は飛びぬけて大きくなったりする。あまり突出した音量を出してしまうとミックス作業が面倒になるので「引っ叩いた音」が欲しいのか「アクセントのある音」が欲しいのか一度検討しておこう(アクセントはリムかけやベンドなどの具合でコントロールできるが、当然ながら、引っ叩いた音が必要なら楽器が壊れない範囲で引っ叩いてよい)。
ただし、ベースやバスドラムの中高域成分だけを目的に鳴らすことやゴーストノート的な使い方もけっこうあるので、低音楽器だから大きく音量を動かすのが即いけないというわけではない。また、再生音量でハイハットの音量感が大きく変わるので、1度くらいは大音量や小音量で確認しておこう。ハイハットの強さは曲調によってもかなり変わる(意識しなくても明確に聴こえる音量でキッチリ刻む、意識すれば明確に聴こえる音量で他のタイコのサポートに回る、意識しても明確には聴こえない音量でゴーストor味付け的に立ち回る、など)。
打ち込みの場合音源の音色と仕様(ベロシティカーブ)に依存するのでこれといった方法はないが、ローランド(GS系)の音源でかつ小音量前提だとたとえばこんな感じだろうか(ハットは大雑把にしかイジっていない)。大音量前提だと低音楽器がキツすぎるはずなので、たとえばこんな感じとか(バスドラのベロシティを8分の7に、ハイハットのベロシティを10分の9に、ベースのチャンネルボリュームを96から84に一括変更したが、当然、本来はもっと細かくやる)。筆者の手元ではこんな音とこんな音である。
上記ファイルのベースはベロシティでなくチャンネルボリュームをイジっているが、これは「弱く弾く」か「ボリュームを下げる」かという単純な使い分けである(パラ出ししておけばボリュームは後からでもイジれるが、とくにピアノなどは強いタッチの音と弱いタッチの音がかなり違うので、録音より前の段階できちんと検討しておかなければならない)。ちなみに、ベロシティは(鍵盤や弓やピックや指などを動かす)速さ=結局弾く強さ、エクスプレッションはエクスプレッションペダル(またはボリュームペダル:奏者が足元に置いて操作する)、チャンネルボリュームはミキサーのチャンネルフェーダー(エンジニアが操作する)に相当するコントロールなので覚えておこう(ベロシティという名前は、電子ピアノが光学センサーで測定した速度をもとにタッチの強さを推定することからついた、のだと思う)。
強いコンプを経由して深いオーバードライブをかけた音色の場合、楽器を弾く強さが変わっても(歪みの深さが変わることはあるが)最終的な音量はあまり変化しないことに注意(というかコンプはそのためにかける)。もし音量を動的に変えたい場合は、アンプの後ろにボリュームペダルを噛ます、エンジニアがミキサーでコントロールする、楽器の音量をごく極端に変えるなどの方法でやる(仕様的に可能なら、アンプやコンプ自体をペダルやMIDIでコントロールしても別に構わない)。
パッドなどで広いヴォイシングをする場合、高い音が目立ちすぎることがあるので適宜調整する(ベロシティで対応せず加工でローパスを入れるという手もあるし、最初からローパスがかかった音色を使う手もある)。ベースが入る曲ではコード伴奏の音量を下げられないか試してみるとよい。テンションや7thなどの響きがキツすぎる場合に弱めに弾くことで緩和できることがある。
時系列の強弱だが、基本的には強弱または弱強の繰り返し(強いパート弱いパートの長さはともかくとして)で、拍単位、小節単位、AメロBメロなどのパート単位、アルバムにするなら曲単位など、さまざまなレベルで検討すべきである(コテコテのロッケンロールなどであれば、あえて「強だけ」で押すのもアリ)。音の厚さや音数の多さにも同じことが言えるが、それぞれの尺度でどのような「波」を描くのか意識してみるとよい。
動きの目立ち方にも影響がある。たとえば違和感のある音(スケール外の音など)を、弱小節の弱拍に置いてコッソリ使ったり、強小節の強拍(とくにサビの頭とか)に置いて大胆に鳴らしたりできる。ビートで言うと、強拍の音は微妙な前後移動で大きな変化が出しやすく、弱拍の音(とくに装飾音系のバスドラなど)はチョコマカした動きがやりやすい。この辺の特徴も一通り自分で確認しておこう。
8分音符にするか4分音符にするかといった大まかな意味での音価ではなく、アーティキュレーションと呼ばれる細かいニュアンス的な音の長さの話。
編曲だけやるなら、奏者に「なめらかに」とか音楽用語で「レガートで」とか、そういった抽象的なリクエストだけ(譜面なり口頭なりで)出せばよいが、自分で打ち込みもやる場合は最終的に「チックスでいくつ」というところまで決めなければならない。
楽器の特性やリバーブのかけ具合などでどうとでも変わってしまうのでこれといった定石はないのだが、筆者としては、とくに意図がない限り、32分音符分を上限に音価の1/32~1/8くらい削るのが無難なのかなという感触でいる(詳しい話は打ち込みについてのページに譲る)。ベタ打ちのベースなどでは機械にしかできない完全なレガート(隙間ゼロ)の方がよい場合もあるし、鍵盤でメロディを弾く場合は音がやや重なるくらいになることもある。
一応、16分音符を480チックスに見立てたピアノの同音トレモロ(ペダル不使用)を、ベタ打ち、15チックス(512分休符)間隔、30チックス(256分休符)間隔、60チックス(128分休符)間隔、120チックス(64分休符)間隔、240チックス間隔(32分休符)の順で並べたサンプルファイル(テンポ120)を再掲しておく。リバーブのかかり具合や音源の設定で聴こえ方が変わる例として、fluidピアノと4frontピアノとEVMピアノで鳴らしたサンプルも再掲しておく(EVMピアノは筆者が普段使っている設定)。
もちろん、生楽器っぽい打ち込みを志向するなら、たとえばギター族ではどの音がどの弦の音でハンマリングやプリングはどこに入っているのか、鍵盤楽器ではどういう指使いでペダルはどう使っているのか、といったことをキッチリ考慮しないとマトモな演奏にはならない。
この他にタイミングの微妙な前後なども重要だが、非常に細かく面倒な話になるので、詳細はリズムとビートについてのページに譲る。
「ノート(音)」と「ヴォイス(声)」という用語が出てきた。ノートはコードに「対して」どのような音か、ヴォイスはコードの「中で」どのような音かに注目した言い方である。たとえば外音はコードの構成音でない音を、外声はコードの最低音と最高音を指す。ちなみに、このページで普段「ベース」と呼んでいるパートは、文脈により「バス」「ボトムノート」「ボトムヴォイス」などと呼ばれることがある。
「トーン」も「音」の意味だがノートとの使い分けは厳密でなく、たとえば導音のことを「リーディングノート」と言う人もいれば「リーディングトーン」と言う人もいる(ただし「コードトーン」とは言っても「コードノート」とはあまり言わないし、「テンションノート」とか「トップノート」などとは言っても「テンショントーン」とか「トップトーン」などとはあまり言わない:トーンはコードを「ひとまず意識の外に置いた」言い方である)。
ドラムスなど音程感の薄い音(倍音を含まない純音、基音と倍音を含む楽音、不規則な周波数を含む噪音に分けた場合の噪音)は「ノート」と呼ぶことが多い。拍は「ビート」で数えるので、たとえば「2拍めの3音め(the 3rd note of the 2nd beet)」のような言い方をする(「8ビート」とか「16ビート」などと言う場合の「ビート」は和製英語で、英語だと「8th note groove」などと呼ばれる:上記の例をもっと親切に書くと「the 3rd 16th note of the 2nd beet」になる)。
修飾音(supplementary note:響きなどを補う補助的な音)と装飾音(grace note/ornament:楽譜を書くときに小音符で書く短く弱い音、またはフラムの1発目)は意味が違うので(クラシック以外の分野ではごちゃ混ぜに言う人も多いが)注意。パターン化した非常に弱い音(とくにドラムス)はゴーストまたはゴーストノートと呼ばれることが多く、グレースノートと呼ぶ人もいる。またアンプの歪みで出る「別の音程で弾いているように聴こえる小さな音」をゴーストトーンと呼ぶことがある。
バスとかテナーなどの言葉を断りなく使ったが、もともとは「声部」を指す言い方である。古典的な文脈でヴォイシングを考える場合、各声部をそれぞれモノフォニックな(あるいはユニゾン演奏する)パートが担当するのが前提になる(ピアノのようなポリフォニックの楽器は、各パートを1つの楽器が兼任する形で考える)。バス、テナー、アルト、ソプラノの4声で考えることが多く、たとえばクラシックの文脈で「ソプラノがトニックとなる終止」とあったら「トップノートがi」と解釈できる(場合が多い)。現在は単純に音域を指す言い方としても普通に使う(このページでもそのような意図で用いている)。
テンションノートの度数は「9~13の奇数」になる解釈が一般的である。これはコードトーンが「1~7の奇数」であるためで、たとえばCの上にD#=Eb音をテンションで乗せた場合、b10ではなく#9として扱う(3度=10度の音はCのコードに最初から乗っているので、重複させないように解釈するということ)。シックススコードをadd13omit7と解釈する立場もある(詳しくは鍵盤あれこれのページのオマケを参照)。
テンションは7thコードの上に低い方から順に積むのが原則で、たとえば「V13」と書いたら「V7add9add11add13」の意味であることが多い(多いだけ)。「add」とアルファベットで書かず「V7(9,11,13)」などとする表記もある。省略したり半音上下させたりするテンションがある場合も、単に「V13」と書いてしまうことが多い(括弧書きで指定する場合は、たとえば「V7(#9,b13)」などと指定するのが普通)。ちなみに、13thだけ乗せる場合は「V7add13」または「V7(13)」と書けばよい。
シックススコードにテンションを乗せたい場合は、たとえば「V6add9」または「V6(9)」などとしてシックススコードであることを明示してやる。ダイアトニックでないセブンスコード、たとえばCメジャーの曲でC7にテンションを乗せるときにも「C7(9)」と書くことがあるが、その場のノリでわかる場合は単に「C9」で済ませることもある(「C9」や「C13」のように「7以外の数字が直接つく」のはドミナントセブンだけ、というポリシーの人もいる:テンションはもともとドミナントセブンに乗せるものなので)。
オンコードの表記について、たとえば「C on E」の意図で「C/E」と書く場合がある(いわゆる分数コード)。ポリコードの表記にも同じ書き方が使われる(たとえば「Db/G」なら、ピアノの左手がG、右手がDbになるテンションコード=「G7(b9,#11)」)ので紛らわしいといえば紛らわしいのだが、「C/E」というポリコードはかなりナンセンスなので「C/E」でも「C on E」の意図は(たいてい)伝わる(「IV/V」などはちょっと悩むが、実際に弾いてみれば問題なくわかるはず)。これに限らず「演奏すればわかること」を適当に処理してしまう例は非常に多い。
編曲というよりは演奏技術の領域になるが、音に変化をつけることを総称してフェイクという(もとはこんな感じの「本来の音程より半音低く入って元に戻る演奏法」を指した:反対に「半音高く入って戻る」とこんな感じになる)。技術的には演奏寄りではあっても、どのようなフェイクを入れたいかによって編曲を調整するとか、編曲に合わせてフェイクの入れ方を変えるなど、相互作用が強いためここで触れておく(たとえば、ヴォーカリストやギタリストが複数人交代で演奏する形式の曲だと、フロントに出る人のクセに合わせてバックバンドの演奏が変わったりする)。
フェイクには(作曲と同様)決まったやり方はないが、どこまでやるかによって曲の感じは随分変わる。何回か使用したAuld Lang Syneのメロディでちょっと実演してみよう。まずはちょっと変化をつけつつ大幅には脱線しない感じのフェイク。ウタものでは1番と2番でフェイクの入れ方を変えるようなこともよくある。ブレスが続かなくなって声が途切れているのは大目に見て欲しい(録音レベルをロクに合わせず、しかも小声でデモを作ったのでノイズレベルも高い)。
今度はシャッフルさせてみよう。ハネたリズムと強い進行を組み合わせるとフェイクを入れやすいので、Dm>Gm>Fの部分をGm>C>Fとツーファイブワンにして、ついでにF>C>F>Bbと平坦な感じの部分をF>C>Dm>Bbにしてしまう(手を入れた伴奏)。最終的にはこんな感じになった。最後の方で音が高くなりすぎてヘタっているのはご愛嬌だと思って欲しい(即興でやるときに調子に乗るとこうなる:ついでに白状すると、録音中にちょっと楽しいことを思い出してしまい、最初の方に笑い声のようなものが入ってしまった)。
せっかくシャッフルさせたので、伴奏もセブンスコードにしてみよう。メジャーセブンは使わずドミナントセブンとマイナーセブンのみで伴奏してみた。これに思い切り(メロディだけでなく歌詞にも)フェイクを入れながらウタ入れしたところこんな感じになった。舌がまったく回っていないとか、こんなに短いのに途中でネタ切れしているとか、後半「my jo」しか言っていないということは胸にそっとしまっておいて欲しい(ピアノかギターあたりにフィルを入れてもらわないと間が持たない)。
説得力がカケラもないが、フェイクを入れるときは「自信マンマンで」やるのが大原則である。おっかなびっくりやると「単に音を外した」ようにしか聴こえない(これは説得力たっぷりだと思う)。ほかの技術と同様、フェイクも「やたらと入れればよい」ようなものではなく、ヘタなフェイクを入れるとかえってみすぼらしくなる(これも説得力たっぷりだと思う)。また、極端なフェイクを入れると歌詞や現在の演奏位置がぶっ飛ぶことがあるため「自分を見失わない範囲」でやろう。
セブンスコードの伴奏に思い切りフェイクを入れたバージョンだけを聴くと「歌詞以外全部別の曲じゃないか」と思う人もいるかもしれないが、中間のシャッフルバージョンを聴いてみると、なんとなく「連続性」のようなものが感じられると思う(多分、きっと、そこはかとなく、少しくらいは)。冒頭にも書いたが、フェイクは演奏者が独自の判断で入れる場合が多い。もちろん、ヴォーカル以外の楽器でも普通に使う技術である。
このサンプルは仰げば尊し(成立年不詳、スコットランド民謡か)をCメジャーに移調したものだが、メロディを元にここまでの編曲ができた、というところから出発する。Domino用ファイルを含めたサンプルファイル詰め合わせ(次の項と共用)も用意したので、Dominoユーザーはこちらを利用した方が便利だと思う。
まずはベースとメロディの反行から。音が2つあるとき、両方が上がるまたは下がる動きを平行、片方が上がって片方が下がる動きを反行と呼ぶことはすでに紹介したが、ボトムノート(ベース)とトップノート(多くの場合メインメロディ)を反行させてやると、安定感を出しやすい。たとえば最初のC>Fのところは、
ベースとメロディが平行している(間にあるのはコード伴奏:こちらも後で見直す)。これをこんな風に
ベースを1オクターブ下げてやることで反行にしてやる。しかし、そうすると他の問題が出てくる。図にも書き入れたが、ベースとコード伴奏の間が空きすぎである。一般に、ベースとベースのすぐ上の音は1.5オクターブ(=1オクターブと完全5度:あまり近いと音が濁るので注意)、それ以外の場所では1オクターブを超える間隔にしないのが無難である。コード伴奏の真中の音(Fの3度音A)を1オクターブ下げてやろう。
ただし、コード伴奏のアレンジだけで埋めにくい個所は、後からパッド(間を埋める音という意味)の音を足すこともできるので、過剰に神経質になる必要はない。作業したら音を耳で確認するのを忘れずに。
とこのように、ベースとメロディの反行を多用しつつ間が空かないように適宜オクターブの移動をしてやると、結果的に「上下に開いたり閉じたりする音程移動」になる。反行するノートの響き自体が美しいのはもちろん、メロディが上がる個所(多くの場合曲が盛り上がる個所と一致する)では広い音域を使った迫力のある音が、メロディが下がる個所(多くの場合曲が落ち着く個所と一致する)ではまとまりのある音が出てきてくれるというメリットがある。
次の小節に進もう。
やけに問題点が多いが、コード伴奏の上2音とベースを1オクターブ下げてやればよさそうだ(他の声部への解決引き渡しはクラシックの声楽や四重奏などでは普通に用いられるが、ピアノなどポリフォニックな楽器では音程的に近いところに置いた方が無難)。
他の部分も同じ方針でオクターブの上げ下げをやっておこう。
さて、一通り作業したらもう一度曲全体を聴きながら問題点がないかどうか探ってみよう。どうやら、ブリッジの入り口(「おもえば」の歌詞のところ)が妙なことになっているようだ。
メインメロディの直後に伴奏が同じ音程で鳴っているが、このような「引き継ぎ」や、音程のクロス(伴奏の下にあったベースが伴奏より上に来るとか、メロディの下にあった伴奏がメロディより上に来るとか)は避けた方が無難である(何度も繰り返している話だが「唐突な動きは唐突な印象を生みやすい」というだけで、たとえば男声+アコギ伴奏などで「ずっとクロスが続く」のはあまり気にしなくてよいし、変な音を出したければあえて変なクロスを作ってもよい)。
ベースと伴奏、伴奏とメロディの離れ方がかなりギリギリになったが、ブリッジで大きく盛り上がるパートなので問題ないだろう(音を厚くしたいはずだから、多分パッドも入るだろうし)。
最後にまた手を入れた音を聴き返して、最初の例とも比べてみよう。非常に地味で単純な作業ではあるが、こういった当たり前のことがどこまでキッチリできているかということが、編曲全体の良し悪しに大きく影響する。今回はピアノ系の鍵盤+別にペースという前提でやったが、鍵盤がベースまでカバーする場合や、アコーディオンのように独特の制限(鍵盤の操作は原則利き手だけ)がある楽器の場合は、それなりの対応が必要なので注意して欲しい。
もし鍵盤奏者が初心者でヴォイシングなど構っていられないという場合、トニックは基本形(Key on CmajならコードはCで、音は順にCとEとG)、ドミナントは第一回転形(Key on CmajならコードはGで、音は順にBとDとG)、サブドミナントは第二回転形(Key on CmajならコードはFで、音は順にCとFとA)でやってみよう。それでもムリなら全部基本形でやるしかない。コード楽器がギターの場合、低音が薄い(5~6弦を弾かないor極端にハイフレットになる)パートでベースが下に潜り過ぎないように注意する(もちろん、あえてやる場合は別だし、間にパッドを入れることもできる)。
なお、図では説明のため専門用語で注釈を入れているが、上記くらいの作業なら音楽理論の勉強はまったくゼロでも可能である。各声部間はバス以外1オクターブ以内にするだの限定進行音は順次進行で解決だの言わなくても、ちょっと勘がよい人なら「こっちの方がいいかな」で音を選べてしまう。この辺の匙加減をどうするのが一般的なのかわからないが、筆者の知る限り、理詰めでやる人は少数派だと思う。
他のページで言っていることとも重複するが、理論的な理解力と勘のよさを兼ね備えている人は少ないので、理詰めで編曲したものを勘がよい人に聴いてもらう(理論的に考えると飛躍した音使いでも、案外ハマるケースは少なくない)とか、勘で編曲したものを理論がわかる人に聴いてもらう(どうしても「ケアできる範囲」が狭くなりがちなので)とか、そういった補完はあった方がよい。
文章で説明するより耳で聴いた方が早いので実際に聴いてみよう。前の項でヴォイシングまで見直したこのサンプルに、リズムやテンポで変化を加えてみる(一応、前の項と同じサンプルファイル詰め合わせを再掲)。
もちろん、コードの振り方で変化を出すとか弾き方で変化を出す(面倒なので、ヴォイシングやら何やらがテキトーなのは大目に見て欲しい)といった工夫もあるが、これらにはすでに触れたので繰り返さない。ただ、コードを差し替えたり転調を作ったりするとヴォイシングやアプローチや予備などの都合が変わるので、ある程度計画的にやった方が面倒が少ないと思う。また今回はドラムスを使う例をメインに紹介したが、ベースの動きにもかなりの展開力がある(楽器のページで使ったサンプル)。
例として大きな古時計のメロディを使う。メインメロディと裏メロの関係として、響きは単純だが強烈な安定感がある完全8度(オクターブユニゾン)とそれに次ぐ完全5度、響きもよく無難に使える3度とそれに次ぐ6度、複雑な音色になるが注意しないと音が濁るそれ以外、といった大まかな特徴をまず把握しておこう。コードトーンとの兼ね合いは実際に音を並べてから検討する。
また、音の目立ち方からトップノート(一番高い音)のライン=メインメロディという印象が残りやすいことを覚えておきたい。裏メロをメインメロよりも高い音域に入れると、裏とメインの関係が逆転する(メインメロが伴奏っぽくなる)ことがある。これはこれで面白い効果なのだが、回避したい場合は裏メロに適度な休符を入れつつ、ロングトーン(長く伸ばす音)や長めの休符、連続の進行(オクターブユニゾンや5度ハモリの連発)など他の音に紛れる動き、反復性の高い動き(たとえばコードのルートから見て5度と3度の音を交互に鳴らすとか)なども織り交ぜてやるとよい。
Domino用ファイルを含めたサンプルファイル詰め合わせも用意したので、Dominoユーザーはこちらを利用した方が便利だと思う。
裏メロをメインメロの下に入れる場合に使いやすいと思う。単純に3度上(短3度または長3度のうちスケールから外れない方)の1オクターブ下へ平行移動してやるとこんな感じになる(クラシック方面の用語でホモフォニーと呼ばれる手法だが、名前は覚えなくてよい)。もし響きが気に入らなければ、3度下(長短6度上の1オクターブ下)への平行移動を試してみよう(曲によって適不適がある)。
上の例のままでも単純な「ハモりメロディ」としてはまあ悪くないかもしれないが、同じ響きがずっと続くのがちょっと気になる。とくにラストが締まらない。そこで最後だけオクターブユニゾンを導入してこんな感じにすると、かなり印象が変わる。さらに最後のD(「とけいー」の「と」)のところで裏メロがコードのルートから完全4度(G)に入って長3度のコードトーン(F#)とぶつかっているため、
適当なコードトーン(勘で選んでも音程を考えて選んでもよいが、必ず耳で確認すること)と同じ音程に移動してやるとこんな感じになる。ただし、これらの調整は耳で聴いて問題なければムキになってやる必要はない(たとえば上記の例なら、11thのテンション扱いでも問題ない)ことに注意して欲しい。
ここまでの例ではメインメロと裏メロがほぼ常に平行しているため「セットで動いている感じ」が強い。そこで反行が多くなるように動かしてやると、たとえばこんな感じになる(反行しにくい個所では一部斜行させている)。反行での行き先候補だが、メインメロから見て「6度上のオクターブ下(3度下)」を第一候補に、コードトーンも交える感じだと安定しやすい。メインメロとのオクターブユニゾンは「ここぞ」という場所だけに限定した方が効果的だろう。
コードトーンを裏メロに使う話が出てきたところで、もう一度このパターンに戻ってみよう。裏メロを単体で聴くとわかるが、かなりマイナーっぽいイメージである。これはすでに紹介した「3度上への転調」と同じ処理をやったためで、元がメジャーっぽければマイナーっぽく、元がマイナーっぽければメジャーっぽくなる(全体の和音としてシックスやメジャーセブンやマイナーセブンができやすいとも言える)。
この印象を薄めたければ「裏メロがコードトーンを外れている(とくにルートから見て6thまたは7thになっている)ところ」を適当なコードトーンに変更してやればよい(もちろん、薄めなくてもよい)。たとえばこんな感じになる。コードの振り方で話が変わってくるため、どちらから手をつけるか事前に検討しておいた方がよいだろう。コードトーンを多く使うということはコード伴奏に埋もれやすくなる(オクターブユニゾンになって一体化しやすくなる)ということなので、伴奏をやや控えめにするなどのバランス調整が必要になるかもしれない。
なお、全体の和音がテンションコードになる(たとえばマイナーコードの上にm7のメインメロが乗っており、その3度上に裏メロを乗せてm7add9ができるなど)場合、普通にテンションコードを使う場合と同じ注意が必要である(もちろん、裏メロを動かしてテンションコードを避けてもよい)。テンションの活用については次の項で触れる。限定進行音のオクターブ重複や声部の間隔などにも気を使って損はないが、あまりムキにならなくてよいと思う。単に音が重い場合は、コード伴奏を適宜省略する。
上記くらいでだいたいの形はできるはずだが、これまでに紹介した各種の手法を活用して、さらに複雑な変化を追及することももちろんできる。この状態から筆者の好みで手を入れるとこんな感じだろうか。今回たまたま入れなかった歌詞ずらしなどには次の項で触れる。
裏メロをメインメロの上に入れる場合に使いやすいと思う。ベースラインが決まっていることが前提になる(または、ベースラインを決めながら裏メロも決める)。
まずは対位法的な発想で、トップノート(裏メロ)とボトムノート(ベース)を反行または斜行させる案がある。たとえばこんな感じ(最後だけ、ソプラノをiにして終わりたかったのでメインメロに手を入れている:平行もある程度は使う)だが、ベースが順次進行中心に動く曲の方が相性はよいと思う。
反対の発想でベースとオクターブユニゾンするのも面白い。全体がブロックコードっぽい構成になりメインメロが箱の中で動く感じになるので、筆者は「ソプラノで蓋をする」と勝手に呼んでいる。ごく単純にやると、たとえばこんな感じ(これも、ディミニッシュコードを導入した都合でメインメロをイジっている:裏メロはもっと小さい音量で入れた方がハマるはず)。裏メロ担当がヴォーカル(いわゆるコーラスパート)でも歌詞は入れない前提だが、歌詞ずらし(裏メロパートだけ歌詞をゆっくり進ませたり、遅らせた後に追いつくなど)も面白い。メロディ感のあるベースの曲に合う。
ベースを元にする考えを応用すると、コードトーンを活用する(「ベースから3度上の音」とか「ベースから5度上の音」に相当するのだから、結局はベースとの兼ね合いで音程を決めていることになる)という発想も可能である。たとえばこんな感じで、コードトーンのロングトーン+メインメロとの平行orアプローチノートっぽい音の構成も筆者は好きである。合唱(ヴォーカルだけで和音を作るので、和声的な意識が強いのだと思う)をやっている人に即興でコーラスを入れてもらうとこんな感じの合いの手を入れてくれることが多い。
コードトーンから外れた音、つまりテンションを活用して裏メロを作ることもできる。下準備としてセブンスコードを使いまくりの伴奏に手直しする。裏コードやフェイクの項でも似たようなことをやったが、下準備をすることで「変な音」を円滑に引き出したり、あえて下準備しないことで唐突にぶつけたりする意識は重要なので再確認しておこう。実際に作業すると、たとえばこんな感じだろうか(ストライドっぽくして時間当たりの音の密度を下げたり、ピアノ伴奏をオープンヴォイシングにしつつ適宜音を省いて縦の密度を下げたりして、音が「ごちゃ」っとならないようにしているあたりにも注目:この伴奏を全音符のクローズヴォイシングでベタ弾きしたら、うるさくて聴いていられない)。これに、コードトーンから外れた音を山盛りにした裏メロを乗せてやるとこんな感じになる(一部のラインが使い回しだが、サンプルファイルを作るのもこれでけっこう手間なので、大きな心で見逃して欲しい)。
後半の例などはわりと複合的なやりかただったが、実際の曲では上記すべてを組み合わせて裏メロを作ることになる。だいたいのところで、メインメロとの音程、ベースとの音程(ルートかルート以外のコードトーンかテンションか)、時間(タイム)的なずれの3つをケアしてやれば、そこそこ破綻のない裏メロになってくれることが多い。
上記では触れていないが、いわゆるカウンターメロディ的なやり方(メインメロとの反行を多用しつつ、メインメロが細かく動くときはゆったり、メインメロがゆったり動くときは細かく動く:当然だがこれも原則論なので、ムリヤリその通りに動かす必要はない)も有効だろう。
他にも、ごく短いパート(たとえばブリッジの入りだけとか)限定のコーラス(筆者はワンポイントコーラスと勝手に呼んでいる)を入れたり、コーラスやシンセのコーラストーンをパッド的に使ったり、リフレイン(通称「リフ」:何度も反復される短めのメロディのこと)を入れたり、ベースラインを裏メロ的に動かしたりと、応用の幅は広い。
各ジャンルごとに「特徴的な音の使い方」というのが必ずあるが、これを掴むには初期に活躍した人の音を聴いてみるのが一番早い。編曲のみならず、作曲や作詞や演奏のヒントにもなるだろう。
以下に、案内として音楽史的な情報を軽く紹介する。踊りを前提とする/しない、聴き手に酒が入っていると前提する/しない、歩きながら演奏する/しない、おもな演奏場所が屋内/屋外で、音楽的な特徴がかなり変わってくる。以下はいわゆる「クラシック」を除外しているためアメリカ起源のものが多いが、さらに元を辿れば西洋音楽に行き着くものがほとんどである。
各ジャンルの輸入や発展などを担った人たちにも注目しておきたい。ブルースではロバート・ジョンソン、ジョン・リー・フッカー、B.B.キング、アルバート・キング、フレディ・キング、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ライ・クーダ、ヤードバーズ、クリームなど、ロックではビートルズ、Zep、ジミ・ヘンドリックス、Jazzの人はやはり数え切れないが知名度でいうとルイ・アームストロング、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンあたりだろうか(一部ジャンルがかぶる人たちもいるが便宜上の分類ということで)。
ドミナントセブンコード(たとえばG7)の不協和音(この場合3度のB音と7度のF音がなすトライトーン)の解決について考える。
後続和音がCであれば、完全な解決ができる。3度音は上行、7度音は下行で半音反行するのが理想形ということになる。Cmでも解決できるため、7度音は全音進行でもよいことがわかる。裏ドミナントのDb7をCで解決できることから、反行さえしていれば、3度音が下行して7度音が上行する形でも構わないといえる。これを元に「強進行以外におけるトライトーンの解決感」について考察したい。
G7>Amと全音上行でマイナーコードに進むと、正規のドミナント解決(G7>C)と同じ解決が行われる。メジャーキーでVImがトニック代理になる根拠がこれだろう。後続和音がメジャーコードの場合3度音が全音上行することになるが、9thのテンションさえ乗っていなければかなりの解決感がある。9thが乗っていると、3度音が留め置かれる形になる。
G7>FまたはG7>Fmと全音下行すると7度音が留め置かれる。後続和音に長短の7thを乗せてやるとある程度の解決感を出せるが、いまひとつすっきりとしない。
G7>D7のようにドミナントセブンコードに変進行すると、トライトーン部分が半音上行で平行することになる。G7>D7>Gなどとしてやると半音進行感がより強い。後続和音に9thを乗せることで弱い解決感を出すことは可能。G7>Dmと後続和音がマイナーコードだと、7度音が留め置かれる形になる。
G7>Abのように半音上行でメジャーコードに進むと、V7>Imと同様の解決が行われる。一方G7>Ebのように長3度下行でメジャーコードに進むと、裏ドミナントをImで解決するときと同様の動きになる。それぞれ、マイナーキーにおけるV7>bVIおよびV7>IIIbと同じ動きなのだが、なかなか面倒な話である。G7>Abmのように半音上行でマイナーコードに進むと3度音が留め置かれ、G7>Ebmのように長3度下行でマイナーコードに進むと7度音の解決を後続和音の3度音に奪われる。
基本的に、トライトーンの片方が留め置かれる形だと、解決を先送りする感じになる。この後ドミナントセブンコードに戻ると(たとえばG7>F>G7など)「緊張感を蒸し返したような感じ」になることが多い。