リズムとビートについて


拍子 / 前ノリと後ノリ / 弱拍の扱い / その他 // もどる
<サンプルのMIDIファイル(SMFフォーマット1)が再生できない方はQuickTime Playerを使用してみてください>


このページに掲載したサンプルは、とくに断りがない限り、いづれも4分音符を480チックスとしたテンポ125のファイルである(都合、1チックスが1msに相当する)。

生楽器では「他の楽器の音をよく聴き、表情のある演奏をしようと心がければ自然とそうなる」はずのものでも、打ち込みでは「最初から意識して作為的に」仕込まなければならない場合が多い。

ここでは細かい話がメインになるので、実際的な制作方法などは急がば回れのドラムスベースのページを参照。サンプルファイルは一般的な音楽用のモニタ環境を前提に作成してあるため、ヘッドフォンなどを使って十分な音量で再生して欲しい。


拍子

以下、強拍を「強」、弱拍を「弱」、中強拍を「中」、休符を「休」、非常に弱い拍を「幽」と表記する個所がある。また、このページでは「強拍」を単に「アクセント拍」「もっとも強調される拍」という意味で用いる。


拍子の考え方

拍子とは何か、ということ考える前に「強拍は1小節に1回だけ」と前提条件をつけておきたい(議論の簡略化のため)。この条件の下で、1小節に出現する拍の数を合計すると拍子になる。たとえば「強弱強弱強弱強弱」というつながりがあった場合「強弱」が1小節で2拍子ということになる。この組み合わせはさほど多くなく、2~4拍子だけ考えると「強弱2拍子」「弱強2拍子」「強弱弱3拍子」「弱強弱3拍子」「弱弱強3拍子」「強弱弱弱4拍子」「弱強弱弱4拍子」「弱弱強弱4拍子」「弱弱弱強4拍子」の9通りしかない。

やや強い中強拍を入れて「強弱中弱4拍子」や「弱中弱強4拍子」なども作れる(他にもパターンはありえるが省略)。この中強拍という概念はけっこう面倒なのだが、ここでは単に「やや強調される拍」だと思っておけばよい。変拍子や複合拍子の「パーツの区切れ」として出てくる。今挙げたパターン(オマケつき)をMIDIファイルにしたものも一応用意した。

「弱強弱強4拍子」のような形はありえないのかという疑問が出てくるが、ここでは、冒頭で述べた「強拍は1小節に1回だけ」という原則に従って(たとえ強さにあまり差がなくても)「弱中弱強4拍子」「弱強弱中4拍子」のいづれかに解釈する(ただし、弱強の繰り返しだけでひとまとまり(つまり小節)をなしている場合は「弱強2拍子」)。ちなみに「四拍子」を「しびょうし」と読むのはクラシックの用法で、この場合暗黙に1拍めにアクセントがあるパターン、とくに強弱中弱4拍子を指す(ことが多い)。


音価の問題

拍子を表現する際に「~分の~拍子」という言い方をすることが多いが「~分の」の部分は1拍の音価(音符の長さ)を示している。たとえば「2分の2拍子」ならば「1拍が2分音符の2拍子」だし「4分の2拍子」ならば「1拍が4分音符の2拍子」になる。

音価がいくつであるかは表記上の利便性のみに影響し、理論的には、2分の2拍子を速く演奏したのと4分の2拍子をゆっくり演奏したのは同じ結果になる。慣例上「パートの中心になる音価」を「~分の」の部分に記入することが多く、たとえば「4分の4拍子」なら「4分音符を基本とした4拍子の曲である」ことを示す。

また、とくにシーケンサのピアノロールで打ち込みをする場合に、1小節に大量の音符が存在すると、32分音符や64分音符が頻出して作業効率が落ちることがある。この場合、たとえばもともと4分の4拍子だったものを2分の4拍子にしてテンポ(BPM)を2倍にすれば、比較的大きいチックス数で扱える。


複数の解釈がありえる場合

まずはサンプルファイルを再生してみて欲しい。これが何拍子であるかを考えると、複数の候補が出てくる。

1つは、弱い音を装飾音と考えて「弱中弱強4拍子」と解釈する案で、各拍の最後に装飾音が入ってハネた形になる。弱い音と直前の音をひとまとめにして「タッカ・タッカ・タッカ・タッカ」と考えるわけである(太字はアクセント、タッカ1つで4分音符相当:4分の4拍子になる)。

もう1つは、非常に弱い音も拍に数えて「弱休幽中休幽弱休幽強休幽12拍子」とする案である(12拍子は、4拍子の各拍子を3分割したものと解釈される)。カタカナで書くとしたら「タンタタンタタンタタンタ」もしくは「タウタタウタタウタウタ」といった感じだろうか(タンは4分音符、タは8分音符、ウは8分休符:8分の12拍子になる)。

最終的に出てくる音は(少なくともMIDIの場合)同じなのだが、跳ねているのか休符なのかという意識は、アレンジはもちろん演奏にもある程度の影響をおよぼす。4拍子であることを強調したアレンジと12拍子であることを強調したアレンジをMIDIファイルにしてみた(ドラムのパターンは同じでベースだけが異なる)。


アクセントは本当に1箇所か

「強拍は1小節に1回だけ」という前提でさんざん話を進めておいてなんだが、パート単位で見るとこの構造にねじれが出る場合もある。

たとえばドラムスが「弱強弱中(または弱中弱強)4拍子」でベースが「強弱弱弱(または強弱中弱)4拍子」などという構成(初期のTotoがよくやったパターンで、筆者がMIDI打ちする場合もよく使う)だと、ドラムスとベースのアクセント位置がずれることになる。

この場合、ドラムスとベースを合わせたリズムパート全体では(スネアドラムの影響力が大きいため)中強弱中4拍子くらいに聴こえることが多いが、奇数拍ではドラムスが引っ込んでベースが前に、偶数拍ではベースが引っ込んでドラムスが前に、という動きを繰り返すことになる。

つまり、ドラムスのアクセントと、ベースのアクセントと、ドラムスとベースを合わせたアクセントがあって、さらには上モノ(鍵盤やギターやヴォーカルなど)にもそれぞれのアクセントが加わり、それがすべて影響しあって曲全体のアクセントを決めるわけである。それだけでなく、たとえば同じドラムスの中でも、ハイハットを1拍目アクセントで刻んでスネアを3拍目アクセントで叩くようなことが可能である。

必ずしも全パートが同じアクセントでプレイしなければならない理由はないということに、十分注意して欲しい(あまりバラバラにしてもキモチワルイだろうが)。


前ノリと後ノリ

弱中弱強の4分の4拍子で、表拍バスドラム裏拍スネアドラムのいわゆる2・4ビートを例に取り上げる(表拍/裏拍は、とりあえず、奇数拍/偶数拍と同義だと考えて差し支えない)。

譜記が変わるくらいのタイミングの移動(4分音符とか8分音符とか)ではなく、譜記で表現できない(しない)くらいのごくわずかなタイミングの移動をとりあげる。まれに、奇数拍アクセントを前ノリ/偶数拍アクセントを後ノリと呼んだり、クリックに対して前で合わせるか後ろで合わせるかを指したりするが、ここではそのような用法は無視する。

余談:前ノリと後ノリのコントロール、ないしビート位置の(ごくわずかな)移動は、ポピュラー系のリズム楽器(機械的な繰り返しを強調する目的の打ち込みや、生楽器でそれを模した場合を除く)の基本的な演奏技術なのだが、これについて変な懐疑論があるようだ。ポピュラー音楽の演奏する人はもちろん知っているだろうし、一般的媒体での情報もそう少ないわけではない(20年以上も前に「タモリ音楽研究所」という番組でRXが実演してたのとかあるし)と思うのだが、どういうことなのだろう?


小節内の前後と楽器間の前後

前ノリ/後ノリは「相対的な前後関係」を示す表現なのだが「何と比べて何が前(後)なのか」という部分がきちんと説明されないことが多い(自明なのでわざわざ言わない場合もあれば、言っている本人も把握できていない場合もある)。

まず「小節内でアクセントの拍が」前後したサンプルファイルを用意した。順に、ジャストタイミング、裏拍のスネアのみ15チックス(128分音符相当)遅い、裏拍のスネアのみ15チックス早い、裏拍のスネアのみ30チックス(64分音符相当)遅い演奏になっている。

アクセントの拍が遅れるとリズムに粘りが出るのがわかると思う(「タメる」とか「タメを作る」と表現される:意図的でなくミスで遅れてしまった場合は「モタる」と言うことが多い)。早い場合は軽い感じになるはず(意図的であるかないかに関わらず「突っ込む」とか「ハシる」と表現される:実用上の効果としては、テンポを変えずに体感速度だけを上げられる)。ドラムスについて前ノリ/後ノリという場合はこの「アクセント拍の位置」を指していることが多い(多いだけ)。実際の演奏では常に同じアクセント位置で演奏するとは限らず、またアクセント拍の音に限定することなく、タメたりハシったりを適宜使い分けることになる(これを「ビートを動かす」「ビート位置を変える」などと表現することがある)。

「ドラムスの演奏に対してベースの演奏が」前後したサンプルファイルも用意した。順に、ドラムスとベースが同時、ベースの方が8チックス(256分音符相当)遅い、ベースの方が8チックス早い、ベースの方が15チックス(128分音符相当)遅い演奏になっている。次に紹介するサンプルと違い、すべての拍で同じだけ(=平行に)タイミングが前後している。

ノリがどうこうという問題よりも、各拍の音色(というかアタック感)への影響が大きいのがわかるだろう。とくに打ち込みでは、ドラムとベースは2つで1つの音色だと考えた方がよいと思う。大まかな傾向として、ベースが前に出ると緊張した感じ、後ろに下がると安定した感じになるはずである(大きく下がる場合はアタックを殺した方が無難なのだが、ここではベタ打ちにしている)。

なお、楽器間のタイミングを考える場合、ドラムスのタイミングを基本に、それより早いか遅いかを考えるとよいと思う(ドラムスが入らない曲ではベース、ベースも入らなければ一番低い音が出るリズム楽器を基準にすればよい)。Jazzなどではベースがドラムスの上に乗ったりドラムスがベースの上に乗ったりして流動的だが、ポップスやロックならドラムスの上にベースという考えで概ね問題ない(ここでいう「上下」は音域の問題ではなく、どちらをタイミングの基準として扱うかという話なので注意)。


ドラムスとベースでタイミングを変える

まず「ドラムスとベースが揃って」前後したサンプルファイルを用意した。順に、ジャストタイミング、裏拍のみ15チックス(128分音符相当)遅い、裏拍のみ15チックス早い演奏になっている。これがいわゆる「息が合った(ノリが合った)演奏」になる。

それに対し「ドラムスはジャストタイミングをキープしてベースのみ」前後したサンプルファイルと「ベースはジャストタイミングをキープしてドラムスのみ」前後したサンプルファイルも用意した。片方がジャストタイミングをキープしているとリズム感はさほど変わらないため、やはり音色や雰囲気の変化として捉えた方がよいのかもしれない。

片方を少し遅らせてもう片方をそれよりも大きく遅らせる、などといったやり方ももちろん可能で、大きなうねりを作りたい場合に便利である。ジャストタイミング、ベースが15チックス/ドラムスが30チックス遅い、ベースが30チックス/ドラムスが15チックス遅い演奏のサンプルファイルを用意したが、これまでに掲載した30チックスずらしのサンプルと比べてかなり自然に聴こえると思う(後述のフラムを複数の奏者が協力して作っていることになる)。

ここでは裏拍のアクセントのみ変化させているが、ほかの拍を同様に変化させることももちろん可能(全体的に遅らせることをレイドバックと呼ぶことがある:英語で「仰向けに寝る」という意味で、ゆったり演奏するという意図)。もちろん「コード楽器との前後」を加味してやることも可能(とりとめがなくなるのでここではやっていないが)。


ドラムスのパート内でタイミングを変える

ドラムスは複数の楽器からなるパートなので、内部のタイミングをずらすこともできる。筆者がよくやるのは「ハイハットの刻みはジャストタイミングでバスドラムやスネアだけを前後させる」というパターンである。もちろん「ハイハットも動かすが、小さい幅にする」という手もあるし、全部同様に動かしてもよい。

音のタイミングをずらして「ダラッ」という響きを得ること(本来的には通常の拍の直前に弱い音を置くこと)を、ルーディメンツというスネアドラム教則の奏法にちなんで「フラム(flam)にする」と呼ぶ。広義のフラムはスネアに限らずシンバルなどでも普通に使い、前の音と後ろの音の大きさがあまり変わらないこともあれば、ハットペダルとクラッシュのずらし打ちやバスドラとスネアのずらし打ちなど違う楽器を使う場合もある。

アクセント拍自体を前に出すのではなく弱い音を先行させることで、突っ込んだ感じと引っ張った(またはジャストの)感じを同時に出せる面白い奏法である(ルーディメンツはドラムスの基本中の基本なので、決して特殊奏法というわけではない)。なお「ダララッ」という響きのラフ(ruff:弱い音が2発以上入る奏法だが、普通単に「ラフ」と言えば弱い音2発+強い音1発の「3ストロークラフ」を指す)という奏法もあるのだが、何故か「ラフにする」とはあまり言わない。


複数の楽器を協調させる

リズム隊の主役はなんといってもドラムスとベースである(俗に「下」とか「ベーストラック」などと呼ばれる:コード楽器やメロディ楽器は「上モノ」)。ドラムスの刻みシンバル(ハイハットまたはライドシンバルを使うことがほとんど)は時間分割の細かさや明確さに強い影響を与え、単体での表情出しも重要なパート。スネアドラムは「表向きのアクセント」を決めるのに使える。バスドラムは小節の頭に置いて(あるいは置かないで)区切れ感とアタマの重さ(後述)のコントロールに使うほか、頭以外でニュアンス出しに参加する。ベースは役割が非常に多彩で、単独でリズム隊を主導したり、上モノとドラムスのつなぎ役をやったり、ドラムスとのコンビネーションで変化を出したり、どこにでも顔を出す存在である。

コード楽器も果たす役割は大きい。ピアノやアコギなどの打弦/撥弦楽器はアタック時の音色がタイコ系打楽器に類似しているので、ドラムス(とくにスネア)との絡みを大切にしたい。エレキギターとエレキベースの絡み(ユニゾンで動いたり「ベース=ギターの7弦」になるように動いたり)にも独特なものがある。メインメロディ担当の楽器(もしくはヴォーカル)は、ドラムスよりやや前に出るとしっくりくることが多いようだ。エンベロープで言うと、リズム隊のアタックポイントと、メロディのディケイタイムの終わり(=「音程が出る」タイミング)が一致する感じだろうか。

ピアノ(というか鍵盤楽器全般)は多数の音をほぼ同時にアタックさせられるかなり珍しい楽器で、独特のガツンとしたアクセント感を出せる(その分アクが強いともいえる)。筆者はこれを「アタマの重さ」と呼んでおり、急がば回れの鍵盤のページに打ち込みパターンをいくつか示している。音域が広いので(主に左手で)ベースを担当することもあるし、高音域のフィル的な音は大胆なずらしをやりやすく、ミスタッチ風に嘘臭いタイミングで妙な音を入れることもできる。ミュート(というか音価のコントロールとペダルワーク)ももちろん重要。

ギターには「ストローク」という奏法(というほど大げさなものではないが、ようするに弦を上からまたは下から順に「じゃらーん」と鳴らすこと:ラフやフラム同様、複数の音がずれたタイミングで出てくる)があり、これがまた面白い。たとえば、最初の弦から最後の弦までのどこを基準の楽器(たとえばハイハット)に合わせるかとか、反対に、点から線になったアタックタイミングのうちどこに他の楽器を合わせるかとか、ミュート弦が入る場合にアタックタイミングの幅(最初の弦から最後の弦までの時間的な間隔)が狭くなるのをどう扱うかなど、興味深いポイントが豊富である。

抽象的な説明が長くなったが、その他の項に打ち込みサンプルも用意したので参照してみて欲しい。


実際に使用する値

筆者がJeff Porcaroのドラムを解析してみた結果、最大5ms程度の誤差があった(刻みシンバル以外だとこのレベルの誤差は普通の人間には知覚できず、いわゆる「ジャストタイミング」に聴こえる)。テンポ115の曲(BossのHuman Touch:1992年録音)で、クリックをモニタしていたかどうかは不明だが50小節で250ms程度の誤差があった。

アクセント拍の意図的なハシりモタりについてはおそらく16ms(128分音符)程度で表現されており、聴覚上「タイミングは同じはずなのにノリが変わる」のがこのくらいの値なのだと思われる。上記のサンプルファイルでもわかるが、テンポ125でも64分音符程度の変化だとかなりはっきり知覚できる。サンプルには含めていないが、32分音符だと明らかにタイミングを外した音になる(メロディ楽器など「上の方に乗っている楽器」は、曲全体を通してだと厳しいが、曲により部分的に32分音符くらい遅らせて違和感を出すとハマることもある)。

ということで、128分音符と64分音符(テンポや拍子やパートによっては、32分音符、3連64分音符、256分音符、付点128分音符なども)を基本に打ち込みをしていくとよいのだろう。一般に、タイミングを遅らせる場合の方が大きな変化でも違和感につながりにくい。32分音符~128分音符くらいのタイムは、打ち込みのページで触れる音価(音符の長さ)の調整にも多用するので、細かな打ち込みでは比較的重要な数字である。

言うまでもないことだが、ハシりやモタりは曲中で変化させることもあり得る。最初は控えめでだんだん大げさにモタらせるとか、最初は裏拍を両方ハシらせて途中からアクセント拍のみにするとか、前半はベースがモタってドラムスがジャストなのを後半はベースがジャストでドラムスがモタりに入れ替えるとか、さまざまな変化が考えられる。もちろん、常に一定のハシり/モタりをキープしても差し支えない。

生演奏ではモニタ環境を考慮する必要がある。モニタスピーカを置かず生音でモニタする場合、ベースプレイヤーどドラムスプレイヤーの距離が十分近いことが望ましい。上記で「ドラムスとベースが8チックス(本来の意図としては7.5ms)前後した例」を挙げたが、音速を340m/sとすると7.5msの間に音波が進める距離は2.55mである。ポピュラーミュージックの場合まだマシだが、ビッグバンドやオーケストラなどになると、この誤差はとんでもなく効いてくる(そのため普通は指揮者を置いてタイミングの基準を作る:モニタシステムを使わない大規模編成において、バンド全体のタイミングや音色のバランスを正確に把握し得るのは指揮者だけである)。

なおMIDIの分解能は全音符=1920(128分音符と3連256分音符を正確に表現でき、16分音符のチックス数は1の位が0になる:4分音符=480、64分音符=30、128分音符=15チックスになる)が多く、これだと9連符(長さに関わらず)や256分音符や付点128分音符は正確に表現できない(テンポ62.5でも最大誤差1msなので実際的な不都合はほぼないが)。分解能3840なら、256分音符と付点128分音符は正確に表現できる。


弱拍の扱い

MIDIの場合音源ごと楽器ごとにベロシティ(強弱)の表現が違うため意図どおりに演奏されないことも多く、録音してから公開した方がよい場合もある。


タイムのコントロール

弱拍のタイミングをずらすと、ずらした拍だけでなく、前後(とくに直後)の強拍や中強拍に影響を与える。サンプルファイルを聴いてみよう。順に、ジャストタイミング、3拍めのバスドラのみ15チックス(128分音符相当)遅い、3拍めのバスドラのみ15チックス早い、3拍めのバスドラのみ30チックス(64分音符相当)遅い演奏になっている。3拍めのバスドラを後ろにズラすと4拍めのスネア(アクセント拍)に軽さが、前にズラすと4拍めのスネアに粘りが感じられないだろうか。

上記を認めると、アクセントの直前を前に動かすとアクセントを後ろに動かしたのと似たような効果が、アクセントの直前を後ろに動かすとアクセントを前に動かしたのと似たような効果が生じていることになる。これは「3拍めと4拍めの間隔(=タイム)が長いか短いか」ということが「4拍めのタメや突っ込みの感覚」に影響しているということである。もちろん、動かした拍自体のタメや突っ込みもノリに影響するが、強拍や中強拍を動かしたときよりはインパクトが弱い(同様に、たとえばアクセント拍を動かしたときにも、周辺の弱拍にいくらか影響をおよぼしている)。

つまり弱拍のタイミングを動かすと、動かした拍のタイミングでもある程度ノリを出しつつ、強拍や中強拍のノリをコントロールできるということである。弱拍>強拍のつながりを利用すると、「ちょっとモタり>かなりモタり」でじわっと動かしたり、「ちょっとハシり>ちょっとモタり」でジャストタイミングから大きく外れずに大きな動きを出したりできる。またたとえば、弱拍>強拍>弱拍>中強拍のつながりで「微妙にハシり>ちょっとモタり>微妙にモタり>ジャスト」と動かして、小さな動きで大きめの変化をつけつつな緩やかに元に戻すような案もある。

強拍や中強拍だけ動かすのと比べて難易度は高いが、覚えておいて損のない技術だろう。


ドラムスのゴーストノート

ゴーストノート(ghost note)とは非常に弱い音のことで、聴こえるか聴こえないかくらいの音量のものを指す。もともとバーナードパーディが「指ドラムやってたら楽しくなっちゃった」という理由で始めたものらしく、明確な定義もなければ装飾音(grace note/ornament)との線引きも曖昧である。とりあえず「まとまったパターンを構成するごく弱い音」だと思っておけばだいたい問題ない。

ゴーストなし、スネアのゴースト、バスドラムのゴースト、ハイハットのゴースト、の順に並べたサンプルファイル(環境によってはゴーストがまったく聴こえない恐れがあるので、やや大げさに入れてある:あまり小さいボリュームで再生するとゴーストがまったく聴こえないし、あまり大きいボリュームだと普通の音符と変わらなくなってしまうので、聴こえるような聴こえないような気がする程度に調整して欲しい)を用意したが、ゴーストが入ると「普通の4分打ちのはずなのになぜかシャッフルっぽい」妙な感じになる。

人間の脳は聴き取りにくい音をより鮮明に受け取ろうとするため、ゴーストが入っていない部分でもなんとなく「そこに音があるような」印象になるのがわかるだろうか。同じ強さでただ叩いた場合と比べて、聴き手の側に「音を探ろうとする動き」が生まれるため、より「演奏に引き込まれやすくなる」効果が生まれる。また、休符を印象付けるためにあえてかすかな音を出す(というか、休符の存在と位置をアピールする)用法もある。

冒頭に挙げたスネアの指ゴースト(クローズリムショットと併用する前提)、ハイハットのペダルゴースト、ブラシタップなど、単純にごく弱く叩く以外の演奏方法もよく用いられる。

余談になるが、筆者は、ジャズドラムの演奏で「何の変哲もない4分打ちに2~3小節に1回くらいのゴーストを乗せただけでシャッフル/スイングしてしまう」という荒業を体験したことがある(残念ながら、出先でたまたま聴いたので曲やプレイヤーの名前はわからなかった:多分ロスのミュージシャンだと思う)。


ベースのゴーストノート

ベースは低音楽器なので、小音量再生時にゴーストが消えやすく大音量再生時に目立ちやすい(バスドラムにも同じことが言えるが、バスドラのゴーストでは「ドン」という通常の音色ではなく「パ」という高音成分をおもに利用する)。また、低音域で余計な音を伸ばすと全体が濁って聴こえるデメリットもある。

キツめのミュート弾き(左手ミュートやブリッジミュートなど)をゴースト的に使うこともあるが、とくにエレキベースでは「ごく短い音」を使うことが多い。奏法的には非常に多くのやり方があり、たとえば指orピックを弦にトンと当て押し付けると「トッ」というパーカッシブな音が出る(アタックの瞬間の高音成分を活用するという意味では、バスドラのときと発想が共通する部分もある)。打ち込みの場合、専用の音色があるならそれを使い、なければごく短い音符(やはり64~256分音符くらい)を入れるのがよいだろうか。

弱いサムピングで「ビッ」という音を出すやり方も好まれるし、人差し指でピッキングした直後に中指でミュートする(というか、2本の指を平行に動かす感じ)方法もあれば、ハンマリング>ミュートと素早く移行しても面白いし、指弾きでピックミュートのような音を出したいならピッキングした指の爪で弦に触れる案もある。

一般的な意味のゴーストからはちょっと離れるが、ごく短い音を出すということは「ミュートまでが一連の動作になっている」ということであり、音を普通に出した後のミュートを強調する形もありえる。上記の動作を「ピッキング後音がまだ残っている弦」に対して行えば、ミュート際に微妙な音を入れられる。

ミュート際の強調とゴーストを打ち込みで簡易に表現したサンプルファイルを掲載しておく。ファイルでは機械的に作業しているが、自然な感じにするためには「どの音をどうやって弾いているのか」明確にイメージできないと難しい(という事情については急がば回れの打ち込みとMIDIのページにも書いた)。ムキになって生楽器っぽさを追求するよりは、表現方法の1つとして覚えておく方が無難かもしれない。


休符を演奏する

すでに紹介したゴーストの効果とも似ているが、休符を演奏する意識も大切である。16ビートとシャッフルを、それぞれベタ打ちと休符ありで演奏したサンプルファイルを用意したが、必ずしもすべての拍を音で埋める必要がないことがわかる。普通の弱拍、ゴースト、休符を上手く使い分けたい。

サンプルではドラムスのみを取り上げているが、もちろんベースでも休符の演奏は重要であり、任意の音を伸ばして拍をつなげたりサステインの消え方をコントロールしたりミュート際を強調したりできる分ドラムスよりも広い範囲で音を探らなければならない。

話が前後するが、ベースやハイハットオープンについてはミュートのタイミングも重要で、音を止めるタイミングを意識することで表現の幅がかなり広がる。

ハイハットはペダルミュートできるからいいとして、ベースの場合ミュートの方法が問題になるが、左手の指をフレットから浮かせてミュートしたり、右掌の手首に近い部分で弦を押さえたり(パームミュート:エレキギターで多用される)、右手の指またはピックでミュートしたりと、方法によって演奏のノリやサステインの残り方が変わる。

ドラムスの場合、ライドシンバルを右スティックで叩きながら左手でシンバルに触れてミュートする人もいる(楽器に汗がつくので、これをやったあとは必ずシンバルを拭いておくこと)。


注意点

冒頭にも書いたが、MIDIの場合音源や楽器によって強弱表現が違うので、意図と違った演奏になってしまうことが多い。

録音ファイルを再生する場合も、ボリュームによってはゴーストが消えてしまったり、変に目立ってしまうことがある。これは再生環境を決め打ちできない以上ある程度仕方ない。また、密閉型のヘッドフォンで再生すると、ノイズが遮られる分ゴーストが聴き取りやすくなることが多い。

とくにハイハットの音は、小音量で再生すると消えやすく、大音量で再生すると過剰に耳につく傾向があり、扱いがやっかいである(音声加工関連のページで何度か触れている)。バスドラムなどの低音も、小音量で再生すると知覚可能なレベルを下回ってしまうことがある。

加工時にコンプレッサーをかけすぎると音のバランスが変わってしまうことが多い。エキスパンダーやゲートでゴーストが潰れてしまう可能性もあるので、それにも注意したい(この辺りは試行錯誤と慣れしかないのだと思う)。


その他

サンプルと知識的な補足。MIDIのソフトウェア再生では細かなタイミングもずれやすいので、微妙なタイミングまで聞き取りたい人は、信頼できるタイマーを搭載したハードウェア音源で再生するか、Timidity++のようなソフトでいったんwavに変換するとよい。

打ち込みサンプル

ここまでは単品の説明ばかりだったので、もう少し複合的な例を(Domino用ファイルを含めたサンプルファイル詰め合わせ:標準MIDIファイルの方は、小節単位でシークしたときに音が濁らないよう、holdのOFFを小節の頭に合わせて調整してある)。テンポは106、ある程度大き目の音量で再生しないとハットがなにをやっているかわかりにくいと思う。

たとえばドラムス+ベース+アコギの3ピースでこんなベタ打ち(ミュート弦の設定とベロシティの調整だけある程度やってある)をやったとしよう。これではちょっとあんまりなのでもう少しそれっぽく、ギターをストローク風にしつつずらしを入れてやったところこんな感じになった。

タイムの基準はハットで小節頭のバスドラもジャストタイミング、遅めのストロークでアタックタイミングの幅を大きく広げて、ベースは先導役としてギターより前に、スネアのリムショットで表向きのアクセントをつけつつ軽くモタらせ、小節の頭以外のバスドラはベースに付き合ってややハシる、といった感じ。

ここからさらに、ここまで紹介したいろいろな要素をゴリゴリ盛り込んでイジりまくったうえベロシティなどを微調整したところこんな感じになった(生楽器風の演奏を目指すならアコギはもう少し手を入れるべきで、左手の移動が大きいコードチェンジの個所で微妙にモタらせるとか、コードチェンジしても開放弦のままの場合(たとえばG>Dのときの4弦とか)はミュートしないとか、ミュート弦の隣の弦の扱い(たとえばローコードのCなら、5弦は弱めに当てるのか、6弦をかすかにミュート弾きしつつ強めに当てるのか)など考慮すべき点は多いし、ベースやドラムスにも修正が必要な点があるが、このページの目的からは逸れるので省略した)。最初は「ハットがよく聴こえるように」意識して、その後注目ポイントを他の楽器に移しながら聴いてみるとよいだろう。

ギター位置の基準をトップノート(一番高い音=1弦の音)にしてさらに前後を調整したり、ベースを先導役(ギターの一瞬前に鳴らして7弦っぽく振舞う)から仲介役(ギターの最初の弦とドラムスの間に入ってギターの前後移動を助ける)にしたり、ドラムスのゴーストをもう少し目立たせて16ビート風味を強くしたり、その他細かい調整をいろいろ入れてある。上モノに注意して聴いたときと、下の楽器に注意して聴いたときで印象がかなり変わるはずである(もちろん、前者を優先して調整してある)。もちろん、こんな全部盛りのずらしは曲中でずっとやるようなものではなく、下準備を重ねた上でどーんとかましたり、下準備をあえてせずいきなりぶつけた後知らんぷりをしたりといった構成上の工夫が必要になる(ずらした演奏の中に1箇所だけユニゾンジャストなビートがあったりすると、ある種の解決感が出て印象が深まる)。

ギター(上モノ)に対するベースとドラム(ベーストラック)の関係について、ここまでの説明と食い違う印象を持った人もいるかもしれないが、ベーストラックがリズムの大枠を決めるという認識は間違っていない。ただ、その枠を決める際に「上モノの要請」を考慮する必要があるだけで、こんな演奏にしたい(上モノの要請)>こんな枠を作った(ベーストラックの応答)>じゃあこう演奏する(最終的な上モノの動き)と「意図が往復する形」になっている(生演奏の場合ここまで単純な話ではないが、基本はだいたい同じ)。

なお、ベースの動きには音程との関連(安定する響きの音程と不安定な響きの音程で、タイミングのずれやベロシティの変化に対する印象が変わるし、オクターブの選択でもかなり違った感じになる)もあるので注意が必要。

ウラ打ちの解決

あるノートを半分に分割したとき、前半をオモテ、後半をウラと呼ぶことが多い。たとえば4拍子を2分割した8ビート(ベタ打ちを想定)では、ハットが8回鳴るうちの奇数回がオモテで偶数回がウラになる(さらに分割して16ビートにすると、オモテのオモテ、オモテのウラ、ウラのオモテ、ウラのウラという並びになる)。

ウラ打ち(強調されたウラのノート)はある種の解決を要求する。このサンプル(テンポ120)はウラ打ちのタムでフィルを入れたものだが、ウラ打ち>ウラ打ちが未解決感、ウラ打ち>オモテ打ちが解決感を演出し得ることがわかるだろうか(強調のためバスドラでサポートしている)。これを認めるなら、ウラ打ちはオモテ打ちへの解決を要求するノート、つまりオモテ打ちにアプローチするノートだと言える。さらに拡張して基本のリズムがシンコペ系(ウラを強調するリズム)の場合を考えると、ノートではなくリズムパターンが解決を要求することも想定できる(コードの解決とモードの解決の関係に似ている)。

この考え方を用いると、フィルインなどの構成に役立つが、具体的な活用法は急がば回れのドラムスのページに譲る。

ハーフタイムとダブルタイム

かなり面倒な話なのだが、まず「タイム」の基準について触れたい。たとえばテンポ120のこのサンプルでは、ハイハットは4分音符を刻んでいるので「ハイハット1発あたりのタイムは0.5秒」という表現は間違っていない。一方、同じくテンポ120のこのサンプルでも、同じく0.5秒間隔でハイハットが演奏されている。絶対的な時間を基準にするとどちらも「タイムは0.5秒」に違いないのだが、「バスドラムのタイムを基準にして何倍か」ということを考えると、後者はタイムが半分になっている。前ノリ/後ノリの項で「何と比べて何が前(後)なのか」ということに注目したが、ここでも、タイムの基準がどこにあるのかということを忘れないようにして欲しい。

では、実際にタイムが異なるパターンを聴いてみよう。テンポ100のサンプルを用意した。普通の8ビート、ハーフタイムの8ビート、ダブルタイムの8ビート、普通のシャッフル、ハーフタイムのシャッフルの順に演奏される(ダブルタイム8ビートはバスドラが増えたので、後半はスネアと入れ替えたパターンにしてある)。ノーマル8ビートでは「スネアとバスドラの間が2分割」なのに対し、ハーフタイム8ビートでは「バスドラとスネアの間が4分割」と、(相対的な)タイムが半分になっていることがわかるだろうか。基準となる「バスドラとスネアの(絶対的な)タイム」が一定になるようテンポを調整するとこのようになる。

話がこれだけならよいのだが、「ハーフタイム8ビートと16ビートはどう違うのか」ということについても考えてみたい。実際にはかなり曖昧な捉え方がされており、たとえば「ハーフタイムシャッフル」と「16ビートシャッフル」をまったく同じ意味で使う人も多い(その方が便利な場合もある)。しかし、あえて分けて考えるとしたら、結局はビートの定義(和製英語で「ビート」と言ってしまうから紛らわしいが、結局「何分音符か」=「1小節に何回刻むか」という問題)に戻ることになる。

理屈だけで考えるとなかなか厄介な問題ではあるのだが、たとえばこのハーフタイム8ビートダブルタイム8ビートの演奏について、前者を「遅い16ビート」だとか後者を「速い4ビート」だとかいう解釈には、ちょっと無理がないだろうか(ダブルタイムのサンプルが妙に長いのは、昔ダブルタイムの打ち込みをやってみようと思って試作したものをそのまま流用したから)。

ただし例外もあり、たとえば「16ビートシャッフル」について同様に考えるとこんな感じの「3連16分音符刻みの」リズム(「普通のシャッフルにウラ打ちを入れる」or「単純にハットだけ倍速にする」ことで作れる)を指しそうに思える(というか、筆者としてはそのように呼びたい)が、すでに触れたように、実際の用語には混乱がある。

あまりムキになって区別する必要はないが、「そういうことがあるのだな」くらいの意識で頭の片隅にでも置いておけば、何かの役に立つことがあるかもしれない。

強弱表現の落とし穴

落とし穴、というほど大げさな話ではないのだが、同じベロシティでベタ打ちしたからといって音量感が同じになるわけではない、ということには一応の注意が必要である。とくにハイハットは「埋もれやすい」性質があるので、周囲の音(なかでもスネアドラムやアコギの影響が強い)を考慮してベロシティを決める。

たとえばハイハットクローズをベロシティ50固定でベタ打ちしたこのサンプル(ハットだけに注意して聴くとよい)だが、バスドラムとスネアドラムが入ると途端に「同じ音量感とはとてもいえない」状況になるのがわかるだろう。ハットについて言えば、弱拍の扱いの項で触れたように、再生音量の影響も受けやすいのでなおさら注意が必要である。

ただしこのような影響は、使用する音源やミキシングのバランスや再生する環境などによって大きく出方が変わってくるので、打ち込みの段階で「完成形の音」が出ている必要はない(余談になるが、アタマのハットが消えてウラ打ちのようになったミックスを平気で出してくるエンジニアがいるのは、非常に嘆かわしいことである:中には狙ってやっている人もいるのだろうが、明らかにノリの出し方がわかっていなさそうな人もいる)。

テヌートとスタッカート

音を保つ意味のtenuto(ten.)と区切る意味のstaccato(stacc.)は厳密には反対の意味ではないのだが、ここではあまり気にしないことにする。ちなみに、滑らかな演奏を意味するレガート(legato)もテヌートに似た用語だが、こちらは(1つ1つの音ではなく)「パートの演奏」を対象にして言う。

本題に入る前に、エンベロープ(音量の経時変化)について確認しなければならない。

縦軸が音量、横軸が時間。もしピアノであれば、アタックの左端で鍵盤を押し、サステインとリリースの境目で鍵盤を戻していることになる。ここで重要なのはリリースの部分で、どんな楽器でも(室内の反響音もあるため、無響室と高性能スピーカを使って電子楽器を鳴らすのでもない限り)音が「一瞬で消える」ことはない。

テヌートとスタッカートを大雑把に捉えると、両者の違いは「音量の閾値」である。つまり、テヌートでは音価が示すタイムの間「十分大きな音量」を維持しなければならず、反対にスタッカートでは音価が示すタイムの前後(=次の音との間)に「十分小さな音量」まで落とさなければならない。図にするとこのようになる。



ピアノを想定し「鍵盤を」と表記しているが、たとえばエレキベースなら「ピッキングからミュートまでの時間」などと読み替えて差し支えない。またミュート方法が複数ある場合、たとえばスタッカートはピックミュートでテヌートはパームミュート(ブリッジミュート)などといった演奏も可能。

ドラムスの連打

当たり前の話だが、生ドラムでは、速く連打すればするほど音は小さくなるし、大きな音ほど速い連打がしにくい。また連打の途中に大きな音(=アクセント)が入る場合はその音が遅れがちになる。アクセントスネアのモタりハシりなどとはまた違った意味で、これが演奏上の特色になることがある。

顕著なのはハイハットで16ビートを刻むときで、たとえばテンポ80の16ビート両手刻みがあったとしよう。これを片手刻みでやると、どうしても強いハットが遅れる。遅れるのだが、スネアやバスドラなど他の楽器は遅れた強ハットに合わせることが多く、結局弱ハットがやや前に出た格好になる。サンプルではわかりやすいよう遅いテンポで大きくズラしており幅も一定だが、実際には、256分音符くらいで次の音符が強いときほど前に出せばよい(4分音符=480チックスだと4~8チックスくらい、たまに2とか10とか)かな、といったところか。

Jeffあたりは前者のイーブン(均等)なノリがあまり好きでないらしく「堅苦しい響き」などと表現することもあるが結局は使い方次第で、たとえば前者ならこんな感じ、後者ならこんな感じの変化がやりやすいだろう。ハイハットクローズ>ハイハットペダルのつなぎも変わった音になるのだが、打ち込みだと表現が難しい(やはり間隔が狭いと大きな音は出せないが、叩きながらペダルを上げるハーフオープンや叩いた後でペダルを緩めるハーフオープンなどでちょっと事情が変わる)。

一応断っておくが、上記は「不正確」な演奏ではないことに注意して欲しい。前ノリ/後ノリの話にしてもそうだが、強弱に変化をつけただけで演奏が不正確になるわけでないのと同様、時間軸で変化をつけても(しっかりとコントロールされている限り)それだけで不正確な演奏になるわけではない。Jazzをやるドラマーに「小節頭~次小節頭のタイムの正確さ」を重視する人が多いのも「繰り返す部分と揺らがせる部分」の配分を意識してのことだろう。

なおハットの音色自体は、右スティックで叩いても左スティックで叩いてもほぼ同じ音が出る(もし出なかったとしたら単なる練習不足かマイキングのミス)。ただし、右スティックは浅い角度、左スティックは深い角度で当てるなど叩き方自体を変えて音色に変化を出すことはできる(とくにレギュラーグリップでの演奏中に一時的に両手叩きをやる場合などは、左スティックをチップ打ち(ピン音)にすると音色が大きく変わる:ある程度の制限はあるが、片手でもショルダー打ちとチップ打ちの交互連打は普通にできる)。

余談だが、スネアをレギュラーグリップで叩く場合にドラムを「横に」傾ける人もいる(ドラムセットではあまりやらないがこの方がスネア本来のセッティングに近い、というかレギュラーグリップ自体スネアが傾いている前提で発達した技術:スネア単品をスタンドで立ててレギュラーグリップで叩く場合は傾ける人の方が多いと思う)。マッチドグリップの場合は細かいことを考えなくてもほぼ問題ない。

もっと長いスコープでのリズム

他のページでも繰り返しているが、リズムというのは繰り返しが生むもので、曲の中で何を繰り返して何を変化させるのかという意識が常に必要である。たとえば曲を通して2-4のスネアを入れつつバスドラムなどを動かすとか、ベースのリズムを一定にして音程の曲げ具合を変化させるとか、あえてまったく異なるパターンを盛り込むとか、反対にずっと同じパターンで通すとか、そういった匙加減に注意を払いたい。

似たようなことを楽器ごとに考えることもできる。Aメロ>Bメロ>ブリッジ>サビの展開でブリッジ以外を同じドラムスパターンにして、AメロからBメロへの展開はメロディに任せ、ブリッジで大きくリズムを変え、サビで元のパターンに回帰しつつベースやコード楽器のパターンで最初とは違うリズムを作る、などといったことが考えられる。

繰り返しの長さと回数はメロディが作るリズムにも影響する。たとえば8小節2回繰り返し>4小節>4小節>8小節と4種類のパターンを使って緩急をつけるとか、4拍めが変化するドラムスに4小節3回繰り返し>変化をつけた4小節のメロディを乗せてスコープの違う相似形を作るとか、音数の多いメロディと少ないメロディを使って変化を出すとか、いくらでも工夫の余地がある。

もちろんコード進行も同様に考えることができ、たとえばI>I>IV>Vの4小節の後にI>VIm>IV>Vを持ってくるような場合、T>T>SD>Dの繰り返しに代理コードで変化をつけたとみなせる。またたとえばI>IV>IIm>Vの4小節の後にI>IV>IVm>Vを持ってくるような場合、前のパターンが後ろのパターンに対してある種の予備のような機能を果たすこともある。

好みの問題ではあるが、リズム隊の「オイシイ演奏」をどこにもっていくかという問題もある。筆者は出し惜しみするタチで、いちばん気分よく盛り上がるドラムスパターンは1曲に数回しか使わない。プレーンなパターンから入って道筋を示しながらオイシイ演奏に到達するとか、最初にオイシイ演奏をチラ見せして後をウヤムヤにするとか、そういった小細工がかなり好きである。

用語

シンコペーション:
もとは「弱拍と強拍をタイでつなぐこと」を指し、ピアノなどでは現在でもそれに近い意味で言う場合があるが、ドラムスの場合「オモテ拍のハットを弱く/ウラ拍のハットを強く叩くこと」を指すことが多い。

アーティキュレーション:
英語で「明確に区切る」という意味で、おもに演奏上の表現を問題にして言う。音の明瞭さやつながりを強弱表現まで含めて指し、スタッカートやアクセントなどをどう演奏するかといったあたりに重点を置く。

ダイナミクス:
強弱表現のこと。次のアゴーギクに合わせてディナーミクとドイツ読みする場合もあるが意味は同じ。

アゴーギク:
テンポを変化させること。パート単位のスケール(同じ速度記号が適用される範囲)で言うことが多い。

テンポルバート:
単にルバートとも。イタリア語で「盗む」という意味で、直接的には「ある音を通常よりも長く伸ばして、他の音をその分短くする」ことを指す(アクセントモタりやスイングをクラシック方面から解釈する場合はこの立場をとるのだと思う)。基本のリズムを設定した上でそれより速く/遅くというコントロールをする場合もある。

スイング:
拍を任意割合に分割すること。イーブンテンポに準じる4拍子の各拍を長短繰り返しになるよう2分割、という形が多いが、必ずしもそうしなければならないわけではない(たとえば、4ビートでないスイングもある)。

シャッフル:
各拍を3等分して真ん中を休符(あるいはゴーストノート)にした形。結果的に3連符になり、内訳は強休中または強幽弱くらいが多いが、弱休強または弱幽強(シンコペシャッフル)にすることもないではない。普通の3連符を織り交ぜることもある(というか、たいていどこかに入る)。2:1分割のスイングと似ているが演奏上の意識は異なる。

同じようなことをやっているようでも、拍を分割するスケール、小節の中で拍を動かすスケール、パートの一部分で速さを変えるスケール、曲全体を視野に入れたスケールなど、意識する範囲によって用語が変わることがあるので注意。上記以外の用語については演奏用語のページや急がば回れのドラムスのページを参照。

なお、クラシックを中心にイタリア語でテンポを表す習慣もある。これがテンポでいくつに相当するかというのはナンセンスな質問で、たとえばテンポが40でも80でも「ゆるやか」な感じが出ればAdagioである。とはいえ一般にこのくらいが多いという目安はあって、

標語読み意味テンポの目安
Vivaceヴィヴァーチェ活発に144~158
Allegroアレグロ快速に120~136
AllegrettoアレグレットややAllegro104~112
Moderatoモデラート中くらい88~96
AndantinoアンダンティーノややAndante72~82
Andanteアンダンテ歩くくらい66~70
Adagioアダージョゆるやか56~60
Largo/Lentラルゴ/レントゆったり/のろくおおむね55以下
といった感じ。「やや~」とあるものは「Allegrettoよりもやや~寄り」と読み替えるとわかりやすい。余談だが、筆者が曲を作ってテンポを仮決めするときは、64、80、96、120、144あたりをテキトーに当てはめ、それから微調整している。


オマケ(最高難易度の打ち込みドラムス)

一言で「最高難易度」とはいっても、難しさの基準は人それぞれなので決定的なことは言えないのだが、筆者は「4ビートスイングのライド刻み」(シンバルレガート)を推す。ライドでひたすら刻むこんなパターンである(このサンプルは演奏としてまったく成立していないが、叩き方のパターンとしてこういう感じだということ:ライド以外の楽器はウッドベースとピアノだけとか、そんな編成)。スネアのブラシスイープやらハットペダルのゴーストやらが入るとまた違った難しさになるが、ライドで刻むこと自体が信じられないくらい難しい。

もちろん、人間がやるにしても、音色やダイナミクスやタイミングやテンポなどのコントロールが完璧にできないとマトモな演奏にならないわけだが、これを打ち込みでやって成立させてしまう人がもしいたら驚愕である(打ち込みでやる意味があるのかどうかすら大いに疑問)。

打ち込みドラムスには独特の「不自由さ」があるが、それを知ることで(こういう極端なケース以外でも)何かの参考になるのではないかと思う。



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