トラックとチャンネル / プログラムチェンジ / シンセサイザー(音源)
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初心者が引っ掛かりがちだと思われる点をいくつか、DominoとReaperを使う前提で紹介する(操作や設定がわからない人は一足飛びの音楽制作を参照)。
Dominoを起動してすぐTabキーを押すとこんな画面になると思う。
ここに並んでいる「PortA Ch1」とか「PortA Ch2」とかいうのが「トラック」である。人間のバンドが演奏する場合、ギター用の楽譜、ベース用の楽譜、ピアノ用の楽譜といった感じで何枚かの楽譜を用意すると思うが、それと同様に、打ち込みでも複数の楽譜を用意することができる(デフォルト設定のDominoだと16枚用意されるが、全部使い切る必要はもちろんない)。
トラック名についている「Ch1」とか「Ch2」とかいうのは「チャンネル」を示しており、これは人間のバンドでいう「奏者」に相当する。つまり、上図の設定では、「上から2番目の楽譜」と「上から3番目の楽譜」を「1番の奏者」が、「上から4番目の楽譜」を「3番の奏者」が演奏することになる。
チャンネルの設定はトラックのプロパティを開いて
自由に変更できる。
ただし、最初の図で一番上にあるConductorというトラックだけは、指揮者用(テンポをコントロールする)と決まっているのでイジれない。
すでに気付いている人もいるだろうが、コンピュータは(決まりきった処理を任せる限り)人間と違ってものすごく素早いので、5枚でも10枚でも同時に楽譜を見ながら演奏できる。だからたとえば
こんな風にしても問題はない(ただし、こんなに同時に使う必要はほとんどない)。
デフォルト設定のDominoを起動すると、左側にこんな画面があると思う。
紫色の「Program Change」というイベント(指示)に注目しよう。これは楽器(音色)を指定するイベントで、上図の場合「1番の楽器に持ち替えなさい」といっているのと同じである。
相手が人間なら、楽譜を渡しただけでどの楽器を演奏するのか(普通は)わかってもらえるが、コンピュータが相手だとイチイチ指示しなければならない。また、やはりコンピュータは素早いので、せいぜい0.1秒もあれば持ち替えが終わる(ソフトウェアサンプラーで巨大サンプルを使っている場合は例外)。このため「演奏が始まってから楽器を用意する」のが普通のやり方になっている。
持ち替えの早さを利用すると人間では考えられないような芸当も可能で、たとえばエレピからサックスに一瞬で持ち替えるなんてこともできる(現在では実用上の意味がほとんどないが、チャンネル数が少なかった時代に多数の音色を使いたい場合には有効だった)。
意味がわからない人は気にしなくてよい情報:プログラムチェンジイベントのGate欄に記入すると、バンクセレクトを手打ちすることができる。書式は「xx/yy」(xxがMSB、yyがLSB:GSはMSBがバンクでLSBがマップ、XGはMSBがボイスでLSBがバンク)で、たとえば「120/0」でGM2のリズムバンクを指定したりする。削除するとNull(バンクセレクトイベントは送信されず、選択画面での表示上は255)になる。
おそらく用語に混乱があるだろうが、MIDIの文脈で「音源」とか「シンセ」というと「MIDIで指示を送ると音声を返してくるソフトやハード」のことを指す。MIDIで使うことを強調したい場合には「MIDIシンセ」とか「MIDI音源」と呼べばよいのだが、実際には省略して言う人の方が多い。このページでも、以下そのように書く。
でそのシンセなのだが、普通のWindowsパソコンだとローランド製のものが最初から入っている。Microsoft GS Wavetable Synth(略称MSGS、旧称Microsoft GS Wavetable SW Synth)というのがそれで、DirectX用バージョンのMicrosoft Synthesizerというのもある。
DominoでMSGSを使う設定はたとえばこんな感じ。
「MIDI OUT デバイス」と書いてあるのは「MIDIの命令を出力する先の機材」という意味で、ソフトウェア音源のことも「デバイス」と呼ぶのは、ハードウェア音源しかなかった頃の名残。
この設定をした後でふたたびチャンネルのプロパティを開いて
Aのポート(次の項を参照)を選んでやると、DominoからMSGSに指示が渡されて、MSGSが音を出してくれる。
単に打ち込み中の音色を確認(モニタ)したい場合、わざわざReaperを使うよりVSTHostなどを使った方がずっと手軽(Wav化したい場合はSMFを出してからReaperに読ませればよい)なのだが、このページではインストールするソフトを増やさない方針なので、以下でもReaperを使った例を紹介する。
シンセの項で出てきた図をもういちど見てみよう。
デバイスの隣に「ポート」という設定項目がある。省略せずに書くと「MIDIポート」(もっと正確には「MIDI OUT ポート」)のことで、機材を繋ぐための「コードの差込口」だと思って差し支えない。前の項で「Aのポートを選ぶ」と書いたのはこれを選んでいたわけである。
実機(ハード)の場合はシーケンサーのMIDI OUTポートと音源のMIDI INポートをただ繋げばいいのだが、コンピュータ(ソフト)でやる場合はひと手間かかる場合がある。MSGSはフル機能のMIDIデバイスなのでDominoから選んでやるだけで普通に繋がるが、たとえばDominoからReaperに指示を送りたい場合は、間に中継を噛ます必要がある。どうしてかというと、同じコンピュータにインストールしてあっても、DominoはReaperのことを(存在すら)知らないし、ReaperもDominoのことを知らないため、どこに繋げばいいのかわからないのである。
その中継をやってくれるのがMIDI YOKE(トップページ)というソフトで、インストールすると(MSGSと同じように)Dominoから選ぶことができる。
上図の赤枠はDominoからMIDI YOKEの1番にデータを送る設定だが、こうするとデータをもらったMIDI YOKEが「1番のデータ欲しい人いませんかー」と他のソフトに呼びかけてくれる。Reaperをこんな風に設定した上で、
録音準備ボタンを押してメーターを右クリック、MIDI YOKEの1番を選んでやると
「はいはい欲しいでーす」とデータをもらってくれる(図を見ればわかると思うが、Reaperは高機能なので「欲しいチャンネルだけ選んで」受信することもできる)。
あとはReaperに音源プラグインを立ち上げて、スピーカのアイコンをクリックして音が出る設定にすればDominoからの操作で音が出る。
音は出るのだがもう少し設定が必要な場合が多いので次以降の項を読もう。
プログラムチェンジで「楽器の持ち替え」を指示できるということはすでに紹介した。たとえばDominoからこの設定で
MSGSを鳴らすとピアノの音が出る。
ではどんな音源でもそうかというとそんなことはなく、世の中には「サックスだけ」とか「バイオリンだけ」といった単品音源も多くある。またピアノの音は含まれていても、MSGSとは違うところに入っている場合もある。
プログラムチェンジで1番を送るということは、あくまで「1番の楽器で演奏してください」とお願いするだけであって、無視されること(次以降の項を参照)もあるし、1番の楽器が何なのかは音源のマニュアルを読まなければわからない(ドラムスの場合はもう少し複雑なのだが、詳しくは仕様の違いの項に譲る)。
ただし、名前に「GM」とか「GS」とか「GX」とついている音源の場合、
この画面で赤枠の中だけをイジる分には同じ楽器を演奏してくれる。
上で出てきた「GM」などの名称は、楽器の並べ方などを決めた規格のことで、総合音源の場合はどれかに準拠していることが多い(多いだけで確実な話ではない)。GSとGXは、GMに「独自の拡張」を付け加えた規格なので、GMで鳴らせる音はGSやGXでも鳴らせる(同じGSでもSC-55とSC-88ProとSC-8850ではできることが違うが、どれもGMと同じ種類の楽器は使える:ただしもちろん、弾き方や微妙な音色まで同じなわけではない)。
前の項で「Reaperに音源プラグインを立ち上げる」という話が出てきた。立ち上げるだけなら話は簡単で、Fxボタンを押してプラグインを選ぶだけでよい。しかしたとえばこのSMF(MSGSを含め、GM対応の音源なら普通に再生できるはず)を、デフォルト設定のReaperに単純に立ち上げた4FRONTのPIANO MODULEで演奏すると、妙なことになるはずである。
これは誰が悪いのかというと、再生させようとする人が悪い。4FRONT PIANO MODULEはピアノ単発の音源なので、ドラムスの音も入ったファイルを再生させようとするのが最初からムリなのである。
ではそのような音源を使うときは毎回ファイルを書き換えなくてはならないのかというとそんなことはなく、今回の例なら「ドラムスのチャンネルを送らない」ようにしてやれば(ドラムスの音は逆立ちしても出ないが)ピアノの音は普通に出る。もっといえば「ピアノのチャンネルだけ送る」のがまっとうなやり方である(ピアノ専用音源なんだから)。
ということで、上記のファイルをDominoで開いてみよう。トラックリストはこんな風になっているはず。
トラック表示や再生をしてみればわかるが、Ch1がピアノでCh10がドラムスの打ち込みである。
同じファイルをReaperで読み込んで、
アイテム右クリックから「Source properties」を選ぶ(またはアイテム左クリックからF12キーを押す)とこんな画面になるので、
たとえば上図のように設定して、ピアノのチャンネルだけを受信するようにする(それ以外のデータは捨てられる)。そうすると、4FRONT PIANO MODULEでもピアノのパートだけは普通に演奏できる(まあ当たり前といえば当たり前だが)。
なおVSTiやDXiを使う場合、音を出すだけならプログラムチェンジやコントロールチェンジなどは必要ないのが普通。リセット系の命令(GM SYSTEM ON)を送ると正直に音源をリセットしてしまう(正しい反応ではあるが)プラグインもあるので、余計な命令は削除しておこう(もちろん、意図的に操作したい場合は積極的に利用する:MIDIでの操作に対応していないプラグインでも、VSTHostなどでサポートしてやればコントロールできる)。
ムチャなことをやらせたときの挙動は機種によって違う。それだけでなく、通常の使い方も微妙に異なる。面倒だがある程度仕方のないことなので、慣れるしかない(慣れればどうということはない)。
前の項では4FRONTのピアノを取り上げたが、この機種は音色が1種類しかなく、全部のチャンネルがピアノの音である。プログラムチェンジで何を指示しても完全無視でピアノの音だけを出す(エラーを吐いて止まるよりは無視して不完全な演奏ができた方がよいという考えで、このような「ムチャを言われたら無視」というポリシーはよくある)。しかし、チャンネルは16全部使える。トラックとチャンネルの項で出した喩えを使うなら、音源の中に16人の奏者がいて、全員ピアノを弾いている状態に近い。
一方EVMのGrand Piano(2009年11月現在、本家サイトから消えてしまっているようだ)は、Ch1以外のデータを無視する。音源の中に1人だけ奏者がいて、他のチャンネルに届いた楽譜は受け取り手がいないままバサっと床に落ちるようなイメージだろうか(コンピュータというのはとことん生真面目なので、そういう意味のない作業もただ黙々とやる)。Ch1以外のところに打ち込んだデータを演奏してもらうには、まずピアノ以外の楽譜を(Reaperの機能などで)捨ててから、ndc PlugsのncdMIDI(の中のMIDIChanneliser)などを使ってデータの行き先を変えてやる必要がある。
他に、受信するチャンネルを設定で変えられる機種や、チャンネルごとに違った楽器が演奏される機種もある。最初にも書いたが、これは慣れて自分で確認するしかない。とくにドラムスは、GMなどではCh10を使うのが普通だが、Ch1しか使えない機種もあるため注意が必要である。音色についても、たとえばピアノならCの音がドでDの音がレでEの音がミなのはほとんどの音源で変わらないが、ドラムスの場合そういう想定がしにくい。
GM規格のドラムス音源なら、C2[36]がバスドラムでD2[38]がスネアでF#2[42]がハイハットクローズ、などと決まっている(これも「GM配列」と呼ばれることがある)が、そうでない音源も普通にある(というか、凝ったことをやろうと思うとGM配列ではとても足りない:ファイル配布のページで配布しているadDrumsというキットでも、バスドラムだけで6種類、クローズリムショットを除くスネアだけで16種類用意しているが、GM配列だと各2種類しか使えない)。
Assecaで配布されているNicFitさん作のMungRackなど、力技で配列を変えてしまう手段がないではないが、徹底的に凝りまくった打ち込みをあえてGMで鳴らすメリットはあまりない(MungRack自体は、MIDIで凝ったことをやる場合に有用なソフトなので誤解なきよう)。筆者自身は、凝ったことをやる場合もGM配列で打ち込みを始めて、ある程度形ができてからDominoの一括変更などを使って専用音源に移行している(バイナリ直書きの変換ソフトか、Domino用のキーボードマクロでも作ろうかとちょっと思うが、使う頻度がそれほどでもないので手付かず)。
他に注意が必要な音源としてはベースがある。GM配列よりも1~2オクターブ低い音が入っている(49鍵くらいのMIDIキーボードを使う場合にその方が便利だからだと思う)機種がけっこうあるので、前述のncdMIDI(の中のMIDINoteTrans)などを使って調整してやる。
VSTiという種類の音源(4FRONTやEVMのピアノもこれ)には単発モノが多いのだが、なぜかというと、DAW(デジタルオーディオワークステーション)と呼ばれる総合環境(このサイトではDAWっぽくない使い方もいろいろと紹介しているが、ReaperもDAWである:DAWっぽい使い方の例はローコストな音楽制作にいくつか掲載している)での利用を前提にしているからである。DAWは「可能な限り細かく音をイジる」ように設計されており、たとえば筆者がアレンジと打ち込みをやった例では
こんな感じにドラムスとベースとパーカッションだけで15ほどのトラックを使い、それぞれに別の設定でイフェクトをかけてからまとめている。
ドラムスはDrum Premierという市販音源を使った打ち込みで、タイコ1つシンバル1つのレベルでパラ出し(=他の音と混ぜずに個別に出力)してある(イフェクト設定の例は別ファイル参照)。スネアについてはリバーブも専用トラックで出して音質を微調整、ドラムスをまとめた後と全体をまとめた後にもリバーブをかけている。画面に入りきっていないが、さらに生録音したメインヴォーカルとコーラス数本とアコギとエレキ、他の人が打ち込んだオルガンとシンセが加わる。
こうやって細かくイジる場合、コンピュータの処理能力の問題もあるが、使い勝手の面で単発音源の方が有利である。もし全部盛りにして「ピアノをイジるときに便利な画面/機能」「ベースをイジるときに便利な画面/機能」「ドラムスをイジるときに便利な画面/機能」・・・と追加していくと、途方もなくゴチャゴチャした音源になってしまう(そういう音源が好きだという人も一部にいるようだが)。
同じ理由で、生録音したトラックの微調整はReaperでなく(波形編集専用ソフトである)Audacityでやっている。これは同じ曲の音量調整時の画面(ごく一部)だが、
こんな調整(機能的にできないわけではないが)Reaperでやるのは真っ平御免である。もちろん、打ち込みも(MIDI打ち専用ソフトである)Dominoでやっている。録音にもデジタルMTRを使った(これは好みが分かれるかもしれないが、性能的なことを考えると、普通にパソコンを使うよりは断然有利)。
打ち込みやDTMを始めたばかりの人に「まずDAWを用意して・・・」などと助言する人を見かけるが、慣れるまでは必要ない、というのが筆者の意見である。筆者自身、誰かに頼まれた場合はともかく、自作の曲でこんな手の込んだことはまずやらない(やりたいとも思わない)。普段自分で作る曲は、バスドラムとスネアとハイハットとベースだけパラ出しして、あとはTimidity++にポンと放り込んで、適当に生録音を重ねる程度が精々である。
もちろん、冒頭の例と似たような作業をしたい場合にはDAWがほとんど必須である。10本も20本もパラ出ししたトラックをAudacityだけでチマチマとイジるなんて、気が遠くなってしまう。Reaperが総合管理をやってくれてこそDominoやAudacityの使い勝手も活きるわけで、結局は「目的に合わせて適材適所」が肝心、ということになる。
だいぶ脱線したが強引に本題に戻ると、なぜ単発かという理由は結局「全部盛りにするとゴチャゴチャになるから」というものである。
打ち込みは楽器が苦手でもとっつきやすい、という主張を否定するつもりはないが、生楽器に近い音を志向するなら楽器の知識と演奏経験はどうしても必要である。
たとえばこのサンプルファイルを聴いてみよう。指弾きベースの音色で「ドレミ」と鳴らす演奏が3パターン入っており、最初のがベタ打ち、2番目が生楽器っぽさを目指して少し手を入れたもの、最後はそれを大げさにしたものである。
2番目(と3番目)のパターンは、ツーフィンガーピッキングで、高音側の弦に移動するときのみ中指を使い、1~3弦はアポヤンドで、1or2弦を弾くときは3or4弦に親指を置くという前提で、3弦3フレ>2弦開放>2弦2フレの順に弾くと想定して作った。
GM音色の制限で開放弦の音色とフレットを押さえた音色の区別ができていないし、アポヤンドのノイズも単なる短いトーンだし、タイミングのズラし方も当てずっぽうで一括だが、そういった話以前の問題として「どうやって弾いているか」を具体的にイメージできていないと、音符の配置段階で手詰まりになる(ある程度の自動化は可能で、2010年現在、弦選択機能などを備えた音源ソフトも出てきている:ただし、該当する楽器を弾いた経験なしに使いこなせるかと考えると、筆者は懐疑的にならざるを得ない)。
オマケ1と同様に筆者自身普段からこんな面倒な打ち込みをやっているわけではないが、しかし、生楽器っぽい音を打ち込みで出そうと思ったら「ドレミ」と鳴らすだけでもこのくらいの工夫は必要だと思う。
他のページでも繰り返しているが、打ち込みと楽器演奏の両方が初心者で生楽器らしい音が欲しいなら、楽器の練習をした方がずっと早い(ついでに言うと、打ち込みと楽器演奏の両方が上級者なら、打ち込みで生楽器っぽい音を出すより生楽器で打ち込みっぽい音を出す方がずっと簡単)。また、生楽器の演奏を打ち込みで「再現」するのと打ち込みを「生楽器のように使う」のには天と地ほどの差がある(変な喩えではあるが、数学の問題を「自分で解ける」のと「回答を追える」の間にあるよりも、はるかに大きなギャップがある)。