ドラムスについて、編曲の基礎完成編と知識補充編である程度触れたが、知っておいた方がよいだろう事柄についていくつか補足する。さらに突っ込んだ話についてはリズムとビートについてのページを参照、少しだけ初心者向けになるよう書き直した記事は一足飛びのドラムスのページにある。サンプルファイルは一般的な音楽用のモニタ環境を前提に作成してあるため、ヘッドフォンなどを使って十分な音量で再生して欲しい。
テンポやリズムを変えると曲の雰囲気への影響力が大きいことを編曲知識補充編で紹介したが、一応サンプルを再掲しておこう。
どんなリズムにするとどういう雰囲気になるか知るには、頭で悩むより実際に音を出してみた方がずっと早い。基礎知識的な話から。ドラムスの基本コンポーネントは、バスドラム(キックとも呼ばれる)、スネアドラム、刻みシンバル(たいていハイハット、たまにライド)である。
スネアはアクセントのコントロールに使いやすい。チューニング(表ヘッド、裏ヘッド、スナッピー)や加工で表情が変わりやすい楽器なので覚えておこう。バスドラは小節のアタマを担当することが多い。全体の区切れ感に大きな影響を与える。刻みシンバルは具体的なノリを構成する。ニュアンスや表情を出す上で重要になる。
さらに、刻みシンバルの変化(ハイハットのオープン/ハーフオープン含む)と追加のバスドラムを中心に不足する音を補う。ロータムなども意外と使い勝手がよいし、小節のアタマにアクセントを持ってきたい場合に(スネアを使う手もあるのだが)クラッシュシンバルを鳴らすこともある。フィルイン(隙間を埋める音:単にフィルとも)はおもにシンバルとタムで作るが、スネアを組み込んだフィルもインパクトがある。
またもう少し大きな枠での考え方として、ドラムスだけでリズム伴奏を完結させる必要がないことにも注意したい。もっとも頼りになる相棒はベースだが、ギターやピアノなどもリズム隊の一員なので、相互関係を見落とさないように注意したい。
リズム楽器全般の演奏を考えるとき「何を繰り返して何を変化させるのか」という意識が非常に重要である。リズムというのは「繰り返し」が生むものだが、そこにどういった変化を盛り込むのか(あるいは盛り込まないのか)に注意して欲しい。
まず8ビートだけ考える。以下のサンプルは、ドラムスだけ、ドラムスとベース、ドラムスとベースとパッド、ドラムスとパターンを変えたベースとパッドの順に音が出る。スネアとバスドラは全部同じ演奏。
また、ドラムス関連の用語で一般的な用法と違うものとして、
ちなみにドラム(太鼓)は叩く面が表で反対が裏、バスドラム以外は表(上)をトップ、裏(下)をボトムと呼ぶ。スネアのボトム(スナッピーとの相性を考えて極薄ヘッドが好まれる)はとくにスネアサイドと呼ぶ。バスドラムは表(ビーターで叩く方)をビーターサイド、裏(ドラマーから見て前/客席から見て手前)をフロントサイドと呼ぶことが多い。ドラムセットに含まれるドラムとシンバル以外の器具はハードウェアと呼ばれる(スタンドとかペダルとか:ラテンパーカッションなどでも金具やホルダーなどを指して同様に言うことがある)。
ドラマーに「4ビートで」と言うと、90%くらいの確率で4ビートスイングだと解釈される。理由はよくわからないがドラムスで単に「4ビート」と言えばこれ。
16ビートにも注意。今までのファイルと違って、ノーマル16ビートから変則16ビートにどんどん変化する音を用意したが、ノーマルな16ビートは「タカタカタカタカタカタカタカタカ」というリズムで「カ」がゴーストになる。まぁモロ正統派な16ビートというのはあまりやらないが。
編曲の基礎完成編でだいたいの紹介はしてあるが、もう少し実践的な話。一部重複する話題もある。
ドラムスアレンジは簡単なパターンから入るのがよい。簡単なパターンとは何かというと「ハイハットは全拍(8ビートなら8発、16ビートなら16発)打ち、バスドラムは小節アタマのみ、スネアはアクセント位置のみ」のパターンである。筆者の場合、アクセント拍のハシりモタりはこの段階で仮に入れておくことが多い。
ハイハットはノーマル打ちかシンコペ打ちかくらいまで決めておき、やや弱めにしておく。ハットのアクセント(通常の意味ではなく、1小節あたり数発くらいの、他より強く打つ位置)を最初からイメージできているなら、やや大げさに反映させておく。2-4ビートなどではスネアを2回打っても別に構わないが、バスドラはとりあえず1発だけにしておく(ウラバス以外のたいていの曲では、ドラムス基準で「バスドラを打つところが小節のアタマ」と言い張って問題ない:タムから入る曲はあとからバスドラをタムに差し替える)。一度合わせをやってみて、構想に問題がないかチェックしておこう。
打ち込みでやる場合、この時点ではまだ単純なコピーペーストによる繰り返しでよい。というか、単純な繰り返しで破綻しない基本パターンをしっかり作っておいて、そこから各パートを派生させると、ムリのないアレンジになりやすい。もちろん、アクセントが変わる部分などがあれば、その分だけパターンを作る必要があるし、2小節ワンセットのパターンなら2小節ごとにコピーしなければならないが、その辺は常識的にわかるはずなので細かくフォローしない。
ここから先の順序は人によって違うだろうが、筆者は次にハイハットを仮組みする。アクセントが欲しい個所とゴーストにする個所を決めていくのだが、打ち込みでやる場合完全な休符は作らない(後で休符にする予定の個所でも、ベロシティ1で打ち込んでおく)。筆者は、仮組みにオープンやハーフオープンはとりあえず使わず、すべてクローズで打ち込むことが多い。ハットの仮組みが終わったら、上モノを被せたトラックを聴き込みながらバスドラムが欲しい部分に音を追加するが、ベースによるサポートで乗り切れる場合もあるだろうから、あまりムキになって音を増やさない方がよい。全体に、やや控えめなアレンジにしておくと後がラクである。
結局、スネア>ハット>バスドラの順で仮組みしたわけだが、打ち込みの場合はここでもまだ単純なコピーペーストのまま。上モノを被せて聴き込みながら、全体的な調整をする。とくに、ハットを強めに入れることでバスドラが不要になる個所や、スネアに対するハットの絡み(スネアによるアクセントの直前、アクセントの位置、アクセントの直後のうちどこをどの強さで叩くか)、バスドラとスネアの同時打ちが必要かどうかなどに注意する。音色の加工を後でやる場合も、ウェットの音を聴いておいた方がよいだろう。筆者は、ここまでやった時点でベロシティ1のノートを全部消してしまうことが多い。
さて、単純ループで曲が成立するパターンができたら、今度はそこからバリエーションを増やしていく。大げさな音が欲しい部分やキメの部分などに手を入れ、各楽器のタイミング(とくにその他の項で後述するスネア:ハシりモタりは小節頭のバスドラを基準にするのが無難か)を調整し、ハットのオープンを取り入れて変化をつけ、必要ならタムとシンバルを追加する。ただし、フィルイン(「隙間を埋める音」の意)は隙間の形がわかってから考えないと意味がないので、上モノのアレンジを待たなければならない。
と、このくらいの作業で基本的なドラムスのパターンは完成するわけだが、単純なループから出発することで、一貫させる要素と変化させる要素を把握しやすくなる。冒頭でも述べたが、リズム楽器のアレンジでは、さまざまなスコープ(小節内、パート内、曲全体など)で「何を繰り返して何を変化させるのか」という意識が非常に重要である(繰り返す部分が幹、変化する部分が枝葉になるが、時には思い切って幹を曲げることもある)。
ここまでできたら、あとは他の楽器のアレンジと同様に、パートが変わる前に予告しておくべきリズムを入れたり(音程のある楽器と違い予備を取ることはできないが、筆者の場合、一部の楽器だけ後のパートのパターンを先取りすることが多い)、反対に隠しておくべきものがバレていないかチェックしたり、曲想と実際のアレンジを比較して過不足を補ったりしていく。
他のパートについてはフィルインをわざわざ項立てしていない(そんなの奏者が勝手にやればいいと思うので)が、ドラムスのフィルはちょっと発想が異なる部分があるので触れておきたい。
ドラムスのフィルの王道(だと筆者が思うパターン)は「リズムをドラムスに持ってくる」形である。どういうことかというと、普通に編曲をすると「ドラムスに要求されるリズム」と「ドラムスが要求するリズム」がどこかしら食い違う(という説明が理解できない人は、次の段落を読み飛ばそう)。大方のパートでは要求されたリズムを演奏しつつ、フィルインで要求するリズムを前に出すことになる。
毎度引き合いに出すJeffのプレイだと、Joseph WilliamsのI Am Aliveのタイトル曲(例にするにはマイナーだなぁ)が顕著で、3拍子2分割の都合6拍子がハーフタイムになったうち後半6拍めウラを「パツン」と打ちたいリズム(カナ書きすると「タンタンタカ・タンタッタカ」)なのだが、普通の場面ではかなりおとなしく演奏しており、フェードアウト際(5:15くらい)にやっと「これだよ」というパターンが出てくる。そこに至るまでに「タンタッタカ」の「惜しい」パターンを繰り返しているのがニクイ。Kingdom Of Desireのタイトル曲(こちらはややメジャー)も似たような傾向(「ウンタンタッタカ」と打ちたい)があるが、こちらは最初(0:22くらい)で「オイシイ音」をチラ見せしてからトボケるパターン。
しかし上記のパターンはそれなりに習熟しないと使いこなしが難しい。単純なパターンからフィルを構成する方法も検討したい。ここで取り上げるのは筆者が(勝手に)「タム流し」と呼んでいる方法で、ようするに「タムを小さいものから順に連打して、適当に休符を設ける」やり方である。サンプルファイルは、フィルなしのパターン、ベタ打ちのパターン、休符を入れたパターン、少し長いパターンの順になっている(ハットペダルなどのサポートも入れないとしょっぱい演奏になるが、なにをやっているのかわかりやすいようシンプルに打ち込んだ)。
突き詰めると「どこで大きいタムに移動してどこで休符を入れるか」という問題になるわけで、タムの移動はリズムのユニット(同じタムで演奏されるまとまりがワンセットで知覚される)に、休符の位置はリズムの逆転と平行(オモテを休符または弱拍にするとウラが強調されてベーシックなリズムに対するアンチパターンになり、ウラを休符または弱拍にすると区切れ感が単純化されてベーシックなリズムに対する補強になる)に強く関わる。この操作を意図的に行えば、それだけで一定の効果を期待できる。
また、リズムとビートについてのページで触れたように、ウラ打ちはある種の解決を要求し、オモテ打ちにアプローチする性質がある(と思う)。これを利用すると、リズムの「着地点」を想定することができる。たとえばこのサンプルではタムの後のバスドラが、このサンプルではクラッシュシンバルが、リズムの着地点として聴こえないだろうか。JeffのプレイだとRosanaのイントロのフィル(アタマのバスドラに着地させる)が印象的である。アレンジではなく演奏の領域だが、フィルからの戻りでリズムがよれる場合に、この「着地」を意識すると改善することがある。
全体が「隠れ16ビート」の曲でフィルだけ明確な16ビートにする、または全体が「単純な8ビート」の曲でフィルだけ16分音符にするような例も、リズムの印象付けや密度(ひいてはスピード感)の変化という効果はもちろん考慮すべきだが、部分的に「不安定なリズム」を用いてアプローチする効果もあるのだろうと思う。
リズム、メロディ、ハーモニーで音楽の3大要素とは言うものの、ポピュラーミュージックに関する限り、メロディは別格である。たとえドラムスのアイディアから生まれた曲であっても、メロディが形になった時点で一度リズムを見直してみるとよい。筆者自身がドラムスのアイディアから曲を書く場合は、メロディをつけたところでドラムスのトラックを外して、コード伴奏をつけてから改めてドラムスを検討することが多い。サポートの順番として、メロディ<コード伴奏<ドラムス<ベースの順番(自分より左側の楽器すべてをフォロー)にするのがいつものパターンである(これは好みの問題)。
アレンジではベースとの関係や他のリズム楽器との関係がクローズアップされがちだが、演奏になると、メインメロディ担当楽器との連携が問題になることが多い。両極端は出会うというか、始点と終点が重なるというか、ちょうどギターのチューニングで1弦と6弦を合わせるように、ドラムスとメインメロディの「調子」をコントロールする必要がある。
普通のドラムセットには入っていない楽器だが、タンバリン(専用スタンドを立てるかハイハットの上に固定してスティックで叩く:ハットにセッティングした場合はペダルでも音が出るし、ハット刻みの音色も変わる)がなかなか便利である。とくに、ハイハットを(リスニング環境が変わっても影響を受けにくいよう)低音寄りに加工した場合、盛り上がるパートでタンバリンを参加させると勢いが出る(ハットを補う意味と差別化のために、高音強調の加工にしておく)。
筆者の場合、アクセントのスネアをいわゆるジャストタイミングで打ち込むことはほとんどない(エレドラムの音色を使うときくらい)。256分音符(4分音符=480チックスの解像度で7.5チックス:8チックスで代用)を「小」、128分音符(同じく15チックス)を「中」、64分音符(同じく30チックス)を「大」として、小モタり・中モタり・小ハシりを中心にどんどんずらしてやる。ハットはジャストタイミングを基本に要所で段階的にズラしてやると効果的。小節頭以外のバスドラも、やや大げさにモタらせてやるとハマることがある(頭を思い切りズラすのも面白いが、やや難易度が高い)。演奏を不正確にする必要性は感じないので、いわゆるヒューマナイズはかけない。
ドラムパターンを単独で組むときやドラムループから曲を作り始めるときのヒントとして、Jeffが「samba feeling」というキーワードで紹介したリズムを例に、ハット刻みのパターンをいくつか引き出してみたい。が、その前にドラムパターンの応用方法について少し触れておこう。ドラムパターンはループ(繰り返し)を中心に構成されるのが普通で、始点をずらすことで複数のバリエーションが得られる(パラディドルのストレート/インワード/リバース/ディレイとか、フラメンコのコンパスにも(因果関係は知らないが少なくとも結果的に)似たような構成が見られる:シンコペーションの一種と捉えることもおそらく可能、というか強弱が単純に連続するパターンを1つずらすと弱強の繰り返しになる)。
文章だけだとちょっとわかりにくいので音で聴いてみよう。たとえば、ハイハットがこんな感じでループするパターンがあったとする。強いクローズ>弱いクローズ>オープン>>強いクローズ>弱いクローズ>オープン>>強いクローズ>・・・という順序が繰り返されている。ここから「ハイハットだけ1拍遅らせる」とこんな感じ、つまりオープン>強いクローズ>弱いクローズ>>オープン>強いクローズ>弱いクローズ>>オープン>・・・というループに変化する。反対にハットだけ1拍ハシらせるとこんな感じ、つまり弱いクローズ>オープン>強いクローズ>>弱いクローズ>オープン>強いクローズ>>弱いクローズ>・・・に変化する。ループの始点を変えることでバリエーションを出せる、という意味が呑み込めただろうか。
ではサンプルを聴いてみよう。順に、Jeffが紹介した基本のパターン、ハットペダルを早めに踏むパターン、ハットオープンをやめて全部クローズにしたパターン、バスドラとスネアを単純化したパターンである。結局(弱が休符になったり、強がオープンになったりといった変化はあり得るものの)強>弱>やや強>やや弱>>強>弱>やや強>やや弱>>強>・・・の繰り返しが基本になっているのがわかるだろうか。ここまで辿り着けば応用は難しくない。たとえばこんな感じのバリエーションが容易に得られる。「強>弱>やや強>やや弱の繰り返し」が生む効果に注目するとさらに、8ビートに同様のコンセプトを持ち込むこともできるし、拍子分割系のフィル(かなり地味にやったのでゴースト的な効果も出ているが、こういう地味な変化が積み重なってリズム感が構成されることは覚えておいた方がよい)として織り交ぜることももちろんできる。
もちろん「強>弱>やや強>やや弱」を「強>やや弱>やや強>弱」に変えるなど、順番そのものを入れ替えて違うパターンを作ることもできるが、ループをずらす発想でもかなりいろいろなリズムが作れることを覚えておいて損はないだろう。
譜面では同じパターンであっても、演奏次第でニュアンスが変わる。やはりハットで少しやってみたい。
こんな感じの刻みがあったとする。大まかな捉え方として「タッタタタッタタ」「タンタタタンタタ」「タウタタタウタタ」の3通りが可能なことに注目しよう。たとえば、ダイナミクス(強さ)の変化やゴーストの効果でのニュアンス出しならこんな感じ、タイミングずらしを使う案ではこんな感じの候補が出てくるだろう。
これらのニュアンスが曲のイメージに与える影響は意外なほど大きいため、どんなリズムをアピールしたいのか意識する必要がある。また、同じパターンを繰り返しているようで実はニュアンスが変化している、といった演奏ももちろん可能。
生楽器の場合さらに、奏者が空振りなどで作る「音を出さない区切り」の有無や位置によっても細かいニュアンスが変わる(もっといえば、生演奏なら空振りの視覚効果も影響する)。
リズムやビートには人を(身体的に)揺らす効果があり、方向と重心である程度の分類ができる。方向は左右/前後/上下とその組み合わせで、結果的に捻りになることもある(捻りの場合軸の移動も考慮できる)。重心は揺れの中心と解釈してもよく、頭/肩/腰くらいの分け方でよいだろうか(筆者は手足の動きを副次的なものだと考えている)。
たとえばロックンロールは俗語で「腰振り」のことで、腰を揺らすビートを多用する。実際、チャックベリーやプレスリーの時代のロックを腰を振りながら聴くと、黙って聴いているときとはまったく違ったリズムを味わえる。
またたとえば、ウラを打って拍を分割することが、動きの中点にクリック(引っかかり)を作る場合と、揺れの方向を斜め(複合的)にする場合がある。筆者の感覚に過ぎないが、ウラ打ちを明確かつ均等分割でやると前者、その反対をやると後者に近いノリが出やすいような気がする。
バンドでデモを聴く場合など、ノリの重心と方向をある程度共有してやることで、ビートやリズムが「見えやすく」なる効果を期待できる。とくに上下方向の動きはリズムの解釈に強い影響を与え、アクセントで身体が伸びるのか沈むのかを意識するだけでも、ノリの活用に役立つのではないかと思う(揺れの大きさや重心もケアできれば、もちろんその方がよい)。
タイコを全体として捉えると噪音という音高感の希薄な音色に分類されるが、タイコを構成するシェル、ヘッド、それらから成る気柱には固有周波数があり、周波数成分をコントロールするためのチューニングキーもある。
たとえばスネアだと、リハスタのレンタルドラムなどはたいていGチューニングになっているが、タイコの各部が揃って196Hzないし392Hzに共鳴するわけではない(というか、もしそうならメロディックタムやティンパニーのような「音程感のあるタイコ」になる)。基本的には、シェルの固有周波数が相対的に低く14インチスネアだと196Hz(G3)前後で、ヘッドは張り具合により300~400Hzくらい(ラグ近くを叩いて確認することからラグピッチとも呼ばれる:真面目にチューニングするときは全部のラグで同じピッチになっていることを確認する)、気柱は高さ5.5インチ(約14cm)だとすると片道で2.5KHzくらい(5インチだと2.677KHz)。
タイコ全体としての基音(ファンダメンタルトーン:一番低いピークの周波数)はシェルの音になるはずで、他では大きく変わらない。ヘッドの中心付近を叩いたトーンは、表ヘッド(バターサイド)と裏ヘッド(スネアサイド)の固有周波数の合計がおもに左右する(もちろんシェルも関わっているが、調整できないので定数として振舞う)。スネアのオープンショットではバターサイドヘッドのチューニングが中高域成分に支配的な作用を持ち、スネアサイドはおもに低域のコントロールとスナッピーを担当するが、マイキング(裏マイクを置くかどうか、それぞれのマイクの向きと距離、ミックスバランスなど)によっても事情が変わる。当然ながら、ハードウェアや他のタイコやシンバル(や部屋)との共鳴もあるので、できるだけ演奏と同じ条件でチューニングするのが望ましい。
その他のページでも紹介したDrumeoというサイトのバスドラムのヘッド紹介動画(演奏は4分過ぎから:ROOM MICSと表示されるのが生音に近い録音で、CLOSE MICSと表示されるのがオンマイクの録音)でもわかるように、生ドラム(Jazzなどで使われるものを除く)というのはアコースティック楽器でありながらオンマイクで拾って加工した音の方がスタンダードな楽器で、最終的にマイクを使うならそのセッティングも考慮して音を作らないと話が始まらない。
表裏のヘッドを同じピッチにすると、気柱伝達によるタイムラグで位相がぶつかり響きが弱くなる(多分)ため、多くの場合ずらしてチューニングする。タイコ全体としては、オープンショットの(スネアサイドで作る)ファンダメンタルトーンがシェルのピッチ~完全4度上くらいになる範囲がスイートスポットになる。Jazzなどでは各タイコのファンダメンタルトーンを等間隔にするセッティングもあるようだが、ロック系の曲の場合スネアのファンダメンタルトーン(実用上はスネアサイドのピッチ)をサステイン(張るとタイトに、緩めると響いて鳴る)としてだけ使うことが多く、部屋が狭い場合などはタイトめのセッティングが好まれる。ラグは均等に締めるのが大原則だが、スナッピーの隣のラグだけはやや強めに締めることが多い。またスナッピーがスネアヘッドに密着するとミュートされてしまうので、あまり押し付けないようにしておく。
最終的には、オープンショット、オープンリムショット、センター外しショット、スネアならクローズリムショットも含めて、ドラムセットの中でバランスよく他の楽器構成と調和して鳴るようにセッティングするのが理想で、たいへん奥深い。