作曲(基礎編)


最初に / 前提知識 / コードにメロディをつける / メロディを分析する
/ メロディをさらに分析する / メロディ分析のまとめ / コードについて考える
/ もう少し決まったコードで練習する // 基礎完成編に進む / もどる
<サンプルのMIDIファイル(SMFフォーマット1)が再生できない方はQuickTime Playerを使用してみてください>

「メロディができるまで」に重点を置いて練習を行う。必ず音を出しながら読み進めること。基礎練習なのでツライ部分もあるだろうが、どうしても無理なところはあまりこだわらず、そこそこに練習して次に進んでしまってよい。ただし、頑張ればその分後でリターンがあるような練習方法を極力選んでいる。練習ではなく体験をしてみたい初心者は一足飛びの音楽制作を参照のこと。

必須ではないが、手元に和音が出る楽器(ギターとかキーボードとか)が何かあると、効率よく練習できる(後述するが、楽器によってできるメロディもかなり変わる)。演奏技術が高い必要はない(上手ければそれに越したことはないが)ので、楽器に触ったことがない人もこの機会に是非挑戦してみて欲しい。また、楽器を持っている人も持っていない人も、DominoやCherryなどのソフトウェアシーケンサーを用意しておくこと。

制作だけに使うなら文句なしでDominoがオススメなのだが、Cherryには練習に重宝する機能があるので、ここでは両方併用して話を進める。打ち込み作業などはDominoメインでやるのが楽だと思う。

操作についてはソフトのマニュアルやMIDI打ち込みの初心者お助け講座(Cherry前提)や一足飛びのDominoの設定と操作を参照。


最初に

よいメロディを作るには才能が必要である。すばらしいメロディを作ることは、たとえ大天才でも一生に1度くらいしかできない。一方で、陳腐でぱっとしないメロディであっても、作るにはある程度の素質が必要になる。これは厳然とした事実である。

しかし、芭蕉のような句が詠めないからといって俳句を諦める必要がないように、ロセッティのような絵が描けないからといって絵画を諦める必要がないように、すばらしいメロディが作れないからといって作曲を諦める必要はまったくない。同時に、作曲が自分に向いていないと思う人が無理に作曲に取り組む必要もない。

またもし、複雑なリズムやコード進行やスケール構成などを駆使して複雑な曲を作りたいと考えているなら、最初から自分でメロディを作ろうとするのは無謀だし非効率である。そういう作業に適したメロディはよほどの才能に恵まれた人でもそうそう作れるものではなく、また複雑な編曲に対応できる貴重なメロディは多くの人が吟味や試行錯誤を重ねた末にリスト化されている。たとえばJazzのスタンダードナンバーとして知られる曲が代表例で、そういった「ごくごくイジりやすい曲」で編曲の技術を身につけ、複雑な曲を作るうえでメロディにどのような要素が求められるのか理解した上で作曲に取り組んだ方が10倍は早い。編曲についてはこのコーナーでも取り上げており、またMore Jamというサイトの解説が非常に有用である(コードネームで弾こうというコーナーの内容だけでも、実際に音を出しながら試したうえで、作曲に手をつけるのが近道だと思う)。

このコーナーでは、作曲技術の向上を目指す上で役立つ可能性が高そうな情報を(筆者の独断と偏見で)選び、できるだけ噛み砕いて紹介する。このページで紹介するのはあくまで「練習法の例」であって「よい曲を作る方法」ではないので、誤解しないように。

また、番外編の自動作曲を手作業で真似るを読めばわかるように、適当に音を並べるだけでも、メロディらしきものをひねり出すことは簡単にできる。今回習得を目指す技術はそういったものでなく、作り手の意図や意識を曲に反映させるためのものである。

説明を円滑に進めるために理論的な知識もいくつか紹介するが、苦手な人は理屈をすっ飛ばして音だけで理解してもよい。反対に、理屈だけの理解は無益どころか有害なので、説明されている内容を「手(または声)と耳で」理解できるようになるまでは先に進まない方がよい。


前提知識

音楽経験がまったくない人のために、このページで出てくる専門用語や表記法について少し触れる。ギターなどを使用する人も、シーケンサーのピアノロールの画面を見てみるとよい。少しつらいかもしれないが、最初に覚える分量は中学校の中間試験程度しかないので頑張って欲しい。理解することよりも体験することが重要な項目も多くある。また、理解の早さを優先して厳密さを犠牲にしている説明が多くあるので、承知しておいて欲しい。

音名はアルファベットで表す。C=ド、D=レ、E=ミ、F=ファ、G=ソ、A=ラ、B=シとなるので、これだけは絶対に暗記して欲しい(和名だとハニホヘトイロとなるが、このページの記事を読む上では英名だけ覚えればよい:余談だが、ドレミファソラシドはラテン語がおもな起源である)。

#は音を半音上げる、bは音を半音下げるという意味で使う(白い鍵盤と黒い鍵盤両方合わせて、右隣の音が半音上、左隣の音が半音下になる:半音2つ分を「全音」という言い方もあるので覚えておこう)。また、このページでは「♭」ではなく「b」と書くことにするので注意して欲しい(理由は単に変換が面倒だから:たとえばBbなら、Bより半音低い音という意味である)。音は・・・CDEFGABCDEFGABCDEFGABC・・・と、高い方にも低い方にもずっと続くので、これも覚えておこう。

どの音を中心にどんな雰囲気の音が集まって曲やパートを構成しているか、ということを「キー」という言葉で表現する(日本語だと「調」:正確な説明ではないが、現段階ではこの理解で差し支えない)。たとえば、手元の楽器なりシーケンサーのピアノロールなりで、CDEFGABCと順に音を出してみよう。これがCメジャー(ハ長調:Cの音を中心に明るい音色が出せる音を集めたもの)の音になる。赤がキーの音で、青はキー以外の「よく使う音」を示す。

つぎにGABCDEF#Gの順番で音を出してみよう。これはGメジャー(ト長調:Gの音を中心に明るい音色が出せる音を集めたもの)の音になる(Cメジャーと比べると、単に音の高さが違うだけ)。図でF#となっている音はGbと書いても同じ鍵盤を指す(こういう関係を異名同音という:異名同音という用語自体は急いで覚えなくてもよい)のだが、このページでは「Cの次はD、Dの次はE、Eの次はF・・・」と、同じアルファベットが2回出てきたり、飛ばされるアルファベットがあったりしないように名前をつける。

最後にABCDEFGAと順に音を出してみよう。これがAマイナー(イ短調:Aの音を中心に暗い音色が出せる音を集めたもの)の音になる。

Cメジャーと出てくる音が同じだが、並べ方が違えばイメージが変わることを覚えておいて欲しい。ここで「メジャー」とか「マイナー」と出てくるのは、それぞれ「明るい雰囲気」とか「暗い雰囲気」などという意味に理解しておけばよい(後でじっくり説明する)。一応サンプルファイルも用意した。なぜこういう音の集め方になるのかという理由は、今のところ「偉い人が集まって何百年か研究した結果たまたまそうなった」とだけ理解しておいて差し支えない。

Gメジャーのところでいきなり黒い鍵盤(略して黒鍵という)が出てきたが、これはたまたまである。「メジャー」という単語は「音の並べ方」を示しているが、Gから始めてCメジャーと同じ音の並べ方をすると、たまたまF#の鍵盤を使うことになっただけである。疑う人は、シーケンサーソフトにCDEFGABの音を打ち込んで、一番低い音(C)がGの位置になるようにまとめて移動してみよう(この作業を「トランスポーズ」という:やっていることはカラオケ機のキー変更機能と同じ)。

Gメジャー以外のキーについても、CメジャーかAマイナーで一度「よく使う音」を全部打ち込んでから同じように平行移動してやれば、どの鍵盤を使うのか調べることができる。

音と音がどれだけ離れているかを「度」で表す。これは単にアルファベットの数を数えればよい。

たとえばCから見てEは何度か、と考える場合は、CDEとアルファベットが3つあるので「3度」が正解である(CとEも数に入るので間違えないように)。このとき「必ず下から上に数える」というのがルールなので注意しよう。たとえば、Cから見てAは何度か、と考えるときに「CBAだから3度」とやってはいけない(Cから3度の位置にあるのはE)。出発点のCから上に「CDEFGAだから6度」と数えなければならない(どうしても下に数えたい場合は「Cから下に3度」などと、下に数えたことを明記する)。また「Cから見たG」はCDEFGで5度だが「Gから見たC」はGABCで4度である。

「いくつ上か」にこだわる理由は、和音を中心にのページで説明しているように「倍音」というものが音の響きに影響を与えるためなのだが、今は「上に数える」ということさえ覚えればそれで問題ない。

コードも覚えなくてはならない。基礎編では三和音(トライアド)と呼ばれるコードだけを使う(トライアドという名前は急いで覚えなくてもよい)。これは名前の通り3つの音で作る和音だが「音は下から上に1つおきに重ねる」というルールがある。どういうことかというと、Cメジャー(CDEFGABCDEFGABCDEFGAB・・・)でコードを作る場合、Cから始めるならCとEとG、

Gから始めるならGとBとD(Bの次はCに戻ってまた繰り返しなので)を使う。コードの音は丸で印をつけ、緑で示した。丸が2つついているのは「コードの最初の音」という意味である(「コードのルート」とか「ルート音」という言い方をすることもある:和名だとルート音ではなく根音と書くが、これは急いで覚えなくてよい)。

たとえばコード展開が「C>F>G>C」という曲があったら「Cから始めるコード(CEG)>Fから始めるコード(FAC)>Gから始めるコード(GBD)>Cから始めるコード(CEG)」の順番で演奏すればよい。ピアノなどにはCの鍵盤がたくさんあり、どのCから始めても大きな差し支えはないのだが、音が高すぎたり低すぎたりすると聴きにくいので、最初のうちは真ん中あたりのCを中心に使うことにする(シーケンサーソフトなら「C4」と表示されるC:この数字の意味については無視してよい)。

コードも「度」で表現することがある。この場合基準はキーの音で、たとえばCメジャーでFのコードを鳴らす場合、FはキーのCから見て4度の音なので、「キーの音から見て4度の音から始めるコード」という意味で「IV」と大文字のローマ数字で書く(ちなみにFの音単品の場合はivと小文字のローマ数字で書く約束なのだが、もうしばらく使わないので急いで覚えなくてもよい:クラシック方面では大文字をメジャーコード/小文字をマイナーコードの意で使うこともあるが、このコーナーではその用法を無視する)。

別の例として、キーがGメジャー(GABCDEF#)でCのコードを鳴らす場合、CはGから数えて4番目なのでやはり「IV」になる。

なぜ違う音なのに同じIVになるのかというと「CメジャーでFを使うのとGメジャーでCを使うのは音が似ているから」である。サンプルファイルで実体験してみよう。最初にC>F>Cのパターン、つぎにG>C>Gのパターンが入っているが「CからFの移動とGからCの移動、FからCの移動とCからGの移動はそれぞれ同じ」に聴こえないだろうか。同じに聴こえるものは同じ名前で呼べるようにした方が便利なので、共通の名前「IV」を使うことにしたのである。これに限らず、どんな音楽理論も根本的な根拠は「そう聴こえるから」であるため、実際に音を出して「確かにそう聴こえる」ことを確認するのが重要である。

コードにもメジャーとマイナーがあり、メジャーコードはたとえばCとかFとかGのように大文字アルファベットだけで書いて「シー」とか「エフ」などと読み、マイナーコードはAmとかDmとかEmのように大文字アルファベット+小文字のmで書いて「エーマイナー」とか「イーマイナー」などと読むのだが、ここでは「メジャーキーで使うコードがメジャーコード、マイナーキーで使うコードがマイナーコード」だと認識してしまって構わない。1つのキーで使うコードは3種類(メジャーキーならIとIVとV、マイナーキーならImとIVmとVm)というのが基本である(この「基本となる3種類」を「スリーコード」「主要3和音」などと呼ぶが、名前は今すぐ覚えなくてもよい:単に「主要和音」と呼んだ場合もたいていこれのこと)。

ビートとリズムについても少し触れておきたい。このページの前半では8ビートを主に使用する。8ビートとは何かということを真面目に考えると本当はいろいろと面倒なことがあるのだが、ここでは大雑把に理解する。このサンプルを聴いて、ハイハットの音(チッチッチッチという音)を数えてみよう。123456781234567812345678・・・つまり8回ワンセットのループになっていないだろうか(わからなくても「たまたま8ビートが耳に合わなかっただけ」なので落ち込む必要はないが、そのままではこのページで紹介する練習法を続けることができないので、続けたい場合は聴き取れるまでチャレンジしよう)。ハイハット8回分を「小節」と呼び、長さの基本単位になるので覚えておこう。


コードにメロディをつける

メロディを先に作ってそこにコードをつけよう、と考えている人も、この練習は必ずやった方がよい。

まずはメジャーキー8ビートの練習。キーはCメジャーなので、ギターや管楽器の人はシーケンサーソフトのトランスポーズ機能(詳しい使い方はソフトのヘルプを参照)で好みのキーに変更しておこう。それ以外の人はそのままでよい。テンポがしっくり来ない人も適宜調整する。手元の楽器で作曲する人は、コード進行だけ真似てMIDIファイルは使わない、というスタイルでもよい。

キーを変えなかった場合、演奏されるコードは「C>F>G>C>G」の繰り返しになる(「C>G」は「最初はCだが途中からG」という意味)。キーがCメジャーなので、度で書き直すと「I>IV>V>I>V」の繰り返しということになる。もしキーをGメジャーに変えて平行移動すると「G>C>D>G>D」に、Aメジャーに変えれば「A>D>E>A>E」になる。

どうしてコードを勝手に決められるんだと不満に思う人もいるだろうが、この展開に多く含まれている「4度上がるまたは5度下がる」という動き(「5度進行」とか「強進行」と呼ばれるが、名前は急いで覚えなくてもよい)が非常に重要で、これさえしっかり身につければ複雑な進行への対応も楽になる。この伴奏に合わせて、慣れるまで少なくとも5パターンくらいはメロディをつけてみよう。メロディごとに「こんな感じにしよう」というイメージをしっかりと持つことが重要である。

コードが決められている代わりに、メロディにはどんな音を使ってもよい。最初に「Cメジャーで使う音はCDEFGAB」などと説明したが、より正確には「よく使う音」であって、これ以外の音を使うのがいけないわけではない。自分がしっくりくると思った音ならばどんどん使おう。

出来上がったメロディは後で使うので、必ず保存しておくこと(生楽器でメロディをつけた人も、メロディをMIDIで打ち込んでおく:楽譜を使って紙ベースで作業を続けるなら必須ではないが、DominoやCherryを使わないと後の作業が面倒になる)。CH #2にコード、CH #3にベースが入っているので、CH #1にメロディを入れるとよいだろう(シーケンサーの操作がわからない人はヘルプなどを参照)。

参考までに、筆者がメロディをつけたサンプルを掲載しておく(その1その2:最初の1ループしか作っていないが、実際の練習では4ループ分作ること)。もちろん、このサンプルの真似をする必要はまったくない(後で使うのでついでに掲載しただけ)。

ここで楽器を持っていない人に1つ注意がある。いきなりピアノロールで入力を始めるのはやめよう。ピアノも、ギターも、サックスも、楽器にはすべて「スムーズに演奏するための工夫」が無数になされているが、ピアノロールはこの点で数段劣る。作曲には五線譜とペン(これも非常によくできた道具には違いない)以外使わず「音が出るものはかえって邪魔」という人もおり、必ず楽器を使わなければならないというルールもないが、メロディを記録する方法は楽譜を書くかシーケンサに打ち込むか録音するかくらいしかないわけで、もし楽譜を書けず残った2つから選ぶなら実際に音を出して録音するのがオススメである。ということで、鼻歌でもなんでもよいので、一度シーケンサーの外でメロディを作り、それを録音しておくなどして打ち込みをしよう(メロディを打ち込む作業がどうしてもできないという人は自動採譜ソフトなどを利用する手もある)。ただし上記は作業方法についてとくにアイディアを持っていない人向けの話しで、自分に合うと感じる方法をすでに実施している人があえて改める必要はない。

ちなみに、同じ人が作曲しても、使う楽器によって出来上がるメロディは大きな影響を受ける。筆者は鍵盤単独やギター+鼻歌(楽器はどちらもド初心者)などで作曲するが、鍵盤で作った曲とギター+鼻歌で作った曲は明らかに傾向が違う(キーボードの音色をギターにして鼻歌で作曲してもギターのときと同じにはならないので、音の問題だけではない:演奏時の手の動きや音の把握の仕方が強く影響しているのだと思う)。詳細は2008年4月13日の日記に書いたが、筆者の場合、ギターでマイナーキーの曲を作ろうとすると必ず「昭和の香り満載」になってしまう(涙)。複数の楽器を持っている人は、いろいろ試してみるとよいだろう。

閑話休題。メジャーキー8ビートの練習に満足したら、次はマイナーキー8ビートで同じように練習する。演奏されるコードは「Am>Dm>Em>Am>Em」の繰り返しで、度で書くと「Im>IVm>Vm>Im>Vm」のパターンである。もしかすると「あまりぱっとしない感じ」になるかもしれないが、これには仕掛け(タネ明かしは基礎完成編で)があるので気にしなくて構わない。


メロディを分析する

さて、何パターンかメロティができたら、少し分析をしてみよう。本来これはかなり面倒な作業なのだが、Cherryを使うと非常に楽チンになる(筆者自身、この項で紹介する機能があるためにCherryを手放せないでいる:Dominoにも似たような機能はあるのだが、Cherryの方が微妙に高性能である)。

まずは、コードだけの演奏(サンプルファイルそのまま)をCherryに読み込んで、表示>トラックモニタと選択しよう。

鍵盤がびっしり並んだ画面が表示されたと思う。注目するのは一番上の鍵盤のところで、ここを見ながらサンプルファイルを再生してみよう。キーを変えていなければ、緑文字で「C」>青文字で「F」>赤文字で「G」>緑文字で「C」・・・と表示が変わっていくはずである。

表示が速すぎて見えない場合は、テンポを半分くらいに落としてみよう。

キーを変えた人は、編集>拍子/調性/マークと選んで「M1」から始まる項目を選び、Editボタンを押し、Keyの項目を選び、OKボタンを押そう。





これでCherryがキーの変更を認識してくれる。

さて、今度はメロディも入ったファイルを読み込んで、同じように演奏モニタを見ながら再生してみよう。「変な表示」が現れる部分があるはずである。

これはどういうことかというと、コードと同じ音(コードトーンという:コードがCだったらC音とE音とG音)はいくら重ねても表示が変わらず、コードトーンでない音を重ねると表示が変わる、という仕組みになっている。つまり、表示がほとんど変わらない人はコードトーンばかりを使っており、表示が変わりっぱなしの人はコードトーンでない音ばかりを使っているということになる。

ここではコードネームを中心に音の響きを把握しているので、コードネームの表示に変化が少ない=音の響きに変化が少ない、コードネームの表示に変化が多い=音の響きに変化が多い、ということだと認識しておいて構わない。もちろん、多ければよいとか少なければよいとかいった性質の問題ではなく、実際の曲には安定感のあるメロディが必要なパートもあれば動きのあるメロディが必要なパートもある。

もう1つ覚えておきたいのは「メロディもコードの一部になる」ということである。たとえばCのコードはC音とE音とG音で作るが、ピアノでC音とE音を鳴らしながらヴォーカルがG音を出すようなケースでも、全体として見れば普通にCのコードである(「全体のコードネーム」は、参加するすべての楽器の音を足して考える)。

表示が複数になるのはコード解釈の候補が複数あるからで、今回はベースをイジっていないため(というのが何故理由になるのかはもっと後で説明する)、CならC、GならGの文字がコードだけのときと変わらないものを見ればよい。同じアルファベットのものが複数あったら、書き方が簡単そうな方を感覚で選んで構わない(上の図の演奏では元が「F」だったので「F6」だと解釈する:F6がどういう意味なのかはまだ知らなくて大丈夫なので、Fの親戚みたいなものだと思っておこう)。

メロディによってはコードの後ろに括弧書きで数字が入ることがある。

これはコードから少し外れた音が入ったことを示している。ただし、メジャーコードで数字が9の場合とマイナーコードで数字が11の場合だけはそれほど外れた音ではないので、覚えておこう(面倒だが仕方ない)。

基本的には、I(キーがCメジャーならC)のコードに音を足した場合は緑系、IV(キーがCメジャーならF)のコードに音を足した場合は青系、V(キーがCメジャーならG)のコードに音を足した場合は赤系の色でコードが表示されるのだが、足した音によっては色が変わることもある(ちなみに、コードの後ろに6がつくと色が黒くなってしまうのはちょっと設定がおかしい気がするのだが、Cherryの仕様なので我慢しよう:あくまで筆者が使っているバージョン1.4.3の仕様なので、もっと新しいバージョンでは直っているかもしれない)。

括弧付きの数字が出てくる部分やコードの色が変わる部分は一般に不安定な響きの音になるが、不安定=ダメと安易に決め付けるのはよくない。実際、筆者が作成したサンプルのその2を分析してみると不安定な音がかなり入っているが、全体としてダメと言えるほど酷いことにはなっていないはずである。もちろん、その1のように終始安定したメロディがダメということでもない。自分が作ったメロディの特徴を知ることが第一である。


メロディをさらに分析する

メジャーコードにメロディをつけたファイルをCherryに読み込んで、ピアノロールの鍵盤部分を(どこでもいいので)右クリックしてみよう。

Scaleの項目からキーを選んでOKを押すと、

このようにピアノロールの色が変わる。

灰色の部分に音がある場合、その部分はかなり「変わった響き」に聴こえるはずである。音の響きを目でもチェックできるという意味でありがたい機能である。

キー(曲全体の雰囲気)に対して変わった響きの音だけでなく、コードに対して変わった響きになる音をチェックすることもできる。ソフトの仕様がネックになってメジャーコードにしか適用できないが、便利な方法である。

先ほどと同様に鍵盤を右クリックして、分析する部分のコードをchordの項目から選び、69を選んでOKを押す。

するとこのようにピアノロールに色がつく。

色には意味があるのだが、とりあえずは色のついた部分とついていない部分に分けて考えればよい。色がついていない部分(灰色も色つきに含む)にある音が、コードに対して「変わった響き」を出す音または「コードの雰囲気を変える音」になる(どちらになるかは後で触れる:答えだけ先に書くと、メジャーコードであれば演奏モニタのコード表示に「7」という数字がつく音が、マイナーコードであれば「6」という数字または「(b13)」がつく音が、雰囲気を変える音である)。

もしコードの部分に「m7 add11」という項目があればマイナーコードでも同じ方法で分析できたのだが、残念ながらcherryではできない。仕方がないので、ちょっとインチキをする。マイナーコードの場合は、アルファベットを選ぶところで「本来のコードよりも半音3つ上」を選べばよい。たとえばAmであれば「C」を選んで、あとはメジャーのときと同じように「69」を選ぶ。わけがわからないだろうが、こうすることでとりあえず「色つき」と「色なし」に分けることは可能(色の意味はずれる)なので、苦肉の策として覚えておこう。

2010年12月追記:Dominoのバージョン1.39以降から、ピアノロールにスケール/コードを表示ボタン>ピアノロールにスケールまたはコードを表示するにチェック>スケールを選択>ルート(コード名と同じ、たとえばAmならA)を選択>メジャーコードならMajor Pentatonic、マイナーコードならMajor Pentatonicを選択、とすることで上記と似たような使い方が可能になった。好みで使い分けて欲しい。


メロディ分析のまとめ

まずは「キーに対して変わった響きになる音」が多いか少ないか、多いとどのような効果があって少ないとどのような効果があるのか、ということを確認してみよう。次に、コードに対する響きも同じように確認する。

安定度としては、コードの名前が変わらない音(コードトーン)>コードネームは変わるがコードの表示で色つきの場所にある音>コードの表示で白い場所にあるがキーの表示でも白か赤の場所にある音>キーの表示で灰色の場所にある音、という順になる。単純に安定していればいいというものではなく、安定しているということはコード伴奏とメロディの一体感が強いということで、メロディが埋もれたように感じる場合もある(とくに、メロディにコードのルート音を多用した場合:埋もれた感じが吉と出るか凶と出るかは場面次第)。

慣れたら度で考えるようにして、どのコードに対して何度の音がどのような響きを持つか意識してみよう。本当は「コードの表示で白い場所にあり、かつキーの表示では灰色の場所にある音」というのもあり得るのだが、今回使ったコード進行では出てこない。さらに慣れて自分の癖や音の特徴がわかってきたら、今まで作ってきたメロディをいろいろと改造してみよう。音程をさまざまに動かして、安定したメロディを不安定なメロディにしたり、その逆を試したり、といった実験を行うとよい。慣れてきたら、最初から安定度を気にしてメロディをつけるということもやってみる。

しばらく安定させた後で急に不安定にしたり、不安定なパートを続けて最後に安定させたりして効果を確認しよう。同じような安定度の音でも、使う場面によって驚くほど印象が変わることがわかると思う。同時に、不安定な音を多用したい場合にこそ安定感のある音を使った「足場作り」が重要で、安定感を強く感じさせるためには不安定な音による「揺さぶり」が必要になる、ということも意識的に体験しておくとよい。

なお、メロディライン自体がギクシャクする場合は、音程を大きく動かしすぎている部分がないかどうかチェックしてみて欲しい。度数で7度以上の上下移動は、入念に準備しないとぎこちない感じになりやすい。反対に全音または半音の上下移動は、コードの音色と多少ぶつかってもそれほど違和感なく行える(順次進行というが、名前はまだ覚えなくてよい)。3~6度の移動は、出発点か到着点のどちらかをコード表示が変わらない音にすると安定しやすい。あくまで目安だが、なんとなく上手くいかないときに思い出してみて欲しい。


コードについて考える

ここまで読み進めた読者は、もう何度も1451(メジャーとマイナーを区別したくない場合や書かなくてもわかる場合はローマ数字でなくアラビア数字で書く:この場合は「I-IV-V-IまたはIm-IVm-Vm-Im」と同じ意味)のパターンを耳にしながらメロディを書いてきたと思う。練習をする中で、ループの中に「起伏」のようなものがあることに気付いた人もいるのではないだろうか。

気付かなかった人も改めてループを聴いてみれば、とくに5から1に移る部分で「盛り上がり>決着」とか「引っ掛かり>解消」といった感じの流れを感じ取れるだろう(これがまったく感じられない、という人は、残念ながらコードネームを中心にしたポピュラー音楽には向いていない:「そう言われればそんな気もする」程度に感じ取れる人なら、耳さえ慣らせばごく普通に聴き取れるようになるだろう)。

ここで、1と4と5について、音の印象をまとめると次のようになる。

万人が同意する定義ではないかもしれないが、言われてみると確かにそんな気がする程度の説得力はあるのではないだろうか。今すぐすべてが納得できる必要はないが、後々重要になるので、今のうちから意識だけしておくとよいだろう(メロディを作る助けにもなる)。細かいことを言えば5の不安定感と4の微妙な不安定感は(強さだけでなく)質が異なるのだが、今のところ気にする必要はない。

5の音の不安定さが耳に入ると、多くの人は1の安定した音が聴きたくなる、という傾向がある。これは「ボケとツッコミ」とか「ぬるぽとガッ」などと似た関係で、ボケた後少し引っ張ってからツッコミを入れるというやり方もある。

5は不安定さが売りの和音なので、メロディにも不安定な音を使いやすい。反対の理屈で「1は安定しているから少しくらい不安定な音を乗せても大丈夫」と考えられる場合もあるし「ただでさえ不安定な5をこれ以上不安定にしたくない」という場合もあるだろう。場面をよく理解することが大切である。

ついでに、それぞれの別名を覚えておきたい。1は「トニック」、5は「ドミナント」、4は「サブドミナント」と呼ばれる。和名(覚えなくていいが理解のために紹介する)だと「主音」「属音」「下属音」で、それぞれ「キーのメインになる音」「主音以外で重要な音」「主音以外で重要な音の低い方」といった意味である。

コードも同様の名前で呼び、1(トニック)をルート(最初の音)にしたコードを「トニックコード」、5(ドミナント)をルート(最初の音)にしたコードを「ドミナントコード」、4(サブドミナント)をルート(最初の音)にしたコードを「サブドミナントコード」という(これも和名は覚えなくてよいが、それぞれ「主和音」「属和音」「下属和音」:英名で区別を明確にしたい場合は「トニックコード」「トニックノート」などと言い分ければよい)。

上記のように、単音と和音で呼び方を変えるのが本来なのだが、クラシック方面で厳密な議論をする場合以外は「トニックコード」のつもりで単に「トニック」などと書いてしまうことが多い(このページでもそのように記述する)。メジャーかマイナーかはっきりさせたい場合は「ドミナントメジャー」とか「サブドミナントマイナー」などと呼べばよい(ただし、1と4と5の主要コード以外について言う場合はちょっと事情が異なる場合がある)。

一覧をもう一度掲載する。

これからずっと使う知識なのでよく覚えておこう。


もう少し決まったコードで練習する

最初に挙げた「4度上がる」「2度上がる」「5度下がる」というパターンは何度も練習した。今度は1541(CメジャーならC-G-F-C)のパターンで「4度下がる」「2度下がる」「5度上がる」というパターンを練習する。

最初にやったパターンがクラシック的な穏やかさを持つのと比べて、やや波風のあるロック調の展開といえるだろう。1>5の急展開にしても、5>4>1の勿体をつけた解決にしても、用途や応用は非常に幅広く曲の軸としても機能する。

前回同様メジャーキー8ビートマイナーキー8ビートの伴奏を用意したので、それぞれ練習しておこう。

メジャーキーだけまたはマイナーキーだけで曲を作る予定の人も、必ず両方のキーで練習をしておこう。メロディの分析もしっかりとやりたい。これまでずっと8ビートだけで通してきたが、それ以外のリズムやビートも試してみるとよいかもしれない(他のページで使用したドラムパターンのサンプルがあるので、ここから適当に音を抜き出してコピー&ペーストして欲しい:電子楽器などを持っている人なら、楽器のドラムマシン機能を使うなどしてもよい)。

最後にもう少し長いもの(メジャーとマイナーの2種類、番号は伴奏の音色の違いなので好きなものを選ぶ:これもテンポやドラムパターンを変えてみよう)を用意した。これまでに出てきた全パターンが入っており、軸になる繰り返しにちょっとヒネったパートが割り込む形。

これで、1と4と5(スリーコード)を使ったあらゆるパターンについてメロディをつける練習をしたことになる。次はいよいよコードを自分で決めてメロディをつける練習をする・・・のだが、ジャンルによってはコードを自分で決める必要がまったくない場合もある(一部のブルースなどは進行が最初から決まっている:正確には「進行が」決まっているわけではないのだがここでは触れない)。必要がある人のみ先に進んで欲しい。



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