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C4の倍音を順に見ていくと
倍音 | 音程 | 最初のCから見た距離 | 純正律の場合 |
1倍音 | C4 | 完全1度 | 完全1度 |
2倍音 | C5 | 1オクターブ上の完全1度(完全8度) | 完全1度 |
3倍音 | G5 | 1オクターブ上の完全5度 | 完全5度 |
4倍音 | C6 | 2オクターブ上の完全1度 | 完全1度 |
5倍音 | E6 | 2オクターブ上の長3度 | 長3度 |
6倍音 | G6 | 2オクターブ上の完全5度 | 完全5度 |
7倍音 | -- | 2オクターブ上のAとB♭の間、B♭寄り | 短7度(よりもやや低い) |
8倍音 | C7 | 3オクターブ上の完全1度 | 完全1度 |
9倍音 | D7 | 3オクターブ上の長2度(よりもやや高い) | 長2度 |
10倍音 | E7 | 3オクターブ上の長3度(よりもやや低い) | 長3度 |
11倍音 | -- | 3オクターブ上のFとG♭の間、ややG♭寄り | 減5度(よりもやや低い) |
12倍音 | G7 | 3オクターブ上の完全5度 | 完全5度 |
13倍音 | -- | 3オクターブ上のG#とAの間、A寄り | 長6度(よりもやや低い) |
14倍音 | -- | 3オクターブ上のAとB♭の間、B♭寄り | 短7度(よりも低い) |
15倍音 | B7 | 3オクターブ上の長7度(よりやや低い) | 長7度 |
16倍音 | C8 | 4オクターブ上の完全1度 | 完全1度 |
これを見てわかるように、(倍音が出ないような楽器は別として)単音を出しただけでも、倍音が勝手に(擬似的な)和音を作り出しているということがわかる。倍音は倍数が大きくなるにつれて音量が小さくなるので、その擬似的和音は、ルート音、完全5度音、長3度音(と、短7度音に近い音がわずかに入る)で構成されている(単音Cを鳴らした場合だとCGEB-となる)ことがわかる。このことを出発点として、スケールやコードなどについて考えてみる。
余談になるが、グランドピアノの蓋を開けてダンパペダルを踏みながらC音を強く出すと、上記の倍音が出ていることを(弦の振動から)目で確認できる。グランドピアノが手近にない場合は、アコースティックギターでメジャーコード(Gメジャーあたりが適当)を押さえつつ、ベース音を担当する弦(Gメジャーなら6弦)を強くはじくと、同様の現象が見られる。
また、Cの倍音成分に短7度音に近い音が入っていると述べたが、ドイツ式ではCから見た短7度音をB、長7度音をHと表記する。もとは明確な区別がなく両方bと書いていたようで、その後低い方を「丸い文字のb」、高い方を「角張った文字のb」で表記する方法が普及し、前者が現在の♭、後者が現在の#やドイツ式Hやナチュラル記号になったのだという。
以下、Cを基底音(root)として半音づつ上行した場合の音階の一覧。周波数についてはrootであるCの周波数を1として、その何倍であるかを有効桁数9桁で求めたうえで7桁目まで丸めてある(rootから半音n個分離れた音の周波数xは、rootの周波数をRとして、x = R*2^(n/12)で求められる)。機械調律(平均律)での数字だが、自然調律(純正律)での数字も括弧内に併記した(この数字の分母が小さいほど、不協和音が出にくい:純正律の減5度は説が一定していないので仮にルート2としておく)。
周波数 | 英略名 | 和名 | 音程 | 距離 | root音との関係 |
1(1) | p1 | 完全1度 | C | 0 | ユニゾンという |
1.059463(16/15) | m2 | 短2度 | D♭ | 1 | 長7度下行と同義 |
1.122462(9/8) | M2 | 長2度 | D | 2 | |
1.189207(6/5) | m3 | 短3度 | E♭ | 3 | 長6度下行と同義 |
1.259921(5/4) | M3 | 長3度 | E | 4 | |
1.334840(4/3) | p4 | 完全4度 | F | 5 | 完全5度下行と同義 |
1.414214 | d5 | 減5度 | G♭ | 6 | 不協和音で、三全音(トライトーン)という |
1.498307(3/2) | p5 | 完全5度 | G | 7 | 完全4度下行と同義 |
1.587401(8/5) | a5 | 増5度 | G# | 8 | 長3度下行と同義 |
1.681793(5/3) | M6 | 長6度 | A | 9 | |
1.781797(16/9) | m7 | 短7度 | B♭ | 10 | 長2度下行と同義 |
1.887749(15/8) | M7 | 長7度 | B | 11 | |
2(2) | p8 | 完全8度 | C | 12 | オクターブといい、p1の倍音としても含まれる |
上記一覧の括弧内の数字(ここでは仮にXとする)を用いて、(logX)/(log2)*1200を求めると、ルート音から何セント上かがわかる(除算して結局(log[2]X)*1200([と]の間の数字は底を表す)になるので対数の底はなんでもよく、常用対数でも自然対数でもその他の対数でもかまわない)。たとえばG音なら{log(3/2)}/(log2)*1200なので702となる(100セントで平均律の半音1つ分)。
この項目では、すべて純正律(後述)で考えることにする(でないと話がややこしくなるので)。
倍音成分として、元の音から完全5度上の音が豊富に含まれていることはすでに述べた。よって、ある音に完全5度の音を重ねても単音のときとあまり印象が変わらず、非常に自然な感じを生む(単音と比べて、倍音が強調されただけのような響きになるはず)。また、完全5度の音自身も倍音を出しており、これがルート音の倍音と一致する。たとえばC音に完全5度上のG音を重ねた場合、Gの2倍音は1オクターブ上のGだが、これはCの3倍音でもある。このように、同じ音を倍音として含む音同士は、調和のある和音を生み出すことができる。
ということで、1度と5度の2音だけでコードを構成することが可能で、これをパワーコードという(C+GならPowerC)。調和が取れているという意味では、もっとも強力な和音といってよいと思う。CとGはそれぞれ3倍音と2倍音で出会うが、これは1度と8度の和音(と呼ぶのかどうか知らないが)に次ぐ早さになっている(2倍と4倍の倍音はオクターブを上げただけの音なので考えなくてよい)。
また、完全4度のFでも似たような結果になりそうな感じで、実際に調和の取れた音は出るのだが、完全4度の関係より完全5度の関係の方が強力なので、これはPowerFに聞こえてしまう(単音のCよりも、単音のFがより強く連想されてしまう:詳しい事情については音が出る仕組みのページを参照)。
ちなみに(倍音ではなく)完全5度の積み重ねで音の親和性を判断する(=完全5度上昇を何回繰り返せばその音にたどり着くか、という「距離」を基準にする)考え方もあり、完全1度>完全5度>長2度>長6度>長3度>長7度>減5度>短2度>短6度>短3度>短7度>完全4度となる(協和/不協和の考え方とは違った基準で判断しているので、結果もおのずから異なる)が、実際にこのような方法で調律すると、減5度はそれほど明確な不協和音にならなかったりする。また、ジョージラッセルという人が提唱したリディアンクロマチックコンセプトという理論では短2度を特別扱いして最後に回すようだ。
パワーコードを作ったのと同様に、次は長3度の音を足してみる。当然のごとく、これも調和の取れた和音で、たとえばCをルートにした場合、CEGという構成になるのだが、これをメジャートライアドという(トライアドというのは3つ重ねるという意味で、おそらく最初は単にトライアドと呼んでいたのだろうが、後から後述のマイナートライアドが出てきたためにこのように呼ぶのだと思われる)。
完全5度音の倍音をもう少し上の方まで見てみると、3倍音と5倍音にルート音から見てそれぞれ長2度と長7度の音が出てくる。長3度音については、3倍音にルートから長7度の音が出てくるほか、5倍音でルートから増5度(たいした音量ではなく、そもそもルートから長3度下行した音なので、パワーコードに比べれば濁りがあるものの、それほど酷い不協和音にはならない)の音が出てくる。ここで出てくる長7度や長2度の音は、後で4和音をやるときにちょっと絡んでくる。
強さでいうと、長7度>長2度>増5度>短7度(よりやや低い)=減5度(よりやや低い)といったところか(すべてルート音から見た音程)。これ以降は、それぞれの構成音から減5度よりもやや低い音と長6度よりもやや高い音が、それぞれ11倍音と13倍音として現れるくらいで、あまり考えなくてよい。
ここで、あるメジャートライアドの次に他のメジャートライアドを鳴らす場合を考えてみる。たとえばCの後に鳴らすコードとしては、何がいちばん(というと語弊があるかもしれないが)自然だろうか。結論から言うと、完全4度上のFになる。これがどうしてなのか筆者もあまりよくわかっていないが、たとえば単音でG>Cと鳴らした場合でも、倍音の豊富な(テンションの高い)楽器であれば後述のドミナントモーションに近い効果が得られるので、それが3音分重なるためかもしれない。
とにかく、この完全4度上昇がもっとも自然な進行であることを受け入れると、Cの次にはF、Cの前にはGが鳴っているというのが、もっとも自然だということになる。同じコードが続けて鳴る場合には自然な進行も何も関係がないので、I>IV>V>I>IV>V・・・という繰り返しが、もっとも自然なコード進行であるといえる(後述のスリーコード進行の核となる)。
上記の完全4度上昇を強進行というが、ちょっと用語が混乱しており、狭義の強進行(I>IVをはじめとする完全4度上昇の別名)と広義の強進行(とくに強力な進行を指す)がある。おそらく前者が本来の用法で、完全4度上昇の強進行に対して完全5度上昇を変進行と呼ぶ。後者の用法もとくに断りなく使われ、短3度下降を強進行に入れる人もいるし、2度上昇と3度下降を強進行に入れる人もいる。また長2度下降を偽の強進行と呼ぶことがある(IをIVに摩り替えるのがポイントなので、狭義にはV>IVの進行だけを指すのかもしれない)。とりあえず、完全4度上昇・短3度下降・長2度上昇はパワフルで、狭義の強進行に対して完全5度上昇を変進行、強進行の行き先を摩り替えるのを偽の強進行と呼ぶと覚えておけばよい。これ以外に、半音上昇と下降も強い進行力を持っている。
Iからはどんなコードにも進行可能、IへはVかVIから進行、その他は強進行とそれに準じる進行(短3度下降か長2度上昇)が可能、というのが一応の原則だが、後述の代理コードの考え方を採り入れると、V>Iと進んでもIIm>Iと進んでも大差ない(と言っていいのかどうか知らないが)ので、あまり気にしなくてよいだろう(多分)。ただ、「なんとなくギクシャクする」といった場合には思い出してみるとよいかもしれない。また、構成音が1つも共通していないコードに進む場合(長2度上昇とか)、右手と左手はなるべく平行移動させず、左手の音(ベース音)が上がるなら右手の音は下げ、左手の音を下げるなら右手は上げる、という原則がある。
ここで、Cのメジャートライアドを鳴らしたときに強く出てくる音を集めると、C、G、E、B、Dとなる(これより弱い音はとりあえず無視)。これらは(手順を考えると当たり前なのだが)Cの倍音として現れる音でもある。これに(メジャートライアドを作るための特別な存在である)完全5度を裏返した(下行した)F(当然、不協和音の少ない和音を作るし、Cから完全4度上昇の行き先としても重要)と、微妙に音程はずれるが一応ルート音の倍音成分で後述のマイナースケールに(平行調の基底音として)絡んでくるA(Cから短3度下降の行き先としても重要)を加えて順に並べると、CDEFGABCとなる。
これがいわゆるKey on C のナチュラルメジャースケール(Cを基準に調和の取れた和音を作る音を集めたという意味、だと思う:メジャースケールといえば普通これなので「ナチュラル」を省いて呼ぶことが多い)を構成する音になる。もしくは、C>F>G>Cというスリーコード進行が可能になるように音を集めたと考えてもよい(こっちの方が納得しやすいかも)。この種の「全音移動が多い音階」を全音階(ダイアトニックスケール)と呼んで「半音移動が多い音階」である半音階(クロマチックスケール)と区別するが、厳密な区別はない(一般には、クロマチックスケールというと「すべて半音移動のスケール」を指し、クラシックの文脈でダイアトニックスケールというと暗黙のうちにナチュラルメジャーまたはナチュラルマイナーを示す:古典的な文脈での語義については、コードにメロディを乗せるの項で少し触れる)。「ダイアトニックな」と形容詞的に使うと「全音階上の」という意味になる。
メジャースケールの音を、基準にした音(基底音=ルート音)からいくつ上にあるかで長x度と表現し、それ以外の音を短x度と表現する。1度と8度、5度と4度だけは、とくに不協和音の少ない音として完全x度と書き、スケール基底音から見て完全1度(key on C の場合C)を主音、完全4度(key on C の場合F)を下属音、完全5度(key on C の場合G)を属音という。完全x度もしくは長x度から半音上げた(不協和音を作る)音を増x度、完全x度もしくは短x度から半音下げた音を減x度と表現する(とくに、完全x度から半音上げ下げした音についてこう呼ぶことが多い)。
前述のとおり、完全4度と長6度の音(key on C の場合FとA)はルート音(key on C の場合C)と調和する音ではなく(Fから見たCは調和する音だし、Cから見たAは調和しないというほどではない)、いろいろと奇妙な性質を持つことになるが、それについては後述する。
話が前後するが、純正律というのは結局「和音がきれいに鳴るようにスケールを決める」のをさらに推し進めて、1オクターブを12等分するよりもっときれいな和音が鳴る調律法を突き詰めたものだと考えるのがよいだろう(歴史的には純正律の方が先にあったわけだが)。
基本的には、主音の3/2倍の周波数の音を完全5度(属音)と考え、そこからさらに完全5度上行して1オクターブ下がり長2度(主音の3/2倍の3/2倍の半分=9/8)を決める。3/2倍して主音になる音(の1オクターブ上)が完全4度(下属音:主音の2/3倍の2倍=4/3倍)で、ここまでは確定と考えてよいはずである。
分母が小さくかつ1<x<2となるような既約分数を探すと、3/2、4/3、5/3、5/4、7/4が挙がる。このうち3/2と4/3はすでに使っており、大きさとしては1<9/8<5/4<4/3<3/2<5/3<7/4なので、長2度と完全4度の間の5/4を長3度、完全5度のすぐ上の5/3を長6度に当てはめる。
この理屈でいくと長7度は7/4になりそうだが(その様にする調律法もあるかもしれない)、Vをルートにした和音の響きを優先して完全5度の5/4倍(主音の3/2倍の5/4倍すなわち15/8倍)にする(和音の響きを濁らせないことを最優先した結果だろうが、長6度と周波数が近すぎるという都合もある)。IVの和音については、完全4度から長6度までがもともと5/4倍なのでこのような問題は起きない。
これでI・IV・Vの各和音がきれいに鳴るようになったので、あとは、主音から長7度下行して1オクターブ上がると短2度、長6度下行して1オクターブ上がると短3度、などとして短音階を決めていく。最後まで問題になるのは主音から減5度(増4度)の音だが、これを決める基準が今ひとつはっきりしない。
他の音との関係を考えると、完全4度の短2度上が減5度もしくは長7度の完全5度上(の1オクターブ下)が減5度と考えられる(ダイアトニックな音のうち、減5度から始まるメジャースケールに現れるのは上記2音だけ)ので、64/45もしくは45/32が候補になるが、前者を減5度(4度上行+2度上行なので5度扱いになる)、後者を増4度(7度上行5度上行なので11度扱いで、7引いて1オクターブ下げると4度ということになる)として別々に扱っている解説などもある。
これは筆者の憶測に過ぎないが、純正律というのはもともと「調性を守ってうなりのない和音を出すためのもの」(響きが濁るIIをルートにした和音を避けて作曲することもあるくらい)なので、主音から三全音の音など最初から使う気がなく「どうでもいい」と考えられたのではないか、という気もする。
メジャースケールでは、IとIVとVをそれぞれルートにしたトライアドが作れるというのがここまでの話だったが、それ以外の音をルートにしようと思うと、少し困ったことになる。たとえばDをルートにトライアドを作ろうと思うと、D+F#(G♭)+Aという構成にしなければならないのだが、G♭はダイアトニックな音ではない。たとえ話になるが、D音としても「スケール基底音Cと愉快な仲間たち」という触れ込みで集まっている以上、C音と仲の悪いG♭音を連れて行くわけにはいかないのである。そこでケナゲにも「C音さん、アナタについていきます。多少の不協和音なんて気にしません」と、本来自分とは仲のよくないF音(短3度)を代わりに連れて行くことになる。ただし、このF音はD音の親友であるA音とは仲がよい(Fから見てAは長3度)ので、それほど険悪なことにはならないで済む。
この和音のことをマイナートライアドといって、抑圧されたような、ちょっと悲壮な音になる。それと同時に「ここのボスはC音だ」ということが鮮明に打ち出されることにもなる。D音ルートの場合以外に、E、A、Bをルートにした場合も同様(Bの場合、完全5度もダイアトニックでないので、完全な不協和音にさせられる)。Cマイナーの場合、C>G>E♭>B♭>D(>E>G♭)といった強さで音が鳴っていることになる。
歴史的には、対位法で1・3・5・6・8度が調和音とされている(4度は不協和音)ことから、3和音の候補として1・3・5度と1・3・6度が挙がった、ということらしく、後者がもとの和音よりルート音が短3度下がったマイナートライアドになる(たとえばCをルートに1・3・6度で音を重ねると、C・E・Aとなり、Amの第一回転形になる)。
メジャートライアドに目を戻して先ほどの話を反対に見ると、スケール基底音のCとマブダチであるF音とG音(とC音自身)は「メジャートライアドを許された特別な存在」ということができる(名前からして違うし)。このため、これらの音が作るメジャートライアドは、堂々とした、晴れやかな音になる。まさに「Cと愉快な仲間たち」「俺たちサイコー」とでもいったところか。やはり「ここのボスはC音」という印象が強調される結果になる。
とりあえず、王道中の王道なメジャートライアドとちょっと悲壮なマイナートライアドがあることを覚えておけばよいだろう。
トライアドのダイアトニックコードに、7度の音を加えて4和音を作ることができるのだが、調性を守った音の加え方をすると、Imaj7、IIm7、IIIm7、IVmaj7、V7、VIm7、VIIm7(♭5)という、いわゆるセブンスコードができる(VIIのところだけ5度が半音下がっているが、これは完全5度であるF#がダイアトニックでないため)。パワーコードのところでも述べたが、他の音とあまりに近い音は重ねづらいため、7度というのは4和音を作るのに格好の音になっている。また、Iのトライアドコードには長6度の音を好きに重ねてよい(Iだと安定しすぎるときに使う)。
ここで各コードの構成音を見てみると、面白いことがわかる。まずVIm7だが、これは構成音がA+C+E+GでC6と構成音がまったく同じ。同様にIIIm7もE+G+B+Dとなるが、これはImaj7add9というコードと同じ構成音になる(5和音以上になる場合は、普通ルートを省略する:ベースの動きのページで説明するが、Imaj7の下でベースが動くとIIImの回転形になるという事情もある)。つまりベースが動いた(回転形になった)だけの同じコードと言ってもよく、VIm7とIIIm7はIのフリ(代理)をすることができる。IとVImとIIImをまとめてトニックコードという。Iとその類似コードなので、どっしりとした安定感がある。
次にV7を見てみる。このコードは恐ろしいコードで、唯一メジャーコードに短7度が乗った形になっているのだが、この短7度音が長3度音とトライトーンになって不協和音を出す。また、VIIm7(♭5)も、ルート音と減5度がトライトーンになっており(というか構成音がV7add9と同じ)、調性は守っているのに不協和音が出る(7度音を加えると、Dmとも構成音がかぶる)。これらの変り種コードをドミナントコードという(ドミナントコードを作るので、メジャーコードに乗った短7度音をドミナントセブンという)。スケールの基底音から見て長7度と完全4度の音が入っていて、完全1度と長3度が入った和音を聴いて不安定感を解決したくなる(後述のドミナントモーション)のがポイントだが、前述の強進行の効果で、セブンスの入らないVであってもIへ進もうとする傾向自体は持っているため、ドミナントの役割は果たせる。
残ったIIm7、IVmaj7を見てみると、ドミナントほどクセのある性質はないものの、トニックほどどっしりとしているわけでもなく、中途半端な響き(完全4度の音自体に、調和するようなしないような、どっちつかずな性質があるのは前述のとおり)。IIm7の構成音がIV6と同じで、Iに対するVImと似た関係になっている。トニックからドミナントへの移行に挟み込むのが本来の用法(だと思う)で、サブドミナントと呼ばれる。いなしたり引っ張ったりじらしたりと、イケズな使い方ができるコードでもある。メロディとの絡みでいうと、いわゆるハイトーンが自然に乗るという特徴もある。5度進行の絡みと構成音から、IImはドミナント方面(IIm6とVIIm7(♭5)が同じ構成音であるほか、後述のドミナント分割でIIm7onVという形もある)に、IVはトニック方面(IVmaj7とIやVImの構成音が似ている)に強い。IVとVIという、スケール基底音と仲が良いのだか悪いのだかつかみにくい音が両方入っているのがポイント(サブドミナントの不安定感はドミナントの不安定感とやや異なり、調性の揺らぎを含むことがある)。
上記で触れたコードの中で、IIImとVIIm(5-)は、ちょっと変わった性質を持っている。IIImはトニックの代理コードになるが、Vの短3度下のマイナーにあたり、響きが似通っている(IIIm7とV6の構成音が同じ)。スケール基底音から見て長3度と完全5度の音が入っているのはIと共通だが、後述のドミナントモーションを受けるための完全1度の音が入っていない(IIIから見るとIは増5度にあたる)。このためIIImはVImに比べてトニック感が薄い(IIImの下でベースを短3度上げ下げすると、トニックなんだかドミナントなんだかわけのわからない感じになる)。IIIm7がVIナチュラルマイナースケール(ナチュラルメジャースケールの平行調)におけるドミナントであることから、IIIm7>VImと動かすと特にこの奇妙な感じがよくわかる。また、VIIm(5-)はドミナントの代理コードになる(短6度を足すとV7と同じ構成音)が、V7の代理というよりは独自の不協和音コードといった趣が強い(特に短7度や減7度を乗せた場合)。他と比べてちょっとクセのあるコードだといえるだろう。
また、上記の分類はあくまで「そのコードの曲中の役割」を元にしているため、同じコードを違う役割に使えば表記が変わる。たとえば、普通はトニックの役割を担当するVImだが、Iに進行する場合(わずかな解決感がある)のみサブドミナント扱いすることがある(クラシックの原則では、Iに解決する場合をSD、それ以外をTと見なすようで、IIImも、IVに進む場合をT、IかVImに解決する場合をDとして扱うらしい:この場合、ドミナントをIIImで解決することはないという前提になっている)。これは筆者の主観なのだが、楽器の種類(あるいは音の重ね方?)によっても響きが変わってくるようで、たとえばアコギではVImのサブドミナント感がピアノよりも強い気がする。
さて、ダイアトニックなコードを一通り見てきたが、トニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(SD)について、I、V、VIがそれぞれ代表格となっている(というか、それ以外のコードはすべて代理コードと見ることもできる)のがわかるだろう。つまり、これら3つのコードだけあれば、(メジャースケールでかつ転調がない曲なら)あらゆる曲に対応できることに(少なくとも理論上は)なる。その他のコードはちょっとした変化をつけるだけ、ということだ。
コード進行としてはTから(SDを経由して)Dという繰り返し(つまりI>VI>V>I>VI>V>・・・)が基本だが、SDからTに戻ったり、Tから直接Dに行くのももちろんありで、(Tへ進みたくて仕方がなくなるD以外は)同じ種類のコードをある程度の時間鳴らしつづけても(極端に長いと単調になるが)さほど問題はない(これはスリーコード以外のコード進行にもあてはまる)。
ギターの人も、キーをGmajにすればGとCとDだけでまわせるので、最初に練習するコード進行としては最適だろう。まずスリーコードの配置をしてからTとしてVImを使ってみるとか、SDとしてIImを使ってみる(バンドでやっているなら、コードはIやIVのままで、ベースだけVIやIIに動かしてみてもよい)といったふうに変化をつけていくやりかたも、後ほど実際に試してみる。
これまで書いてきたような「スケールの基底音を中心にまとまっている感じ」のことを調性という。そしてこれにもっとも大きな影響を与えているのが、3和音の真ん中の3度音だということになる。
もちろん、これを守るとまとまった感じが出しやすいというだけで、必ずしも守らなくてはいけないルールではないが、調性外の音を入れて意図的に調性を崩す場合でも、3度の音が移動すると(つまり、マイナーであるはずのコードをメジャーにしたり、その逆をやった場合)雰囲気がガラリとかわって、大きな動きに感じるということは覚えておいた方がよいかもしれない。
先ほどとはちょっと違った切り口で、メジャースケールでの用法を併記する。
トライアド:スリーコードを構成する、いわゆる主要コード。メジャーとマイナーの違いがはっきり出る。
セブンスコード:メジャーセブンとマイナーセブンには他のコードに響きを似せる(というか、メジャーとマイナーの橋渡しをする)効果があり、ドミナントセブンはドミナントモーション(後述)に絡む役割がある。ナチュラルメジャースケールには、マイナーに長7度を乗せるダイアトニックコードは存在しない。
シックススコード:他のコードに響きを似せる効果のほか、音を厚くして濁らせる効果もある。
テンションコード:4和音にさらに音を重ねて変化をつける。このときルート音は省略するのが普通。テンションはもともとドミナントセブンの緊張感を高めるために加える音で、原則として6thか7thの音が鳴っているのが前提なのだが、単にI9などと書くと、ダイアトニックな7thコードに乗せる(この場合I6add9ではなくImaj7add9)という意味になる(7thを省いて9thだけ乗せる場合はIadd9とかI(9)と書くことが多い)。7thに限らず、単に数字だけで示した場合指定音より低いテンションはすべて乗せるという意味であることが多い(たとえばV13ならV7add9add11add13の意味:ただしあくまで「多い」だけ)。ダイアトニックコードを中心に代表例とともに取り上げる。
メジャーキーにおけるもっとも基本的な進行が、スリーコードのI>VI>V>Iであり、ここで2回出てくる完全4度上行または完全5度下行の動きを5度進行(または強進行)と呼ぶことは既に述べた(IVからのみ、ダイアトニックに5度進行することができない)。
このパターンは、進行だけでなく使っているコードまで王道なので、これ以上ないくらいに定番な流れとなる。とくにV>Iについては、V7>Iをはじめとするドミナントモーション(後述)を構成することからも、特に重要になる
他に、IIm>Vというのも5度進行だが、これはV7の不協和音をもっとも自然に引き出す進行として非常に重宝する(進行としてもSD>Dでいうことなし)。また、マイナーからメジャーへのダイアトニックな5度進行は、このIIm>Vのみになる。これをII-V(ツーファイブ:後述)という。
それ以外の、マイナーからマイナーの5度進行(つまりVIm>IImとIIIm>VIm)は、マイナースケール(後述)での基本進行になる。
メジャースケールの基本はIとIVとVのメジャーコードだという話は何度も繰り返した。マイナーコードはすべてメジャーコードの代理であり、平行調である短3度下のナチュラルマイナースケールからの借用であるとも考えられる。このため、メジャースケールでマイナーコードを使うと、それだけでごくわずかな転調感がある。
では、このメジャー>マイナーの動きをできる限りスムーズにするにはどうすればよいか。5度進行が使えればそれもよいのかもしれないが、あいにくとメジャー>マイナーと進む5度進行はない。そこで、メジャーから短3度下のマイナーへの移動(強進行に準じる強い進行となる)を利用すると、構成音が非常に似た形になることもあり、非常に自然な感じになるのでこれを利用する。
たとえばI>VImなどがそうだが、これがもしI6>VIm7のようになっていれば、まったく同じ構成音となり(ベースが動くだけ)、Iがトニックコードであることも手伝って、メジャーコードからマイナーコードへ、さりげない進行ができる。
先ほども少し触れたが、メジャー、メジャーシックスス、短3度下のマイナーセブン、短3度下のマイナーが、それぞれ似通った(互換性のある)構成音を持っていることから、メジャーシックススと短3度下のマイナーセブンがメジャーとマイナーの橋渡し的な役割を持つことは覚えておいたほうがよい。
V7がトライトーンを持っており不協和音を出すということはすでに述べたが、V7>Iの流れ(と、後述の裏進行などをまとめたもの)をドミナントモーションという。IとV7の構成音を考えると、たとえばKey on C なら、IがCGE、V7はGDBFだが、V7のBとFがトライトーンで、強い不協和音を出している。この邪魔なB音とF音を半音づつ歩み寄らせて(BをCに、FをEに移動させて)不協和感を解消してやる(これをドミナント解決という)と、非常にしっくりとした感じになる、という理屈らしい(B>Cはともかく、F>Eの動きだけは必須なようで、IIImがトニック扱いされるのもこれが影響している模様)。参考のためファイルを用意してみたが、不協和音の解決感がよくわかると思う。
先にも少し触れたが、IをIadd9にすると構成音がCDEGとなり、G7のGDBFのうちBとFがIadd9のCとEに解決する一方、GとDは引き続き鳴りつづけることになって、連続感が出る。マイナースケールにおけるドミナントモーションについては、筆者はよくわからない(なんだか面倒なことになりそうだ、というのはわかるのだが)。
V7>Iという進行は、IIm7 on V>V7>Iと分割できる(半角の>で示したのは、1小節の前半と後半を分けているという意味)。これをドミナント分割という。構成音はよく似ているがトライトーンは入っておらずしかも強進行と、V7をスムーズに引き出してくれるIIm7なので、ここに引き込みたくなる気持ちはよくわかるのだが、最初に考えた人がどういうつもりだったのかはよくわからない。IIm7 on Vの部分がオンコードになっているが、これは「これからツーファイブワンをやりますよ」「次はVですよ」という予告のようなもので、V7sus4add9と書いても同義である(sus4の説明で再度触れる)。IIm7 on Vと似た構成音のVsus4や、V7と響きの似たEm7(平行調であるAナチュラルマイナーのドミナント)も使うことがある(これは正式な代理ではないのかも)。Vsus4の掛留音はスケールのルート音(Key on CmajならC音)である。
さらに、ドミナントにはいわゆる裏コードがあって、V7ならばII♭7で代理ができる。ドミナントセブンのカナメは、(スケールの基底音から見て)長7度と完全4度がトライトーンになってメジャーコード上で不協和音を鳴らすことなので、この条件を満たしているコードで代理できるのである。これを置換ドミナントという。V7と同じく、(スケールの基底音から見て)長7度と完全4度のトライトーンを持つダイアトニックコードであるVIIm(5-)も、一応代理になる。
上記2つを組み合わせて、V7>I(ノーマル)、IIm7>G7>I(分割)、II♭7>I(裏コード)、IIm7>II♭7>I(分割して裏コード)、VI♭m7>II♭7>I(裏コードにして分割)、♭VIm7>V7>I(裏コードにして分割してさらに裏コード)という6パターンが作れる(6パターン目はあまり見ない気もするが)。もちろん、II♭7とかVI♭m7なんていうのはダイアトニックでないコードだが、元が不協和音だけに、いまさら調性外の音が1つや2つ鳴っても、あまり関係ないらしい。VとII♭は互いにトライトーン(減5度)の関係。
また、ダイアトニックコードそれぞれが持つドミナントセブンコードを引っ張ってきてよい(これをセカンダリードミナントという)。どういうことかというと、たとえばKey on CmajのダイアトニックコードはC・Dm・Em・F・G・Am・Bm(-5)で、Cに対応するドミナントセブン(プライマリードミナント)はG7だが、Key on GmajのドミナントセブンD7やKey on DminのドミナントセブンA7も好きに使ってよいということである(ただしBm(-5)はキーのトニックにならないとみなしてF#7は使わないことが多いようだ:結局、メジャーキーにおけるセカンダリードミナントはVI7・VII7・I7・II7・III7の5種類になる)。
II7>V7>Iなどと2連発でドミナント解決することをとくにダブルドミナントと呼ぶ(II7がセカンダリードミナントで、7thを省略してII>V7>Iとすることもある)。直前にVImやIが鳴っている場合、II7への進行が自然になるためダブルドミナントを利用するチャンスといえる。これ以外にメジャーキーでよく使われるセカンダリードミナントは圧倒的にIII7(または単にIII)で、VImに解決する(I>III>VIm>IIm7>V7>Iなど)。
普通、DからはTであれば何にでも進める(場合によってはSDも可)のだが、セカンダリードミナントの場合は、ドミナントモーションで5度下(または4度上)のコードに解決する使い方がほとんど(というか、解決先のコードを引っ張ってくる役割を持っている)。また、セカンダリードミナントも通常のドミナントと同様に分割や置換が可能。
英語だとケーデンス、ラテン語だとカデンツ。V>Iの全終止、IV>Iの変終止、Vだけの半終止、V>VIの偽終止があり、(名前は「終止」だが)必ずしも曲の最後だけではなく、場面が一区切りするところで使う(曲の最後はV>Iが原則だが、V>Iの後にオマケでVI>Iを鳴らすのはOKらしい)。「全」とか「半」とかいった表現は「区切れ感の目安」だと思っておけばよい(全終止だとくっきりはっきり区切れて半終止だと軽く区切れるとか、そんな感じ)。
深く考えるといろいろと面倒だが、「場面切り替えの前にはIを鳴らしておくと無難」「次のパートへ引っ張りたいときは前のパートをVで終わっておくと自然」「終わると見せかけて続けるときは偽終止」「曲の最後は全終止だとキリがいい」程度の認識でよいと思う(多分)。
調性外の音を使ったコードをもうひとつ。IVmのことをサブドミナントマイナー(SDm)というが、これをメジャーキーの曲で使ってしまう手がある。短3度上のメジャー(VI♭)から転がってくることはできないので、SD(たまにT)からこのSDmに進む。雰囲気としては軽い一時転調といったところか。また、SDmからSDへの進行は普通やらない(TやDなら問題なし)。
SDmは他の調から借りてきた代理コードだが、メジャーキーで使う場合は同主調(CメジャーならCマイナー)からコードを借りてくることになるので、同主調変換という。旋法変換(英語だとモーダルインターチェンジ)という言い方もあるが、こちらはキーを変えずにモードを変えるという意味で、ナチュラルマイナーとハーモニックマイナーを行き来するような場合に使うことが多い(かなり幅のある使い方が可能な用語で、普通転調とみなされるような動きをモーダルインターチェンジ扱いすることもある:モードについては鍵盤あれこれのページで後述)。
ドミナントマイナー(Vm)を使うケースもあり、I>IVという普通の強進行をVm>I>IVとダブルの強進行に変える使い方が多い。この部分をIVへの一時転調と解釈すると、IIm>V>Iと展開しているということになる。
トニックマイナー(Tm)を使う場合ももちろんあるが、頻度は高くない。ちなみに、厳密に考えると、Iはトニックメジャー、IVはサブドミナントメジャーなどと呼ぶべきなのだろうが、面倒なので普通は単にトニックとかサブドミナントなどと呼ぶ(同様に、マイナーキーの曲で単に「トニック」と言ったらトニックマイナーのことだが、ドミナントだけはVmを使う場合とVを使う場合があるので呼び分けた方がよいだろう)。この他の小細工については後でまた触れる。
以下すべてKey on Cmaj で、後半はコード回転やルートの省略を行っている。ギターの人はGメジャーに移調(たとえばC>F>G>CならG>C>D>G)すると楽に押さえられる。
スケール基底音の倍音特性から調和の取れる音を探してスケールを考え、そこでスリーコードを基本とした展開が作れるということを書いたが、これを逆から考えると、スケール基底音と完全4度音と完全5度音をそれぞれルート音として周波数比が1:1.25:1.5の和音(つまり、IとIVとVのメジャートライアド)が作れるように音階を配置するとメジャースケールになる、という解釈について先に少し触れた。実際、Cメジャーの構成音であるCとEとG、Fメジャーの構成音であるFとAとC、Gメジャーの構成音であるGとBとDをすべて集めて、順番に並べ替えるとKey on C のナチュラルメジャースケールになる(純正律はこの考えに忠実に作られている)。
そこで今度は、スケール基底音と完全4度音と完全5度音をそれぞれルート音としたマイナーコードを、それぞれT、SD、Dとするようなスケールを考えるとどうなるか。同じくKey on C なら、Cマイナーの構成音であるCとE♭とG、Fマイナーの構成音であるFとA♭とC、Gマイナーの構成音であるGとB♭とDをすべて集めると、CDE♭FGA♭B♭Cとなるが、これをナチュラルマイナースケールと呼ぶ。ナチュラルメジャースケールと比べて、スケール基底音から3度(Imの3度)と6度(IVmの3度)と7度(Vmの3度)が半音下がっていることがわかるだろう。
すべてのダイアトニックコードについてセブンスも含めて考えると、Im7とIII♭M7がトニック、IVm7とVI♭M7とVII♭M7がサブドミナント、Vm7がドミナント、IIm7(♭5)がディミニッシュ(サブドミナント代理扱いらしい)ということになる。VII♭M7をドミナント代理で扱う人もいる。
ナチュラルマイナースケールではドミナントの不協和音が足りない(V7が使えない)ので、スケール基底音から7度の音を半音上げることがあるが、これをハーモニックマイナースケールという。この影響でT、SD、Dを構成するコードも変わり、Immaj7とIII♭augmaj7がトニックVI♭maj7とIVm7がサブドミナント、V7がドミナント、IIm7(-5)とVIIdim7(減7度が重なる、本物の=ハーフじゃないディミニッシュ)がディミニッシュということになる。IIm7(-5)はサブドミナント、VIIdim7はドミナントの代理になるらしい。III♭augをサブドミナント扱いする人もいる。
さらに、ハーモニックマイナースケールではメロディが(低音からスケール基底音に向かって)上行していく際に、6度>7度>8度の動きが増2度(半音3つ)>減2度(半音1つ)になっているのがキモチワルイということで、6度の音も半音上げたのがメロディックマイナースケール。下行するときはなぜかナチュラルマイナースケールに戻るが、理由はよくわからない(この上行と下行で分ける考え方自体、厳密には不正確らしい)。Immaj7とIII♭augmaj7がトニック、IV7とIIm7がサブドミナント、V7がドミナント、IVm7(-5)(サブドミナント代理扱い)とVIIm7(-5)(ドミナント代理扱い)がディミニッシュになるが、IVm7(-5)はトニック/サブドミナント/ドミナントのいづれで扱う人もいる。
とまあ、ナチュラルでないマイナースケールはなにかと面倒なのだが、普通マイナースケールといえばナチュラルマイナースケールのことで、その場その場で必要に応じて7度の音を上げたりといったことをやるだけなので、Jazzなんかをやるのでなければ、あまり気にしなくてもよいのかもしれない。実際、ハーモニックマイナーやメロディックマイナーは単体でスケールと呼べるほどの安定性や独立性を持っていない(と見られることが多い)し、聴いている側も演奏している側も、たとえばナチュラルマイナーがハーモニックマイナーに変化したところで「転調した」という意識にはならないことが多い。そこで前述の通り、このような動きを「調(キー)は変わらず旋法(モード)が変化した」と捉えてモーダルインターチェンジ(旋法転換とか旋法移行とも)と呼ぶことがある(この考え方の方が正統に近いようで、実際的にも便利である)。モードに関する詳細は鍵盤あれこれのページで後述。
ここで、スケールの構成音がまったく同じになる(=平行調の)ナチュラルメジャースケールとナチュラルマイナースケールのコードを眺めてみる。ナチュラルメジャースケールに現れるマイナーコードはIImとIIImとVImだが、これは平行調である短3度下のナチュラルマイナースケールから見るとIVmとVmとIm(つまり基本のスリーコード)である。反対に、ナチュラルマイナースケールに現れるメジャーコードは、III♭とVI♭とVII♭だが、これは平行調である短3度上のナチュラルメジャースケールから見るとIとIVとV(やはり基本のスリーコード)である。
たとえばCメジャーとAマイナーを考えてみる。Cメジャーに現れるマイナーコードはDmとEmとAmだが(ディミニッシュは除外)、これはAマイナーにおける基本コード(AmがT、DmがSD、EmがD)になっている。反対に、Aマイナーに現れるメジャーコードはCとFとGだが、これもCメジャーの基本コードになっている。そのうえ、CとAmはどちらの調でもT、Dmはどちらの調でもSDの役割になっている。このため、平行調への転調は目立ちにくく、わざわざ転調と解釈しなくても、メジャースケール上でマイナーコードが鳴っていると考えるだけで済むことがほとんどだが、アタマのTをマイナーコードにしたり、メジャースケールでは調性外となる音を入れたり、ドミナントモーションにマイナースケール独特の動きを入れたりすると、転調感が比較的くっきりする。以下、実際に試してみる。
ここから先は、非常に胡散臭い強引でデタラメな話なので、間違っても鵜呑みにしないよう注意。ちょうど、大きな古時計のMIDIが手元にあるので、それを例にとってみる。また、MIDIファイル作成に際してカウチギターおよびWORLDFOLKSONG.COMの内容を参考にした。この場を借りて謝辞を申し上げる。
これは、メロディを音符なりMIDIにしてみて、使っている音をすべてピックアップしてみるのがいちばん早い(と思う、多分)。実際にメロディを確認してみると、使っている音はGABCDEF#で、BとCの間とF#とGの間が半音になっている。この半音上がりの音程は高い方(CとG)と低い方(BとF#)がそれぞれ完全5度になっているが、高い方の音(CとG)のうち完全5度下行するともう一方の音になるような音(この場合、Cの完全5度下はF、Gの完全5度下はCなのでG)がスケール基底音になる。
ということで、今回はkey on G のメジャースケールだということになる。本当は、マイナースケールのことも考慮する必要があるが、それを考えると手に負えなくなる(とくにナチュラルでないマイナースケールを考えると面倒)ので、とりあえずこのまま(乱暴に)話を進めてしまう。
もしくは、全音間隔で4つ音が並んでいる部分(この場合C>D>E>F#)があれば、その一番下の音(この場合C)がスケール基底音から完全4度上だと判断できる(はず)。
音階が6つまたは5つしか出てこない(たとえばGACDEのみ)などということもあり得るが、その場合、半音間隔で2つ音が並んでいる部分の上もしくは全音間隔で3つ音が並んでいる部分の1番下がスケール基底音もしくはその完全4度上の音だとわかる。スケール基底音から長7度(と完全4度もたまに)は省略されやすいということを念頭に候補を絞り込むとよいだろう。
出てくる音階が4つ以下(といっても、そんなケースは童謡くらいだろうが)なら、原始的だが、出てくる音すべてについて、その音を基底音としたスケールを確認してみてもよい(さすがにメロディに1度も出てこない音がスケールの基底音ということはあまりないだろう)。それでも候補が複数出てきたら、完全5度の音が出てこないものを除外すればよい。
上記すべて、途中で転調があるとわけがわからないことになるので、あまり長い範囲から音を取らない方がいいかもしれない(ここで大きく雰囲気を変えよう、と思っている個所では、改めてキーを確認しなおす)。
慣れてくれば、雰囲気で、多分このコードがトニックだ、というのがわかるようになる(多分)ので、いちいち音を拾わなくてもよくなる(はず)。もっと乱暴に、シメの部分で伸ばしている音(もしくは各パートの頭にハマるコードのルート音)がスケール基底音、などと見当をつけてもよいかもしれない(今回の例では「そのとーけーいー」の「いー」の音がG)。
さて、key on G のメジャースケールということは、トニックがG、サブドミナントがC、ドミナントがDということになる。Tは安定していて落ち着いた感じ、SDは過渡的だったり流れを引っ張るような感じ、Dは不安定でプレッシャーを感じさせる感じ、ということを念頭におきつつ、コードを当てはめてみる。以下、調性外の音が入ってこないことを前提に話を進める(というか、一時転調がある部分は、そこだけ別に考えなければならない)。
前述のとおり、スリーコードだけでスケール内の音はすべてカバーされているので、どのコードをあてはめても不協和音ばかりになってしまう可能性は(転調さえしていなければ)あまりないはず。
メロディーが半音で動く部分(C>Bなど)や連続して全音動く部分(G>A>Bなど)は、当てはまるコードがないように感じるかもしれないが、よほど奇特な動かし方をしていない限り、アボイド(コードに乗らない、不協和音を出す音)が鳴ってしまうようなことはあまりないはず。ちなみに、ルート音から見て完全1度、長3度、完全5度の音はもちろん、長2度と長7度だとかなり、長6度でもそこそこ調和して鳴ってくれる。半音上の音は増1度でアボイドだが、半音下の音は長7度でコードに乗ることに注意。
とりあえず、この時点では不協和音はあまり気にせず、トニック、サブドミナント、ドミナントのどれをあてはめたいのかだけを考えておけばよいだろう(コードの代用もできるし、いざとなったら問題の部分で転調したことにしてしまえばよい)。そもそもスリーコードに乗らないダイアトニックな音はそれほど多くない(詳しくは後述)。
今回の例では、まず普通に「おーおーきな」と入り(特に理由がなければ、パートの頭はトニックでよい)「のっぽの」でプレッシャーを強め、「ふるどけ」でいったん持ち直してから「いー」で引っ張る形と、「おじいー」と普通に入って「さんのー」でプレッシャーを強め、「とけいー」でまた持ち直す形、つまりT>D>T>SD T>D>Tになっている(コードでいうとG>D>G>C G>D>G)。
これは結果論的にたまたまこうなったのではなくて、たとえばT>SD>D>SD T>D>Tとしてもコードに音は乗るが、雰囲気としてちぐはぐな響きになる。
また、ついでになるが、最初に挙げた進行ではGのコードの音がやや高すぎるようなので、5度の音を1オクターブ下げて落ち着かせておく(コードの回転)。副作用として、G>Dの部分にペダルポイントができたため、2つで1セットというか、一体になった感じが強まった。
アボイドになるのは、(コードのルート音から見て)半音上の増1度とトライトーンの減5度がほぼ確実で、他の構成音と不協和音を出す音(増x度とか減x度の関係)、つまり、メジャーコードでは(コードのルート音から見て)短3度と完全4度と短7度(ドミナントセブンは例外)、マイナーコードでは長3度と長6度(と長7度)も乗せない方が無難、ということになる(最初から不協和音を鳴らすのが前提のドミナント系コードは例外)。
コードに乗る音と乗らない音
ルートから見た音程 | 調和の程度 |
完全1度 | 完全に調和する |
短2度(増1度) | 完全にアボイド |
長2度 | そこそこ調和するが(マイナーコードならアボイド) |
短3度 | アボイド(マイナーコードなら調和する) |
長3度 | ほぼ完全に調和する(マイナーコードならアボイド) |
完全4度 | ちょっとアボイド(オクターブ上ならOK、マイナーコードならなんとか) |
減5度 | 完全にアボイド(ディミニッシュ系のみ例外) |
完全5度 | ほぼ完全に調和する |
増5度 | ほぼ完全にアボイド(オーギュメント系のみ例外) |
長6度 | そこそこ調和する(マイナーコードだとギリギリセーフ) |
短7度 | アボイド(ドミナント7thは例外、マイナーコードならかなり調和する) |
長7度 | かなり調和する(マイナーコードならアボイド) |
完全8度 | 完全に調和する |
つまり、Iにスケール基底音から見て完全4度の音が乗っている場合、IVにスケール基底音から見て長7度(コードのルート音から見て減5度)の音が乗っている場合、Vにスケール基底音から見て完全1度(コードのルート音から見て完全4度)の音が乗っている場合(スケール基底音から見て完全4度の音は、コードのルート音から見ると短7度で、ドミナント7thができるだけなのでOK)のみ、不協和音が鳴ってしまう心配をしなければならないことになる。ただし、鳴っている時間が短ければ、それほど気にしなくてもよい場合も多い。あまり関係ないが、アボイドノートの対義語としてアベイラブルノートという言い方があるが、ノート単品よりもスケール(後述の「コードに乗る音」の方の意味でのスケール)がより重要になる。
先ほどはスリーコードの使い分けで曲にアクセントをつけたが、今度はメジャーコードとマイナーコードの使い分けで曲に陰影(イントネーションといってもよいかもしれない)をつける。ようするに、暗く抑えたイメージの部分をマイナーコードに変えてやる。たとえばT>D>T>SDの2回目のTをマイナーコードで代理させてみる(コードでいうと、GをEmに変えてG>D>Em>C G>D>Gにした)。
マイナーコードでの代理については、前述のとおり、T(I)であればIIImとVIm(VImの方が比較的使いやすい)、SD(IV)であればIImが使える。D(V)もVIIm(-5)で一応代理できるが、変化ならドミナントセブンのありなしでつけられるし、VIIm(-5)を使うよりはIIm7 on VやVsus4などで代理したほうが雰囲気が出ることも多い。
SD(IV)やパートの最初以外に出てくるT(I)を短3度下のマイナーで代理する手法は、手軽に曲調を変化させられるので重宝する。他のパートには手をつけず、ベースだけ短3度下に移す方法も有用(たとえばIonVIはVIm7と同じことになる)。ベースの音を途中で消すと響きがメジャーに戻るのも面白い。
今度は、6度や7度の音を足してやる。基本的に、メジャーに乗せる6度には(短3度下の)マイナーの響きを加える効果、メジャーに乗せる長7度には(長3度上の)マイナーの響きを加える効果、マイナーに乗せる短7度には(短3度上の)メジャーの響きを加える効果、ドミナント7thには不協和音を鳴らしてDのインパクトをさらに強める効果がある。
今回の例では、EmのコードはもともとGだったので、(短3度上である)Gの響きを導入するのはいたって自然(というか、メジャーコードを短3度下のマイナーで代理する場合、最初からセブンス入りで代用することのほうが多い、はず)。また、T>D>Tの真中のドミナントにセブンスを足して印象を強めてみた。コードとしてはG>D>Em7>C G>D7>Gになる。
Eから見た短7度音であるD音をそのまま加えると、音程が高すぎてちょっと浮いた感じになるため、今回は1オクターブ下げて加えてある。G>D>Em7までの流れでD音がペダルポイントになっているので、Em7>Cでストンと落ちたような感覚がある。4和音は、コード回転の都合によって音が狭い音域に集まりごちゃっとした印象になることがある(特に長7度を1オクターブ下げて入れた場合、ルート音の半音下にる)が、(ベースがちゃんと鳴っていれば)ルート音は省略してよいので、すっきりさせたい場合はルート音を省略してしまえばよい(今回も実際に省略した)。完全5度の音も(ルート音ほど頻繁には省略しないが)省略が可能(ベースの3倍音で補えるという理屈らしい)。また、アレンジの際Em7ではなくG on E と書いておけば、(演奏者に)確実にルート音を省略してもらえる(が、あまりこうは書かない)。
逆の考えで、Emに短7度音を加えてGの響きを残すのではなく、Gに長6度を加えてEmの響きを加えるのもひとつの案。また、EmではなくBmの響きを借りるためにGに長7度を加えるという案もありそうだが、こちらはイマイチな気がする。
上で挙げた中ではEm7を使ったパターンがいちばん気に入ったので、仕上げの調整を加えることにする。まず、Em>Cの部分のギャップ感がいまひとつなので、DのA音を1オクターブ下げてペダルポイントを解消した。G6を5度音省略で使う(これだとG>Dのペダルポイントは残すことができる)という手もあったが、Em7の音色のほうが好みだった。また、前半部分の音程が高>低>高>低と動いてなんだか面白い。
また、参考にしたファイルでは、最後以外のGをPowerG on B(要するに、ベース音を鳴らさずにGの3度音を1オクターブ下げただけ:Bm add6- omit5 とも解釈できる)という変わった形で鳴らしており、これも響きがよかったが、コード回転の都合で採用しなかった。
最終的にできあがったパターンと最初のスリーコードを比べると、かなり印象が違うことがわかる(どちらが好みかは別として)。この他に、セブンスコードの7度音だけ音量を下げたり(すべての音について強弱を独立に変えられるのは、鍵盤楽器の強みだ)、アルペジオにしてみたり、1オクターブ下にもうひとつベースを重ねたり、工夫の余地はまだまだいくらでもある。
あるコードから他のコードに移るとき、間にもうひとつのコードを挟みこむ場合があるが、このとき挟みこむコードをパッシングコードという。このパッシングコードとして、ディミニッシュコード(ハーフディミニッシュではない方の、本当のディミニッシュコード=dim7)がよく使われ、パッシングディミニッシュと呼ぶ。
とくにI>IImなど全音上行する場合に、間にI#dim7を挟んでImaj7>I#dim7>IIm7とする用法が多い。全音上行する場合はIIm>IIImに挟んでもIV>Vに挟んでもV>VImに挟んでもよいが、全音下行する場合はIIIm7>III♭dim7>IIm7以外あまり使わない(VIm7>VI♭dim>V7がたまに使われるくらい)。ディミニッシュを挟むコードはセブンスにすることがほとんど(Iはトライアドでも使う)。IV>Iと変進行する場合に、IV>IV#dim>Iとする用法もあるようだ。もちろんこれらは調性外の音だが、過渡的な用法なので細かいことは気にしないらしい。
また、IImとIIImの間の動きはマイナーからマイナーへの動きなので、IIm7>II#m7>IIIm7またはIIIm7>III♭m7>IIm7とマイナーセブンを使って同じ響きの連続を作る場合がある(このような平行移動をパラレルモーションという)。マイナースケールでも、平行調のメジャースケールでやるのとほぼ同様の使い方をする。
トニックコードが延々と続くパート(今までの例ではでてこなかったが)で単調さが気になるときには、I、IIm、IIIm、IVを半音、全音、4度、5度の上下行になる(必然的に、T>SD>T>SDまたはSD>T>SD>Tになる)ように組み合わせて進行させると変化が出る。これをダイアトニックパラレルモーションという(字義どおりに解釈すると、7音スケールに従って順次進行になるようルートを動かせばよいのだが、実用上は上記のように捉えた方が便利だと思う)。全音移動の部分にパッシングディミニッシュを盛り込むともっと変化が出るし、ダイアトニックでないパラレルモーションとの使い分けも面白い。
また、I、I6、Imaj7など(IaugやIadd9も使う)を使い分けて変化を出すこともあり、このときに特定の音が流れ(半音移動や全音往復など)を持つように動かすことをクリシェという。実際の用例については、もっと詳しいサイトがあるのでそちらを参照。これもトニックコードが長く続くパートで使う場合が多いが、V7でも使うことがあるらしい。Imaj7>I7>Vなどのように、パッシングコード的に使うこともあり、Imaj7>I7>IVmaj7>V7などと循環させるのも一案(I7はセカンダリードミナントで、IVmaj7に解決している)。上記のダイアトニックパラレルモーションと組み合わせればImaj7>I7>IV>IVm>Iなどといった進行も作れる(大まかに見るとI>IV>Iと動いている打で:IVmはサブドミナントマイナー)。
メジャーコードの長3度の代わりに完全4度を加えてやるという技もあり、これをsus4という(IVsus4以外はすべてダイアトニックなコードだが、マイナーコードの場合IIm7add11などとテンション扱いすることが多い)。こうすると、マイナートライアドやメジャートライアドにあった「ボスC音の存在感」が薄まり、目立った不協和音は鳴っていない(Csus4なら、CとFが完全4度、CとGが完全5度、FとGが長2度)にもかかわらず、どっちつかずな、まとまりのない感じになる(Fから見てCが5度上、CからGも5度上と、Fの存在感が強い)。本来は(suspended=掛留という名前からもわかるように)前に鳴っていたコードの構成音の一部を鳴らしつづける(そしてそれが次のコードの中で不協和音になる)ことを指し、それがたまたま次のコードの基底音から見て完全4度で、不協和音があんまり酷いので長3度を遅らせたらこうなった、という話。sus4の第1回転形(4度音をルートに回した形)をsus2と呼ぶこともあり、3度音への解決を意識する(たとえばCsus2>Cと進む)場合はこの表現の方が適する。
メジャーなのかマイナーなのかわからない不安定さから、そこをはっきりとさせたくなるため、同じルートのメジャーまたはマイナーコードに解決することが多い。たとえば、IIm7またはIV>V7sus4>V7とか、V7>Isus4>Iという形がよく出てくる(メジャーセブンをsus4にすると完全4度と長7度がトライトーンになるのでMaj7sus4という形はあまり使わない、が、あえて長3度を省略しなかったり4度ではなく11度を乗せたりメジャーセブンをsus4にすることもある)。ドミナント分割でIIm7 on V>V7という動きを作ることがあるが、これはV7sus4add9>V7と動いているのと同義である。マイナースケールで(テンション扱いせずに)sus4コードを使う場合Isus4>Imのようにすることが多い。
Iで始まってIで終わるパートを複数回繰り返す場合パートとパートの区切りがぼやけてしまうことがあるが、繰り返しでアタマに飛ぶ直前(ターンバックとかターンアラウンドという)のI>Iとなっている部分をI>V>Iとして終止を盛り込んでやると区切りがはっきりとする。
たとえばKey on Cmaj でC>Am>F>Dm>G>Cという6小節を繰り返す場合、都合C>Am>F>Dm>G>C>C>Am>F>Dm>G>Cと進行することになるが、G>C>C>Amの部分をG>C>G>C>Amとしてやる。
Jazzやブルースなど、II>V>I(ツーファイブワン)の進行を好む曲では、I>VをI>IIm>Vとツーファイブ分割したうえでI>VI7>IIm7>V7とセカンダリードミナントを入れて1625にした展開がよく出てくる。さらに、I>IVの進行をVm>I>IVとすることもある。これは下属調(IVを基底音とする調)から見てIIm>V>Iとなるパターンに相当する(たとえばKey on Cmaj でGm7>C7>Fmaj7とやった場合、Key on Fmaj に一時転調したと考える)。
メロディについてはセンスがモノをいう部分が大きい(と思う)ため、あれこれ考えても仕方がない傾向はあるのだが、それでもヒントとなる考え方というのはあるので、それを考えてみる。
理由はよくわからないが、人間にとってもっとも基本的なメロディは全音での上下移動らしい。リンク先で挙げられている「あーしたてんきになーあれ」のほか「おーにさーんこーちら」などの例がわかりやすいだろう。もう少し複雑になると、これに短3度(全音半)下降というアクセントが加わる。「ゆーびきりげーんまーん」などがそれにあたる。これらは、音楽というよりはお囃しとか掛け声と呼んだ方がよいものだろう。
ちなみに、古典的な意味でのダイアトニックスケール(全音階)は、この「メロディとしてもっとも自然で原始的な」全音移動の概念と「ハーモニーとしてもっとも調和が取れた」完全5度(この文脈では、平均律の完全5度ではなく周波数が3/2になる「純正5度」という用語を使うのが本来)の概念を組み合わせて、「全音=純正5度上昇を2回繰り返して1オクターブ下げた音」とする解釈で作ったスケールである(現在の純正律も、長2度の音は{(3/2)^2}/2=9/8の周波数になっている)。
話を戻そう。全音での上下移動からもう少し発展すると、全音3つの下に短3度離れて1音という形になる。童謡や民謡に見られる形で、ソーラン節やかごめかごめがこれにあたる。さらに、全音3つの上にも短3度(もしくは全音3つの下に完全4度)離れてもう1音加えられることがあり、證誠寺(しょじょじ)の狸などがこの形になる。
さて、最終的にできあがったのは、一番下の音から、短3度、長2度、長2度、短3度上昇するという形だが、この中で軸となる音は(理由はよくわからないが)下から2番目の音なので、それを基底音として並べ替えると、I・II・III・V・VIという並びになる。これをメジャーペンタトニックスケールといい、ナチュラルメジャースケールからIVとVII(半音移動の低い方の音)を省略したのと同じ形になる(4度と7度を抜くのでヨナ抜きというらしい)。マイナーペンタトニックスケールは(ナチュラルマイナースケールと同様)短3度上のメジャーペンタトニックスケールと同じ構成音(つまりI・III♭・VI・V・VII♭で2度と6度を抜いた形)になる。
上記の音の並び方を見ればわかるが、これらのメロディはスケールの基底音をルートとするメジャートライアド(つまりトニック)のワンコードだけで演奏できる。例としてかごめかごめとソーラン節のMIDIを用意した。まあ、IVの音が延々と鳴る部分さえなければ、(メジャースケールの調性を守っている限り)どんなメロディでもだいたいはトニックコードに乗ってくれるものなのだが。ちなみに、3度未満の動きは順次進行と呼ばれ、連続感があるため割と無茶ができる(多少コードから外れた音でも鳴らしやすい)。順次進行でない(=3度以上の)メロディ移動を跳躍進行といい、進行先をコードの構成音以外(外音という:後述)にするとズレた感じを出せる。
さて、ペンタトニックスケールではワンコードだけでの演奏が可能だと述べたが、可能なだけでなくなかなか便利な使い方ができる。というのは、ペンタトニックスケールは非常に原始的なメロディを元にしているので、当然のことながら、自然なメロディが作りやすくなる。ということで、あるコードが鳴っている場合、そのコードのルート音を基底音とするペンタトニックスケールを考えて、その中で音を動かしてやると、自然なメロディを作りやすくなる。また、小節の最後のノートをコードのルート音から1度または6度にしてやると引き締まった感じに鳴る。
もちろん、ペンタトニックスケールの中に収めること自体を目指しても窮屈になるだけだが、少なくとも、全音での上下移動、短3度または完全4度の往復などをメインに、半音移動や長7度のノートは要所に絞って配置する、といった心がけによって、適当に弾いているだけでなんとなくそれっぽく聞こえる、というメリットはある。
また、メジャートライアドに長6度と長9度を加えた形でもあるので、I6add9を鳴らすと、スケールの構成音すべてがコードの構成音になる。のみならず、スケールを構成する5音すべてを鳴らしつつ、ベースがIIならII7sus4add9、VならV6sus4add9、VIならVIm7add11になる(まあ、スケールの音を全部盛りにしているのだから当たり前といえば当たり前だが)。また、ベースをIIIに持っていくと、何のことだかよくわからない音になる。
先ほど使ったスリーコードパターンにコード回転のみ施したもの(G>D>G>C>G>D>G)からメロディラインを削除して、メロディをつけてみた。いちばんベタベタな方法として、小節のアタマはコードのルート音と同じ音で、コードのルート音を基底音とするペンタトニックスケール上の音だけを使っている(つまり、コードのルート音に対して4度と7度の音は使っていない)。同じコードの上で、いわゆる速弾きのパターン(メロディが32分)も用意してみた。
聞いてのとおり適当に音を並べただけの代物(両方あわせて5分くらいでできあがった)だが、なんとなくそれっぽい感じが出てしまっている。ちなみに、F#メジャーペンタトニックスケール(もしくはその平行調であるD#マイナーペンタトニックスケール)だと黒鍵のみ5つ全部使うことになるので、黒鍵を適当に叩きまくっているだけでなんとなくメロディっぽくなる(やってもあまり意味はないが)。
小節のアタマはコードのルート音と同じ音にする(反対に言えば、メロディの頭の音に合わせてコードを振る)ということについて少し触れたが、これをやるとメロディとコードの一体感が非常に強くなる。反対に、長2度や完全4度(メジャーコードの場合)など、ちょっと微妙な音から入ってやると、メロディとコードが一丸となって邁進するようなイメージはなくなる(これもただ音を並べただけ)。
また、同じくコードのルート音から入ったとしても、小節の中に含まれる音の比率で、その小節のイメージは変わってくる。どっしりと安定する完全1度から、長3度音、完全5度音と上がるにつれて勢いや透明感が出てくるように思える。マイナーコードの場合、マイナーの抑圧感を、完全1度だと地に足をつけて、長3度音だと開き直りで、完全5度音だと飛躍によって受け止めるようなイメージになるように思える。その他の音の特徴については、それぞれの音がトライアドの上に乗ったときに作るコードの特徴と共通したものになる(と思う)。
ただし、こういった特徴については、気にしすぎるとただの音並べになってしまう危険性があるので、ほどほどに意識しておけばよい。反対に、うまいメロディが思い浮かばないときなど、この音を入れればこんなイメージになるのではないかと試してみるとか、そういった使い方の方が効果的かもしれない。
楽しい楽しいベースラインがやっと話題になった。ベースラインには曲のイメージ全体を支配する力があるが、筆者もよくわかってはいないため、ほんのさわりだけ書いてみる。先ほど使ったI>IV>IIm>Vのパターンを再利用する。
まずは8分にしてみると、リズム感がぐっと増した。音量も増えているため、ベースの存在感が強まっている。ベースが作るリズムはなかなか強力なので、これ以外にもいくらでもイジりようがある(後述)。
同じようなリズムで完全5度上行を取り入れてみると、今度は5度上がった部分の音が軽くなった。軽快な感じの曲だけでなく、重苦しいイメージの中で息継ぎをする場合にも5度上昇は使える。反対に完全4度下行を取り入れてみると、完全4度上行して戻ってきた完全1度にも動きが感じられる。
3度音を取り入れてみると、メジャー感とマイナー感が曖昧になるとともに、メジャーコードはある程度の軽さと伸び、マイナーコードは粘りが出るように思える(メロディに3度音を使うのとベースに3度音を使うのは意味がやや異なる)。またメジャーは短3度、マイナーは長2度または長3度下行させてみると、メジャー感とマイナー感がふっと緩む。これはメジャートライアドを長6度のベースに乗せるとマイナーセブンに、マイナートライアドを短6度に乗せるとメジャーセブンに変化するため(前述のルート音省略コード)。
また、メジャートライアドを長2度上のベースに乗せると完全5度上のsus4add6(sus4add13)と同じ構成音、メジャーシックススを長2度上のベースに乗せる(メジャーシックススを短3度下のマイナーセブンで代理していても同じ)と長2度上のsus4add9と同義になって妙な緊張感が出る他、メジャートライアドを長短7度に乗せると長3度上のテンション入りマイナー、増5度に乗せると長3度上のテンション入りオーギュメントと同じ構成音になる。マイナートライアドなら、長2度上のベースに乗せると完全5度上のsus4add6-(sus4add13-)と同じ構成音になる。
とくにIV on V(ムリヤリコードネームをつけるとV7sus2sus4omit5)の形はフュージョンなどでよく使われる。IV>Vの流れにペダルポイントを作る用法が多いのだが、IVともVともつかない性質を持っているため、IVをIV on V で代理するパターンとVをIV on V で代理するパターンの両方が考えられる。
ベースのスケール(調性のところで述べたものではなく、あるコードが鳴っている小節でソツなく動ける範囲という意味でのスケール)についてはちゃんとしたものがあるはずだが、ついでなので上記を元に勝手にでっち上げてみる。
メジャースケールとしては、I・III・V・VIの他にIIも一応認めて、I・II・III・V・VIとするとメジャーペンタトニックスケールに一致、VIIとVII♭とVI♭まで認めるとI・II・III・V・VI♭・VI・VII♭・VIIになる。マイナースケールとしては、I・III♭・Vに加えてVII♭とVI♭を認めるとI・III♭・V・VI♭・VII♭でマイナーペンタトニックスケールからIVを抜いてVI♭を加えた形、さらにIIとVIとVIIを認めるとI・II・III♭・V・VI♭・VI・VII♭、VIIまで認めてやるとI・II・III♭・V・VI♭・VI・VII♭・VII、IIというメジャートライアドのときと似た形になる。
要するに、メジャートライアドならペンタトニックスケール内(ただしIIを使うときは注意)、マイナートライアドなら構成音プラス完全5度より上、最大限まで広げるなら(メジャー・マイナーともに)構成音プラス完全5度より上プラス長2度を使えばよいということになる。このようにパート単位ではなく小節単位でスケールを考えることをJazzの用語でモードというらしい(筆者はあまりわかっていないのでもしかしたら違うかも)。
音の安定度としては、メジャーコードの下だと1th>>3th>>5th>6th>2th>7th(6thと2thはセブンスコードではなくシックススコードを上に乗せる:7thは順次下行(I>VII)の動きで使えば3th並に安定した響きになる)、マイナーコード下だと1th>3th>>5th>7th>6th>2th(ベースが動くと短3度上のメジャーっぽい響きが強まる)といったところか。
上記のサンプルファイルでもそうだが、ベースは常に音を出しているとは限らない。小節の中で休符が現れることももちろんある。この場合、上に乗っているコードがルート音を省略した形になっていると、響きの変化がやや大きくなる。前述の方法で少し触れた事柄だが、たとえばC>Am7>Dm7>Gで4和音コードのルート音を省略した形の展開で、ベースをまばらにしてやるとC>C>F>Gに近い印象になるのがわかる。
さらに3度上昇を絡めてやると、もっとC>C>F>Gっぽい響きになる(というか、実際に途中でCとFの音が鳴っている)し、メジャーで短3度下降、マイナーで長2度を絡めてやると、メジャーが鳴っているのかマイナーが鳴っているのかよくわからなくなる。わりと無難なはずの完全5度上昇でも、かなりメジャーっぽい響きになるのがわかる。
また、C6>Am>Dm>G7で4和音コードのルート音を省略していた場合も、ベースをまばらにしてやったり、3度上昇を絡めてやったり、メジャーで短3度下降、マイナーで長2度を絡めてやったり、完全5度上昇を絡めてやったりすると、同様の効果が得られる。
反対に、ルートを省略しない4和音であれば、上記の変化を受けにくくなるので、場合によって使い分ければよいだろう(特にルート音省略のシックススの下ではベースを動かすとひょろっとした感じのよくわからない音になり、それはそれで味があるが、ルートを入れておけばもっとしっかりとした音になる)。ベースをオクターブで重ねておいて、片方だけ動かすなどといった工夫も面白いかもしれない。
コードとコードのツナギの部分で、なめらかな動きを意識してみる。前述のとおり、自然な音の変化としては、全音での上下移動(とくに全音上昇)、短3度下降、完全4度上昇、完全5度下降が挙げられる(広義の強進行)ので、その動きを採り入れればよい。場合によっては、ツナギ部分でベースを動かさず移動なしとしてもよい。また、反対に、あえてこれらの動きを避けてギクシャクした感じを出してみても面白いかもしれない。
上記のような、ツナギをスムーズにするための音をアプローチノート(導音)という。狭義には次のコード(とくにトニックに進む場合)のルートから見て長7度上の音(とくにドミナントセブンのトライトーンを構成する場合)を指すが、広義では次のコードへ強めに進行するための音全般を指し、狭義の導音を言いたい場合はリーディングノートと呼ぶことが(多分)多く、ドミナントセブン上のリーディングノートを利用したアプローチをドミナントアプローチと呼ぶ。また、半音移動を作り出す音をクロマチックノート(半音階の音という意味)というが、これをアプローチノートとして利用することをクロマチックアプローチという(ちなみに、ドミナントアプローチにならないダイアトニックトーンでアプローチするのはダイアトニックアプローチ、パッシングディミニッシュを使うのはディミニッシュアプローチなどと呼ばれる)。
ベースの動き方が多様で調性をあまり気にしない曲(Jazzなど)はもちろん、ギターでスリーコードを回すような曲でも、(バッキングが全音符だったりすると特に)小節の後半ならアボイドノートや調性外の音を入れても意外と気にならないものなので、とりあえず試してみるくらいの気持ちでいろいろなパターンを検討してみるとよいだろう。
反対に、小節のアタマにルート音以外の音を使う場合は、それがコードの構成音であっても、イメージが大きく変わりやすい。違和感がある場合、上に乗せる和音楽器がルート音を省略しなければやや緩和できる。また、ベースを4分で打つ場合にアボイドノートや調性外の音を入れるなら、1拍目をルート音にして2拍目に入れる(ルート音の直後でどの音でも鳴らしやすい)とか、3拍目にコードに乗る音を鳴らしていったん立て直してから4拍目に入れるといった工夫で、自然な感じを出せる。
実例についてはもっと詳しく解説したサイトがあるので、そちらを参照して欲しい。このページで紹介されている、コードが4度上昇する直前の小節での、メジャーコードなら完全1度>増1度>長2度>長3度、マイナーコードなら完全1度>長2度>短3度>長3度という動き(すべてコードのルート音からみた音階)は、かなり使える。また、メジャーコードからマイナーコードへ長2度上昇する場合に後ろのコードの頭でルートから短3度上のベースを鳴らしてやる(C>DmをC>Dm on Fにするなど)と、前述の連続8度や連続5度を避けることができ自然な感じになりやすいようだ。
コードの構成音(内音という)の後にコードの構成音でない音(外音という)を鳴らしてまた同じ音に戻る場合を刺繍音(Cコードの上でG>A>Gとした場合Aが刺繍音)、内音の後に外音を鳴らして別の内音に移動する場合を経過音(Cコードの上でC>D>Eとした場合D音が経過音)、内音の後に音程の大きく違う外音を鳴らして別の内音に移動する場合を倚音(いおん:上昇>上昇や下降>下降もなくはないが、上昇>下降か下降>上昇が多い)(Cコードの上でE>A>Gと上昇>下降した場合A音が倚音、G>D>Eと下降>上昇した場合はB音が倚音:下降>上昇の場合は半音上昇が好まれる)、前のコードの内音を鳴らしたまま次のコードに移ってそれが次のコードの外音になる場合を掛留音(G7>Cと進む場合にF音を鳴らしたままにした場合F音が掛留音)、前のコードの最後で鳴らした外音を次のコードの内音としてすぐまた使う場合を先取音(C>Fと進む場合にCの最後でF音を鳴らしてFの最初でもF音を鳴らした場合F音が先取音:掛留音と違って鳴らしっぱなしにする(タイで結ぶ)必要はない)といって、それぞれよく使われる。また、刺繍音のはずがコード変更で同じ音に戻らなかった場合を逸音、小節の頭を外音で始めて内音に戻してやる場合を直接倚音というらしい(G7>Cと進む場合G7の最後でF音を鳴らしてCの頭で改めてF音を鳴らした場合、F音は掛留音ではなく直接倚音扱いになる模様)。
名前だけ覚えてもあまり意味はないが、外音の自然な鳴らし方の例としては十分参考になる。
またI>VI>IIm>Vのトライアドパターンを例に取るが、前述の8分打ち(躍動感がある)のほか、リズム作りをベースが担当したり(バッキングがリズムを打つよりも、ブツ切れ感が少ない)、大方はバッキングに任せつつ要所では一緒になってリズムを刻んだり(音が薄くなるので1オクターブ上にストリングスを重ねているが、ヴォーカルやエレキギターなどを重ねるなら必要ないだろう)、8分は8分でも適当に音を抜いたり、その他いくらでも表現の仕方があるので、同じようなリズムであっても、いろいろな鳴らし方が考えられる。
また、前述の休符の話とも絡むが、同じ1分打ちでも、小節の後半で軽くミュートしてやって音量を下げるとか、同じ8分打ちでも、スタッカート気味にして歯切れをよくしつつ音の密度を下げるとか、裏拍子にアクセントを置く(シンコペーション)とか、いくらでも工夫の余地がある。
また、ここでは扱っていないが、リズムを作るということは、当然ドラムスとの絡みも重要になってくるので、そちらもいろいろと試行してみる必要があるだろう。
メロディのところと同じ話になるが、理屈から入ると展望が利かなくなることがあるし、面倒なことになりがちなので、慣れないうちはとくに、こんな音が欲しいからこうすればどうかとか、こんな動きがハマりそうだが(理屈上は)どんな効果が出ているはずか、などといった発想で知識を利用した方がうまくいくことが多いのではないかと思う。とりあえず音を出してみて、うまくいかなかった場合に理論を思い出して解決になればラッキー、くらいの気持ちがよさそう。
とはいうものの、トニックとサブドミナントではダイアトニックパラレルモーション、ドミナントでは置換ドミナント(裏コード)やドミナント分割を意識して音を動かすと、流れのあるラインが作りやすいのは確かだし、メロディのところで出てきた順次進行と跳躍進行の考え方も役に立つ。
最初に書いたとおり、ベースには曲の表情を変える強い力があるし、リズム感は曲の印象を決めるもっとも大きな要素の一つなので、非常にイジり甲斐のあるパートだといえる。また、これも何度か触れたが、バンドでやる場合にはとくに、和音楽器やパーカッションとの掛け合いが重要かつ面白いので、いろいろと試してみるとよいだろう。
ピアノやギターなど、ベースの上に乗る音がばらけているパターンももちろんある。ドラムス+ベース+エレキギターといった構成のバンドなどはもちろん、アコギやアコピがメインになる場合でも、和音を上に乗せて演奏している時間の方が少ないことはよくある(筆者はコード鳴らしっぱなしの曲も大好きだが)。一部の電子楽器(シンセとか)や巨大な反響装置のある楽器(パイプオルガンとか)だと、倍音が極端に厚いだけの音なのかコードが鳴っているのか判別がつかない場合もあるが、そういう話はとりあえず脇に置く。
まず、コードの構成音であれば、よほど奇特なパターンを作らない限り問題なくまとまってくれるはず。前にも利用した大きな古時計を例に取るが、単純な往復、1オクターブ上の音も入れる、サステインペダル(ダンパペダル)を使う、鳴らし方を変えるなど、いろいろと考えられる。もちろん、コードの構成音以外の音もどんどん使ってよい
また、ヴォーカル曲なら、別に無理に伴奏をいれなくても、ベースの上にヴォーカルが乗って、たまにギターやピアノが横槍を入れる程度でもまったく問題ない(さすがに、インストゥールメンタルだと延々ベースソロになってしまうのでアレだが)。というか、ヴォーカルメインなら、ベース以外の音(場合によってはベースも)はすべて修飾音と考えてもよいのかもしれない。
あまりぱっとしない出来だが、一応サンプルファイルも作ってみた。メロディに対して修飾音ぽく鳴るパターンと、ループの上でメロディを鳴らすパターン。一部(意図しない)不協和音が鳴ってしまっているが、あまり気にしない方向で。
世の中には長い時間の中で積み重ねられてきた典型がいろいろとあって、スケール(あるコードの上で鳴らす音の方を指す)ひとつとっても、ものすごくたくさんの種類がある。フレーズやコード進行にも、いろいろな「定石」がある。それらをうまく取り入れることで、自分ひとりの頭と体でひねり出すよりはずっと豊かな表現が可能になる(と思う)。
じゃあ実際にどうやるのか、という話になると、残念ながら筆者の手には負えないので、詳しくは下記のリンクや解説書などを参考にして欲しい。というところまででこのページは終了。長文を最後まで読んでくれた人、ありがとう。
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