編曲(基礎編)


楽器の編成 / 音域と定位 / リズムパターン / 分散和音とアルペジオ
/ 仮にコードをつけてキーを決める / コードをもう少し検討する
/ ベースという楽器について / ベースとコードについてもう少し / 結局ベースはどうするの?
/ Dominoの便利機能 / ベースを仮入れする / 問題解決の方法論 / 本格的な調整
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<サンプルのMIDIファイル(SMFフォーマット1)が再生できない方はQuickTime Playerを使用してみてください>

アレンジ作業を実際にやってみよう。基礎編では「メロディに伴奏がつけられるようになる」ことを目標にする。予習編の内容をしっかり実践した読者は、今すぐにでもさまざまなアレンジを操りたい願望を少なからず抱いていると思うが、初心者がイキナリ高度なアレンジに取り組むのははっきり言って無謀である。まずは普通に伴奏を付ける技術をしっかり練習しよう。伴奏の工夫や前奏/間奏作りなどは基礎完成編で扱う。

サンプルファイルを用意しようと頑張ったのだが・・・しっとりした感じ(派手なのにするとアレンジがめんどくさいし)のウタものポップスでマイナーなメロディー山盛りで・・・と思っていたらなぜか吉幾三モドキにその他もろもろの昭和歌謡曲フレーバーを追加したようななんとも残念なメロディになった。追記:誤解している人がいるようだが筆者は吉幾三や昭和歌謡曲が嫌いなわけではない。モドキになったのが悲しいだけである。

読者には申し訳ないが、改めてメロディを書く気力もないので、このしょっぱいメロディでこの先解説を続けることにする。アレンジによって現時点では筆者の耳に入らない「良さ」が表に出てきてくれればよいのだが・・・そんなものはなさそうな雰囲気がひしひしと感じられる(涙)。ちなみに、メロディは4小節2回反復+4小節2回反復=16小節の構成で、作曲のページで紹介した例でいうと最小構成にあたる。追記:このページの最後まで進めるとこんな感じ、基礎完成編の最後まで進めるとこんな感じ音声ファイル)の編曲になる。

アレンジ作業に初めて取り組む読者は、筆者同様オリジナルのメロディを用意してももちろん構わないのだが、構成がしっかりしたシンプルな曲という意味で、ヨーロッパ民謡系のクラシックなどを利用した方が効率がよいと思う。作曲の基礎完成編で使用した大きな古時計蛍の光グリーンスリーブスあたりから気に入ったものを選ぶのが手っ取り早いだろう(グリーンスリーブスはやや難易度が高いと思う)。


楽器の編成

楽器の構成はシンプルにしたいので、エレキベース・ドラムス・ピアノ・ヴォーカルにする。場合によってはアコギとシンセも試したい。楽器の構成から、キーについてもある程度方針を立てられるとなおよい。この時点でキーを検討できない人は後回しにして構わない(検討しておいた方が作業はスムーズだが)。

上記のうちピアノにはちょっと注意が必要で、コード伴奏楽器としてはクセが強い部類である。似たような(=コード伴奏ができて、合いの手やソロもイケる)楽器にギターがあるので、慣れない人はそちらの方がとっつきやすいかもしれない(ただし、ギターにもギターなりに考慮すべき事柄はある:次の項で触れる)。もちろん、ピアノの音色が好きだとか、曲に必要だという場合は物怖じせずに使おう。

4弦ベースを使う場合、筆者はE~Gくらいのキーが好きである。このうち鍵盤で弾きやすい(黒鍵が少ない)のはFとGで、人にもよるがどちからといえばFが弾きやすい(このような理由でキーを選んでいいのかどうかわからないが、演奏しやすいのは悪いことではない)。

使うかどうかわからないが、アコギは(筆者のようにノーカポでローコードをストローク弾きする人にとっては)G、D、A、Eあたり(3~6弦の開放と同じ音程)がルートだとラクなので、FかGかの選択であればGということにしたい。ちなみに、筆者が作る曲にはGやEmの曲が多いが、ほとんどの場合今回と同じ理由である。

元のメロディ(Cメジャー)で使っている最低音はC4、最高音はD5だが、Gメジャーに移調すると最低音がG4で最高音がA5になる。ソプラノの声域がぴったり当てはまるし、1オクターブ下げればテナーでも歌えるはずなのでちょうどよいだろう。とりあえず移調したファイルを保存しておく。


音域と定位

音域と定位は逆三角形の図で把握するとわかりやすい。定位はミックス作業のときにイジるのだが、アレンジの段階である程度構想を練っておいた方がよい(大雑把で構わない)。楽器の音域については楽器の特性のページを参照。

便宜上、C3、G#4、E6で音域を分けているが、これは4弦ベースの最低音であるE1から出発して半音20個(約1オクターブ半)ごとに機械的に区切っただけで、とくに意味があってこの区切りにしているわけではない。また、低音楽器は中央定位にするのが定石だが、この逆三角形からはみ出て定位させるのが必ずしも悪いわけではない(はっぴいえんどあたりは鍵盤を入れない曲でベースをややずらすことがあったし、もっと新しい曲でも、斎藤和義やPSY'Sの松浦博士などはかなり極端にベースを寄せることがある:ただし、ヘッドフォンで聴くとかなり違和感があることは承知しておきたい)。

図ではドラムスが省かれているが、原則的に派手な音ほど高域(音程楽器の基音としてはほとんど出てこない4KHzくらいより上の領域)が厚くなりやすい。高域が厚くなるということは中域や低域もそれなりに太い音を出す必要があるわけで、ディストーションギターなどでゴリゴリ埋めるとヘビメタっぽい構成になるし、シンセによるパッド(隙間を埋める音)で対応するとポップスらしくなる。反対に地味な音で高域を空けてやると、メロディやコードを担当する楽器が「重たい屋根」を支える必要がなくなり、繊細さを重視した曲に向く。

今回はメロディがソプラノ(G4~A5)ということで女声ヴォーカルが前提になるが、これはアレンジがかなりラクな条件といえる。今回予定している編成(ドラムス・ベース・ヴォーカル・ピアノ)を上の図に当てはめて配置してみよう。

ベースはやや倍音の豊富な音色を選ぶ予定なので、実際の音域よりもやや上まで領域を確保した(他の楽器も同様だがベースはとくに、この段階でどのような音色を使うのかある程度想定しておいた方がよい:オーバードライブのかけ方でも干渉の度合いなどが変わる)。ピアノ(ステレオ録音された音源を使う前提)はヴォーカルと重なる音域を避けて演奏する。

ピアノの左手は主にコード伴奏、右手はオマケ的な音を担当する予定だが、ヴォーカルとピアノの音域がキレイに分かれているのがポイント。とくにヴォーカルの定位をセンターにしたい場合は、このような構成だと安直なアレンジでも支障が出にくいのである。ピアノがステレオ収録主流の楽器なのも有利な点で、伴奏がギターだとここまで単純にはいかない(いかにも偶然であるかのように説明しているが、今回のサンプルでは、最初から狙ってこの構成を使っている)。

もちろん、ラクをするためだけにこの構成を用いるわけではなく、より自由で複雑な和音を求める場合にも有利である。音を「積む」タイプのアレンジャーが女声ヴォーカルを好む理由の1つにもなっているのではないかと思う。

では、ヴォーカルの音域が低い場合はどうするのかというと、時間軸での出入り(重なった音域の楽器が交代で前に出て、掛け合いをするような形)を活用することになる。特別ハイトーンではない男声ヴォーカルが収録された市販CDを何枚か聴いてみるとわかるが、ヴォーカルが歌っている間はエレキギターなどの演奏がごく薄い音になっているか、または音量がかなり低くなっているはずである。

ヴォーカルとギターが同時に音を出す場合(エレキギターのカッティングとか)はギターの定位を左右どちらかに振るが、そうすると曲全体が左右に偏って聴こえるため、もう1本ギターを入れたりオルガンやシンセを入れたりしてバランスを取ることが多い。図で表すとこんな感じだろうか。

図では高域ががらりと空いているが、ハイハットの音で埋まることが多い。もちろん、ヴォーカル中央定位にこだわらなければもう少し自由な構成ができるわけで、ツェッペリンやビートルズあたりのCDだと、ギターとヴォーカルを左右に分けているものも普通にある。

ヴォーカル中央定位や音域埋めにこだわるとアレンジが大きな制限を受けるため、本当にそれが必要なのか考えてから行った方がよい。なお、モノミックスを作ろうのページでまた触れるが、レスリーシミュレータやステレオコーラスをかける音源は極端な定位にしにくいことを覚えておこう。


リズムパターン

リズムは後でもう一度見直すが、とりあえずのリズムとテンポは決めておかないと作業を進めにくい。また、この段階でいろいろなリズムを試してみることでイメージを広げる助けにもなる。

とりあえず、遅い8ビート遅い変則ビート速めのシャッフル速めの16ビートを用意してみた。シャッフルバージョンのみ、メロディも音符の長さを変更している。

ぱっと聴いた中では16ビートがよさそうである。ここは16ビートを採用・・・したいところなのだが、他のページと平行して作業を進めている都合で、実はすでに歌詞ができてしまっている(というか、歌詞の方がメロディより先にできた)。それがまたかなり地味な歌詞なので、16ビートバージョンはちょっと使いにくそうである(大失敗:しかも、作詞の解説ページでは結局サンプルを使わなかった・・・)。

ここはひとつ歌詞に合わせて変則ビートバージョンを採用し、16ビートバージョンは「別パターン」として今後も使うことにしよう。この変則ビートは、理屈で考えると16ビートの変形である(16分音符単位で音が動いているから)。メロディ自体が16分音符単位で動いている個所がいくつかあるので、もし8ビートにするならメロディの調整が必要だろう。

ともあれ、テンポを変えながらメロディの下でドラムパターンをイジるだけで、随分雰囲気が変わることがわかったと思う。本来であれば、たとえば同じ16ビートを採用するにしても、シンバル類の音量変化や休符のタイミング、アクセントの位置や明確さ、バスドラムの回数と位置など、もう少し細かくパターンを変えて試してみるべきなのだが、サンプルファイルの作成に手が回らないので、ここでは省略する。

なお、今回はメロディがアレだったためシャッフルバージョンが酷いことになっているが、しっかりとしたメロディはリズムやビートを変えたくらいでは崩れない。以前思い付きで「モルダウ」をシャッフルアレンジにしたことがあるのだが、このくらいよくできたメロディだと安直にビートを変えただけでもしっかりと収まってくれる(どうしても「合わない」ものはあるが、筆者が作成したサンプルのように「ボロが出る」ことはない)。


分散和音とアルペジオ

ここまでなんの断りもなく「アルペジオ」という語を使ってきたが、この言葉も「流儀や時と場合によって」意味が大きく変わる。また、アルペジオの和名に「分散和音」を当てる場合があるが、本来当てるべき和名は「琵音」(びおん)であり、琵音は分散和音の特殊形の1つだと考えるのが正式に近い(分散和音を英語で言う場合は「ブロークンコード」とする)。

まずは分散和音から紹介しよう。サンプルファイルでは3回音が出るが、すべてCのコードの音だということは納得できるだろうか。納得できない人はこの項目を読み飛ばそう。このように、音が一斉に出ずバラバラになった和音を分散和音という。

ではもっと微妙な例を聴いてみよう。どこまでが「Cの和音」として聴こえただろうか。音源のリリース(音の切れ方)や人によって見解が異なると思うが、多くの人は、最初の1回はCの和音に、最後の1回(パワーコードのつもり)は和音でも何でもなく単音2回に聴こえたはずである。

この判定基準を「どこまでだ」と議論してもあまりメリットはない。重要なのは、単音の連続を和音として捉え得るという事実の方である。また、和音としての性質と単音としての性質を両方兼ね備えている場合は、どちらに注目してもよいし両方に注目してもよい(コードネームを中心とした解釈には馴染まない楽器だが、オルゴールなどについて考える場合は、和音と単音を最初から区別をしないのも手だろう)。このページではこの程度の連続した音(伴奏部分)は和音としての性質をそれなりに持っている、と玉虫色に解釈しよう。

これを認めると面白いことになる。単音しか出ない楽器(英語で「モノフォニック」といい、上のサンプルではリコーダーを使ったが、息を吹いて鳴らす管楽器にはモノフォニックのものが多い:複数の音程を同時に出せるものは「ポリフォニック」という)でも「コード伴奏」ができてしまうのである。メロディとぶつかる音や不協和音の出る音を小節の後ろの方に回してしまうという小細工も使えるようになる(sus4コードが(もともとは)このような経緯で生まれた、という話については作曲の知識補充編ですでに触れた)。

アルペジオの紹介が後回しになってしまった。古い意味でのアルペジオは「コードの構成音を低い方から順にまたは高い方から順に鳴らして分散和音を作る演奏法」を指すが、実際の演奏を考慮する場合、楽器によって奏法が異なってくる。たとえばギターでは、本来の「アルペジオ」に近い奏法を「ストローク」と呼び、音の間隔が大きく開いて音程の上下がある奏法を「アルペジオ」、遅めのストロークを左手ミュートで単音に分離したものを「スイープ」などと呼び分ける(スイープの扱いについては異論があるかもしれないが、前述のとおり、ここでは「分散和音に聴こえ得る音」を出せる奏法かどうかだけを問題にしている)。

このページでは、古い用法での「アルペジオ」を完全に無視して「楽器それぞれの奏法に従って鳴らす分散和音」を指すことにする。


仮にコードをつけてキーを決める

キーをまだ決めていない人は、キーの検討も一緒に行う。コードを先に考えてからメロディを付けた人はここまで読み飛ばそう。メロディを先に作ったがコードの当て方がまったくわからないという人は、一足飛びのコード後付けのページを参照。

さてとりあえず、小節ごとにいろいろなコードを当ててみて、気に入ったものを選んでいこう。よくわからない小節はコードをつけないまま残しておいてもよいし、必要であれば小節の途中でコードを変えてもよい。作曲の基礎完成編でも触れたように「コードの並びが作る場面展開」や「コードに対してメロディが何度になるかで得られる響き」を意識できるとなおよい。

ある程度「まとまりと起伏」のあるメロディが作れていれば、IとIVとVまたはImとIVmとVmに相当するコードが現れるはずで、たとえばこのようにコードをつけた場合、出てくるのはG・Bm・Em・D・Cだから、GメジャーかEマイナーだと考えられる。曲が落ち着くパートにGを振ったことや場面の展開をD>Gの動きで表現したことを考え合わせれば、自分がGメジャーに解釈していたことに気付くだろう(転調には注意)。最後がGであることもヒントになる。

もしここでEマイナーの解釈の方がよいのではないかと思ったら、Eマイナーらしさが出るようにコードやメロディに手を入れつつそちらの解釈で作業を進めてもよいし、Gメジャーの解釈のままところどころEマイナーっぽさを散りばめるアレンジにしてもよいし、コードやメロディを変えてGメジャーでもEマイナーでもない解釈を探ってもよい(途中で転調する解釈でもOK)。メロディの変え方の例は知識補充編で紹介している。

また、まったくまとまりのないメロディの場合コードもまとまりなくいろんなものが出現するだろうから、キーのことはあまりムキになって追及しない方が無難だろう(後述)。まったく起伏のないメロディだと、曲全体で1つのコードしか使わないようなケースもありえなくはない(民謡や童謡のような雰囲気になるはず)。曲としてのよしあしは別として、このページで紹介する練習に使うには差し支えがあるので、ムリヤリにでも適当なコードを振ったうえで上記と同じ方法でメロディを改造しておこう。

とりあえずのキー決めをしたら、あとはキーを手掛かりに後回しにした小節のコードをつけていこう。ダイアトニックな三和音に限定すれば7種類(キーの候補が複数あったとしてもせいぜい10種類くらい:後述するが、キーの候補はムリに1つに絞らなくてよい)しかないので、虱潰しに当てても大した手間ではないだろう(もちろんダイアトニックでないコードも使ってよいが、使用頻度はダイアトニックコードの方が高いはず)。コード振りに自信がない人は、練習のために、サンプルファイルを聴く前に自分でコードを当ててみよう。筆者が解釈したコードはこのようになった。ついでに、最初のメロディをもう一度繰り返すようにつないでおいた。

何度も繰り返している話だが、コード振りはあくまでメロディの「解釈」に過ぎないため、コードの当て方は1通りではない。一応サンプルも作成したが、このようにメジャーコード中心で解釈することも可能である(メロディ自体はマイナーコードの多用を想定して書いたものだが、メジャーでの解釈も16ビートバージョンには割と合うと思う:メジャーコードを使いたいのにメロディがマイナーすぎる部分があったら、メロディの方を変えてもよい)。耳でコードをつけていこう。筆者は今回Gメジャーでマイナーコードが多めの解釈をしたので、以後これに従って作業を進める(後でEマイナーのイメージを借りるパートも出てくる)。

また、キーは「どんなときも明確に把握していなければならないもの」ではない。自分で書いた曲だがキーがイマイチわからないということはよくある話で、筆者の経験では2008年4月26日の日記で触れた展開などがそうである。ちなみに、当時の筆者はDメジャー+一時転調で解釈しているが、聴き返してみると、AミクソリディアンがDに調性を奪われた後Dメジャー(ナチュラル/ミクソリディアン)とAミクソリディアンで綱引きをする解釈の方がしっくりくる。

変なコードを多用する曲であればあるほどキーは曖昧になるし、ギタリストの中には「ギターで演奏しながら自分の左手を見てはじめて(自分が作った曲の)コードがわかる、キーはまったく意識していない」という人さえ(作曲・ギターアレンジ・演奏すべてにおいて上級者であっても)けっこういる。ここでは、もしある程度キーが明確な曲なら、把握しておいた方が便利なこともある、程度に認識しておこう。

キーの候補が複数残っており、何かの事情で各候補を比較したい場合は、パートの最後に「トニック>ドミナント>トニック」という2小節をくっつけてみるとよいだろう(代理でない本物のトニックとドミナントを使う)。それで「違和感なくしっかり終わった」印象がもっとも強いものが、もっとも自然な解釈だと考えられる。


コードをもう少し検討する

コードがついたのはよいのだが、先ほどのパターンはどちらもちょっとした問題を抱えている。最初のメロディをもう一度繰り返すパターンを聴くとわかるが、2番目のメロディがトニックで終わっているため、最初に戻るつなぎ部分(ターンバックとかターンアラウンドと呼ぶことがある)が「安定>安定」の展開になってちょっと平坦に感じられる。

これを解消する方法はいくつかある。まずはメロディ自体を書き換えてI>IではなくV>Iになるよう調整する手がある(V>Iは「不安定>安定」の代表格的な展開で、コードに曲が引っ張られるような強い進行感があるのは作曲のページで述べた通り)。これが一番王道なやり方だと思う。もう1つはI>IをI>V>Iという形にしてやる方法。これだとメロディには手をつけなくてよい。

一般的にはこの2つで対処することが多いのだが、もうちょっと変わった手もあって、コードをVsus4>V>Iに変えてやることもできる。ベースが入ってからの話になるが、IIm7 on V>V7>Iとやっても似たような効果がある。さらに、Vsus4をVに解決することなくそのままVsus4>Iという進行もポピュラーミュージックでは普通に使われる。どれを使うかは実際に試して耳で決めよう。筆者はVsus4>V>Iにした(Iadd9というコードを使う手もあるのだが、ベースが入っていない段階でそこまで細かくコードを考えてもあまり意味がないため、今回は考慮しなかった)。「on」がつくコード(オンコードという)については「ベースとコードについてもう少し」の項目で後述する。

sus4やオンコードを使うアイディアは、ある程度コード理論を勉強するなりコード振りの練習を重ねるなりしないと、なかなか出てこないと思う。また、筆者は4小節めのAmを最初Cにしようと思ったのだが、前がBmで後ろがEmであることをヒントに考え直した。間をAmにしておけばEマイナーにおけるVm>IVm>Imを借用したことになり、少しブルーな雰囲気を出せそうに思えたので試してみたところ、CよりAmの方がよさそうに感じた。

もしどうしてもコードが当てられないパートが残っているとき、その前後(とくに直前)のコードを見直してみよう。たとえば伊勢正三の22歳の別れという曲はコードがEm>B7>Em>G>D>G>Em(key on Gm, capo 3, play as Em)と動くのだが、最初をEm>B7>Gにしても変えた部分にはそれほど違和感がない。しかしそうすると次の小節に当てるコードの選択が難しくなってしまう。また井上陽水の少年時代という曲は、コードがG>D>B7>Em>>C>G>Am>D(key on A, capo 2, play as G)と動くが、最初をG>D>Emと入ってもそう極端におかしくはない。しかしそうすると後がG>D>Em>C>>G>C>Am>Dとか、そういう進み方になりがちである。それが間違った当て方でないことは何度も繰り返しているが、もしたとえばG>Cの部分の響きが何かしっくりこないと感じたときに、前後を見ずにそこだけ直そうとしても無理である。この手の「入れ替わり」は有害無益なものでは決してなく、積極的に使うと変わった響きを得たいときに役立つ(たとえばいったんつけたコードを、4度上>5度上>代理関係があるもの、という優先順位で次々と差し替えていくなど:同じメロディを4度上コードに乗せるのはブルースで一般的だし、クラシックにも属調に転調して同じメロディを繰り返す手法がある)。

予習編である程度知識や経験が必要と書いたが、この辺のアイディアが出てくるかどうかが一番大きな差になると思う。あとは何度でも繰り返し聴いてイマイチだと思う部分を手直ししていこう。ベースが入っていない状態でセブンスコードを使うと面倒なことになるので、ドミナントセブン以外のセブンスコードはここでは考慮しない(ドミナントセブンも、無理に考慮する必要はない)。

コード楽器の鳴らし方について、本来はベースも含めて考えないと始まらない話なのだが、慣れないうちはこの時点で何パターンかイメージを確認しておこう。たとえば、ドラムに合わせてベタ打ちとかダンパペダル風のアルペジオとか8分音符で薄く弾くとか、やり方はいろいろとある。


ベースという楽器について

非常に重要な項目なので少し概念的な話をしよう。コードネームを中心とした音楽において、ベースは絶対的な権力をもつパートである。まずはC6とAm7の音を比べてみよう。



上がC6で下がAm7だが、使っている音の種類はC音とE音とG音とA音で、どちらも同じである。ただその順番だけが違う。

「順番」と一言で言ったが、ここで重要なのは「C6ならC音が一番下、Am7ならA音が一番下」ということだけで、上の音はどんな順番にしてもC6のイメージやAm7のイメージは変わりにくい。たとえばこのサンプルの最初の2回はCのイメージ、後の2回はAmのイメージが強くないだろうか(慣れていない人にとってはかなり微妙な差なので、はっきりとわからなくても、なんとなく感じられれば大丈夫)。

こういった経験を踏まえて、コードネームを中心とした理論では、一番低い音の音程を手掛かりに和音を解釈する。反対から言うと、一番低い音の音程が和音の響きに支配的な影響を与える、と考えるのがコードネームを中心とした理論の立場である。

ちなみに、E音を一番下にすると「どちらかといえばCに近い気もするが結局よくわからない」、G音を一番下にすると「どちらかといえばAmに近い気もするが結局よくわからない」微妙な響きになる(上手いベーシストはこの響きをガンガン活用する:理論上は、CとAのどちらが安定的にパワーを発揮できるかという問題なのだが、詳しくは次の項目を参照)。

さて、ベースというのは低い音が出る楽器である(ピアノはベースより低い音が出せるが、ソロでなければめったにやらない)。ここではベースより低い音が出せる楽器はないと仮定しよう。ベーシストがA音を弾いている場合、他の楽器がどんなにCのコードを弾きたくても、全体の音色は(ベーシストをギターで殴ってKOするとか、ベースアンプの電源を落とすといった反則技を使わない限り)Amにしかならない。実に大きな影響力である。

これは「メロディがコードに解釈される」という話と事情が似ていて、ある和音にベースをつけるということは、その和音を解釈することに他ならない。


ベースとコードについてもう少し

前の項目では四和音の場合を取り上げたが、メジャーまたはマイナーの三和音に限定して考える場合、ベース(一番低い音)の音程が(コードを構成する3音のうち)どれであっても、他のコードに聴こえるということはない(ことになっている)。しかし、ベースの音程によって響きが変わらないわけではない。

一番低い音がコードのルート音(たとえばCならC音、AmならA音)である場合がもっとも安定した響きになるのは、理屈で考えなくてもすぐにわかると思う。CならC音、AmならA音の存在感を強くアピールできる。

一番低い音がコードのルートから3度の音(たとえばCならE音、AmならC音)である場合、(三和音に限れば)それほど大きな違和感はない。一番低い音がコードのルート音の場合よりはさすがに安定しないが、別にどうということのない普通の音が出る。

一番低い音がコードのルートから5度の音(たとえばCならG音、AmならE音)になると、もう少し不安定な雰囲気になる(サンプル:慣れない人は違いがまったく聴き取れなくても問題ないので、以下の説明を単に知識として仕入れておこう)。G音を一番低い音にしてCのコードを鳴らすと、Gの上に4度上のC音と6度上のE音が乗ることになるが、6度は弱い不安定さ、4度は不安定さを持つ音なので、全体として微妙な響きになる、と説明されることが多い(この理屈だと、E音を下にした場合に微妙に不安定なのは、E音から見たC音が6度だからということになる)。

とりあえず、ここでは「一番低い音がコードのルートから5度の音だと、響きがやや不安定になる」ということを知識として覚えておけばよい。用語として「一番低い音を、コードのルートから5度の音にする」ことを「5度音をベースにする」「5度をベースに回す」などと言うので覚えておこう。

「1度(ルート)がベースの和音」を基本形、「3度がベースに回った和音」を第一回転形(ベースから見て6度の音が乗っていることにこだわる立場では「六の和音」)、「5度がベースに回った和音」を第二回転形(ベースから見て4度と6度の音が乗っていることにこだわる立場では「四六の和音」)と呼ぶ。四和音の場合は7度音をベースに回すこともあるが、これは第三回転形と呼ばれる(シックススコードでは第三回転形を考慮せず、他のコードに変化すると考えるのが普通)。また、たとえば「5度(Gの音)がベースに回ったC」という意味で「C on G」などという書き方をする場合がある。

3度と7度の長短増減にもよるが、一般に、コードの安定度は基本形>>第一回転形>第三回転形>第二回転形となる。構成音から複数の解釈が可能な場合は、安定度の高い解釈になるコードが優勢に聴こえる(前の項目でC音とE音とG音とA音を並べ替えた例を参照)が、前後関係やアルペジオの鳴らし順などで印象が変わることもある(基本形は飛びぬけて安定度が高いので、他のフォームに負けることはあまりない)。

厳密に理詰めで考えると、5度音はコードの響きにあまり関わらない音なので、たとえばCの第一回転形はEmm6(イーマイナー・マイナーシックス・オーミットフィフス)またはEm(b13)(イーマイナー・アドフラットサーティーンス・オーミットフィフス)などと解釈可能で、実際「Emの響き」を感じさせないわけではない(極端なサンプル:ちなみに鍵盤楽器でこの演奏をするには、3本ペダルまたは2段鍵盤でないと難しい)。ただし、現実的にはCの響きを強調した用法が多く「C on E」以外の表記はほとんど使わない。

このページのサンプルファイルでは、これまでなんの断りもなくコードの回転形(とくに理論的な根拠はなく、上がる音と下がる音のどちらが心地よいか耳で判断しながら、ピアノの鍵盤上で指の動きが少なくなるように回しただけ)を使ってきたが、これは後で見直すので、回転させないままのコードで作業を続けても差し支えない。

また、作曲の基礎編では「コードのルート」を「コードの最初の音」と説明したが、ここから先は「コードの中心になる音」という定義に改める。同様に「ベース」は「コードの中で一番低い音」とする。この言い方に従うと、基本形は「ルートの存在感が明確なフォーム」だと言えるし、第二回転形は「ルートの存在感が希薄なフォーム」だということになる(可能な解釈が複数ある場合、どのコードネームがつくかはルート同士の勢力争いの結果次第で、たとえば低い音から順にA・C・E・G音を重ねたコードだと、Aの影響力がCの影響力より強いので、特殊な事情がない限りC6ではなくAm7と解釈される)。


結局ベースはどうするの?

ここまで「ベースは重要!」というアピールを繰り返しておいてアレなのだが、初心者が作業する場合、ベースアレンジは「ドラムスに合わせてルート音だけ」が無難、というのが実情である。影響力が絶大だからこそ下手にイジれないというのも理由の一つだし、ベースが頻繁に動くと曲全体の和音構成が恐ろしく複雑になるという事情もある。

また、延々とルート音を弾き続けるパターンにも、曲全体の和音が安定するという利点があり、プロがアレンジした市販CDなどの曲にも、ベースはほとんどルートだけでごくたまに動くような構成の曲はかなりある。ベースをどうしても動かしたい人はまず、他の楽器(とくにメインメロディ担当)がヒマそうにしている(休符とかロングトーンとか)場所を狙ってやってみよう。

向き不向きも激しく、低音マニア以外の人がベースアレンジに取り組むのはかなり苦痛なのではないかと思われる(筆者自身は低音マニアなのでまったく苦にならないというか、むしろ楽しい)。閃きや手癖がものを言う割合も大きく、なおさら人を選ぶ作業である。

もちろん、ある程度理詰めでベースを動かすこともできるのだが、一般人レベルの知識では「無難にベースが動ける場所を見つけてちょっと動かす」程度が関の山で、音楽理論マニア以外の人が本格的なベースアレンジを理詰めで進めるのはかなり無謀だろう(筆者は音楽理論マニアでないので、そんなことは極力やりたくない)。

このページでは、ルート弾きを中心に凝りすぎない程度の変化を入れる方向で作業する。ちなみに、「無難にベースが動ける場所を見つけてちょっと動かす」程度のベースアレンジであれば、わずかな手間でこなせる自動編曲ソフトが(値段が高いものが多いものの)いくつかあるので、興味がある人は試してみるとよいだろう。


Dominoの便利機能

やや脱線になるが、ドラムスに合わせてベースをつけるという話が出てきたので「オニオンスキン」という便利な機能をここで紹介する。この機能を使うと、他のパート(トラック)の音を確認しながら打ち込みができる。

打ち込み作業をするトラックを表示して、タマネギのアイコン(の右側にある下向き三角)>ピアノロールに次の/前の/指定のトラックを表示(「次の/前の/指定の」は、表示させたいトラックによって自分で選ぶ)と操作すると、

このように、別のトラック(この場合は編集しているトラックの次のトラック)の音を別色で表示することができる。

「ピアノロールに指定のトラックを表示」を選んだ場合、CtrlキーやShiftキーを押しながらクリックすることで複数のトラックをいちどに指定できる。

コードを確認しながらメロディをイジるとか、ドラムスを確認しながらベースを動かすとか、各パートで連携を取りながら作業を進める際にこの上なく便利なので、使っていない人はぜひ活用しよう。


ベースを仮入れする

まず「ドラムに合わせてルート音だけ」のパターンでベースを入れてみた(その1その2)。メロディやコードとドラムスのタイミングがずれている場合は、少しパターンを変えた個所もある(どうせ後で見直すし、これは勘でやってもあまり困らないだろう)。最終的には、ドラムスのタイミングに他を合わせるのか、メロディのタイミングに他を合わせるのか、ずれたままにするのか、きちんと検討する(が、今は後回し)。

ここで、2回目のAm(7小節め、最初のメロディの後ろから2小節め)がちょっと地味すぎることに気付いた人もいると思う。ベースが入ったことでコードの響きが強力になり、今まで目立たなかったちぐはぐさが見えてきた例である。アップテンポの場合はあまり気にならないが、スローなバージョンでは2つめのメロディの最後に入れたDsus4もちょっと引っ掛かるかもしれない。

そこで、Amの後ろにDを入れて、Dsus4をDsus4 on G(前後関係によってGsus2と書く場合もあるし、G add9 omit3という呼び方もできるが、ここは簡単に済ませる)に変更した(サンプルファイル)。

メジャーコード中心で解釈したパターン(以前と同じサンプル)だと修正個所はもっと多くなるが、コードを変更して調整してもよいし、メロディを変えてもよいし、メロディもコードも変えないまま音の重ね方(前にアルペジオやダンパペダルのパターンを試しておいたのはこのため)やベースの動きで対応してもよい(どういう場合にどの対応が適しているのかは試してみないとわからないが、経験を積めばある程度勘が働くようになる)。

スローなバージョンを元にもう少し作業をしよう。タイミングの微調整と、コードのルートから見て5度の音を入れてみた(サンプルファイル)。前の項目ではごちゃごちゃと説明したが、基本的に、小節の最初の音でなければ、コードの構成音は自由にベースに回してよい。ちょっと変化が欲しいところ、安定しすぎたイメージにしたくないところなどで適当に使ってやろう(この程度ならフィーリングだけでやって構わないだろう)。途中、他の楽器とベースが一斉に同じ演奏をする個所があるが、これをユニゾンといって、強力な一体感を演出できるので覚えておこう(たとえばAメロ4小節目でピアノとベースがユニゾンしている)。

今回はわりと低めの音でベースを入れてあるが、慣れてきたら、キーを決める段階でベースがどの辺を動くのかある程度予想しておくと作業がスムーズになる。また、本来は連続8度とか連続5度などといった対位法の概念を意識してベースと他の音を調整すべきなのだが、とくにこだわりたい人以外は「メロディの音程が上がるときはベースが下がり、メロディが下がるときはベースが上がると、いい感じにハマることがある」ということだけ頭の片隅に置いておけばよい。


問題解決の方法論

伴奏の良し悪しを考える場合、メインメロディに神経を集中して聴いた印象の方が参考になることが多い。もし作業に行き詰まったら、ドラムスとベースとメインメロディ以外をすべてミュート(消音)して曲を聴いてみよう。そして、ここに「必要なもの」は何だろうかと考えてみよう(「ない」という結論ならそれで作業を終えてもよい)。さらに、追加予定の音を重ねてみて「メインメロディの聴こえ方がどう変わったか」を確認しよう。要りもしない音をやたらと鳴らしていた、という失敗を避けるのに役立つし、メインメロディをしっかり支える伴奏を作る上でも重要なことである。例外がないわけではないが、アレンジを考える上で「余計な音を出さない」意識は非常に重要である。

唐突感や意外感、音数や音の密度、スムーズさと引っ掛かり、統一感と独立感などについて意識するのも有用。たとえばメジャーキーの曲でVImを使うなどというのはごくごくありきたりの手法だが、メジャーコードだけを鳴らし続けてからドカンとぶつけてやればかなり印象的な効果を出せる(ビートルズのHey Judeのブリッジなどが好例:この曲はI7の使い方も絶妙に上手い)。たとえばディミニッシュのような妙な響きの音でも、派手な雰囲気を作ってやれば自然に使える(もちろん、あえて唐突に使うのもアリ)。たとえばコード伴奏の響きが「ごちゃ」っとした場合、音価(音の長さ)を短くして時間的な密度(筆者は横の密度と勝手に呼んでいる)を減らしてやるとか、音を省略するとか、クローズヴォイシング(すべての音を1オクターブ以内にまとめる:ピアノの場合たいていの人が片手で弾ける)ではなくオープンヴォイシング(1オクターブ以上の範囲で音を鳴らす:ピアノの場合たいていの人が両手を使うことになる)にして周波数(音程)的な密度(筆者は縦の密度と勝手に呼んでいる)を減らしてやるとか、アルペジオに分解して「一気にどっちゃり感」を緩和するといった対策がある。反対に音が薄い場合は、ルート音をオクターブユニゾン(基礎完成編で触れる)で重ねたりすればよい。

結局、問題解決のためにまずすべきことは「自分が今どんな音を出しているのか」を知ることである。そのための方法論は作曲のページなども含めて繰り返し紹介した。次に「自分はどんな音が欲しいのか」を知らなければならない。その両方がそろってはじめて「今出ている音のどこが気に入らないのか」を「具体的に」把握することができる。さらに「どこをどうイジるとどんな音になるのか」という「引き出し」を多く持つことが必要である。これは、自分でいろいろな方法を試してみるしかない(知識として知っているだけで活用できるのはごく一部の天才だけである)。試すためのモトネタとして「上手い人がどうやっているのか見てみる」というのが有効だが、インターネットを活用するなら外部リンクのページに挙げたサイトなどが役立つと思う。このサイトの内容も大いに活用して欲しい(知識補充編の後半にも実例をいくつか挙げている)。最後に「どんな解決案でも思いついたら試してみる」ことが大切である。ダメモトで試してみた案がハマることは意外と多い。


本格的な調整

アレンジ作業が苦手な人は、ここでの作業にあまりこだわらなくてよい(のめりこむと際限がない)。ドラムス、ベース、ヴォーカル、ピアノが出揃って、なんとなく曲らしい体裁にはなっているはずなので、そこそこの作業で済ませるというのも1つの選択である。

考慮すべき要素は非常に多いが、簡単に済ませる場合でも「音楽の3大要素=リズム、メロディ、ハーモニー」については再検討しておいた方がよい。ドラムス・ベース・コード・メロディの各タイミングをどうするか、メロディにどこまで手を入れるか、コードの響き(メロディの各音が何度になるかはもちろん、セブンスを入れる・入れない・回転させる・アルペジオにする・ベースを動かすなど)をどうするか、といったことをよく吟味する。耳で作る意識を持って、何度も聴き返そう。

あまりぱっとした感じにならないため最初の方をチラっとイジっただけだが、一応サンプルファイルも用意した。16ビートの方(シンセの音をかぶせてあるのは「空気の感じ」を変えるためで「音として聴かせよう」というつもりはないのだが、筆者のシンセ音痴は相当なものなので、読者は真似しない方がよいだろう)はもう少しイジればそれなりに鳴ってくれそうな雰囲気があるのだが・・・やっぱり乗り換えようかしら。

上記のファイルでは、アレンジがわかりやすいよう伴奏をかなり大きな音量で入れているが、実際にはもう少しおとなしくさせる。とくにピアノのコード伴奏はもうすこし薄い方がよいだろう。音域の項目でも述べたように、今回は女声のハイトーンヴォーカルを前提としているのである程度厚めの音でもあまり問題ないのだが、コード伴奏が常に厚い音で鳴っている必要はまったくない。ぶっちゃけ、ドラムとベースの上にヴォーカルを乗せて、ピアノは伴奏というよりたまにチョッカイを出すような形にしてもよい(その場合はパッド系のシンセか何かを薄く入れた方がよいと思う:わりとありがちなパターンではあるが、一度やってみると、伴奏を考える上でよい経験になる)。

先ほどのサンプルをかなり控えめな感じに修正してみた。MIDIファイルなので各楽器がどんなバランスで再生されるかわからないが、この曲の場合、シンセはモロに「鳴ってます」とわかる音量までは上げない方がよいと思う。ちなみに、この系統のアレンジはラウドネスの変化に弱い(音量を上げるとベースがうるさくなりすぎ、下げると全体が過剰に寂しくなる)ので、真面目にやる場合はベースやドラムスの音色を厳選する必要がある。筆者の個人的な好みを言えば、そのようなアレンジよりはいかにも「伴奏してます」といった感じのアレンジの方が好きである。

また、サンプルファイルでは同じメロディの部分をコピーアンドペーストでまったく同じに繰り返しているが、1回目と2回目で全く異なるアレンジにしてもよい。一部のクラシック音楽では同じメロディを違うキーで解釈しなおして複数回演奏するのがルールとして決まっている形式もあるが、ポピュラーミュージックにこれを導入してももちろん差し支えない。反対に、DTMを中心とした制作では正確な音が出せるのが1つの特徴になるので、寸分違わぬ演奏をあえて繰り返すのも選択肢の1つである。

ともあれ、あとは経験を積むだけなので、盛り上げるアレンジ、落ち着かせるアレンジ、明るいアレンジ、暗いアレンジ、安定したアレンジ、不安定なアレンジなど、いろいろな方向性で実際に作業してみて、曲の構想に合わせて「このパートはこういうイメージで」「こんなイメージのパートがあるから全体はこういう感じで」といった展望が持てるように練習しよう。



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