楽器の特性


440Hz(430、435、440、442、445Hzなどさまざまな流儀があり一定していない:一般には440Hzで、オーケストラでは442Hzが好まれる)のAがA4。一般的なグランドピアノでは左から49番目の鍵盤がA4なので49aと呼ぶこともある。そのすぐ下(B3の次がC4:変な数え方である)にあるC4がいわゆる「中央のド」で、A4=440HzだとC4=261.63Hz。

ちなみにオーディオCDだとサンプルレートが44100Hzなので最高音はその半分の22050Hzまで記録できる(DVDだと倍くらい高い音まで記録できる:音じゃなくて超音波だが)。MP3を始めとする可逆圧縮では16000~18000Hzあたりを境目に高周波成分をカットして容量を稼ぐものが多い。


人間の耳

楽器ではないが共鳴装置の役割はする。人間の外耳道は長さ2.5~3cmくらいの筒状になっていて、これを閉管と捉えて固有周波数を計算すると、音速が340m/sの場合で約2800~3400Hzになる。可聴域は下が20Hz程度まで、上が16000~20000Hzくらいまでだが、音程として捉えられるのはピアノの最低音A0(約27.5Hz)~最高音C8(約4186Hz)くらいまでらしい。高音域は(平均律の均等分割より)やや高め、低音域はやや低めにするとよい響きに聴こえるという説があるが賛否両論(ピアノの項で後述)。


弦その1(打弦・撥弦系)

和音、メロディ、リズム、ベースなど、幅広い役割をこなせるものが多い。擦弦楽器や息を吹き込んで鳴らす楽器と違って、音の途中でボリュームを大きくすることは基本的にできない(アンプを通すならもちろん可能)。
ギター系の楽器(まとめてギター族という)はハーモニクス(弦長を単純な整数比に分ける位置で弦に軽く触れつつピッキングして、すぐに手を放す:ピッキング位置は指を触れる位置よりもブリッジ側)を利用して、倍音成分だけ取り出した音色を出せる。ヴァイオリン族のフラジオレット(元はリコーダーに似た楽器の名前:音色が似てることからこの名前がついたらしい)も同様の技術だが、こちらは(整数比ではなく)等分点を使う前提のようだ。
ハーモニクスで弦を押さえる位置(ハーモニクスポイント)はフレットの近くに多いのだが、ギター族のフレットは普通平均律で切ってあるため真上からは若干ずれる。また、フレットとフレットの間にも(鳴らしやすいかどうかは別として)ハーモニクスポイントがある。

等分点だけ一覧にすると、12フレ=弦長2等分点=開放弦の1オクターブ上、7フレ=弦長3等分点=開放弦の1オクターブ上の完全5度(19フレでも同じ)、5フレ=弦長4等分点=開放弦の2オクターブ上(24フレでも同じ)、4フレ=弦長5等分点=開放弦の1オクターブ上の長3度(9or16フレでも同じ)になる。また、3フレよりややブリッジ寄りからハーモニクスポイントをナット側になぞっていくと、音がだんだん上がる(ジェフベックがどこかでやっていたような)。
右手の親指で弦を押さえつつピッキングすることで、右手だけでハーモニクスを鳴らすこと(ピッキングハーモニクスという)が可能なため、フレットを押さえた上でピッキングハーモニクスを利用すれば、開放弦以外のハーモニクスも鳴らせる(これをとくにオクターブハーモニクスというらしい)。

ピアノ

88鍵だと音域はA0~C8、ごくまれに97鍵でC0~A8

音域がべらぼうに広い(88鍵で7オクターブ強)。正式名称がピアノフォルテ(ただし、モダンピアノ以前のピアノという意味でもこの名称が用いられることがある:モダンピアノよりもかなり軽量で鍵盤も少ない)というだけあってタッチの幅も非常に広く、基本的になんでもこなせるがスラーやビブラートはできない。調律もおいそれとはできない。アップライトでも十分ヘビー級だが、グランドピアノは死ぬほどデカくて重い。乾燥させまくって故意にチューニングを狂わせた(主にアップライト)ピアノをホンキートンクという。ノーマルなピアノでも、低音側を低め、高音側を高めにチューニングすることが多い(これに否定的なプレイヤーや調律師もいる)。チューニングのずらし方をグラフにしたものを調律カーブ(調律曲線/Tuning Curve)と呼び、O. L. RailsbackによるRailsback curveが有名(WikipediaENにグラフが掲載されている)。ちなみに、弦楽器でバーチカルとかアップライトとか称するのは、演奏時に弦が地面に対し垂直に近い角度になる楽器(アップライトピアノの他には、チェロやコントラバスなどが代表的)のことである。

エレキベース

24フレット前後で4~6弦
基本的な調弦は(B0・)E1・A1・D2・G2(・C3orB2)(ハーモニクスを使えば、各弦の3オクターブ上が出る)

コントラバスのエレクトリック版(ではなく、本来は生ギターをそのまま大きくしたような形のベースギター(アコースティックベースギター)のエレクトリック版だが)ということで、調弦も同じになっている。基本的にはフレットつきだが、フレットのないもの(フレットレスベース)もあるし、チョーキングやハンドビブラートでフレットつきの制約をある程度回避できる。フィンガーレスト、サムレスト、ピックアップフェンスなど右手周辺のギミックが豊富にある。バスギターをベースギターと英語読みしただけで別の楽器を指すようになる理由はわからないが、きっと歴史的な経緯なのだろう。

ギター

21~22フレット前後で6弦(まれに7弦)
基本的な調弦は(B1・)E2・A2・D3・G3・B3・E4

アコースティックギターとエレキギターではかなり違うし、同じアコースティックギターでも、クラシックギター、フラメンコギター、フォークギターなどいろいろと種類があるが、詳しくはオマケを参照。こちらも、チョーキングやスライドバーを使ってなめらかに音階変化させられる。ハーモニクスも可能。クラシックでは、アルトギター、バスギター、コントラバスギターなども使う(コントラバスギターはギターの調弦を1オクターブ下げた6弦の楽器で、アコースティックベースギターとは別物:一般的なチューニングのギターはプライムギターと呼ぶらしい)。

チェンバロ

4~5オクターブくらい

ハープシコードとも。ジャックという木の部品にプレクトラムというピックの役割をするもの(本来は鳥の羽軸を使っていたが、現在はデルリンなどの合成樹脂を使うようだ)がついていて、弦をはじく。ピアノに比べて極端な強弱が出しにくい。打ち込み音色としては、アルペジオっぽいパターンに使うと面白い響きになる。金属製のハンマー(ピアノのハンマーとギターのフレットの役割を兼ね備えた感じ)で弦を叩くものはクラビコードと呼ぶ(ピアノと比べて音量が小さい:ギターのタッピングと似た仕組みで音が出る)。


弦その2(擦弦)

名前の通り弓で擦って演奏するのがメインだが、指で演奏する(ピチカート奏法)こともある。フレットがないものがほとんどで音の変化がつけやすい(ボリュームも音程もほぼ自在)が、フレットつきの楽器のようにサステインを残すのは難しい。和音も出せるものが多い(胡弓とか、もともと弦が1本しかないものは構造的に無理)。ギターやエレキベースと同様、ハーモニクス(笛の名前からフラジオレットとも)を使えば各弦の3オクターブ上くらいは出る。ヴァイオリン族かヴィオール族かという議論はあまり意味がない場合が多いが、一応、前者は5度調弦で怒り肩、後者は4度調弦(3度が入ることもあり)でなで肩という原則がある(その他、ヴァイオリン族では必ず弦数4・フレットレス・f字孔なのに対し、ヴィオール族では5弦以上のものやフレット付きのものやc字孔を有するものもある)。

ヴァイオリン

4弦で、調弦はG3・D4・A4・E5
音域はG3~C7

ヴァイオリン族の花形。オーケストラなどでは、大人数で演奏することが多い。起源はよくわかっていないらしいが、ヴィオール族から強い影響を受けたのは間違いないと思う。奏者から見て左側に高音が飛ぶので、客席から見て左側に配置することが多い。なぜか日本では英名で呼ぶ。

ヴィオラ

4弦で、調弦はC3・G3・D4・A4
音域はC3~C6

音域としてはヴァイオリンとチェロの中間なのだが、その影に隠れがちになるのか、やや地味な感じ。viola da gamba(脚のヴィオラ:小型のものは膝に乗せ、大型のものは床に置いて、アップライトにして演奏する)とviola da braccio(腕のヴィオラ:肩に乗せて演奏する)という古楽器があって、viola da braccioがヴァイオリン族の共通の祖先ではないかという人もいる。さらに遡ると、vihuela de mano(手で弾くヴィウエラ:イタリア語なのでviolaではなくvihuelaと綴るが、たんにヴィウエラと言うとvihuela de manoを指すことが多い)、vihuela de plectro(ピックで弾くヴィウエラ)、vihuela de arco(弓で弾くヴィウエラ)というのがあって、vihuela de arcoがviola da gambaやviola da braccioになったらしい。

チェロ

4弦で、調弦はC2・G2・D3・A3
音域はC2~C5

セロとも。比較的低音を担当する楽器だが、ソロ演奏がさかんなので華やかさがある。デカいので(普通は)地面に置かないと演奏できない(アップライト楽器)。正式名称はヴィオロンチェロで小さいヴィオローネの意だが、後ろも直訳すると小さめの大きいヴィオラになる(ラテン語由来の形容表現にはこのようにヤケクソなものが多い)。

コントラバス

4弦もしくは5弦で、調弦は(B0orC1)E1・A1・D2・G2
音域は弦数によりB0orE1~G3だが、4弦でもC装置を使えばC1まで出る

コントラバスという名称自体はいろいろな楽器に使うので、アコースティックアップライトベースとでも呼べば誤解の余地が少ないだろうが、単に「コントラバス」と言ったらたいていは弦楽器のコントラバスを指す。英名はダブルベースで、(チューバなどに対して)ウッドベースとか、(コントラファゴットなどに対して)弦バスとか、(エレクトリックベースに対して)アコースティックベースとか、(ベースギターに対して)アップライトベースとも呼ばれる(ピックアップがついたエレクトリックコントラバスをとくに指してアップライトベースと呼ぶ人もいる)。弓はフランス式とドイツ式の2種類がある。打ち込み用音源などで単に「アコースティックベース」と言った場合、前述のアコースティックベースギターではなくコントラバスのピチカートを指していることが多い(多いだけ)。デカくて重いので持ち運びが非常に困難。ヴァイオリン族には入れない(ヴィオール族のヴィオローネという楽器が起源:大きいヴィオラの意)ことが多いが、だったらなんでヴィオラはヴァイオリン族なんだとか(まあ、ヴィオラの場合形が完全にヴァイオリン族だし調弦も5度だけど)、シロウトにはあまりよくわからない部分がある。C装置(Cマシン:Cエクステンションとも)というのは「4弦(E線)だけ弦長を伸ばしてしまおう」という愉快な発想の装置(指板を上に継ぎ足すような形になる)。


金管

他の楽器と違い、紐だの板だのを使わずに人間様が自前で音を出しているのでその分エライ(意味不明)。奏者の技量によって、高い音の限界はけっこう引き上げられる。key on B♭ に調整されたものが多いようだ。

トランペット

B♭かCが多いらしい
音域はだいたいE3~A#5

消音機を使ってミュートすることもある。音域にはバリエーションがけっこうある。

トロンボーン

たいていB♭(まれにF)
音域はだいたいE2~B4

バルブではなくチューニング管を使って管の長さを変える。これもミュートすることがあり、音域にもバリエーションがある。

ホルン

B♭・C・E♭・Fがあるらしい
音域はだいたいBb2~A5前後(?)

ヴィオラと同じく、根拠なく地味な感じのする楽器。イングリッシュホルンではなくフレンチホルンのこと(単にホルンといえば普通フレンチホルンを指す)。FとB♭で切り替えなど、管のチューニングをレバーで変えられるものが多い。重いらしい。

チューバ

たいていB♭かF
音域はだいたいBb0~A4(コントラバスチューバ)またはF1~E5(バスチューバ)

バス担当のホーン。テナーチューバ(コントラバスチューバよりも音域が1オクターブ高い)のうち、ピストン式バルブのものを(場合によりロータリー式バルブのものも)ユーフォニウムということがある。すごく重いらしい。Saxさんという人が発明したサキソルンという楽器と、その影響を強く受けた金管楽器をまとめてサキソルン族というが、チューバやユーフォニウムはその代表例(他に(古楽器でない方の)コルネットなどがある)。


木管その1(シングル/ダブルリード)

リード(reed:原義は葦だが、プラスチックでできていても金属でできていても、振動して音を出す板を総称してリードと呼ぶ:このためエレピのトーンバーもリードと呼ぶことがあるが、普通は木管楽器として扱わない)を使って音を出すので、音波が断続的になる(パルス波に近い波形になって、音圧の実効値が低くなる)。このため、ベースの役割を担当すると音が薄くなりがちだが、音色には独特のツヤがある。

ソプラノサックス

キーはB♭
音域はG#3~D#6

まっすぐなサックス。曲がってるのもある模様。音程を出すのが難しいらしい。これもSaxさんの発明で略さず呼ぶとサキソフォンだが、単に「サックス(sax)」というと「サキソルン(saxhorn)」ではなく「サキソフォン(saxophone)」を指すのが普通。

アルトサックス

キーはE♭
音域はC#3~G#5

リードの花形。単にサックスと言われると、たいていの人はこれを思い浮かべると思う。

テナーサックス

キーはB♭
音域はG#2~D#5

ちょっとシブめのサックス。アルトと並んで演奏がしやすいそうな。

バリトンサックス

キーはE♭
音域はC#2~G#4

吹奏楽以外ではビッグバンドJazzくらいでしか見ない。リード楽器なので薄い低音が出せる。

バスサックス

キー・音域不明

ほとんど見ない。コントラバスやソプラニーノもあるらしい。

クラリネット

キーはB♭のものが多い
音域はD3~F6

サックスがラッパ状なのに対し、ほぼ円筒状になっている。西洋の楽器ではほぼ唯一の閉管の楽器らしい。

オーボエ

音域はB♭3~A6(G6?)

サックスがシングルリードなのに対し、ダブルリードになっている。リードを自分で作るらしい。


木管その2(パイプ)

エアリードで音を出す方の笛。リードと言う名前がついているが、板ではなく空気が震えて音を出す。よくわからないので適当に。

フルート

音域はC4~C7

エアリードの花形。独特のチフノイズ(風切り音)が出る。笛の音自体は正弦波に近く、チフノイズはホワイトノイズに近い波形になるため、シンセサイザーによる模倣が比較的容易なアコースティック楽器である。フルート(flauto/flote/flute)は単に笛を指し、現在単にフルートと呼んでいるものをとくに指す場合はモダンフルートと呼ぶ。

パイプオルガン

音域はC0~G9くらいらしい(C0≒16Hz強なので下の方は音波じゃなくて低周波:G9≒12000Hz強なので上の方は一応音波だが、倍音成分は超音波)。

大型のものではエアリードとシングルリードを併用していることが多い。教会で使う(というか教会と一体化している)ものをとくにチャーチオルガンという。カリヨン(クロマチックな超大型チャイム:学校とかでキンコンカンコン鳴る放送音はこれをイメージしたもの)と並ぶウルトラヘビー級楽器の代表格。

リコーダー

音域はC5~D7(ソプラノリコーダー)

C管とF管が交互にオクターブ違いで、コントラバスからクライネソプラニーノまである。大分類としてはフィップル・フルート(フィップルという部品を詰めて狭くした筒から、リップという先端を薄くした板へと空気を流す構造の笛:リコーダーのほかに、ティンホイッスルやフラジオレットなどがこの仲間)の一種で、バロック以前は単にフルートというとこちらを指したらしい。


木管その3(フリーリード)

あまり木管っぽくないが、発音原理が共通なので一応こっちに。リードのどちら側から空気を送っても音が鳴る構造で、ハーモニカで特徴的。

リードオルガン

音域はさまざま(ピアノよりは狭いものが多いはず)

小学校にあった足踏み式のオルガンもこの仲間。電動ポンプで送風を行う電動タイプもある(ピックアップがついているわけではないのでいちおうアコースティック楽器)。

アコーディオン

モノによりさまざま(基本的には、F~2オクターブ上のCまで、G~2オクターブ上のEまで、A#~3オクターブ上のGまで、C~3オクターブ上のCまでなど)

携帯式のリードオルガン。音楽のジャンルによって形態がかなり違い、タンゴアコーディオンとかクラシックアコーディオンなどと呼び分ける。右手が鍵盤式のピアノアコーディオンとボタン式のボタンアコーディオンという分類もあるが、現在日本では前者が一般的。左手のベースボタン(簡単にベースやコード伴奏を鳴らせる)の配列にもいろいろと流儀がある。一般的なのはストラデラ配列で、まず2列目に「隣り合うボタンが完全5度の関係になるよう」ファンダメンタルベースを配置、1列目にファンダメンタルベースの長3度上のカウンターベース、3列目と4列目にメジャーコードとマイナーコード、5列目にファンダメンタルベースから見たドミナントセブン、6列目にディミニッシュを配置する(全体でストラデラベースシステム(Stradella Bass System)とかスタンダードベースなどと呼ばれる)。左手もピアノと同じ配列になっているものはフリーベースと呼ばれ、クラシックアコーディオンなどに採用される。スタンダードとフリーを両方搭載した機種もあれば、片方だけの機種も当然あるし、ベースボタンのないベースレスアコーディオンもある。見た目どおりに重いが、ベースシステムが大掛かりなものはもっと重い。

ハーモニカ

モノによりさまざま

ダイアトニック(オマケで触れるように、吸ったときと吹いたときで別の音が出るという意味)なものとクロマチックなものに分かれ、単音10穴のダイアトニックハーモニカを一般にブルースハープと呼ぶ。単音とわざわざ断るからには複音のものもあり、微妙にピッチが違う音が重なって出るようにしたトレモロハーモニカなどが代表的。非常に小さくて軽い。


旋律打楽器

筆者はマリンバやエレピなどのメロディックパーカッションが好きで、打ち込み音色としてもかなり多用する(だからどうしたというわけではないが)。鍵盤(キーボード)のついた打楽器という意味で鍵盤打楽器と呼ばれたり(ピアノも鍵盤打楽器:正確には鍵盤打弦楽器)、半音階の打楽器という意味でクロマチックパーカッションとも呼ばれるが、鍵盤(キーボード)がついていないマリンバやビブラフォンが鍵盤打楽器に含められることがあったり、全音階(ダイアトニック)な木琴もあったり、ティンパニーのほかドラムセットのタムあたりにもクロマチックなものがあったりで、呼び方として紛らわしい。

ビブラフォン

音域はF3~F6

ファンを回してビブラートをかけられる鉄琴。ファンがないものはメタロフォンというらしい。ファンだけでなく共鳴管もないものはグロッケンシュピール(さらに鍵盤をつけたものを鍵盤グロッケンシュピール、それをピアノ風に発展させたものはチェレスタ)といい、高音域担当で非常に澄んだ音色。鍵盤グロッケンシュピールは古い楽器で扱いも難しく、モーツァルト時代の曲などでまれに使われる程度。チェレスタ(音域が非常に高く、88鍵のピアノより高い音が出るものもある)はチェンバロと共に細々と生き残っている。

マリンバ

音域はF2~F7またはC3~C6

大きい木琴。長い共鳴管(まれに曲管を用いる)があり、シロフォンよりも大きくて通りのよい音が出る。学校の音楽教室にあるのはこっち。バスマリンバという低音用の楽器もあるし、斉藤楽器製作所では5オクターブの61鍵マリンバ(C2~C7)も製作している。

シロフォン

音域はC3~E7(F4~C7)

小さい木琴。倍音成分のうち完全5度上にあたる音(3倍音)が強調される。マリンバよりも乾いた感じの硬い音が出る。音板にも硬い木を使っているためか、マリンバと比べて値段もお高い。

エレクトリックピアノ(電気ピアノ)

音域はピアノよりやや狭いものが多い

トーンバーをハンマーで叩きマグネティックピックアップで音を拾う方のエレピ(あくまでピアノを模しているので、エレクトリックチェレスタとは言わない)。鉄弦を叩いてマグネティックピックアップで拾うタイプのもの(通称エレクトリックグランドピアノ:ヤマハのCP-70やCP-80が有名で、生ピアノから共鳴器の部分を省いただけなので、後述のローズなどよりはかなり大きい)もあり、クラビコードにマグネティックピックアップを採用したものはクラビネットと呼ぶ。MIDIのGM規格では、2番のElectric Grand Piano、4番のRhodes Piano、5番のChorused Piano(コーラスイフェクトつき)、7番のClavinetがある。4番のRhodesは「エレピといえばローズ」というくらい有名なエレピのシミュレーションで、モコモコした音になっている音源が多い(実際ローズというとそういうイメージなのだが)。ローズの改造版であるDyno my piano(通称ディノ)も人気がある。ローズのほかにウーリッツァー(Wurlitzer:オルガンメーカーで通称ウーリー)のエレピも有名。もうちょっとマイナーな機種にはエレクトラピアノやピアネットなどがある。


GMのMIDIで使える変わった楽器(音色)

音域はよくわからないので省略。括弧内の数字はGMのプログラムナンバー(cerryだと1つずれるので注意)。

ミュージックボックス(10)

ようするに大きなオルゴール。

ダルシマー(15)

インド~中国くらいにかけて広がった、バチやハンマーで叩いて音を出す打弦楽器。箱なしの手打ちピアノに近いイメージ。ハンマー用のものはハンマーダルシマーというらしい。

ティンパニー(47)

音程がはっきりした太鼓。tympaniは間違いでtimpaniが正しい(単数形はtimpano)らしい。

イングリッシュホルン(69)

アルトオーボエの英名(の半端なドイツ語読み)。音はオーボエよりも1オクターブ低く、フレンチホルンとは無関係。コーラングレとも。

バスーン(70)

ファゴットの英名、というかバッソンの英語綴り/英語読み。オーボエと同じくダブルリードの楽器。オーボエよりも2オクターブ低い。ファゴットよりもさらに1オクターブ低いコントラファゴット(コントラバスーン/ダブルバスーン)もある。本来はフランス式のもの(U字管がない)をバッソン(フランス語で「バス」のこと:そのまま英語読みするとバスーン)、ドイツ式のもの(U字管がある)をファゴットと呼んだらしいのだが、現在英語でバスーンというとドイツ式のものを指す(ややこしい)。

ピッコロ(72)

フルートの仲間で基本的な音域はフルートの1オクターブ上だが、構造が微妙に違うのでソプラニーノフルートとは呼ばない(多分)。

パンフルート(75)

パンパイプ(パンの笛)の通称。1音階1本のパイプをたくさん並べてくっつけた楽器。ルーマニアやアンデス地方で用いられる。

シンセ系(80~103)

まず、用途でリード/パッド/ベース/効果音(lead/pad/base/FX)に分かれ、それぞれ、メインメロディ/音の厚み/低音/その他を担当(leadは先頭に立つ、padは隙間を埋めるという意味で、FXはeffectsの略つづり:Special Effects の意味でSFXとも書く)。GMのシンセにはsquare(矩形波)・sawtooth(鋸波)・calliope(汽笛)・chiff(フルートなどを吹くときの風切りノイズ:原義は鳥の鳴き声)・charang(チャランゴ:南米の楽器らしい)・voice(人間の声)・fifths(5度で重ねた鋸波:GSでは5th Saw Wave という名前)・warm(暖かい音)・polysynth(和音)・choir(コーラスの声)・bowed(ガラスをヴァイオリンなどの弓で擦った音:GSではBowed Glass という名前)・metallic(メタリックな音)・halo(後光が差すような音)・sweep(周波数=音程が時間に従って変化する音)などがある。

スチールドラム(114)

名前の通り金属製のタイコ。もとはドラム缶を切って作ったらしい。ティンパニのように音階別に用意する。

GMのMIDIで使える変わったパーカッション

括弧内の数字はMIDIノートナンバー。

タンブリン(54)

分類がよくわからない。タンバリンとも。ヘッド(皮)なしでジングルだけのヘッドレス(モンキー)や、丸くない形のものもある。基本的に手持ちの楽器だが、ハイハットの上に固定したりスタンドを立ててドラムスティックで叩くこともある(これに限らず、多くの手持ちパーカッションはスタンドでも演奏可能:カスタネットにさえテーブルカスタネットという据え置きバージョンがある)。

カウベル(56)

ラテンパーカッション。名前の通り牛の鈴。スタンドまたは手持ちで、そのとき手元にある適当なモノで叩く。手持ち前提で専用スティック(ビーター)とセットにしたものはカンパーナ(カンパナ)とも呼ばれる。

ヴィブラスラップ(58)

キハーダというラテンパーカッションの代用にされることが多い。時代劇で悪役が偉い人の正体に気付いたときorやられ役が事件の真相を知ってしまったときの音。

ボンゴとコンガ(60~64)

ラテンパーカッション。小さいのがボンゴで大きいのがコンガ。ボンゴはタイコが2つ繋がった形になっているが、奏者から見て左の小さい方をマッチョ、右の大きい方をエンブラという(男性/女性の意らしい)。

ティンバル(65と66)

ラテンパーカッション。複数形でティンバレスと呼ぶことも多い。金属製のちょっと大きいスタンド用ボンゴor2つセットのシングルヘッドタムといった雰囲気。

アゴゴ(67と68)

ブラジルのパーカッション。カウベルが2つ(orたくさん)つながったもの。ブラジル式はベル同士を打ち鳴らせる。

カバサ(69)

ブラジルのパーカッション。アフリカのシェレケという楽器が元になったっぽい(未確認)。マラカスの「玉が外にある」バージョンで、音も似ている。

マラカス(70)

ラテンパーカッション。マラカという木から作った同名の楽器の複数形らしい。

アピート(71と72)

ブラジルの楽器。サンバホイッスルとも。音程はそれほど明確でないものの、他の笛と同様に孔(通常2つしかないが)を塞いで高さを変えられる。

ギロ(73と74)

ラテンパーカッション。クラシック系の曲でもごくまれに使うそうな。

クラベス(クラーベ)(75)

木の棒でできたラテンパーカッション。拍子木に似ているが、片方をばちのように使うところが異なる。固体を手に持って打ち鳴らすという、おそらくもっとも原始的な形式の打楽器。

ウッドブロック(76と77)

どの地方にも似たような楽器はあるので分類が難しい。木で作った箱や筒の類を適当なもの(マレットやドラムスティック)で叩いて鳴らす。木魚もウッドブロックの一種。音階が明確なものはテンプルブロックと呼ばれる。

クイーカ(78と79)

ブラジルのパーカッション。「できるかな」の「ゴン太」くん。

トライアングル(80と81)

クラシックパーカッション。専用ビーターを使って、スタンドに吊るすか手持ちで演奏する。


もっと変わった楽器

音域はよくわからないので省略。

コードチター(オートハープ)

チターはアルプス周辺で用いられ、手弾きチェンバロにギターが合体したような弦楽器(フィンガーピックのこともプレクトラムと呼ぶ)。ラップギターのような感じでメロディを弾きつつ他の弦で伴奏する。コードチターはそれにアコーディオンのボタンの機能をつけたような楽器で、押したボタンにより一定のパターンで弦がミュートされる。そのままストロークしてやるとコード演奏ができるというわけ。オートハープは商品名。

アルモニカ(グラスアルモニカ)

グラスのフチを指で擦る(楽器としてはグラスハープと呼ばれる)演奏を大掛かりにやるための楽器。不安定で透明感のある独特な音がする。シンセによく入っているbowed glassの音色がイメージとしては近いだろうか。

チャップマン・スティック(スティックベース)

ボディレスの多弦サイレントベース的な風貌ではあるが別の楽器。タッピングが主奏法でほとんどアップライトに構える。構成が一定でなくベース用にもリード用にも兼務用にも使われる。ポップスでは安部王子が水のマージナルで使っていた。単にスティックとも。

カホン(カホーン)

ラテンパーカッション。楽器に座って演奏するペルー式とボンゴのように足で支えるキューバ式、鈴入りやスナッピー入りなどいろいろあるが、ようするに穴があいた木の箱をぶっ叩いて音を出す打楽器である。足ミュートなどの変わった奏法がある。スネアドラムのような音やバスドラムのような音やハットクローズのような音が出せることからドラムセットの代用としても用いられる。

バウロン(バウローン)

大きめでジングルのないフレームドラムで、アイルランドの楽器。ビーターの種類(棒状のものや両端がコブのようになったもの、太くて手の平サイズのものなど)がいろいろあり、地域によって違うらしい。Bodhranをラテン読みしてボドランと表記することもある模様。

ストンプボックス

英語で(ギター用やベース用の)コンパクトイフェクタのことだが、似た形状のエレクトリック楽器を指すことがある。箱の中にピックアップを入れ足で踏んで音を出す。


ブラジルの楽器

サンバやボサノバで使う。カバサやクイーカなど既出のものは省略。

カヴァキーニョ/カヴァコ

鉄弦を4本使う比較的小型の楽器で、ウクレレの元になったらしい。胴をバンジョーのものと取り替えるのが一般的だそうな。

パンデイロ

ブラジル版タンブリン。ジングル(プラチネイラ)の音が控えめで胴が浅い。チューニング(チューニングキーではなく普通のレンチを使うようだ)やミュート(テーピング)が奥深いらしい。プラスチックヘッド/ナイロンヘッドのものもあるが、筆者は皮ヘッドのものしか見たことがない。

タンボリン

パンデイロからジングルを外して小さくしたような楽器。

カイシャ

ブラジル版スネアドラム。モノがどう違うのか筆者は知らない。バケッタ(スティック類を総称してこう呼ぶ)はマルチロッド状のものではなく1本棒のものを使うようだ。

スルドとヘピニキ(ヘピーキ)

スルドはブラジル版フロアタム(WikipediaJPによると、ブラジルでは普通のフロアタムもスルドと呼ぶらしい)。スルドマレットをマセタ(WikipediaJPによると、木槌の意らしい)と呼ぶ。ヘピニキとヘピーキはどちらも小さいスルドだが、厳密には別のものらしい(やはりWikipediaJPによると、前者は専用バケッタ、後者はカイシャバケッタを使うそうな)。


楽器の原型とか

音域不定。

リソフォン(石琴)

たぶん、もともとは台の上に音板を並べるのではなく、音板を吊るして叩く形式だったのではないかと思う(中国の特磬や編磬のような感じ)。時代が下ると音板を金属製にしたもの(吊り下げ式の鉄琴)も現れる。手に持たない方がスッキリ音が出ることに気付いたあたり、クラベスなんかよりはかなり進んだ楽器。

口笛、歯笛、指笛、手笛など

おそらくもっとも原始的なエアリード。地方や用途により実にさまざまなものがある。手の代わりに固体でできた筒を使おうと思いついて実際に作ってしまった人の行動力は凄い。

草笛

おそらくもっとも原始的なリード板楽器。葦、笹、麦などいろいろなものがある。共鳴器(というかラッパ部分)を継ぎ足すと、今で言うシングルリードやダブルリードの楽器に近くなる。

楽弓(弓琴)

おそらくもっとも原始的な弦楽器。紐を引っ張って弾くと音が出ることはもっと早く知られていただろうが、木を曲げたばねに紐を固定するという発想は画期的。たぶんだが、もとは紐の一端だけ固定してもう一端を手に持っていたのではないか。武器としての弓矢とどちらが先かは意見が分かれるらしい。

蓋をした壷

なんだか楽器ですらないような感じになってきたが、筆者が想像するに、膜鳴楽器の起源はきっと容器なのだと思う。動物の皮か何かで蓋をした容器を叩いたら面白い音がしたとかそんな感じなのだろうが、それを楽器として発展させた人たちはよほど(呪術や集団作業への利用も含んだ広い意味での)音楽好きだったのだろう。


その他

楽器の枠から外れるものもいくつか。

ヴォーカル

一応、バスがF2~E4、バリトンがG2~G4、テナーがC3~A4、アルトがF3~E5、ソプラノがC4~A5

上記はクラシックの場合(マイクロフォンを使わないため、安定して使えるのはせいぜい1.5~2オクターブ位:アンプを通すなら上にもう0.5オクターブくらい使えるはずだし、裏声を使うと1オクターブ上がる)。人間の声なので、音色にしても音程にしても、訓練と気合と根性でどうとでもなるといえばどうとでもなる。人間の声帯から口唇までの長さは男性でだいたい17cmくらい、これを閉管とみなして音速=340m/sで計算すると、固有周波数は500Hz≒G4となる。鼻から声を出すなら、遠回りする分もう少し低い固有周波数になるし、声帯の位置自体も意識的に変えられるので、調整は可能(声帯から空気の出口までが20cmなら425Hz、15cmなら567Hzが固有周波数になる)。

電子楽器各種

音域はさまざま(後述の鍵盤数もある程度影響するが、音源変更やオクターブ移動をしてしまえば、実用性があるかどうかは別としてどんな高音や低音でも出せる)。

ほとんどの場合鍵盤が入力装置になっており、61鍵(ハモンドオルガンの手鍵盤と同数)~88鍵(標準的なピアノと同数)くらいが多い(鍵盤数が少ないものには、たいていオクターブ変更装置がついている)。エレクトロニックピアノを名乗るものも多い。

コンパクトカセット

ポジションにもよるが、下が20~30Hz、上が15000~17000Hzくらい。

いわゆるカセットテープ。オランダのフィリップス社が開発した。オープンリールの最低速の半分である4.75cm/s(1.875″/s)で走る。4トラックを往復で2トラックづつ、ステレオで使う。

コンパクトディスク(CD-DA/Compact Disc Digital Audio)

16bit44.1KHzのPCM方式で、最高音は22050Hzまで出る。最高音近くまで使い切るために(という以外の目的もあるが)、アナログ音声を非常に高い(CDの64倍とか、そのくらいのオーダー)サンプルレートでデジタルに変換してから、急峻なデジタルフィルタでカットしてやることが多い。

いわゆるCD。ソニーとフィリップスの共同開発。99トラックまで、最大74分(非標準的なものでは最大94分)まで録音可能。16bitリニアPCMなので、メディアとしてのダイナミックレンジは98.08dbのはず。

DAT(Digital Audio Tape)

12bit32kHz(LPモード)/16bit32kHz/16bit44.1kHz/16bit48kHzのPCM方式で、最高音はそれぞれサンプリング周波数の半分。

そろそろ滅びつつあるが音はよい。

MIDIのnote number

0~127の7bitで、C-1~G9に相当、デシマルで60がC4。

MIDIは打ち込みの統一規格のひとつ(本来はデジタルデータの取り扱い全般を定めた規格で、電子機器の制御など音楽以外の用途にも利用されている)。


参考リンク

音楽研究所

Rolandのチューニング豆知識

YAMAHAの楽器セミナー

MIDI楽器事典

ウッドストックからの便り


オマケ(オルガンいろいろ)

名前がいろいろとあってわかりにくい楽器だが、とりあえず、笛(パイプ)がついているものがパイプオルガン、それが教会においてあったらチャーチオルガンだと思ってよい(本当はパイプで音を出すもののみオルガンと言うはずなのだが、定義が広がりすぎたため、現在ではパイプオルガン以外も単にオルガンと呼ぶことが多い)。パイプオルガンにはstop(音栓)と呼ばれる独特の機能がついており、鍵盤1段ごとにどのパイプセットを使うか選択できる(たとえば20ストップのオルガンなら、オルガン本体が20台分あって、鍵盤をどのオルガンに接続するか変えられるのだと考えるとわかりやすい:ただし、重複して使用するパイプもある)。複数段の鍵盤を持つオルガンは、シンセなどと違って、同じ鍵盤を縦にただ並べたものが多い(それぞれの段の鍵盤で独立にストップの設定ができるため、異なる音色を複雑に絡ませることができる:ちなみに、下段から順に第1鍵盤、第2鍵盤、などと数える)。

パイプオルガンの代用品としてハモンドさんという人が発明したのがハモンドオルガン。貧乏な教会で人気だったそうな。歯車(トーンホイール)とコイル(マグネティックピックアップ)を使ってサイン波を発生させる(歯車の材料である金属とコイルの距離を規則的に変えることで起電力を得る)エレクトリック楽器で、ハーモニックドローバーという棒(ドローノブ式のストップを模したのだと思う)を操作して倍音(手鍵盤用は1/2、3/2、1、2、3、4、5、6、8倍音の9種類で、足鍵盤用は1/2倍音と1倍音の2本なのが普通)の重ね具合を変え、音色を調整する(シンセにも似たような機能を持つものがある)。このタイプのオルガンを一般に、ドローバーオルガンという。

フルサイズのハモンドオルガンは普通、61鍵(C2~C7、左端にある白黒反転の鍵盤はドローバーのプリセットを使うためのもので音は出ない:ちなみに、ピアノも含めて歴史的には白黒反転が鍵盤本来の配色だった)2段+足鍵盤25で、ドローバーの設定により押下した鍵盤の1オクターブ下~3オクターブ上の音までが出るはずだが、低音側の鍵盤では1/2倍音の代わりに1倍音、高音側の鍵盤では8倍音の代わりに4倍音などと、オクターブ上下させた音を出す仕組みが備わっている(foldbackとか折り返しと呼ばれる:技術的に65Hz~6kHz=C2~F#8までのトーンホイールしか作れなかったらしいが、現在では楽器の「味」として認識されることも多い)。各ドローバーの音色を担当するスイッチは独立しており(多列接点という)、鍵盤を浅く押すと高次倍音だけが出力される(押し込む速度によってアタック感が変わる)。一部の機種では、上側鍵盤のAプリセット使用時のみ8倍音担当のスイッチを「パーカッション」と呼ばれる機能に割り当てることもでき、2倍音と3倍音に対応する音程でエレピのような音色が出る(8倍音は出なくなる)。鍵盤から手を離すと充電されるコンデンサによって実装されていたらしく、どれか1つでも鍵盤を押しつづけているとパーカッションの音は出ない。スキャナービブラートと呼ばれる機械式ビブラート(コイルを使った位相変調)がついている機種もあり、ドライの音と重ねてコーラスを作ることもできる。

ハモンドオルガンと併用されることが多い装置に、レスリーさんという人が発明したレスリーユニットというものがある。これは真空管アンプ内蔵スピーカユニットで、ツイーター用のホーンとウーファーに繋がったローター(切り欠けがついた筒)を回転させてコーラスイフェクトのような効果を発生させる。この手の装置を総称してロータリースピーカというが、単にハモンドオルガンと言った場合、ロータリースピーカも込みでそう呼んでいることが多い(というか、ドローバーとロータリースピーカもしくはそのシミュレータを備えた電子オルガンがハモンドオルガンを名乗っていることが多く、多列接点などは実装されていないものが主流:ウォーターフォール鍵盤と呼ばれる、単に浅いストロークでトリガーがオンになる鍵盤を採用している機種も多い)。2009年現在、ハモンドオルガンとレスリーユニットはともに、日本の鈴木楽器製作所(ハモンドスズキ)が取り扱っているようだ。

リードオルガンはハーモニウムとも呼ばれ(減圧式のものをリードオルガン、加圧式のものをハーモニウムと呼ぶ人もいる)、ハーモニカ・鍵盤ハーモニカ・ハーモニウムは発音原理が同じ。アコーディオンも同じ発音原理で、アコーディオンの原型(ダイアトニック ボタン アコーディオン:ハーモニカと似た構造で、押し引きで違う音が出る)をメロディオンというのだが、鈴木楽器製作所が鍵盤ハーモニカの商標としてメロディオンを使っていたりして紛らわしい。ちなみにフリーリード系の楽器では、押し引きで違う音程が出るものをダイアトニック、同じ音が出るものをクロマチックと呼ぶ(一般的な用法とやや異なる)。

ちょっと特殊なものとして、パイプオルガンを犬小屋サイズに小型化したストリートオルガン(車輪がついてリアカーのようになったものが多く、ハンドルを回したりふいごを踏んだりして空気を送る)や、卓上サイズに小型化したポルタティフオルガン(ポルタートゥムオルガン/ハンドオルガン/オルガネットとも:左手でふいごを押して空気を送る)というのもある。また、足踏みポンプ式のリードオルガン(とくに中央にふいごが2つセットでついているもの)をポンプオルガンと呼ぶ場合もある。

とりあえず、パイプがついていればパイプオルガン、リードが入っていてパイプがなければリードオルガン、ドローバーがついていればドローバーオルガン、エレクトロニックなものもは電子オルガンと、中身によって名前が変わる。一般にロックオルガンと呼ばれるものやジャズオルガンと呼ばれるものは、ハモンドオルガンをシミュレートした電子オルガンの亜流だと思う(多分)。ハモンドオルガンのパーカッション機能を模したものがパーカッシブオルガンを名乗っていることもあるし、ハモンドオルガンをトランジスタ回路でシミュレートしたもの(音色はかなり違う)をコンボオルガンと呼ぶこともある。


オマケ(ピアノのペダルと鍵盤)

図解入りで詳説しているページ多分トップ)があるので詳しい話はそちらに譲るが、グランドピアノの場合右からダンパ・ソステヌート・シフトペダル、アップライトの場合右がダンパペダルで左がソフトペダルになっている場合が多い。

ダンパペダルは、ダンパ(鍵盤を押下していないときに弦の振動を止めるクッションで、低~中高音部(たいていF6まで、まれにA6くらいまで)にだけ装着してある)を持ち上げっぱなし(弦に触れないか、軽くしか触れない状態)に保つ。ソステヌートペダルは、ペダルを踏んだ時点で押下されていた鍵盤のダンパが下りてこないようにする。シフトペダルはハンマーの位置をずらす(通常3本の弦を叩いているハンマーが2本しか叩かなくなったり、ハンマーの柔らかい部分が弦に当たったりして音色が変わる)。ソフトペダルはハンマーを弦に近づける(同じ加速度を加えても、距離にともなって時間が短くなる分、与えるエネルギーが小さくなる)。

鍵盤楽器の鍵盤の大きさは種類や時代によってけっこう異なる。現在のグランドピアノは1オクターブ(Cの左端から次のCの左端までだと思う)が6.5インチ=165.1mm前後のものが多いようで「標準鍵盤」と称する(詳細は次の段落:白鍵は1オクターブに7つあるので割り算すると1つあたり約23.59mmになるが、超高級品ではC~Eの白鍵をわずかに(0.1ミリのオーダー)狭くして「白鍵が狭まった部分の幅」が同じくなるようにしているそうな)。古いピアノはもっと幅が狭かったらしい。アコーディオンなどは現在でもかなり幅が狭い鍵盤を使用している(大型鍵盤と呼ばれるタイプのものでも、ピアノの標準鍵盤よりは幅が狭い)。

ぴやのや日記というblogにJIS規格が掲載されていたので孫引きすると、

らしい。ヤマハとカワイで白鍵先端から黒鍵先端まで(=白鍵フロント)の長さが違う(前者は52mm、後者は50mm:黒鍵の長さは上記の通り95mm)というのは(ピアノ弾きには)けっこう有名な話のようだ。また、オルガンはピアノほど親指を多用しない傾向があるので、白鍵フロントがやや短い(45mm前後)ものが多い。大型のものなら、横幅はピアノとほぼ変わらないようだ。


オマケ(ギターいろいろ)

大まかな分類として、クラシックギター、フォークギター、エレキギターがある。

クラシックギターには、弦にガット(羊などの腸)を用いるガットギターとナイロンを用いるナイロンギターがある。弦高が高く、ネックの幅が広く(ナット幅で48~52mm≒30/16インチくらいが中心)、指板が平らに近く、響棒(力木、ブレイス、トーンバーなどとも:表板の裏に貼る板で、ボディ内部で意図的な分割振動を起こして周波数特性を変えるとともに機械的な強度を出す)が控えめに配置されている。スケール(弦長)もフォークギターより長いものが多く(650mmが一般的で、もっと長いものもある)、ネックとボディの接合部(というかボディの上端)が12フレットの位置になるノーマルネックが一般的で、19フレットがサウンドホールにかかって真ん中で途切れたデザインが多い。クラシックギターを薄くしてサステインを殺し、弦高を下げてあえてビビリが出やすいようにしたのがフラメンコギター(ゴルペ板という保護板を装着することが多い)。なお「演奏にピックを使わない」という定義はナンセンスだと筆者は思う(じゃあグラスネイルとスカルプチャーとフィンガーピックはどう違ってどこに「使わない」のラインがあるの、と考えるとアホらしくなる)。たんにクラシックにピック前提の曲が少ないだけで、ミュリエルアンダーソンでさえクラシックギターをフラットピックで弾くことはある(All Star Guitar NightというイベントでJohnny Hilandと共演したときとか)。

フォークギターは鉄弦を用いる。弦の張力が強いので、Xブレイス(クロスブレイス(骨と骨が交差する)の一種で、とても頑丈:クロスしないブレイジングには、クラシックギターに多いファンブレイス(団扇の骨のような配置)や梯子状のラダーブレイスなどがある)を採用したものがほとんど。ハイポジションで左手と干渉しないようにボディを引っ込めた形状(カッタウェイ)のものもある。スケールはやや短め(マーティンだと、大型のドレッドノートモデルで25.4インチ≒645mm、0~000モデルで24.9インチ≒632mmだが、000モデルは一部25.4インチを採用している:各メーカーとも645mm前後をノーマルスケール、630mm前後をショートスケールとしており、15/16スケール(マーティンはドレッドノート基準なので609mm)を中間として、580mm前後のものはスモールギターとかリトルギター、480~540mm前後のものはミニギターと呼ばれることが多く、645mmをフルスケールとすると、5フレカットで485mmくらい、2フレカットで580mm弱、1フレカットで610mmくらいになる)でネックの幅も狭い(ナット幅で38~46mm≒27/16インチくらいが中心)。ネックとボディの接合部が14フレットの位置になるロングネックが一般的(マーティンがオーケストラモデルという名前で出したものが最初らしい)。

フォークギターという名称はヤマハの造語らしく日本でしか通じないが、アコースティックギターというとクラシックギターも含まれてしまうし、ウエスタンギターというとドレッドノートなイメージがあるし、スチールギターというと別の楽器(後述)と紛らわしく、何とも呼びにくい(フラットトップスティールギターとか、そんな感じかな)。同じ鉄弦でも、表板がアーチ加工(ヴァイオリンのような丸みのある形にする加工)されたアーチトップギターは、Jazzで多用されることからジャズギターとも呼ばれる(丸いサウンドホール(ラウンドホール)ではなくf字孔(f-hole)を採用したものがほとんど)。なお、トーレス式のブレイシングや(マーティン式の)Xブレイシングだと表板の脇の方まで響棒が通ることになり、fホールは採用しにくくなる。

エレキギターは、アコースティックギター同様の共鳴箱を持つフルアコースティック(フルアコ/フルホロウ/Electric-Acoustic Guitar)、空洞のない板(実際には電気部品を収納するためのザグリがあるが)を使ったソリッド、フルアコのボディの真ん中に胴木(センターブロック)を入れてピックアップ部分に共鳴音が伝わりにくくしたセミアコースティック(セミアコ/セミホロウ)、ソリッドのボディを一部くりぬいて空洞を作ったセミソリッド(大胆にくりぬいて開口部を設けたものは「シンライン」モデルを名乗っていることも多い)がある。フルアコやセミアコはアーチトップでf字孔を持つものが多い。ピックアップはシングルコイルかハムバッキング(S極N極を反転させたコイル2つをつないでハムノイズに強くしたもの:効率もよくなるがサステインが弱まりハイが削れる)がほとんど。スケールは短めで、645mm前後をフェンダースケール、630mm前後をギブソンスケール(またはミディアムスケール)、610mm前後をショートスケールと呼ぶことがある。ストラトやテレやレスポールは16フレットネックジョイント、ES335やSGなどは19フレット接続のモデルが多い。ついでにエレキベースは、30/32/34インチ前後がショート/ミディアム/ロングスケールと呼ばれる(ロングより長いスケールは呼称がマチマチで、35~36インチくらいをスーパーロングとかエクストラロングなどと呼ぶことがある)。

鉄弦アコースティックギターにピックアップを追加したエレアコと共鳴箱を持つフルアコの違いは、アコースティック楽器としての使用を主目的としているかエレクトリック楽器としての使用を主目的としているかという主観的な問題になる(圧電ピックアップがエレアコでマグネティックピックアップがフルアコだとか、ラウンドホールがエレアコでf字孔がフルアコだとか、フラットトップがエレアコでアーチトップがフルアコだとかいった主張もあるが、一定して受け入れられている基準はない)。クラシックギターにピックアップ(マグネティック式は使えないので圧電式やマイク式など)をつけたものはとくに(ガット弦でなくナイロン弦でも)エレガットと呼ばれる。エレアコはタカミネの造語(商標でもあるらしく、わざわざ「えれあこ」と表記するメーカーもある)で、英名はAcoustic-Electric Guitar。原理だけ考えると、圧電ピックアップをつけたアコピはエレアコとまったく同じことをしているはずだが、エレアコピとは普通呼ばない(愛嬌があっていい名前だと思うが)。

この他、水平に置いて(または小型のものならストラップで水平に吊って)演奏するスチールギターというのもある(アコギとさほど変わらない形状のラップスチールから、スタンドつきの琴のような形状のスタンドスチール、さらに各種ペダルを追加したような形状のペダルスチールまで、様々なものがある:小型のものはハワイアンギターと呼ばれることもあるが、ハワイアンギターはもともとアコースティック楽器で、リゾフォニックギターの原型に当たるらしい)。ラップスチールに共鳴器(リゾネーター)を取り付け大きな音が出るようにしたものはリゾネーターギター(National String InstrumentのリゾフォニックギターやDobro(創設者Dopyera brothersの略らしく、現在は買収されてギブソンのブランド:兄弟とも元ナショナルギターの社員だったそうな)のドブロギターが有名)と呼ばれる。また、膝(lap)の上に置いて演奏するギターを総称してラップギターという(普通のギターを膝置きして弾いてもラップギター扱いすることが多く、台の上などでも水平置きでさえあればラップギターと呼ぶ場合がある:反対に、リゾネーターギターを普通のアコギのように弾くこともある)。さらに、ナショナルギターはピックアップ付きのリゾフォニックギター(Resolectric)も作っており、フロントにソープバータイプのマグネティックピックアップ、サドル下にピエゾピックアップを搭載している。

変形ギターも種類が多く、単に形状が変わっているものではギブソンのエレキギターの一部とか、ドイツやイタリアにも変な形のものが多いらしい。楽器としての構造から違うものとしてはダブルネック(ギブソンのEDS-1275が有名)があり、元になったアイディアなのかどうかわからないがハープとギターが合体したハープギターという楽器も(WikipediaENによると18世紀末くらいから)ある(奏者としてはMichael HedgesやMuriel Andersonが有名:ヘッジスが使っていたDyer Brothersという会社のものと、やはりギブソンのSTYLE-Uというモデルが代表機種らしく、ミュリエルは大幅に小型化した上で全音上げチューニングのショートスケールギターに低音ハープ弦の半音下げレバーやセカンドギターには高音側のハープ弦も追加したDoolin Guitars(マイクドーリンさんという人の手作りっぽい)のカスタムモデルを使っており、Youtubeに本人による解説がある)。ハープギターの場合、ハープ部分は共鳴器としてだけ使うこともあるし、上記のヘッジスやミュリエルなんかはベースとして実音も使っている(アコースティックギターとアコースティックベースでダブルネックを作ったような楽器も、けっこう古くからある模様)。

なお、ガット弦やナイロン弦でも4~6弦は金属線を巻きつけた巻弦(ワウンド弦)を使用するのが普通(チェロやコントラバスでは質量(というか密度)を稼ぐためにタングステン巻きの弦も用いられ、また三重巻線もあるそうな)。大きいゲージの鉄弦では3弦も巻弦になっていることが多い。巻弦の歴史は古く、鈴木金属工業という企業サイトの解説によると1660年には金属巻のガット弦が出現し、ヴァイオリンに用いたと見られるそうな。巻弦が発明される前は撚弦(和楽器などでは現在でも用いられる)を使っていたようだ。ピアノの平打ち芯線+二重巻線、エレキベースの六角芯または丸芯+二重巻線、ヴァイオリンのナイロン芯線+内側ニッケル合金ラウンドワウンド+外側銀メッキフラットワウンドなど、各楽器でそれぞれに工夫された弦を用いる。同じサイトの解説には、鎖帷子用の鉄線製造技術と楽器用の金属弦製造技術の関連についても示唆されている。


オマケ(アクティブベースとパッシブベース)

アクティブ回路(大雑把には、電源が必要な回路のことだと思っておけばよく、ここではプリアンプのこと:詳しくは音が出る原理のページの電気楽器の項目を参照)を備えたエレキベースをアクティブベース、パッシブ回路のみ(ここではプリアンプを内蔵していないという意味)のエレキベースをパッシブベースと呼ぶ(マグネティックピックアップであることを前提とするのが普通:圧電ピックアップのエレアコベースはたいていプリアンプがついているので、わざわざアクティブ/パッシブと呼び分けないことが多い)。アクティブでもパッシブでもやることは結局一緒で、本質的な違いはない(音の増幅をする場所が違うだけ)。

ただし、プリアンプが専用設計か汎用品かといった違い(アクティブタイプのプリアンプを汎用品に交換したり、パッシブタイプ向けに専用設計のプリアンプを用意することも不可能ではないが)や、選択可能なピックアップの種類(アクティブタイプの方がコイルの巻数が少ないピックアップを採用しやすく、結果的に高音の減衰やハムノイズが少なくサステインを妨げない)、ノイズの入り方(ローレベルハイインピーダンス区間が長くなりピックアップ自体のインピーダンスも高めなパッシブタイプの方がノイズに弱い)、トーン回路の影響(間にアンプが入るのでLC回路としての振る舞いなどが変わる)など、異なる部分もある。電気回路として考えるとアクティブタイプの方が優れており、故障頻度はパッシブタイプの方が低い(部品が少ないから当然)が、パッシブの方がデリケートな回路になりやすく音色の安定性ではアクティブに軍配が上がる。パッシブタイプのローファイな音が好き、という層も一定数存在する。

低音が出てシングルコイルに人気がある(=ハムノイズが非常に大きな問題になる)エレキベースではアクティブタイプの需要が高いが、楽器購入時についているピックアップはパッシブタイプがほとんど。交換用のアクティブピックアップはEMGなどが出している(プリアンプでインピーダンスを下げているものもあるが、EMGの製品はギター用/ベース用ともに出力インピーダンス10KΩ程度でパッシブタイプとあまり変わらない:出力レベルは当然異なる)。ベースの場合「楽器内蔵用のプリアンプ」も売られており、都合「ピックアップ/アンプ一体型」「楽器内蔵プリアンプ」「アンプ直結」「DI経由でミキサー」などいろいろなバリエーションがある。圧電ピックアップを採用したエレアコは、前述のとおりピックアップの出力が小さいためアクティブタイプがほとんど。

ちなみに、マグネティックピックアップは巻数の多いコイルを使用している都合上ハムノイズを拾いやすいのだが、極性を反対にしたコイル2つをつなぎ出力を加算することでノイズを打ち消すハムバッカー(もしくはダブルコイル)と呼ばれるピックアップもある(ノイズをコモンモードにして加算時に打ち消すという発想はバランス伝送と似ている)。シングルピックアップ(もしくはシングルコイル)でも、フロント(ネック寄り)とリア(ブリッジ寄り)の2箇所にピックアップを設置している場合は2つの出力を(片方の極性を反対にしたうえで)加算することで似たような効果が得られる(ハムキャンセルと呼ばれることが多い)。プレシジョンベースのようにシングルコイルを2分割してハムキャンセル接続するものもあれば、2つのコイルを縦積みしたスタックハムバッカーという形式もある(シングルコイル風の音色とノイズ対策の両立を狙ったもの)。


オマケ(ヒモとハコ)

ほとんどの弦楽器は、ヒモの振動をハコor筒で共鳴させる形になっている。ヒモからハコへの伝達は、手持ちサイズの楽器の場合、駒(ブリッジ、steg)と呼ばれる留め具を介することが多い(ハープのようにヒモを筒に直接張るものは別:ピアノはヒモがハコの「中」にあるが駒でも音を伝えている、というか弦から空気に直接振動を伝えるのは、音響インピーダンスの関係で低効率にしかできない)。弦を鳴らすというよりは、弦を使って箱や筒を鳴らすと考えた方が現実に近いのかもしれない。

弦の振動が駒から表板(トップ、Decke:ピアノの場合は響板)に伝わると、表板やハコ内部でいろいろな共鳴を起こして「楽器の音」になる。ここで注意が必要なのは、ハコは音を「変換する」のみであって、音を「発生させる」のはあくまでヒモだということである(ただしもちろん、ハコからヒモへのフィードバックはある)。弦が発生させたエネルギーを、周波数領域や幾何領域でパッシブに「偏らせる」のが胴であって、エネルギーをアクティブに「増幅」しているわけではない。

胴の構造にもいろいろあって、開放式か密閉式かバスレフ式か(という言い方が許容されるのかどうか知らないが)だけ考えても、ソリッドギター(生音限定)のように響板兼バッフルのみのもの、二胡のように背面開放のもの、三味線のように明確な開口部がない(とは限らないが多くの場合ない:背面が柔軟なものは挙動が少し変わる)もの、ヴァイオリン族のようにf字孔が好まれるもの、ギター族のようにラウンドホールが好まれるもの、バンジョーのように共鳴装置が可変なものなどがある。

ヴァイオリン族では高音弦側に魂柱(サウンドポスト、Stimmstock)、低音弦側に力木(バスバー、Bassbalken)を配して響き方を変えていたり、と内部構造にもいろいろとある。力木と響棒の呼び分けは明確な基準がわからなかったがまあ似たようなもの。表板の形状は平らなものが多いが、弓を使う前提の擦弦楽器ではアーチ状になっているのが普通。

リード(板or唇)が発生させた音を筒の特性で偏らせる管楽器も、原理的にはあまり変わらない構造をしている。


オマケ(クラシック楽器の呼称)

日本では「violin」を「ヴァイオリン」と英語読みして「ヴィオリン」と呼ばないが、「viola」は「ヴィオラ」とラテン語読みする(ちなみに英語の場合、同じ「viola」の綴りで「楽器のヴィオラ」を指す単語と「スミレの一種」を指す単語があり、前者を「ヴィオゥラ」後者を「ヴァイオラ」と発音で区別している:「十二夜」に出てくるViolaをヴィオゥラと読んではいけない)。

「イングリッシュホルン」もアレである。イギリスの楽器っぽいイングリッシュホルンをなぜドイツ語読みするのか妙に思い調べてみたところ、もともとフランスで「cor angle」(曲がった笛:英語の「horn」は「ラッパ」のことだが、フランス語の「cor」は「角笛」が原義で吹奏楽器全般に援用されるらしい)と呼ばれていたものが「cor anglais」(イギリスのホルン)という誤用が広まって、それがドイツ語に輸入されてイングリッシュホルンになった、という説があるようだ(ムチャクチャすぎ)。

じゃあ「フレンチホルン」はどうかというと、ドイツ語では単に「ホルン」と呼ぶのだが、英語で同じく「ホーン」というと「ラッパ(金管)全般」を指すのでわざわざ「フレンチ」をつけると、そういうことのようだ。しかし、英語で「horn」は「ホーン」じゃないのかとか、本家のはずのフランスでも「cor francais」(「cor d'harmonie」とも)と呼ぶのはどういうことだとか、シロウトにはサッパリわからない慣例が山盛りである。

低音楽器も変。「コントラバス」はドイツ語経由ラテン語由来で、「コントラ」が「~に対して」を示し、「バス」が「低い音」なので、全体で「バスより低い音の」という意味になる(「コントラ」自体はもともと、「コントラテノールバッスス」で「テノールに対して土台になる」とか「コントラテノールアルトゥス」で「テノールに対して高い音の」といった用法だったらしい)。コントラバスよりさらに低い音が出る楽器には、オクトコントラバス、サブコントラバス、ハイパーバスなどの語が当てられるが、モノとしては非常に稀(オクトバスという弦楽器や、最低音が出る楽器としてギネスブックに載ったというオクトコントラバスクラリネットなどが、比較的有名)。

で、バスより低い音の楽器はいくつもあるのだが、単に「コントラバス」と言うと普通は弦楽器(ヴィオール族)のコントラバスを指す。英名は「ダブルベース」になり「カウンターベース」とはなぜか言わない。フランス語読みして「コントルバッソン」だとダブルリードのコントラバスのことになる(ちなみに弦楽器のコントラバスはフランス語だと「コントルバス」)。コントルバッソンをさらに(半端に)英語読みしたコントラバスーンという言い方も変(「ダブルバスーン」と全部英語読みするならわかるし、実際そう呼ぶ人もいる)だが、コントルバッソンにつられてコントラファゴットと呼ぶのも相当変である(ファゴット自体は「薪束」の意)。

和名にも面白いものがあり、ハープを最初に「竪琴」と呼んだ人のセンスはブッ飛んでいる。洋琴(ピアノ:中国では鋼琴と呼ぶらしい)とか提琴(ヴァイオリン:三味線あたりの方が似てるような)に比べてインパクトが強烈である。琴シリーズでは風琴(オルガン)や自鳴琴(オルゴール)や鉄琴も凄いが、木琴というのはいかがなものか(琴は普通木製だろうに)。そもそもオルガンとかオルゴールとか鉄琴とか木琴は弦楽器ですらない。アコーディオンとコンチェルティナ(ボタンアコーディオンを小さくしたような楽器)は両方とも手風琴だが、アコーディオンの方を提風琴にして欲しかった(そういう言い方もあるようだ)。口琴はハーモニカのことだが、中国に同じ名前の楽器(日本で琵琶笛とか口琵琶と呼ばれていたものの仲間)があるのを知らずに日本人が名前を広めてしまったので、元の楽器は現在口弦とか嘴琴と呼ばれているそうな。

ちなみに琴を「きん」と読むと古琴という古楽器を指す。7弦のポータブルな楽器で、中国から日本に伝来しては途絶するのを繰り返したらしい。和琴は「わごん」と読み、日本の古楽器(6弦)を指す。現在「こと」と呼ばれている楽器は13弦で、本来は「箏」と書く(山田琴と呼ばれるタイプのものがほどんどだそうな)。


オマケ(ドラムセットいろいろ)

ドラムセットのバスドラム(下に置いてある一番大きいタイコ)を「キック」と呼ぶ人がいる。実はこれ、由緒正しい呼び方である。というのは、ビーターペダル(バスドラムを鳴らすペダル)が発明される前(多分19世紀末か20世紀初頭くらいまで)はタイコを本当に「キックして」音を出していたらしい。ただし、現在普及している普通のドラムセットでバスドラを直キックすると多分壊れるのでやめよう(壊れても惜しくない自前のタイコなら、スティックで叩いても音は出る:Buddy Richあたりがやっていたのと、Simonがフロントサイドぶっ叩いているのも見たことがある)。

ハイハットのもとになった楽器にローハットというのがありローボーイとも呼ばれた、というところまで紹介している記事はけっこうあるが、さらに元を辿ってスノーシュー(ソックシンバルとも)やクランジャにまで言及している例は少ない(筆者が知る限り、鳴るほど♪楽器解体全書の記事と、The Drum Siteの記事くらい:英語版のwikipediaにも言及はあるが2010年2月現在の説明はちょっと妙)。

バスドラの横に置いた(または位置と関係なくサブの)シンバルをサイドシンバル、シンバル類(イフェクトシンバルを除く)のうちセッティング位置がもっとも高いものをトップシンバルと呼ぶことがあるのだが、歴史的な経緯があって用法が混乱している。とくにJazz方面では、トップシンバルといえばライド(かつて一番高い位置にあった:rideという呼称は、もともとバスドラムの上に乗せるセッティングが主流だったことによる)のことで、左サイドのクラッシュはどれだけ高い位置にあってもサイドシンバルとしか呼ばないことがある(のに、左クラッシュをトップと呼ぶ人や、右クラッシュの意味でサイドと言う人も一定数いてメンドクサイ)。余談ながら、バスドラを地べたに置くようになったのより、ライドをバスドラに取り付けるようになった方が早いらしく、マーチング用のバスドラにライドを乗せていた時代もあったそうな。SimonやWill Kennedyのようなオープンハンドの奏者はメインのライドをハイハットの近くに置くことが多い。スネアをサイドドラムと呼ぶこともあるが現在はまれ。

ドラムセットはドラムスティックで叩かなければならないというルールはない(レンタル品でなければ)。スティック以外でメジャーな道具としてはブラシがある。タイコのヘッドやシンバルを掃くようになぞったり(ブラシスイープ)、ペタペタ触るようにする(ブラシタップ)演奏法があって、なかなか面白い(材質でワイヤーブラシとナイロンブラシに大別される)。細い棒を束ねたマルチロッド(ラテン楽器のバケッタも、大枠ではこの仲間)という道具もある(Pro-MarkのRodsシリーズが有名)。スティックの変り種にチップがない(棒状の)モデルもあり、ノッカーとかチップレスなどと呼ばれる。Pearlの115H、PROMARKのTXRKW、VATERのVHHWなどのほか、TAMAがH-NOBという細いモデルを出している。

他の打楽器用の道具を流用して、クラシックパーカッションで使うマレット(ティンパニ用やマリンバ用)、ラテンパーカッションで使うカウベルスティック(カンパーナビーターとも)やタンボリンバケッタあたりが使われることもまれにある。さらにマイナーだが、単体の打楽器をスティック代わりにすることもあり、ルーテ(英語読みだとルート、細い棒を根元でだけ束ねた楽器で、打ち鳴らすと鞭のような音がする:ドラムセット用のものはマルチロッドとあまり変わらない作り)やシェイカー(中空の容器の中に粒状の物を入れて、振って音を出す楽器全般を指す)で叩くこともないではない。素手ドラムはBonzoが有名だが、Bernard Purdieあたりも途中でスティックを片方だけ口にくわえることがある。

反対の発想でバスドラ用のビーターを他の楽器に流用する(タイコがあるはずの位置に他の楽器を置く)ための器具もあり、一般にフットペダルブラケットと呼ばれる。カウベルに使う例が多いが、クラベスやタンブリンにも使う(各楽器に特化したビーターもある)。



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