K240 MKII


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AKGのK240 MKIIについて。

重要な情報
この記事は筆者が2011年4月に購入した個体に関するもので、その後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。

一応示しておきたい情報
筆者は眼鏡を常用しており、ヘッドフォンを使用する際にも外すことはまずありません。採寸はしていませんが頭は大きい方です。

性能が高く装着に癖がある

快適性、再生能力、取り回し、付属品の豪華さなど、普通に求められる性能はたいへん優れている。ドライバの設計が変わった影響を懸念していたが杞憂だった(AKGというメーカー自体、ここ数年迷走している感があるが、少なくとも筆者が入手した個体については文句のつけようがない)。公式サイトの仕様情報(2013年7月現在)を転載しておく。

General
Headphone type:semi-open
Audio Frequency bandwidth:15 to 25000 Hz
Sensitivity headphones:104 dB SPL/V
Max. Input Power:200 mW
Rated Impedance:55 Ohms
Earpads
Detachable cable:yes
Cable Length:3 m
Earpads Replaceable:yes
Audio Interface
Type:Screw-on Jack Combo (1/4" and 1/8")
Gender:Male
Contacts:3-pin
Interface Finish:Gold
Dimensions / Weight
Length:110 mm
Width:190 mm
Height:200 mm
Net Weight:240 g
オーディオインターフェイスは3ピンのミニXLRで本体側がオス、交換ケーブルはEK300(3mストレート)とEK500(5mカール:非伸張時1mちょい)。イヤーパッドは合革と布の2種類がついてくる。交換イヤーパッドは2058Z10010(合革)と2955Z26010(布)。感度は104 dB SPL/V@55Ω≒91 dB SPL/mWちょい。ミニXLRは汎用コネクタなので社外品も出ている。オプションパーツは型番が複雑で、合革イヤーパッドは、もともと2058Z10110だった(サービスデータにはこの番号を記載)のが廃止され、K240studio用の2058Z1001が2058Z10010に番号変更して共用化されたようだ(未確認)。ケーブルはEK300とEK500がモデル名で、6000H10080と6000H10100がパーツ番号、現行製品はEK300とEK500Sということのようだ(サービスデータにはパーツ番号0110E02440と0110E03150と記載)。

装着感が独特で、一般的なアラウンドイヤーではなく、耳介を含む耳周辺全体に乗せるような格好になる(メーカーの分類ではcircumauralでover-ear)。サウンドエンジニアが何をしているかという情報の密度が極端に高く、分解能がどうしたとか音の伸びだの艶だのがこうしたとかいった話が軽くふっ飛ぶくらい強烈な特徴になっている。音イジりの経験が長い人なら、ミキサーの手の動きが見えるような錯覚を得るかもしれない。これはおそらく各楽器(というか定位と音域を共有する群)が独立して聴こえやすく、音のディテールに相当する領域が強調された特性によるもので、その意味ではナチュラルとかフラットとかいった志向ではない。

装着方法(上下前後のずらしやヘッドバンドの傾け)で聴こえ方が変わり、たいへん奥深い。ドライバユニット自体は丸いのだが、耳の穴から耳たぶの下端までと耳の上端まででは後者の方が長い人が多いため、自然に着用した状態では音の出所がやや高い位置にあり、高音楽器は上で低音楽器は下に定位するような感覚になる(上下の定位は作用がごく弱いはずだが、距離が近いせいか意識するとそのように知覚できる)。この鳴らし方だと混ざった音から個々のパートを拾い上げる作業がやりやすい反面、ソロトラックモニタは不自然に聴こえ、とくにオンマイクで録った音やエレクトリック楽器のライン出しを無加工で再生するとキモチワルイ(ギターなんかは、下にあるはずの1弦の音が上から聴こえて最悪)。ヘッドフォン全体をやや下にずらしてやると、この傾向は薄まり気にならなくなる。前にずらすとフルレンジな鳴り方に、後ろにずらすと高域が軸を外れて低域が耳の後ろから逃げややナローレンジに、ヘッドバンドを前に傾けると聴こえ方のクセが緩和されつつ後方から低音が少し逃げ(筆者の頭だと)もっともハイファイな出音になる。全面駆動などとは反対の考え方に見え、ダイヤフラムが一回り小さい(スタジオモニタで一般的な40mmではなく30mm)のも、この効果を考慮してのことなのかもしれない。

ヘッドフォンアンプの各チャンネルの音量感が大体同じになるようセッティングして聴き比べをしてみたのだが、圧迫感がないため大音量でも非常に(オープン型のHD558と比較しても明らかに)ラクである。反対から言えば、K240mk2なら快適に再生できる音であっても、他の機種では「聴いているだけでシンドイ」ということがあり得る。ただし応答は速いので、みっちり詰まった低域がポフンとアタックしてくるソースに対しては(疲れない方だとは思うが)疲れ知らずではない。憶測に過ぎないが、音源から読み取れる情報量を増やす手法として、大きな音量でも耳への負荷が小さくなるように設計してあるのかもしれない。

音は漏れるし遮らない

音が漏れないようにするという難題を無視して素直な音を鳴らすための選択肢なので、これは最初からそういうものだと思っておくのが妥当だろう。稼動中のマイクやスピーカの近くで使う機種ではない。

慣れと好みも強く影響する話だが、同じモニタ用途でもエレクトリック楽器の奏者モニタに使うと、生音が混ざってきてキモチワルイ(オープンエアーのHD558でのモニタなら筆者は平気なので、生音が聴こえる/聴こえないだけの問題ではないのだと思う:前述の装着方法の影響もあるが、奏者モニタだと細かいところまではケアしにくい)。すでに触れたように、オンマイク無加工の音源やマルチマイクを簡易に混ぜただけの音源なんかも快適ではない。エレクトロニック楽器ならそこまでの違和感はないものの、情報量が過剰気味なので用途を選びそう。

全般に低音楽器のアタックが明瞭でとくにエレキベースの演奏を把握しやすく、難点もオンマイク録音でさえなければ運用でカバーできそうではあるが、やはり録音にはK271mk2あたりを使った方が無難じゃないかと思う。ただし、公式サイトの売り文句には「世界中のスタジオ、オーケストラ、ステージで」とあるから、リアルタイムモニタに使っている人が少ないわけではないのだろう(きっと)。

マイク録音に使っている人もいないではないようだが、もし筆者が録音担当で、マイク録音にK240mk2を持ってきた人がいたら、黙って手元の密閉型ヘッドフォンを差し出す。ハーマンのオフィシャルビデオではヴォーカルのお姉さんがコレでモニタしていたりするのだが(しかも使っているのはラージダイヤフラムのコンデンサマイク)・・・奏者が2人だけでギターの人がK271mk2を使ったので、演出上仕方なかったのだろうと思っておきたい。エレキギターのアンプ録りやサックスのコンタクトマイク録りなど楽器の音が大きいものや、クラシック楽器や民族楽器など生音での演奏把握が重要なものに使うにしても、K141の方が軽くて小さくて扱いやすそうな気がする。

というか2013年7月現在、公式サイトのK141mk2のアオリ文句に「for superior vocal recordings」とあるのだが・・・アナログフィードバックによるコーラス効果でブリリアントなヴォーカル録音とか、そういうのでも狙ってるんだろうか(海外のレビューを見ると、アコギを録音したらクリックが乗ったとかstudioは漏れなかったとか諸説書かれている)。そういえばwe are the worldのドキュメンタリーでK141らしき機種を大量に使ってリハーサルしているのを見た記憶があるが、リハ用に生声が聴きやすいよう配慮したのか、アメリカのエンジニアには大雑把な人が多いのか、単に人数が多かったからたくさんある機種を出したのか、よくわからない(別録りした人たちの画像を見ると大型モデルが多いようだし、リハでもマイヘッドフォンを使っているらしい人が何人かいた)。

モニタ以外の用途

一般的な意味でのリスニングには向かないように思う。装着感や再生音は快適なものの、リスニングを楽しむために必要な情報とない方がよい情報を篩い分ける負荷が大きい。また装着方法によっては高域がスコっと上まで出るため、ハイ寄りに加工されたハイハットが過剰にカシャっとして聴こえることがある(1oct幅1.5dbくらいで600Hzブースト9KHzカットすると緩和できる)。

ただし、特殊なエンジニアリングがなされたソースだとリスニングにも適することがある。たとえばTotoのHydra(同名のアルバムの1曲目)のイントロで流れる「巨大なものが蠢いている」イメージの音なんかは鮮明に再現できる(この音色に限って言えばただ「低音が出る」というだけではダメなようで、密閉型のヘッドフォンにも上手く再生できるものはあまりない:ヴォーカルや生楽器などの再現性はよく話題にされるが、シンセサイザーを使って機器を限界までぶん回す音源の再生も、ヘッドフォンの性能の指標のひとつになると思う)。これに限らず、アクロバティックな演奏や頑張りすぎたエンジニアリングをスポーツ感覚で楽しむのには適する。

ちょっと変わったところでバイノーラル録音(ないしそれを模したORTF方式など)の再生にけっこう向く。が、これはヘッドフォンの性能というよりは半開放という形式が向いているだけかもしれない。また静かな部屋で使わないと録音された音とリスニングルームの音が混ざってキモチワルイし、録音上の不手際(マイクが風に吹かれたとか)があると耳につく。

財布に厳しい

筆者の購入価格で13500円と、本体価格は大したものではない。が、使っていると他の機材のごく些細な不正確さ(たとえば定位の甘さとか低域の歪みとか過渡特性とか)がやたらと気になりだして、物欲のハリケーンを引き起こしかねない。

たいていの人は、ミキサーとヘッドフォンアンプはマトモなものが欲しくなるだろう。スピーカ再生との落差が気になりだすと正確なスピーカも欲しくなる(こればっかりは部屋の性能もあるからサクっと解決できるとは限らないが)。さらに、リスニング用のヘッドフォンにもいろいろと注文をつけたくなる。

さらに、買ってきたものの評価基準がコレになる(K240mk2自体はリファレンスモニタを志向した製品ではない(少なくともそれに徹してはいない)が、ウチではそのポジションを占めている)。アンプを買ってきては聴き、マイクを買ってきては聴き、リスニング用ヘッドフォンを買ってきては聴き比べ、といった具合である。そして困ったことに、本来気にするべきでないような些細な過不足が耳についたりする。

ちょっと油断すると10万円くらいの予算はあっという間に吹っ飛ぶ(筆者は結局、Fast Track UltraHD558などを買ってしまった:その前or同時に買ったXENYX1204USBHP4(K240mk2は繋いでいないが増えたヘッドフォンを管理するのに使っている)やMSP5も、もし持っていなかったら手を出したと思う)ので、厳重に注意が必要である。

なお、K240Studioもだいたい同じようなモノで、価格が数千円安いが、色しか違わないとか選別品だとか噂ばかりで実情は不明(一時期AKGのフォーラムにメーカー公式アカウントで「There is NO difference acoustically or technically」という記述があったのだが、2015年現在参照できなくなっている:布イヤーパッドとカールコードを単品で買ったときの価格を考えたら、中身が同じでも不思議ではない)。

ハイパワーなアンプは必要ない

すでに触れたように感度は104 dB SPL/V@55Ω≒91 dB SPL/mWちょいで、ポータブル機器でも普通に鳴る。例外は、マスタリングでモリモリに音圧を上げていなかった時代の音源で、かつ本気の爆音再生(いつも繰り返しているが耳の健康には注意)の需要がある場合に、出力がごく小さい再生機器を使うと「もう少し音量を上げたいな」と思わないでもない。

ただ、筆者の手元で上記のような不足を感じた組み合わせといえば、TranscendのMP330に直接繋いでZepを聴いたときくらいで、音量半分くらいでも穏やかなリスニングはできる。筆者のサブPC(Endeavor NP11-V)のオンボードくらいの出力があれば、耳がイカれないか10分で心配になる程度(ヘッドフォンを外して机に置いてもはっきり曲が聴き取れるくらい)の音量が出る。

もちろん、たとえばポータブルプレーヤーでガイド(パッツンパッツンに音圧を上げたトラックを用意する人はめったにいないだろう)を流しながらごくハードな曲の生ドラム練習をしようとか、そういう場合にはもう少し能率の高い機種の方がよいかもしれない(サブミキサーを置いて線を繋ぐのが面倒なのであれば)。が、少なくとも、普通のミキサーに繋いでモニタ音量が取れないような感度の低さでは決してないし、ポータブルプレーヤーでもごく小型の機種でなければ十分爆音再生できる(手元ではS100とAGPTEKの名前がよくわからないプレーヤーで確認)。

なお、ハイインピーダンスアンプに繋いだときのドンシャリ効果は緩やかに出るので、奏者用にコッソリ味付けした音を返すことは普通に可能。

オマケ(型番)

AKGに限らずヨーロッパメーカーの型番はテキトーにやっているとしか思えないものが多くあり、たいへんわかりにくい。

最初期はK50などの2桁末尾ゼロ。K10は復刻版も出た。現在もメジャーなシリーズで最初に発売されたのはおそらくK140カルダンで、そこから140系と240系が派生、末尾が0から1に増えるのは後継機種を示すがK271はK241の密閉バージョンに見える(K270の後継っぽくはない)。小型機種はK3などの1桁番号で、短命に終わったらしい。200番台後半に製品が増えてくると型番が混雑。2wayとか蛇腹式の折りたたみなど愉快なデバイスが見られるのもこの時期。

時代が下がると少し真面目になり、小型機種はK33などのゾロ目シリーズで出直し、大型機種はK500などの末尾00シリーズで一新、フルオープンのK1000も発売。2桁型番もいい加減足りなくなってきているところにK100の廉価版でK80などが出る。140系と240系は継続。

ハーマンに身売り後またモデルチェンジが活発になり、末尾00シリーズは末尾01シリーズになったが、K501の次に困ったらしくK601が出た。ゾロ目はエントリーモデルになりポータブルは400番台に、700番台は上位モデル用にしたいのか節約して使っている。500番台を1万円前後のラインナップに、600番台を変則的なモニタモデルに当てるつもりだろうか。

2014年7月追記:やはりどうも、ハーマンさんは頑張りすぎているように思えてならない。2013年9月19日の日記に「K702はリファレンスモニタだったんじゃないの」と書いたが、その後の展開はさらに斜め上を行っている(ただし今のところK702も売り続けているのでまだチョンボではない)。K702自体は(筆者は欲しくないが)スタジオモニタとして貴重な機種だし、老舗の踏ん張りに期待したいところ。



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