Fast Track Ultra


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M-AUDIのFast Track Ultraについて。

重要な情報
この記事は筆者が2011年5月に購入した個体に関するもので、その後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。

レイアウトがすばらしい

アナログ入力は背面にラインが6つ(すべてステレオリンクするとステレオ3系統)で、ライン入力1-2はマイクorHiZ入力と、ライン入力3-4はマイク入力と、前面のボタンで切り替えられる。これがなぜ便利なのかというと、常用する入力(ミキサーのメインアウトとか)をライン入力5-6に、補助的orミキサーを通したくない入力(ミキサーのALTバスとかMIDI音源とか)をライン入力3-4に、たまにしか使わない入力(センドとかリターンとか)をライン入力1-2に接続して、マイクやエレキギターなどを使いたいときだけボタンで切り替えると、ケーブルの抜き差しが減ってラクなのである。ライン入力が固定ゲインでADコンバータ直行なのも、さすがわかっていらっしゃる。

アナログ出力もライン6つ(すべてステレオリンクするとステレオ3系統)で、ライン出力1-2がヘッドフォン1と、ライン出力3-4がヘッドフォン2と同じバスで、ライン出力1-2(メイン)とヘッドフォン1とヘッドフォン2に独立したボリュームツマミがついている。これも非常に便利で、たとえば出力3-4をミキシングモニタ(パソコンのメイン出力だけをモニタヘッドフォンに送る)、出力1-2をリスニングと録音モニタと楽器演奏の兼用(パソコンのメイン出力と入力5-6のダイレクトモニタをミックスして、リスニング用ヘッドフォンとスピーカに送る)、出力5-6をたまにしか使わない用途(センドとかリターンとか)、などとできる。

さらにコアキシャルが入出力7-8を担当しており、デジタルでのセンドリターンもできる。これにより、インパルス応答で定義可能なイフェクト(というかリバーブ)をハードからソフトに引っ張り出すことができる(パソコンからインパルスを送って、ウェットをもらったらWavファイルに出力してIRフィルタで回す:まだ試していないができるはず)。

なお内蔵ミキサーは音声出力のみに影響し、コンピュータに入る信号とは無関係である。たとえば入力5-6をミュートしてもゲインを絞っても、モニタ音声が変わるだけでコンピュータ上で録音される音声に変化はない(ようするに、物理トリム>録音>ソフトウェアフェーダー>モニタ出力の順:マルチチャンネルで専用ミキサーソフトを使う機種ではだいたいこの仕様)。

ADATはついていない。必要かと聞かれると多分必要ないので賢明な仕様だと思えるが、オプティカルはあったら便利だったかもしれず(CDプレーヤーとかポータブルオーディオといったホームユース機材を繋ぐ場合など)、オプティカル端子をつけたらついででADATにも対応しそうなものなので、ムリヤリ減点しようとするならここだろう(ただし内蔵ミキサーの負荷が倍増するから、値段が上がりそう)。

ルーティングの注意

筆者のように入力5-6をメインにする接続だと、たとえばSoftTunerやAudacityなど、入力1-2から信号をもらう前提のソフトと連携しにくいことがある。ALTバスのあるミキサーを入り口にしているなら、メインアウトを入力5-6、ALTバス出力を入力1-2という形にすれば便利(もちろん、ALTバスでなくAUXバスなどを使ってもよい)。

このときたとえば、内蔵ミキサーで入力1-2をミュートすればミキサーのALTバスボタンをダイレクトモニタの有無切り替えに使える(ソフトウェアイフェクタのかけ録りなどでソフトウェアモニタリングをする場合に便利)し、ミュートせず入力1-2だけ内蔵リバーブありにしておけばドライモニターとの切り替えにも使える(リバーブ内蔵機器で内部イフェクトオンにする場合だけドライモニタにするとか)。

ただしSoftTunerはともかく、AudacityならReaperから呼べばよいだけ(録音はReaperでやって、アイテム右クリックからOpen Items in editor、またはCtrl+Alt+E)なので、入力数が余っていないならムリに入力1-2を塞ぐこともない気はする(筆者の手元では入力が余っているので1-2と5-6で使っているが)。

性能は十分以上

筆者が不満な点というと、電源オンオフのポップノイズがやや大きいことくらいしか思いつかない(といっても、少なくとも筆者にとって、他の機器へのダメージが心配になるほどのものではない)。筆者が興味のない部分まで範囲を広げて粗探しをしても、ハードウェアボリュームのガリもなければ、ACアダプタもスリムタイプで場所をとらない。

付属のミキサーソフトの使い勝手も及第点は軽くクリアしている。が、欲を言うとしたら多分ここで、チャンネルフェーダーにプラスゲイン領域があれば便利だったかも(ハードウェア的にはバランスの出力上限が+10dbuで入力上限が+4dbu)とか、ヘッドフォンはどの系統と同期するかの選択制だとなおよかったとか、ユーザーが指定した固定サンプルレートでも動けばよかったとか、そういった希望はある(ソフトウェア部分なので、そのうちアップデートで解決するかもしれないが)。

性能とは関係ないところで1点、電源オンを表示する青色LEDが強烈で、筆者が所有する機材ではXENYX1204USBに次いで眩しい。しかも、ミキサーと違って前面にLEDがついているので直撃を受ける。目の前に置く人はなにか目隠しになるものを探した方がよさそう(筆者は高い位置に置いて目に入らないようにしている)。

モニタ用にハードウェアイフェクト(デジタルリバーブ)を内蔵しており、ミキサー画面でセンド(各チャンネルの下、チャンネル1-2と3-4で共通)とリターン(マスターの下、チャンネル1-2と3-4で独立)を設定すると使える。拡張ボードで数や種類を増やしてパソコンからもプラグインソフトで呼べるようにすれば完璧だったのだろうが、だったらProTools使えよということになるし、コスト的な問題もあるので妥当なセンだろう。

スタンドアロン動作については次の項で触れる。

スタンドアロン動作

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以下はあくまで「やってみたら動いた」という報告と「やってないけど動くかも」という推測であって、使い方の推奨ではありません。

仕様上はスタンドアロン動作できないことになっているが、実装上はまったくできないわけでもない(ファームウェアバージョン1.51で確認)。やり方は簡単で、電源を切らなければよい(当然、ACアダプタ動作が前提)。パソコンの電源を落としても、Fast Track Ultra本体の電源を切るまでは、直前に指定した設定で動作し続ける。

パソコンとの接続と出口ミキサーを兼務させる場合、この動作がメリットになるケースはあり得ると思う。設定を3パターンくらい内部に保存して、ハードウェアボタンで切り替えながらスタンドアロン動作できる上位機種(ぜひFast Track Extremeとか、そんな感じのネーミングで:買い足したらメインマシンに使うだろうからProFireシリーズの方がいいのかな)が出ないものか。

仕様など

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以下とくに断りがない限り、WinXP(32bit)搭載のEndeavor NP11-Vでしか確認していない情報である。

内蔵ミキサーの設定ソフトウェア(Panel)はShiftキーやCtrlキーを押しながらの操作に対応していないが、カーソルキーは使えるので微調整には困らない(バージョン1.0.0.7現在)。ただし、一部のパラメータは内部的に飛び飛びの値で扱っているように見える(たとえばリターンは-10の次が-13)。カーソルキーで大きく操作するとステレオリンクが微妙にズレることがあるのは多分バグ。

無入力状態から信号が入り始めて動作が始まったとき、サウンドドライバを切り替えたとき、サンプルレートを変更したときなどに、音切れやプチノイズが生じるのはおそらく仕様(少なくとも、バッファがいっぱいになるまでの間音が途切れるのはどうしようもないのではないかと思われる)。機材へのダメージを心配するような(少なくとも筆者が心配になるような)ノイズではないし、リアルタイムで切り替えながら使うようなものでもないので、気にしないのがいちばんだろう。無接続時のノイズフロアはライン入力で-90dbFSピークの-103dbFS RMSくらい、ほぼランダムノイズ(引越し後に環境が悪くなってから測定したので、電源や配線に手を入れればもうちょっと頑張れるかもしれない)。

入力ソースにより(サウンドデバイスがアイドルの状態ならば)自動でサンプルレートが切り替わる。パソコン上の効果音(Windowsが勝手に鳴らすもので、本体はWinXPならC:\WINDOWS\Mediaにある:ファイル自体は22.05KHzサンプリングだが、44.1KHzで鳴る模様)やMSGSが鳴るとサンプルレートが44.1KHzに変更されてしまう。サンプルレートをexternalに設定して外部機器を接続しないと48KHz固定になってくれるので、ワークアラウンドとして有効(相変わらずわかっていらっしゃるが、固定レートをユーザーが指定できればもっとよかった)。ASIOドライバ(ASIO4ALL含む)で使う場合は他のアプリを黙らせてくれる(ついでにサンプルレートコンバータも申し分ない性能)ので、internalでも実用上の支障はない。また、アイドルでない状態(なにか音を鳴らしていて、追加で他の音を鳴らした場合)だと、サンプルレートは自動切換えされない。

録音している状態で電源を落とすとOSを巻き込んで落ちることがある(怖いので追試していない:たしか純正のASIOドライバを使っていたときだったと思う、多分)。リアルタム処理をしている機器の電源をイキナリ引っこ抜く方がどうかしているので製品の落ち度とは言いがたいが、かなりローレベルなレイヤーを叩いているのだろうと想像できる。

WDM対応なので当然のようにASIO4ALLからも動く。もちろん純正のASIOドライバもあるが、なんといっても複数デバイスの同時利用ができるのは大きい。これで接続がFireWireだったら、USB接続のマルチチャンネル機種(たとえばTASCAMのUSシリーズとか)と併用して入出力数を安価にブーストできたのだが、あいにくUSBなのでルートハブ(イマドキのデスクトップなら、オンボードでも2系統くらいはついているんじゃないかと思う)の選択に気を使う必要がありそう(推測)。

メインアウトプットのハードウェアボリュームは右に回し切るとやや増幅になるようで、バランスライン(出力はシグナルレベル+10dbuで入力は+4dbu、300Ω出しの20KΩ受け)をフルテンで純正ASIOドライバ経由でループバックすると、-10dbFSのサイン波が-2.9dbFSくらいになって返ってくる。シグナルレベルの差を考慮すると1dbちょっと増幅されている計算になる(200、1000、5000Hzのサイン波でテスト、突入応答の乱れは無視:インピーダンスによる損失は大したものでないはず)。ハードウェアボリュームのないLINE3~6でもやはり1.1dbくらい大きく返ってくるため、この1.1dbはヘッドルームのようなもの(0dbFSギリギリ狙いで録音しようとしたときに、入力ハードウェアの側にまったく余裕がないのでは困るから、0dbFSを許容入力よりもやや低く設定してある)で、ボリュームツマミでの出力側の増幅は6dbまでだろうと思われる(憶測ばかりだが、これ以上はオシロスコープでも使わないと調査が難しそう)。ボリュームカーブは全開(5時)を0dbとして、3時で-4db、12時で-17.5db、9時で-34dbくらい。

実用上は、ハードウェアボリューム12時(0dbFSをバランスでループバックするとヘッドルームが10db強になり、msiのような「暴れる」ソースを食わせても2dbくらいは余裕が残る)前後を常用域にする前提なのだろう(その設定でインパルスとランダムノイズとサイン波をモノラルループバックした結果)。なお、アンバランスライン(入出力ともシグナルレベル+2dbV、150Ω出しの10KΩ受け)もループバックすると1dbくらい大きく返ってくるが、同じ条件でPADなしゲイン最小の楽器入力(最大レベル+14dbv、1MΩ受け:マニュアルの誤植でないとしたら+11.5dbV相当)に戻すと10.5dbくらいゲインが落ちる。ということは、楽器入力には上記のヘッドルームを設けていないのだろう(マニュアルの表現も「最小ゲインによる最大レベル」であって「シグナルレベル」ではない)。ヘッドフォンの最大出力が「0dbv into 32Ω」なのはわかりやすい(換算すると31.25mW@32Ω:対応は「24 to 600Ω」)。

その他

バスパワーでもいちおう動くが、ACアダプタを使わないとレイアウトのよさが生きない(入出力が1-2と7-8しか使えない)のでもったいない。デジタル入出力だけ使う場面がないとも言い切れないが。

アンプがやたらと入っている(多分)割に筐体が熱くならない。上面の窪みはスリットではないようで、パネル全体から熱を逃がしているのだろう。

筆者のサブマシンはいわゆるネットトップで、最低システム必要条件ギリギリだが、重い処理をぶん回さない限り音切れなどは生じていない(ただしクロックをexternalにしてデジタル接続していると、パソコン上で少し重い処理をしただけでジッタが出る:いづれにせよ筆者にとっては無問題)。接続がUSB(パソコンにある程度の余裕がないとキビキビ動かない)なので限界負荷ではPCI(e)やFireWireよりも不利なはずだが、筆者の意見としては、大切な録音は専用ハード(ハード版Pro Toolsのような形態を含む)でやるべきで、利便性を優先したのは案外スジがよい選択のように思える。

ノンリニア中心の環境だとモニタ出力のマイクロフレームが1つや2つドロップアウトしたところで大問題ではなく、USB接続の信頼性がデメリットになるのは録音だけだろう(センドリターンでエラーが出たらリトライすればよい)。しかし録音に関しては、非常に静かなサブマシンを使える利点が大きく、すでに触れた専用ハードでの録音と使い分ける運用も便利で、総合的にはメリットが上回っているように感じる(録音に使えるくらい静かでFireWireポートもついたパソコンがあれば、パソコンに任せる録音の範囲が少し広がるだろうが、2011年5月現在のラインナップだと、FireWire接続でFast Track Ultraほどレイアウトが優れた機種は見当たらない)。

追記:2011年末くらいで生産終了になってしまったようだ。こんなに優秀なデザインなのにもったいない。さらに追記:2012年にM-AUDIOがinMusicに売却され、Fast Track系の製品だけAvidの管轄に残したらしい。譲渡後のM-AudioはM-TRACK系の機種に専念したいように見える。筆者が欲しかったスペックの製品(ADAT以外)はAvidがMbox Proとして出してきたが、業務用機なのでお高い。ベリさんのFCA1616は3万円ちょっとで出てきた。

2023年追記:筆者の手元ではWindows11でも、FastTrackUltra_6_1_10_Windows.exe(MD5=f4a584d30edf83e9fe0c162e084545ba)がインストールできて動作に問題はない模様(44.1KHzサンプリングでないと24bitデータを扱えないみたいだけど、16or32bitなら96Kでも88.2Kでも48Kでも大丈夫なので、実用上の支障はない:これって前からそうだったっけ?たしか前からだったような気がするけど記憶が定かじゃない)。Fast Track Ultra Control Panelも(コントロールパネルからと"C:\Program Files (x86)\M-Audio\Fast Track Ultra\Panel.exe"の直接アクセスの両方から)使える。こんなに素晴らしい基本性能とレイアウトを持った機種なので、所有している人には末永く使ってもらいたいものだと、願わずにいられない。



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