安いマイクについて。以下、25cmくらいの距離を「ややオフ」、5cmくらいの距離を「オン」とする。なお安くないマイクについては、機材コーナーのマイクのページで少し紹介している。
重要な情報:
この記事は筆者が購入した個体に関するもので、その後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。
PA用と録音用で必要な性能が異なる。PA用(とカラオケ用)の場合スピーカの音が常に被ってくるが、マイク録音(や放送)は普通ヘッドフォンモニタでやるためほとんど問題にならない。また録音では(プレイヤーによって「よく動く」人もいないではないが)演奏中の動きが少ないため、角度や距離による音の変化をある程度許容できる(上達すると、積極的な音作りに活用できる)。また、PAの場合録音ほど頻繁にマイクを取り替えられないという事情もあるし、録音用マイクにはハンドマイクで使われることを想定していないものもある。
指向性について、録音用マイクは単一指向性(カーディオイド)が一般的で、背後(マイクから見て奏者と反対側)に対する感度が非常に低くなる(音声ノイズ源を背後に集めると良好な録音ができる)。それよりもキツい指向性(スーパーとかハイパーとかウルトラとか鋭とか超とかいった接頭辞がついているもの)だと、横からの音などを拾いにくくステージ用(ただしモニタがサイドフィルの場合:いわゆるコロガシを使う場合、かえって使いにくいことがある)に適するが、変な方向に感度が出たりマイクの正面を外すと特性が大きく乱れたり近接効果(マイクに近いほど低音が強調される)が強く出たりして、初心者が行う録音には使いにくい。無指向性マイクでは上記のような現象が起きないので、雑なマイキングでも出音が安定しやすいといえる(低音の方が拡散しやすく、距離の影響がまったくなくなるわけではない)。
マイクのゲインについて、海外メーカーの製品を中心に、カタログ値がやけに低いものがある。もしかすると単位がdbV/PaではなくdbV/Ba(Baはbaryeの意で、1Ba=1μbar=0.1Pa)なのかなとも思うが確認できない(もしそうだとしたらカタログスペックに20足してやればよく、実測値ともだいたい一致するような気はする)。まあいろいろと事情があって、カタログスペックの「感度」は最初から参考値に過ぎないもので、結局のところ使ってみないとわからないのが実情。少なくとも筆者の手元では、AT-VD3(-55db)とCM5(-73db)を並べて同じ設定(フルテン)のミキサーに繋ぎテキトーな音声を入れても、出力が18dbも違うなんてことはない。
また「感度の高いマイクは小さい音も拾う」というまったく的外れな説明が頻繁に見られるが、正しくは「アンプなどと合計した入力換算ノイズが小さいマイクほど小さな音声まで記録できる」と「録音したい音源との距離が長くなるほど、それ以外の音源が相対的に大きく録れる」である。宅録で部屋の音声ノイズが問題になっているなら、できるだけオン(近距離)で使えるマイクを選ぶべきであって、感度は普通問題にならない。指向性による音声ノイズ対策については、単一指向性マイクを使ってノイズ源を1方向(マイクの背後)に集めるのが無難である(すでに触れたように、指向性がキツいマイクは斜め後ろなどいやらしい方向に半端な感度が出る)。
ローエンドのヴォーカル用マイク全般として、俗に「カラオケマイク」と呼ばれる機種には無加工で使いやすい音を目指したもの、ミキサへの接続を前提にしている機種は加工のしやすさを重視しているものが多いが、あくまで傾向に過ぎない。比較的フラット志向のものも一部ある。慣用として「ダイナミックマイク」と呼ばれている機種は「ムービングコイル式」という構造がほぼ100%。
棒状のマイクは、グリルボールorヘッドケース(網やスポンジ)、メインユニット(コイルやコンデンサで音を拾う部分)、胴(ハンドマイクなら手で持つ部分:出力トランスや、コンデンサマイクの場合プリアンプが入っていることが多い)に分かれるものがほとんど(ネジになっているのが普通:メインユニットと胴を付け外しする必要は普通ないが、もしやるときは配線をねじ切らないように注意)。
ハウリングに強いマイク弱いマイクというのは、厳密に考えると存在しない(ムリヤリこじつければ、マイクスタンド経由で音を拾いにくい方がハウリングしにくいものの、それが実用上問題になるようなマイクはショックマウントにするのがスジ:ただしマイクスタンドはマトモなものを使おう)。たとえばエレキギターでは反響の豊かなボディのものほどハウリングしやすいが、これはようするに外部の音波に対する反応が大きいからそうなるのであって、マイクの場合は外部の音波に対する反応=感度である。マイクを使っていて、本来収音したい音声が十分拾えないのにハウリングが起きるということは、最初からムリな増幅量を望んでいるのでなければ、拾いたい音を外した周波数にピークがある=つまりマイクの選択やセッティングが間違っているということである(収録場所の音響特性も強く影響する)。
もちろん、感度のピークが鋭いマイクほどハウリングのマネジメントが難しくはなるが、それは性能というよりは音色やキャラの領域の話になるし、使わない領域にピークがあるならフィルタで止めればよい(PAの場合、なんでもなくても使わない帯域は普通止めておく)。マイク本体の物理的共振によって意図しないピークができることもあり得るが、もしそれが1KHzくらいの周波数なのだとしたら17cm、5KHzなら3.4cmくらいスピーカとの距離を変えると、急にハウリングしなくなるポイントができているはずである(マイク本体の共振がスピーカからのフィードバックと逆相になり、ハウリングを止める方向に働くため:スピーカやマイクを動かしたくないならデジタルディレイを入れればよい)。また当然、あるマイクに最適な(マージンギリギリの)セッティングを出してからマイクだけ替えると、容易にハウリングする。
そもそも、ハウリング防止が困難な課題になるのは低域の音(とくに80Hzくらいから下を拾わなければならない場合は非常に厄介:この領域が相手だと、近接効果が強く出た方が有利だったりもする)で、高域はデジタルディレイだけ噛ましておけばそう大きな問題にはならないことが多い(自前機器で簡易PAをやる場合、ワークステーション系デジタルMTRを使うと単機でいろいろ小細工できて便利:低域でハウリングが起きた場合の悪あがきとして、ハイパスフィルタの次数を上げて位相を回すこともできる)。
オーディオテクニカのAT-VDシリーズは無加工でも使いやすい音。録音ならややオフで使った方がよい(吹かれに弱いのと、音のバランスの両方の意味で)。ほぼヴォーカル専用。アンバランス(不平衡)で、キャノンメス<>モノラルミニのケーブルと、ミニ<>標準のアダプタが付属している。筆者が所有するVD3は、ハンドリングノイズには強くないが無加工でもヴォーカル用に使いやすい音色。VD4とVD5がハイパーカーディオイド、VD3とVD6がカーディオイド。
マイク入力がキャノンのみの機器に繋ぐ場合にケーブルが別途必要なくらいで、取っ付きやすさはかなり優れている。F-Vシリーズもそうだが、キャノン<>モノラルミニのケーブル(別売だとあまりない)がついているので、パソコンへの直接接続も考慮している場合には便利である(標準<>ミニのアダプタもあるが、プラグ部分が長くなるので機械的な強度がちょっと心配だし、ケーブル<>アダプタ<>ケーブルの構成をワザワザ作るのもメンドクサイ)。ただし、2011年6月現在のモデルはプラグインパワー対策がなされていないことを覚えておいた方がよいだろう。
ソニーのF-Vシリーズは、AT-VDシリーズと比べるとフラットで加工しやすい(同じシリーズでも傾向が違い、420と820は忠実志向、320と620は最適化志向らしい:筆者は420しか所有したことがないが、アコギがけっこう普通に録れたので、それなりに素直なのだろう)。プラグインパワー対策がなされているようなので、AT-VDシリーズよりもいっそう気軽に使い回せる(ただし「仕様上ステレオマイクしか使えない機器」でも使えるわけではない)。
下位機種の320以外はキャノンメス<>モノラルミニのケーブルと、ミニ<>標準のアダプタ付属で「不平衡型(平衡接続可能)」となっており、420の紹介文に「外部ノイズの影響を抑える平衡接続が可能な、キャノンコネクター採用」とある。トランス出力で付属ケーブルではコールドをグランドに落としているという意味なのか、インピーダンスバランスにしてあるのか、グランドを浮かせているのかよくわからない。
サウンドハウスがクラシックプロブランドで売っているマイク。ケーブルは付属しない。マイクホルダーは付属するがチャチなので、筆者はSM58付属のものを使っている。手元には2本しかないが、個体差は大したものではない。キョーリツがCUSTOMTRYというギター用小物ブランドで扱っているCM-2000とほぼ同じ構成だが、ネット上の断片的な情報を突き合わせてみたところ、どうやら別のモデルと考えた方がよさそうである(現物はまったく確認していない)。また価格を考えると、同メーカーからのOEMだとしても片方が選別品ということは考えにくい。
改造関連の記事がいくつか見つかるが、手元でもいろいろ試してみたところ、グリルボール交換と胴への詰め物は効果があった(これ以上手を入れるのはオススメしないし、筆者自身もこれ以上やるつもりはない:「効果があった」とした2点についても、出音が激変するようなことはなく、より用途に合った「ズボラなキャラ」に近付けたいとか、録音源以外にごく大音量の音源がある(ようするにPAで使う)場合に共鳴しやすい部品があるとキモチワルイとか、そういう理由でやっているだけである)。
グリルボールは、完コピを目指したのかSM58と同じ形状(少なくとも筆者の手元では互換性がある)なので、取り替えてしまう(高域がやや鈍る代わりに吹かれ強くなる:もともとハイが過剰気味のキャラなので筆者はデメリットに感じなかった)。SM58の純正グリルボールはRK143Gで、サウンドハウスなら1000円もしない(クラシックプロから58GRILLという互換品も出ているが、価格的なメリットがあまりない)。胴はSM58のように樹脂で埋めればよいのだろうが、丸めたトイレットペーパーを詰めるだけでも気休めにはなる。
上記2点だけ手を入れれば、性能的な不満はほとんどなくなる。オンにしても比較的安定した音が録れるし、無加工でのバランスも悪くない。カタログスペックでの感度が低い(-73db)が、オンマイクが得意なのでそれほど気にならないし、実際に使ってみると極端に低い出力ではない(筆者の手元の他のマイクと比較すると、どーも-73db/Ba=-53dbV/Paなんじゃないかという印象)。ハンドマイクでの性能も(とりたてて優れてはいないが)無難。製品全体のデザインとしては、録音がメインターゲットのように見受けられる。AT-VDシリーズほどガチガチのヴォーカル特化でない点を、中途半端と取るか汎用性があると取るかでも評価が変わると思う。
最初から使い方を決め打ちしたような感じが(筆者の印象では)あまりせず、とりあえずこのマイクを試してから方針を検討する使い方も面白そう。
BEHRINGERのUltravoice XM8500は加工向きの印象。クセをあえて強調するのか補正ベースに使うのかで、やや扱いが変わると思う。
低域がガッツリ持ち上がっているのと、グリルボールを交換したCM5よりは吹かれに弱いので、普通の録音ならややオフで使った方がよさそう(あえて思い切りオンで使うと、クセを強く出せる)。ヴォーカル特化っぽい印象。マイクホルダーは付属するがチャチなので、筆者はSM58付属のものを使っている。出音はSM58との類似がたびたび指摘されるが、CM5と違って部品の互換性はない。やはり胴が空洞なので、なにか詰めると高域のクセをある程度殺せる(この空間はもちろん、出力トランスやハイパスフィルタなど改造回路の収納スペースとしても使える)。
これもカタログスペックでの感度が低い(-70db)が、やはり、実際のゲインはそんなに極端なものではない(筆者の手元の他のマイクと比較すると、-55dbV/Paくらいかなという印象)。ややオフで使いたいので完全アナログ環境だとマイクアンプを選ぶかも(どこかにデジタル区間があるなら、そこでデジタル増幅してしまえば問題ない:アナログ環境でも、ダイナミックレンジを上に広く使うなら40dbくらいのゲインで間に合うはず)。詰め物をすればハンドマイク性能は良好(ただしSM58ほどの図太さにはならない)。無加工での使用は完全に無視して、ミキサーなどで補正する前提なのだと思う(低域と中高域を削って音を作ることになるので加工がスムーズ:ブーストで音を作るよりずっとラク)。
オンで使うと面白い音が録れるので「アレ試してみっか」という状況がけっこうありそうに思える。
JTSという台湾メーカー(本業はコンデンサマイクとヘッドフォン/イヤフォンとワイヤレスシステムみたい)の製品で、名前からしてSM57のパチモノだが、見た目が非常にソレっぽい。2011年6月現在、公式サイトにはPDM-57のページがない。なおこのメーカーは、TX-9というPG81のパチモノなんかも作っている(ローエンドのコンデンサマイクはなぜか電池動作対応)。
マイクホルダーと、なぜかキャノンコネクタのケーブルもついてくるが、どちらもあくまでオマケ。お約束どおり胴が空洞なので筆者は詰め物をした。この手のマイクはローインピーダンスのものが多いのだがPDM-57は600Ω、感度は資料が見つからなかったので並べてテストしたところAT-VD3やXM8500と大差ない感じだった(ついでにスペアナにもかけたところ、6~12KHzくらいがXM8500よりもやや強めに出ていた:ヘッドの仕様を反映しており予想通り)。
現在手元にこのマイクのメインターゲットになる楽器(アコギやスネアドラムやギターアンプなど)がないので、まだちゃんと試していない(ヴォーカルやエレキギターの生音などを拾ってみたところ、クッキリ系の音でロールオフも使いやすい印象、ヴォーカルはやや軽くなる)。ハンドリングノイズや吹かれには弱いが、そもそも手で持ったり吹いたりするマイクではないので、気にしないのがよさそう(スタンドを使う場合、詰め物さえすれば筆者が気になるほどの不都合は出ていない)。
この項はそのうち書き足す予定(筆者の「そのうち」は年単位になることがよくあるのであしからず)。
BEHRINGERのC-1は非常に安価な16mmダイアフラムのコンデンサマイク。単にコンデンサマイクという種類のマイクに触ってみたいだけなら、入門用としても普通の使い勝手を考えてもC-2の方がよいと思うが、ベリさんだけに「ちゃんとコンデンサマイクしてる」のがニクイ。
安価なので気軽に持ち歩けて、出先への持ち込み用にちょうどよい。そこそこの環境で使えばコンデンサマイクとしての性能を普通に発揮するが、宅録での利用は(この機種に限らず、コンデンサマイク全般で)メンドクサイ。
だいたい、自宅で使うとなると
また録音用コンデンサマイクは普通、隣でモニタスピーカを鳴らしながらの使用を想定していないので、もしモニタを返すならヘッドフォンが必要になる。オープンエアー式ヘッドフォンの音漏れ程度でもマイクに接近しすぎるとハウリングすることがあるので注意(マイクの性能が問題なのではなく、オフで使っているマイクの至近距離にフィードバック源を持っていけば、距離減衰が大きく変わりループ全体のゲインが急上昇するため、どんなマイクでも簡単にハウリングする)。C-1の場合マイク本体が壊れてもさほど痛くないかもしれないが、アンプやヘッドフォンが壊れる可能性もあるし、耳を痛めたら元も子もない。
さらにマイクホルダーが専用品(ボックスシェイプの機種はたいてい専用ホルダー)なので、出しっぱなしにする場合マイクスタンドを1本占領する。かといって使うたびに外すとなると、
ただし、小型のパーカッションや吹奏楽器など「宅録したいがダイナミックマイクが適さないソース」があるなら、多少面倒でも自宅への導入メリットはある(やってみてデメリットが大きく上回っても、諦めがつく価格なのが嬉しい)。実際に試す場合は、音声ノイズの遮断や反響のコントロールを入念に行いたい。
冒頭でも触れたように、普通の使い方としては出先への持込用が有望そうに思える。また価格の安さから、初心者がコンデンサマイク使いたかったらスタジオに行けということを学習するための教材としてもうってつけである。マイク自体の特徴としてはハイをのっぺりと持ち上げてあり、C451Bの高域のクセを極端にしたような感じ(普通に使うなら、5KHz中心の1oct幅で3dbくらい削りたい:新参メーカーの中では「コンデンサマイクです」的なわざとらしさはまだ薄い方だと思う)。また基本的にはヴォーカルに使うマイクではない(ヴォーカルに使いたいならオーディオテクニカのAT2010か、安いものが欲しければSAMSONのC05がある:どちらも筆者は持っていない)。
重要な情報:
以下当て推量で適当なことを吹いているので話4分の1くらいに。
C-1Uという派生機種があり、USB接続(説明書を読む限りUSB2.0のようだ)になっている。これなら(スタンドが必要なのはしゃあないとして)ファンタムをかけたり電気が抜けるまで待ったりといった手間は省ける。詳しい仕様がわからないのでなんともいえないが、少なくとも、いわゆるPCマイクと普通のマイク(マトモなマイクアンプに接続したC-1を含む)の中間くらいの性能は出そうなので、少ない手間でコンデンサマイクを使いたい場合の選択肢としてはアリかもなぁと思える(ただし、モニタをどういう経路で取るのかは事前に確認しておいた方がよい)。
ここまでに紹介したヴォーカルマイク(AT-VDシリーズ、F-Vシリーズ、CM5、XM8500)に限定して、こんな条件ならこれを使いたい、と筆者が思う例を挙げてみよう。入力ソースは筆者の声で、CM5は詰め物とグリルボール交換、XM8500は詰め物をしてある前提。
AT-VDシリーズを使いたいのはカラオケ。無加工でもそれなりに味付けされつつ破綻のない音が出る。ライバルはCM5だが、まるっきりの無加工だとAT-VDシリーズの方が濃味である。
F-Vシリーズを使いたいのは放送(ポッドキャストとか)。素直な特性でゲインが比較的高いのがポイント。プラグインパワー対策がなされているのも用途的にはプラス。次点はCM5だろう。
CM5を使いたいのは録音。トータルバランスのよさが出そう。ライバルはXM8500だが、使い方の幅ではCM5が勝っていると思う。もちろん、他のマイクの方が便利な場面はいくらでもあるだろう。サクっと録音に取り掛かれるように、筆者はマイクスタンドに乗せっぱなしている。明確な苦手がないので使い回しがききやすい。
XM8500を使いたいのはハンドマイク。試していないが、ブルースハープに使っても面白いかもしれない。本来オン~ややオフで使うマイクだろうが、ロールオフが大げさでなく指向性もほどほどなので、筆者はつなぎっぱのオフマイクとしても使っている。まっとうな使い方ではなくウルトラハイノイズになるが、小声でフレーズを歌っても、エレキギターを生音で鳴らしても、なにをやっているのかわかる程度の音で録れる(ハウリングしやすい使い方なので、真似する人は返りをなしにすること:オマケ3にサンプル音声がある)。
PAにどれか1つ使えと言われたらけっこう困るが、ヴォーカル用ならAT-VDシリーズ、見えないところからのアナウンスならF-Vシリーズ、ハンドマイクならXM8500、全部の用途を1本だけで賄えと言われたらCM5だろうか。
重要な情報:
以下は未確認情報と推測をごちゃ混ぜにしたものです。
マイクにケーブルテスター(CT100)を直結(故障などの可能性が高いので、よい子といい大人は真似しないように)していろいろ調べてみたのだが、筆者の手元のAT-VD3とCM5とXM8500とPDM-57はいずれも「ホット(XLRの2番)とコールド(XLRの3番)にDCの導通がある」という結果になる。
ホットがコールドに落ちているわけがない(もし落ちていたらバランス受けの機器に繋いだときにゲインがゼロになる)し、ホットとグランドに導通がないのも妙だと思い中を覗いてみると、CM5とXM8500ではメインユニットからの配線が2本出し(2番ホットの3番コールド)で、XLRの1番ピンはシャーシに落ちている(ように見える)。ようするに、
こんな回路の「出力トランス」のところを「ボイスコイル」に取り替えた構造になっている(上記は、その他のページに掲載した「グランドリフトしたバランス伝送」の図:だだし実際には受け側の機器が自前のグランド電位を持っていることに注意)。
よく考えたもので、バランス受けの機器に接続すると単なるグランドリフトになる一方、コールドをグランドに落としても普通に機能する(ただしコールドを浮かされたり、ホットとコールドでショートさせられたりすると困る)。ファンタムをかけられた場合も、とくに問題になるようなことはないはず。プラグインパワーに対しては、電圧をかける側の仕様による(ホットとコールドに同じ電圧を印加してくれればDCは流れない)。コモンモードノイズにもある程度(少なくとも、網をかけた縒線で送れる分、シールド兼グランドとホットの同軸で送るよりは)強いはず。
回路として見ると(電圧ではなく)電流がバランスした形(直列に繋がった回路の往きと復りなのだから、逆方向に同じ電流が流れているはず)になっており、ホットとコールドで入力インピーダンスが同じなら電圧もバランスするでしょうと、そういう発想のように見える。素人考えには、普通にグランドとの電位差をバランスさせたときと比べて大きなデメリットはなさそうに思われる。またミドルレンジ以上のダイナミックマイクにも、同様の回路になっているものがある(仕様が明記されている例ではオーディオテクニカのATM25など:低音用マイクなのでトランスの損失を嫌ったのかもしれないが、実際の理由は不明)。
またCT100からテストトーンを流してみたところ、4機種すべてでボイスコイルがスピーカとして機能する(ダイナミックマイクとして機能するのだから当然ではあるのだが、ホットとグランドの電位差ではなく、ホットとコールドの電位差で音が出ている:CT100の詳細な仕様はわからないものの、テストトーンはホットだけを駆動するので、コールドとグランドは同電位になって(=コールドがグランドに落ちて)いるのだが、コールドを浮かせてホットとグランドだけに電位差を作ってもスピーカ動作はしないはずだということが言いたい)。
今回調べた中ではPDM-57がちょっと変わっていて、メインユニットからの配線が3本出しになっている。浮いている線をわざわざ繋ぐとは考えにくいので、コイルの中点をグランドにしているのかもしれない。もしそうだとして、筆者の素人考えではCM5やXM8500のような半バランス(電流バランスでもいいけど)の方がメリットが多そうな気がするが、特性的になにか有利なこと(またはあえて不利にしたい理由)でもあるのか、それとも特許がらみの制約でもあるのだろうか。
ついでなので、いわゆる「パソコン用マイク」も試してみた。ネットをざっと眺めて、えらく評判がよかったソニーのECM-PC60とえらく評判が悪かったエレコムのMS-STM87SVを購入(どちらもプラグインパワー専用のエレクトレットコンデンサマイクで、MS-STM87SVは「PC/AT互換機」専用)。ヨドバシに合計4500円くらい払ったのだが、比較ネタだけのための出費にするにはちょっと痛いので、放送音声コーナーをムリヤリでっち上げてみた。
この2つを比較すると、PC60の方が明らかにローノイズで鳴りも素直だが、STM87SVも評判ほど酷くはなく、2000年ごろ普通に売られていたテレコ用外付けマイク(たとえば筆者の手元のCM-TS22)やイヤフォン一体型マイク(筆者の手元のものは型番不明:hgwのパーツ箱で眠っていたのをもらった)などと比べればけっこう優秀。とはいえ、PC60なら声が極端に変わるようなことがない(いわゆるナローレンジな音にはなる)一方、STM87SVはカサカサした音になる(これもCM-TS22などの特徴と似ている)。しかしどのメーカーも「ダイナミックレンジ(S/N)」みたいな表記をするなら最大入力時の入出力レベルも併記するのが筋ってもんではなかろうか(もしくは「1Pa入力時のS/N」を表示するとか、入力換算でノイズフロアを表示するとか:本気系の製品なので比較にならないが、AKGの表記は実に親切である)。
実験しようと筆者のサブマシンをチェックしたところ、マイク入力は固定ゲイン(マスターボリュームのみ調整可能なので全開に設定:というか録音可能ソースがマイクとミキサーだけなのでマスター以外不要)で、ケーブル未接続だとマイクブーストありでもなしでもピーク-67dbFSくらいのノイズフロアがあった(どうもどこかにリミッターが入っているようで、マイクブーストなしでのクリップレベルは-1.5dbFS付近)。マイクを接続すると、PC60でもSTM87SVでも、マイクブーストなしで-40dbFS、ありで-20dbFSくらいのノイズフロアになる(PC60の方が3dbくらい優秀)。筆者のサブマシンでは録音マスターボリュームを全開にするとかなりの増幅が行われるようで、音量オーバーさせるくらいならボリュームを絞った方がよい。
マイクブーストを入れたときに、マイク未接続だと変化がほとんどなく、マイク接続があるとノイズフロアがそのまま20db持ち上がるということは、部屋>マイク>マイク内蔵のプリアンプ>マイクケーブルまでのどこかが、おもなノイズ源だろう(ノイズのスペクトルも分析したところ、両方の機種で、どうも内蔵プリアンプが犯人っぽい)。PC60の方がSTM87SVよりも8dbほど感度が高く、ノイズフロアが3dbほど低いので、どちらもクリップしない範囲で比べるとPC60の方が11dbくらいノイズが少ないということになる。反対に、STM87SVのカタログスペックである「S/N比 50dB」(2011年6月現在メーカーサイトには表記がないが、製品パッケージに表示されている)を鵜呑みにするとノイズフロア+50dbくらいの入力に耐えるはずだが、録音レベルを絞って大声を入れるにしても、ポップガードもなく使用環境もスタジオではないため限界がある。
ということで、PC60はSTM87SVよりもかなり使いやすい(まあ値段が倍も違う製品を比べる時点でアレではあるのだが)。出音も素直だし無指向性で扱いやすくサイズも非常にコンパクトである。ただし、マトモなマイクアンプにつないだ普通のダイナミックマイクとはやはり比べものにならない。PC60はエレキギター(生音)から10cmの口元から30cmくらい、XM8500(XENYX 1204USBのマイクアンプ使用:チャンネルはトリムとフェーダーともにフルテンで、マスターでレベルを下げている)は顔から70cmくらいのオフマイクで同じ演奏(ものすごく弱いピッキングかつものすごく小声)を録音してみたが、むりやりオフで使ったXM8500と比べてもかなり厳しい(PC60はマイクブーストオンで13dbくらい、XM8500は27dbくらいデジタル増幅してある:XM8500は利便性優先でごちゃごちゃしたルートを通しているため、シンプルに繋げばもっと差が開くはず)。
このサンプルはごく小音量の入力で実験したものであり、実用的な音量なら(どちらも)もっとローノイズになることに注意して欲しい。たとえばPC60をオンマイクで使うとこんな感じ。アナウンスで普通に使うくらいの(=声のデカい人が周りを気にせず電話するくらいの、日常会話よりは明らかに大きい)声を5cmくらいの距離で録音した(マイクブーストなしで、録音直後のピークは-11.2dbFS、デジタルでハイパスとノーマライズとフェードをかけてある)。加工後のダイナミックレンジ(最大音と最小音の比)は40dbくらい。コンプがかかったような波形にも見えるが、筆者はかけていない。
ダイナミックマイクであればマイクブーストが普通に機能するので、オンボード直結でもPC60のノイズレベルはAT-VD3やCM5よりも高い。吹かれ弱い(なにしろ相手はちゃんとしたグリルボールを装備している)ことも合わせて考えると、会話向けに味を付けた特性が欲しいとか近接効果(指向性マイクを近距離で使うと低音が強く入り、補正の手間が必要になる)が邪魔といった事情がないのなら、PC60に性能的なメリットはあまりない。
なお、いわゆるUSBマイク(やUSB接続の簡易マイク入力など)は、ある程度以上のグレードのものでないとちょっとやっかいである。大電力を消費するUSB機器(モーターがついているものやアンプが入っているものなど)はUSBのグランドを強く揺らすことがある(機器のせいなのかホストアダプタのせいなのかは知らない)ようで、オーディオのグランドとUSBのグランドをキッチリ扱っていない機器ではノイズをもらうことがある模様(ちゃんと確認したわけではない)。じゃあどの程度のグレードなら安心かと言われると困るが、1000円くらいで(録音機器ではなく)パソコン周辺機器として売られている製品については、誰かに借りて実際に動かしてみるなどの確認をするとよさそう(もちろん、500円でも300円でもちゃんとした製品はあるだろうが、可能なら試してみてた方が間違いなく無難)。
電力が豊富な分と入力音声から出力デジタルデータまでを決め打ちできる分、単純なPCマイクよりは有利なので、面白そうな形式ではあるのだが(あとはアンプとUSB変換部分がコストをどれだけ圧迫するか:当てずっぽうに過ぎないが、PC60相当のマイクユニット+ボリューム付アナログアンプ+USB変換なら5000円くらいにはなるんじゃなかろうか)。マイクレベルの信号をパソコンの中に突っ込まないで済むメリットは、上記の実験結果から薄いと推測できる(マイクユニット内蔵のプリアンプがボトルネックなのだとしたら、それより後ろをどうこうしてもあまり意味がない)。また、モニタ方法に制限がある(パソコンに入れた後の音しかモニタできない)機種が大半なので、いちおう注意しておきたい。
ムリヤリまとめよう。すでに触れたように、PC60もSTM87SVも機器に合った音量を入れてやればそこそこのノイズレベルで録音できるはずだが、その「機器に合った音量」が(STM87SVではとくに)大きく、自宅で使うことを考えるともう少し小音量域向けのデザインでもよかった気がする。録音サンプルのPC60はエレキギターの音を(距離が近い割に)あまり拾っていないが、人間の声に相当する周波数域の感度が高いのかもしれない。マイクアンプがある場合、放送用などで単純にグースネックが欲しいならオーディオテクニカのAT9930あたりでもよいわけだし、ファンタム仕様のラベリアマイクだってローエンドは5000円しないくらいからあるわけで、あくまでもマイクアンプが使えない場合の選択肢と考えるのが無難そうだ(そう考えると、PC60のコンパクトさは嬉しい:スチールラックの隙間を逆さに通して嘘ハンガーマイクにもしてみたが、オフで使うのはムリっぽかったのでやめた)。
せっかくまとめたが取り回しについても少し。いわゆるPCマイクはマイクスタンドが必要ないのが利点の1つだが、すでに触れたようにオンで使わないとダイナミックレンジを使い切れないので、セッティングがどうしてもぎこちなくなる(筆者はCP60の録音テストでヘッドフォンの空き箱を台座にした)。いっそヘッドセットのような形で頭にくっつけてしまった方が、動きも自由になってよいのではないかという気がする(ヘッドセット型は目立った製品を探せていないので未チェック:ローエンドで耳が痛くならないもの、というスタート地点からしてけっこうタイヘンなのよねぇ)。PC60なら、ブルースハープ用のホルダーに付属クリップでくっつけたらええんちゃうの、とちょっと思ったが、そのためにワザワザホルダーだけ買うのもねぇ。アレに似たものを自作するとか?