前回やったプレーン炒飯がなんとか作れるようになった、という前提で話を進める。炒めに必要な技術の半分近くはすでに習得できているので、知識や経験を補うことでどんどん幅を広げられるはず。いろいろな種類の炒飯を作りながら、中華の基本的な調理方法をいくつか紹介したい。
いきなりだが最初は具を減らす。技術的な事項の確認のためである。
卵がメインを張る(他は薬味のネギくらい)炒飯を一般に蛋花炒飯(タンホワチャオファン:ちなみに卵スープは蛋花湯、エビタマは蛋花蝦仁)というのだが、ここではさらに突き詰めて、飯と卵と油と塩だけで作る(蛋花塩炒飯という名前は筆者がさっき付けた:塩は鹽とも書く)。ぶっちゃけうまい料理ではまったくないが、ちゃんと炒めればまずくもならないし、炒めに失敗するとすぐにわかる(卵の香りが出ずにゆで卵みたいな匂いになる)。上手く作れなかった人は反省してプレーン炒飯から練習し直そう(腕が伴わないうちに卵だけ炒飯に挑戦すると、失敗の方が多くなって心が折れると思う)。
あんかけ炒飯の飯部分や、作り置きの炒飯種がこれと似たような構成だったりする。塩味はかなり薄めにしておこう。
エビが入った炒飯を作るのだが、大蝦というのはブラックタイガー系のエビ(大正エビとか)のことで、対蝦ともいうらしい。単に蝦炒飯と呼ばずわざわざ断っているのは、桜花蝦炒飯(櫻花蝦炒飯)という桜エビを使った別のメニューと区別するため。まあようするに日本人が「エビ炒飯」と聞いてイメージするあのエビ炒飯である。
ここで初めて上漿(シャンジャン:下ごしらえのことで、略してチャンとも)が出てくるわけだが、実は、エビのチャンはけっこう上級の技術である(正直に言うと、筆者は仕事でやったことがなかったりする:まかないで大蝦炒飯を作ったことは何度かある)。肉や魚介の上漿を極限まで抽象化すると「洗って絞って酒を吸わせる」というコンセプトで、食材に合わせて、洗うところで塩や片栗を使ったり、酒を吸わせるところでネギや生姜など香味野菜を使ったりといった工夫をする。油通しをするときは下味を薄く付けて卵と片栗の衣も付ける。なお、上漿粉(シャンジャンフェン)とかいう唐揚粉みたいなものも市販されているらしいが、筆者は実物を見たことがない。
材料は飯と卵とエビとネギで、エビは大きい方がよい。火力がものをいうメニューで、中華レンジでないと難しいかもしれない。
凍っている場合は解凍する。臭みが強いエビの場合はここで飽和食塩水や重曹を使うこともある(が、日本で売っているエビなら袋ごと水に漬けて差し支えないと思う)。背開きにして背ワタを抜き、塩もみして、ぬめりが出たら片栗粉と水を加えてもみ、しっかり水洗いして氷水で締め、布巾やキッチンペーパーなどで水分を搾り取り、塩コショウ酒(薄味に)をもみこみ、ぬめりが出たら(薄くまとわりつくくらいの量の)卵白を加え、馴染んだら片栗粉を(最終的にヨーグルトくらいの粘りになるよう)少しづつ加え、仕上げにサラダ油を垂らし、ひと混ぜ(ホントに軽く)して冷蔵庫で10分くらい寝かせる。卵と片栗を入れ過ぎると天ぷらみたくなるので注意(中が透けて見えるくらいの薄衣を目指す)。
馴染みのない作業が多いかもしれないが、エビのチャンには中華料理のコンセプトがよく表れている。というのは、味が抜けてもいいからまず臭みを徹底的に抜いて、風味が不足したら後から追加しようというものである。現在伝わっている北京料理なんかは元が宮廷料理なので、食材の使い方も富豪的だったりする。肉を水洗いして使ったりするのも、きっとそういう発想から来ているのだろう。
ポイントは、臭みがしっかり抜けるよう十分に塩もみすることと、氷水にさらした後(身が崩れない範囲で)キッチリと水分を搾り取ること、酒を十分に吸わせて水分とうまみを再補充すること。酒を吸わせた後に汁気が(残らないように心がけるが)残っていたら、捨ててから卵や粉を入れた方が無難。なお中華屋では、解凍や血抜きのために食材を水に晒す場合、ボウルに入れて水を細く注ぎっぱなしにするか、水を張ったボウルに放しては両手でザルに掬う作業を繰り返すことが多い(水で戻した乾燥キクラゲを洗うときなんかも同様:水の中で汚れをほろい落とすようなイメージで、カスが舞い上がらないようやさしく掬う)。
エビが落ち着いたら水分を吐き出す前に油通し。やや低めの温度で表面の水分だけを飛ばし吸い込んだ水分とうまみを閉じ込める(中を半生にしたいので大きいエビの方がラク)。金ザルかジャーレンに上げて油を切ったら高温の油でサっと炒めて表面を香ばしく仕上げ、また金ザルかジャーレンに上げておく。炒めた油はあとで使うので、水分を飛ばして器に取る。油通しができないorしたくない場合は、オイルスプレーで薄く油を付けてオーブンで焼けば似たような仕上がりになる。
この炒飯を上手く作るには、大蝦の上漿と鍋の手入れが非常に重要である。比較的低い温度で炒めるため、鍋の状態が悪いと仕上がりが悪くなる。反対に、下ごしらえをちゃんとやって鍋をしっかり焼けば半分勝ったようなものだったりする。
油を返したら少なめの油(皿に取っておいたもの)をやや低めの温度にして、やや少なめの溶き卵を鍋に(少なめとか低めと書いたのは、あくまで「プレーン炒飯よりは」という意味:油の温度は煙が少し出る程度)。膨らむのを待たずすぐに飯を入れ手早くほぐしたらひたすら鍋を煽る。中華料理にあまり馴染みのない人がぱっとイメージするような、煽りっぱなしの炒め方をするのだが、鍋を火から離さずに煽らないと(ガンガン煽っているわけだし)温度が下がりすぎてベチャベチャになる。マンジュウの手前の部分を支点にして、鍋を五徳から浮かせないようにするのがポイント(広東鍋なんかは、正しく持つと片手では持ち上げにくい作りになっている:正しくない持ち方で持ち上げちゃう人もいるけど)。
飯の表面の水分が飛んだらネギとエビを入れてやや薄味に味付け、また煽って馴染ませる。エビは別で味をつけてもよいのだが、塩分で引き出された水気を飛ばさなければならないので一緒の方が話が早い。仕上げ油はネギ油あたりがよいと思うがごま油でも差し支えない。盛り付けるときはエビをお玉で拾って、上に炒飯を被せて、皿に返すとてっぺんにエビを持っていける。
エビの殻と頭が残っていると思う。これを使って蝦油(シャーユ)を作ろう。作り方は簡単で、鍋にエビの殻と頭を入れ、浸るくらいの油(サラダ油でよい)を注ぎ、泡が弱く出てくるくらいまで熱したらそのままの温度をキープ、エビがカリカリになって香ばしくなるまで煮出すような感じにするだけ(加熱が終わったらゆっくり冷ましてから漉す)。だんだんと水分が少なくなっていくので、焦げすぎないよう火加減は適宜調整する。エビ油は仕上げ油として有用で、炒め物全般に使える。もちろんエビ炒飯に使っても悪くないのだが、エビの押しが強くなりすぎるというか、クドい感じになると嫌なので筆者は使わない(不思議なことに、カニ炒飯に使うとものすごく合う)。野菜炒めや、あんかけの仕上げ(化粧油)なんかにも使える。
同様の作り方でネギ油(ツォンユ)も作れるし、鳥の脂身とネギを(他の油を足さずに)じっくり加熱すると鶏油(チーユ:鳥油)も作れて、タンメンの仕上げにちょうどよい。この方法でチーユを作るとカラカラの鳥皮が残り、軽く塩コショウを振って食べるとツマミになる(動物性油脂を加熱で抽出した残りは、スクラッチとか油かすと総称され、珍味として親しまれている地方もある:肥料などに用いるいわゆる油粕は植物性で別物)。ネギ鳥エビあたりの油は既製品も売っているが、自分で作った方が風味よく仕上がるし、せっかくエビの頭が残っているのだから使った方がお得だと思う(ただねぇ、普通に作ると多すぎるんだよねぇ)。聞いた話だが、鶏湯を取るときに丸鶏を使って、浮いた油をチーユとして使う店もあるそうな。
ラー油はちょっと作り方が違う。菜種油で香味野菜を(テンパリングみたいな感じで)煮出して、取り出してから油の温度を上げ(170度から、流儀によっては200度という人もそれ以上(微妙に焦げる程度)という人もいる)、軽く湿らせた(普通は水だが、紹興酒やごま油を使うこともある)唐辛子にかけて作り、唐辛子は漉さない・・・のが本来らしいのだが、四川料理の店でもない限り油は普通のサラダ油(というかキャノーラ油)かごま油を使うし、比較的低い温度(160度くらいかねぇ、計ったことないけど)の油が入った中華鍋に乾いたままの唐辛子を入れ、一晩置いて漉すことが多い(と思う)。材料は、油が唐辛子の3~10倍くらい、花椒、葱・姜・蒜、ハーブ・スパイス・干物類、流儀によって油1カップに対し小匙1程度の塩、といったところ。スパイス類のところは膨大なバリエーションがあり、八角、陳皮、桂皮、干し小エビ、ローリエ、黒コショウ、フライドオニオン、五香粉といったあたりがメジャーどころか(唐辛子と花椒と葱と生姜しか使わないレシピもある)。
これはたしか福建の人の店で出していたものだったか、正確には覚えていないがとにかく筆者が修行しているときにどこかの店で食べたもの(を筆者が想像で再現したレシピ)である(醤油はジャンユーと読む)。
準備はプレーン炒飯と同じでよいが、塩の代わりに醤油を使う。だいたい、醤油大匙1で塩小さじ半分くらいの塩分だが、風味が強い調味料なのでやや量を控えめにする(中国醤油を使った方が仕上がりがよいのかもしれないが、普通の醤油で差し支えない)。これも強い火力が必要なメニュー(だってしょうがないじゃない、中華屋で作ってるメニューをパクって紹介してるんだから:家庭でも、4.2KWクラスのコンロと小さめの中華鍋と少しの技術があればモドキは作れる)。肉を少し多くするとボリュームが出る。
この炒飯は卵を溶かずに使う。油を返したらプレーン炒飯と同じように油を熱して、お玉に割り入れた卵を鍋に入れ、手早く卵黄を壊して混ぜすぐに飯、ほぐして炒めて、温度が上がったら煽って温度を下げ、また温度を上げては煽ることを数回繰り返す。少しパサっとしてきたところで具を入れて、醤油を(鍋肌ではなく飯に)さっとまぶして煽る。醤油を鍋肌から入れないのは焦げ過ぎるからで、中華鍋と中華レンジを使っている限り、わざわざ鍋肌から入れなくてもちゃんと焦がし醤油になる。醤油の水分が飛んだら白コショウをかけてひと混ぜ、仕上げ油はごま油でもよいが、エビ油を使うと風味が出る。醤油にグルタミン酸が含まれているので、味の素は必須でない。入れるとしてもプレーン炒飯よりさらに控えめに使おう。
油が切れる手前(完全に切れていると飯が醤油を弾かない)と醤油を入れるタイミングを一致させるのがポイントで、仕上げ油でトドメをさす。醤油を入れる瞬間に、水分は少なく、油分は飯の表面を薄くコーティングするくらい、温度は高め(あまりに温度が低いと醤油を入れたとたんに鍋にくっつくし、醤油の水分を飛ばすのにモタつくと粘りが出る)になっているよう調整する。軽い食感とやや濃いめの風味が両立できれば勝ち。醤油はお玉から入れないと混ぜるまでにモタついて一部の飯にだけ染みてしまうので注意(前のページで練習したのと同様、お玉に醤油を入れたまま混ぜ始めるような意識で:外側>中心>外側と往復する渦巻きの動きにするとやりやすいかも)。
黒っぽい色に仕上がるので、紅しょうがを添えたり、お好みによってはドライパセリなんかを振っても面白いと思う。炒飯とビールという(ちょっとゲテモノにも思える)組み合わせが好きな人にはもってこいだろう。醤油の風味がキツ過ぎると感じる人は、醤油を減らして塩を入れるか、風味の穏やかな醤油を使おう。
名前の通り、気合が入った炒飯である。
材料も作り方もプレーン炒飯と変わらない。ただ、温度管理を限界まで厳しくして、油が黒くなる寸前の温度をずっとキープし、なおかつ極力煽らないで作る。言葉で書くと簡単だが、生半可なことではなく相当難しい(これをいわゆる「半チャーハン」でやろうと思うともっと難しい)。火力は強すぎない方が無難で、1人前なら中華レンジの最大火力は必要ない(頑張れば最大火力でも作れるが、頑張ってもメリットがないと思う:よく手入れしたコンロで39cm鍋に1.5人前作るときで最大火力がちょうど快適なくらい)。
鍋の温度を高く保つと、それだけ蒸発する油が増える。すると最初に入れる油の量を多くでき、溶媒が増えると(絶対量に対する濃度が下がり)溶け出す溶質も増え、風味を濃厚にできる。さらに、いったん卵に吸わせた油をしっかり焼き飛ばすことにより、多めの卵を使ってもクドさを抑えられる。おそらくだが、卵を豪華に使うと油:卵:飯が1:3:9くらいになるんじゃなかろうか(1.5人前の分量で、油大匙2+油返しの残り+仕上げ油、卵M玉2、飯1合分で仕上がり400~450gとか、そんなもん)。筆者は最初ラードを使うレシピで習ったが、慣れたら大豆白絞かこめ油を使って肉から出る油が混ざるようにする。
なぜ煽らないのかというと水分を飛ばさないためで、煽ると油分よりも水分が先に蒸発してしまう(鍋を返すことまでは禁じ手にしない)。油が切れる寸前に具材と調味料を入れて混ぜ、わっと煽って塩分で引き出された水気を飛ばし、ごま油で仕上げる。
とにかく、卵の風味を油に移して、それを濃縮することに一点集中する。これを習得するには、何度も炒飯を焦がさなくてはならない(焦がして初めて「焦げる寸前」のラインがどこにあるのかわかる)。当然ながら、鍋と油の管理は万全である必要があるし、鍋の面積を有効活用してできるだけ多くの食材を高温に保たなければならない(狭い面積で熱すると、鍋肌に触れていない食材の温度が下がる)。鼻と目と耳に神経を集中させて、鍋に気合を注ごう。
実は、筆者が最初に習った(その少し前から仕事としての調理は担当していたが、改めて習った)炒め物がこの炒飯だった。今にして思えばとんでもないスパルタだが、苦労に見合う収穫は得られたつもりでいる。目鼻がつくまで何度炒飯を焦がしたか覚えていないし、当時は夢にまで炒飯が出てきたものだが、いい先輩に出会えて本当に幸せだった。
別の(チャーハンがメニューにあるが中華屋ではない)店での話だが、筆者が元中華屋であることを承知の上で「チャーハンを作るときはねぇ、煙が出てくるくらいまで油を熱くしてから炒め始めるといいんだよ」と教えてくれた、たいへん親切な人もいる(いちおう断っておくが、冗談で言っている雰囲気はまったくなく、真顔でこう言われた)。モノを識らないというのは本当に恐ろしいことだし、勉強しなくて済む環境に身を浸すと誰でもそうなってしまう可能性がある。
ともあれ、この炒飯を作れるようになる頃には、食材の香りや炒めるときの音に敏感になっているはずで、他の店で炒飯を食べると(厨房が見えない店でも)作り方がなんとなくわかるようになる。うまいものに出会ったら自分用の賄い(中華屋はルーズなので様子を伺いながらなら割といろいろできる)で試して、うまくいったらほかの人にも食べてみてもらって、どんどん幅を広げることができる。
あんかけにすることを燴(ホイまたはフイ)という(溜もあんかけだが、酢豚のようにソースっぽく使うものを指し、ちょっと異なる)。具を炒めてスープを入れて水溶き片栗粉で固めればよいのだが、これも中華に独特のやり方がある。ベースとなる卵炒飯は先に作っておく。アッサリした風味を重視するなら、全卵5:卵白1くらいの割合で卵白を微妙に増やしてもよい(とくに細工せず、このページの最初で紹介した具なしチャーハンと同じで大丈夫)。
具は、牛肉と青い野菜、シーフードと野菜(八宝菜みたいな感じにする)、カニ、小さめのエビなどいろいろあり得る。塩味が基本ではあるが、変わったところでは豚の角煮とか、マーボー豆腐やマーボー茄子をそのままかけたり、四川風にトマトなんてのもある。とりあえず牛肉(こま切れ)でやってみようか(あんかけの具や味付けについては、炒め料理ページの八宝菜の紹介も参照)。
チャンのポイントはエビのときと同様なので思い出しておこう。まず、赤い汁が(目立つほどは)出なくなるまで肉を水で洗い(というか、すすいでは水替えを繰り返す:ボウルに水を細ーーーく注ぎながら放置する手もある)、身が崩れない範囲でしっかりと水分を搾る。酒と醤油と酢を3:3:1くらいで混ぜて肉に吸わせ、卵(卵白でもよいし、牛肉は元が色黒なので全卵でもよい)をあえて片栗でコーティングし、油で仕上げ少し寝かせる。パイナップルの汁や刻んだタマネギで肉を柔らかくすることもあるし、エビと同様重曹で洗うこともあるが、こま切れ肉なら必要ないと思う。薄切り肉なら酒を吸わせる時間は15分くらいでよく、卵と片栗を入れすぎないようによりいっそう注意したい。
あとは揚げて油を切るだけ(薄い肉は油が切れにくいので、揚げ物シートみたいなもので吸い取ってもよい)。野菜も油通しをしておいた方が仕上がりがよいが、肉よりは低めの温度で揚げる。半分くらい火を通せばよく、余熱も合わせて7分目くらいの仕上がりになる。
まず具を炒めるのだが、炒飯を作るときよりは炒め始めの油温を低めにする。卵と違い野菜には自由水になる水分が多いので、温度が高すぎると燃え上がる。食材にはすでに火が通っており炒め時間が極端に短いので、油は少なめに使う(蒸発しないから)。また香爆をしておいた方が風味がよい。
ということで、油を返して少し煙が立ってきたらネギと生姜と叩いたにんにくを入れ、香りが立ったら具材を入れ、表面を焼いたらスープ(熱いもの)を加え、塩や酒などで味をつけ、沸騰したら水溶き片栗粉を入れる。香味野菜を取り出すタイミングは好みだが、食材を入れる前の方がトラブルが少ないと思う(取り出さない、という人も中国人を中心に一定数いる:筆者も自分しか食べないときは取り出さないことが多い)。
片栗粉はボウルに入れておき、左手で溶いて使うのが中華屋のやり方。水溶き片栗粉というよりは上に水が乗った片栗粉の状態で冷蔵しておき、溶くのは使う直前。3回くらいに分けて鍋に入れるのがポイントで、入れるたびに鍋を返しつつお玉でくるりと混ぜる(のだが、上手い人はお玉で混ぜなくてもキレイに仕上げる:筆者には真似できない芸当)。片栗でもココアでもホットケーキミックスでも、粉を使うときは少しづつ液体と混ぜるのが基本である。餡はほんの少しユルめにしておき、沸騰させて水分を飛ばすことで硬さを調整する(ただし、あまりしつこく沸騰させるとグズグズになる)。
ちなみに、左手で片栗や粉末調味料を取った後はお玉で水を掬ってレンジの上で洗う(というか漱ぐ)のが一連の動作になっているが、今になってよくよく考えると、片栗や粉末調味料を取る前に手を洗う人はまずいない。うーんまあ、左手は食材と鍋と調味料くらいしか触らないし、それ以外のものを触ったら石鹸で手洗いするし、生食する食材や作り置きする食材を触るときはやっぱり手を洗うし、どうせアホみたいな超高温で加熱調理するし、まあ大丈夫なんじゃないかと思う、きっと。
ともあれ、餡が程よい硬さになったら仕上げ油(化粧油)をたらしてひと混ぜ。やはりごま油が万能に使えるがエビ油も捨てがたく、シーフード系のあんかけには特に合う。ネギ油あたりを仕上げに使い乾燥桜エビなんかを乾煎りして乗せても、汁気のある餡とカリっとした食感の組み合わせが面白い。ラー油なんかもありだろう。スープが入るため使える調味料の幅が広く、醤油味にもできるし、オイスターソースやXO醤を使うこともできる。
そういう名前の料理があるわけではない。筆者が中華屋に勤めていたころ、横浜(のどこだか忘れたけど、たぶんJR横浜駅近く)に炒飯の専門店があって、そこが「五色」のメニューを出しているとかいう話を聞いた(食べに行ったことはない)。そのとき「いやでも5色くらいなら普通にやっても作れるよなぁ」と思い、実際に何色か(いくつだったかまでは覚えていない)まかないで作ってみた記憶がうっすらある。当時試したものと違っているかもしれないが、炒飯で色のバリエーションを出すレシピをいくつか挙げてみよう。
黄色は卵黄(というかプレーン炒飯のレシピは卵多めなのでけっこう黄色くなる:卵黄増やしていればなおさら)、黒は醤油(上でいう醤油炒飯のレシピ)で出せるとして、白はちょっと大変。というのは、飯の白さを生かすなら卵(少なくとも卵黄)を減らすことになるが、醤系の調味料も(色が出て)使いにくいため、風味の薄い仕上がりになりがちである。上で紹介した大蝦炒飯のように、メイン具材を上に乗せるようなパターンだとやりやすいのだが、エビだと白と言い張るにはちょっと苦しい。もう少し白っぽい食材というとキノコが無難だろうか(ホワイトアスパラとか日を当てないで伸ばした豆苗の茎部分とかもあるけど)。ブナシメジやマッシュルームは「ホワイト」が普通に流通しているし、マイタケやヒラタケにも白いものはあり、エリンギなんかも使えそう。ネギを白髪ねぎに変えて後乗せにするのは・・・ごま油で軽く香り付けしてやればアリではありそう。裏技で、クリームソースとかチーズとかかけて焼いてしまう手もなくはないが、ちょっと中華っぽさに欠けると思う。
赤は上で挙げたエビ(とくに桜えびとか)も有力ではあるが、トマト(四川料理ではけっこう使う:卵と相性がよいのが嬉しい)が面白い。湯むきして小さく(丁くらい)切って穏やかに炒めて、半量は汁を切って肉(やっぱ鶏が合うよねぇ)を入れるタイミングで混ぜ、残りと汁を片栗で餡にしてかけるのが面白そう。色でいうとキムチも赤いが、汁を切って使うとトマトほど鮮やかな赤にはなりにくい。これも肉の直前くらいのタイミングで、五徳の上で鍋を後ろに引いて前半分だけ熱せられるようにして、鍋の熱い部分を使って少し水分(と酸味)を飛ばしてから混ぜるとよい(別鍋で炒めてもいいけど)。最後の一色は悩むところだが、順当なのは緑。青菜の類(風味からも色味からも小松菜がよさそう)を刻んで飯に混ぜ、ネギも万能葱にして火を入れずにトッピング、油通しした豆苗か生の香菜あたりを添えてやれば緑になる(緑色の豆類をプラスする手もあるが、筆者はあんまり好きじゃない:中華でよく使う豆というと、蚕豆=ソラマメ、豌豆=エンドウ、四季豆=インゲン、緑豆=ヤエナリ=ムング豆あたり、青豆=グリーンピース=未熟エンドウは漬物的な形態で使うことが多いみたい)。追記:なんかYouTubeの海外屋台ものシリーズ見てたら、インドの人がかなり赤い(というかほぼオレンジの)チャーハン作ってた(長粒米使用)。さすがスパイスの国。
色のバリエーションについて触れたのでちょっと余談。赤を出せる食材はメニューを考える上で重要で、果物以外だとエビ・カニ・トマト・人参・パプリカ、ちょっと変化球で魚卵類の一部・梅干し・紅ショウガ・スパイス類の一部・トウバンジャンなど赤味噌類・豆類の一部くらいか(赤米とかもあるけどその辺では売ってないし)。中華っぽさを強調できるものとしてはエビ・カニ・トマト・人参あたりが便利なので、使い方を身につけておきたい。
いわゆる五目炒飯であり、高級メニューでもあるが、正直なところ筆者はちゃんとした作り方を知らない。だったら取り上げるなと言いたいところだろうが、面白い調理方法なので眉に唾をつけて読んで欲しい。
本当は長粒のインディカ米を使うが、固めのジャポニカ米(ただし普通の水加減)でもまあよいだろう。卵は錦糸卵にする(とはいっても日本の錦糸卵とは異なり、熱した揚げ油に細く卵液を流し込んで作り、ザルにあげて油を切っておく)。具材は、小エビ、蒸し鶏、戻した干しシイタケが必須、ナマコやアワビやホタテ貝柱を干して戻したものや、蝦子(シャーズ:エビの卵の干物)や中華ハム(金華火腿は高いので中華っぽいハムで我慢しよう)があれば入れたいが、普通の店にはそんなもの置いてないと思う(中華屋だって、ない店の方が多い)。小エビ以外は小さく切る。
作り方は、まず戻し汁にスープを足して小エビ以外の具材を、煮含めるような感じで煮る(味は塩と酒が中心で風味付けに醤油を足す程度)。ここからしてこれまでの炒飯とはぜんぜん違う。エビを炒めて、汁を切った具材を加え、卵も加え、油が回ったら(=全体に馴染んだら)煮汁を加え、飯も投入。水分を飛ばして味を調えたら出来上がりとなる。
どうしてよくわかってもいないメニューを紹介したのかというと「悪い固定観念」を払拭するためである。炒飯といえば汁気を嫌ってパラリと炒め上げるもの、という考えは完全な間違いではないが、なにしろ中国は広いので、スープを使って仕上げる炒飯だって普通にあるし、高級料理として立派に認められており、現にうまい。基本となる調理方法はあるし、それを通して習得すべき技術もあるが、技術の使い方は自由である。もちろん、基本を外すからには工夫が必要で、卵の風味を出しにくいことを細さで補ったり、水分が染み込みにくいよう固めの米を使ったりする。
日本人が好きなタマネギとニンジンのみじん切りが入った炒飯なんかは、プレーン炒飯でいう肉の投入タイミングで一緒に混ぜると仕上がりがよい(もちろん、あらかじめ火は通しておく)。カニ炒飯(混ぜるタイプ)やホタテ炒飯も同様のタイミングが適する。具材を入れた後にコンソメスープとか料理酒なんかを少量ふりかけて、水分を飛ばして作る炒飯も変り種としては面白い(食材を鍋の中に広げてまんべんなく振り掛けるのがコツ:粘りが少ない液体なら霧吹きを使ってもよい)。長粒米を使う地域を中心に、卵>具>米の順で炒めるやり方も一般的なよう(油を大量に(=卵と具を炒めた後に米を炒める分の油が残るだけ)使うことになるので、スパイス類をガッツリ効かせないとバランスが取りにくいはず)。
キノコ炒飯を作るときなんかは、上記に倣って煮込んでから使う手もあるし、あらかじめ(小さく刻んで)多めの油で炒め揚げにしておき、飯をほぐしたくらいのタイミングで入れるのも一案。油を吸う食材なので、卵と並列で調理するわけである。ヒラタケは炒めて、シイタケは煮て、マッシュルームは薄切り(片)の炒めにして仕上げに乗せて、といった具合にキノコづくしにしても面白い。
卵抜きの鶏炒飯にケチャップ(使いにくければ酒かスープで軽く伸ばしてもよい)で味をつけるとチキンライス的なものができる。これに卵焼き(中華では、プレーン炒飯の作り方と同様にして飯を入れる前に形を整え皿に取るような感じにする:エビ玉とかムースーローの卵はこの作り方)を乗せると中華風のオムライスが作れる(中華屋の気風として、洋食っぽいものや和食っぽいものは得意気に作るのが常である:実際楽しいしね、中華っぽくない料理作るの)。ソース味の炒飯にも挑戦してはみたが、筆者の腕ではうまくいかなかった(そばめしなんてものがあるくらいだから、やってやれないことはないのだろう)。
あんかけを作るときは水溶き片栗粉を使うが、これは「デンプン」(starch)を示す広義の片栗粉で、片栗(ユリ科の植物)の鱗茎から抽出した狭義の片栗粉はたいへん高価。中華で普通に使う片栗粉は馬鈴薯のデンプンで、スープや冷たい料理の一部にコーンスターチ(コーンフラワー:精製してあるのがコーンスターチで挽いただけのがコーンフラワーだという説明も見たことがあるが、根拠は知らない)を使う。
和食で使う葛粉はマメ科の植物の根から抽出したデンプンで、こちらも高価。緑豆(もやしの種で、日本ではヤエナリとか青小豆と呼ばれる)のデンプンは春雨に用いられるが、ソラマメなどを使ったものも緑豆春雨を名乗っていることがある。
小麦粉も(浮き粉はとりわけ)デンプン質の粉には違いないが、ダマになりやすくとろみもそう強くないので、あんかけにはあまり使わない。揚げ物の衣としても、中華では片栗を使うことが圧倒的に多い(片栗を使うからといって竜田揚げと呼ぶことはない)。ひと手間かけるなら、小麦粉>片栗粉の順で両方使う手もある。
他にデンプン質の粉というと、米から米澱粉(デンプンだけ精製)とか上新粉(うるち米)とか餅粉(もち米)とか白玉粉(沈殿させて作る:もち米メインorもち米オンリー)とか、大豆はきな粉、サツマイモなら甘藷澱粉、ワラビの根からわらび粉、キャッサバ芋ならタピオカ粉、といったところが有名どころか。ひよこ豆とかレンズ豆とかラウド豆とか、豆の粉もいっぱいあるし、ちょっと荒いけどコーンミールやコーングリッツなんかも粉っちゃ粉(粉と粒の境目ってどの辺なのか、筆者は知らない)。
中華ではあまり使わないので改めて調べたのだが、けっこうメンドクサイ。小麦のタンパクはグリアジンとグルテニンがメインで、この2つを水分のある環境で反応させるとグルテンになり、このグルテンが粘りや弾性の元になる。タンパクが多い順に強力粉(きょうりきこ:タンパク12%以上)、中力粉(ちゅうりきこ:典型的には9%前後)、薄力粉(はくりきこ:8.5%以下)に別れる。
小麦粉に食塩水を加えて練り、布袋に入れて水中で揉むと、袋の中にグルテン主体の生地(麩の原料)が残り、水中に逃げたデンプン(沈粉)を乾燥させると浮き粉になる。イモ系のデンプンを浮き粉と称することもあり(元は代用品だったのかも)、用語に混乱があるようだが、とにかく浮き粉はデンプンメインの(=タンパクが少ない)粉である。セモリナは粗挽きの小麦粉。パスタに用いられるデュラムコムギはセモリナに加工されることが多い。全粒粉はふすま(糠)や胚芽もまとめて粉にしたもので、グラハム粉は皮と胚芽だけ挽き方を粗くした全粒粉。
小麦は、小穂1つに3~5粒稔実する普通系(フツウコムギなど:パンコムギとか夏コムギというのはフツコムギの別名のようで、フツウコムギ以外の普通系にはスペルトコムギなどがある)、2粒稔実する2粒系(デュラムコムギなど)、1粒稔実する1粒系(1粒コムギなど)、2粒稔実するが2粒系とは遺伝子的に異なるチモフェービ系などに分かれる。もともとは1粒系の種から栽培が始まり、野生種との交雑で2粒系、普通系となっていったようだ。
アブラナ目アブラナ科は一大勢力でバリエーションも多い。なかでもアブラナ属は、ハクサイ・チンゲンサイ・コマツナ・カブ・アブラナ、キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー、タカナ・ザーサイ、ターサイなど主役級の野菜が多い。ダイコン属などの根菜、ワザビ属やセイヨウワザビ属など辛いものもあり、ナズナ(ペンペン草)なんかも香草として使われることがまれにある。チンゲンサイやコマツナに見た目が似ているホウレンソウ(ほうれん草)はナデシコ目で、あまり近縁でない(2000年代にアカザ科が亜科に降格され、ナデシコ目ヒユ科アカザ亜科ということになった)。
キク目キク科は分類が複雑でよくわからない。レタス、ゴボウ、ヨモギ、シュンギク、ベニバナ、ヒマワリ、チコリー、エンダイブあたりが含まれるらしい。沖縄料理のニガナはホソバワダンで、種の名前としてニガナと呼ばれるものとは別物らしい。ウリ科も種は多いがよく見るのはトウガン連(スイカ・キュウリ・メロン)とカボチャ連だろうか。ナス科はナス・トウガラシ・ピーマン・トマトなど。
セリ目セリ科には香草が多く、コリアンダー(香菜)、フェンネル(茴香または小茴)、セロリ、クミン、キャラウェイ、ミツバ、セリなどがある。分類的にはニンジンもセリ科らしい。ネギはヒガンバナ科ネギ亜科という扱いらしく、タマネギやニラやニンニクもネギ属。反対にショウガは、ショウガ目という目が立てられており、ショウガ科にはウコンやカルダモンが含まれる。
中華でスパイス・ハーブというと、お馴染みの花椒(中国山椒)、何度か取り上げている八角茴香(スターアニス)と小茴香(フェンネル)、西洋茴香(アニス)、姫茴香(キャラウェイ)、肉豆蒄(ナツメグ:豆蒄は荳蔲とも)、白豆蒄(カルダモン:小荳蔲とも)、丁香(クローブ:丁子とも)、肉桂(シナモン:広義呼称で桂皮とも)、陳皮(マンダリンもしくは温州蜜柑の皮)、鬱金(ターメリック)、孜然(クミン)、杏仁(アンズの種子:漢方ではキョウニン、和菓子業界ではアンニンと読む)、月桂葉(ローリエ:広義呼称でベイリーフとも)あたり。やはりセリ科が多い。
卵には鶏卵規格取引要綱が定める規格があって、大小は重さで決められている。
LL | 赤色 | 70g以上 | 76g未満 |
L | 橙色 | 64g以上 | 70g未満 |
M | 緑色 | 58g以上 | 64g未満 |
MS | 青色 | 52g以上 | 58g未満 |
S | 紫色 | 46g以上 | 52g未満 |
SS | 茶色 | 40g以上 | 46g未満 |
生卵の保存は鋭部(尖った方)を下にして冷蔵庫に入れるのが基本。凍らせると卵黄が固くなり全体にベチャっとした感じになるので、凍らせない方がよい(冷気がキツイ場所に置いてしまいがちなので冷蔵庫でも注意)。溶き卵は冷凍できるようだが家庭の冷凍庫では衛生上やらない方がいいらしい(と日本卵業協会のサイトに書いてあった)。冷蔵~常温の場合は一般に、ハンフリーの式と呼ばれる数式(86.939-4.109*温度+0.048*温度^2:サルモネラ菌が卵内部に混入していた場合に食中毒が起きるレベルまで増殖するまでの時間を基準にしている)で生食可能日数を計算する(10度で57日間、20度で30日間、30度で13日間)。ただし賞味期限の表示は、同じ式を使っていてもマージンの取り方が業者によって違うらしい(伝聞)。また常温保存期間が短く買ってすぐ冷蔵保存する場合は、少なくとも理屈上、表示されている賞味期限よりは長持ちするはず(だが、実際の利用は各自の判断と責任で:上記日卵協のサイトによると、家庭向けのパック卵では「最後の7日間が冷蔵保存」である前提なのだそうな)。
中華屋で使っているところは聞いたことがないが業務用では冷凍パックもあり、キューピーの凍結全卵で10kg6000円くらいと業務用生卵より(たいてい10キロ4000円くらいだから、殻で1割差っ引いて卵を割る労力を考えても)少し割高くらいだが、その辺の飲食店の厨房とは比較にならない設備で製造されており、衛生面(とくにサルモネラ感染症のリスク)で大きな優位性を持つ。
市販の卵の洗浄は完全なものではない。たとえば農林水産省(安全局食品安全政策課)が平成27年に公開した「鶏卵10個入りのパックを計2,030パック」の検査結果では「卵内容からはサルモネラが分離されませんでした。卵殻からは5点の試料(0.2%)からサルモネラが分離され、そのうち、2点の試料(0.1%)からサルモネラ食中毒の原因として一番多い血清型であるSalmonella Enteritidisが分離されました(表13)。」(https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/kekka/keiran/keiran_sal_04.html)とされている。。一見「500個に1個」なら稀な事案に思えるかもしれないが、毎日大量の卵を使う中華屋であれば、月に1度や2度では済まない頻度で(卵殻が)汚染された卵を使っているのが普通だと考えた方がよい(業務用の卵の状況が小売りの卵と比べてどうなのかは、筆者は知らないけど)。卵の表面にあるクチクラの層を壊さなければ(ので卵はシロウトが洗っちゃダメ)、すぐに病原体が卵内部に移動するわけではないが、卵を触った手であるとか、割る前の卵そのものであるとか、サルモネラ汚染の可能性がある物は生食する食材と接しないように管理しなければならない。また卵殻の表面にサルモネラが付着する「オン・エッグ汚染」とは別に、卵の内部にサルモネラが(産卵前というか卵殻形成前に)入り込む「イン・エッグ汚染」も、より低頻度ではあるがゼロではない。
家で自炊するのと、お金をもらって不特定多数のお客さんに食べ物を提供するので、食中毒の考え方は決定的に異なる。たとえ100万分の1のリスクでも、1日300人の人に10年20年と食事を提供し続けたら、1人や2人「当たってしまう」人がいて何の不思議もない。ましてや、お客さんの中には小さい子供や老人や免疫の弱っている人がきっといる。その一方で、ものを食べること自体にリスクがあって避けようがないのも事実で、食品アレルギーの問題と同様、飯屋にとっては頭の痛い問題である。基本的な情報だけは常に得ておきたい。
20~50度の間は微生物が繁殖しやすい温度域なので、この範囲はできるだけ素早く通過させる。いったん高温に晒しても芽胞菌は生き残り、徐冷することでライバルがいない環境で大繁殖する(納豆の製造でも利用されている手法)。なにしろ、食中毒菌の中でも最凶クラス(なのに、土壌や海底や湖沼などに当たり前のように生息している)のボツリヌス菌が、120度4分または100度6時間(全体が「少なくともこの温度」でなくてはならないことに注意:ただし毒素は80度30分ないし100度数分で失活する)という途方もない加熱でしか死滅しない。さらに悪いことに、ボツリヌスは嫌気菌なので沸騰による酸素の減少や密閉なども繁殖を助けるし、半端な加熱をすると他の微生物が死ぬことでライバルがいない環境ができる。このほかに、セレウス菌(50度でも発育し、エタノールにもとても強い)やウェルシュ菌(至適増殖温度が43~47度)なども食中毒を引き起こす嫌気性の芽胞菌である。また芽胞菌ではないが、メジャーな食中毒菌であるサルモネラ菌は、68度3.5分で不活となるものの、50度までは増殖する(46度以上で増殖遅延)。サルモネラ・ノロ・病原性大腸菌は、ボツリヌスに比べれば死滅させやすいが、感染規模が大きくなりやすい。
エンベロープのあるウイルスは一般に、低温や乾燥に強いが高温には弱く56度30分程度の加熱で不活になる(=壊れる)。いっぽうエンベロープのないウイルスは、低温にも乾燥にも高温にも強い。食中毒に関連するものではA型ないしE型の肝炎ウイルスがエンベロープを持たず、前者は不活化に70度30分ないし100度5分を要するという(後者は63度30分で感染性を失うが、前者に準じる処理を行うのが普通)。野獣肉(ジビエ)でも調理するのでなければそう心配はいらないが、ひとまず覚えておいて損はあるまい。食中毒ウイルスとしてメジャーなノロウイルスもエンベロープを持たず、加熱による不活化条件は2017年現在明確でなく(厚生労働省のノロウイルスに関するQ&AQ15より)、85~90度90秒の加熱が推奨されている。ウイルスはエンベロープの有無に関わらず低温にはとくに強く、一般的な食品冷凍に用いる程度の冷却では不活化しないと考えるのが無難。寄生虫については、食品安全委員会による解説のリンクを再掲しておく(一部冷凍に耐えるものもある)。
とくに芽胞菌の対策を考えると、いわゆる「粗熱を取る」工程は低くとも50度くらいまでで切り上げて、それ以下の温度域は急冷した方が安全である。のだが、50度以上の食品を冷蔵庫に入れるとなると、今度は他の食品の温度が上がって食中毒菌が増殖する可能性がある。鍋ごとor食品保存用のポリ袋に入れて氷水に漬ける、反対に水をジッパー袋で凍らせて氷のうにする、保存パックに薄く入れて冷凍庫用の保冷剤でサンドイッチにするなど、必要に応じて冷やし方を選択するようにしたい。なお、生ワクチンなどに用いられるいわゆる間欠滅菌(典型的には、100度30~60分の加熱>常温で1日というサイクルを少なくとも3回繰り返し、生き残った芽胞が栄養体になったのを見計らって滅菌する)は嫌気性菌にはあまり適さない(芽胞のまま生き残る個体が多い)。
中華屋では基本的に「火を通さないメニュー」は出さない(例外は、干物・漬物・ナッツ・スパイス類、あとはせいぜい薬味ねぎとか、白髪ねぎと針生姜くらいじゃないかな)が、もし生野菜を扱わなければならない場合は、ごく慎重な取り扱いが求められる(だから大根サラダとか冷やし中華とかやりたくないんだよねぇ)。具体的な方法については、保健所や都道府県などが情報を公開しているのでそちらを当たってもらうとして、加熱調理する場合と生食する場合では求められる衛生管理の水準が段違いになることを、もう一度確認しておきたい。また練り調味料(というか粉末洋カラシ)は意外なほど足が速いので、これも頭に入れておきたい。
余談:食中毒は、交通事故や傷害or自傷事件などと同様、加害者がいる(保険の用語では第三者行為による)ものとして扱われ、健康保険(契約内容にもよるのだろうが少なくとも国民健康保険)の適用にならない。
仕事でやってた頃は気にしたことがなかったわけだが、どのくらいかかるんだろうか。2016年現在の相場で計算してみたい。追記:以下の価格はいわゆるコロナ前、ウクライナ紛争によるエネルギー危機より前のもので、現状とは異なることに注意。
前提として、飲食店のキャッシュフローは、家賃が売り上げの4分の1(都会の場合)だとか、家賃水道光熱費と人件費と材料費で1:1:1(「中小企業の経営指標」あたりがこれに近い数字)だとか言われる。またもっとざっくりしたところで「外食3掛け惣菜2掛け」というのもあり、そう大外しではないように思われる(たとえば家で作って300円のものを、外で食べたり出前を取ったりしたら900円、総菜屋や弁当屋に自分で買いに行くと600円という意味:当てずっぽうだが、同じ条件で冷凍食品などの「半出来合い」を家で調理すると1.5掛けの450円くらいなのかもしれない)。ただし、揚げ物やスパイス料理など、数が出ないとコスパも出ないメニューについてはこの限りでない。
地域による差異も大きいだろうが、ざっくりとしたところで、人件費以外の固定費1:人件費1:変動費1(1日5万円を25日売り上げて月125万円の年1500万円として、それぞれ年500万円)で原価率30%を想定してみよう。けっこう儲かりそうに見えるかもしれないが、パートさん1人に年100万円(扶養家族から外れるちょい手前)払うと自分の給料が400万円しかなく、そんなに繁盛している状態の数字ではない(サラリーマンと違い手取りがかなり目減りすることに注意:客単価500円で100食、800円でも62.5食ってのは、そんなに簡単じゃないと思う)。
なお上記はあくまで平均原価率で、大衆飲食店のメニューは単価が上がるほど原価率が高くなる傾向がある。というのは、安いメニューを注文した客も高いメニューを注文した客も受けるサービス(席の占有とか食器やオシボリの使用とか会計の手間とか)には変わりがないため、原価率を下げないと利益が確保できない(たとえば大手ハンバーガーチェーンのように、膨大な席数を用意して回転率をガンガン上げられるのならまた話が変わってくるのだと思う)。筆者の想像に過ぎないが、中国人が経営する大衆中華でタンメン500円、チャーハン500円、タンメンとチャーハンのセット(両方フルサイズ)650円みたいなゴムタイな価格設定の店が多いのは、回転率を問題にしているからなのだろう(実際、フルサイズ2発のセットを注文する客は、単品で注文する客と同じくらいの時間で帰る)。ここでは、安いメニューで25%、高いメニューで50%くらいを想定してみよう。当て推量に過ぎないがおそらく、平均客単価800円で平均材料費率3割としたら240円で残り560円、600円のメニューを150円で作ると残り450円、1200円のメニューを600円で作ると残り600円くらいになる。
まずプレーン炒飯から。業務用の米(最低ランク同士で比べると、使用に手間がかかるような欠点を回避している分、家庭用よりも少し高い)が30kgで9000円とすると1kgが300円、1人前が米120gで飯250gだとすると36円。卵10kg(L玉で150個、M玉で160個くらい)が4000円なら1kg400円だけど殻で差っ引いて450円くらい、70g使うと31.5円。肉とネギも30円ちょいなのかな、と勝手に想像して、燃料(1升炊いても高くて数十円とかのレベル)とか油とか調味料とか全部ひっくるめて、廃棄ロスも多少あると計算して、小椀でスープをつけ紅生姜を添えると原価110円ちょっとのものを(回転がよくないと本当は苦しいが)450円くらいで出せる計算。ショバ代がバカ高い都心はともかく、ほどよく都会な地域だと、プレーン炒飯相当のメニューをこのくらいの値段で出している店はけっこうある。
価格を直撃するのはやはり米で、そこそこのものが30kg12000円だとすると+12円、ちょっといいものを使って15000円だと+24円のコスト増になる。卵の相場はよくわからないが、ちょっといいものだと+10円くらいなんだろうか。米と卵で+35円として油や調味料もちょっとグレードアップすると原価が150円、これで気合炒飯を600円くらいで出せたら、店もお客さんも幸せなのだろうと思う(そればっかり注文が入ったら作るのツライけど)。米のグレードはライスの価格にも左右されるし、高単価のご飯ものも出そうと思うならあまり酷いものは使えないので、仕入れのポイントの1つになると思う。追記:2021年現在、業務用の冷凍チャーハンが1kg800~1000円くらなので、300gで250円だとすると、労力コストが減る分で同じくらいの価格にできるはず。けっこう手ごわいねぇ。
筆者が思うに、炒飯で1000円ってのはよほどの高級店でないと出せない数字である。カニとか干し魚介とか高そうな(実際高いけど)材料が入って950円、エビ炒飯なら850円くらいがせいぜいではないだろうか。650~850円くらいのメニューなら原価は200~350円くらいだろうから、価格に見合ったベース食材(米とか卵とか)が上記の150円だとして、50~150円くらいの予算でいかに豪華な具材を仕入れられるかがメニュー作りのキモになりそうな感じ。