基礎知識や代表的製品の紹介。
家で料理をするとけっこう厄介な問題。火を扱う製品だけに自作するわけにもいかず、業務用のものを入れようと思うと台所のリフォーム(換気扇やクリアランスなど)が必要になる。なおコンロやバーナーに表示されたワット数はあくまで燃料消費量であり、そこに熱効率を掛け算しないと意味がないことに注意。同じ機種でも、LPガスは都市ガス(12Aや13A)と比べて1~3割くらい出力が小さいことがある(同じ出力にしてある機種もある)。
いわゆる大型の家庭用ガスコンロは、2006年現在パロマのもので4.2KWくらいが最大(リンナイのサイトやカタログはあまりに見難かったため参照していない)。だいたい、強バーナー+標準バーナー+魚焼きで4+3+2=9KWちょっとの総出力を持つ機種が「大型機種」になるようだ。イワタニのカセットコンロBo-がこれに迫る火力(4.1KW)を実現しているので、3KWくらいの小型コンロを入れるならいっそのことこちらの方が火力は強い(ランニングコストがかかるが)。屋外専用で形状も特殊だが、EPIガス用の製品に専用ブースター追加で6KWを超えるものがある。
本格的な業務用コンロはマルゼンが大手、筆者の知り合いにはタニコーのファンも多く、パロマやリンナイなども主力メーカー、鋳物コンロではタチバナが有名。マルゼンの中華レンジシリーズやタニコーの外管式標準型中華レンジ(業務用なのでネーミングが投げ遣り)など、1口あたり2連装で合計20Mcal=23.3KWのものが多い(中華鍋を使う前提なので「面」で熱するようになっている:スーパー龍神シリーズやドラゴンシリーズなど強制吸気方式の機種で50KWくらい出るものもある)。中華以外の用途だと10~15KWくらいのものが多く、パワークックガステーブルシリーズなどが代表機種。
本格的な機種は本体自体が高価で、フルセットを定価で買うと20万円くらいはする(普通は工事費別で車上渡し:業務用機器の値付けはかなりテキトーなので、コネがあって上手く買えば安くなる)。1口タイプのテーブルコンロなら本体価格(マルゼンのガステーブルコンロ親子M-211CやNEWパワークックガステーブルコンロRGC-044C、タニコーのTGU-50あたりが3万円くらい)はそこそこ手軽だが、それ以外の工事費がどれだけかかるのか筆者は知らない(やってみようと思わないので)。
ガス事業法施行令及び液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行令の一部を改正する政令(2008)だかという法令でガスコンロへの安全センサー設置が義務付けられたため、リンナイのRSB-150PJのような無愛想なコンロやRSB-S206Nのような内炎式コンロ(どちらもコンパクト45シリーズ)がすべて業務用扱いになってしまったし、いわゆる丸コンロやシングル鋳物コンロのほか、マルゼンのM-821CとかM-201CやタニコーのTGU-45などそんなに強火でない業務用コンロも普通にあるため、業務用だから必ず強火力であるとは限らない(当たり前の話だが、強火力を必要としない「業務」だって普通にある)。
なお中華レンジは他の業務用レンジとは作りが違い、水道の蛇口と排水溝がついている(たいていの店では、水を細く出しっぱなしてメンマの缶か何かで受け、缶から水を使う)。五徳は切り欠きが2箇所ついた丸いものが一般的で、ネジ留め、溶接、一体成型などでガッチリ固定されており、形状からマンジュウと俗称される。普通の業務用レンジに中華鍋を載せるためのアダプター(こちらはハカマと呼ばれる)もあるが、業務用の中華レンジにとって水が流せることは必要不可欠な機能なので、あくまで簡易な使い回しになる。
余談ついでにもうひとつ。北海道で冬に使うFF式ストーブは、家庭用の一番大きいやつで10KWくらい(燃費はだいたい1L/h:床暖房込みで熱効率90%弱くらい)、工場とか講堂とか半屋外とかで使うブライトヒーターだって特注品でなければせいぜい35KWくらいである。中華レンジ2発に茹で麺にスープレンジに餃子台がフル稼働している中華屋の厨房がいかに暑いか、察する一助にはなろう。
中華鍋のサイズは普通3cm刻みで、業務用の中華五徳(マルゼンのイタメ釜枠で内径31cm、タニコーのイタメ通常品で30cm、大型鍋用で40cmとかそのくらい)の大きさから自然と制限がある。厚みは1.2mmが標準的だが大きくなるほど肉厚傾向になり、50cm超の大型両手鍋はチタン製でもない限り鍋だけで3kgはある(両手鍋でたまにあるステンレス製や片手鍋でたまにあるアルミ製も、重さは鉄と大差ない感じ:とくに決まりはないが、業務用の39cm鉄鍋だと1.5kgくらいが普通だと思う)。2kgを超えるものは普通の使い方(半日ぶっ通しで炒める)を想定していないものが多いだろう。揚げ鍋(というか油通し鍋)としてデカいのを使っている店もある(仕込みの量にもよるが、油通しを事前にやるなら大きい鍋の方が便利)。鍋の厚さは(変形しない強度を得るのはもちろんで、だから大型鍋は厚いのだが)熱の広がりと熱容量に影響するものの、普通の中華コンロを使っていればわざわざ厚いものを選ぶメリットはないと思う(小さくて厚い鍋だと温度が横に伝わるのが速くなり、五徳の上で鍋を手前に引いて前半分だけ熱くする技がやりにくくなる、はず)。
種類によって深さが違い、深い片手鍋を北京鍋、浅い両手鍋を広東鍋、深い両手鍋を四川鍋ということが多い(浅い片手鍋を何と言うのか筆者は知らないし、そもそも見たことがない)。だいたいの深さは北京鍋や四川鍋だと直径の3分の1くらい、広東鍋だとそれより1.5~3割くらい浅くなる(もちろん、メーカーによって差がある)。容量は、30cmのもので満水4L前後(広東鍋で4L弱、北京鍋で4L強:いわゆる10号土鍋と大差ないサイズ)、39cmのもので7~9Lくらい(長さは体積に3乗で効くため、径が1.26倍になると容量がだいたい2倍、径が0.7937倍になると容量がだいたい半分になる)。余談だが、業務用でハードに使うと数年で穴が空き、高級品には10年くらい使えるものもあるかもしれないが基本的に消耗品である。安物の鉄プレス鍋(もちろん業務用の:というかサイズ的に家庭用は最初から選択肢に入らない)の場合、炒めの回数に換算すると5~10万回くらいの寿命だと思う(まあ使い方も手入れの仕方も荒っぽいからねぇ)。横浜市金沢区福浦にある山田工業所がトップブランドだが、アルミ鍋トップシェアのアカオアルミやフライパンで有名な島本製作所も地味に鉄の中華鍋を作っている。
鍋というのはそれ自体が大きな放熱板のようなもので、大きければ大きいほど温度を上げにくくなる(より実際的には、水分が蒸発する勢いと面積が問題になる)。自然吸気式中華コンロと同等の熱効率で火力を無駄にしていないなら、直径(cm)^2/コンロ出力(KW)<100というのが、中華鍋で(そこそこの腕があればなんとか)炒めができる下限になる。たとえば39cm鍋なら15.21KW、45cm鍋なら20.25KWくらい(この1.5倍くらいの出力があると、より話が早い:妙な極論が流通しているようだが、炒めに火力がいるのはしゃあない話で、でなけりゃあんな灼熱地獄の中で仕事をする理由なんてない)。筆者は20cm(鍋底15cmくらい)の鉄フライパンを家で使ったことがあるが、このくらい小さいと3.5KWのバーナーでも油が燃え上がるくらいの高熱は十分得られる(が、形状が平べったいので中華の炒めには向かない)。もちろん、鍋がいっぱいになるほどの食材は入れないのが前提で、39cmの鍋(おそらく満水8L前後)にチャーハン3人前(2号お玉山盛り3杯分:おそらく900gくらいで1Lちょい)とか野菜炒め2皿分(もやし2袋使用:おそらく800gくらい、隙間が多いので少し嵩張る)というのは、業務用中華レンジの火力でも仕上がりが劣る。
普通の中華屋(という前提がまず漠然としているけど)で使う鍋を1つだけ選ぶなら、十分手入れされた熱効率の良い23KWバーナーに42cm鍋の組み合わせが理想ではないかと思う(39cmと42cmが両方あったらメインで使うのは39cmだろうけど:39cmはもう少しだけ大きければと思うことがけっこうあるし、42cmはやっぱり火の回りで劣る)。しかし火力さえあれば・・・うん、引退した今でも一度使ってみたいよなぁ、強制吸気の超強火力コンロ(中華屋でない人には文字で説明されてもわからないかもしれないが、こんな感じとかこんな感じとかのゴムタイなコンロで、水1Lを沸騰させるのに1分かからないという、狂ったような火力を誇る)。
一般家庭での中華鍋の選択は意外と難しい。パロマの大型2個口機種が幅59cm、バーナーの中心距離が33cmくらいなので「乗る乗らない」だけ考えても36cmが限度だろう。実際には、4.2KWの強火力バーナーでも30cm鍋には火が回り切らない(どうがんばってもムリなレベル:鍋をキッチリ焼くのも大変かったるい)。鍋の温度を上げることだけ考えるなら通常品で一番小さい24cm(おそらく満水2Lちょいだと思う)だろうが、少量の炒め専用になってしまい、中華鍋の美点である使い回しの範囲が狭くなってしまうのは惜しい(というかメンドクサイでしょ、家に鉄鍋2つも持つの:中華鍋で煮物や揚げ物ができるかどうかは、五徳の問題やら熱源の問題やらも絡むだろうが、炒め専用にしても24cmだと量の制限がキツい)。とすると中間の27cmが、家庭で使うならなけなしのチョイスになりそうだが、24cmと比べてしまうと火の回りで劣るのは間違いないし、30cmと比べて窮屈なのも否めない。結局、どこを割り切るかという個人の判断になるのだろう(筆者は何年か30cm鍋(実家の物置で発掘したシロモノで、自分で買ったわけではない)を使っていたが、引越しで処分した後買い直すときには27cmのものにした:30cm鍋が必要なほど量の多い調理は一気にやらない方がよい、という判断で、重さのバランスを重視して1.6,mm厚にしたのも含めて正解だったと思う)。中華コンロでない業務用バーナーを使うなら、火力(8~15KWくらいでしょ、たいてい)に合わせて27~36cmあたりを選べばよろしかろう。中華五徳が使えない場合は北京鍋が無難。なお中華鍋には「底が丸い」ことが不可欠なので、いわゆるイタメ鍋みたいなもので兼用できるとは考えない方がよい。
中華お玉や中華食器の大きさは普通「両」で示すのだが、歴史的経緯やら地域差やらがあってメンドクサイ。前提として、
清代には1斤=4/3ポンド、1両=1/12英ポンド=4/3オンスなのだが、この時点でグチャグチャである。実際の製品を見ると上記のどれにも従っていないものばかりで、1両≒40ml(1斤≒640ml)または1斤≒600ml(1両≒37.5ml)としていることが多い。清代のポンド/オンスがいくらだったのか知らないが、現在の英液量オンスは28.413mlくらい、液量ポンド(重量だと16オンス)というのは普通使われず、英パイント(20オンス=568.26mlくらい:米パイントは16米液量オンスで約473.18ml)が使われる。キリよく間を取って1両=38.75ml(6両が232.5ml、1斤が620ml、4分の3両が29.0625mlになる)くらいに決めちゃえばいいのに、と少し思うが、もし決めようとしたらきっとモメるのだろう。
国民党政府時代(1929年公布)は37.301mlで、1斤=16両
中華人民共和国の1市斤=10市両=100市銭=500g
香港とマカオとシンガポールでは1斤(司馬斤)=16両=604.78982g、1両=37.7994g
台湾では1斤(台斤)=600g
お玉の場合、家庭用=4両=160cc(代表的直径110mm、1斤600cc換算なら150cc、日本だと小)、2号=6両=240cc(代表的直径120mm、1斤600cc換算なら225cc、日本だと中、だいたい8オンス=0.5ポンド)、1号=8両=320cc(代表的直径130mm、1斤600cc換算なら300cc、日本だと大)、加大=10両=400cc、頂大=12両=480ccなどがよく見られ、1斤600cc換算で7両(260cc)や10両(370cc)のものもある。2号(6両)のお玉は224ccまたは240ccで、後者なら3杯で4合。散蓮華は25~30cc(だいたい1オンス)くらいで、中華屋では計量カップの代わりにお玉が、大匙の代わりに散蓮華が使われる(たいていの店では、普通の計量カップや計量スプーンも、店のどこかには眠っているし、用途で使い分けているところもある)。
器の場合、麺碗(高台)が1000~1300cc(多分2斤前後)、湯碗(玉丼)が800~1000cc(多分1.5斤前後)、小湯碗が100~200cc。スープは1人前400~500cc(12両)くらいが標準(すでに具が入っているスープなら2号のお玉で2杯分)。湯麺のスープも同じくらいの量。飯椀は満水で12両(1斤600ccで450cc、1両40ccで480cc、間を取って465ccのものもある)が標準サイズ。日本の飯茶碗は満水280~350ccが標準なので1.5倍くらいの大きさだが、深さや盛り付け方(日本の飯茶碗は横から飯が見えない程度まで盛るのに対し、中華の飯椀は2/3くらいしか入れない)が違うため、飯の量は飯茶碗(140g)の1.5倍程度、比べると飯丼(240g:満水容量は440ないし450ccなので中華飯椀とほぼ同じ)よりは少ない。
番外で日本の食器はなぜか単位が寸のものが多く、たとえば「5.0深皿」のような感じで、直径+種類がネーミングになっている製品もある。業務用のラーメン丼だと6.8寸(215mm)で満水1400ccくらいのものが多い。家庭用のものは満水1000ccくらい。日本の家庭用お玉は(筆者は買ったことないけど)100ccが普通らしく、味噌汁1杯の目安は約1合(湯160+味噌15+他5くらい)だそうな。
中華包丁の刃渡りは220~240mmくらい。東京杉本(日本のトップブランドで、日本人の中華屋が銘入りの包丁を使っていたら十中八九は杉本:5時間くらいぶっ続けで切り込みをするとわかるが、あの無愛想な柄はたいへん合理的かつ機能的である)の分類だと、1号が薄刃、2号が中厚刃、3号が厚刃、6号が薄刃幅広(背厚3.0mm)、7号が中厚刃幅広(背厚3.6mm)、普通幅は95mm、幅広は110mm。鋼だと400~500gくらいが多く、7号の500gが事実上標準、6号の430gがやや軽めになる(飾り包丁用とかなら別だが、軽すぎても使いにくい)。2桁番号は大型のものが多いがなぜか30号が家庭用(刃渡り190の幅95:以前は特殊合金刃だけだったような気がするが、2016年現在は炭素鋼刃も出している)。筆者の感覚だと30号が普通の中華包丁っぽく使える限界ギリギリで、仕事で刃渡り18cmくらいの家庭用ステンレスも使ったことがあるが、このくらい小さいと感覚がかなり変わる。
プロ用のステンレスではミソノ(杉本に次ぐブランドで先端技術を駆使した製品がウリ:洋包丁も使う人が好む傾向があり、熱狂的ファンが多いように思う)の882番、886番、887番(クロムモリブデン系、だと思う)、ちょっと軽いが家庭用の661番もある。河村刃物(堺菊守)のY-6401は安価な7号互換ステンレス(220x110mmの500g)、清水刃物工業所(Toginon)の極800は30号互換っぽい(刃渡り195の410gで、幅は見た目に95mmくらい)。青木刃物製作所(堺孝行)の20041は6号よりやや短いくらい(210x95mmで460g)だが樹脂柄(油っぽい食材を扱うことが多い中華屋はほぼ例外なく木柄好きだが、商売でやる以上衛生管理が重要なのは間違いなく、しかし安全性も損なうわけにはいかず、悩ましいところ)。このメーカーは中華牛刀(ようするに幅広の牛刀)や中華出刃(丸柄の出刃)なんていうオモシロ商品も出している。遠藤商事はマイナーラインナップに強く、骨刀(ボーンチョッパー)なんかも扱っている。いわゆるクレーバーナイフとか砍骨刀とかいったものは背厚4~5mmくらいが中心だが、遠藤商事の骨刀1号は背厚8mmのチョー本格派、AKL04という安価な全鋼クレーバーナイフもある。
鋼とステンレスを比べると一般に、ステンの方が靱性(粘り)があり、押し込み硬さはものによる。比重(どちらも7.8くらい)や、ヤング率(200前後)などの機械的性質はかなりよく似ている。鋼の方が刃持ちがよい(切れ味が長続きする)というのが大方の意見だが、プラスチックのまな板だと大差なくなるような気がしてならない。大きな違いはやはり研ぎ味で、鋼の方が「研いでいる感覚」を掴みやすい傾向がある(もちろん好みや道具の適不適にもよる)。モリブデンステンレス(8Aと呼ばれるタイプが普及品に多く使われる:クロム系らしい)は、そこそこ錆びにくくそれなりに研ぎ味がある中間的な性質で、家で使うならこれが便利だろうと思う。貝印が早くから関孫六ブランドでモリブデンステンレスの牛刀を安価に出しており、筆者も職場に持ち込んで使っていたが、Amazonが(いつからかは知らないけど)取り扱うようになって以降は江部松商事(EBM)のE-PROシリーズも入手性がよくなった模様。中国で「伝統的っぽくない」スタイルのものが大流行している影響か、家庭用も含めステンレス刃の中華包丁もけっこう人気らしい。なお中国語では中華包丁のことを中式菜刀というらしく、台湾の郭合記というところがトップブランドだそうな。
中華包丁を家庭で使うなら、貝印(一時期共柄以外やめてしまっていた)が関孫六ブランドでL AG-0500というのを出しており、180x100mmと杉本の30号よりも短くやや幅広、炭素鋼刃に積層強化木柄と直球で本格的な作りで重さも480gあり価格が安い(グリップが杉本式なのがいい感じ)。高くてもいいなら上で触れた極800や20041などの小さめ業務用製品も選択肢になるだろうし、安い方がいいなら下村のM-18(ステンレス)が無難なデザイン(筆者も家で使っているが、とても普通である:さすがに、肉を凍ったままぶった切ったるとか、業務用ライクな使い方をすると刃が潰れるので、事前に鈍く研ぎ直しておいた方がよい)。家庭用に7号サイズの中華包丁が大袈裟なのも鋼の扱いが面倒なのも間違いないが、ハードな使い方が中心になるなら研ぎ味のよいものを選ぶメリットはあると思う。仕事で使う場合はステンレスの雑用中華包丁があると意外なほど便利。割り込み(鋼とステンレスのサンドイッチ:三合鋼とも)は結局錆びるので、だったら筆者は全鋼を選ぶ(ガワを磨かなくて済むのはラクだけど)。2022年追記:モノは見ていないしメーカーなのか商社なのか問屋なのかも知らないが、HIROYIというブランドで比較的安価な「高炭素ステンレス」の中華包丁が出回るようになった(日本では珍しい馬頭刃の包丁や、背暑5.2mmの「本格の骨切り」なんて製品も4千円ちょっとで売られている)。貝印は刃渡り17.5cmのミニサイズ(菜庖ブランド)と20cmの業務用サイズ(関孫六ブランド)の二本立てにしたようだ。
中華屋では洋包丁(というか牛刀)も普通に使う(中華包丁以外の包丁は絶対使わないというポリシーで、リンゴの皮も中華包丁で剥く人がいないではないが少数派:意地になっているわけではなく、包丁を扱うための修行として叩き込まれた習慣が抜けないだけ)。中華包丁(よほどの変わり者を除き、日本人の個人持ちはほとんど全鋼:店の共用備品はたいていステン)の影響なのか、牛刀も全鋼でないと嫌だという人が一定数おり、中華包丁でやりにくい作業に使うという意識からか、片刃に研いでいる人もけっこういる(そういう筆者も自前の牛刀は全鋼で片刃:宏明という銘が入っているがどこのメーカーか不明、正本のOEMをやっているところだという説明も目にしたが確認取れず)。和包丁を個人で持っている人も(和食経験者自体かなり多いため)けっこういるが、店に持ってくる人はほぼいない。
片刃と両刃の違いについて補足しておきたいのだが、その前に、刃物の大まかな構造には、片刃(切るときの進行方向に対して、片面が平らかそれに準じる形状で、もう片面が傾いている:平らな方が刃裏、傾きが変わる方が刃表で、右利き用だと右が表で左が裏)と両刃(両面が傾いている)、平造(峰から刃までが真っ直ぐ)と鎬造(刃の近くで角度が変わる:シノギは刃と平行に、幅が変わらないようにつけるのが原則)、割込(鋼を地金でサンドイッチ)と合わせ(地金の上に、刃表の刃先部分から刃裏にかけてに鋼を乗せた形)と全鋼(文字通り全部鋼)の区別がある。また細かい形状として、和包丁の多くは、刃裏に裏すき(へこみ)と裏押し(一番左の平らな面、というかへこんでいない部分)がある。この記事を書くために軽く調べたところ、ナイフの形状だと、両刃で鎬造ですきありがホローグラインド(へこみ研ぎ:押しはつけないのが普通のよう)、両刃で鎬造ですきなしがセイバーグラインド(サーベル研ぎ)、両刃で平造がフラットグラインド(平面研ぎ)、片刃で鎬造で裏すきなしがチゼルグラインド(たがね研ぎorのみ研ぎ)、蛤刃はコンベックスグラインド(ふくらみ研ぎ)というらしい(括弧内の和名みたいなものは、さっき筆者が勝手につけた直訳)。包丁は普通鎬造で、和包丁の多くは片刃で裏すき裏押しあり、洋包丁は両刃ですき押しなしが一般的。洋包丁(というか牛刀)の場合、完全な片刃に研ぐときでも刃裏は平研ぎ(ベタ研ぎ)が一般的なので、片刃と両刃の選択はおもに、切り味(片刃に近いと利き手の反対方向に食い込む)と切り刃(シノギ)相当部分の明瞭さ(とくに薄刃にしたとき、両刃だとシノギ線があいまいになる)に影響し、切り刃部分の広さにはあまり影響しない(ある幅aの鉄板から角度θの完全な片刃を作るとa/cosθ、完全な両刃を作るとa/2cos((π-θ)/2)で、20~30度くらいなら大差ない:両刃の方が微妙に狭くなる)。
仕事で使う場合でも、牛刀27cm、中華包丁、牛刀18cm、ペティ12cmがあればたいていのことができる(牛刀18cmがあれば中華包丁は7号(と雑用ステンレス)だけでいいと思うが、大きい牛刀は27cmが欲しい)。家庭の台所だと27cmは明らかに長すぎるが、21cmでは不便な状況もあるので、24cm、18cm、12cmと6cm刻みで揃えるのが無難だろう(中華料理を作るとしても中華包丁は必須でない)。店でも家庭でも、18cmの牛刀は用途が広く便利である(16.5cmも仕事と家の両方で使ったことがあるが、包丁として使うにはやや短いし、ペティナイフのように使うにはやや長い)。
番手(=GC粒度:1000番で平均粒径16μmくらい)でいうと、200番前後(160~240番くらい)が荒砥、700番前後(600~800番くらい)が中砥、3000番前後(2000~4000番くらい)が仕上げ砥くらい。最近は番手の大きいものが好まれるようだが、もちろん、実際の特性は番手だけでわかるものではなく、荒砥は「刃の形を大きく変えるのに適した砥石」、中砥は「仕上げ砥を当てる前提で使う砥石」、仕上げ砥は「中砥を当ててから使う前提の砥石」を示す(本来は)。
杉本の分類だと「荒研ぎ用(金剛砥)#180~220 ・ 中研ぎ用(赤門砥)#600~1500 ・ 仕上げ用(仕上げ砥)#2000~5000」堺一文字の分類だと「荒砥#80~#220、中砥#400~#1500、仕上げ砥#3000以上」になっている。杉本の実際の製品は「荒砥 # 180~220(#180~#220)」「中砥 ♯1000~1200(#1200)」「仕上砥 ♯2000~5000(#3000~#4000)」(括弧内は主力ラインナップ帯)といった感じ、堺一文字は中砥が#800~1500くらい。クリームタイプのクレンザー(ソフト系の普及品)で2000番相当くらいの模様。
荒砥と中砥の中間が中荒で中砥と仕上げ砥の中間が中仕上げ。中仕上げは仕上げ砥を当てずにサッと手入れしたいときにも使えるし、高い番手の仕上げ砥で磨き上げるための前処理にも使える。筆者の感覚だと1000~1500番くらいが中仕上げなのだが、これを「中砥」と呼ばれてしまうとやや抵抗がある(というか「じゃあ2000番とか2500番が中仕上げといえるのか」と疑問に思ってしまう:和包丁なんかを繊細に研ぐときとかは、そういう風に捉えることもあるんだろうけど)。多少の刃こぼれ(ないし刃潰れ)を自分で直したり、刃の形を大雑把に作りたい場合は中荒が無難。刃物メーカー以外では、ナニワ研磨工業(エビ印)、キング砥石(扱いは松永トイシなど)、シャプトン(刃の黒幕)あたりが大手。合成砥石の場合、番手が細かくなると値段も高くなる傾向がある(いわゆる超仕上げではキングのSシリーズなんかがリーズナブル:6000番で3000円前後)。
砥石の番手に関する考え方は人それぞれだが、筆者は「700番で砥いで2000番で仕上げる」のが真ん中の道だと思う(牛刀や中華包丁なら)。真面目にやろうとすると、1000番では仕上がらないし砥ぐのがかったるい。中砥と仕上げの間は3倍上げを目安にする(600-1500、700-2000、800-3000くらい:仕上げの細かさによって多少倍率は変える)のが無難。これにテキトーな荒砥を加えるのがやはり理に適っている(700番を持っていて荒砥を使わなくてはならないというのはようするに「非常事態」なわけで、下はそんなに番手を気にしなくていい:どーせ「腰を入れてじっくり砥ぎ直す」以外に選択肢がないんだから)。もし6000番くらいを持っていたら磨きと糸刃引きだけそっちでやりたいが、中華屋の場合、自腹で買って店に持って行くほどの必要性はないと思う。
家庭用のコンビ砥石は400-1000が主流だったが、貝印が関孫六ブランドで1000-4000を、スエヒロやパール金属などが1000-3000のものを広く販売するようになってきた。おそらくだが、貝印のラインナップは400-1000と1000-4000の2本使い(この組み合わせだと圧倒的に1000が減るから)という意図、スエヒロの1000-3000は家庭用に1本使いさせる(どうせ包丁の数が知れているし、1000番で軽く荒らして3000番で整える感じで、そもそも研がない使い方)という意図、パール金属の1000-3000は別で出している200-600との2本使い(ちなみにスエヒロは280-1000を別で出してる)という意図に見える。追記:パール金属のC-3729を買ってみたのだが、これコンビじゃなくて薄い砥石の2枚セットだった。んー、まあくっついてなくても別にいいというか、安くて薄い3000番にオマケがついてきたくらいの捉え方で筆者は満足している。余談:コンビ砥石という形態はなにも家庭用だけのものではなく、江部松商事(EBM)なんかは「金剛C/GC No10 コンビ」(120-240)というのを出している。
筆者としては(1000番で研ぐような包丁の仕上げには4000番くらいが欲しいというのには賛成だが)上は3000番くらいで十分なんじゃないのと思う。ズボラに使った包丁をズボラに研ぎたいときには中荒も便利で、筆者はすっかり、前述の400-1000コンビ+薄い3000という環境に慣れてしまった(薄い1000番は面直しにだけ使っている)。仕事で使う包丁なら700番で辛くならないうちに研ぐのが正解だと今でも思うが、家だといい加減ナマクラになってから研ぐことも多く、そのときに400番くらいがあると話が早い(いつからかわからないが、Amazonで中国っぽいブランドの400-1000コンビ+3000-8000コンビ+台+面直しのセットが3~4千円で売られており、実物がどんなものか知らないが、パッケージとしてはよく考えたものだと思う)。
どういうのが標準ともいいがたいわけではあるが、だいたい、右の壁に向かって奥から、中華レンジ、スープレンジ、茹麺、餃子台みたいな並びで、調理台や洗い場は背中側というのがありがちなパターン。厨房が広い場合、加熱調理器の側と調理台の側の間にテーブルやラックを置くことも多い。食器洗浄機は高いところ(テーブルの高さ)に置き、シンクはマルゼンのBSGなどゴミ入れがついたタイプか、ステンレスの三角コーナーを使うのが普通。中華レンジ2発の構成だと、一番奥がスープを使わない中華レンジになったり、反対に茹麺兼務になったり、麺類がどの程度出るかでいろいろな形がありえる。基本的には、料理長的な立場の人が厨房の真ん中近くの中華レンジ(全員の仕事が近くで見えて、直接指示が出せる所)に陣取ることが多いと思う。中華鍋を使う場合、鍋を持たずに盛り付けるということがほとんどないため、でき上った料理は左右後ろどちらから出しても大差ないのだが、盛り付けはレンジに向かって右側の台でやった方がスムーズだし、右手にお玉を持ったまま左手で物を取る機会が多いため、左に調理用の台+右に盛り付け台+後ろにホールとの受け渡し台、というのが理想的(ホールとの受け渡し用の台には盛り付けが終わっていない皿は置かない、というのが普通だと思う)。
オープンキッチンというのも曖昧な語で、料理を作っている様子をエンターテイメントとして見せたいとか、ごく小さい店でお客さんと顔を合わせながら料理を出したいという需要もあるのだろうし、カウンターメインで料理を作る人が直接お客さんから注文を聞く業態もあるが、それ以外の多くの場合は厨房とホールの間で人の行き来ができることが本質なんじゃないか。ようするに、2人回しの店で「作る人」と「その他全部やる人」みたいな分業をするなら、厨房とホールの間が皿の受け渡ししかできない構造だと不便である(ワンオペのバーなんかでは、フードを注文するとマスターが厨房に、誰かが帰るときにはレジに行ってしまい、ホールが客だけになる運用の店もけっこうあるが、メシ屋の場合、筆者が知っている完全ワンオペの店は全部洋食系で、中華屋は1件もない:ワンオペを想定していない店舗でワンオペを余儀なくされた経験なら筆者にもある)。もし3人で回すなら、洗い場とホール(とくにレジ)は行き来しやすいに越したことはないが、厨房がオープンであるメリットは限定的だと思う(いわゆるオーナーシェフに、店の中が全部見えていないと不安で仕方ないという人が一定数いるのは知ってるし、他人の商売にケチをつける気も毛頭ないが、調理担当の立場だけから言えば、オープンじゃない方がいろいろとありがたい:し、筆者のセンスだと厨房は見せない方が上品だと思う)。
ともあれ、厨房からホールに出て行ったときにお客さんの左側から皿を上げ下げしたい(たいていは右側にグラスやら何やら置いてあるから)、レジは出入り口の近くかつ厨房出入り口の近くに置きたい、カウンターからの注文は厨房で聞きたい(ラーメン屋さんなんかの影響なのか、カウンターには厨房から直接料理を出す中華屋もたまにある)、ホールから戻ってきたらそのまま洗い場まで食器を持って行きたい(保健所的にとてもアレだけど)、といった都合すべてを同時に満たせるのはかなりレアなケースになるのだろう(建物自体がL字になっているとか、倉庫なり事務所なりを店舗部分がL字に囲んでいるとか、そういうレイアウトだったらイケるのかも)。だたどちらにしても、料理を作る人の前が客席になるのはかなり特殊な形だろう(透明な仕切りがあって中が見えるだけのセミオープンみたいな配置の店ではけっこうある:ホールへの受け渡しの都合でコンロが左右どちらかの端になることが多い)。
加熱調理と並んで冷蔵冷凍も重要課題だが、食材の回転が速く生ものの扱いが少ない中華屋では、あまりたいそうな設備は使わないことが多い。たいていはホシザキのファン式冷凍庫1発にバックヤード冷蔵庫に厨房のコールドテーブル、大きめの店だと倉庫にも冷蔵冷凍各1とか、そんな感じ。生もの用の冷凍庫は、食品の劣化を本格的に遅らせようと思ったら-60度クラスのものが必要だが、そんなの(卸や加工業者を除けば)寿司屋さんくらいにしか置いていないと思う(冷凍庫ではなく冷蔵倉庫の規格だが、-30~-20度のF1級から10度刻みで-50度以下のF4級という国交省の基準があり、筆者が調べた限り根拠不明ではあるものの-60度以下のクラスをSF級(スーパーフリーザー)と呼ぶのも一般的な模様)。
冷凍保存のための冷凍庫の他に冷凍機(普通は急速冷凍機と称する)という機器もあるのだが、こちらは飲食店用というよりは食品工場で使われることが多い。方式として空気冷却(冷凍速度は遅いが、マグロを丸ごととか選別前の剥き貝(鮮度が落ちないよう凍らせてから選別する)とか、袋詰めしないorできないようなものも処理できる:プロトンとかCASとかいった装置で氷の結晶をコントロールするものもあるが、冷やす原理としては同じで冷風の吹き付け)と液体冷却(エタノールなどを冷やして、袋詰めした食品を漬ける:冷凍速度は速いが、普通は個別包装が必要)があり、水産加工場などではトンネルフリーザーと呼ばれるベルトコンベアと組み合わせたスタイルのものが多く使われている。
冷やすといえば、人間も冷やした方がいいのは間違いない(というか、冷やさないと死ぬ)。よほど酷い店でなければ中華屋の厨房にも冷房はついている。が、取り付け位置が悪いとレンジや茹麺などの熱気に負けて暖房機器みたいになってしまい、吹き出し口の形状が似ていることから「ドライヤー」と蔑称される(が、ドライな熱風ならまだマシで、湿った熱風が直撃すると生命に関わる)。
比重と比熱を考えなければならないため、けっこうメンドクサイ。前提知識として、水の比重は1で比熱も1(ジュール系だと4.184だが、水が1の方が計算しやすいのでカロリー系の単位を使う:以下同様)、食用油の比重は0.9くらいで比熱は0.5くらい、鉄の比重は8弱で比熱は0.1くらい、銅の比重は9弱で比熱は0.1くらい、アルミニウムの比重は2.7で比熱は0.2くらい(ただし金属は単体でのデータ:ステンレスの比重は8弱で鋼とほぼ変わらず、比熱は微妙に大きくなる程度)。密度も比熱も温度で変わるため、常温のときと油が燃え上がるくらいまで温度を上げたときでは誤差が出ることに注意(金属の場合、熱すると密度が小さくなって比熱が大きくなる傾向がある)。
ここで考えなければならないのは体積あたりの熱容量で、ようするに比重(体積あたりの重さ)と比熱(重さあたりの熱容量)を掛け算すればよい(g/cm^3 * cal/gK = (cal/K)/cm^3)。計算すると、水で1、油で0.45、鉄で0.8弱、銅で0.9弱、アルミとチタンで0.6弱、ステンレスで0.8~1.1くらいになる。これとは別に熱伝導率(W/mK)があって、鉄で84、銅で398、アルミで236、チタンで20ちょい、ステンレスで20弱くらいになる(流体はどうせ対流してしまうが、水で0.6、空気で0.0241くらいらしい)。実際の加熱は熱拡散率(=熱伝導率/(比熱容量*密度) = m^2/s)も考えねばならず、鉄で20ちょい、銅で100ちょい、アルミで100弱、チタンで10弱、ステンレスで4くらいだそうな。
体積あたりの(=鍋の厚さに比した)保温力は、銅とステンレスが高く、鉄が続いてアルミとチタンはやや低い。が、どれも水の保温力には敵わない。熱拡散の速さ(鍋の中で温度の高いところと低いところができにくくすばやく均される)は銅とアルミが断然高く、鉄はそこそこ、チタンは低く、ステンレスはごく低い。なべ底が厚いと、金属の断面積が鍋内面の表面積に対して大きくなるため鍋内部で伝わる熱量が大きくなり、熱源に接する部分と食材に接する部分の温度差も大きくなる(ので熱が伝わりやすい素材でないと極厚の鍋は作れない:作っても熱で歪む)。なべ底が極端に薄いと、食材を直接加熱している状況にどんどん近くなり、鍋の素材の物性は問題にならなくなってくるが、強度のある素材(チタンとか)でないと極薄の鍋は作れない。
自然と、厚い鍋にはアルミや銅、薄い鍋にはチタンが使われることが多く、鉄やステンレスはその中間くらいになる。アルミと銅を比べると銅の方が厚さに対する熱容量が大きく、鉄とステンレスを比べるとステンレスの方が熱拡散率が低い(ので厚い鍋を作りにくい)。普通の用途なら、(銅>)アルミ>鉄>ステン(>チタン)の順に厚い鍋に適すると思っておけば、大外しではないだろう。複数の金属を貼り合わせた多層鍋は、それぞれの物性のイイトコドリを狙ったものだが、熱膨張率の違いで歪むことがあるので注意したい。鉄には油馴染みがよいという特徴があるが、これは油との反応性が高いということで、炒めには使いやすいが揚げ物に使うと油の劣化が速い(銅も鉄と同じくらい劣化する)。ステンやチタンは錆びにくく手入れがラクである。
なお、中身が水を主としている場合、水の体積熱容量の方が金属の体積熱容量よりも大きいため、熱が伝わりにくいステンなどを厚く使った方が保温性が高い(=熱が伝わって温度差が均されるのに時間がかかる:当然温めるのにも時間がかかる)。ステンレスの胴にアルミ(またはアルミ+薄いステン)の底みたいな組み合わせが、技術的に可能なのかどうかは別としてもしできれば、熱源との熱交換は素早く雰囲気との熱交換は遅い鍋にできる(ただし、極薄のステンvs極厚のアルミみたいな比較だと、逆転することは当然ある)。
中華料理に馴染みのない人でも、中華鍋とか中華包丁がいろいろな用途に使い回される道具だということは聞いたことがあるかもしれない。実は、中華お玉も相当使い回される道具である。
お玉の用途というと、混ぜや盛り付けはもちろん、計量(お玉にいくつで計ったり調味料をお玉で取ったり)や加熱(お玉にごま油を入れて加熱したりお玉の中で酒を煮切ったり)にも使うし、中華レンジについている水道蛇口(ほぼ100%ネジ式蛇口を右に90度倒したものがついている:防災の意図で「レバー下が止水」に統一する動きもあるようだが、中華屋にとっては「下に叩くと出て上に叩くと止まる」仕様の方が便利)もお玉で操作する。
気に入らない奴を殴るのももちろんお玉で、頭にジャストヒットするとたいへんいい音がする(衛生上おおいに問題があるので、これをやった後は必ずお玉を焼こう)。元気な若い奴がお玉を引っ掴んで長の付く人(社長とか本部長とか)のところにツカツカ歩いて行ったときは「それじゃ小さいこっちを使え」と北京鍋を持たせるのが中華屋の作法である(元気な若くない奴の場合は普通に止める:一発ギャグなのでネタバレしている相手にはやらない)。