US-100


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TASCAMのUS-100について。その他の機種にも応用できそうな情報を含んでいる。買った後で知ったのだが、USシリーズは仕様が細かく異なり、周波数特性などは200と600だけグレードが高い(値段だけ見て100にしたのたが・・・まあ性能不足は感じていないのでよしとしよう)。2011年9月にはUS-125Mという「ちょっと豪華版」の機種も出た。

重要な情報
この記事は筆者が2011年4月に購入した個体に関するもので、その後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。

コンピュータ上の音量設定

ハードウェアに(とくにヘッドフォン用の)音量ツマミがついている場合、コンピュータ上で設定できる再生音量を(シンセ出力以外)できるだけ上げて、音量調整はツマミで行うとノイズを減らしやすい(デジタルで音量を下げた後D/Aコンバータからの小さすぎる出力をアナログアンプでまた増幅するという鈍臭い手順を避けるため:そのような仕様でない場合、この項のやり方によるメリットは得られないかもしれない)。

US-100をヘッドフォンメインで使う場合、アウトプットのツマミが良好に動作するのは「一番左にある目盛り(8時)くらい」と「真ん中より1つ右の目盛り(1時)くらい」の間である。自分が欲しい最小音量と最大音量がこの間に収まる範囲で、コンピュータから設定できる「スピーカ」と「Wave」の音量を上げてやろう(耳や機材を痛めないよう、小さな音量からゆっくり上げて調整すること:「スピーカ」の方が大きく音量が変わるので、先に「Wave」を全開にしてから「スピーカ」を操作してもよいかもしれない)。

US-100に限らずラインアウトメインで使う場合、品質優先なら「最大入力でも接続先で歪まない最大出力」でよいだろう(接続先機器のボリュームを絞ったうえで調整すること)。コンピュータの設定は両方全開、アウトプットツマミは左いっぱいの状態で、たとえばこのファイル(エネルギーが大きな波形なので大音量で再生しないこと)を再生しながら、音量オーバーになる手前までアウトプットツマミを操作する。もっと徹底的に調査したい人向けにファイル配布のページで「最大音圧テスト用flac」というファイルも公開している。

しかしイマドキ「ヘッドフォンアウトは12時まで」とか「トリムは3時まで」なんてのは「常識」ではないと思うのだが、多分、USBの標準ドライバで動く外付けサウンドカードは似たような動作をするのではないか。

録音関連

ラインの規定入力レベルが-50dBV~-10dBV(取扱説明書にはゲイン最小時の値しかないが、TASCAMのサイトにはこのような記述がある:インプットツマミは一律で40dbゲインらしい)とやけに低いので、ラインで入れるならインプットツマミは左いっぱいでよさそう(というか、-50dBV~-10dBVというとマイク~ライン対応であるMT-4Xと同レベル)。

マイク入力も規定入力レベル-63dBu~-23dBuとかなりハイゲイン。バランス入力でモノラルフォンプラグのマイクでも普通に使えるが、チップがリングとショートしているタイプのマイクはNG。ステレオマイクもダメだが、すでに触れたようにライン入力のゲインが非常に大きいので、変換プラグを使ってラインに入れる手はあるかもしれない(未確認)。ファンタムもプラグインパワーも対応なし。

ようするに、普通のダイナミックマイクなら普通に使えて、バランス出力ならハムノイズに強くなり、ファンタム駆動のマイクは外付け電源か電源つきアンプが必要、プラグインパワーは電源つきアンプを噛ましてラインで入れる、ということ。筆者はファンタムやプラグインパワーが「根元の」機器についているメリットをあまり感じないし、ライン信号までバランスで送ることもないと思うので、マイクをバランス受けしてくれるだけで満足している。

ギター入力の性能が高く、ソフトウェアイフェクタでオーバードライブをかける用途にも普通に使える(FreeAmpで遊ぶのが楽しくなった)。本体サイズが小さいので、ギターのすぐそばに置いて短いケーブルを使えばさらにローノイズにできる(ただし、その使い方だと付属のUSBケーブルがちょっと短い)。

筆者の手元で実測したところ、入力選択ラインかつインプットツマミ左いっぱい(ゲイン最小)で無入力(なにも接続しない)or電源を切ったMT-4Xを接続したときの録音ノイズフロアは、ピーク値で-78.2dbFS、RMSで-91.1dbFSくらいだった(接続ありだとかなり安定している)。

入力はギター、マイク、ステレオラインの3系統あり、同時に使えるのは1つだけ(ギターを接続するとギター、接続しないときはスイッチでマイクかラインを選択)。マイクとギターはセンターPAN固定で、他の機器のようにマイクは左でギターは右といった仕様にはなっていない。同時録音できないデメリットはあるが、ギターを繋ぐ/繋がないで入力が切り替わる動作も、これはこれで便利である。

再生関連

全般にごく普通の再生ができるが、筆者の手元の個体にサインスイープを食わせると80Hzくらいから下が暴れる(ヘッドフォンアウトとラインアウトとも、というか、増幅率以外同じ信号じゃないかと思う)。100Hzくらいから上は、微妙に濁るポイントがあるものの素直な鳴りで、すでに触れた音量設定さえきちんとやればノイズレベルも低い。スイープ信号だとやや左右に振れるが、オンマイクの音は普通に定位する。

Fast Track Ultra(以下FTUと呼ぶ)を導入したので「パソコン>FTU>ヘッドフォン」の直接出力と「パソコン>US-100>FTU>ヘッドフォン」とルーティングした出力を比較してみた(どちらもReaper0.999からASIO4ALL使用:ADコンバータ1段分US-100が不利でフェアな比較ではないが、手元に入力切替が可能なモニタ機器がないのでやむを得ずこうした)。FTU付属のミキサーソフトを使った擬似ブラインドテストで、ソースはボスのHuman Touch、出力レベルはReaperのメーターを参考に根性で合わせた。

低音楽器(バスドラ、ベース、フロアタムなど)のキャラの変化はK240MkII(5勝0敗)か、HD558でもコツ(一番低いあたりの厚みで判断する)を覚えてものすごく真剣に聴けばなんとか判別可能(4勝1敗)、高音の変化はそれよりもちょっとだけわかりやすい(両方5勝0敗:単純な比較はナンセンスだが、CBR192kbpsのmp3と生Waveを判別するのとさほど変わらない難易度)。いっぽう、中音域に意識を集中しているとほとんどわからない(最後にやったのにK240MkIIで2勝3敗と負け越し、HD558でテストする気力は残らなかった:くやしいので、もうちょっと静かな部屋に引っ越したらそのときは、と負け惜しみを言っておきたい)。

気合を入れたテストだったのでどうやら多少違うらしい結果が出たが、正直なところ、筆者の部屋に来た誰かがイタズラでUS-100とFTUの配線を取り替えていっても、音だけで気付く可能性はほぼなさそう(入出力数が違うから、鳴るはずの機材から音が出なくて気付くとは思う)。

実測結果

「どうやら多少違うらしい結果が出た」とは書いたものの、実際に性能を測定してみると一気に自信がなくなった。インパルス応答とランダムノイズ応答とサイン波応答FTUのものとほぼ同等で、耳で聴き分けられるとは到底思えない。

もちろんインチキテストを行ったつもりはなく、アナログに戻してまたデジタル化してさらにアナログ化したオーバーヘッドが影響したか、あるいはブラインド条件が甘かったのだと信じたい(まあ筆者のやるテストの精度なんてそんなものなのだろう)。ノイズレベルだけはさすがにUS-100の方が高いため、影響したとすればそれくらいだろうが、FTUは引越し前の比較的良好な環境でテストしているためちょっとハンデがある。

同条件で無接続ノイズを比較したところRMSで13dbくらいの差、0dbFS基準が10dbくらい違うので入力換算だと2dbくらいしか変わらない(FTUの天井の高さは有用だし、大入力に対応しながら入力換算ノイズも抑えているのはさすが:バランス受けなので無接続ノイズに関しては多少不利、という都合もある)。

ハードウェアボリュームについて。OUTPUTのボリュームカーブはだいたい、全開(5時)を0dbとして、3時で-4db、12時で-15db、9時で-30dbくらい。INPUTは、全開(5時)を0dbとして、12時で-17.5db、全閉(7時)で-38dbくらい(ライン入力の場合)。

他の機器への影響

重要な情報
以下は未確認情報で憶測の域を出ない。

本来的にはUS-100の問題でないはずだが結果的に、録音動作中は他の機器に影響を与える可能性があるようだ。筆者の手元では、PANDORA miniと併用すると1KHzを基音としたバズが乗る。パソコンとオーディオ機器の電源はいちおう1点アース(エアコン用コンセントのアースだけど)してあるが、これを浮かせても変化はない。

いろいろテストしたところ、ダイレクトモニタをしながら音声入力のホット(シグナル)をUSBのグランドとショートさせて録音状態にすると同じノイズが生じることがわかった。オーディオラインのグランドとUSBのグランドがきちんと機能しているのだとすると、このノイズは「USBグランドとオーディオグランドの差分」ということになりそうだ。由来は不明だが、もしかすると大電力を要求されたホストアダプタがヨタヨタになっているのかな、という気もする(グランド自体は普段からハムなどで揺れまくっており、録音動作中だけ妙な差分が出てくる)。

ともあれ、グランドがグランドとして機能している(つまりUSBのグランドとUSBのシグナルがコモンモードで、オーディオのグランドとオーディオのシグナルがコモンモードで、それぞれ揺れている)限り揺れ自体は問題でないし、オーディオとUSBでグランドレベルが異なってもどうということはないはずなのだが、どうもPANDORA miniのグランドの扱いが簡略すぎるのではないかという気がする(まったくの当て推量)。

このノイズは、PANDORA miniへの給電をパソコンに繋がないセルフパワーのUSBハブから行うことで(少なくとも筆者の手元では)回避できる。オーディオ信号はPANDORA miniのラインアウトから出して、US-100のマイク入力で受けるのがもっともノイズが少なく利便性が高いようだ。いづれにせよ、PANDORA miniは単体でもノイズレベルがかなり高く、いっぽうUS-100のギター入力はえらく高性能なので、ギターの音を入れたければ直接入れてやるのが素直なようだ。

影響範囲は限定的だと思われるが、複数機器の併用(とくに、同じコンピュータに接続したUSB機器同士をオーディオケーブルでも繋ぐ場合)で問題が出たら、ちょっと疑ってみてもよいかもしれない。単体での動作には影響ないはず。

またどうやら、フォノアンプのグランドがシャーシに落ちているようで、USBとヘッドフォンだけ接続した状態でフォノアンプモードにしてインプットのレベルを上げ本体金属部分に触れると触れるとハムを拾う(フォノアンプを使うときはシグナルアースを繋ぐので、この動作自体はまったく異常でない)。

スタンドアロン動作

重要な情報
以下はあくまで「やってみたら動いた」という報告と「やってないけど動くかも」という推測であって、使い方の推奨ではありません。

メーカーが「やめろ」と言っている使い方なので故障や不具合が生じる可能性が否定できないのだが、少なくとも筆者の手元では、セルフパワーのUSBハブに繋ぐことでスタンドアロン動作する(パソコンの電源を落としてもUS-100単体で動く)ことが確認できた。

さらにトリッキーになるが、ダブル給電タイプのケーブルでも動いた。エレコムのUSB-M5DPBKのパワーラインをパソコンに繋いでいないセルフパワーのハブにつないで、機器側コネクタをバスパワーのハブ(プラネックスのPL-UH401:パソコン側のコネクタがミニBなのがポイント)に入れ、PL-UH401にUS-100を接続したところ、ダイレクトモニタ(DI動作)もパソコンモニタ(サウンドカード動作)も普通にできた。理屈としては、単純にパソコンに繋いでいないセルフパワーのハブに繋いだときと比べて、給電だけしてデータラインが浮いていることに変わりないので、それにプラスしてハブ経由でも動いただけ、ということになる。

よりいっそうデンジャラスな試みとして、Aメス<>ミニAオスの変換ケーブルを使って、データラインをアドエス(WS011SH)に入れてみたところ、機器の認識音は鳴るものの、オーディオデバイスとして機能しているかどうか確認できなかった。まあこれは仕方ないというか、そもそもデフォルトのアドエスにUSBオーディオクラスドライバが入っているとは思えないし、入れたとしてもオーディオデバイスの選択手段がないので、マトモに動くことは期待していなかった。

FTUを買ってサブマシン用のサウンドカードが他に必要なくなったのと、メインマシンはオンボードで足りているため、現在はスタンドアロンのDI兼スプリッター(ギター入力から、左右の出力をミキサー直行とPANDORA mini>ミキサーに分け、クリスタルクリーンとパラ出し構成)にしている。DIとしての性能だけ見たらFTUを使った方がよいのだろうが、ソフトウェアイフェクタを使いたいときにミキサーの操作だけで変更できて便利(ミキサーのセンドリターンを使う手もあるが、筆者の構成だとパラで出した方が手数が少なくて済む)。マイクアンプも普通に優秀なので、PANDORA miniにマイクの音を突っ込むのにも使える。

2011年11月追記:ギター用の機材が増えてきたので、DI役からクリーンブースター(単純に音をデカくするアンプ)役に配置換えした。音色も素直だし、入力レベルと出力レベルを別に設定できるし、クリップサインもついていて便利である。

気付いた制限事項や仕様

少なくとも筆者が所有している個体では、インプットツマミを回すとガリが乗る。普通の録音をしているときに回すようなものではないので別に問題ないのだが、覚えておいて損はないと思う。

ヘッドフォン出力がやたらとハイパワー。筆者の勝手な印象だが、TASCAMはこの手の「くっだらねぇクレームが来ないようにあり余るほどのマージンを確保する」ワークアラウンドが好きなように見える。マイクインのゲインが高いのや、マイクとギターが排他でセンター固定だったり、ヘッドフォンとラインアウトが排他だったりするのも、もしかしたら同じ理由かもしれない。

標準ドライバを使うのでパソコンソフトからの出力は32bitでよい。MSGSとASIO4ALLの併用は、筆者の手元ではできない。



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