ソフトウェアの入手先などはソフトウェアのページを参照。それなりに熟練した読者を想定しているので、細かい説明は省いた個所が多い。設定ファイルなどの類はファイル配布のページにまとめてある。重複する内容もある。
このページだけ小見出しのつけ方が他と違うが、日記ページで扱ったネタを書き直したものが多い影響なので気にしないで欲しい。
見出し通り、アコピ音源を(EQで)ぶった切る。レコーディング中に「薄いピアノ音源」が見つからず、結局加工で押し切ったときのメモを元にしている。ヴォーカルやギターなどと混ぜても邪魔にならない音作りが趣旨である。
加工元として、DSKのDSK AkoustiK KeyZ、4frontの4Front Piano Module、Safwan MatniのProva(Reaperから見ると「Ugaret」というよくわからない名前になっている)とJazz Baby、オマケでEVMのEVM Grand Pianoを用意した。公開用サンプルを作るヒマがないので、とりあえず説明だけ。
共通加工(ノーマライズなど細かい手順は省いてある):
DSK:
もっとも加工の甲斐があるのはDSK、グランドピアノの音色を使った。ハイパスを同じ設定で重ねがけして、2500Hz,1.5oct,-9dbのEQをかけ、さらに1500~2000Hz,2oct,-6~12dbくらいのEQをかけてやると、ホンキートンクとピアノの中間くらいの音を作れる(最後のEQでキャラの微調整をする)。極端なロングトーンが苦手なのが残念(ピッチが微妙に怪しいのは、ホンキートンクらしさを増す方向に働いてくれる)。
provaとJazzBaby:
ポンポン系音色ではprovaが使える。ハイパスを同じ設定で重ねがけして、7000Hz,1oct,-3dbのEQをかけると、ひんやりとしたエレピのような音になる。キンキンした音があまり目立たないのも特徴。JazzBabyで同じ処理をEQのピークだけ8000Hzに変えてやると、クラビコードとチェンバロを折衷してエレピ化したような不思議な音になる。
4front:
いちばん「ピアノっぽさ」が残るのは4front。5000Hz,1oct,-4.5dbのEQをかけると、ピアノっぽいのに薄い音を作れる。単品で聴くとprovaの方がそれっぽいのだが、ほかの音と混ぜるとこちらの方がピアノらしさを保っているように思う。元音も非常にピアノらしい音。
EVM:
番外。EVMシリーズは「単体で使える音色」がウリなので、過激な加工をすると酷いことになる。
2009年5月現在、筆者の打ち込みベースはFluidとEVMのbasslineがメイン音源である。ドラムスは生っぽい音や加工の自由度がものをいうことが多いが、ベースはある程度「打ち込みっぽい」音色を選んだ方が違和感がない(よほど凝った打ち込みをするなら別)という考えが基本にある。
その意味でEVMのベースは使いやすいが、ウッドベースはDSKのBassZを優先している(フレットレス楽器だと、DSKシリーズ全般に見られる微妙なピッチの甘さがかえって効果的なため)。筆者の場合、モデリング系のベース音源は(ギター音源もだが)どうも苦手である。
Fluidベースは無加工で使いたいときに便利だが、アタックが妙に遅いので打ち込みの時点で対策(30msくらい遅れるので、テンポ125の曲なら前もって30チックスくらい前にずらしておく)するとよい。
basslineは本体にローパスがついているが、本番の録音ではオフにして後から調整した方が細かく作業できる(かなり過剰に厚い音だが、削り系の加工になるので作業自体はやりやすい)。ソフトウェアのページで触れたバグには注意が必要(知ってさえいればどうということはない)。
代表的なリバーブとして、エコールーム(部屋とスピーカとマイクを使った力技:最初期のリバーブ)、スプリング(スプリングの束の両端にコイルを置いたような構造で、音声信号をいったん運動に変え、スプリングの振動を改めて電気信号に変換するという、なかなか変態的な発想で作られている:入力>振動を一定時間維持する媒体>出力という流れ自体はエコールームと変わりないが)、プレート(スプリングではなく大きな金属板にスピーカで出した音波を直接ぶつけて、マグネティックピックアップなどで拾う:名前はプレートだが、実際には箔のような薄い金属を使う)がある。デジタルリバーブの場合は、アナログリバーブをモデリングしたものやルーム/ホールシミュレーターやランダムディレイ的な動きをするものなどがあり、たいていは「ルーム、ホール、プレート」の3種類とサービスがいい場合はオマケでスプリングもついてくる、というところまではよい。どれを使うのかは(見出し通り)まさに好みなのだが、使い方によっていくつか注意が必要である。
まずは筆者も大好きホールリバーブ。ライブ演奏をライン録音したような場合なら何も考えずこれを使えばよいのだが、スタジオなどで録音した音にホールリバーブをかけると「誰もいないホールで演奏している」ような独特の雰囲気になる(ホールシミュレーターにempty hallなどという名前でこの雰囲気を強調したプリセットが入っていることもある)。人がたくさん入ったホールのイメージを出したければオーディエンスノイズなども用意せざるを得ないし、そもそも場内に人間(壁などに比べ柔らかいので高音を吸収する:500Hzくらいより下の減衰が鈍くなり、それより上は比較的フラットに落ちるようだ)がいる影響をキッチリシミュレートできるリバーブはあまりない(寂しい感じがするときはウェットのハイを少し削ってみる、という対策は可能)。トータルでかけることが多いと思う。
これに対しルームリバーブ(普通のルームシミュレーターとエコールームシミュレーターを両方含む)はもっと気軽に使える。ヘッドフォン/イヤフォンでのリスニングを見込める場合にはとくに有効だろう。ルームサイズの異なるリバーブを重ねがけして空間イメージをぼかしたり、レコーディングスタジオやらガレージやら一般住宅やらをモデリングしたリバーブで「録音している場所に居合わせたような」演出をしたり、複数のリバーブをかけたうえ途中でウェットを入れ替えて「部屋が変わった」感じにしたり、いろいろと小細工もしやすい。トータルでももちろん使うが、各チャンネルに異なる設定でかけることもよくある。
筆者はあまり使わないプレートリバーブだが、明るい音色が特徴である(高域にクセがあるということでもある)。ルーム/ホールと違ってアーリーリフレクションの概念が曖昧なので、プリディレイ(実機の場合は、後段に別途ディレイを挟まなければ、スピーカから金属板までの距離で決まる)の設定に気を使った方がよいだろう。スネアドラムやヴォーカルなどにチャンネルリバーブとして使うことがほとんど。
スプリングリバーブは非常にわかりやすい。ギターアンプやキーボードアンプについているリバーブがスプリング(内蔵できるサイズのアナログリバーブというとほぼこれだけに限定される)なので、アンプでリバーブをかける場合はそれを使う。リバーブがついていないアンプの場合は、録音後にシミュレーターを通せばよい。ウェットレベルは、ギタリストが「これだけかけたい」と主張するレベルの半分をまず提案して、最終的に2~3割減を落としどころにするのが王道である。
最後にランダムディレイ系のデジタルリバーブ。部屋の反響を物理モデリングするタイプやインパルス応答(IR)を利用してシミュレーションするタイプと比較して、総合的な質感では一歩及ばないものの、スネアドラムやアコギなどに使うとアタック感とボリューム感の両立がしやすい。とくに打ち込みのスネアドラムに合うと思う。ハイハットなどにアーリーリフレクションを極端に強調してかけるのも手。
トータルリバーブを単にマスターからセンドせず、リバーブを強めにかけたいパートの音量を上げ弱めにかけたいパートの音量を下げたミックスを用意してリバーブをパラ出しし、本来のミックスに重ねてやるとより細かい調整ができる。とりあえず全チャンネルにかけてパラ出ししてからチャンネルごとに調整してもよいだろう(思い切り凝るならこっちの方がラクかな)。チャンネルリバーブの後でトータルリバーブもかける場合は、チャンネルリバーブをパラ出ししておいてまとめてウェットレベルを調整するとラクである。
たとえ業務用のモニタヘッドフォンでも、フルフラットな特性のものはほとんどない。SonyもAKGもオーディオテクニカも、ある程度ドンシャリ傾向のある製品を出している。2本あたり5~10万円も出せば「周波数特性±3db」くらいを謳うモニタスピーカは手に入るが、モニタヘッドフォンにはそういう製品がほとんどない。
これはおそらく(耳や頭の形などで簡単に音が変わるという技術的な問題もさることながら)需要の問題で、フルフラットな再生環境が必要になるのは演奏チェック(たいてい複数人で同時にやる)のときくらいだからだろう。演奏をチェックする場合は「演奏時に鳴っていたのと同じ音」が求められるが、ミキシングなどのモニタではユーザーの手元で再生される音にある程度歩み寄る必要がある。録音中のモニタは微妙だが、多くの場合は後者に近いモニタが好まれるだろう。
演奏チェックをフルフラット環境でやるメリットは否定しないが、スピーカと部屋を両方用意するのは相当大変である(ちなみに、モノラルで出さないと非常に面倒なことになる)。スタジオを使わない場合は、ミックス用のヘッドフォンなりリスニング用のスピーカなりをEQで調整して使うのが無難ではないかと思う(リアルタイム性は求められないので補正はやりやすい:ただし、元が素直な鳴りでないと調整のしようがない)。
かけた方がよい手間のページにも同じことを書いたが、機材は(とくに、スピーカやらヘッドフォンやらには高速で運動する部品があることだし)使っているうちに必ずヘタるし人間の耳も年齢とともに高域に鈍くなってくるので、たとえ同じ環境を使い続けていても、大切な作業の前にはモニタのチェックをした方がよい(大掛かりなことをやらなくても、サインスイープと等ラウドネス信号をちょっと出してみるくらいで十分有効だと思う:筆者が作成したファイルと使い方の説明が、急がば回れの加工のページにある)。
ハイハットの音色作りは比較的簡単なのだが、音量をどうするかはかなり悩ましい。というのは、再生音量(ラウドネス曲線)と再生環境(フラット/ドンシャリ)の影響をモロに受け、小音量で聴こえず大音量でうるさい、再生する機器(おもにスピーカまたはヘッドフォン)によって存在感が大きく異なる、という問題が生じるからである(オーディオメーカーが何故「ラウドネスボタン」を廃止したのか、理解に苦しむ)。想定するリスニング環境によって狙いを変える必要がある。
筆者はたいてい、大音量かつドンシャリ環境と小音量かつフラット環境は切り捨ててしまう。前者は「シャリシャリした音が好きな人」しかやらないわけで、「これじゃうるさいかな」と心配をする必要をあまり感じない。後者については「わざわざフラット環境用意したなら音量もそれなりに出してよ」と開き直っている。こう考えてしまえばあとは、小音量かつドンシャリ環境で音が消えず、大音量かつフラット環境でうるさすぎない範囲で好みの音を狙えばよいことになる。
筆者の場合さらに、大音量かつフラット環境と中音量かつドンシャリ環境を優先的にケアすることが多い(小音量かつドンシャリ環境については曲としての響きなどを考えず、ハットが最低限の「機能」を果たしていればそれでよしとする:比較的人口が多い層なので、同様のやりかたをオススメはしない)。ただしここで言う「フラット環境」とはあくまで「比較的」フラットな環境で、フルフラットな環境ではない(モニタの項目を参照)。
なお、700~6000Hzくらいの音は小音量でも消えにくいのでイコライザで持ち上げておくと音量対策になるが、他の楽器との兼ね合いや1000~3000Hz周辺が耳につく音になりやすいことやハット自体の音色の変化を考えると、500~700Hzあたりを微妙に持ち上げるのがよいのかなという気がする(少しジャリっとした重めの質感になる)。反対に、1KHz以下を抑え気味にして2~9KHz(とくに2KHz周辺と8KHz周辺)あたりを軽く持ち上げてやるとAHEADスティックを使ったような音になる。他の音(とくにスネアやアコギ)と重なると非常に埋もれやすいことや、4000~8000Hz周辺を冗談かと思うほど持ち上げているヘッドフォンやスピーカがあることにも注意したい。ほぼ必ず「他のタイコ」(とくにバスドラとスネア)と同時に鳴る楽器なので、同時打ちの質感を必ず確認しておくべき。また16KHzくらいから上は人によってまったく聴こえないので、マスタリングまでに1度くらいは、ハイをバッサリ落とした音もチェックしてみるとよいだろう。
打ち込みでオーバードライブギターやディストーションギターを鳴らす場合の話。ギターを打ち込みで鳴らすこと自体にムリがあるため、あのまりあさん(NiftyのGFG03504の人:データ集その1、その2)のようなド変態でない限り、ある程度の妥協が必要。余談:あのまりあさんのデータがいまだに配布されていることは2ちゃんねる掲示板で知ったのだが、現在は生楽器メインにシフトしているそうな。
ディストーション/オーバードライブギターと銘打ったサウンドフォントにも品質の高いものはいくつかある(PowerDs.GtrやOdGtLP-JPなど)が、デモの作成にはともかく、本番録音ではクリーンギターの音色(サウンドフォントでもVSTiでもよい)から自前でディストーションギターのサウンドを作った方が自由にやれる。しかしこれがけっこう難しい。
筆者が触った中ではFreeamp3がもっともイジりやすかった(ワウ/オートワウやコーラスを挟むのが簡単:全開に設定したF_S_Tubeも高音域に使いやすい)が、肝心の音源があまり見当たらない。イフェクタ、アンプ、キャビネット、マイクとシミュレータを通していくわけだからクリスタルクリーンの生音(エレキギターをミキサにつないだだけの音:アクティブピックアップを使うか、パッシブの場合はDIをかますことが多い)が欲しいわけだが、制作用にしか使えない音色(ただ鳴らしてもショボショボの音しか出ないはず)なので探してもなかなか見つからない。
筆者が試した限り(といっても5種類くらいしか試していないが)、Fluidの28番(クリアギター)がもっとも使いやすかった。平坦な音を淡々と出してくれるのが非常にありがたい(さすがFluid)。次点でElectric_Guitar_sf2あたりか(アタックがやや強めなのとベロシティが一定しないので、事前にコンプをかけておいた方がよいと思う)。モデリング系のVSTiにもよさげなものがいくつかあるが、まだちゃんと試していない。
構成は、プリアンプ(シェイパー兼用)>外部オーバードライブまたはペダルオーバードライブ>ワウやコーラスなど>アンプオーバードライブ>キャビネットという感じにすることが多いだろうか。プリアンプシミュレータはRuby TubeをメインにMusicrow GroupのPreampやTbTシリーズのTGR-18あたりも使い、外部ODはF_S_TubeをメインにアンプODを使わない場合はBJ Overdrivも選択肢に。イコライザはFreeampのペダル/ラック/アンプのうちどこか1箇所で済ませることが多く(生音の音質を補正するためにプリアンプの前にかますのも手)、キャビネットの前にロングディレイを挟むこともあるがその場合はポストゲートを使う。ペダルODはMellow~Driveの間、アンプODはSMOOTH~DRIVEかDYNAMIC~OVERの間(たまにHALFかGLOW)、キャビネットは4X12のCLEARかBRIGHTかNORMAL(たまにWARM)を使うことが多く、マイクはセンターを外している。ダイナミクスはシェイパーである程度そろうのでコンプはあまり使わず(元が打ち込みなのでタッチがそろわない心配はあまりない)、リバーブも最初からかかっている音が多いのでほとんど使わない。
このとき、打ち込みのベロシティはあくまで「ディストーションがかかる深さ」を決めるだけであって「ピーク音量」を決めるものではないということに注意しよう(ピーク音量は後から編集して変える)。あまり大きくベロシティを振らない方がよいと思う。打ち込みのワークアラウンドとして、ハンマリングやプリングをピッチベンド(凝る場合はさらに微妙なノイズも)で表現することが多いが、現在どの弦を鳴らしているのか把握しておかないと作業が進まなくなる。生録音の場合にはエキスパンダやハイパスを入れることが多いが、サウンドフォントからの録音なら必要ないかもしれない。ファイル配布のページに筆者が加工したFluidギターの音色サンプルがある。
ちょっと考えれば当然の話ではあるのだが、線型時不変な応答で構成されるデジタルイフェクト(EQとか周波数フィルタとかディレイは一般的にこれ)はどんな順番でかけても結果はほぼ変わらないので、自分が調整しやすい順番に並べてしまって構わない(数学的にはf * g * h = f * h * gということ:「*」は重畳和or重畳積分を示す)。というか、作業しやすい順にした方が確実によい。
たとえば、ハイパスフィルタで80Hz以下を切ってからディレイをかけても、ディレイをかけてから(ドライとウェットの両方)ハイパスフィルタで80Hz以下を切っても、結果は同じである(丸め誤差の出方などが変わる可能性はあるが、デジタル音声処理は32か64bitくらいでやるのが一般的なので、ほぼ完全に無視できる)。同様に、ローパスフィルタで切ってからEQをかけても、EQをかけてからローパスで切っても(オーバーシュートでクリップさせる=歪ませるようなヘマさえしなければ)同じ結果になる。
ただし、同じディレイでもたとえばテープディレイシミュレーターなどは時不変でない応答をするし、EQでもたとえばビンテージの実機をシミュレートしていて微妙に音が歪むようなものがあるかもしれない。
順番で結果が異なるのは、コンプやオーバードライブなど非線形の(=歪みが伴う)イフェクト、オートワウやヴォコーダーなどドライシグナルがトリガーor変調波になるイフェクト、コーラスやフランジャーなど時不変でないイフェクト(おもにLFOを使うもの)、ピッチシフターやオクターバーなど周波数変調(FM)を伴うものなどである(条件が重複しているものが多いが煩雑になるのでイチイチ指摘しない)。
たとえばローパスフィルタで1KHz以下を切ってからピッチシフターをかけるのと、ピッチシフターをかけてから(ドライとウェットの両方)ローパスフィルタで1KHz以下を切るのでは結果が異なる(前者の場合1KHz以下のドライシグナルに由来する信号はウェットに現れないはずだが、後者の場合変調の結果1KHz以下になればウェットに現れる)。
なお、リバーブなどセンドリターンでかけることが多いイフェクトでも、パラで加工しないならインサートでかけても結果は同じ。デジタルでも(イフェクトのウィンドウを開かずに)メイン画面のフェーダーでウェットレベルを調整できるとか、同じイフェクトを手軽に複数のトラックにかけられるという利点があるが、これは利便性や処理の重さだけに影響するので好みやマシンパワーやディスプレイの大きさなど自分の都合で決めてよい(少なくともIRリバーブなら、同じ設定で各トラックにかけてもバスにまとめてからかけても結果は変わらない:ランダムディレイ系のリバーブだと乱数の取得方法によって出力が変わり得るが、制作上の影響はない)。また、マキシマイザーをかけた後はオーバーシュートに敏感になるので、単純なノーマライズ以外の処理は避けるのが無難。
当然ではあるが、ステレオディレイなど「左右の音が異なっていないと意味がない」イフェクトをかけた後は、音量での定位操作(=普通のPAN操作)に限界がある。少なくとも、左右どちらかいっぱいまで振るとステレオでかけた意味がなくなる(逆手にとって、ステレオコーラスを入れた後にオートパンで大きく振るなど、特殊な使い方ができないわけではない)。ハース効果による定位振り(チャンネルディレイで左右片方だけ音を遅らせる:副作用として現れるコムフィルタ様の効果に注意)も考慮に入れつつ調整しよう。
筆者が実験したイフェクタなどの応答ファイルは、感想コーナーの音声サンプルのページ、歪み系の基本的な仕組みについては急がば回れのイフェクタを知ろうのページを参照。ここでは各工程の役割などについて触れる。
まずは最小音で歪まない(弱い音はクリーンで強い音は軽くドライブさせた)クランチ。これをやるにはクランチチャンネル相当の機器(実機アンプ、アンプシミュレータ、クランチペダル、ゲインを上げた小型アンプなど)に直で入れるのが手っ取り早い。演奏の強弱だけで歪み方の幅が賄えない場合は、ギター本体のボリューム、ブースター、ボリュームペダルなどを使う。ここからゲインを上げると歪みっぱなしの(ずっと歪んでいるが深さが変わる)クランチになる。
歪み方のキャラによって音量のニュアンスが変わる。音量が明確に頭打ちになるアンプだとトーンの使い分けがしやすく、ゆっくりと歪んでいくアンプだとひとつのトーンでダイナミクスによるニュアンスを出しやすい。ようするに、前者はギター本体のボリュームで歪みをオンオフし境界は跨がない使い方に、後者は音量とともに歪み量も増減する使い方に適する。
プリドライブでの帯域の特徴(ドライブする直前での低域や高域の出方)も重要で、とくに低域は突っ込みすぎるとブリブリしたテイストが強くなるし、不足するとスカスカになる。帯域特性はアンプの内部でかなり変動するため、ローの強い出力が合うアンプと弱い出力が合うアンプがある。もちろん、ポストドライブでの変動も関与する。
手前をオーバードライブにすると少し事情が変わり、大きな信号をペダルに入れてもある程度潰されてアンプに渡される。つまりペダルでのドライブが強いほどアンプに届く信号のダイナミックレンジが狭くなり、アンプ歪みの増減幅も小さくなり、大音領域でのペダル歪みの割合が増加する。ペダルでのドライブを最小限にしてアンプで潰すと、最小歪み量を底上げしつつ軽く味をつけた格好、ペダルでのドライブ量を増やしてクリーン系のアンプに出すとペダル主体での歪みになる。
オーバードライブの前にごく穏やかな歪みイフェクタ(チューブプリアンプ、クリーンアンプシミュレータ、ドライブを絞ったオーバードライブなど)を追加するとさらにキャラが変わり、とくにペダルで歪ませる場合に影響が強く出る。初段の矩形波系で波形を太らせ、オーバードライブで鋸波系の削りを加えつつ大音領域にパルス波系歪みを足し、アンプでまた丸めて完成する格好。
もしチューブアンプをフルテンで鳴らせるなら、チューブスクリーマーだけ挟んでキャラを調整し、プリ段とパワー段とキャビネットで複合的に歪んだトーンを楽しむのが最高に贅沢だろう。