TH-7BB


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FostexのTH-7BBについて。

重要な情報
この記事は筆者が2015年5月に購入した個体に関するもので、その後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。

一応示しておきたい情報
筆者は眼鏡を常用しており、ヘッドフォンを使用する際にも外すことはまずありません。採寸はしていませんが頭は大きい方です。

仕様など

スタジオモニタからポータブルオーディオまでという不思議なキャッチコピーを持つ、が出音を聴いてみると実際その通りでまたびっくりする。何年も前から欲しいとは思っていた機種で、2015年にサウンドハウスで4000円になっているのを見つけて買ってしまった(買ったのは5月だがけっこう前から安かった)。とりあえず公式サイトから仕様を抜き出しておく(表組みをタブ区切りに筆者が改めた)。

形式 セミオープンダイナミック型
ドライバー φ40mm
再生周波数帯域 20~20,000Hz
インピーダンス 70Ω
感度 98dB/mW
最大入力 100mW
本体質量 約260g
ケーブル長 1.2m(Y型タイプ)
プラグ ステレオミニプラグ
付属品 1.5m延長ケーブル変換アダプター
ヘッドバンドはノッチのある伸縮タイプ、アームはねじり対応の両持ちでドライバ反転なし、イヤーパッドは耳全体に乗る感じの小型アラウンドイヤー。パッド類は合革、ヘッドバンドの伸縮部のみ金属、他はプラスチック。かなり密閉に近い作り(半密閉と呼んだ方が近いかもしれない)。

ドンシャリとモニタの融合

低音が出る。筆者はこの手の紹介でまず使い勝手やデザインの方向性から書き始めるのが常だが、この機種の特徴はやはり低音。20Hzくらいの極低域まで分厚く出てくるにも関わらず非常にタイトで、歯切れの悪さや上を覆い隠すような感じはない。量的にはHD558と大差ないのかもしれないが、密閉型並にローエンドまでしっかり出るのと、ぼやけたところがまったくないために、かなり多く感じる。高域はシルキー系の質感でどこまでも伸びるが、量的にはK240MK2ほど多くない。中高域に軽いピーク(と鋭いディップ)があり、ここで明瞭感を出しているのだと思う。

全体としては、典型的なドンシャリでかつ締まりとキレがあり、これでごく大音量が得意だったら理想的なDJモニタになるのかもしれないが、爆音再生には向かない(ステージorPAモニタレベルの音量に限った話で、コンプやマキシマイザーでヘマさえしていなければ、かなり大きめのリスニングくらいの音量には十分耐える:限界を超えると、明瞭感を演出している周波数ピークがうるささを感じさせるようになる)。低域も思い切り引っ張っているだけあって(モニタ用としては)歪み始めがやや早いが、説得力のある歪み方というか、演奏内容の把握を助けるような潰れ方になる(と思う)。

普通のエンジニアリングモニタに使うなら、80Hz1.5oct幅-3db、160Hz.1oct幅-2db、3500Hz1.5oct幅-2dbくらいのEQで補正して、(エンジニアリングモニタとしては)やや控えめの音量で使うとごく素直に鳴る(明瞭感が強いので音量を上げなくても情報を捉えやすい)。7.5KHz周辺のディップとその前後のピークは、あまり気にしない方がよさそう。Fosさんの「スタジオモニターとして使う人はパラメトリックEQくらい当然持ってるよね」という無邪気な笑顔が目に浮かぶような特性ではあるが、250Hz0.5oct幅-3dbくらいのローシェルブでざっくり削るだけでもそれなりに使える。

K240MK2が「エンジニアが何をしているのか」について圧倒的な情報量を誇るのに対して、TH-7は「各プレイヤーが何をしているのか」について明瞭で正確な描写をしてくれる。

モニタとしての使いどころ

最大音量と遮音性能(セミオープンにしては漏れない方)さえ問題にならなければ、奏者モニタに適する。なにしろパートごとに奏者が何をやっているのかという情報がしっかりと出てくる。ただしこの場合、上記のモニタ用EQをマスターに噛ましておいた方がよさそう(大音量再生だとドンシャリ傾向が耳につきやすいため)。キーボードモニタや、ライン出し(キャビネット不使用)のエレキギターorベースモニタなんかにはとくに合いそう。

奏者用の演奏チェック(プレイバックモニタ)も得意分野。ドンシャリで明瞭なキャラが大人の事情にマッチするというのもメリットではあるが、演奏内容(自他共に)を把握しやすいことがなにより助けになる。いわゆる耳コピモニタにもうってつけで、バンドの音からベースを拾うのにはまさに最適。練習用にももちろん使えて、エレクトリック楽器だと生音が抜けてこないではないが篭もった感じへの変化が目立たず、いわゆるマイナスワンを流しながらの演奏に便利。単体での練習用としても、筆者がエレキギターで試した限り歯切れのよい音色で快適に使えた。

すでに触れたように普通のエンジニアリングモニタにも使える。真価を発揮するのはやはり、混ぜたトラックから各プレーヤーが何をしているかという情報を引き出す場面(ソロトラックだけ聴いても、プレイヤーが「本当に何をしているのか」は見えてこない)。単体の音色決めにも使えないわけではなく、とくに加工を「やりすぎ」てしまいがちな人にはよい道具かもしれない。マキシマイザーのかけすぎなんかにも、わりと敏感に反応する。これらの特徴から、入門用のエンジニアリングモニタとしても適していると思う(繰り返しになるが、ある程度の補正は必要)。やはり最大音量がネックになるが、そこさえクリアできればDJモニタにも使えるだろう(多分)。

リスニングもこなす

商品としての魅力はむしろこちらかもしれない。すでに挙げたやや大音量でのドンシャリ再生はもちろん、小音量リスニングでも埋もれる音が少ない。演奏内容の情報が多いので、技巧的な曲をスポーツ感覚で楽しむのにも向く(この用途でもやはり、上記のEQを噛ました方が聴きやすいと思う)。リズム楽器の音が際立つため、バンドサウンドを鳴らしたときのノリのよさは特筆に価する(ドラムスとベースが上手ければ)。ライブ音源などで録音コンディションが悪いものを聴くときにもベストチョイスになり得ると思う。

ただし、各パートの音をハキハキと聴かせる出音であって、豊かな響きとか煌びやかな音色みたいなものとは無縁。おそらく7.5KHz周辺のディップが作っているのであろう冷静な鳴り方を、冷淡と取るか見通しがよいと取るかで評価が変わるかもしれない(端的に言えば、バンドサウンドの中でヴォーカルがしゃしゃり出てこないサウンドデザイン:ただし「遠くなる」というより「薄くなる」ような変化で、重加工系の女声ヴォーカルはかえって目立つことがある)。モニタを名乗っている分性能重視なのか、リスニング用としての快適性はギリギリ及第点くらい(あくまで筆者の頭に合わせた場合の話)。

売り文句の「ポータブル用途にも使える」はその通りで、周囲の雑音に紛れやすい帯域がしっかり出ている。すでに触れたように音はセミオープンにしては漏れない方で、ボリュームをあまり上げなくて済むため周囲への影響も減る。

総合的には、リスニングに常用したいタイプの機種ではないが常用できないレベルでは決してないし、抜群のノリのよさで他に優秀なリスニングヘッドフォンを持っていても活躍の場は(多いか少ないかは別として)ありそう、というのが筆者の感想。聴き慣れた曲を聴いても「こんなノリの曲だったのか」という発見があるし、いつものリスニングヘッドフォンに戻して聴き返しても以前とは違う印象が得られる。

その後

5か月くらい使った頃に母親が「ヘッドフォン欲しい」と言うのであげた。モニタとして独自の優位性を持っているし、リスニング用としての魅力もあるので、機会があったら(というか気が向いたときにまだ生産されていたら)買い直すかもしれない(とか言いつつQZ99もいまだに買い直してないんだよなぁ)。

昭和フォークとか歌謡曲とか聴くならAurvana Live!の方がいいんじゃないのと思ったが、本人曰く「音はあまり変わんないと思う、つけた感じコッチの方がラク」だそうだ。そんなもんか。



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