ATH-M30


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オーディオテクニカのATH-M30について。追記:モデルチェンジでATH-M30xが後継になった模様、ここでは旧機種についてのみ扱う。

重要な情報
この記事は筆者が2013年6月に購入した個体に関するもので、その後のバージョンアップや仕様変更に追従していない、あるいは個体差や環境の違いを考慮していない記述があります。最悪のケースとしてたとえば、筆者が自分の不注意で壊した機材を(そうと知らずに)「粗悪品」と評している可能性もある、ということに注意してください。

重要な情報
筆者が購入した個体は新品ジャンクとして無保証格安で販売されていたもので、正規品と同等の性能や機能を有していない可能性があります。

一応示しておきたい情報
筆者は眼鏡を常用しており、ヘッドフォンを使用する際にも外すことはまずありません。採寸はしていませんが頭は大きい方です。

特徴や用途など

片出しコード、抵抗式(ノッチ式でなく、動きの硬さで位置をキープするタイプ)の調整機構(オートアジャストではない)、シンプルなクッションつきヘッドバンド、シーソーマウントを備える。公式サイトの仕様情報(2013年7月現在)を転載しておく。

型式:密閉ダイナミック型
ドライバー:φ40mm、CCAWボイスコイル
出力音圧レベル:100dB/mW
再生周波数帯域:20~20,000Hz
最大入力:1,600mW
インピーダンス:65Ω
質量(コード除く):200g
プラグ:φ6.3mm標準/φ3.5mmミニ 金メッキステレオ2ウェイ
コード:3.4m/OFCリッツ線(片出し)
モニタヘッドフォンとしては標準的なスペックで、特徴的なのは重さが200gと軽いことくらい。最大入力もやや大きいが標準的範囲は出ない。日本メーカー製密閉型モニタの例に漏れず、スタイル的にはPAモニタに近い。

ベタっと挟み込むように装着し、リスニング用ヘッドフォンの水準と比べると圧迫感は強めだが、1~2時間の着用なら筆者は気にならない。耳全体に押し当てる感じで装着方法による音の変化は小さく、相当激しく動かなければズレることもない。プラスチックフレーム+合成革を基本に調整機構の部分だけ金属が見えている。全体の作りとしては、構造のシンプルさで耐久性を稼ぐ発想なのかもしれない。ねじ込み式のステレオミニプラグ<>ステレオ標準プラグとプラグ根元での断線防止スプリングがついていて意外と豪華だが、ステレオミニプラグのボディ(手で持つ部分)がやや太く表面が滑りやすい(パソコンのサウンドカードなど、狭いところにジャックがギッシリ並んでいる場所だと窮屈)。

出音の正確さや表現の豊かさなどは最初から意図していない印象で、50Hz以下が弱くその上が強め、高域は弱まるがかなり上まで出る。特徴的なのはバスドラムの音で、ドムドムとかドンドンといったイメージの鈍くて押しのある音色になる(が、低域をパンパンにしてあってもダイエットされるので音による圧迫感が小さい)。ベースも、音程感のある帯域が強調されるのでラインはわかりやすい。反面シンバルの音はおとなしめで、スネアドラムはタイコの音がドスンときてスナッピーが控えめな感じ(高域の落とし方が上手いのか刻みが追いにくいということはない)。メロディ楽器やヴォーカルに相当する帯域が強調されており、目立った聴こえ方になる。

この特徴が便利なのはやはりコード楽器やメロディ楽器のレコーディングモニタで、ビート位置やベースラインをしっかり確認しながら自分の楽器の音を埋もれさせずに演奏できる(ただしギターに使うと低音域のクセとぶつかる:次の項で後述)。ピッタリとした密閉型なので、マイク録音にも使いやすい。同じ理由から楽器の練習用にも適すると思われるが、それなりの圧迫感があり快適性重視のリスニングヘッドフォンほどは楽でない。反面高域の攻撃性は弱いので耳自体が疲れて不正確になってくることは比較的少ない。人間の声は強調されるが、取り立てて言うほど聴き取りやすいバランスでもないように思う。両持ちアームがハウジングに刺さっている部分に隙間を設けてあり、半密閉のような格好。外から入ってくる音は少なく、漏れ出る音はそれと比べると多いが、マイク録音で大問題になるほどではない。

これらを総合すると、レコーディングモニタに適し、マイク録音にも対応でき、楽器の練習用やアナウンスモニタにそれなりに使え、リスニング用には難がある、といえそうだ。

筆者の手元では

ウチにはオーバーヘッドのヘッドフォンが4つ(K240mk2、HD558、K512、SE-M390)も転がっているのに値段(980円:買ったのはイシバシだし、ロゴもちゃんとついているのでバッタものではないはず)だけ見て衝動買いしてしまったわけだが、購入以降マイク録音にはこれを使っている(後から購入したAurvana Liveもマイク録音に使えそうではあるが、コードの取り回しや生音の遮断性能などで一枚上手)。

エレキギターを鳴らすときは引き続きHD558を使っている。筆者が練習に使うG1Nのリズムマシンは最初からドンドンサウンドにチューニングしてあるのでM30を使うメリットが薄いし、快適性の面ではHD558が何倍も勝っている(伴奏の追いやすさは似たようなものでどちらも優秀だが、刻みとビート位置の把握が少ない労力でできるM30と、いわゆる分離のよさで押し切っているHD558で、追いやすさの内容が異なる)。M30でドライブトーンを鳴らすと微妙に遠くなるように感じることがあるが、レコーディングモニタとして見るなら騒ぐほどのことではないように思う。それよりも、中低域の盛り上がりで低音弦が鳴り過ぎるのが気になった(エンジニアの立場からすると、ある意味便利な特徴でもある)。

前の項の記述と矛盾するが、実はリスニングにも使っている。過剰にマキシマイザーをかけてグチャっと潰れたソースだと、高域の圧迫感が弱く、ドラムスやベースが何をやっているのかとりあえずわかり、メロディパートを追いかけやすい特性がプラスに働く(というか、音量をあまり上げなくても聴き取れるので結果的に負担が減る:ごく長時間使うと耳の内側より先に外側が疲れることが多く、筆者はそこで休憩することにしている)。

全体として合理的に作ってある印象が強く、必要な機能を十分に実装しつつ価格も抑えたのはさすが。同じオンイヤー密閉式のK512と比べるとモニタ用途に特化しているのがよくわかり、耳全体にハウジングをしっかり押し当てつつ、ハイファイさをバッサリ切り捨てて演奏の大まかな把握に集中している。もし壊れたら通常価格(2013年7月現在の実売が5千円弱)でも買い直すかと聞かれると多分買わないが、幸い安く手に入ったし、これからも出番は十分にありそうな感じ。

2020年4月追記:なんだかんだで普段使いのメインがこれになり、もう7年以上使っているが(ボロくはなっており、イヤーパッドのビニールなんかは数年で取れてベロアパッドみたくなっているものの)いまだに元気。ハイレベルな聴き疲れなさと、及第点の音楽再生能力、そしてこの頑丈さが、パソコンに繋ぎっぱなしの雑用ヘッドフォンの中でチャンピオンの座を占めるようになった理由だと思う。2021年10月追記:8年ちょっと使って、さすがにイヤーパッドがヘタレて耳が痛くなってきた。いやー長持ちしたもんだ。2022年の引越しの際に、さすがにボロボロでとくに見た目が酷かったため処分した。



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