いろいろな炒め料理を作ろう


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ここまでの技術をしっかり身に付けていれば難しいことはない。仕組みや事情さえわかればそれに対応できるだけの基礎ができあがっているはずである(きっと)。



炒什錦菜

野菜炒めのことでチャオシーチンツァイと読む。什錦は「いろいろ入ってる」という意味で、日本語の五目ナンタラみたいな言い回しと同じ。料理名として、この什錦と五香(ウーシャン:スパイスがいろいろ入っている意)はよく使われる。厚めの豚肉をタップリ使う肉野菜炒め(というか、肉炒めに野菜が付け合せになっているような感じのもの)は炒肉片と呼ばれることもある。


材料

材料はテキトーでよいが、チャンして油通しした豚こま切れ肉(通称揚げコマ)か茹豚のスライス(生の豚バラでもよい)、白菜、キャベツ、薄切り(片)にして軽く下茹でしたニンジン、キクラゲ、もやし(豆芽、トウヤ)なんかがよく使われる。少量のピーマンやニラが入ることもある(香りが強い野菜なので、大量に使うときはチンジャオロースとかレバニラのような単独の料理することが多い)。ニンニクの芽(本当は芽ではなく花茎(薹)で、蒜苗(ソンミョウ)と呼ばれるが、中国人でも青蒜(チンソン=葉にんにく)と混同している人がいる:多分地方によって呼称が違うのだと思う)なんかも香りがよいので、あれば使いたい。ホウレンソウは灰汁が強いので、チンゲンサイか小松菜あたりを使った方が無難。

注目して欲しいのはなんといっても白菜。世の中で「油で炒めるとうまいもの」といったら「豚肉・白菜・エビ」で決まりである(異論はあるだろうが筆者はそう信じる)。とくに黄色い部分は最高にうまい。白い部分はそぎ切り(片)にして湯がくか油通しすると調理がスムーズ(湯がいたものを水を張った容器に入れ冷蔵保存するのがラクかな)。なお中国では葉物野菜全般を白菜というらしい。

もやしは洗って使う。中華屋では水(まれに薄い酢水、真夏には氷を入れることもある)を張ったポットや特大ボウルから左手でザルに取って使うが、大量に使わないなら使う都度に洗ってもよい(水分はよく切らないと仕上がりが悪くなる)。元気があるなら根と豆部分を取り除いておいてもよい(中華屋では5kgとか10kgとかを毎日使うので、たいていはそんなことしない)。ニンジンは半生に茹でておくのが普通で、水を張った容器に入れ冷蔵庫で保管する。キクラゲは戻して洗って水を切っておく(これも水を張った容器で保存することがまれにある)。


水が出る

炒飯ともっとも違うのはここ。とくにもやしの水分をどうするかがポイント。もやしというのは、茹でると太り、焼くと痩せ、炒めると水を吐く。パンパンにしても干乾びさせても失敗である。炒める順番として、もやしを最初に入れる「もやしファースト」と、最後に入れる「もやしラスト」があり、後者の方が中華の炒め料理らしいやり方ではあるが、前者の方が仕上がりが安定しやすい(呼称が一般に通用するかどうか、筆者は責任を持たない)。ここではもやしラストでやる。

中国人の中華屋はとくに、野菜炒めの材料全部を油通しする人が多い(キクラゲは揚げると爆発するので例外:徹底している人は、ジャーレンに乗せたキクラゲに熱した油をかけて油通しすることもある)。筆者としては、ニンジンと白菜の白いところさえボイルしてあれば、油通しは肉だけでいいかなぁと思う(肉も、バラスライスを使うなら酒だけ吸わせておけばなんとでもなる)。

ただ、中華レンジを使わずにもやしラストでやると火力が水分に負けるし、もやしを油通しするのも(油の手入れとか油を切る作業とか、いろいろと)面倒なので、さっと湯通しするか、ザルのまま熱湯をかけて洗い、水を切って使うのがいいだろうと思う。とくに、使う都度洗う場合は熱湯洗いにすると手間が省ける(もやし1袋200gなら熱湯は800mlもあれば余裕:もやしに熱を奪われたお湯が流れ落ちるので、熱量自体も節約できるし、常に沸騰したお湯に触れるため時間短縮にもなり、水との接触時間が短ければ味落ちも少ない)。

これに限らず、水が出すぎる野菜類は、油通ししないならさっと湯がくか熱湯洗いしておくとよい(餃子の餡にするキャベツや白菜なんかも、湯がいてザルにあげると使いやすくなる:ナスやキノコ類など水を吸う食材は湯通しするとベチャつくので、必要に応じてオイルスプレーで油を纏わせてから、電子レンジで加熱した方がラク)。水が出るものは湯通し、油が出るものは油通しすると、余分な水分や油分を捨てやすい。この記事を書くために調べたところ、湯通しは中国で汆(チュアン)というらしい(油通しは包油だが滑油と書くこともあるらしい)。


炒める

やることは難しくない。香爆して、野菜を炒め、油が回ったら肉を入れて混ぜ、もやしを入れ、温度が安定したら調味料とスープを少量(せいぜい油と同量くらい)入れる。そうすると鍋の温度が下がって水分が支配的な(=火力が温度上昇ではなく水分蒸発に使われる)状態になり、汁がわっと増える。強い火力で炒め続けると水と油が混ざって乳化してくるので、汁がトロっとしたところで仕上げ油を入れて完成(片栗をまったく使わなくても、温度さえ上げればとろみは出せる:中華鍋は丸いので、汁が1点にたまらないように混ぜる)。食材の表面をしっかり焼いて水分を閉じ込めないとベチャベチャになり、十分に加熱しないと皿に盛ってから水が(多少は出るものだが過剰に)出る。

水分が出てくるからといって汁だけ捨てる人がまれにいるが、風味が薄れるし、私はヘタクソですと宣伝しているようなものでみっともない。水分をコントロールできないならもやしを湯がこう。中華レンジを使っていない場合、水と油が乳化するところまでは加熱できないだろうから、片栗で軽くとろみをつけてしまった方がラクである(カチカチにするのは避け、少しとろりとする程度に留める)。味付けは塩味が基本だが、醤油と砂糖を使うやり方もある。仕上げにはごま油かエビ油あたりを使いたい。

注意点として、野菜炒めは火力が重要な料理である。野菜を炒めたときに焦げるのは火力が足りないから、というのはちょっと飛躍があるかもしれないが、焦がさないためには十分な量の油を使う必要があり、油の量を増やすとそれを蒸発させるための強い火力が必要になる(肉や魚介と比べると、野菜は水や油が出てくるまでの加熱時間が長い)。もやしを入れるタイミングで、ちょうどもやしに油が回り切るくらいのバランスになっているのが理想。水分が出始めると油の蒸発がぐっと遅くなるため、油が多く残った状態でもやしを入れてしまうと(水抜きしてあっても多少は水分が出るので)クドい仕上がりになってしまう。

途中まで什錦炒菜と同じ作り方で塩とスープの量を増やすと、そのままタンメンのスープになる(豚肉は油通ししたものよりも湯通ししたものの方がサッパリする)。中華風のまっすぐな麺と鳥のスープ(ジータン)を使い、仕上げ油にはごま油(鳥油も捨てがたいし、ブレンドして使ってもよい)を使うとそれらしい風味になる。



肉と野菜の炒め物

肉と野菜を炒める料理のバリエーション。


韮菜猪肝

筆者の知っている中華屋で、これをジョーサイジューガンと呼ぶ人は(中国人を含めて)1人もおらず、レバニラまたはジュガンと略して呼ばれていた。中国ではイノシシやブタの総称が猪だが、単に猪といえば普通ブタのことで、イノシシをとくに指す場合は野猪というらしい(豚は食用の小型種を指すという説明も見たことがあるが未確認)。

やることは肉野菜炒めとほぼ同じで、材料がレバーともやしとニラに変わるだけ。レバーは切るのが面倒なだけで、チャン自体は普通にやればよい(ブロックのまま水にさらす派と切ってから水で洗う派に意見が分かれ、新鮮なものを使うならかたまりのまま30分くらいさらすのがいいかなと思う)。油通しするときに火を通しすぎないのがコツといえばコツ。

ニラの炒め方も、根元から順に鍋に入れる人、最初にニラだけ炒めて後で戻す人(もやしファーストの場合これが有力)、油をかけて油通しする人(中国人以外では見たことがない)、何も考えず他の野菜と一緒に鍋にぶち込む人(多数派)とさまざま。味も塩味ベースと醤油味で砂糖をきかせるやり方があるし、スープを入れる入れないでも流儀が分かれる。

筆者としては、ニラは別に炒めて、香爆して、もやしファーストで鍋に入れ、油が回ったらニラとレバー、醤油味にして水分が足りなければスープを足し、片栗で仕上げるのが好き。火力が足りないときはもやしを熱湯洗いしておく。


回鍋肉

豚バラ肉と野菜の味噌炒め。大連の人たちはホイグォルゥに近い発音だったが、筆者の周辺の日本人はみんなホイコーロかホイコロと呼んでいた。本場の四川回鍋肉はちょっと雰囲気が違う料理で、ここではキャベツを使って日本人が普通に想像するようなタイプのを紹介する。

普通の野菜炒めと違うのは、合わせ味噌(テンメンジャンとトウバンジャンを混ぜたもの)を炒めるところ。味噌が入っていると鍋の温度はそう上げられないので、キャベツは油通ししておく必要がある。油通しができない場合は湯通しまたは熱湯洗いしておこう。豚バラはショウガとネギの青い部分と共に茹で、茹汁の中でできるだけゆっくり(ただし衛生上50度くらいまで下がったら鍋ごと氷水に漬けるなどして一気に)冷ますのがポイントで、筆者はほぼこれのためだけに保温鍋を買った(普通の鍋を使うときは布を巻くなどして保温する)。粗熱が取れたら汁ごと冷蔵庫に入れいったん冷やしてから切る。回鍋肉に使うのは豚バラだが、肩ロースも使い勝手がよい。蒸鶏(という名前だが茹でて作ることがほとんど:名前と食い違っているのは焼豚と同じ)も同様に作れる。鶏肉の場合チャンして茹でて氷水で締める調理法もあり、ささみなんかにはこちらが適する。油が少ない肉は冷凍可能だが、凍らせると少しベチャっとする(筆者の腕のせいかもしれない)。

キャベツは上の柔らかいところだけ使うことが多く、上下半分に切って、上は片(と付けあわせなどで使うなら絲)に、下は芯をくりぬいてフードプロセッサー(的なゴツい機械:扇風機みたいな刃でみじん切りを作ってくれる)にかけ餃子の餡に、芯は洗ってスープの鍋に入れてしまうのが一般的だと思う。他に、ネギ、ニンニクの芽、葉にんにくなどを入れてもよい。

香爆して、味噌を炒め、香りが立ったら肉を炒め、キャベツを加え、味噌が行き渡ったら味を調えて完成。使う味噌によって塩分の濃さがかなり違うので調整が必要。味噌は酒でのばしてもよいし、筆者はのばさずに炒めてから酒を振りかける(フランス料理のデグラッセみたいなノリで)のが好き。下ごしらえ(というか茹豚作りと油通し)が大掛かりだが、炒め鍋を火にかけた後はたいしたことをしなくてよい。味噌を焦がし過ぎないようにだけ注意しておこう。キャベツを入れずに、単なる肉の味噌炒めを作ってもツマミになる。


青椒肉絲

日本でもポピュラーなチンジャオロース。肉を絲にするのはこれが最初だが、すでに片(繊維と垂直に切る)にしてあるものを切ってもボロボロになるだけなので、最初から細切りにしたもの(業務用なら冷凍のものがあるのだが、スーパーなどで売っているのは見たことがない)を買ってくるか、肉屋さんで切ってもらうか、ブロック肉から自分で切り出す。

ピーマンは輪切り方向ではなく縦に切る(1本の絲の中に尻の方と頭の方ができる切り方)。2つに割って(ビニール袋ごと豪快にぶった切る人が多い)、種とヘタを取り除き、尻に切れ込みを入れて平らにしやすくして、できれば白い筋と尻の近くを取り除き、重ねた状態でザクザクと細切りにする。他に入れるのはニンジンとタケノコの絲、ピーマン系で攻めたい人はパプリカを使ってもよい。

これも塩味から醤油味までバリエーションがあり、中華味噌やオイスターソースを入れることもある。片栗も入れない人からあんかけにしてしまう人までさまざま。ピーマンは油通しせず、ビーマン>それ以外の食材>調味料と一気に入れてしまうことが多いと思う(ニンジンとタケノコはボイル、肉は油通ししてある前提)。


砂糖を炒めることもある

洋食では砂糖水を加熱してカラメルを作るが、中華では砂糖を炒めてカラメルを作ることがある。毛式紅燒肉(マオシーホンシャオルー、豚肉の醤油煮込み毛さん風の意:毛さんは中国の歴史で一番有名なあの毛さんのこと)という料理で使われ、砂糖を焦がし過ぎないようにしながら色をつけるのが(味噌を炒めるとき以上に)難しい。

紅燒自体は中華料理の基本技法で、ようするに醤油・砂糖・酒で煮込む調理方法。煮込んだ後煮汁に片栗でとろみをつけることもあり、紅燒牛腩(ホンシャオニュナン)という牛バラ煮込みがたいへんおいしい。魚の代表的な食べ方(揚げる、煮付ける、蒸すの順にポピュラー、だと思う)のひとつでもある(紅燒魚を作れるのは上級の料理人の証なので、中国人のえらい中華屋さんなんかが得意気に作ってくれるが、日本人の味覚に照らすと決してうまい料理ではない:が、技術的に凄いのは日本人にもわかるので、紅燒魚を作れると尊敬の的になる)。煮汁が少なくなるまで煮切る場合は干焼または乾燒という。



八宝菜

中国人にも八宝菜で(少なくとも日本で生活している人なら)通じるが、燴什錦と言った方が話が早いと思う。


平凡な料理ではあるけれど

作り方としては、炒めて、スープを入れて、味をつけて、片栗で固めればいいだけ(ぶっちゃけ、肉野菜炒めをあんかけにしてやればそれで燴什錦にならなくもない)なので簡単だが、あんかけは大変奥が深い。炒めで的確に風味を引き出し、XO醤などでコクを足し、化粧油の風味を添えて仕上げることができれば、まさに爆発的なうまさになる。味付けの傾向として、北の方は塩中心で白っぽく(コーンスターチを混ぜることもあるらしいが不明)、東海岸は醤をきかせて金色、南の方は醤油もきかせて黒っぽい感じのものが多い。

具材として、豚バラ肉と白菜は必ず入れたい。山海の幸の絡みがウリのひとつなので、大エビとイカ、キクラゲとタケノコも外せない。彩りのためにニンジンも必須だし、豆(絹さやかインゲン)の緑も欲しい。うまみをさらに強めるために、シイタケと中華ハム、戻した干し魚介なんかもあれば最高だろう。これを鶏のスープであんかけにしてごま油をたらす。盛り付けてから松の実やクコの実を散らすこともあるし、ハーブを添える店も見たことがある。

イカの上漿はけっこう面倒で、洗って絞って酒を吸わせて片栗でコーティングする(卵はつけないことが多く、湯通しする場合は片栗もつけない)のは同じだが、その前に皮を引いて切れ込み(調理したときにマツカサ状に丸まるように、内蔵側の身に包丁を入れる)を入れておかなければならない。湯通ししてから油通しするというやり方もあるようだ。

タケノコは「水煮ホール」と呼ばれる丸ごと茹でて缶詰にしたものを使っている店が多いと思う(もちろん、自分で下茹でしてもよいし、最初から薄切りになっている缶詰を使ってもよい)。根元の硬い部分をそぎ落として、半分に切り、似たような断面積になるよう斜めに切る。

タケノコに限らず、中華では長方形や円になるような切り方をあまりせず、三角形や平行四辺形が好まれる(ニンジンも上記に準じる切り方だが小さいので、半分に割る作業を省く)。こうしておいてから薄切り(片)にしていくのだが、食材が丸いので端の方は小さく真ん中は大きくなる。あまりに大きいものは半分に切り、あまりに小さい切れ端は細切れにして別の料理に使おう。細切り(絲)にするときは、薄切りを作ってから細く切る。


いろんなものにかける

卵炒飯に餡をかける燴炒飯はすでに紹介した。白飯にかけるといわゆる中華丼になり、中華屋のまかないとして大人気である(みんなあんかけ好きだし、肉とか野菜とかいろいろ入って栄養あるし、使う食器が少なくて済む)。食べるときに酢をたらす人が(中国人を中心に)けっこういる。余談だが中国ではカレーライスやハヤシライスも燴飯と呼ぶらしい(あんかけっちゃあんかけだけども、南インドのカレーは泡飯、後で触れる北インドのチキンマサラなんかは干焼の方が近い気もする)。

醤油スープの麺にもやし入りのあんかけを乗せたものはサンマー麺(生馬麺とか生碼麺などと書くらしいが、もとは日本の横浜で作られた料理)と呼ばれ、細切りの食材を中心にして彩りよく作る(薄切りの食材を中心にしたものはカントンメンと呼ばれるが、こちらも日本生まれの料理らしい)。ターサイ(搨菜)とかクーシンサイ(空芯菜)といった中国野菜を使うことも多い。餡は塩味にすべきだという人と餡も醤油味にすべきだという人がいる。

あんかけ焼きそばには3つのスタンダードがあり、太めの蒸し麺を使う上海風、焼いた麺を使う香港風、揚げた麺を使う広東風の順に硬くなる(うろ覚えだがたしかそう)。揚げ麺を使うものは炒麺(チャオミェン)ではなく燴麺(ホイミェン)だが、日本人はみんな「やきそば」としか呼ばない(チャーメンと呼ぶ人もいるが少数派)。香港風は、麺を(ホントは蒸し麺を使うのだったと思うがたいてい)ゆがいて、浅めに油を張った中華鍋で焼き、ジャーレンで油を切って作る。


中華料理の格

自分が中華屋だとバレている場合、他人の店に初めて行ってイキナリ炒飯を注文する人はあまり多くない。「お前炒めはちゃんとできるんだろうな」と聞いているような感じがして気が引ける(中華屋には大雑把な性格の人が多いが、職人社会というのはこういうトコロに意外と気を使うものである)。麺類は(とくに大きな店だと)新米が担当する料理なので最初に湯麺というのもあまりない(このためか、中華屋の厨房では「ラーメン屋あがり」が低く見られることがままある)。いわゆる上級の料理とみなされるようなものを最初に頼むのもなんだか挑戦的な感じがする。

ということで、その店に「看板メニュー」的なものがあればそちらに流れる人が多いが、とくになければ最初にこの八宝菜(ないし「うま煮」)を頼む人はけっこういると思う。仕込み、下ごしらえ、炒め、スープ、あんかけ、仕上げ油と全部がハイレベルに達していればものすごいうまさを引き出せる料理法なので、作る側も特別の気合を注ぐことが多いメニューである。



あんかけソース

あんかけとはいうものの、ここまでに出てきたのは汁気のある鍋に水溶き片栗粉を入れて固める料理法(燴)ばかりだった。今度は餡を別に作ってかけるor絡めるあんかけソース(滷:ルー)である。揚げるか炒めるかした食材をジャーレンに上げ、合わせ調味料を煮立たせて片栗で餡を作り、食材を戻して混ぜるだけなので技術的にはそう難しくない。


酢豚など

中華では糖醋肉(タンツールー)とか古老肉(クーラオルー)などと呼ばれ、豚肉でなく鶏肉を使う場合は糖醋鶏(タンツーチー)という。タンツーというのは甘酢のことで、砂糖1:酢1:醤油1に黄酒を少しというのが基本(多分)ではあるものの、実際には醤油を減らしてトマトケチャップを使うことが多い。とろみのあるソースに油通しした食材を入れて作るもので、炒めの要素はほとんどなかったりもする。ちなみに酢はズーと読む。

酢豚の具材は、豚肉(カレー用の四角い肩ロースでよい)、ニンジン、タマネギがほぼ必須。ニンジンは下の方をいわゆる「回し切り」とか「乱切り」みたいな感じにしてボイル。塊(クァイ)とか丁などと呼ばれる切り方(筆者がイメージする丁は賽の目切りに近い小さめのものだが、地方によって基準が違うらしい)。タマネギは外側の部分を使い、

こんな感じに切る(片と呼ぶ人も塊と呼ぶ人もいる)。本来は、細かい順に末<鬆<丁<塊、細い順に絲<条<片となるはずだが、中国人でも(少なくとも筆者の知り合いは)「絲・片・塊」で「細い・平ら・かたまり」くらいの意識でしか呼び分けない。さらに余談だが丁は読み方の混乱が激しく、ディン、チー、ティンなどさまざまに読まれる(片を「へん」と読む人は見たことがないが、丁を「ちょう」、条を「じょう」と読む日本人はいる)。

糖醋魚(タンツーユイ:炸糖醋魚とか糖醋魚片とか糖醋魚塊などとも)は魚の食べ方として一般的なもので、ガッチリ上漿して揚げてしまえばたいていの魚はおいしく食べられる。下ごしらえには酒と酢のほか、五香粉(ウーシャンフェン)というミックススパイスを使うことが多いが、なければガラムマサラでもカレー粉でもブーケガルニでもよい。


木耳肉

ムースーローとかムーシュールゥと読み、ようするにキクラゲ(木耳)と肉の炒め物(木須肉と書くこともあるが、木犀肉片と混ざってるのかな?)。これも流儀が多い料理で、多くの場合、名前には入っていないにも関わらず卵がメインになる(キクラゲが本当にメインを張る感じのあんかけキクラゲ炒めは糖醋木耳と呼ばれることが多い)。卵に味をつけて餡はかけないこともあるし、スープを入れた後とろみをつけないこともあれば、カシューナッツなどのナッツ類を一緒に炒めることもある。彩が偏りがちなメニューなので、油通しした豆苗(トウミョウ:えんどう豆の芽)を乗せることもある。

筆者が家でやる作り方は、卵には薄い塩味だけつけ、油を熱した鍋に流して半熟卵(揚州炒飯の項で紹介した中華風の卵焼き)を作り、キッチンペーパーを敷いた皿(使えるならジャーレンの方がよいと思う)に上げ、香爆して具材を炒め、合わせ調味料をかけ片栗でとろみ、卵を戻して混ぜ仕上げ油、といった感じ。調味料は醤油・砂糖・酒。肉でなくエビを使えば蛋花蝦仁(エビタマ)にもできるし、塩味でも醤油味でもイケる。たまに気が向くと、餡だけ別に作る方法でもやる。

最初に卵を炒めるときは油:卵が1:7(または全卵3に対して大匙2)くらい。炒飯よりは少なめというか、ようするに飯を炒める分の油を省いておくと解釈してよい。肉は油通し(餡の絡みもよくなる)をしておいて少な目の油で炒めないと、全体の油の量がかなり多くなるので注意したい。卵はスープや水などでのばしたりせず、味の素を入れるときは卵にでなく餡(を作るときのスープ)に入れよう。


エビチリ

もとは四川料理の干焼蝦仁(カンシャオシャーレン:乾燒蝦仁)で、赤い色はトウバンジャンでつけるのだが、日本ではケチャップ糖醋を使う作り方が一般的。調理方法もさまざまで、中国では、香爆してタンツーを入れ少し煮詰めて片栗、最後に油通ししたエビを入れる順番が普通のようだ。尻尾のところに殻を残す作り方もある(中国人はカリっとかサクっとした食感が大好きなので、殻ありの方が人気:脆(ツィ)という)。

干焼は北インドのチキンマサラ(香爆して、香辛料と刻んだ香味野菜を炒め、スープでのばし、別に炒めた肉にあえる汁なしカレー:もちろん流儀は無数にあり、干焼とは全然似ていないものもある)と作り方が似ている。トウバンジャンをカレー粉、片栗粉を小麦粉に替えて干焼蝦仁を作り、カシューナッツペーストとココナッツミルクを足してカレー皿(金属製の浅くて取っ手のないマグカップみたいな、中華用の調味料入れを小さくしたようなアレ)に入れてしまえば「カレーです」と言い張れなくもない(まあカレー粉で味を付けている時点で全部カレーだという解釈もあるが)。

なお燒は炒め(油加熱)と煮込み(水加熱)を複合させた調理方法で、日本語でいう炒め煮よりも少し広い意味を持ち、中華料理の基本のひとつといわれる、が、筆者はちゃんとできない(私は中華屋でしたと言っておきながら「燒ができません」はたいへん恥ずかしい話ではあるのだが、やはりプロの技術はプロの現場で叩かれながら磨かないと身に付かないもので、シロウトに戻ってしまってからどうこうできるものではない:炒めだって、3か月で100食以上の炒飯を作っては食べるところから始めて、店でお客さんに料理を出すようになってからも1年くらいは悪戦苦闘してようやくモノにしたわけで、あんなの仕事じゃなきゃできない)。


マーボー類

マーボーは炒め料理なのか、ということを真面目に考え出すと夜しか眠れなくなってしまうが、乾焼なんかも紹介していることだしまあいいだろう。基本的には、ひき肉を辛味噌で炒めて、スープを入れとろみをつけ、メインの具材を混ぜて作る。

ひき肉は自分で刻んだ方がうまい。肉屋さんで普通に売っているひき肉は、細胞がすり潰されたようになっており、無駄に汁気が出る。切り方としては鬆(ソン)と呼ばれ、絲にしてから刻むだけ(よく「包丁で叩く」という言い方をするが、細胞を潰すとマズくなるので、あくまで細かく「切る」つもりで:どうせ練る場合でも、無駄な汁は出さない方がよいのだと思う、多分)。ブロック肉を半凍り状態で切るとラク。

切り方についてまとまった説明をしていなかったので、基本的なものだけ紹介しておく。

上記は棒状の食材を例にしているが、肉なんかは繊維の方向が決まっているので、繊維に沿って(絲や鬆にするとき)または繊維と直角に(片にするとき)切る。なお、多くの中華屋では茄子(尻の先端を落としておくと食べやすい)を輪切りにはせず斜めに切るし、豆腐も直方体には切らない(ひし形っぽく切る)。

茄子のチャンについては、塩もみして水洗いだとか単純に水さらしだとかいくつか方法があるが、多くの店では何もせずただ油通ししていると思う。茄子は油を吸うので、油通しした後は金ザルかジャーレンに上げて油を切っておいた方がよい。オイルスプレー(ようするに油を入れた霧吹き)で軽く油を吹き付けて電子レンジで温めるという方法もある。豆腐は普通に水抜きすればよいが、これも電子レンジでやると早い。

でまあ、香爆して辛味噌(トウバンジャン)を炒めてひき肉を炒めてスープを入れてとろみをつけ、豆腐なり茄子なりを入れて混ぜ、仕上げに長ネギのみじん切りを散らせばよい。四川風のマーボは花椒をかなり強くきかせる(そもそも、中国山椒をきかせた料理を麻という:トウガラシの辛味は辣、生姜やネギなど香味野菜のスパイシーさは香と呼ばれる)。



片栗の粉(オマケ1)

あんかけを作るときは水溶き片栗粉を使うが、これは「デンプン」(starch)を示す広義の片栗粉で、片栗(ユリ科の植物)の鱗茎から抽出した狭義の片栗粉はたいへん高価。和食で使う葛粉はマメ科の植物の根から抽出したデンプンで、こちらも高価。中華で普通に使う片栗粉は馬鈴薯のデンプンで、スープや冷たい料理の一部にコーンスターチ(コーンフラワー)を使う。

小麦粉もデンプン質の粉には違いないが、ダマになりやすくとろみもそう強くないのであんかけにはあまり使わない。揚げ物の衣としても、中華では片栗を使うことが圧倒的に多い(片栗を使うからといって竜田揚げと呼ぶことはない)。ひと手間かけるなら、小麦粉>片栗粉の順で両方使う手もある。



中国人の地元意識(オマケ2)

少なくとも筆者が知っている中国人は全員、同じ地方、同じ地域、同じ一族で固まりたがる傾向が、日本人には想像がつかないくらい強い。出身地ごとの反目みたいなものもあるようで「福建が邪魔した」とか「大連が働かない」とか、互いを出身地で呼び合いながら悪口雑言を言い合うのもお約束イベントである(留学生などのインテリ層は意識が違うようで、差別的な態度を嫌うが、地元意識のようなものはやはり強い)。

中国人の中華屋に料理の質問をすると、ほぼ必ず「中国ではこうする」とか「中国ではこれこれを入れる」とかいった答えが返ってくるが、たいていの場合「中国」ではなく「自分の地元」であって、他の人からは違うことを聞いたなどと言うと「あの人はxxだからちょっと違う」(xxには地名が入る)と返ってくるのが常である。

ただし、中国人全員が「我が地元こそ中国」的な意識を持っているわけではもちろんなく、筆者が知っている四川の人なんかは(郷土意識の強さを感させることはあっても)控えめな人が多かった。



温度と食中毒(オマケ3)

20~50度の間は微生物が繁殖しやすい温度域なので、この範囲はできるだけ素早く通過させたい。いったん高温に晒しても芽胞菌は生き残り、徐冷することでライバルがいない環境で大繁殖する。

なにしろ、食中毒菌の中でも最凶クラスのボツリヌス菌が120度4分または100度6時間(全体が「少なくともこの温度」でなくてはならないことに注意:ただし毒素は80度30分ないし100度数分で失活する)という途方もない加熱でしか死滅させられない。さらに悪いことに、嫌気菌なので沸騰による酸素の減少や密閉なども繁殖を助けるし、半端な加熱をすると他の微生物が死ぬことでライバルがいない環境ができる。そのうえこの菌は土壌や海底や湖沼などに当たり前のように生息している。このほかに、セレウス菌(50度でも発育し、エタノールにもとても強い)やウェルシュ菌(至適増殖温度が43~47度)なども食中毒を引き起こす嫌気性の芽胞菌である。また芽胞菌ではないが、メジャーな食中毒菌であるサルモネラ菌は、68度3.5分で不活となるものの、50度までは増殖する(46度以上で増殖遅延)。

エンベロープのあるウイルスは一般に、低温や乾燥に強いが高温には弱く56度30分程度の加熱で不活になる。いっぽうエンベロープのないウイルスは、低温にも乾燥にも高温にも強い。食中毒に関連するものではA型ないしE型の肝炎ウイルスがエンベロープを持たず、前者は不活化に70度30分ないし100度5分を要するという(後者は63度30分で感染性を失うが、前者に準じる処理を行うのが普通)。野獣肉(ジビエ)でも調理するのでなければそう心配はいらないが、ひとまず覚えておいて損はあるまい。食中毒ウイルスとしてメジャーなノロウイルスもエンベロープを持たず、加熱による不活化条件は2017年現在明確でなく(厚生労働省のノロウイルスに関するQ&AQ15より)、85~90度90秒の加熱が推奨されている。エンベロープの有無に関わらず低温にはとくに強く、一般的な食品冷凍に用いる程度の冷却では不活化しないと考えるのが無難。寄生虫については、食品安全委員会による解説のリンクを再掲しておく(一部冷凍に耐えるものもある)。

とくに芽胞菌の対策を考えると、いわゆる「粗熱を取る」工程は低くとも50度くらいまでで切り上げて、それ以下の温度域は急冷した方が安全である。のだが、50度以上の食品を冷蔵庫に入れるとなると、今度は他の食品の温度が上がって食中毒菌が増殖する可能性がある。食品保存用のポリ袋に入れて氷水に漬ける、反対に水をジッパー袋で凍らせて氷のうにする、保存パックに薄く入れて冷凍庫用の保冷剤でサンドイッチにするなど、必要に応じて冷やし方を選択するようにしたい。なお、生ワクチンなどに用いられるいわゆる間欠滅菌(典型的には、100度30~60分の加熱>常温で1日というサイクルを少なくとも3回繰り返し、生き残った芽胞が栄養体になったのを見計らって滅菌する)は嫌気性菌にはあまり適さない(芽胞のまま残る個体が多い)。



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