趣味の定型詩創作1(「感じ方」の交換)

始めに / 家の中で / 初歩の技法 / その他の注意点 / 終わりに // もどる

和歌・短歌・俳句ついて、アマチュアの方が楽しみながら創作を行うためのヒントを紹介します。季語や音数などの約束事はとりあえず置いて、入門者にぜひ必要な心得から解説をしてあります。

始めに

のっけから歌作りとは関係なさそうな話題ですが、歌作りの第一歩は「人と会うこと」から始めるのがよいでしょう。同じ風景を見て、それぞれが心に感じたことを交換し合うというのは、歌作りの醍醐味のひとつといえます。

歌作りは、複数人でやったほうが格段に楽しいので、歌に興味のある人が身近に見つからなければ、親しい人に(無理強いにならない程度に)歌作りをすすめてみるのも一案です。

とにかく、歌を書くときにその場に一緒にいて、書いた歌を見てくれる人を確保することが必要です。各人にいろいろな事情があるでしょうが、これは歌を作る上で最も重要なことです。

家の中で

さて、では実際に歌を作ってみます。歌作りは人と会うことから始めると書きましたが、最初から勢い込んで遠出をすることもありませんので、まずは家の中で歌を作ってみることにします。

歌の題材探しですが、目についたものを手当たり次第歌にしてしまいましょう。鉢植えの花だとか、外で吹いている風だとか、窓の外の景色だとか、できれば「自然」とかかわりのある題材の方が好ましく「内から外への視線」が感じられるとなおよいのですが、こだわる必要はありません。

最初は、自分の印象に残ったものを、そのまま言葉にしてみることから始めます。たとえば、窓の外に雀が1羽飛んできたとしましょう。それを素直に言葉にしただけで、

ベランダに 雀が一羽顔を出し
といった歌ができます。これだけでは歌として物足りないかもしれませんが、もう少し観察して、
寒雀 知らぬ顔して身づくろい
などとしてやると、ぐっと風情が出ます(このページを執筆している現在、ちょうど冬なので「寒雀」ということにしました)。この「知らぬ顔して」というのは勝手な判断ですが、自分にはどう見えたかということが大切なので、思ったままに書きましょう。佳い句を書こうなどと身構えても足しにはなりません。

歌を書いたら、すぐにその場にいる人に見せましょう。同じ雀を見ても、人によって「すまし顔して」と感じたり「身震いながら」と感じたり、それぞれ違った見方があるので、そこに注目して読み合うと、楽しみが増します。また、何を歌の題材にするか(同じ場所にいて、何が心に残るのか)ということにも、その人の「感じ方」が現れます。

初歩の技法

この、自分の印象に残ったものをそのまま言葉にするというやり方は非常に奥が深く、それだけを突き詰めてゆくこともできなくはありませんが、慣れてきたらもう少し別な書き方も試してみましょう。たとえば
・印象に残ったものと、その背景の両方を描く。
・印象に残った2つのものを一つの歌にする。
・印象に残ったものをじっと観察して、変化を捉える
・印象に残ったものから、何か連想をする。
・自分の感想を付け加える
といったやり方があります。先ほどの雀の例でいうと、

木枯の過ぎる軒下 寒雀身震いながら陽をながめをる
ひだまりにすまし顔した寒雀 軒の大根静かに揺れる
小春日に友達寄せて雀の子 軒と草むら行きては戻る
軒下に遊ぶ雀の足取りよ 歩き初めたる吾子に似るかな
木枯を気にも留めぬか寒雀軒に遊べり 我もさあらん
それぞれ、木枯の吹き過ぎる軒下を雀の背景にして情景を鮮明にしたもの、静かに揺れている寒干し大根(風のない、穏やかな日が連想されますね)を一緒に歌って冬の穏やかな情景を表現したもの、雀の動きを追ったもの、ヨチヨチ歩きの我が子を連想したもの、寒くても元気な雀にちょっとした反省を覚えたという内容のものです。

この場合ももちろん、背景として設定するものや、連想の内容など、自分の思うままに歌にして、互いに見せ合うとよいでしょう。お互いの書いたものを見せ合うことで、同じ場にいながら違う「感じ方」に触れることができます。形式の追求はもっと熟練してからで差し支えないため、季語や音数などの約束事は存在自体を忘れてしまって構いません(合計で何行になろうと、字余りでも字足らずでも、なんとなく定型詩を書きたかったらしい形になっていれば十分です)。

その他の注意点

できれば、歌を詠んだ日時と簡単な状況の説明を添えて、自分がどういうつもりで詠んだのか、他の人はどのように受け取ったのかということを書き留めておくとよいでしょう。後から読み返して楽しみ、また上達の助けとすることもできます。たとえば

2006年11月6日、晴天、日陰に雪残る。自宅にてxxさんと。
雪の白、イチイの実の赤、雀の茶、空の青がなす彩りを。
白雲に取りて代わるかちぎれ雪 凍れるいちゐ食む寒雀
「上の句は雲が空から落ちてきたようだ」とxxさんの評。
といった具合に書き留めておきます(季語で言うとイチイの実は秋ですが、北海道では落ちる前に凍るものが多く、冬の間中鳥のえさになります)。心得のある方は毛筆などを用いてもよいでしょう。書き上げた歌は必ず声に出して読み、また他の人にも声に出して読んでもらう(そしてそれを聞く)ことが大切です。詩吟の真似事をせよというのではなく(しても構いませんが)、普通に読み上げるだけで十分です。

終わりに

さて、ここまで読んだら、さっそく実行に移してみましょう。ここに書いた方法だけで、定型詩の創作を楽しむことは十分にできます。そうして、慣れと余裕が出てきて、もっと創作を楽しみたいという欲求が大きくなってきたら「趣味の定型詩2」を読んでみてください。

次回は「書いたものを互いに見せ合う」ことを発展させ「他の人が書いたものを取り入れて歌を書く」という方法を紹介します。

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