作曲(基礎完成編)


自分でコードを決める / コードの変化を考える / 使う音を変える / 使うコード増やす
/ 増えたコードの扱いを考える1 / 増えたコードの扱いを考える2
/ 増えたコードの扱いを考える3 / 増えたコードを使ってみる
/ コードにおけるトーンの意味を考える / メロディにコードをつける
/ メロディ先行とコード先行を折衷する / 長い曲を作る / 最後に
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<サンプルのMIDIファイル(SMFフォーマット1)が再生できない方はQuickTime Playerを使用してみてください>

「メロディができるまで」に重点を置いて練習を行う。基礎編の内容はすでにマスターしている前提で話を進める。音楽理論的な話が増えるが「細かいことよりも大雑把なことを優先して覚える」ようにすると効率がよいだろう。知識を仕入れることよりも練習することが大切なので、一気に読破するよりは、少し読む>練習する>飽きたらまた先を少し読む、という進め方の方が上達しやすいと思う。

前回も触れたが、コードを中心にした作業が増えるにしたがって「この和音を鳴らそう」と思ったときにすぐ音が出せる環境(要するにコード楽器が手元にあること)の重要性がさらに高まってくる。ヴォーカリストで楽器は一切ダメ、作った曲は他の人にアレンジしてもらうというスタイルで作曲を続けている人も実際にいるので必須ではないが、できるかぎり用意しておこう。

練習用のサンプルファイルにはドラムスの音が最初から入っているが、各自好みのドラムパターンに差し替えて使って欲しい。キーもいろいろと変えながら練習しよう。もちろん、手元の楽器で作曲する人はコード進行だけ真似てMIDIファイルを使わず作曲してもよい。


自分でコードを決める

自分でコードを決めて、そこにメロディをつける。自分でコード展開を考えるつもりがない人も、今後の理解のため練習をしておこう。

1と4と5のスリーコードを自分の好きなように並べてよいのだが、ここでは「最初のコードを1にする」という条件をつける。たとえば最初のコードがCならばCメジャーのキーで、最初のコードがAmならばAマイナーのキーで曲を書くことになる(Cから始まらないCメジャーの曲やAmから始まらないAマイナーの曲も書けるが、最初なのでとりあえずこう決める)。

前回紹介した主要3和音の特徴を参考にして使い分けよう。

小節の数は8か16か32にする。ただし、最後が「終わった感じにならない」場合は1のコードを1小節付け足してよい(1さえくっつければたいていの場合は「終わった感じ」になる)。最初は8小節でやってみるのがよいと思う。

同じコードを複数の小節にまたがって演奏しても差し支えないが、1なら4小節、4なら3小節、5なら2小節くらいを上限の目安にしよう(これより多くても問題はないが、最初なのでとりあえずこう決める)。ちなみに、最初から最後まで1しか使わないと民謡や童謡のようになる(和音を中心にのページでかごめかごめソーラン節の例を挙げたが、これはこれで面白いし練習になるので、暇があれば一度くらいは試してみるとよい:メロディにコードをつけるの項で触れるが、当然ながら、ワンコードで演奏「しなければならない」わけではない)。なお、小節の途中でコードを変更しても構わない。

前回も触れたように「Vで緊迫させてIで安定させる」動きには独特の解決感があり、また進行感も力強いので、意識して有効活用してみよう。ドミナントを使った後サブドミナントを挟んでからトニックに解決するパターンもそこそこ無難に使える(まとまりのある曲にはならないかもしれないが、経験のため、ドミナントとサブドミナントを延々繰り返すパターンも1度くらいは試してみるとよい)。

トニックが出てくると、そこで「ひと段落した」ような、節目のような印象になることにも注目して欲しい。トニックには「区切り」=「終わりと始まり」を意識させる響きがあり、「トニックから出発してまたトニックに戻るまで」のまとまりを「曲の構成単位」として利用することが可能なのである。トニックに「戻る」という表現がすっと飲み込めるようになったら、十分練習を積んだという目安になるだろう。


コードの変化を考える

ここまでかなりの練習をしてきたが、メジャーキーの曲でV(CメジャーならG)コードのパートが強烈な響きを持つことがたまにあるのに気付いただろうか。メロディの分析をキッチリやってきた人なら、それが「伴奏とメロディの合計でV7(CメジャーならG7)コード相当の形になったとき=メロディがキーから見て4度、コードのルート(最初の音)から見て7度の音になっているとき」だということに気付いたと思う。たとえばG7を見てみよう。

下の3音が伴奏の音、一番上がメロディだと思って欲しい。V7の「7」は「コードのルートから見て7度の音」が入っているという意味。

このV7は不安定感が強く、Iの音を聴いて安心したいという心情を喚起する。つまり、Vの持つ不安定さや引っ掛かり感が何倍にも増幅された強力な響きを持つ。

しかし、V7を使ううえでひとつ困ったことがある。というのは、メロディが特定の音高(上の例ではF)でなければならないという制限が厳しすぎるのである。もっと手軽にV7を使う方法はないだろうか。答えは簡単、伴奏に最初から「キーから見て4度、コードのルートから見て7度の音」を入れてしまえばよいのである。こうすることで、いつでも自由にV7コードを使うことができる(音が増えた都合で、三和音ではなく四和音の伴奏になる)。

さて、7がつくコード(前回「コードの雰囲気が変わる音」が乗っているのだと説明した)はV7の他にも見たことがあると思う。メジャーコードでは「I△7」と「IV△7」を(キーがCメジャーなら「C△7」と「F△7」)、マイナーコードでは「Im7」と「IVm7」と「Vm7」(キーがAマイナーなら「Am7」と「Dm7」と「Em7」)を見たことがあると思う。

ここで出てくる「△」は「メジャー」の意味で、メジャーコードであることをとくに示したい場合に使う。たとえば「C△7」の変わりに「CM7」と書く流儀もあるのだが、メジャーが「M」でマイナーが「m」では紛らわしいので「△」と書く人が多い。これ以外にもいろいろな書き方があるが、ここでは「△」を使った書き方で説明する。

なぜ同じ「7」がついているのに、V7だけ非常に目立つ音が出て名前も違うのだろうか。これは音をよく見てみるとわかる。C△7の音を鍵盤で見ると、Cの上にEmが乗ったような形になっている。

同じようにF△7はFの上にAmが乗ったような形、

Am7はAの上にCが乗ったような形、

Dm7はDの上にFが乗ったような形、

Em7はEの上にGが乗ったような形、

になっている。ところがG7だけは

このように、いままで見たことのない奇妙なコードが上に乗った形になっている。手元で鳴らしてみればわかるが、メジャーコードともマイナーコードとも違う微妙な響きがするはずである(教科書的な定義では一応マイナーコードの仲間で名前はBm(-5)になるが、単体で使うのはずっと先のことなので今は覚えなくてよい:V7は上の方で変な音が出る、ということがわかれば十分)。

7がつくコードは他にもあるが、代表的なものはこれだけなのでこの機会に覚えてしまおう。一覧にすると

これらのコードをまとめてセブンスコードといい、コードを四和音にして使用することができる。当面、よく使うのはV7だけだが、それぞれ手元で音を出してみて名前と響きを覚えておこう。V7に限らず四和音は重く濁った音になりがちだが、メロディとコードがぶつかる場合は「ルートから5度上の音」を省略してよい(シーケンサーのコード分析で見るとコードネームが変わってしまうが、音を聴いてみればわかるように、響き的にはほぼ同じコードである)。

また、他の楽器も含めて「ルートをオクターブ違いで複数鳴らしている」場合、一番低い音を残して他は省略して構わない。たとえばこれだけの音でもG7のコードは成立する(V7の場合一番低いオクターブのルート音も省略できるという考え方があるのだが、ここではとりあえず無視する:詳しくは知識補充編のディミニッシュの説明を参照)。ルート以外の音がオクターブ違いで重複している場合は、好きな方を省いてよい。

C6やF6やG6など「6」がついたコードについても少し触れておく。「7」がついたらセブンスなのだから「6」がついたコードはシックススで、コードのルートから見て6度の音が乗ったコードということになる。面白いことに、C6とAm7、F6とDm7、G6とEm7は使っている音が同じである(並び方が違うだけ)。

Dm6(IVm6またはIIm6)を見たことがあるぞ、という人もいるかもしれない。実は、マイナーコードは7がつくより6がついた方が雰囲気が大きく変わる(基礎編でやったメロディ分析のところでも、マイナーコードに6がつくと雰囲気が変わるという話に触れた:もちろん7がついたときも雰囲気は変わるが、6がついたときほどではない)。Dm6(IIm6)はG7(V7)にかなり近い響きに聴こえるはずである(あまり多用されるコードではない)。

Am(b13)(Im(b13)またはVIm(b13))やEm(b13)(Vm(b13)またはIIIm(b13))という表示に見覚えのある人もいるだろう。これは「b13」とは書いてあるものの、実際には「6」と似た効果の音である。Am(b13)はFに、Em(b13)はCに近いイメージになる(コードネームを中心とした音楽理論はメジャーコードを主役にしたがる傾向があり、マイナーコードを考えるときにひと手間かかる場合がある)。


使う音を変える

メジャーキーにはV7というコードがあり、非常に強い緊張感を出せるということはわかった。ではマイナーキーで強い緊張感を出したい場合はどうすればよいのだろうか。結論から言うと、キーから見て7度の音(AマイナーならG)を半音上げて、Vmの代わりにV7を使ってしまえばよい(メロディもGではなくG#を使って作る)。正当な動機があれば原則は無視してよいのが音楽理論である(ただし、相応の下準備やアフターケアは必要)。

実際に、ドミナントセブンコードが入ったコードにメロディを付けてみよう(例によってメジャーキー8ビートマイナーキー8ビートの伴奏を用意した)。前の項目で説明したが、V7のコードとメロディが濁った響きを作る場合は「コードのルートから見て5度の音」を省略してよい。たとえばCメジャーのV7はG7なのでD音、AマイナーのV7はE7なのでB音を、シーケンサーのピアノロールで消してしまってかまわないということである(重要な事柄なのでしっかり覚えておこう:とくにマイナーキーでは、5度音を省略した方がスッキリすることが多い)。

・・・さて、実際に使ってみると「なるほどこれはいい」という感想の人と「やっぱり無理がある、メジャーキーはともかく、マイナーキーで使うとメロディが作りにくい」という感想の人に分かれるのではないだろうか。

多くの場合、メロディーが作りにくい原因は「半音上がった7度(AマイナーでE7を使う部分ならG#)の音から6度(AマイナーならF)の音への移動」が妙な感じになることではないだろうか。この部分は音の間隔が半端に広くて連続的な動きが出しにくい。ではどうすればよいか。6度の音を半音上げてしまえばよい(Aマイナーなら、F音の代わりにF#音を使うことになる:メロディ作りに支障がない場面では無理に半音上げなくてもよい)。

前回の冒頭でも述べたが「AマイナーではABCDEFGの音を使う」というのはあくまで原則であり、破壊力のあるV7の音を使いたい、と思ったら、実際に使ってよい(使うためにあれこれと工夫が必要な場合も、もちろんある)。このように、場面に応じて使う音を変えることを「モードを変える」という(すぐには使わないが、言い方だけは覚えておこう)。V7を使った曲の中で一部だけVmを使っても支障はないし、セブンスを付けないVを使っても問題ない。


使うコード増やす

ここまで、メジャーキーではメジャーコードだけ、マイナーキーでは(ドミナントセブンを例外に)マイナーコードだけを使用してきたが、たとえばメジャーキーの明るい曲を部分的に暗くしたい場合があるかもしれない。

こんなときどうするか?マイナーコードを使ってしまえばよい。繰り返しになるが、正当な動機があれば原則は無視してよいのが音楽理論である。しかし、明るいはずのメジャーキーの曲で一部だけ暗いマイナーコードを使うのだから、それなりに違和感があるだろうことが容易に想像できる。自然さを損なわないための工夫が必要だろう。

これに関していろいろと工夫をした人が大勢いたわけだが、どうやら「6度上(3度下)のマイナーキーのコードを使うのが一番自然らしい」ことがわかった(Jazzなどでは同主調から借用したIVmも多用され、すっかり定着しているがここではとりあえず無視する)。たとえばCメジャーの曲ならばAマイナーのコードを使えばよい。このように、他のキーの音やコードを使うことを「借用」という。CメジャーとAマイナーは「よく使う音」が同じだし、EmはC△7の上の方で、AmはF△7の上の方で普段から鳴っている音である。このため途中で入れ替えても違和感が少ないのだろう。

こうやって結論だけ書くと「何を当たり前のことを」と思う人もいるだろうが、たとえば「よく使う音」ではなく「キーの音程」が同じCメジャーとCマイナーでコードの借用をするという案もあり、実際にそうしている曲も普通にあるのだが、CメジャーとAマイナーで借用をしたときほどさりげなくはならないことが多い。この事実自体を暗記しても意味はないが、借用先を1つに限定する必要はない、ということだけは覚えておくとよいだろう。


増えたコードの扱いを考える1

ともあれ「Cメジャーの曲ではAマイナーのコードも使ってよい」「Aマイナーの曲ではCメジャーのコードも使ってよい」ということにすると、選択肢の幅がぐっと広がる。CメジャーにAマイナーのコードを導入する場合を例にもう少し詳しく考えてみよう。AマイナーのスリーコードであるAm(Cから見て6度なのでVIm)とDm(Cから見て2度なのでIIm)とEm(Cから見て3度なのでIIIm)をCメジャーで使うと、どんなイメージになるだろうか。

音楽理論では、よくわからない音や新しく導入したコードの響きについて「主要3コード(1=トニックと4=サブドミナントと5=ドミナント)のどれに似ているか」を考えて大雑把な特徴を掴むという考え方があり、これを「代理」という。かなりムリヤリな気もするが、そういう慣例なので仕方がない。たとえば「このコードはトニック代理だ」と言った場合「このコードは主要3コードのうちトニックに一番よく似ている」と言っているのと同じことになる。

ちなみに、ここで言う「似ている」の基準は、VやV7の後に聴いて安心感(解決感)があればトニックに、聴いた後に不安定さや緊張感でIの音を聴きたくなればドミナントに、どちらの性質もとくに持っていないようならサブドミナントに似ていると評価される。

では実際に比べてみよう。AmとC、DmとFはそれぞれかなり似た響きであることがわかると思う。Am7とC6、Dm7とF6を比べるともっと似ている(本来、このように数字がついた状態で比べるのには問題がないわけではないのだが、ここではソックリ感を体験するためにあえてこの形の音も聴いてみて欲しい)。F△7とAmもそこそこ似ているが、C6とAm7のソックリさにはちょっと及ばない。つまりAmはトニック(C)の代理で、Dmはサブドミナント(F)の代理だということになる。主要コードでないコードのことを代理コードと呼ぶ。

「代理」というからには、たとえばIの代わりにVImを使ったり、IVの代わりにIImを使ったりということができそうに思える。試してみるとわかるが、うまくフィットする場合とイメージが崩れる場合があるはずである。「代理」は必ずしも「互換(同じように使えること)」を示さないことに注意して欲しい。

・・・そろそろ「G(V)と似ているはずのEm(IIIm)はどうなったんだ」というツッコミが入る頃合いだと思うが、正直ここの解釈は難しい。確かにGとEmは響きが似ているし、G6とEm7だともっと似ている。しかし、Gにはドミナントセブンを作れるという決定的な特徴があるのに対し、Emではそれができない(メジャーコードの特権だから)。一方で、EmはCにも少し似ている。とくにC△7とEmを比べると「けっこう似ているんじゃないか」と思える。ではどちらなのか。結論から言うと「使い方次第」である。Em>Cと動くとGっぽい特徴が目立ってドミナント代理扱いになるし、Em>Fと動くとCっぽい特徴が目立ってトニック代理扱いになる・・・のだが、正直これでは面倒なので「IIImはトニック代理だけどちょっと変」で片付けてしまう人が多い。

IIImは比較的使いにくいコードなので、このページでは当分使用せずに練習を進める。しかし、代理の解釈が状況次第で変わり得るものだということは覚えておいて欲しい。ちなみにVImも、VIm>Iの形で使うと「Fに似ている部分」が目立ってサブドミナント代理扱いされることがある(このページでは常にトニック代理として扱う:詳しくは知識補充編を参照)。


増えたコードの扱いを考える2

結局、Cメジャーに新しく増えたコードはAmとDmである。ここで、大雑把なグループ分けをすると、C(I:トニック)とAm(VIm:トニック代理)のグループ、G(V:ドミナント)のグループ、F(IV:サブドミナント)とDm(IIm:サブドミナント代理)のグループ、ということになる。このページでは、トニック(1)を中心としたグループを「T」、ドミナント(5)を中心としたグループを「D」、サブドミナント(4)を中心としたグループを「SD」と呼ぶことにしよう。

前回「コードについて考える」の項で

という一覧を紹介したが、これを以下のように書き換える。 これからは、この5コードを使ってメジャーキーの曲を構成する。

もとはAマイナーから借用してきたコードではあるが、実際に使ってみるとわかるようにCメジャーにも非常によく馴染み、借りっぱなしがいつの間にかそのままになって、AmもDmも「Cメジャーのコード」として広く認められている(細かいことをいえば、CメジャーのままDmを鳴らすのと、CメジャーからAマイナーに転調してDmを鳴らすのでは微妙に意味合いが違うのだが、今はまだ気にしなくてよい)。

このコーナーでも、今後はいちいち借用とは解釈せず、Am(VIm)やDm(IIm)やEm(IIIm)も、C(I)やG(V)やF(IV)と同じく「Cメジャーでよく使うコード」の1つとして扱う。


増えたコードの扱いを考える3

マイナーキーにメジャーコードを導入する場合も考えよう。例としてAマイナーにCメジャーのコードを取り入れる場合を考える。元々使える主要3コードはAmとEmとDm、モードを変えればEやE7も使える。ここにCとFとGが加わることになる。先ほども比較したように、CとAm、FとDmは互いに音がよく似ているため、C(bIII)はトニック代理、F(bVI)はサブドミナント代理ということになる。

ところで、なぜ「bIII」や「bVI」などとフラットがつくのかというと、マイナーキーの3度はメジャーキーの3度よりも半音低く、マイナーキーの6度はメジャーキーの6度よりも半音低いからである(AマイナーのキーであるAから3度上のCまでと、CメジャーのキーであるCから3度上のEまで、間に半音がいくつあるか数えてみよう)。言い換えると、Aメジャーの3度(つまりAから見たIII=C#)よりも半音低い音という意味でbIII、Aメジャーの6度(つまりAから見たVI=F#)よりも半音低い音という意味でbVIと書くわけである(度の考え方では、常にメジャーの並びが基準になっている)。

話を戻そう。半分予想ができていたかもしれないが、G(bVII)は使いにくい。確かにEm(Vm)と音は似ているが、ドミナントのつもりで使っても、トニックのAmに解決しようという動きが強くない(むしろCに解決したくなる)。細かい分析がどうなっているのかわからないが、一般にはサブドミナント代理として扱うようである。

ということで、当面の間マイナーキーでよく使うコードは

ということにしておきたい。


増えたコードを使ってみる

さて、メジャーキーではIとIImとIVとVとVIm、マイナーキーではImとbIIIとIVmとVmとVとbVIを使うことになったが、新しく導入したコードはどんな場面で使えばよいだろうか。いままでの知識を応用しよう。

普通に思いつくのは、メジャー/マイナーが持つ「明るい/暗い雰囲気」とT/D/SDの分類を元にした、たとえば「メジャーキーの曲で暗くて安定した雰囲気を出したいパートにVImを使う」などといった用法である。重要な考え方なのでしっかり意識しておきたい。メジャーとマイナーでメロディの特徴が異なることは、ここまでの練習ですでに承知していると思う。

コードのルートの動きに注目した使い方もある。前回「4度上がるまたは5度下がる」動き(強進行)が重要であるという紹介をしたが、ここまでの練習をキッチリとこなしてきた読者は、この動きがある部分では「曲がぐっと前に進むような感じ」があることに気付いていることだろう。メジャーキーにおいてIImを使うと、この動きを連発することができる。IIm>V>Iという動きがそうで、通称「ツーファイブワン」と呼ばれる。

さらに同じ動きを追加してVIm>IIm>V>Iと動いてもよい。これをIから始まるループにすると、I>VIm>IIm>Vの繰り返しになる。ここまで読み進めてきた人にもう伴奏ファイルは必要ないはずなので、自分でI>VIm>IIm>Vのループを作ってメロディをつけてみよう。ローコスト制作コーナーのファイル配布ページにある練習用ファイルなども適宜活用して欲しい。メジャーキーばかりだが、典型的な展開をいくつか盛り込んでいる(長めにループさせてあるので、不要な反復は各自で適宜削る)。

マイナーキーにおけるメジャーコードの使い方については、以前触れたように筆者はあまりマイナーキーが得意でなく、Im>bIII>IVm>VmとかIm>IVm>bVI>Vなどの循環くらいしか思いつかない(誰か他の人が書いた詳しい解説がきっとあると思うので探してみよう)。VmとVとV7の使い分けだけでもけっこうなことができるので、そちらから手をつけても構わない。

ともあれ、増えたコードを実際に使ってみるのが何よりの練習である。T(曲を安定させるパートで使う)、D(緊迫感のあるパートで使う)、SD(強い安定も強い緊張もせず)の使いどころ、メジャーとマイナーの響きの違い、強進行の推進力などを、しっかりと感じ取ろう。メジャーキーにおけるIIImやマイナーキーにおけるbVIIは、よく使うコードではないものの封印しなければならないようなコードでもないので、必要があれば気にせず使ってよい。どうしても上手くいかない人は

という制限をつけて練習してみよう。また、主要3コードしか使わないパートと代理コードも使うパートを作ってみて、雰囲気がどのくらい変わるか体験してみよう。


コードにおけるトーンの意味を考える

これまで先送りにしてきたが、メジャーコードには「最初の音から半音4つ上がると2番目の音」「最初の音から半音7つ上がると3番目の音」というルールがある。図のコードはCだが、FでもGでも「音の間隔」は同じである。実際にピアノロールや鍵盤などで間隔を確認しよう。

マイナーコードには「最初の音から半音3つ上がると2番目の音」「最初の音から半音7つ上がると3番目の音」というルールがある。図のコードはAmだが、DmでもEmでも「音の間隔」は同じである。実際にピアノロールや鍵盤などで間隔を確認しよう。

つまり、コードの最初の音から見て5度の音までの間隔は両方同じで、3度の音が半音高いか低いかでメジャーとマイナーが決まっている。ちなみにこの「間隔一定の法則」は「キーでよく使う音」にも当てはまり、たとえばメジャーキーでは、キーから半音2つ上が2度の音、キーから半音4つ上が3度の音、キーから半音5つ上が・・・と決まっている(基礎編に出てきた図で確認してみるとよい:このような「音の取り出し方のルール」を「スケール」という)。

試しにCまたはCmから3度を抜いてC+Gの2和音にしてみると、メジャーな感じもマイナーな感じもなくなり、メロディ次第でメジャーっぽくもマイナーっぽくもなる(このようなコードを「パワーコード」という:使い方については編曲の知識補充編を参照)。コードの音に3度を音を最初から入れておくことで「この小節はC」「この小節はCm」ということを強制することができる。

似たような理屈を、ドミナントセブンの説明でも紹介した。ここでの話と関連させると「7度の音によってコードの響きが大きく変わるが、それをコードの楽器が最初から演奏してしまうことで、ドミナントセブンの響きを強制できる」ということになる。

このように、3度の音と7度の音はコードの響きにごく強い影響を与える。3度を省略することはあまりないが、7度はコードに入っていないことも多いため、メロディが7度に触れるか触れないかということはけっこう大きな問題である。

出て欲しくない違和感が出てしまうとき、出てほしい違和感が出てくれないときなどに、メロディによってコード全体がどういう影響を受けているのか考えてみると、解決の糸口になってくれることがある。


メロディにコードをつける

練習の前に確認すべき話を少し。メロディによってコードをつけやすいものとコードをつけにくいものがある。現時点で問題になるのは結局、コードネームを中心とした手法との親和性が高いか低いかということだろう。ここまで「コードの展開に従ってメロディを作る」練習を繰り返してきた読者は、おそらく、伴奏なしでもコードネームを中心とした手法と親和性が高いメロディが作れるようになっているはずである(もう少し慣れればコードをつけにくいメロディも意図的に作れるようになるだろうが、現段階であえてそんなことをする必要はない)。

作曲中につけるコードは、あくまでメロディ作りのためのガイドラインであるということも理解しておきたい。詳しくは編曲のページに譲るが、メロディにコードをつけるということはメロディの解釈を固定するということである(反対に、コードを決めてからメロディを付けるということは、方向性を固定してから出発するのと同じことになる)。

たとえば、大きな古時計のメロディにGメジャーの3コードのみでコードを振ってやるとこんなイメージの解釈になるが、1箇所マイナーコードに差し替えてやるだけでかなり印象が変わるし、Cメジャーで借用コードも使ってこんなイメージに解釈することもできる(最後の演奏には一瞬違和感を覚えるかもしれないが、普段聴きなれた音に影響されただけである:3回くらい繰り返して聴けば抵抗がなくなるはず)。そしてこれは「どれが正しいか」ではなく「どれにしたいか」の問題なので、各自の好みによって適宜選べばよいだけの話である。極端な話、メジャーをマイナーに総とっかえする解釈(いわゆるマイナーアレンジ:メロディにも多少の修正は必要だが、基本的には同じメロディである)もありえる。キーやコードは「わかる/わからない」ではなく「選んで決めるもの」だという意識をしっかりと持とう。すべては「こんな曲にしたい」という構想次第である。

もっと極端な例ではこんなこともできる。スチャダラパーのテーマ太陽に吠えろグランドテーマ(大野克夫、井上堯之バンド: 1972)より引用。メロディはずっとC(ド)の音を鳴らしているだけで、背景となるコード伴奏が変化して全体の解釈を決めている。初心者がこんな芸当にイキナリ挑戦するのはもちろん無謀だが、コード進行が作る場面展開とコードに対してメロディが何度になるかで得られる響きだけでこういった効果を挙げられるということは、頭の片隅にでも置いておいて損はないだろう。

勘がつくまでじっくりやるなら「虱潰しにコードを当ててみる」ことを繰り返し、響きを覚えていくのがよいのではないかと思う。三和音に限定すれば、すべての音を使ってもコードはたった24種類である(メジャー/マイナーの区別を先に決めてかかれば12種類しかない)。また、当然ながら「このコードはこんな響き」というイメージがしっかり身についていれば、ある程度「あたり」をつけてコードを選ぶことができる(この辺の感覚を身につける上で、楽器を使って実際にコード伴奏してみることが上達を大いに助ける:効率重視で練習を進めるなら、ぜひコード楽器を用意しよう)。

自信がない人は、まず先ほどの大きな古時計のメロディの続きに伴奏をつけてみよう。筆者が途中まで解釈してあるので、それをガイドに作業を進めればよい(Cメジャーで解釈できるように移調してある)。三和音のみを使用し、四和音は使用しないこと。同様に、蛍の光のメロディにもコードをつけてみよう(Cメジャーで解釈できるよう移調し、ガイドとして最初の小節だけコードをつけてある)。わけがわからなくなったら、マイナーコードのことは忘れてCとFとGの主要3コードだけでやってみることをオススメする(そのように作業しても問題ないメロディである)。さらに、短いものとしてPony Boyのメロディを用意したので、これはノーヒントでやってみよう。最後に、少し長めで複雑な曲として、グリーンスリーブスのメロディを「Eマイナーで」解釈してみよう(Eマイナーで「よく使うコード」以外も使う)。このコードを使うとこんなイメージになる、という感覚はつかめただろうか(T/D/SDの分類で「も」考えるようにすると学習効率が上がる)。

慣れてきたら、上でも言及した「コードの並びが作る場面展開」や「コードに対してメロディが何度になるかで得られる響き」を意識してコードを決めてみよう。どうしてもできない人は一足飛びのコード後付けのページを、メロディ自体ができないという人は次の項目を参照して欲しい。


メロディ先行とコード先行を折衷する

メロディだけを最後まで作って後からコードを当てるメロディ完全先行型のスタイルではうまくメロディが作れない、という人のための練習方法。完成したメロディにコードをつける練習にもなる(アレンジ作業の領域に入り込むことになるが、いまのうちから練習しておくのも悪くない)。

まずはキーを決めて、最初と最後のコードをトニックに固定してしまう。たとえばCメジャーならCで始めてCで終わる。途中はメロディを先に作って、あとからCメジャーのコードを中心にコードをつける。メジャーキー8ビートマイナーキー8ビートの伴奏(1小節めと9小節めがトニック:作業前に使いたいキーに移調し、リズムパターンも適当なものに入れ替えること)を用意したのでとりあえずやってみよう。どうしても慣れない人は、5小節めもトニックに固定してやるとよいだろう。

トニックで始めてトニックで終わるというルールだけは何としても守ろう(これを守らないと練習の意味がない)。上手く終われない場合は終われるようにメロディをなんとかする。もし8小節目にトニックが来て終わってしまったら、9小節目のトニックは削って構わない。メジャーキーというのはどういうキーだったか、マイナーキーというのはどういうキーだったか、しっかり覚えている人なら、調性をガッチリ守ったメロディでも、ややゆるめにしたメロディでも、匙加減次第でコントロールできるはずである。

コードをつける作業については、キーが最初から決まっており9小節(実質7小節)と長さも短いため、慣れていなくてもそう苦労はしないのではないかと思う。よほど過激なメロディを作らない限り、T/D/SDとメジャー/マイナーを選ぶだけで済む。ただし、キーを決めてからとは言ったものの、メロディや前後の流れに合うなら普段あまり見ないようなコード(Cメジャーの曲でGmとか)を振ってもよい。この練習でコード振りに慣れておけば、後でアレンジをやるときに少し楽ができるだろう。

慣れたら、最初のコードをトニックに限定せず、キーだけを決めてメロディを作る練習もしてみよう。曲を始める前にトニックの音を鳴らしておくとやりやすいが(CメジャーAマイナーのサンプル:トニックの音は作業時に耳で聞くだけ)、トニックだけでは調性感がつかめないという人は151なり1451なりを前奏的に鳴らしておいてもよい(CメジャーAマイナーのサンプル)。もちろん、メロディにコードを当ててみて、結果的に最初がトニックになるのは差し支えない。

興味がある人は、ブルース系のアイディアを拝借した練習もしてみるとよい。ブルースの基本構成として、トニックパート4小節+サブドミナントパート4小節+ケーデンスパート4小節という原則があるので、これを流用する。具体的には、T>X>X>SD以外>>SD>X>X>D以外>>D>X>X>T(「>>」はパートの区切りを示す)という12小節で、Xの部分を好きなコードで埋めていく練習である。

Key on CならCorAm>X>X>ForDm以外>>ForDm>X>X>GorG7以外>>GorG7>X>X>CorAmだし、Key on GならGorEm>X>X>CorAm以外>>CorAm>X>X>DorD7以外>>DorD7>X>X>GorEmだし、Key on A らAorF#m>X>X>DorBm以外>>DorBm>X>X>EorE7以外>>EorE7>X>X>AorF#mになる。伴奏ファイルは用意しなかったが、8ビートかシャッフルあたりが無難だと思う。このように大筋の流れを先に決めてパート内部を後で検討する形は、実際の作曲でも比較的よくある。

もちろん、小節の途中でコードチェンジをするなど変化をつけてもよい(上記のコード指定は「その小節で最初に鳴らすコード」を指定しているだけ)し、ケーデンスパートに必ずSDを入れる、4小節めと8小節め(「以外」の指定がある小節)をTに限定するなど、制限をキツくしても面白い(そちらの方が簡単だと感じる人もいると思う)。反対に、各パートの中心コードの出現位置をパートの先頭に限定せず、ユルい枠でやる案もあるが、モーダルインターチェンジやキーの移動を意識しなければならずやや難易度が高いため知識補充編で触れる。

上記はブルース由来の流れを用いたのでケーデンス部分に独特の雰囲気があるが、T>X>X>SD以外>>SD>X>X>D>>T>X>X>X(ただし10~12小節めのどこかにDが入り、12小節めがTでない場合は最後にTを付け足す:音声ファイルつきの紹介が一足飛びのコード進行のページにある)というパターンに変えると比較的クセのない流れになる。さらに寄り道したい人は、12小節分完成したら各パートを2回繰り返す形に変更してみよう(しっくりこない部分があれば適宜変化をつける)。

オマケ的な知識だが、上記をもう少し応用すると、ベースのページで紹介した手軽なウォーキングベースを作る作業も(まったく同じことをやるわけではないが)似たような感覚でできる。メロディを打ち込みでファイル化しておけば、前回やったメロディの分析と同じ方法で、コードを実際に当てる前に大まかな傾向を知ることもできる(耳で確認した方が早いし上達するのであまりオススメではないが)。


長い曲を作る

総仕上げである。全体を通して「こういう曲にしよう」というイメージをまず固めて、それに応じて各パートの役割を決めてゆく。穏やかなパート、急展開するパート、安定したパート、緊迫したパート、メロディがよく動くパート、メロディがあまり動かないパートなど、最初に決めた「曲全体のイメージ」を実現するにはどのパードでどんなことをすべきか、という意識が必要である(あまり考え込むのもよくないが)。

聴いている人は「緊迫から安定」とか「静から動」といった「変化」により強く反応するということを常に念頭に置こう。始終安定しているよりは緊迫>安定と変化した方がより強く安定感を感じるし、ずっと動いているよりは静>動と変化した方がより動きを感じる(ドミナントで緊張させてトニックで解決、などという考え方もこれと同じ)。

捉え方のスケール(スコープ)を変えてみるのも有効で、たとえば12小節ブルースで言うトニック>サブドミナント>ケーデンスとターンバックの考え(トニック中心のパート>サブドミナント中心のパート、ドミナントがトニックに解決して次のループに進むパートの各4小節に区切る:用いるコード自体に制限はない)や、クラシックの楽式論でいう楽節(8小節ワンセットを基本にして区切る)なども参考になる(上記の方法を研究せよというのではなく、小節単位よりも大きい区切りで捉える場合のガイドラインになるということ)。とくにコード先行で作曲する場合、必ずしも小節単位で考え始める必要がないことに注意して欲しい。同じコードを中心にしたパートが4小節や8小節続いてもまったく問題はない。

もし変化が必要なら後から(循環コードやダイアトニックパラレルモーションなど編曲のページで紹介する手法を使ってもよいし、ベースアレンジで和音の解釈を上書きしてもよいし、適当な方法を見繕って)盛り込んでやればよいだけである。反対に、小節の途中にコードチェンジを盛り込んでも、もちろん差し支えない。同じコードが続いて飽きてきたら好きにコードを差し替えてよいし、シンプルなパターンが曲にフィットするなら無理に変化をつける必要はない、ということを忘れないでおこう。

全体を考える>部分を積み重ねる>全体に反映させる>部分に反映させる>全体に・・・というトップダウンとボトムアップの繰り返しによって、曲全体の完成度が上がってゆく(これをあえてせず、荒削りのまま1発でドーンというのも悪くはないが)。

とまあそういうことを意識しつつ、自由な長さ、自由なリズム、自由なキー、自由なモード、自由な展開、自由なメロディ、自由な作業手順で3曲くらい曲を書いてみよう。行き詰まったらトラブルシューティング編も参照のこと。理論重視で作曲したい人やアレンジにも取り組みたい人は知識補充編も読んでおこう。


最後に

これで、作曲を始めるための基礎事項はほぼカバーできたのではないかと思う。

耳も相当鍛えられただろうから、自分の好きな音楽を改めて(分析的な態度で)聴きなおしたり、面白いと思ったリズムやフレーズを真似てみたり、いままで聴いたことがなかったジャンルの音楽を聞いてみたり、自分の好きな音楽のルーツ辿りをしたり、いろいろやってみるとよい。

何か盗める工夫はないものか、という意識を持って聴いてみると、ありふれた音楽の中からも意外なほどの発見がある。そして、なにか発見をしたら自分の手で形にしてみることが重要である(余談のページでも触れるが、コピーと称して「音をなぞる作業」を繰り返してもほとんどナンセンスで、音を探って発見し、発見を形にするプロセスが重要になる:形にした結果が元の曲と全然異なるものでもまったく問題ない)。

また、理論に関する素養も高まっているはずなので、このサイトの音楽理論系の記事やそのリンク先を含めて、音楽理論に関する解説をいくつか読んでみるとよい(リンクは別ページにある程度まとめてある)。

そしてなにより、自分が作った曲を繰り返し聴き、また演奏してみよう。さらなる工夫の余地がどこかにないか、何度も試してみよう。必死で作業をしているときには気付かなくても、後からリラックスして聴いてみると簡単に問題点を発見できたりする。

読者のもとにいつも音楽があることを祈る。



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