正確な記述ではないので、医学的知識を得たい人はちゃんとした専門書を読むように。
酒を飲んで酔っ払うのはアルコール(エチルアルコール/エタノール:エタンのH1つがヒドロキシ基に置き換わった第一級アルコールでC2H6O)の作用。エタノールは密度0.8g/cm3、分子量46.1g/mol、代謝熱量約7Kcal/g(約8.75Kcal/ml)である(WikipediaJPより)。
1unitの量が国によって違う。純エタノール換算で、1英unitは8g=10ml(英糖尿病協会採用の数値)、1米unitは15g(20ml弱:1drinkとも)で、日本では10~14g程度(代謝熱量80Kcalが基準:食品成分表5訂版,2002)や20ないし23g(日本酒1合分)を1unitとしている。日本の医学界では1unit=20g(体積に換算すると25ml)を採用することが多いので、ここでもそれに従う。この基準(1unit=20g=25ml)で計算すると、40度のウィスキー1ショット(=1オンス:英液量オンスで28.41ml、米液量オンスで29.57ml、日本の1ショットで30ml)が約0.5unitとなる。5度のビールなら500mlでだいたい1unit(この、日本酒1合≒ウィスキーダブル≒ビール500cc≒1unitという関係は、覚えておくと便利かもしれない:ワインなどは日本酒に準じるので、1本750mlがだいたい4unit強である)。慢性毒や生活習慣としての飲酒の文脈で、平均エタノール摂取量12.5g/日以下を少量飲酒者、12.6-37.4g/日を中程度飲酒者、37.5g/日以上を大量飲酒者と区分することがある。
アルコールは麻酔作用を持つが、発揚期(上位中枢の抑制系が先に抑制された見かけ上の興奮状態:誘導期(導入期)と麻酔期の間に現れる)が長く、これがいわゆる酩酊状態である。発揚期は血中濃度0.06%程度(体重60kgのうち60%=36kgが水分と仮定すると21.6gで、約1unitが体内に存在する計算になる)から始まり0.4%程度(同じ計算で144g、つまり約7unit)で麻酔期(ぶっちゃけた話、生命維持装置なしで全身麻酔をかけた状態)になる。ヒト成人への単回経口投与は、最小毒性量(LDael)が50mg/kg程度、最小致死量(LDLo)が1400mg/kg程度、推定の全致死量(LD100)が6000~8000mg/kg(Wvon Oettingen, 1943)らしい。体重60kgの人なら30g(1.5ユニット)でLDael、84g(4ユニット強)でLDLo、360~480g(20ユニット前後)でLD100ということになる。
なお酒の「度数」はエタノールの体積百分率で、US proofは度数*2@60°F(15.5°C)、UK proofは度数*1.751@51°F(10.6°C)で求められる。
Absorption:
約20~25%が胃、約75~80%が小腸で吸収される。食物を摂るなどして幽門が閉じていると、小腸への移動が遅れ吸収速度も遅まる。濃度が高いと吸収速度も速まる。
Distribution:
Widmarkの1次吸収0次消失1コンパートメントモデル、LundquistらによるMichaelis-menten型消失過程の非線形モデルなどで説明される。水分が極端に少ない組織(骨、毛髪、脂肪など)を除き、ほぼあらゆる組織に拡散する。中枢系への作用が顕著なのは血液脳関門を通過する性質による。
Metabolism:
アルコール脱水酵素(alcohol dehydrogenase=ADH)存在下で補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:補酵素の1つで、酸化型はNAD+、還元型はNADHと呼ばれる)による酸化を受けアセトアルデヒドに代謝される(CH3CH2OH+NAD+>CH3CHO+NADH+H+)経路と、ミクロソームエタノール酸化系(Microsomal Ethanol-Oxidizing System=MEOS)でニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:補酵素の1つで、酸化型はNADP+、還元型はNADPHと呼ばれる)による酸化を受けアセトアルデヒドに代謝される(CH3CH2OH+NADPH+H++O2>CH3CHO+NADP++2H2O)経路がある。MEOSによる代謝は、血中アルコール濃度が高まることで酵素誘導が起こり機能が亢進する(習慣的に飲酒することで亢進状態が続くようになる)。総量のうち約95%(90~98%)が代謝され、代謝の内訳はADH経路が80~95%(うち肝臓が約85%、胃が15%)、MEOS経路が5~20%程度であるが、少量(0.5unit程度)であれば約70%近くが胃のADHにより代謝される。いずれの経路でも、アセトアルデヒドが代謝産物として現れる。
アセトアルデヒドと酢酸の代謝:
アセトアルデヒド脱水酵素(aldehyde dehydrogenase=ALDH)存在下でNAD+と補酵素A(CoenzymeA=CoA)による酸化を受けて酢酸に代謝される(CH3CHO+NAD++CoA>acetyl-CoA+NADH+H+)経路と、MEOSでNADPHによる酸化を受けて酢酸に代謝される(CH3CHO+NADPH+CoA+H++O2 =acetyl-CoA+2H2O+NADP+)経路がある。酢酸は体内に酢酸CoAの形で存在し、クエン酸回路(tricarboxylic acid cycle=TCA)を経て酸化され二酸化炭素と水になる(CH3COOH+4O>2CO2+2H2O)が、一部はグリセリンや脂肪酸に転化される。アセトアルデヒドは毒性が強く、頭痛、吐き気、めまいなど(アンタビュース様作用:要するに悪酔い)を起こす。
Elimination:
尿、汗、呼気などから排泄される。総量の約5%(2~10%程度)は未代謝体のまま排泄される。
アルコール専用のAHDやアセトアルデヒド専用のALDHに対し、MEOSは汎用の代謝システム(同じ肝ミクロソーム画分に存在するチトクロームP-450酸化酵素系の一部など:ミクロソームは細胞を破壊したもの(ホモジネート)を強く遠心分離(分画)した際に得られる顆粒体で、リボソームが多数付着した粗面小胞体由来のものとリボソームが付着していない滑面小胞体由来のものがあるが、ここでは肝滑面小胞体由来のものを指す)を借りたもので、MEOSの機能が亢進することで麻酔など他の薬物が代謝されやすくなったり(交差耐性)、アルコールやアセトアルデヒドの分解で手一杯になって他の代謝が遅れたりする。
AHDには通常型と異型があり、異型の方が活性である(アルコール代謝が速い一方、アセトアルデヒド濃度が急激に上がって悪酔いする)。日本人で85%、欧米人で10%が異型酵素を持つ(成蹊学園健康支援センターの資料より)。血中濃度の上昇は吸収速度と体重が支配的に決定するが、AHD低活性だと時間をかけて摂取してもアルコール濃度上昇を抑えにくい。
ALDHにはグアニン2つのGG型(活性型)、グアニン1つとアデニン1つのAG型(部分欠損型)、アデニン2つのAA型(欠損型)がある。部分欠損型は活性型に比べ16分の1程度の代謝しか行わず、欠損型はほとんど代謝しない(もっぱらMEOSで代謝することになる)。日本人では、活性型が50%、部分欠損型が40%、欠損型が10%程度である(出典同上)。
標準的なアルコールの代謝速度は約0.1g/kg/hで、体重60kgであれば6g/h、3時間で約1unit弱ということになる(ただし遺伝子型・年齢・体調などで大きく変動する)。泥酔に当たる血中濃度0.3%(108g≒5unit強)のエタノールを代謝するには15~18時間くらいかかる。1~2unitの経口摂取だと、30分後くらいに血中濃度が最大になるようだ。AHDが活性型でALDHが部分欠損もしくは欠損型だと、アセトアルデヒド濃度が高まりやすく悪酔いする体質になる。