その他


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余談など。


心得あれこれ

作曲の心得:

編曲の心得:

演奏の心得:

サウンドエンジニアリングの心得:

PAの心得:

試行錯誤の心得:


得意なことをやろう

作詞・作曲・編曲・演奏・録音・加工のすべてをバッチリこなせる人はめったにいない。パワフルな曲からソフトな曲まで万能に対応できる人や、複数の楽器を手足のように操れる人もそういるものではない。しかし、すべてを網羅的にカバーする必要もないのである。

作詞が苦手ならインストをやればよい。作曲が苦手ならリアレンジ曲がある。編曲が苦手なら自動編曲ソフトが使えるし、演奏が苦手なら打ち込みがある。録音や加工が苦手ならライブ録音で1発録りしてしまえばよい。また、初心者がゼロから練習する場合、何もかもいっぺんに習得しようとすると上達の妨げになる。得意なことや興味のあることから順番に、1つづつ着実に身に付けてゆけばよい。どうしても苦手なこと、興味が持てないことにあえて手をつける必要もない。

何もかも上手くできる人が少ないということは、一方で、たいていの人が何かしらの苦手分野を抱えているということである。複数人での制作は、この部分で相互補完ができるため非常に有利である(バンドがケンカ別れするなど、別の方面での苦労は増える:モメる場合、たいていは「やりたい曲ができない/やりたい楽器と違う楽器を任される/アイディアを出しても却下される」「腕前に文句を言われる/演奏法に注文をつけられる」「練習量/作業量の維持が苦になる」のどれかが理由である)。

複数人での制作について「まだ下手だから」と二の足を踏む必要はないと思う。たいていの分野では「上手い人と下手な人」が「ピラミッド状」に分布している。もっとぶっちゃけて言えば、凄腕のギタリストが自分の要求を満たすベーシストを探すより、駆け出しのギタリストが自分の要求を満たすベーシストを探す方が間違いなく選択肢が広い。これは「有利な条件」として捉えてよいものだろう。

一方で、作詞と加工以外の作業は1人でも可能である(作曲だけやって後は自動処理に任せる、編曲だけやって楽譜を公開する、自動処理で作ったカバー曲の伴奏に1発録りでオーバーダブするなど:その気になれば自動作曲してから歌詞をつけるようなことも不可能ではない)。思い通りに制作を進めることと不得意分野の相互補完のバランスをどう取るかは難しい問題だが、特定分野に集中したい人ほど複数人制作のメリットが大きく、隅々まで思い通りに作業したい人ほど1人制作のメリットが大きくなるだろう。


リクエストの出し方

複数人で作業する場合の注意。結論から言うと、演奏/加工内容などにムリに踏み込まず「欲しい結果」を明確に示すことが大切である。

たとえばギタリストがドラマーに「キックもうちょい強く踏んで」とリクエストを出す。演奏がキマらずすったもんだした挙句前の小節の最後に入れた「タムのウラ打ちが邪魔だっただけ」だとわかる。たとえばヴォーカリストがエンジニアに「ロー上げて」とリクエストを出す。さんざん迷走した挙句「オーバードライブを強めにかけて解決」する。こんな事例はいくらでもある。

上記の例で、ギタリストが「小節の頭がなんか入りにくい」と素朴に説明していたら、ヴォーカリストが「声に押しが足りない気がする」と簡潔に説明していたら、おそらく余計な手間をかなり省けたはずである。何をどうしたらどういう結果になるのか、明確に把握できていない場合は欲しい結果をまず示すべきだろう。目的の音にたどり着くための方法は、リクエストをもらった人が考えて工夫した方がずっと早い(ただし、ベーシストがベテラン、ギタリストがド初心者で、どうやったら目的の音にたどり着けるかベーシストの方がよくわかっている、なんて場合は例外)。

ここで注意して欲しいのは「小節の頭がなんか入りにくい」という説明(=「小節の頭で入りやすい演奏にしてくれ」というリクエスト)は十分具体的だということである。もちろん「お前が頑張って入れよ」と言われてしまう可能性はあるが、回りくどく頼んでも結果は同じである。だったら、要点をきちんと示してリクエストした方がよいのは明らかだろう。本当に抽象的なリクエスト、たとえば「間奏前のトコがガーっとこないんだよねー」といった類のものであっても、要請側の実感に即したものでさえあれば、下手に枝葉に回り込んだ説明よりは有用なことが多い。

とはいえ、たとえ明確なリクエストであっても、受ける側が「こうすればOK」とすんなり回答できるとは限らない。先の例で出したタムのウラ打ちで小節の頭がボケる現象などは、ちょっと慣れた人でも盲点になりやすいのではないだろうか。そういう場合は、やはり音を出してみることである。こんな感じで弾いたらこうなるな、こうやって加工したらこんな風になるなと頭の中で考えても、結局ラチがあかないし、頭の中で考えた音が実際に音を出しながら作った音よりもよいなどということもめったにない。

以下余談のまた余談。非常に言い出しにくいリクエストに「もっと上手く弾いてよ」というものがあるが、これはぶっちゃけ言わなくていいんじゃないのという気がする。「ココが締まらないと曲がコケるから頑張ろうねー」程度の重点確認くらいはしておくべきだろうが、一朝一夕の練習で上達するようなものでは最初からないし、普段練習しない人に「やれよ」と迫って練習熱心になる見込みもほとんどない。あとはまあ他のメンバーの発想力の問題というか、出てきた「上手くない音」を「どう使うか」が見えているかどうか次第じゃないかと思う。


真似ることについて

上手い人を真似ることや他人の発想を取り入れることは大切だが、初心者に上手い人と同じことがすぐできるわけはない。

自分自身もある程度経験を積めば、表面だけなめて「これいいね」と自分のモノにしてしまうことが不可能ではない。しかし、初心者が練習のために真似るとなれば、まずはその人と同じ水準の「技量」を身に付ける練習からじっくりと取り組むしかない。反対に、発想を欠いた技術というのもまた役に立たない。

結局は「考えることと手を動かすことをどちらもサボってはいけない」ということなのだが、このバランスを意識するのとしないのとでは学習効率が大きく違ってくるため、よく覚えておいて欲しい。「真似る」ことと「なぞる」ことは違うのだと心得よう。


上手くパクろう

筆者はTotoの初代ドラマーJeffの演奏が好きで、Jeffっぽいドラムスアレンジができないかと試行錯誤することもよくあるのだが、少しでも上手くパクろうと思ったら本人の音だけ聴き込んでもダメである。

どんな人でも必ず「引出し」のようなものを持っている。中身が音や曲だとは限らない(味や匂いや映像でもまったく差し支えない:曲作りのために風景写真を集めている、なんて人もいる)のだが、とにかくこの引出しにある程度意識を向ける必要がある。

上記の例でいうとJeffはZepのファンだったらしく、Bonzoテイストの音を使うことがある。この音使いをさらにパクるには、まずBonzoの音を知らないと話にならない。さらに、Jeffが出すBonzoテイストの音はあくまでJeffの音であってBonzoの音そのものではないのだが、引出しの中から外への動きでどんな変化が起きているのかに注意しなければならない(自分自身が引出しからJeffの音を出すときにはどんなことをしているのか、というところまで意識できるともっとよい)。

引き出し辿りもやりすぎるとわけがわからなくなってくる(たとえばJeffの引出しの中身であるBonzoの引出しの中身を探って、さらにまたその中身を、とか:普通の人にはせいぜい2段階くらいが精一杯だろう)が、つながりを辿ること自体もけっこう面白いので、ヒマを見つけてやってみるとよいだろう。

実際筆者は、Bossからの線(Human Touchに演奏で参加していた)でJeffとTotoの音に出会い、そこから辿ってZepに行き当たり、さらにYardbirdsつながりでClaptonやBeckなど、パクリネタにできるかどうか(能力的な限界というのもあるわけだし)はさておき、楽しい音楽体験をいろいろとした。

ちなみに、パクることと「曲をコピーする」ことにはあまり関連はない。筆者自身、Totoの曲は大好きだし、Jeffのドラムパターンを打ち込んでみたこともあるが、1曲丸ごとコピった経験は1度もない(2009年11月現在:ただし、既存曲のコピーをやったことがないわけではなく、むしろ自作した曲数よりコピーした曲数の方が多い)。というか、あんな変態プレイをたとえばJeffのパートだけでもコピるのは人間業ではない(パターンを打ち込みで並べるのとコピるのでは天と地の差がある)し、それを全員分となったらこれはもう完全に不可能である。そういうことよりも、曲の中にどういう流れがあるのか見極めて、自分で試してみることが重要だろう。


生楽器の音

打ち込み中心(またはオンリー)で制作を進める人も、一度くらいは生楽器の音を聴いてみてはどうだろうか、という話。余談には違いないが、けっこうヒントになる経験だと思う。ここでいう生楽器というのはアコースティック楽器のこと。

ぶっちゃけ生楽器の音ってのは、薄いし細いし迫力もない。普通の人が体験しやすい例ではピアノあたりだろうか。クラシックなどPAを使わない演奏を聴くと、いかにも野暮ったい音が出ているのがよくわかる。Jazz方面に顔を出せば、生ドラムの音を聴く機会もけっこうある。アコギも楽器として身近だが、鉄弦のギターをPAなしで聴く機会というのはピアノやドラムスほど多くない(自分で演奏しているときに聴こえる音と、近くで他人が演奏しているときに聴こえる音と、ステージで他人が演奏しているときに聴こえる音と、演奏をマイクで拾って無加工で再生した音が、それぞれまったく異なることに注意)。

他人の演奏ではなく自分で弾いてみる機会もあればもっとよいが、リハスタなどのレンタル楽器の場合メンテの質がバラバラで、中にはマトモに音が出ないものもあるためちょっと敷居が高くなる(それを差し引いても貴重な経験になるとは思う)。ウェブで公開されている資料としては、Drumeoというサイトのバスドラムのヘッド紹介動画(演奏は4分過ぎから:ROOM MICSと表示されるのが生音に近い録音で、CLOSE MICSと表示されるのがオンマイクの録音)がわかりやすい。

とくに意識すべきことが2つあって、リアルな音と豪華な音は違う(生で聴いたことはないが、例外はチャーチオルガンくらいではないだろうか)ということと、音色の厚みと演奏の厚みは直結しないということである。

また自分で弾いてみるとよくわかるが、エレクトリック楽器も含めて、楽器というのは実にいろいろな音が出せる。バリエーションがもっとも少ない鍵盤楽器でさえ、音色は無限に近い(たとえばアコピの場合、調律や整音に手を出さなかったとしても、ペダルワークとフタの開け具合だけでかなり音が変わる)。

生楽器的な音なんて一生使わない、という人も一定数いるだろうが、可能性を捨てる前にちょっとだけ体験してみても損はなかろう。


「ジャケ」や「配布サイト」をおろそかにしない

筆者が言ってもまったく説得力のない話ではあるのだが、CDを焼くならCDのジャケ、ウェブで配布するなら配布サイトの作りなど、音以外の要素にも気を配った方がよい。

音楽の鑑賞には、脳の高次野を頂点とした全身のネットワークが関与する。高次野というのは、複数の情報を取りまとめて総合的な処理を行う部位である。つまり、音楽の鑑賞は聴覚だけで成り立つのではない。これは簡単な実験で確認でき、たとえばヘッドフォンで音楽を聴きながら目を瞑って顔を左右に向けると、耳に入ってくる音声はほとんど変わらなくても、非常に奇妙な感覚になる。また、視覚情報が定位に影響を与えるという話にも他のページで触れた。音楽の鑑賞には聴き手が利用し得るあらゆる情報が(程度の差はあれどいくらか)影響を及ぼしている。

であれば、ジャケや配布サイトのデザインなどをおろそかにするのは得策でない。たとえば料理人が「器の選択で料理の味わいが変わること」を心得ているように、書道家が「文字の勢いで文章の受け止められ方が変わること」を心得ているように、音楽製作者もまた音以外の要素をしっかり意識する必要がある(「作曲だけ担当」とか「エンジニアリングだけ担当」など音が出る現場までタッチしない人や、自分は「音楽」でなく「音声」を作りたいのだという強い意志がある人は除く)。

ジャケやサイトのデザインが苦手だという人(筆者もその1人)もいるだろうが、もちろん、すべてを自分だけでやりくりする必要はまったくない。何度も述べているように、複数人でそれぞれ得意な作業を分担してもよいのである(むしろそれが普通だろう)。しかし、たとえ自分で作業しなくても「音楽の要素は音声だけではない」ということは意識するべきである。そうすることで、不思議なことではあるが、音のイジり方もどこかしら変わってくる(視野が広がる、ということなのかもしれない)。


偉い人の名言

「たしかこの人がこんなことを言っていたような気がする」という記憶だけしかないものもあるので話半分に。

ロベルト・シューマン
鍵盤の問題点に精通した人が書いた曲なら、どんなに複雑なものでも、素人が考え出したごく単純な曲よりはるかに弾きやすい。

フレデリック・ショパン
ピアノに触れるのは1日3時間までにしなさい。
筆者注:やりすぎると腱鞘炎になるということと、楽器を使わない練習も重要だということの、両方について言っているのだと思う。

バーナード・パーディ
(スネアとハットを叩きながら)楽しくなってきた!

ボブ・ブロズマン
(サムピックについて)正直親指は痛い。

ジョン・ボーナム
(大笑いしながら)ドラムのチューニングなんて初めて聞いたよ。
筆者注:プロになってから、ドラムテックのジェフ・オクルツリーに言った言葉らしく、その後楽器のメンテをこまめにやるようになったそうな。

ジミー・ペイジ
レコーディングとは、長い時間をかけて「やっぱり最初に録音したテイクが一番よかった」と確認する作業のことだ。

ジョン・ポール・ジョーンズ
全員がお互いの音を聴くことで、あらゆる部分がタイトになる。(Zepには)1羽の動きに合わせて鳥の群れが向きを変えるような感覚があった。

イングヴェイ・マルムスティーン
(練習法として)ピッキングやフィンガリングに気を取られず「耳」を使う。問題は出てくる音なのだから。

ブルース・スプリングスティーン
(セットリストを急に変えることがある理由を聞かれて)バンドにカツを入れたいときにやる。ベースが遅いときとか。
筆者注:そこで「お前が速いんだよ」とツッこまないゲイリーの人間性に拍手を贈りたい。

ジェフ・ポーカロ
(「ロザーナ」のドラムパターンについて)バーナード・パーディとジョン・ボーナムからパクってボ・ディドリーを足した。
筆者注:教則ビデオでの解説で、この後すぐボンゾの真似をやるのだが、初見だと咽るくらい似ている。

スティーヴィー・レイ・ヴォーン
(ギターを弾きながら)フレディ・キングはこんな感じで、エリック・クラプトンはこんな感じ、あんまり違わないよね。
筆者注:これも教則ビデオ、どちらも「スティーヴィー・レイ・ヴォーンの演奏」で、まったく違わない。

ラリー・カールトン
(何も言わずにニッコリ微笑む)



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