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やたら嘘臭い居飛車入門


駒と戦形 / 練習と駒落ち / 序盤と必修形 / 中盤と読み / 終盤と寄せ // もどる

筆者は級位者ですらないことを、改めて断っておきたい。




戦形のおさらい

相居飛車の戦形は、相掛かり系(正調相掛かり、横歩取り)、角換わり系(先後同型角換わり、後手1手損角換わり:このページでは以下、手損のない正調の角換わりは、先後同型でなくても「同型角換わり」と呼ぶ)、矢倉系(持久戦矢倉、急戦矢倉)と3種類あり、たいていは序盤の数手で分岐する(この中で「先手後手に関わらず飛車を振らずに損なく確実に断れる」のは、矢倉と正調相掛かりだけ)。プロの間でどの戦形が先後どれだけ指せるかというのは、長くても数年、短ければ数か月で揺れ動き、アマチュアが追従できるようなものではない(定跡整備のスピードがものすごく上がっている)。

相居飛車になるのがわかっており相手の注文には応じる前提だと、2六歩、8四歩から正調相掛かり、2六歩、3四歩から横歩取り、7六歩、3四歩から横歩取り、7六歩、8四歩、2六歩から角換わり(後手が形を選択)、7六歩、8四歩、6八銀から矢倉(急戦持久戦を後手が選択)という5種の基本ルートがある。さらに裏道として、横歩模様から後手が強引に1手損角換わりにする(同型角換わりにはならない)順やその反対(1手損角換わりを横歩に)、相掛かりの出だしから先手が3手め7六歩として角換わり(同型と1手損を後手が選択)にする順もある。または後手番の場合、初手2六歩に8四歩だと先手中飛車、初手2六歩に7四歩だと先手石田流が有力になり、四間飛車はどちらでも指される(8四歩を指してしまうと相振りにはしにくい)。

これらの組み合わせを全部考えてみると、分岐ポイントは、自分が先手番の初手がA:2六歩(相掛かり系)、B:7六歩で8四歩には2六歩(角換わり系)、C:7六歩で8四歩には6八銀(矢倉系)、自分が後手番で初手7六歩のときア:8四歩(矢倉または角換わり)、イ:3四歩(横歩取り)、初手2六歩のときi:8四歩(正調相掛かり)、ii:3四歩(横歩取り)、と3*2*2=12通りの選択が(あらかじめ)できる。

あとはまあ自分が得意な戦形を中心に考えればよい(先手の角換わりは好きだが後手は持ちたくないとか、そういうワガママな人はとりあえず無視)。矢倉を指したいならC-ア-iかC-ア-ii(相掛かりと横歩の好みで取捨)になり、先手矢倉、先手横歩、後手矢倉、後手角換わり、後手相掛かりまたは横歩を指すことになる。角換わりが得意であればB-ア-iかB-ア-ii(相掛かりと横歩の好みで取捨)になり、先手角換わり、先手横歩、後手角換わり、後手相掛かりまたは横歩を指すことになる。横歩が好きであればA-イ-iiとなり、先手横歩、先手相掛かり(または角換わり)、後手横歩を指すことになる。これらとは別に、先手角換わり(先手が手損の角交換で先後入れ替えの角換わりになったときと、後手が横歩模様から強引に1手損角換わりにしたとき)はどの形でもありえるし、後手番で2六歩に3四歩とするなら2五歩と出られたときの対策(普通にやれば後手の飛車先保留角換わりになるが、向かい飛車にもできるし、3二銀として先手が飛車先を交換したら手損を咎める都成流という指し方もあるそうな)が必要になる。こうしてみると、先手横歩と先手角換わりが居飛車の必修科目、後手横歩と後手角換わりが選択科目、矢倉と相掛かりは避けようと思えば避けられる戦形である。

横歩コースのコストパフォーマンスはけっこうよく、先後の横歩と先手角換わり、後手を持って先手が横歩を取らなかった場合と、2六歩、3四歩、2五歩とされたときの対策だけ立てておけばよい(先手持ちの2六歩、8四歩からは7六歩で角換わりか横歩にしてもらう前提)。ただし、対抗形で相手が動きやすくなりがちなので、相振りも含めた対策が必要かもしれない。角換わりコースは必須科目のほかに後手番の矢倉もなんとかしなければならない。右四間や角換わり矢倉なども視野に入れつつ、矢倉好きに押しつぶされない工夫をしたい。矢倉コースは相掛かり以外の全部の戦形を先手後手少なくとも一方で指さなければならず、力戦系の将棋を増やしてデータ不足を補うなどの対策が必要になる。とここまで相居飛車の都合だけを見てきたが、世の中には振り飛車党が半分くらいはいる。自分が居飛車を決め込んでも、半分くらいの将棋は対抗形(または相振り)になることも忘れてはならない。どのコースを選ぶにしても先手番の角換わりは必修科目で、主導権を譲らずに指したいなら後手番の横歩を覚えるべきなのだろう。基本的に相掛かりは受けた方が明快なので、指せるようになっておいた方が無難ではある。

初手2六歩は居飛車にとってけっこうお得な手で、相手がなにをやっても3手目2五歩まで決め打ちしてしまえば、先手番相掛かり、嘘藤井矢倉(第71期名人戦七番勝負第4局、先手森内俊之プロ、後手羽生善治プロの順)、対抗形(すぐの向かい飛車には9筋を突き越せる)くらいにしかならず、どれに転んでも先手の主張が通る(筆者は矢倉を指したいのであまりやらない)。2手目8四歩は損得がよく云々され評価も時勢でコロコロ変わるが、明快な手であることは間違いなく、先後相掛かりと後手横歩(または角換わり)と後手矢倉(これがけっこう難関)さえ指せれば居飛車を強く指せる。相掛かりは(すぐ断られるので)メインの戦形にはなりにくいが、序盤で「相掛かりにしても構わないんですよ」という態度を取れることが、変な妥協をせず普通の棋理に従った手を指すための下地になる。

筆者自身は、上記で言うC-ア-iiのコースで、先手矢倉(後手次第)、先手横歩(5八玉で横歩取らず)、後手矢倉(持久戦)、後手横歩(角換わりが苦しすぎて宗旨替えしてしまった)、後手相掛かり(普通に指す)がファーストチョイス、たまに先手で相掛かりを指すこともある(とくに理由はないのだが、後手で相掛かりを指した後はしばらく先手の初手を2六歩にすることが多い)。基本戦術は棒銀系の急戦が多いが、対抗形の後手番で居飛穴が可能な形なら穴熊にする。基本的に、特定の戦形を過剰に避けてもメリットはなく、シロウトレベルならどうせ「知らない戦形」はいくらでも出てくる(たとえば矢倉にしたって、米長流に阿久津流に中飛車に左美濃に右四間、持久戦になっても2五桂早仕掛けに加藤流に脇システムに森下システムに単騎棒銀に雀刺しに中央での押し合いと、全部「わかって対応」できる人は初心者ではない:どう転んだって「知らない形」は指さなければならないのである)。むしろいろんな形を指すことで対応力を養った方が効率的だと思う。そのうえで、無理なく選択可能なもの(後手番で角換わりor横歩とか)は自分の好みで選ぶのが妥当だと思う(戦形を限定しないと指し手が破綻するレベルなら、飛車落ちか香落ちで指させてもらうのが無難:平手で指すということは、相手も自分も「なんでもできる」ということと同義である)。


銀の攻めの基礎

居飛車で銀を使い積極的に攻める場合(でなくてもそうだが)、まず重要なのは飛車が安定していること。銀を後ろで支えている駒が重要で、大駒の利きが逸れて銀の梯子が外されたような格好になり孤立するのが一番怖い。飛車を安定させるには、縦に動ける範囲が広いことと、コビン(斜め上)をしっかり守ることが必要で、ぶっちゃけ初期位置がもっとも安定しやすいのだが、ここには相手角の利きが直射しているうえに飛車に紐がついていない(相手の駒に飛車を取られたとき取り返せない)。つまり、銀を捌くためには飛車への角当たりを何とかしなくてはならず、また銀の攻めを受けるには相手の飛車に角の当たりをつけるのが有効である。

攻める側としては、飛車のコビン(先手なら3七)の歩を動かさないというのがもっとも堅実な回答であり、この形で銀を飛車先に進めるのを原始棒銀という(狭義には相掛かりの先手が角道も空けずに銀を進める形、または矢倉の後手が6五歩で角道をこじ開ける形を指すが、ここでは広義に扱う:ただし角換わりは例外)。しかしこれだと桂が捌けないし、飛車のコビンの歩頭(先手なら3六)に歩を突き捨てられるとお手上げになる(ただし、相手は攻め駒を2枚用意しなければならないので、時間は稼げる)。そこで、いったん3七銀の形で飛車のコビンを守り、4六銀と歩越し銀にしたうえで3七桂と跳ねて銀を安定させる方法がある。

このとき重要なのは「歩越し銀には歩で受けよ」の格言通り4五歩とされた場合に、反発できるかどうかである(銀を引いてからの押し返しやそのまま5五銀と出る手など)。桂が上がってしまえば銀頭を桂で守れるが、今度は、3七の桂頭や桂自体をしっかり守るか、叩かれる前に4五桂と跳ねて攻めてしまわなければならない。この意味でも4六銀は有効で、もちろん、飛車先さえ突いていなければ2六銀3七桂の形でも桂頭は守れるのだが、それが可能かどうかは戦形による。またもし桂頭を攻めの銀で守らないとすると、残り3枚の金銀は囲いに使っているはずで、初期位置の角は3段目の桂頭には利かないため、飛車で守ることになる(止むを得ないこともあるができれば避けたいところ)。4六銀3七桂の形が安定しても、すぐに攻めに移れるわけではなく、とくに先手番矢倉のように相手の角当たりがキツい形では、桂跳ねの瞬間に1九角成と馬を作られ飛車を追われる展開が怖いため、上記に加えて右香を上がったり5五歩を突き捨てたりして対策を講じる。

いよいよ攻撃開始の段になると、飛車を3筋に回ることもある(袖飛車:持久戦矢倉先手や対四or三間飛車急戦などが典型例)。3八飛は船囲いやカニ囲いの5八金と一間並びになるので、銀の割打ちや桂のフンドシ打ちを常に意識しなければならないうえ、2七に死角ができ角打ちにも弱く、そもそも総力攻めでないと仕掛けが成立しない(正面から3筋を突破しようと思ったら、2枚落ちの下手でも相当な覚悟がいる)という難しい形なのだが、相手の桂が跳ねたときに飛車の利きに割り込まれない(同時に、自分の桂が跳ねたとき飛車の壁になりにくい)、飛車に角が直射するのだけは(1九角成をやむなしとすれば)避けられるなどのメリットがある。飛車先が重くなる(渋滞する)ことを避け数の攻めを仕掛け、高い瞬間最大攻撃力を得るために飛車の安定性を犠牲にする、かなり危うい形だと思っておいた方がよい。もちろん、桂香が利いておらず相手の守りが薄い2筋も狙い目で、邪魔が入りやすい角換わりや、少ない駒数で攻めたい対抗形(居飛穴にしたときや、相手が中飛車で中央に金銀を持っていかれたときとか)なんかでは、安定形の2八飛のままにすることが多い。桂香の拾い合いにも有利で、やはりこの形が基本なのだと思う。

飛車を3筋に回ったまま安定させる理想形として、3筋の歩を飛車で切って3六飛と戻り3七桂と跳ねる形がある。飛車のコビンと桂頭の守りがしっかりして安定した形ではあるのだが、振り飛車の石田流なんかとは違い桂の下がガラ空きなので、速い攻めを作らないと3八歩打からと金を作られる。対四間飛車の5七右銀戦法(塚田泰明プロが愛用して塚田流と呼ばれていたが、2014年4月11日の銀河戦、先手佐藤天彦プロ、後手藤井猛プロの対局で対藤井システムとして指されたり、その直後に船江恒平プロも採用するなど、改良が続けられている模様:普通の棒銀とは異なり、飛車を安定させたら銀を玉頭に繰り替える)で出てくるほか、2枚落ちの下手の駒組みとしても基本になる形。2筋3筋のほかに右四間もたまにあり、飛車の安定感はそう素晴らしくないが、4五の地点を争点にできる形だと抜群の破壊力を発揮する(矢倉への対抗策として使われるほか、飛車落ち定跡の定番でもある)。

さて銀はというと、「銀は千鳥に使え」という格言のとおり、飛車が3筋なら2五の地点に出るのが理想的である。飛車と銀のコンビネーションは、銀が1路ずれたところから斜めに入ってくるときがもっともよい。飛車、銀、歩が縦1列に並んでしまうと、歩を突いて突き返されて銀が斜めに出た後に歩を取り返す駒に困り、飛車で取ると駒を当てられて引いたところに修繕が間に合ってしまう。飛車先に歩でその隣に銀という形から、歩を突き捨てて取り返されて銀が斜めに入るのがもっとも速いのである(ただし飛車先の歩が切れていれば真っ直ぐ出て何の問題もない)。斜めなら4五の地点でもよさそうではあるが、たいてい中央は厚い形になっているので、そちらには出られないのが普通。銀が2五に出るメリットはもうひとつあり、端に転戦して破ったり、端にプレッシャーをかけて相手の形を乱したりできる。


駒の役割と動き

攻めは飛車角銀桂と言われるうちの銀についてはすでに紹介したので、残りの飛車角桂について。

飛車は意外となにもしない。なにもしないというか、相手も飛車だけは捌かせたくないので、飛車が捌ける順を相手が避けている間に他の駒で攻め、下手をすると飛車は終盤近くまでただ置いてあるだけだったり、玉から遠いところで取られて手を稼ぐだけのこともある。大駒は利きが安定する場所に置いてあることが重要なのである。もちろん、もし成り込めたら大いに活躍させなければならないし、銀や馬で飛車を追われたときの対応も身に付ける必要がある。また飛車は強力な攻め駒ではあるが、盤上には2枚の飛車があるので、必ずしも初期配置の飛車で攻め込まなければならないわけではない(引き飛車の横利きは、守りにけっこう重要だったりする)。

角は好位置で安定させられればそのまま相手を圧倒する原動力にもなるし、自陣で守りの要になることもあれば、成り込んで桂香を拾う機会も多く、相手の角と交換して「駒台の上にあること」をプレッシャーにすることもあれば、相手に角道を止めさせて形を崩すような使い方まであり得る。銀に次いで「駒損になる交換」を自分から仕掛ける機会の多い駒でもあり「どうすれば好形で角を切れるか」を考えることで攻めの要所が見えることもある(反対に、やむなく角を切らされるようなケースは悪くしていることが多い)。役割の多彩な駒で、こう使うと決めてかかるよりは、状況に応じて使い分けたり、反対に角の使い方を中心に状況を作ったりする。攻防に活躍できる位置に安定させるのが理想。

桂は非常にトガった特徴を持ち、不連続な遠隔攻撃ができる唯一の駒である。桂の利きは必ず一方的で、桂が相手の駒を取れるときに相手の駒も桂を取れるという状況は、桂同士でしか生じない。非常に特殊な駒なので使いこなしには細心の注意を要する。歩をどかす手を入れても初期位置から4手で敵陣に入れるスピード(角の2手についで2位、3位は浮き飛車の5手、金銀は7手かかる)がある一方、頭が丸く(=正面に利きがなく)相手に取られやすい。交換後も、玉や大駒や金駒に当てて打ったり、相手玉の腹またはコビンに利かせて打ったり、控えの位置(1回跳ねると王手になる位置)で力を溜めたり、拠点にしたりと用途が広い。桂同士で交換するだけ、あるいは銀と桂の交換になっても、先制で打てれば流れを掴めるという場面がけっこうある。

すでに触れたように、飛車の尻に桂を敷くのは一般に安定しやすく、飛車と1路ずれたところから銀が入ってくる攻めは速度に優れる。銀と桂の組み合わせは、どちらも頭を叩かれたくない駒なので、4六銀3七桂のように互いの頭を守り合うのが好形(桂頭には歩がある前提、角で似たような状況を作ることもある)。角と銀は連携が多様で、終盤の送りの銀(飛車と金を使った送りはぱっとわかりやすいのだが、角と銀を使った斜めの送りもハマれば強烈:金2枚や銀2枚より、金銀各1枚を持っていた方が寄せやすいことが多い)はしっかり覚えておきたい。

守りの形として金のコビンに銀を置く形が連携に優れるが、どちらかが動くと少なくとも一方の紐が外れる形で、銀の腹が片方死角になっている。金底の歩は堅いが、これは鉄壁の守りというわけではなく、手数が稼げる形である。金の底に歩を打つ1手だけで、金の頭に駒を打って、金を取って、飛車成で歩を取らないと飛車の横利きが通らない(都合2手得:終盤にこれはとてつもなく大きい)。


銀と戦形と駒組み

攻めの銀をどのように使うかということは戦形を作るうえでも重要で、多くの戦法が銀の進路を名前にしていることからもそのことがわかる。

相居飛車の場合、右銀の位置により、腰掛銀(先手なら4七から5六に出る:以下先手の場合の位置のみ示す)、早繰銀(3七から4六:矢倉の場合のみ4六銀3七桂と呼ぶ、というかこれらの呼称自体が広義の相掛かり系を前提にしたものなのだと思う)、鎖鎌銀(4七から3六)、棒銀(2七から2六)、UFO銀(2七から中央を横切ってor4七に引いて腰掛ける:宮坂流棒銀とも)などと呼ばれる。対抗形の場合、棒銀(2七から2六に出ることもあるが、4八、3七、2六と出るのが普通)と斜め棒銀(左銀での攻め)が代表的で、対ゴキゲン中飛車の超速3七銀のように具体的な場所が名前になっていることもある。またこれらの呼称は厳密なものではなく、たとえば3六から2五に進む形が棒銀と呼ばれたり早繰銀と呼ばれたり、状況や主観によってある程度変動する。

角換わりはたいへん複雑で、相腰掛銀の手前(3段目)で銀が待機する腰掛けない銀みたいな形もあれば、いったん腰掛けてから銀を戻して手待ちする出戻り銀(どちらも名前はさっき付けたので信用しないように)の形も出てくるし、かと思えば居玉棒銀みたいな形も稀にある。2七や4九への角打があって飛車が動きにくく、2八飛2九桂のままでも3九角打でドカンとやられたり、玉のコビンが空くと王手飛車の筋なんかもあっておおいに神経を使う。持久戦矢倉の場合、右銀をいったん守りにつけ総矢倉に組むこともあるし、突出させて棒銀にすることもあれば押さえ込みの先頭に持っていったり中央に繰り替えたり、守りの銀についても立たせて指す形がある。急戦矢倉でも、左銀を飛車先の受けに使うかどうかや、右銀の進出経路をどこにするかなどで戦形が変わる。相掛かりは乱戦になるのでこうだからこうとはいいにくいが、先手のUFO銀はたいへん面白い戦法だと思う。

対抗形でも基本は変わらないが、お互いの角の使い方が異なる。居飛車は船囲いにするので居角のまま8八のライン、振り飛車は序盤で飛車先を受ける都合から3三のラインが基本で途中から当たりを避けて中央に引く。居飛車が飛車側の端歩を突く突かない(突く場合はそのタイミングも)は、2018年現在は定跡の整備が進みほぼ形で決まっているものだと考えてよい(以前は「居飛車の税金」とよばれる1手をかけて端銀の含みを残しながら振り飛車の端角を封印するのが普通だった:完全な力戦になった場合は・・・忙しくて突けないことが多いかも)。飛車の利きに割り込まれると面倒なので、相手の角が中央で安定するのは阻止したい。

飛車と銀と歩の渋滞についてはすでに触れたが、駒に紐をつけるということは利きが止まるということでもある。大駒の利きで駒を守るとその先への利きは止まってしまうし、大駒が身動きできなくなることもある(反対に、大駒が動かなくてよい状態が「安定している」ということ)。もし相手の駒の利きがない地点や、利きはあるが取るに取れない地点(動くと駒を取られるとか、蓋をされて帰ってこられなくなるとか、大駒に成られるとか)に攻め駒を配置できれば、利きを止めずに数を足すことができる。守り駒はお互いに紐が付いていた方がよいのが普通だが、たとえば金開きのコンセプトなんかは、紐付けを放棄して利きの範囲を広げようというものである。いわゆる焦点の歩なんてのも、多くの駒の邪魔になって、取られた後も邪魔を続けられる(相手の駒を使って利きを止められる)というのがおもな狙いになる。

駒を有効に働かせることが重要なのは言うまでもないが、上で言及した飛車に限らず、置いてあるだけで機能している駒というのも意外とあるもので、不用意に動かしてしまわないように注意が必要。傾向としては大駒ほど動きが少なく、飛車は安定させること、角は利かせること、銀は捌くことを目指す形が多い。相手の駒を遊ばせること、連携の悪い位置関係に誘導することも重要。両取りがかかる形(十字飛車や角の両取りはもちろん、銀や桂に狙われる間を1つ空けた横並び、金に狙われる角銀の斜め隣接、飛車角の隣接、田楽刺し系の並びなど)をしっかり把握するとともに、できれば、桂馬と角が移動可能な場所を常に確認しておくとよい。

余談になるが、駒の活用度を示す表現はちょっと複雑である。「遊んでいる」「働いている」は「役に立っている」かどうかで、役には立っているが無駄がある場合(飛車角の利きを金銀で受けているが、状況的にそちらには進んでこない場合など)も遊んでいると判断される。「利き」は「現在の場所から移動できる場所」が基準で、途中に障害(他の駒)がある場合に移動できるかどうかの判断は状況による(とくに攻め駒の間接的な利きを「飛車の筋に入る」とか「角で睨む」などと表現することがある)。「捌ける」というのは、攻め駒が「自由に移動できる」ということで、駒台に乗せることも含まれる(次の1手で好きなところに打てるので)。守り駒は重要な場所に「すでにいる」ことが大切で、状況に応じて配置を変える余地がある場合は「形に柔軟性がある」などといわれる。どれも「役に立つかどうか」が最初の判断ポイントで、役に立たないところに移動できても「利いている」とか「捌けている」は言わない。


棒銀いろいろ

棒銀といっても、戦形によって目的が異なる。大まかにいって、自分の攻め駒と相手の守り駒の交換(捌き)を狙うパターン、銀香交換して成駒作り(端の突破)を狙うパターン、棒銀の含みをひとまず見せて相手の攻めを急かしたり形のかく乱(威嚇)を狙うパターン、最初から棒銀は潰れる前提でその後の巻き返し(転戦)を狙うパターンなどがある。どれも相手が正しく受けると棒銀成功で即勝利とはならず、その後をしっかり指すことが重要で、その際相手より少し速い攻めが作れれば勝てるという意識が大切である。玉形勝ちを目指すときにも同様のことがいえるが、相手をぶっちぎる必要はなく、1手速ければそれでよい。将棋はどちらが先に玉を詰ますかというゲームであって、大差をつけようと僅差でかわそうと勝ちは勝ちなのである。

方針としては、やはり銀(とできれば角)を捌いてしまうのが理想だが、バーンと清算してドカドカっと寄せるような捌き合いの将棋と違い、ひとまずの目的を遂げたら手入れや転戦の急所を再確認する必要がある(たとえば先手矢倉の棒銀を捌いた後であれば、4一銀打、歩と銀を捨てて両取り形を作ってからの6一角打、銀と角の飛車当て下段並べ打ち、飛車先で歩が睨み合っているところ(先手なら2四)に桂打をぶっ込む、端を破って先手1三歩と後手1一歩が睨み合っているところに銀打を捻じ込む、といったあたりが手筋)。少し変則的な棒銀成功局面からの例を、後の攻めのレパートリーを増やすの項で紹介している。端棒銀は地味な攻めになりがちだが、同型角換わりの棒銀など、浮き飛車を暴れさせる空中戦になるものもある(棒銀の総大将、加藤一二三プロがひねり飛車などの空中戦も得意にしているのは、この展開と共通性があるからなのかなと想像できる:横歩でも4段飛車)。

棒銀の受け方も形によって異なる。相掛かりでは浮き飛車の横利きで受けるか放置しておびき寄せてから角交換するのが基本で、桂を早めに跳ねて壁を作る受けもある。原始棒銀の受けは浮き飛車+3三角+部分的な菊水矢倉が本筋らしい。攻める側は相手に受けさせてから弱くなった部分(浮き飛車とか桂頭とか)を突くのが狙いで、中住まいで玉が遠く角も交換になりやすいため一気の攻め潰しは難しい。角交換は相手の狙い駒を盤上からなくしつつ、飛車を睨めるところや銀の進路を塞ぐところに打ち直す対応。最初から角換わりだった場合は形により、棒銀を捌かせてカウンター狙いとか、袖飛車にできないのを利用して3筋(後手の場合)を突き2筋は取り込ませてから守りの銀を引くとか、端棒銀をあえて受けたうえ飛車先を放棄して飛車本体を攻めるなどの対策がある。矢倉も受け方がいろいろあり、菊水矢倉に受けることもあれば、森下システム(これとスズメ刺しと棒銀とで3すくみと呼ばれた時代があった)のように様子を見てから対応を決めることもあるし、端を破らせて駒得を活かし反撃する指し方(森内流とか)もある。対抗形の場合囲いに差があるので、大駒を巻き込んだ捌き合いにして堅さ勝ちを狙うことが多い。棒銀がひと段落したところからは力将棋になる。

急戦にはスピードが大切である。急げばいいというものではなく、1手の価値というか、相手との手の交換でどれだけポイントを稼げるかを考えなくてはならない(対四間飛車の船囲いを横二枚金にできるかどうかなどはかなり重要:しない方が堅い展開もあるけど)。反対に矢倉の加藤流なんかは、あえて手を渡して相手に形を崩させるような指し方もする。速度というよりは緩急といったところだろうか。持ち歩の有無と数も重要で、どこかの筋で交換できると選択肢がぐっと増える。交換場所が飛車先であれば、銀の動きが自由になるので理想的。しかしそう簡単にはいかないため、駒の補充もプランに練り込んでおかなければならない。

2017年現在、棒銀がとくに有力な戦形は、相掛かり、対四間飛車、力戦矢倉の一部、角換わりのごく一部、といったところではあるが、有力な順にならない戦形であっても「こう指すと棒銀が受からないからこうする」という背景部分に棒銀が存在感を示していることがけっこうあり、「棒銀でなら潰せる」形を的確に潰せないと序盤が成り立たなくなる。棒銀は居飛車の基本素養であると言われる理由のひとつだろうと思う。初学者(一般的には、駒落ちを十分に練習して平手を指し始めた人:少なくとも、独力で「よくなる序盤」を考え出そうとするのが的外れだと理解できるレベルを想定しているはず)はまず棒銀をと言われるのは、棒銀を使って相手に勝つためではなく、基本的な手筋を多く勉強でき、また棒銀を知らないと成立しない(あり得ない形を許してしまったり、一気に攻め崩されたりする)形が非常に多いからである。





コンピュータを使って練習

戦形や手筋を覚えることももちろん必要ではあるが、実戦的な練習として上級者との駒落ち対局(とくに2枚落ちと角落ち)に勝るものはない(もちろん定跡は知っておくべき:「定跡を知らないで上手と指すことは、下駄履きで、日本アルプスへ登るやうなつまらない労力の浪費である」というのは真理を突いている)。環境によりなかなか機会が得られるものではないのだが、コンピュータに上手を持ってもらえば手軽である。たとえばK-Shogiの3.2.0(64bit)のLv10は1手1秒、Lv12は2秒、Lv15は1手5秒、Lv17は10秒、LV30は30秒くらいで指してくれるので、ちょっとした暇つぶしにサっと指すことができる(人間相手だとそうはいかない)。

ただ、コンピュータの駒落ち(駒落ち定跡が用意されているものがあれば事情が違うのかもしれない)にはちょっとしたクセがあり、状況が不利なため初手から「粘りモード」や「逆転狙いモード」に入ってしまうとか、K-Shogiだと美濃囲い系、Bonanzaは穴熊系(らしい)など2枚落ちでは苦しくなりがちな囲いを無理に作ろうとするとか、人間の上手ならまずやらない指し回しをしがちである。途中まで定跡形を作ってから指し継がせても、気に入らない囲いだと組み直して崩壊させたりする。ほとんどのソフトには、勝負手を放ったり場を複雑にして紛れさせるような機能はついていないので、下手がじっくり指すと手待ちできなくなり駒を無駄捨てするようなハマリもある(というか、ほとんどの将棋ソフトは「劣勢を挽回する」という発想を持たずに設計されている)。

これはまあご愛嬌というか、定跡を外してくるなら外してくるで咎め方を考えればよいわけで、5手や10手では悪くならない手をほぼ100%で指し続けてくるし、こちらが悪くする手を指せばたちまち付け込んでくるため、ちゃんと練習にはなる(人間の上手と違い常に勝利だけを目指してまっしぐらに指す)。余談だが、K-ShogiのLv20に上手、Lv10に下手を持たせてみたところ「早すぎる石田」みたいな格好から5五角と出て、開始10手ちょっとで下手が飛車をぶった切る壮絶な展開になった(Lv15でも早石田モドキはやるし、飛車角だけで攻めようとしがちだが、さすがに飛車はぶった切らない:勝負的にはLv12対Lv20でも下手優勢くらい)。序盤が終われば短時間でも指せるようで、角落ち三間飛車定跡の48手目(下手両桂を跳ねて完全に組み上がり)まで手動で並べて指し継がせると、Lv12対Lv20でも下手なんとか勝ち切る(上手が右玉にしたがることでも助かっている:下手はK-Shogiお気に入りの銀冠なので、左金が中央にぶっ飛んでいくことはあるものの、変な形に組み替えようとすることはほとんどない)。

コンピュータを相手に駒落ちを指すメリットは、5~10手くらいで結果が出る失着を咎めるのが抜群に上手いことと、完璧な棋譜を自動で作ってくれて、たいていのソフトには解析機能までついていることだろう。駒落ち将棋というのは自分が悪くさえしなければ負けないので、負けたら解析にかけてどこで失敗したかすぐに教えてもらえるのはありがたい。人間との対局結果も含め、K-shogiで棋譜解析するときは、いったんデフォルトのLv7で頭から解析させ、中盤の濃ゆいところだけ長めの時間(筆者はLv12とLv17を使っている)で「現在の局面からスタート」させ、寄り筋に入るところまで修正させればバッチリ。

なお、ShogiGUIが採用しているUSIプロトコルの評価値(16ビットの符号あり整数なので値としては-32768~+32767、数値として使っているのはたぶんプラマイ30500まで)において、多くのソフトが歩1枚=100点という基準を用いているが、人間の評価だと角金銀がだいたい8:6:5程度で安定している(というか、金3枚分>角2枚分>銀3枚分で金銀に大差はつかない、という前提だと、粒度にもよるがこのくらいの数字になる)。銀を10点として換算するとおおよそ、歩1.5~2、香6~7、桂6~8、銀10、金12、角15.5~16、飛18~24点くらいに落ち着くようだ。目安として意識しておいて損はないと思う。評価がバラける部分についても、金2枚分>飛1枚分、銀+桂>角、飛>銀+香みたいな構図は(鉄則ではないが)原則としてあるようだ。飛車と歩は評価がとくにバラけやすく、銀2枚分と飛車1枚分のバランスは人によって異なる。

筆者が聞き齧ったソフトの設定を上記基準で換算すると、BonanzaVer6は歩2.36、香6.29、桂6.96、銀10、金12、角15.4、飛17.4点くらいと歩がやや高く、Ponanza(2016年ごろのバージョン)は歩1.76、香6.10、桂7.88、銀10、金10.9、角18.0、飛20.6点くらいと角がやや高い。多少のぶれはあるが、人間にもだいたい納得できる数値ではないだろうか。なおこれらの数字が単純に積算されるソフトはごく稀で、実際の評価は総合的な形勢を示す(もちろん駒割も要素として含むが、同じ駒割でも局面によって評価値が異なる)のが普通である。たとえば多くのソフトが角落ちの初期状態を500~700、飛車落ちの初期状態を600~800点くらいに評価する一方、2枚落ちは1500点前後の評価になるものが多い(駒が足りなければ玉形なども薄くなるので、2枚落ちの評価の方が厳しい)。

2枚落ちを指させると技巧というソフト(筆者が試したのは20160606バージョン)が滅茶苦茶に強い。筆者はアマ5段の免状を持っている人たちにも2枚落ちならなんとか勝てるが、自分だけ時間無制限でソフトは10秒将棋という設定でも、勝てる気がしないどころかまるで子供扱いだった。序盤を任せると穴熊に組みたがるので途中まで定跡形を手動入力するのだが、2歩突っ切りなら飛車先を突き捨てたところまでココセをするとごく普通に強く、他のソフトと違い劣勢の終盤では勝負手のような指し方を(対コンピュータではどうせ勝てない局面なので対人用にチューンナップしているのかと疑われるほど)ガンガンやってくるため、優勢を築いた後しっかり勝ち切るための練習としてはたいへん質が高い(寄せの項で詳しく触れる)。

序盤から中盤まではものすごくクセが強いソフトで、飛車が3筋に回ったあたりまでしかココセをしないで2歩突っ切りの上手を持たせたところ、と金攻めでしか勝てない形に突っ走ってしまった(下手は筆者でカラクリがわからず負けまくった)。さらに、飛車先を切って桂を跳ねたところからコンピュータ同士に指し継がせてみたところ、下手入玉狙いというこれまた衝撃的な指し回しで下手が圧勝した。仕掛けについてはかなり臆病で、角落ちの三間飛車定跡を指し継がせると、お互いに仕掛けないまま延々手待ちを繰り返す(というか、ココセで仕掛けさせても収まったらまた手待ちしだす:正しく指していれば相手が悪くするはずという前提で、自分からは突っ込まない設計なのかもしれない)。

他に練習になるなと感じるのはGPSfish(試したのは0.2.1+r2837gcc4.8.1というバージョン)。押し引きがある感じで人間の上手と感覚が近く、普通に指しても(失着があれば一気に咎められるが)なんとか形になる。驚くべきことに序盤も自前で指せる(左美濃、金開き、中段に出ての受けなどが好きなようだが、玉も参加させて受けの枚数を増やそうというのは合理的だし、追い詰めたときにガツっと前に出てくる指し回しにもマッチしていると思う)。とくに、攻め駒の捌きや争点の設定や寄せの手順をちゃんと考えないと勝てない指し方をしてくれるあたりが役に立つ。欠点をあえて探すとしたら、苦し紛れで持ち歩を浪費しがちなあたりだろうか。余談の余談だが、途中まで形を作って2枚落ちの下手を持たせてみたところ、2歩突っ切りの34筋の位の下に銀矢倉を構えるというオモシロ作戦に出た(相手の攻め駒が成れず尻に歩を打たれてと金を作られることもない、という判断なのだと思う、多分:受けに回ったはずの金銀も遊ばせられるし、ちょっと感心)。


K-Shogiと角落ち(余談)

丸ごと余談なのだが、この局面を見て欲しい。下手三間飛車の角落ちで上手が相銀冠を選択し、一直線に組み上げたのが左の図(途中で下手から仕掛ける筋もありそうだが、囲いを優先してこうなったと仮定する:下手も悪くはしていない)。ここから下手には、右桂を跳ねて上手にも囲いの桂を跳ねさせ角引き飛車引きの交換から7筋を突く(6八角型で上手が地下鉄飛車の形を作る前に仕掛けられる)こともできるが、5九に角を引いて上手に選択権を渡した。

上手の応手は、さっさと囲いの桂を跳ねる(下手に3七角の余地が生まれる)か、飛車引きで再度手を渡すあたりだろう(ここでは後者を選択)。下手はそのまま仕掛けることもできるが、右桂を跳ねてまた手を渡し、上手に陣形の選択を迫った。地下鉄飛車は上手からの攻撃として有望だが玉周辺の形が乱れるし、下手が7七角型でないなら桂も保留しておいた方が堅実、と見て上手は飛車を戻した。下手がさらに7七角と戻って上手の桂跳ねを強制する(一方的な桂跳保留を断るなら交換にする)のも、まあアリといえばアリなのだろうが、ここでは後手が仕掛けて右の図になったとしよう。

この仕掛け自体はとくに問題がない(とりあえず7筋で歩交換して、飛車を引いてもいいし桂を尻に敷いて4八角型にしてもよい)と筆者は思うし、K-Shogiの3.2.0(64bit)に評価させてもプラス1500点くらいで開始直後の点数と同じ、上手下手とも最強モードにすれば普通に下手が圧倒するのだが、短めの時間(弱いモード)で「同じ設定の」コンピュータに指させると、なぜか上手が逆転勝ちする。下手が悪くする前まで戻して強いモードのコンピュータに指し継がせてみると、そのまま押し切ることも多いが、上手が逆転することもけっこうある。

敗因はほぼ100%見落とし(というか、コンピュータは勘違いとか精神的動揺とかをしないので、それ以外で悪くすることはない)で、寄ると計算して突っ込んだら寄っていなかった、受かると計算して手抜いたら受かっていなかったというパターンや、寄り筋を見落として緩手を指すとか、受け駒をケチって寄せられるといったパターンである。同じ設定のコンピュータなら読みの深さは同じはずで、下手だけ手が見えていないということもないだろうから、弱いモードのK-Shogiは有利と見たときに突撃しがちな特徴があるのだろう。興味深いのは強いモードに指し継がせても負けることがあるという点で、中盤が雑だと終盤に落とし穴ができるという例なのかもしれない(正直よくわかってないけど)。


駒落ちについてもう少し

最初に断っておきたいのだが、駒落ちは(ハンデとして用いられることの方が圧倒的に多いものの、本来的には)ハンデ戦ではなく指導対局である。だから、それぞれの手合いに「習得すべき技能」とか「解決すべきテーマ」みたいなものがあり、定跡形はそれに正面から取り組む格好のものが多い。

筆者は4枚以上の駒落ちを真面目にやらなかったのだが、6枚落ちだけはある程度やっておいた方がよいと思う。6枚落ちの有力定跡は9筋と1筋の突破で、どちらも下手が居玉で速攻するものなのだが、ぶっちゃけ囲ってから攻めた方が勝ちやすい(と思う:船囲いかカニ囲い推奨だが、串カツが最凶という説もある)。しかし定跡形で練習すると、初心者同士の将棋でありがちな片方が序盤で悪くして低い陣形のうちに成り駒ができるパターンで、しっかり勝ち切る力がつく。寄せていくときに玉が逃げた側の桂香がないと受けにくいため、どうせ4枚落ちにするなら「飛車角+片方の桂香」という落とし方にしすれば、勝ち切りの練習がより効率的にできるのではないかと思う。これらの代わりに、他のページで紹介した太閤将棋も、始まってすぐ寄せになるため練習効率がよいと思う(形勢自体は2枚落ちとほぼ同等)。

2枚落ちは数の攻めが成立する。2歩突っ切りの場合、飛車角銀桂の攻めを金銀桂で受けるのだから、攻めが1枚多い(2筋4筋を狙う場合お互い1枚減る:以下この段落では桂を無視)。しかし、上手が左辺に突っ込んでこない限り一方的な突破というのは難しく、清算すると下手の大駒1枚+銀と上手の金銀を交換する形にしかならないはずで、できるかぎりいい形(大駒を好位置に成り込むとか、桂香を一方的に拾うとか、拠点の歩が残るとか)で捌き合いたい。初手振り(下手だから2手目だけど)で中飛車にすると銀交換での捌き合いを強制できそうな気もするが、2歩突っ切りで捌き合っても下手の圧倒的優位なので、そちらをしっかり指した方が勉強になると思う。

戦術面での2枚落ちのテーマは「受かるかどうか」の判断だろう。受かっている攻めに過剰反応しないこと、受かっていない受けを見逃さないことがまず必要で、受からない形にしないで守ること、受かってしまう形にしないで攻めることができればさらによい。2枚落ちの下手がしっかり準備をして指せば、上手の攻めは大失敗しない限り必ず受かるし、下手の攻めは少しくらい悪くしたようでも一発で完切れすることはない。守りでは面倒を見るべき場面と手抜くべき場面の判別、攻めではやはり寄せが問題になる(寄せ合いになって勝てるような手合いではないので、ちゃんと指せば寄る場面でキッチリ寄せられるかどうかがポイント:たいていの場合、捌き合った時点ですでに寄り筋に入っている)。

飛車落ちは中盤がぐっと複雑になる(筆者は飛香落ちがあまり好きでないし、ぶっちゃけ飛ばしてもいいと思う)。右四間定跡がベストチョイス(ただし途中で下手悪くする順が含まれていることがあるので、参照している本が古い場合などは実戦投入する前にソフトで解析しておいた方がよい)だと思われ、やや単調になるきらいはあるものの、仕掛けが成立するかどうか確認する力、いつ捌き合っても対応可能な駒組、相手によくなる手があるかどうかの判断力、仕掛けた後の正確な指し回しが求められる。上手はどうしても玉形が薄くなるので、的確に捌き合いされすれば比較的アッサリ味になるはず(上手が外した場合の方が激しい終盤になりやすいような気がする)。序盤もしっかり覚えていないと指せなさそうな順がいくつかあり、間違えないで指すことが重要な手合いだと思う。初学者の場合は、大駒を切って詰ませる詰め将棋、切って寄せる6枚落ち、切って終盤を作る2枚落ち、切れる状況を作らなければならない飛車落ち、というステップアップも意識しておきたい(初学者でかつ年少であれば、詰め将棋から教えるのがとくに有効だと思う)。

角落ちの上手はいろいろとムチャができる。下手は序盤から相手の変化に対応しなければならず、イメージがつかめていればなんとかなった2枚落ち、覚えていればそう悪くはならなかった飛車落ちと違い、自分で状況判断しなければならない場面が増える。終盤も速度計算をしながら相手より先に玉を詰ます必要があり、上手にも勝負手を放つ余地がある。相手の変化に対応しやすい三間飛車、相手の出方には応じつつ自分の主張を通す矢倉定跡、角交換されないため伸び伸び指せる中飛車が主流。筆者は平手なら居飛車しか指さないが、振り飛車の視点を経験するために角落ちでは三間飛車を採用している(力量が勝る相手でもかき回されにくい利点もある)。角落ちは位の将棋と言われるが、これは持久戦になりやすいためで、上手居飛車で下手三間飛車の場合はその傾向がとくに強い。持久戦にして玉形で勝つというコンセプトをここで学んでおけば、序盤で作ったリードを勝ちに繋げるための引き出しが増えるだけでなく、作るべきリードの種類も増やすことができる(「攻め潰せる形」だけでなく「守り勝てる形」も意識できるようになる)。

その三間飛車定跡は堅陣を組みやすいものの、仕掛けのところで少し無理をしなければならず、中盤をトントンで折り返せれば玉形勝ちできるような感じの流れになる。ほとんどの場合高美濃までは組むし組めるだろうが、銀冠への組み換え(一瞬だが角も離れ駒になる)と桂跳ねは状況を確認してからにする。正しく指していれば、組み替え中に仕掛けられても悪くならない(というか、戦力的に劣る上手から仕掛けることのリスクが組み替え中の不安定さを上回る)か、組み替えずに仕掛けた方が得か、どちらかの状況にしかならないはずである(だから定跡になっている)。三間飛車相手に居飛車急戦なんて平手でも突破が難しいわけで、袖飛車から棒銀みたいな形になっても角銀交換と飛車交換で捌き合いみたいな形を強要すれば下手がよく、上手左美濃にしようと思っても駒の数からして片美濃が精一杯と思われる(上手に美濃囲いを狙われたら下手は左銀を中央に出すのがポイントで、角の捌きもあるため上手は金を1枚剥がさないと受け切れない)。

相振りになった場合はよくわからないのだが、素人考えには、上手が振るなら中飛車ではないかと思う。5筋の位だけ取って飛車先を切らず、下手居飛車なら左玉(角がないので囲いやすい)、相振りなら右玉みたいな感じで下手が攻めてくる方に囲い、守り駒と飛車の支えを兼用するようなイメージでいる。5筋の位に固執して捌き合いに巻き込まれてもしゃあないので、浮き飛車なんかもありじゃないかと思う(支えるだけ支えておいて、下手の飛車が5筋に回ってきたら角頭あたりに捻る)。上手向かい飛車(左桂が捌きにくい)や三間飛車(銀が縛られる)だと角の当たりがキツく、四間飛車だと4四の地点で飛車利きに割り込まれる(三間飛車で銀を2二から4四へ上がり飛車先を切って3三に打ち直し5段飛車にするとか、向かい飛車で守りに金銀4枚を使い入玉一点狙いとか、オモシロ作戦もある:何度か触れているように角落ちは変な指し方がいろいろできるが、今まで筆者が見た中で一番インパクトがあったのは初手1二飛というもの)。

香落ちも筆者は嫌いでほとんど指したことがないのだが、他の駒落ちと比べた特徴は上手が普通の囲いに玉を収める点(原始船囲いみたいな形になる定跡もあるが、美濃囲いにしても指せるし、その方が実戦的だと思う)、平手との違いは上手の形が振り飛車にほぼ限定される点だろう。実力差を埋めるためのハンデとしてみると、序盤の形を相当研究しないと「たしかに下手がよい」とは言いがたいところがある。下手居飛車上手三間飛車の定跡なんかでも、端を突く手を負担にしないためには下手にかなりの工夫が必要。ちょっとした変化で下手が悪くなる順が多くあり、ぶっちゃけ、高段者同士でないとハンデとして機能しないのではないかと思われる。筆者のレベルだと定先(常に先手番:千日手は下手勝ちになるのが普通だと思う)にしてもらった方がずっと指しやすいというのが正直なところで、ある種の接待手合いというか「相手の方が強いはずではあるけど間違って勝っちゃったら困る」ときに「相手を立てて」で香落ちにしておくような使い方が妥当なのではないだろうか(勝敗を競うだけが将棋ではないはずだし、駒落ちならなおさら:もちろん、奨励会とかでやってる本気の香落ちは別として)。

上手に左香がないことを効果的に咎めるために、筆者の素人考えでは相振りにして穴熊に固めるのがもっともよい気がしている(まあ相手を立てるつもりで香落ちにしたなら、穴熊で完封なんてのもない話だけど)・・・と思って調べたら、山田敦幹アマなんかが実際に指しているらしい(奨励会の香落ちでも相振りの棋譜をいくつかみつけたが、その中には穴熊はなかった)。別に穴熊に組まなくても端のプレッシャーが弱いことはメリットになるはずだし、串カツなど米長玉系の囲いにしてもよさそう。ただし、相振りだけに上手が本気を出すと「難しくできる」順がある(手損の角交換から飛車先を強引に切りに行って6五角をわざと打たせるとか:下手が微妙によいようではあるのだが、こんな形で勝ち切れるなら平手でもきっと勝てると確信できるほどの乱戦になる)。

余談:上手を持ったときも、テーマを持って指さないと下手の上達に寄与できない。もちろん、駒落ちといっても高段者と低段者で指すものもあれば、級位者と初心者で指すものもあるだろうが、筆者がイメージできる範囲で、ステップアップを考慮しながら2枚落ちについて書いてみたい。互いの棋力がともに低いとき、上手は下手は大駒を切れないと完全に決めてかかるのがよいと思う。大駒さえ切られなければ潰れない(というより大駒切りを催促する)指し回しで、もし切ってきたらある程度攻めさせて隙ができてから反撃する(ために、こけおどしの攻めでできるかぎり拠点を作っておく)。これで下手勝つなら、攻め方をある程度理解したということになる。ここからだんだんと、角でなく飛車を切らせるように仕向けたり、大駒を切ったときの形が難しくなるようにしたり、裏をかいて大駒を切れない形(桂香拾いで崩せる)を作ったり、上手の力量が高ければ下手のハードルも高く設定してゆける。もちろん、終盤は上手が勝負手を繰り出さないと一方的に潰れる(もし圧倒してしまうなら手合いが違っている)ので、その技術も相応に必要になる。なお藤井猛プロによると、飛車落ちの上手が頑張るなら手損の角交換から金開き、下手がこれを防ぐには(居合い抜き超速の要領で)升田美濃みたいな形にするらしい。角落ち上手の奥の手は袖飛車穴熊からの千日手狙いなんだとか。


駒落ちと手合いとレーティング

駒落ちを指すときに避けては通れないのが手合いの問題である。道場や集会所にはそれぞれの手合い規程があって、段級差を基準にするのが普通なのだが、手合いはインフレする(上級者同士だと小さな差でも大きな違いになる)ので基準を決めないとわけがわからなくなる。いちおう、2枚落ちはアマチュアの段級差で6~7、飛香落ち5、飛車落ち4、角落ち3、という日本将棋連盟の手合割はあるし、俗に言われるものとしては「角落ち三倍層」(平手で1勝3敗なら角落ちでどっこいの意)なんてのもあるが、棋力の水準が低いと大きなハンデをつけても紛れやすく、高いと小さなハンデでも下手が勝ち切りやすい(初心者ほどわずかな力量差で大きなハンデが必要)。

ネット将棋では段級と「レート」を併用して棋力を把握することが多く、レートの算出には簡易版のイロレーティングやその亜種が使われるのが普通だと思う。イロレーティングとは何ぞやという話については他にいくらでも解説があるのでここでは触れないが、ようするに、プレイヤーのパフォーマンスが正規分布(ロジスティック分布だという説明もあるが不明)に従うという前提で、勝敗が明らかなゲームが十分多く行われ、対戦相手の意図的な選択(選り好み)がないとき、平均的なプレイヤーのレートを1500に、勝率がEでレート差がRならばE = 1 / (1 + 10^-(R/400))となる(R = 400log(E / (1 - E))と同値)ように刻んだ間隔尺度のことである。

数式を見てわかるように、イロレーティングではレート差が400のとき勝率が0.9090...になる( 1 / (1 + 10^-1) = 1 / (11 / 10) = 10 / 11)。同様に計算すると、100差で64%、200差で76%、300差で85%、400差で91%、800差で99%くらいの勝率になることがわかる。ただし、少なくとも人間がプレイヤーならパフォーマンスが常に正規分布にピッタリ従うということはないだろうし、たいていのゲームやスポーツでは実力差が大きいと「勝負にならない」のが普通だと思う。端的に言えば、レート1100のプレイヤーA、1500のB、1900のCがいたとして、AとBおよびBとCの勝率がそれぞれ91%くらいだったとしても、AとCが対戦してAが勝つ見込みは1%もない、ということである(将棋とは関係ないが、勝敗に運が絡むなどしてプレイヤーのパフォーマンスが正規分布しないゲームの評価にも適さない、はず)。

パフォーマンスが均一な(実力差がない)集団を仮に想定すると、逆正弦法則から勝敗数はどんどんバラけていくはずだが、レートが高い相手に勝つと大きくレートが上がりレートが低い相手に負けると大きくレートが下がるように設計されているため、対戦相手が無作為に選択されている限り、レートは正規分布様の分布を示す(中心極限定理に従う)。その誤差(平均誤差でなく存在範囲)はおおむねプラスマイナス150点くらいの範囲になろうか。レート差を基準に対戦相手を選択する場合、基準レート差150くらいからこの拘束が緩まって、100だと平坦に近い分布になるのだという(無作為に対戦相手を選ぶのは必須条件なので、レーティングが破綻する)。

同じ相手にどれだけ勝ったら「有意に勝ちやすい」といえるかは、イロレーティングを2者間に適用すると計算できる(というか、イロレーティングは2者間の戦績を抽象化して「標準的プレイヤー」との間隔に置き換えたものなので、2者間に適用すると「コイントスをして何回表が出たら表が出やすいコインだといえるか」みたいな、普通の検定と似たような振る舞いになる:計算は省くが、たとえばピアソンのカイ二乗検定なんかとは、完全に一致はしない)。具体的には、5勝1敗、6勝2敗、9勝3敗、10勝4敗、13勝5敗、14勝6敗、15勝7敗、16勝8敗、19勝9敗、20勝10敗、26勝14敗、32勝18敗、37勝23敗、43勝27敗、49勝31敗、54勝36敗、60勝40敗、87勝63敗、114勝86敗、167勝133敗、272勝228敗、531勝469敗で95%信頼区間の下限が0になるので、試行回数のキリがよい5勝(1敗)、6勝2敗、14勝6敗、20勝10敗あたりを目安にするとよいだろうか(2者間に限らず、全勝しているときはレートを確定できない:次で負けたとしてもこれだけ、という最小値を求めることはできる)。当然ながら微妙な差であればあるほど多くの試行回数を要するが、信頼区間は95%でも、問題になるのは片側(マイナス側)だけなので、実際上は(片側検定にすると妥当性の検証とかが面倒になるので普通はやらないが)97.5%信頼できることに注意。また人間の場合ソフトと違って、同じ相手と5回も対局すればクセを学習するなどして相性が変わってゆくものだが、そういった経時的変化は考慮されない。

段級差とレート差の関係については一概に言えないが、ちょうどいいことに「角落ち三倍層」の勝率(75%)とレート差200の勝率(76%)がほぼ同じである(ついでにいうと、似たような評価関数で持ち時間=計算量が2倍になるとレート200相当くらいの差になるらしい:計算量に対するパフォーマンスは対数的に振舞う(読みの深さとほぼリニアらしい)ので、あくまで10秒未満くらいでの話なのだと思う、多分)。もちろんドンブリ計算に過ぎないが、レート差200=角落ち手合い=段級差3としてよいなら、レート1500の人が初段のとき、レート1300の人は3級、レート1700の人は四段くらいなのかな、という想像ができる(上で触れたように、3級の人と四段の人が繰り返し対局しても、1%も勝てないだろうと思う)。8戦して6勝2敗だと2者間のレート差が190だから、平手でこのくらいの成績なら角を落としてみてもいいかなというくらいになる(3勝1敗なら、たまたまかもしれないのでもう少し様子を見た方がよさそう)。

なお、あちこちで聞き齧った話を総合するに、プロレベルかつ同等の棋力の指し手だと香落ちの上手が1~3割くらい勝てそう、角落ちもたくさんやれば全敗ではなさそう、トップアマ同士ならもう少し紛れる、というくらいらしい(上手が振り飛車を得意としているかどうかも重要)。


ダメな手を知る

打ってはいけない駒とか、取ってはいけない駒とか、動かしてはいけない駒とか、いわゆる「悪手」になる手を知ることが、非常に大きな手がかりになる。相手はこうしたいが、そうするとこちらがまずいという手が見えることは、直接的に悪手を咎めることはもちろん、受けの効かない厳しい攻めや無駄のない効率的な受けを身に付けるためにぜひとも必要なことである。そのために、やはり自分(または対局相手)が指した悪手をしっかり検証し、どう指すのがよかったのか確認しておくことが重要になる。つまり、自分より棋力の勝る人と(普通は駒落ちで)指し、しっかりと感想戦をすることが上達の近道になる。もちろん、すでに触れたコンピュータとの駒落ち+棋譜解析も有用な手段だろう。

筆者には、この考え方と後述する「3手の読み」が、将棋の読みの根幹なのだと思われる。駒をぶつけたときに取ると即詰みがあるから取れない、飛び駒を当てたときに間駒すると詰めろが解けるから間駒できない、飛車を捌かせると勝てないから他方を謝る、取り合うと先に王手されるから受ける、そういった判断がいかに正確にできるかが重要。応用として反対から、受けなしに見えて案外受かる、攻めが切れそうだが切れない、といった「実はダメでない手」もわかれば鬼に金棒だろう。

とっつきやすいのは終盤で、即詰みを見逃したとか重要な駒を素抜かれたとか、ぱっと見わかりやすい失着が出現しやすい。中盤の悪手(無理仕掛けとか無理囲いとか、自分で攻めや受けをなくす手とか、手詰まりに陥る攻めとか急所を残す守りとか)は「たしかにダメな手だ」ということを確認するのが難しいため、上級者やコンピュータの助けを借りた方が効率的だと思う(いわゆる「なんでもない手」「受けor仕掛けになっていない手」を見抜くところから始めるのが効率的だろう)。序盤の手の良し悪しはプロでないと判断不可能な領域なので、ひとまずは主要な序盤定跡とよくある咎め方だけ把握しておけばよい。

もう少し微妙な課題として、手抜きの判断がある。受けない方が遅くなるとか面倒を見てもらえないと繋がらないとか、損得が明らかなケースはさておき、2手指せるなら受けたいところだが他に指したい手があるという場合がポイントになる。ここでも悪手の判断は重要で、受けて悪くする手しかないなら相手は手抜いて攻めてくるだろうし、攻めて悪くなる手ばかりなら面倒を見てくるだろう(攻めても受けても悪い手ばかりならすでに作戦勝ち:攻めにも受けにも指したい手があるときは、とても難しいが最終的には好みの問題になると思う)。

序盤については、すでに触れた棒銀のほかに、右四間飛車も覚えておくと心強い。序盤に変な手が出てきたら、まず「棒銀で崩せないか」「右四間で潰せないか」と考えてみるのが近道だと思う。もちろん、駒の働きがよくなる悪くなる、玉形が整う崩れる、大駒交換がしやすくなるしにくくなる、などそれ以外の要素もたくさんあるのだが、相手に悪手があっての棒銀や右四間にはなにしろ破壊力があり、咎めて指す甲斐みたいなものを覚えるのに格好だろう。また反対に、棒銀で突っ込むと挫折する形とか、右四間を受け切られて危なくなる形なんかを覚えることで、受けの勉強にもなると思う。

少し毛色の違う話題になるが、先手が専守防衛に出た場合、後手の原則は千日手やむなしである。後手にとって「千日手の順以外全部悪くなる」局面が出現し、先手が打開して千日手を避ける前提で定跡が成立していることがけっこうある(とくに角換わり相腰掛銀とか)。もちろん、後手だからといって積極的に千日手を狙いに行く義務はないし、先手番を握ったときに自分から将棋を作れることが前提にはなるが、悪くする手を指さないという意味では状況に応じて千日手を選ぶ能力もある程度は必要になる。

基本的に、将棋の駒の動きというのは常に「不自由」なもので、どちらかが駒を動かすことで、相手と自分の両方に「新しい自由」(不自由の解除)と「新しい不自由」が与えられる。動きたい駒の自由と動きたくない駒の自由に質の違いがあることも覚えておきたい。





序盤でリードは作れない

将棋というゲームの根本的なところなので、まずこれを押さえておきたい。序盤に限らず、将棋には「よくなる手」というのが存在しない。もし存在するのだとしたら、それを指し続けていれば先手か後手かどちらかが必勝ということになり、ゲーム自体が終了してしまう(先手と後手がともにまったくノーミスで指し続けたとき、どちらかが負けるなら必勝法があるということになる)。先手後手のどちらが有利かという問題はあるにせよ、少なくとも2017年現在の本将棋について、開始時点ではほぼ互角の状態であって、そこからミスをした方が不利になっていくゲームである。

だから「序盤でリードを作る」というのは最初から不可能だし、「相手に間違えさせる」というのも(相手の指し手を妨害できない以上は)間違えやすそうな局面に誘導するくらいの働きかけしかできない作戦といえる。反対から言うと、相手がどんな指し手をしようとも、自分さえ間違えなければ不利になることはない。序盤に限って言えば、互角の状況を保ったまま手番を終えられる着手が最善手ということになる。この言い方で奇妙に感じるなら、将棋の序盤は満点からどれだけ遠ざかるかという減点法の世界である。

とくに居飛車の将棋ではこの傾向が強く、居飛車党が「同じ形で先後両方持つ」というのは、ようするに「悪くしてない局面からなら自分が勝つよ」ということだし、「棒銀は作戦負けしにくいから優秀な戦法だ」という主張の背景にも同じ事情がある。だいたいが、初期配置の飛車の尻には桂があってコビンを守っており、飛車先を伸ばして攻め込んだ先には相手の桂香が落ちており、角が捌ければさらに戦力を追加できるのだから、初手を指す前の時点で、居飛車にはすでに主張があるのだといえる。であれば、これを損なわないように指していけばそれでよいのが理屈だろう(筆者自身は、振り飛車にした方が得な局面はあっても居飛車にして損をする局面はない、と信じている)。

これに対して振り飛車は、主張をゼロから(飛車をいつどこに振るかという所から自分で決めるわけだし)構築していくことになるため、居飛車と比べて「得を求める」度合いが強くなるように思う(とくに、大野流や藤井流などの攻める振り飛車は、そういう傾向が強いと思う)。どちらが優秀という問題ではないが、居飛車を指すうえで「自然な手」を追求するメリットが大きいことがわかると思う。

さてでは、序盤のリードとは何かと考えると、自分も相手も「いくらかは」間違えるという前提で、間違え方の程度が相手より小さかったということである。つまり序盤でリードを得るには「相手よりも間違いが少ない」ことが必要で、そのためには自分のミスを最小限にしなければならない。さらには、序盤定跡(=人類が知り得る「もっとも完璧に近い指し回し」)を知ることで、いくつかある「ほぼ満点」ないし「減点が無視できるほど少ない」展開から、複数の分岐を得ることができる。

余談になるが、こうやって得た複数の「形勢としては同等近い」分岐の選択こそが棋風の本義であって、もし形勢に優劣があるなら勝つ方を選べばよいだけである(極端な話たとえば、初手から7六歩、3四歩と進んで3手目に6八銀と上がるのは、銀を押し上げる棋風でもなんでもなくただの悪手だし、もしそう指されたら主義主張理念信念とは無関係に8八角成である:ただ、優劣の判別は力量に応じて細かく正確になるので、初心者にとっては「どちらでも大差ない」ような変化が、上級者には「取捨選択の余地がない一本道」となる場合もありえる、というかここの粒度こそが序盤における棋力なのだと思う)。


角換わり系

最初の難関はこれである。相掛かりや対抗形の急戦や矢倉は、2枚落ちで覚えた手筋や指し回しが応用しやすく、しっかりと練習していればそんなに困ったことにはならないのだが、角換わりはそうはいかない。そもそも、2枚落ちや角落ちでは角交換は起きないし、飛車落ちだって普通は上手が避けるため、序盤で角を持ち合うという経験が積みにくい。しかし、少なくとも先手番の角換わりだけはこなせないと、居飛車を指すこと自体が困難になる(数は少ないが、先手1手損角換わり=先後が逆転した同形角換わりを好んで指す人も一定数いる)。後手番の角換わりは横歩に誘導すれば避けられるが、どうせ先手番の指し方を覚えるなら後手にも使い回した方が省エネではないかと思う(横歩は後手でも積極的に動けるので、覚えた方が幅は広がる)。

同形角換わりの定跡を時系列で追うと、木村定跡、升田定跡、後手金矢倉千日手模様、先手飛車先保留腰掛銀、堀口流(4段浮き飛車)とそれに対する渡辺新手(左銀を3六まで進めて6三銀)、丸山流(3四歩と取り込まずに1一角打)とそれに対する佐藤新手(3五銀と逃げる)、富岡流(3四歩と取り込んで4四角成~2二歩)といった感じ(だと思う)。角換わりの定跡は閉じたものが多く、上記の形はどれも(よほど革命的な発見が出てこない限り、プロの公式戦には)もう出現しない形だと思われるが、攻め筋の基本を知るためにさらっておいた方がよい。2016年現在は1手損角換わり(佐藤新手と富岡流の間くらいに流行)も先手早繰銀が強力なようで、後手がやや苦しい展開のようだ(飛車先不突きで四間飛車や右四間飛車にしてしまう順もあるし、相早繰銀なら後手もそれなりにやれるような話もどこかで見た)。

富岡流は、2011年6月8日の第70期A級順位戦1回戦(先手渡辺明プロ、後手郷田真隆プロ:プロが定跡を完全になぞって負けるという珍しい将棋になった)でやはり先手がよいようだということになり、後手の対策として右桂保留、6五歩型、3三銀早上がり、端歩保留から6筋で仕掛け桂を跳ねる塚田流、42173筋の突き捨ての後8六歩で反撃、7四歩不突などが試され、後手が守備的な姿勢に出ると手渡し合戦になることもある(千日手模様になり指されなくなり、打開されてまた流行、後手が苦しくなり指されなくなり、対抗策が普及してまた流行という、角換わりの伝統的サイクルを繰り返している)。定跡の分岐点が1手1手前倒しになり、2016年後半からは4八金+2九飛型vs6二金+8一飛型(玉の位置や歩の進み方が違い完全な先後同形ではない)が流行するが千日手含み、後手の形としては5二金+8二飛もあるそうな。

富岡流の例。基本的には、右銀を1つ上げて、端を詰め合って、腰掛ける準備をして、先手はさっさと玉を7九へ、後手は金だけ上げて腰掛け、先手も腰掛けて互いに玉を広く、後手が玉を寄る間に先手が金を上がり、互いに右桂を跳ねて、先手が飛車先を決め後手の銀上がりと交換する駒組みになる。

先手が42173筋の順に突き捨てていき、最後だけ同歩と取らずに4四銀で準備完了。先手が飛車先を換え、後手が桂頭を守り、先手が端に手を入れ、残った突き捨ての歩を清算して中盤戦に入る(もちろん変化する順はある)。

角換わりの将棋というのは(手渡し合戦になる定跡形を除いて)たいてい殴り合いになり、先に仕掛けられる先手の方が押し込めることが多い。先手が攻めて悪くなる形というのはほぼ「千日手を避けられない形」(これは覚えておかないとダメ)と同義で、それ以外なら(どんな奇妙な受け方をされたとしても)必ずどこかに速い攻めが残っているはず。そういうつもりで手を捜しつつ、攻めを切らされたり相手が速くなってしまうような攻め方を避け、相手の攻めを遅くできるときだけ受けるような感じで進めるのがよいのだろう。互いの手が制限されることから千日手になりやすい形で、先手がそれを打開して戦形を作る(攻めた方が得な順があって成立している)のだという意識はあった方がよいと思う。反対に、先手が千日手上等の駒組みをすると、後手からは打開できないのが普通(後手としては、千日手にできる順は「得」とみなして覚えてしまうしかない:角換わりの敷居を高くする原因のひとつだと思えてならないが、それが将棋のルールなので仕方ない)。先手一手損角換わりが戦法としてメジャーにならないのも同じ理由で、先手が千日手を避けにくくなるからである(のを打開する妙案がもしあったら、流行戦法になる日ももしかしたら来るかもしれない)。

もし相手の形が最初からわかっているなら、腰掛銀は早繰銀に強く歩越し銀の頭を歩で押さえ込めるし、早繰銀が5段目に待機しているところに飛車先への連続突き捨てで十字飛車の手筋もある。早繰銀は棒銀に強く、5筋4段目への角打ちの受け(桂に紐がつき飛車の利きにも割り込める)が安定し飛車の横利きも通しやすく、浮き飛車にされたときの守りも手厚い。棒銀は腰掛銀に強く浮き飛車から龍を作って暴れられる、という傾向はあるが、組み合わせだけで有利不利が決まるようなものでもない。2016年現在、同型角換わりでは先手2五歩保留により後手棒銀が厳しくなり、グーなしジャンケンの様な格好で相腰掛銀が主流のよう。後手1手損角換わりだと先手早繰銀に後手飛車先保留が負担(というか、結局8五歩を突かされて1手損だけ残る)になり、先手棒銀にも速度面での主張があるため、後手工夫が必要らしい。

陣形のちょっとした乱れで一気に悪くなるし、相手の「正しく指せば悪くなる形」を見過ごすと手の打ちようがなくなるし、中盤以降の速度勝負についていけないと形も作れない(コンピュータはどれもべらぼうに上手いのだが、変な定跡の外し方をするので練習には使いにくいと思う:2016年現在、序盤の形を手動で作ってやっても、人間ならまずやらない独特の指し回しをすることが多い)。この「正しく指せば」には「棒銀で潰れる」とか「早繰銀で受かる」といった状況も含まれるので、3戦形すべての基本的な部分はさらう必要があり、序盤でムチャ(自分と同程度の棋力の相手がその場で思いついたレベルのもの:何日も寝ないで仕込んできた研究手なら、初見ではハマっても仕方ないと思う)をされたとき、的確に咎めて勝ち切れる程度には熟練しておかなければならない。横歩と同様相手の出方が絞り込めてから玉形を決めた方が有利なことが多く、タイミングを見極める必要がある。

先手番で真っ先に覚えるべきなのは、同形角換わり富岡流、棒銀対策、1手損角換わり早繰銀、といいたいところなのだが、とりあえず富岡流の雰囲気だけつかめればしめたものだと思う。正直なところ、定跡の解説を見せられて「まで後手がよい」なんて言われても、筆者くらいの棋力の人間には理解なんてできないし、指しこなすとか勝ち切るなんてのは夢のまた夢である(矢倉なんかも定跡が入り組んでいて、結論は「先手不満なし」なのに「こんなの先手持って指せっこねぇ」というパターンはあるが、角換わりの場合何の話をしているのかわからないレベルのものが多い:とくに終盤、長手数の一本道が出現しやすいのも原因の1つだと思う)。後手番は棒銀だと飛車先保留の相手には苦しいし、先手番だと腰掛けた方が指しやすいので、やはり富岡流周辺の定跡はいちどさらっておいて、後手のときは好みの対策を採用するのがいいのではないかと思う(1手損角換わりは苦しそう)。

なお、序盤を考える上で後手番で手損なく飛車先を決めない角換わりにできたら得だということは認識しておいた方がよい。とくに、7六歩、8四歩に7七角と出られた場合、さっさと3四歩と睨んで腰掛銀を念頭に進め、先手が飛車先を突いた時点で角交換してしまうのが王道になる(3二金は振り飛車の含みがなくなるまで保留)。


相掛かり系

いや、相掛かりは自由に指せばいいと思うよ、そういう将棋だから。古い用語のいわゆる「相懸り」は、序盤から互いに飛車先を伸ばして角頭に迫る指し方全般を意味したようだが、この項では横歩や角換わりを除いた正調の相掛かりを「相掛かり」、横歩と正調相掛かりをまとめる場合は「相掛かり系」と呼ぶことにする。

相掛かりは序盤の終わり~中盤の初めくらいに角交換になることが多く、形としても腰掛銀、早繰銀、鎖鎌銀(先手の場合4七から3六に出る)、棒銀、UFO銀(2七から中央を通って腰掛ける)とあり角換わりに似ている(歴史的には、角換わりが相懸りの指し方の一種だったらしい)。不用意に飛車が動くと角交換から飛車に当てつつ打ち込まれて悲しいことになる場面も多いのだが、それを掻い潜って飛車がビュンビュン動くひねり飛車みたいな将棋もある。

先後とも最序盤は居玉で、2段玉のカニ囲い(左銀はどちらかの角が動くか角道が塞がるか交換になるまで動かないのが普通)、金開き、中原囲い(現在は横歩にも使われるが、元は中原流相掛かりの囲い)などにすることが多く、あわよくばで片銀冠への組み換えを目指すこともある。他の戦形と比べて玉が頻繁に動くのも特徴のひとつ(お互いに玉が広い形でガンガン攻めるから動かざるを得ない)。後手はある程度相手に合わせて形を作らされる(引き飛車浮き飛車の選択など)ところがあるが、一方的に押し込まれる展開は角換わりほど多くない。

基本的には先手引き飛車なら後手浮き飛車だが、9筋を打診してから飛車先を切ってもよい(普通は先手が受けて後手浮き飛車:受けないと先手が先に形を決めることになり後手対応しやすい)。先手浮き飛車はまず塚田スペシャルを警戒すべきで、7二銀から6四歩と7六歩を交換して後手が飛車先を切れば2四歩の合わせに8二飛、6四飛、3四歩の谷川新手で後手がよい(3四同飛には角交換から6六歩がある:8筋に歩を打ち直していると6三銀が間に合って先手損)。後手は角道を保留し先手が捻ってから開けるのが常套手段で、2七銀で棒銀(飛尻出棒銀とか縦歩棒銀と呼ばれる)が見えたら3四歩を決め、3六銀の形なら飛車先交換が間に合うので切ってから浮き飛車で受ける(3六飛の形は6筋を進めて角の捌きを狙ってもよいし、3三金+浮き飛車で受けてもよい)。3筋を詰め合って3七銀と出られたら腰掛銀を急いで、3五銀に3四歩と合わせ、同銀に角交換から3五歩を打つのが有力(さっさと角交換する手もあるようだ)。相浮き飛車は3七桂戦法などが受けにくく、結局は、棒銀には浮き飛車でそれ以外には引き飛車というのがより正確なのだろう。

プロの将棋では2014年ころにちょっとしたブームがあったようで、先手引き飛車に対し後手は7二銀と7四歩で手待ちし、先手が2七銀を決めたところで飛車先を交換し、浮き飛車か5段飛車に構えるのが主流だったようだ(9筋もあらかじめ詰め合うことが多い)。先手の引き飛車に対しては普通の(4段目の)浮き飛車の方が安定するが、歩を進めにくくなる欠点がある。5段飛車はそこを改善しつつ9筋も狙いに入れた構えだが、普通の浮き飛車よりもさらに不安定で、とくに7六歩と先手が角道を開けたときの対応が問われる(5段飛車+7筋位取りで、先手が位を解消している間に自分だけ大駒の利きを通してしまう作戦もある:バランス的に相左囲いになりやすく、結果的に力戦矢倉みたいな格好になるようだ)。

その後少し下火だったようだが、第42期棋王戦挑戦者決定トーナメント(先手郷田真隆プロ、後手屋敷伸之プロ)では先手が3八銀で手待ちする趣向が用いられ、さっさと飛車先を交換した後手が飛車を引き相引き飛車に、先手棒銀(3六でなく2六に出た)を後手が角交換で足止めし腰掛け銀、盤上全部で駒がぶつかり合う熱戦になり、77手目に6八銀6九飛成の交換を入れず5五銀と攻めに出た先手を、後手が手厚く受け際どく制した。

相引き飛車は第72期名人戦七番勝負第2局(先手羽生善治プロ、後手森内俊之プロ:こちらは先手が腰掛銀を目指した)でも採用されており、相掛かりらしい盤を広く使った攻め合いが期待できる(先手の銀が進んだところで、後手が角交換し腰掛銀にするのが一般的な進行:先手が手待ちをしないと棒銀に飛車を浮かされて手損になるため、先手腰掛銀志向か後手が先に飛車先を切れる展開が前提になる)。

横歩は先手が1歩得、後手が2手得となる展開で、後手から局面を作りやすいのが特徴。守りの歩を極力打たずに攻めに使うのが重要ではあるのだが、さっさと守られたときにどうやって咎めるかということをまずは覚えなくてはならない(先手2三歩打からの定跡は必修)。横歩の後手番は16手目3三角が主流のようで、数年前の中座飛車(5段飛車)ブームが終わり2016年現在は右銀を上がってからの飛車ぶつけなんかが話題のようだ(普通の4段浮き飛車も復活している模様)。先手は金開きのほか新山崎流の囲い(居玉で右銀が右金の上に乗る、1手だけの囲い:名称不明)や中原囲い(3八歩打を取れず成り捨てで銀を剥がされやすいが、堅い)もある。後手は中原囲い(初期に用いられた4一玉型、3筋攻めから玉を離した5二玉型、玉が離れて薄くなった1筋を補強する銀冠空家型など)のほか、金開きも用いられる。2016年現在は、3三角から相浮き飛車にして5二玉型中原囲いに組み、端で手待ちして先手3六歩に合わせて飛車を突入させ、角と交換して5五に打ち込む斎藤流が人気のよう。先手が飛車を引かない青野流(両桂を跳ねての攻めが強力)に対しては、2二銀から4二玉型に組むのが安定するようだ。


矢倉系

矢倉はまず後手番から覚えるのがよい、と思う。というのは、相矢倉は後手からの変化が豊富にあり、いきなり先手を持っても対応しきれないからである(横歩にもそういう傾向はある)。後手番なら、早囲いに対する急戦(米長流、5筋交換(阿久津流や中飛車含む)、7筋交換、棒銀、右四間あたりから好きなものを)の順だけ覚えておけば、あとは持久戦に専念してもそう酷いことにはならない。そのうえで、先手が隙のある組み方をしたときに急戦に出る順(最初のうちは早囲い対策と同じでよい)を補っていけば、序盤が自然に理解できるのではないかと思う(自分で指してみるのが一番効率がよい、というのが筆者の意見)。持久戦の矢倉でしっかり指しても後手が悪いなんてことはない(少なくとも、角換わりほどは苦しくない)と思うし、先手に何か隙があっての急戦矢倉はかなり優位に進められる。ただし、先手が専守防衛したときに千日手にしかできない順がけっこうある(相総矢倉やツノ銀雁木や右玉系など)ため、形を覚えて無駄に突っ込まないようにしたい(角換わりの項でも似たようなことを書いたが、相居飛車の将棋は先手が千日手を避ける前提がないと成り立たないものが多い)。

他の将棋と持久戦矢倉を比べたときに特異な点として、お互いに飛車先を受けつつ角筋を変えるということが挙げられる(大雑把にいうと、駒組み前に飛車先交換するのが相掛かり系、角交換するのが角換わり系、どちらもしないのが矢倉系だと考えてよい:急戦矢倉や角交換矢倉はいったん拒否してから駒組みの途中で交換を入れる)。先手番矢倉の序盤は本当に特異な形で、スタンダードな居飛車の将棋(対抗形含む)では、相手より先に角道を塞ぐのも、振り飛車(や右四間や袖飛車)含みでないのに3回も4回も駒を動かして飛車先を突かないのも、これだけである。持久戦の基本的な構図として、先着できる先手vs角を好位置に付けられる後手という主張の違いがある。

序盤に駒の交換がない前提の戦形なので、たとえ1歩といえども手持ちになると状況が一気に変わる。とくに後手は、角と銀の位置関係をどう構築するか、矢倉が崩壊した後のことまで考えて検討する必要がある。後手が不用意な指し方をすると(角換わりのような一気の潰れもなくはないが)ジリジリ悪くなる以外にどうしようもない順がけっこうあるので注意したい(穴熊の将棋もジリ貧の順は多いが、それとは少し事情が違い、矢倉の場合押され続けて跳ね返しようがなくなる)。自分から変なことをやらず、先手が変なことをしたら的確に咎めるという普通の対応が重要。

先手番を持ったときの課題はなんといっても急戦矢倉(居角左美濃含む)や右四間の対策で、まずは序盤をしっかり覚えて、どこで外されたらどう対応するのか理解しておかなければならない(知らずに指すとたいてい完敗する)。いったん角道を塞いでしまっていることと、玉の囲いが不完全な(急戦向きでない)ことをどう挽回するかに注目して定跡を追っておきたい。後手が変な動きをしたときの先手からの急戦は威力が凄まじいので、後手番を持ったときの経験を活かして攻め切りたい。とくに、米長流、阿久津流、矢倉中飛車の三大本格急戦と、右四間、2枚銀急戦、カニカニ銀の三大マイナー急戦を覚えておくと、相手が色気を出して変なことをしたときに一気の作戦勝ちが望める(というか、これらの攻め潰しをマスターしておかないと、一方的に不利な形でしか持久戦矢倉にならないことが多い)。先手番で急戦矢倉を仕掛けて相手が専守防衛の構えを見せたときは、手持ちの歩を増やすことに専念すると効率がよい(棒銀と端攻めと中飛車の全てに対応しつつ歩も切らせないなんてことはできないし、もしできたらすでに作戦負け:3歩くらい持って端を詰めれば手は作れることが多い)。

なお矢倉5三銀右戦法(阿久津流急戦矢倉+渡辺新手2種:角頭の突き捨てを飛車で払ったあとの5四歩打に3一玉、5三銀右2六歩8五歩と進んだときに7七銀)は後手やれそうではあるものの、18手目5三銀右に5七銀と総矢倉を目指す指し方で基本形になる前に変化できるよう。後手も(先手77銀を待ってからの)雁木などで対抗するが、先手4枚の矢倉穴熊に潜れて玉形に大差がつき、プロ間での結論は不明(2017年に将棋DB2で調べた限り、5局しかヒットしなかった:そのときの検索結果では、穴熊に組む構想自体は2013年の第61期王座戦五番勝負第2局、先手羽生善治プロ、後手中村太地プロから見られ、最新のものは2014年の第73期順位戦A級2回戦、先手広瀬章人プロ、後手行方尚史プロ、最新局では後手が穴熊に潜らせた上で勝っている)、実戦的には後手かなり勝ちにくいと思われる。

相矢倉(に限らないが)の序盤は、駒落ちの項で触れた技巧というソフトに指させると抜群に上手い(バージョン2になって定跡ファイルの使用がデフォルトになったが、バージョン1時代から上手かった)。「あらアナタこの形知りませんでしたね」と言わんばかりの的確な咎め方を毎回のようにしてくれる。コンピュータ同士の対戦でも強いソフトだが、この「理に適った序盤」がかなり効いているのではないかと思う(誰も知らない変な形を作って、その変な形を正確に指しこなすという方向性ももちろん悪いものではないと思うが、練習用には普通に指してくれた方がありがたい)。


対抗形

以下、自分が先手番の対四間飛車全般と後手番でも対藤井システムには急戦、後手番の対四間飛車と先後問わず対三間飛車は居飛穴、先手番でゴキゲン中飛車には丸山ワクチン+佐藤新手、後手番の対中飛車は早めの飛車先と5筋の位取らせで相手に合わせ、角交換振り飛車にはへこみ矢倉に組んでの玉頭攻めを基本にする。自分が後手を持った2手目は8四歩で、早石田にはならない前提。

先手番を握っての対四間飛車なら、急戦でも、居飛穴でも、端受け穴熊でも十分に指せる。急戦は、後手が平美濃を完成させ先手が5七銀を上がったところが基本図。ここから後手が、6四歩なら4六銀左戦法(山田定跡バージョンの斜め棒銀:3筋を突き捨てて左銀を3五まで上がって角交換して同銀に7七角打ち直し)、5四歩には鷺宮定跡(船囲い横2枚金+袖飛車+3筋突き捨て+4六銀左で居飛車から角交換)、4三銀には5八金と様子を見て5四歩なら4五歩早仕掛け(振り飛車は4五歩を取れないので3七桂を入れてから飛車先を突き捨て4筋を取り込む)、6四歩なら4六銀左戦法(斜め棒銀:左銀を上がって3筋を取り込んで同銀に2筋も突き捨てて3筋に飛車を回る)が有効(だったはず)で、棒銀はどの形でもそれなりにやれる。振り飛車が5筋不突きでの4五歩早仕掛けは、玉頭銀狙いの5四銀とそれを咎める3八飛で千日手模様だったが、第1期叡王戦段位別予選七段戦で先手室岡克彦プロが54銀に47銀から5筋位取り袖飛車という打開で勝っている。先手番で穴熊模様にした場合は千日手が最大の敵なので、後手が45歩を突いたら3筋2筋の歩を進めて手詰まりを避けておいた方がよい。勝ちやすいのは居飛穴(「4四銀に2六角、5四銀に3七角」は覚えておきたい)だろうと思うが、急戦を指せないと居飛穴崩しを咎められないし、居飛車の将棋の基礎になる指し方でもあるので、先手番を握っているときには(自分が練習したい形が現れたときだけでも)急戦を指しておいた方がよいと思う。

筆者の素人考えでは、2手目8四歩だと対抗形のなかで対四間飛車がもっとも厳しい(身近な上級者がみんな「四間飛車世代」の振り飛車党なので、その印象も手伝っているが)(2019年追記:ここ数年のプロの将棋では先手振りの選択肢としては中飛車が全盛のよう)。個人的には、中盤に入る前に先手が仕掛けを放棄したら千日手で満足すべきだと思う(後手からの打開はかなり難しい)。とりあえず端は無視して船囲いまで組み、それでも居玉なら藤井システムが濃厚なので、飛車先(三間振り直しが(蓋ができるためそう簡単に飛車先は切られないものの)面倒なので手損のない向かい飛車が消えた時点で決めるのが明快だと思う:手損しての向かい飛車には穴熊よりも左美濃が安定するはず)がまだなら7七角と交換してから、端を受けて6四銀右の形から3筋を取り込み同銀に袖飛車の急戦(先手の対応で角交換+5五銀+8八角打か角引き7七歩打同飛6六角あたりが自然:左銀は3一のまま保留)、または5三銀と上がって居飛穴準備形を作り桂跳ねに角引きで持久戦狙いが有力なはず。まずはこの端を受けるタイミングを覚えておきたい(ようするに、急戦の権利がなくなってから突き越されるのがマズいわけで、船囲いの端は最後と覚えて差し支えないと思う:基本的には居飛穴でも端を受けた方が持久戦では堅く、8七銀型への進展が望めるならなおさらなのだが、後手番で穴熊志向だと手数や急戦対策の関係で受けられないことが多い)。

後手番での対藤井システムについて筆者の好みを言えば、居飛穴準備形での戦いは先手の主張が一方的に通り過ぎだと思う。ただし、穴熊を目指して即悪くなるわけではないはずなので、穴熊を咎めるのがどれほど難しいかを体験するために、少し試してみるのは悪くないと思う(藤井猛プロ自身は、藤井システムには千日手になる変化が多く先手番では指しにくい旨発言している)。なお普通の藤井システムのほかに4八玉型の水谷流藤井システムというのもあるそうな(アマ強豪の水谷創さん考案、なのだと思う、きっと)。

急戦で振り飛車が5六歩を突くと6五歩早仕掛けの理想形(5六歩+6七銀)になるうえ4四銀型の端受け穴熊でもそれなりに指せそうなので、先手4六歩型しか選べないはずで、居飛車が3一銀保留型なのを差し引いても、普通の後手番急戦よりやりやすい(きっと)。5六歩に6五歩早仕掛け(4一金+5三銀左の形がいいのかな)の順は、理想形とはいえ後手番なので互角がいいところではあるが攻めっぱなしの将棋にでき、8筋で同歩なら6筋を取り込み銀頭を歩でもうひと叩きして居飛車から角交換(銀を取るのは後手番だと難しい模様)、8筋で同角なら郷田新手の後手バージョン(とても長いのだが、6筋を取り込み、6七歩打を同飛と取らせ、飛車角交換から7八角打、飛車当て桂拾い飛打に7七桂でぴったり受かり、飛車が逃げたら1筋で歩を仕入れ6七歩打:端に手を付けたところで馬を取る変化は1八歩打でよいらしい)。もし先手がさっさと端を突き越したら、袖飛車急戦で突破できると思う(振り飛車としても序盤に突き越すと手損になり急戦を受けにくくなる:端を突き越される損は、船囲いなら美濃囲いほど大きくないはずだし、持久戦にならないとあまり効いてこない)。

もし船囲いができる前に相手玉が動いたら対穴熊の藤井システムではない(居飛車が穴熊準備形のまま通す構えの場合3九に潜ることはあるが、タイミング的にもう少し後)ので、居飛穴がファーストチョイスになる(とくに3八玉型は囲い切らないと開戦しにくく、対左美濃藤井システムにもならず後手の選択肢が広がる)。あくまで筆者の素人検討ではあるが、左図の形(飛車先はしばらく保留しておく)を作ってしまえば悪くはならなさそうな感じである(ただし、コンピュータに指させても逆転することがあるくらいの微差しかないので、完全に居飛車がよいわけではない)。

おそらく、上図になる前に仕掛けても成功しないはず(居玉で原始玉頭銀みたいなことをやられた場合は、天野矢倉の形で受けるとやりやすいと思う:上から攻められてかつ角交換になりやすいため)。

先の図の右側(順当に進んだ場合)に戻って先を進める。先手振り飛車がゴリゴリ押してきた場合、穴熊には潜らずに応戦した方がよいと思う。攻め合えば、6三銀型藤井システム(後手番)よりも遅いし玉が争点に近い。香も上がらなければ米長玉の含みが残るので、状況を見ながら手入れをしたい。実際には香だけ上がっておいて機会があったら潜る形になることが多いと思う。ハッチまで閉められれば玉形勝ちできるので機会を逸しないように、また不用意に潜るとあっという間に囲いが崩壊するので慎重に指したい。基本的に、4五桂には5三の銀を取らせて同金とし、6筋の受けを残す(角を引いてある場合は別:先手陣は2五桂打が急所で銀桂交換はそんなに損ではなく、玉のコビンが空くので5五角打などがかなり厳しくなる)。

もうひとつ、4筋回りもけっこう面倒なのだが、2四歩だけ早めに入れておけば、やはり穴熊潜らずの形で戦えるだろうと思う。相手玉が端に近いこともあり、米長玉にして直射を避ける(タイミング重要)のも有効なので、香上がりも慎重に検討した方がよいかもしれない(角を2二に引いて嘘銀冠なんかもできるが、先手が千日手大歓迎の構えだと打開の方法がわからない)。

先手振り飛車の6六銀が消えているので高美濃で受けることもでき、相手が穴熊なら銀冠穴熊から玉頭を押せるので居飛車も不満がないのだが、相手が美濃系のときに銀冠にしてしまった後手からの仕掛けがあるかどうか、筆者にはわからない(先手が仕掛けて悪くなるとも思わないが、相手が意図的に仕掛けない可能性はある)。7八銀待機型は穴熊に対して仕掛けの権利がないはずで、4五歩を突かれても銀が出てくる(=銀上がり型に合流する)まで放っておけばよい(左金保留のままハッチを閉めてしまうのが主流のようだ:取り込まれたら同銀でよく、8五への桂跳ねにも角を引けばなんでもない)。四間飛車の左銀待機は基本的に千日手辞さずの構えで、自分が後手番を持っているなら素直に千日手で不満はない(居飛車が先手番のときは、右桂を跳ねて打開を目指すことが多い:相手の角睨みに対して、5五歩の中間から4四銀で追い返せることを覚えておきたい)。

ハッチを閉めた後は他の将棋と少し異なる感覚が必要になる。

まずは穴熊の速度計算(受け損なったり手抜けないところを手抜くと一瞬で崩壊する)に慣れることが先決。1七への打ち込みは横攻めの送りをかねたもので、尻から龍で追いかけて玉頭で詰ますようなイメージ。これが相穴熊になると少し雰囲気が違い、 相手より先に桂香を拾って打てれば半分勝っているような気がしないでもないのだが、大勢が決まった後も延々と粘れる(そして間違えると逆転する)戦形なので覚えておきたい。振り穴に対して銀冠穴熊を組めれば有利な気がするので、相手が早めに形を決めたら考慮しておきたい。

後手ゴキゲン中飛車には丸山ワクチンから佐藤新手、振り飛車が遠山流なら17手目3八銀というのが無難だったが、世間的にはやはり超速37銀が(変化が膨大ではあるが)有力らしい。ワクチンから端を受けて普通に指す場合は「常にちょっと玉形勝ち」をキープして、片銀冠の向かいに本物の銀冠を組み上げれば、逆棒銀が突っ込んできても捌き合って玉形で勝てる(なんていい響きだろうねぇ、もう一回言っておこう、捌き合って玉形で勝てる)。ただ、安定して指せることに胡坐をかいていると相銀冠にありがちな手詰まりになりやすく、どこかしら(できれば7筋)の位を取っておきたい(のだがこれが難しい)。どうも、プロの将棋ではさっさと左辺の形を作って5筋の位を取られたら6七銀でしのぎ、右辺(とくに右金)はなるべく保留する指し方が主流だったようだが、菅井新手(位を取らずに4四角打から向かい飛車:第73期順位戦C級1組10回戦、先手大石直嗣プロ、後手菅井竜也プロ)が出て以降、まず7八銀、ついで4七銀の形を作ってから玉が潜って6六歩、持久戦になったらへこみ矢倉というコースが主流になったようだ(元はといえば矢倉に組まないための7八銀だったはずだが、紆余曲折があって結局これがよいというなら面白い話)。なお安易な逆棒銀や5四角打の筋違い角は7七か6六に(または相手の飛車に紐がついていなければ銀に当てて)角を打ってやれば受かる(7六の歩を取られても5五の歩を取り返せばよい)。

先手中飛車に対しては、5筋の位を取らせて67筋を突かず右金を4三に上げて5筋を受ける形が安定する。そこから、持久戦模様なら3一銀待機型の居飛穴(=2二を空けてハッチを閉めない)に組み、右銀を4二まで千鳥に動かして、振り直しからの3筋攻めに78筋を突き捨て、角頭に歩を打たれたら2二角(場合にもよるけど)としてやれば悪くはならない(角に銀の紐がついているので、角道は自分の都合で開けられる)。相手の玉形にバリエーションが多い(早囲いや片美濃から穴熊まである)ため、捌き合える状況かどうかの確認は常に必要。四間飛車相手の急戦ばかりやっていると感覚がズレてくるのだが、相手が5筋に飛車を振ったまま力戦になると、振り飛車の攻めは意外と遅く(飛車を成り込んでも桂香を拾いにくく金駒を取り合っては打ち合う膠着状態になりがちで飛車の横利きの守りも地味に効く)、居飛車の攻めは意外と速い(桂香を拾いやすく相手に離れ駒があり玉形も片美濃がいいところ)。片美濃なら船囲いでも玉形負けはしないし、振り飛車が片銀冠を組む頃には居飛車はもっと堅くなっているはず。持久戦になったら玉頭への転戦を常に頭に入れておきたい(最初から位取り狙いというのは大変そう)。相当困った形になっても、歩が2枚(相手が2段飛車なら1枚でOK)あれば、飛頭を歩で叩いて端角という奥の手があることも忘れないでおく。飛車は極力動かさない方がよく、5筋への歩打は慎重にやる(打たないと終わる場面もあるので「やらない」のではなく「慎重にやる」)。お互いに桂の捌きが重要になる。後手番のときは前に前に押し返すつもりで受けていればなんとかなることが多く、気持ち的にはラクな気がする。

三間飛車には穴熊が有効なのだが、やはり先に急戦を把握しておいた方がよい。船囲いの玉を寄ったら、5筋、右金、3筋、4筋(先手番である前提:以下この段落で同様)と盛り上げ、右桂を跳ね(後手は向かい飛車に振り直すしかない)、5七銀左から5筋4筋を突き捨て、左銀で4筋を押し角交換から8八角と打ち直して仕切り直す。この急戦は5筋を突き合っていることが前提で、トマホーク、下町流、小倉流などの玉頭銀に対しても、4筋を桂で支えてから4五歩とできる(後手が同銀とできない)ため、対3二銀型より居飛車の攻めが厳しくなる(角交換を同銀と取れないため飛車先突破が容易:対四間飛車と同様の構図)。先手番の場合、534筋の詰め合いから桂を跳ねる前に仕掛ける「いきなり早仕掛け」という超急戦もある(4筋5筋の連続突き捨てから右桂を跳ね、後手が角道を通したら飛車先を突き捨て、角交換を取り返した銀に桂を当てる)。後手番の場合は4四歩型の居飛穴がファーストチョイスではあるが、銀上がりが早い場合の急戦が(3筋での攻防がいちいち飛車に当たるため)対四間飛車以上に有効で、3筋の位を取られても端突き浮き飛車で玉を固めればなんでもない(端角に対して33角のラインを通している場合はとくに、左の平美濃や天守閣美濃も有力な選択肢になる)ことを覚えておきたい。

先手三間飛車の場合は真部流(ノーマル三間+銀立ち高美濃を用い、中央制圧からと金攻めで4枚穴熊を粉砕するカッコイイ戦法:真部一男プロが愛用したことから)が天敵になるので、片穴熊のまま右銀で攻め込む(これがコーヤン流の前提になる)。後手三間飛車でも5三銀型の4枚高美濃(後手真部流)は有力だが、居飛車から片穴熊での仕掛けがしやすい。居飛車が先手ならさらに、6六歩型の居飛穴に組み、5七の銀を囲いに引き付け、3筋を突き越されたら1六歩、角を引かれたら3筋を浮き飛車で支え、6七金型のビッグ4を目指し、どこかで綻びがあれば仕掛けるような順もありそう。

角交換振り飛車は、結局向かい飛車か石田流になることが多い。注意点としては、5筋の歩は慎重に突くこと、角道が空いている間は必要に迫られない限り飛車先を決めないこと(向かい飛車のお手伝いになる:5三角打などで咎められるなら話は別)、4七銀と上がるタイミング(基本的に後手振り飛車の作戦なので自分が先手番の前提:3八銀で待機した方がよい形もある)を覚えること、一気の展開がないなら角を好所に置くこと、振り飛車が穴熊ならへこみ矢倉に組み替えて盛り上がることなどがポイント。そう悪くはならないはずなのだが、なんともつかみどころがない展開になる(ソフトに指させると人類では到底歯が立たないくらい強い、と大平武洋プロがコメントしていたと思うが、別の人だったかしら)。自分が後手番でやられる分には2手目8四歩を指している限りそう困りはしない。たとえば先手角道オープン四間飛車なら、玉を3二(角交換を同玉と取れる:同銀の方がよいことももちろんある)まで寄ったら6二銀だけ入れて、飛車先は決めずに3四歩で角をぶつければよい。ムリヤリの角交換には同玉と取れば、7七桂に3二金で一目散穴熊(角打ちには角を合わせるだけでよい)か3二銀で(片)銀冠からの玉頭位取り、7七角の打ち直しには3三角と合わせて美濃には居飛穴・振り穴には左銀冠かへこみ矢倉(角を残していったん1二玉とし、串カツ・手損穴熊・銀冠米長玉を使い分ける指し方も、繊細さが求められるが有力)、といったあたりで後手指しやすいと思う。5筋を突いてくる場合は中飛車への振り直しを含みにしているはずだが、振り飛車から角交換させれば先手番でのワクチン系より1手早いし、5筋位取らせにしても6八飛の分が1手損、角交換も5筋位取りもしなければ船囲いから早繰銀の要領で出れば5筋を負担にできそう。プロも採用するくらいなので本格的な力戦振り飛車は手強いが、なにしろ難しい指し方なので、自然な対応を心がければ相手が困ることの方が多いと思う。


変な序盤を指しこなす

序盤の最優先課題はこれである。頻出の序盤定跡を覚えることはもちろん必要なのだが、相手が定跡をムリヤリ外したときというのは自分が優勢なはずで、これをキッチリ勝ちきれることがまず第一になる。だいたいからして、いわゆる有力定跡とか流行形の「テーマ図」というのはどちらにも勝ち目がある状況なわけで、互角の状況にたどり着く努力ももちろん必要なのだが、その途中に明らかに優勢になる変化があるなら、それを効果的に咎めるのが先決だろう。

一番わかりやすいのは、振り飛車が居玉やそれに近い格好から無理攻めしてきた場合で、居玉より船囲い、片美濃より左美濃、平美濃より高美濃が堅い、という普通の棋理をもとに「常に少し玉形勝ち」をキープすると勝ちやすい。相手より玉形が勝る状況で攻められたら面倒を見て、攻めでお得な手があれば指しておき、相手が手入れして速い攻めがなくなったら自分も手入れ、という形で進めると、最初から高美濃系の駒組になっており銀が中央に近い居飛車が常にリードを保てる(藤井システムの優秀なところは居玉で手数もかけていないのに堅いところだと思う)。相居飛車の場合居玉棒銀も無理筋とは限らず(少なくとも相掛かりではプロにも指されるし、角換わりでも状況によってはある)、中飛車相手にこちらから殴り合いを挑んだ場合(超速3七銀系の力戦など)も相手に反発力があるため、定跡形を覚えてしっかり対応するしかない。

後手嘘矢倉への急戦も手筋を覚えるうえで有効。いったん3三角を入れてからの嘘矢倉は(特殊な順でなければ)手損になるので、引き角の利きに右銀を乗せて2四の地点で強引に捌き合えば悪くはならない(飯塚祐紀プロ推奨の順で、急戦矢倉2枚銀と呼ばれる形からの変化の1つ:左銀を6六に上げ5五歩で相手の角道を遮断、相手の飛車先はカニ囲いの左金だけで受け交換は咎めないのがポイント)。捌き合った後の攻めの手筋(通常の矢倉と同様の、相手駒を動かしての角打ちや端の突破など)の習得にうってつけである。後手が7筋不突6二銀待機型など攻めを完全に放棄して捌き待ちに徹した場合は、注文通り捌き合ってもそう悪くはならないと思うが、相手に手待ちがなくなるまで囲いに手を入れて、攻め駒を半端に動かしたところで攻め込むのがよいと思う(端は詰め合った方が得で、カニ囲いは崩さない方が無難、6八角を入れると(どうせ交換したい角ではあるが)飛車先で角交換されて面倒だと思う)。急戦矢倉2枚銀には屋敷流と呼ばれる右金保留の指し方もあり、より過激な攻めを楽しめる。

他にも試せる手順はいろいろあり、崩すなら米長流(9六歩を入れられるので9五角と引かれる心配がない)か阿久津流(後手居玉の状態で仕掛けられる)、着実にポイントを稼ぐなら早囲い(飛車先が伸びていないため咎めにくいが、左美濃系の形からは飛車を振っての急戦もあるので藤井矢倉風にしても面白い)あたりか。どれも有力だが、一気に崩せるわけではない(そりゃあ、田中寅彦プロが採用するくらいだもの、その辺のシロウトが考えたオモシロ作戦のようには潰せませんよ)。右四間は2二角と引かれると(手損にはできるが)仕掛けが厳しいようで、2015年12月21日の第41期棋王戦挑戦者決定戦二番勝負第1局(先手佐藤康光プロ、後手佐藤天彦プロ)で、3一玉+5三銀型の4枚高美濃から2二角と引いて右四間を断念させるという面白い局面があった(後手が突っ張ると潰れるようで、飯塚祐紀プロは実戦でも勝ったそうな)。

嘘矢倉と似たような手順から後手向かい飛車というのもあるが、飛車先を決めていても5六歩さえ突いていなければ振り飛車に主導権はなく、角道を通したまま玉を囲っていけば作戦勝ちできる(理想は銀冠だが角の直射に注意し、7九玉型や米長玉、場合によっては銀冠穴熊も考慮:穴熊にせず玉頭攻めを含みにしているので角交換を7七桂で取るのは損にならず、相手が2筋に振った飛車を睨めるため居飛車から交換して7七に打ち直すのも有効)。先手矢倉右玉に対しては菊水矢倉に受けて隙あらばミレニアムというのが手厚いよう。

横歩の後手番を持ったときはけっこうメンドクサイ。飛車ぶつけを嫌って先手が5二玉型中原囲いにしたときは斉藤流モドキでイケそう。お互い囲った後26手目7四歩に3六歩が素直な展開で、3七桂には2枚替えから7七角打に8七歩の支え、7七桂には香を拾ってから1五角と飛車に当て3七の地点を狙う(飛車が逃げたら馬とか香とか使っていじめる)。先手が3六歩を渋って1六歩と様子を見てきたらさっさと桂を跳ねて突き越させ、9筋を詰めてやれば先手形を崩すか端を受けるかしかなく、2三銀の形での3六歩には飛車先再交換から3五歩を飛車で取って(銀が上がるくらいしかないはずだが間に合わない)戻れば、引き飛車にしても悪くないし飛車と角桂の2枚替えも狙える。2四歩と3四銀を交換してからの3六歩には、飛車先再交換に3五歩としたとき同銀で飛車に当たる(こちらは飛車を切らずに攻められる)。5二玉型は7六の歩を取られたとき受けに回らされるのが欠点なので、効果的に突いていきたい。7手爆弾は同歩同飛から角交換すればよくなるはずではあるが、面倒なら3八金で通常の横歩に合流させてもよい(先手が無視して角交換しても3五角打で不満なし)。5手爆弾は角を先に取ってから3五角、飛車引き角成り角を取られて同飛、2三歩に1二飛と我慢するか8二飛と戻る。

先手番を持っての横歩取り2三歩(12手目に後手が2三歩打で横歩を取らせて筋違い角)には、4五角なら3五飛と当てて角成りに1五角といったん王手してから馬を殺しにかかり、2五角なら飛車を切って金を仕入れ1四歩から角を追い詰めにかかればよい。どちらも3六飛と引いて飛車角交換しても先手十分に指せるし、浮き飛車の相掛かりが嫌いでなければ横歩を取らずに飛車を引いてもよい。ぶっちゃけ普通の先手番横歩の方がずっとメンドクサイので気にしなくてよい。谷川流4五角(横歩を取った後角交換から2八歩と叩いて同銀に4五角)は・・・筆者の場合先手番では5八玉で避けてしまうのでよくわからない。一応、2四飛に2三歩なら7七角以下、8八飛成、8八同角、2四歩、1一角成、3三桂、3六香が定跡手順(3六香に代えて8八飛打から8筋狙いもあるかも)。3三桂を省いて8七銀には7七馬と引いてなんでもない。2四飛に6七角成なら6七同金以下、8八飛成、2一飛成、8九龍、6九歩、5五桂、6八金、6七銀、5八金寄、5八同銀成、5八同金、6七金、5六銀打、7八龍、4八金、2七歩、2七同銀、2八歩、2四桂で先手がよい。

後手ゴキゲン中飛車に丸山ワクチンを指そうとして6手目に5筋を突っ張られてかつ相手が5筋を交換してこない場合(=7六歩、3四歩、2六歩、5四歩、2五歩に5五歩のあと自分だけ飛車先を切った形)、自分が後手で飛車先の伸ばし合いになったとき(5六歩に8四歩と応じて、5四歩、8五歩、5八飛)は、さっさと飛車先を交換していったん浮き飛車にして、さっさと船囲い(右金が最初)を作ってしまうのが無難。浮き飛車するのはただの遅滞作戦で、自分の飛車先はすでに切れているので、ムキになって飛車先を受ける必要はない(相掛かりみたいなもの)。浮き飛車にするのは相手の指し手を制限するため(銀を上げずに角が覗いたら縦歩取りを見せて悪形を強制できる:縦歩を取れない形で覗かれたら飛車を引けばよいだけで、途中下車の分と角覗きで相殺して手損にならない)であって飛車先交換を阻止することではない。もちろん、相手がのんびりしていたら穴熊に組んでしまえば玉形で圧倒できる(相手は飛車先の受けに金を使わないと龍ができるはずだし、銀を1枚も使わないで攻めるというのも、居飛車の横歩と違い重たい形で難しい:つまり2枚囲いにしかできない)。先手番なら十分攻め(角頭を狙うのが無難だが玉頭に出ても一局:飛車は置いておくだけでよくコビンの歩も動かす必要はない)が間に合うし、後手番でも端やら縦歩or横歩やら何かしらできる。

初手1六歩については、1四歩と受けて、7六歩なら3四歩、先手が振り飛車を目指したら相振りに出る(比べると地味ではあるが、相掛かりと似たようなモンなのでそう心配はいらない:先手が居飛車に出ても、持久戦矢倉にさえしなければ後手に損はない(持久戦でない米長流なんかはむしろ得)し、横歩になれば得なはず)のが本筋だと思うが、とりあえず8四歩として2六歩なら先手が手を曲げた相掛かり、代えて7六歩なら普通の四間飛車模様(初手7六歩から、8四歩、1六歩)に合流するだけで後手不満はない。初手7八金については、振り飛車一直線と言いたいところだが、先手銀冠や銀冠穴熊には手損なく組み替えられるので万全とは言いがたい。むしろ相手に向かい飛車がなくなるので、8四8五と歩を連続で突いて7七角を強制し、さらに4筋も突いて角換わりを拒否すると先手右四間くらいしかやることがなくなり、雁木か流れ矢倉に組んでしまえば悪くはならない(7七角を手抜くなら、さっさと飛車先交換すれば相掛かり:先手嘘矢倉の順もあるだろうが、初手に1六歩と突いた意味がなくなる)。どちらも相手の挑発が早すぎる(とくに最序盤の端は突き越せてナンボなので、初手に回す意味がない)ため、平然と8四歩で不満な展開にはならないのである(きっと)。

2手目8六歩にムリヤリ早石田、相矢倉での強引歩交換や強引早囲い、四間飛車一目散穴熊など、相手が悪くはするが中終盤で簡単にひっくり返るもの、筋違い角、陽動振り飛車、横歩2三歩打、新鬼殺しなど知っていれば咎められる形だが相手にも反発があるもの、端角中飛車、先手向かい飛車、横歩取らずなどマイナーなだけで明確に咎められるわけではないものと、一口に「変な序盤」とは言ってもレベルの差がかなりあるため、まずは咎めに行った方がいいのかどうか、つぎに咎めたとしてどういう構想で勝ち切るのかを考え、最終的には寄せ合いを制して玉を詰ませないと勝ちにはならない。総矢倉、相銀冠、同型角換わりなどから先手が専守防衛するものについては、後手は千日手で満足しないとどうにもならない(多分)が、玉形でさえ勝っていれば無理に手を作ろうとしなくてもよいことがけっこうある(渡辺明プロが「(玉形で勝る場合)やってるうちに手ってのは作れちゃうことが多い」とコメントしている通り)。

先手番で後手に専守防衛されたとき、千日手にしかならない順にハマってしまったらそれは仕方ない(強引な打開は避けるのが賢明)。とくに角換わりでは、後手番にとっていかに打開できない形に引き込むかが大きな争点になる。たんに攻め味を放棄して守ろうとしているなら早めの仕掛けが効果的で、金銀が遅れて支えがきかない、陣形が低すぎて反発力がない、浮き駒や遊び駒があるなど、なにかしら欠点はあるはず。受けに万全はないというか、どこかを受ければ必ずどこかが付け込みどころになるはず。

上図は筆者の研究譜だが、こんな格好でも後(右)の局面をソフトに解析させると1500点くらい先手がよい(2枚落ちに近いくらいの差)。先手がよいのはもちろん手番を握っているからで、同じ局面で手番が後手なら相当悪いのではあるが、相手だけ陣形が崩れているときに戦いが始まってしまえば、自分が間違えない限り差が(広がることはあっても)詰まることはない(変則戦法に対して、すぐに開戦できる棒銀が有効であるのもそのため)。こちとらあの悪夢のように遠い美濃囲いを相手に船囲いで急戦をやっているのだから、半端な形を咎めたときにはキッチリ攻め潰してしまいたい。





方針を立てる手がかり

互角の選択肢が複数ある中から自分の意図で形を作っていく序盤、手が狭くなり読みに従って正しい着手を選択する終盤の間に位置する中盤では、形勢判断を元に形で指す局面と具体的な読みに従って損得を考慮する局面が入り混じり、その両方が求められることも珍しくない。形勢判断でよく言われるのは、駒の損得(駒割)、駒の働き(駒効率)、玉の堅さ(玉形)、手番の4要素で、それぞれが単独で評価されるのではなく、着手によってそれらすべてが複合的に変化し得る。

たとえば駒の価値について「銀を10点とすると歩1.5~2、香6~7、桂6~8、銀10、金12、角15.5~16、飛18~24点くらいになる」という原則を先に紹介したが、同時に「どうすれば好形で角を切れるか」が攻めのポイントになるという話もすでに述べている。これらは矛盾するわけではなく、たとえば角金交換をすることで、相手の守り駒を剥がしたり(玉形)、大駒の利きを逸らしたり(駒効率)、取った金を先制で打ったり(手番)というメリットがあるなら、駒割での損を回収してプラスまで持っていける場合がある、ということである(好形で切るというのは、駒割以外のメリットが大きい状態で切ることと同義)。

駒効率について、大駒の安定度や利きが重要なのはいうまでもないが、居飛車の将棋では少し偏った考え方をすることがある。すでに触れた飛車は置いてあるだけでかなり利いているという考えのほかに、右の桂香も「拾われない(または相手より先に拾う)だけで十分お得(対向形の居飛穴など)」「相手がなにかしたら前に出られることが重要(浮き飛車にしたときなど)」「最初から取らせるつもりで時間稼ぎ(横歩後手番など)」といった具合に状況で扱いが大きく変わる(もちろん、捌いて攻めが成立するならそれに越したことはない)。また駒交換をしたときに、駒割の上では損でも駒効率の面で得という場合もあり得る(とくに横歩の序盤で飛車角交換や飛車金交換をするような例が典型的:同時に相手の玉形も乱せていると理想的)。

俗に言う捌きとか駒効率を上げる指し方というのは、実は「好形を残し悪形を解消する」ことと表裏一体である。つまり、すでに働いている駒ではなく現状の働きが弱い駒を動かして(あるいはその駒の働きを損っている敵味方の駒に働きかけて)、全体の効率を上げるのが基本方針になる。働かせるまでにあまりに手数がかかるようだと1手の価値という観点で問題がある(相対的に、相手に劣らないペースでポイントを稼ぐ必要がある)ため、少ない手数で駒を働かせる工夫を最初から織り込んでおく必要がある。この「少ない手数で」の部分がいわゆる捌きの軽さで、凝り形というのは「駒を活躍させるために必要な手数が過大な状態」と言い換えることができよう。働いていない駒を動かすという一見ゆっくりとした指し方が、実はスピード重視であることに注意が必要(いわゆる「重厚な攻め」にも似たような事情があって、トレードオフをゼロにはできないが、手厚さ実現のために必要となる速度面の犠牲をいかに小さくするかが重要:もちろん反対に、軽い攻めであればいかに切らされないかが最大のポイントになる)。

玉形を評価するときは攻撃の形にも注目しなければならない。将棋は互いに1手づつしか指せないルールであり、守備に手をかければ攻撃は遅れるはずで、鉄壁の防御と超高速の攻めみたいな組み合わせは普通出現しない(もし出現したとしたらすでに作戦負け:藤井システム出現前の居飛穴がまさにこれだった)。基本的には、遠くて脆い囲いで速い攻めを狙うか、耐久力のある囲いでじっくり攻めるか、どちらかのパターンになる。このとき、もし片方に欠陥があると、たとえば遠くて脆い囲いなのに攻めが遅い(じっくり攻めれば崩せる)とか、攻めは速そうだが玉が近い(殴り合いに持ち込めば勝てる)とか、囲いはしっかりしているが攻め味がない(相手より堅くするか押さえ込むかチョーゆっくり攻める)とか、付け込みどころができる。いわゆる急戦の類は「まだ玉が不安定or攻めの準備ができていない」瞬間に自分だけ(簡易に)囲いと攻めの準備を終わらせて仕掛ける戦略といえる。とくに、相手にまったく攻め味がない場合に、ただ歩を切るだけの手で優勢を築けるような局面は、盲点になりやすいので注意しておきたい(同型角換わり相腰掛銀の富岡流に入る直前の仕掛けなんかは、それを体系だった定跡にしたものだといえる:連続突き捨てに限らず、あちこちの筋で歩交換するのが有効なこともある)。

手番の評価は一定でなく、相手に指させた方が得なこともあれば、先に指す方が勝ちみたいな局面もあるが、基本的には自分が手番を握っている方が有利なことが多い(手得手損とも共通する)。将棋のルール上、素朴な意味での「手番」は必ず交互に回ってくるが、ここでいう手番を握るというのは、相手の応手を(ほとんどの場合は受けの手に)限定させたままゲームを進められることをいう。その手番を強引に奪うのが「手抜き」で、相手よりも速い攻めを仕込めていれば手抜ける局面が増えるし、持ち駒を消費することで手抜けない状況を作る(飛頭への継ぎ歩とか)こともある。手番を握るための指し手としてもっとも強力なのが王手で、ルール上絶対に手抜けない(受ける手以外は指せない:攻防手があれば、受けながら攻めることができないではない)。手番を握り続けるためにどれだけの出費をして釣り合うか、というのは状況の緊迫度に比例し、終盤の競った局面では大駒をタダ捨てしてでも手番を渡さないのが有効なこともある。

相手に「手を戻す」(手番を握らせる)のが有効な場面にはいくつかの典型例がある。たとえば、後出しジャンケンが可能な場合(序盤に多く「~の行き先を聞いてから(指す)」とか「相手に玉形を決めさせてから(指す)」といった言い方をする:歩で叩くなどして強制的に行き先を白状させる=手番を握ったままでの様子見もあり得る)、手番を渡す手が手番以外の要素で大きく得な場合(囲いの手入れとか大駒を安定させる手とか)、相手に有効手がない場合(押さえ込みに成功したときとか、相手がすでに理想形に組んでいる場合とか)、といったものが挙げられる。いづれにしても、相手と自分に有効手がどの程度あり、またそれぞれの指し手で相手の応手をどの程度限定できるのか、という判断が重要になる。

手番を使えば玉形を整備できるし、駒損して(持ち駒を消費して)手得することもできるし、盤上の駒を捌く(効率化する)のにも駒台の駒を打つのにも手番を使うわけだから、手番を形勢要素の「共通通貨」に見立てることが可能で、将棋ソフトが形勢要素を線形和で把握して破綻しないのはそのためだという説明も見たことがある。すでに触れたようにこの通貨はデフレインフレがとても激しいのだが、人間にとっても、ある局面で駒割・駒効率・玉形・手番がどのような序列で影響を持っているか、評価する手がかりにはなると思う。


損得とか効率とか

攻めには駒損がつきものである。駒得しながら攻められるならラクな話だが、それは序盤ですでに作戦勝ちしているだけであって、互角程度の棋力ならそんなことには滅多にならない。駒割互角で捌き合って玉形なり手番なりを主張にして攻める局面も作戦勝ちに近く、互角の序盤から攻め込もうと思ったらはやり駒損は避けられない。駒損して攻めるとなると心配なのはやはり攻めが切れることで、囲いをバラバラにするとか、相手玉を狭くするとか、安定した拠点を残すとか、なにかしらの主張ができる場所に駒を進めたい(そしてこの「中盤の主張」につながるように「序盤の主張」を作りたい)。安定した拠点を残せるかどうかはかなり重要で、捌き合った駒の打ち直しで刈り取られる失敗に注意したい(とくに玉や大駒と拠点の両取りがあり得る場合は、事前に対策が必要)。拠点を払ったあとの相手陣の隙にまで注意を配れたら理想的だろう。

このとき考慮すべきなのはまず相手の陣形で、捌き合って駒の打ち所があるかどうかと、手待ち(または手入れや反撃)の余地があるかどうかがとくに重要。争点を作れそうな場所と浮かせられそうな駒、桂角銀玉の頭を叩いたときの形、端の受けなども確認しておきたい。自陣の組み立てとしては、大駒の利きと広さと安定度(飛車に銀とか、角に金とか、大駒に桂を当ててどかす手などを考慮)、捌き合って一気に負けない堅さがあるかどうか、渡して困る駒(とくに桂銀角飛車で両取りにされる形)はないかなどだろう。ただ、両取りや大駒が詰む状況を過剰に恐れるのも考え物で、これは半分自戒のために言うのだが、中盤を真っ直ぐに指せば相手玉は真っ直ぐに寄る。反対に、変に色気を出してクネっとしたことをやると終盤がグズグズになってしまう。筋道を立てて指し回すことが大切なのだと思う(コンピュータは全幅検索できるからお構いなしだが、人間の場合「こういう棋理に従ってこう寄せたからこういう詰みがあるはずだ」という情報を手がかりにしないと、終盤で読める深さが段違いになってしまう:もちろん意外な手を発見する力も重要だが、中盤からの筋道を繋げることで、本筋の検討にかかる時間がかなり短縮できる)。

相手の陣形を崩してスパっと攻め切るパターンも、とくに角交換系の将棋で重要だが、手厚く攻める場合は駒損を取り戻す必要がある。そのためには、安い駒を相手の高い駒と交換するか、成駒を作るのが手っ取り早い。前者はまあ普通の考えで、銀桂交換されてもフンドシ打ちで守りの金と交換できるなら(すぐに指すべきかどうかは別として)お得である。後者もまあ当然といえば当然で、銀をタダ取りされても好所にと金を作れれば損はしない(仮想駒割は相手が金2銀3の自分が金3銀1だが、と金を銀とでも交換できればイーブンに戻り、相手の囲いを剥がした分と銀を取った駒が拠点になる分の得が残る)。

攻めるにも守るにも、持ち歩があって打てるということは非常に有利なことなので、いかに持ち歩を確保して有効に歩を切るか、いかに相手を歩切れにしたり歩を取り残すか、ということが重要になる。低い位置で歩を突き捨てるとそのまま相手の拠点になってしまうわけで、押し上げが必要になるとともに拠点を払いながら(歩交換の形で)駒を進められる工夫や、低い位置(とくに跳ねていない桂頭とか)に歩を打たれたときにどう対応するかも考慮しておきたい。玉に近いところに位を取られている筋があると、何もないところで突き捨てられた歩を取らざるを得ず、手番を握ったまま歩を切られる可能性があるので注意したい(反対に、相手玉に近い筋の位を取れれば攻守で有利になる)。

相手の攻めを凌いでの反撃は、自玉の囲いが乱れているので、手入れの必要性との相談になる。キッチリ受け切ってから攻めるべきか、すぐにでも反撃すべきか、慎重に判断したい。


3手の読みを目指して

将棋では「3手の読み」すなわち「自分がこう指すと相手がこう指すから続けてこう指す」という想定が基本にして奥義であると言われる。言われるのだが、ぶっちゃけこれはとんでもなく難しい。そこで、3手の読みにできるだけ近付けるような読み方を模索してみたい。

筆者が採用しているやり方は、いわゆる「全手読み」である。もちろんこれは、長手数になると組み合わせ数が爆発的に増えて収集がつかなくなる。持ち駒がなく飛び駒の利きが止まっている初手でさえ30通り、最多で593通り、平均分岐数は「ゲームとしての将棋のいくつかの性質について」(松原 仁、半田 剣一)によると「80前後(母集団の取り方によって90程度から70程度までばらつきがある)」らしい。ここでは仕掛けてor仕掛けられて数手先の「さてどうしましょう」という難しい局面を想定して、分岐数が100程度あるとしておこう。ぶっちゃけ3手先まで読んで百万通りとか言われても、普通の人間にはきっとムリである。

そこで「1手の読み」に限定して、まずは相手の駒から全手読みをする(手番は自分の前提)。これはようするに「相手が2手指しできたとしたら何が有効手か」のチェックで、場面の緊急度というか、手抜けない受けや切らされそうな攻めがどこにあるのか、転戦のチャンスや仕掛けの権利や有効な手入れが相手にあるかどうか、などを把握するための作業である。できれば質駒も「すでに相手の駒台にある」想定で読んでおきたい。ここまではウォーミングアップというか、頭の中を整理するための準備なので、状況を眺めるつもりでサラっと流す。

準備ができたら今度は自分の手。筆者の場合安い駒から順に考えることにしていて、歩の進める先or打てる場所~玉の動ける場所までをひとまず羅列する。コツは先を読まないことで、あくまでも「1手動かした場面」にどんなものがあり得るかチェックするだけに留める。これだけでもけっこうな御利益があり、遊び駒だとか動く(動かされる)とまずい駒の把握ができたり、動きたいところがあるのに動けない理由が見えたりする。さらに、相手が2手指しになる完全パス(引いた飛車を無意味に戻すとか)から、ルール上必ず受けなければならない王手まで、0から1でも0%から100%でもよいので、相手の「手抜けなさ」をざっくりと想定しておくとよい。もっともっと余裕があれば、全部の駒について2手指し(組み合わせが膨大になるので1つの駒を2回動かすパターンだけでよい)も読んでおけば理想的(隠れた狙い筋を発見する助けになる)。

さて、自分が可能な指し手からお話にならない手を除外すると、難しい局面でもせいぜい10通りくらい(普通の場面なら5通りくらい)の動きしか出てこないはずである。それぞれについて、時間があるならまた全手読みをすればよいのかもしれないが、アマチュアの将棋だと厳しいことが多いと思う。そこで「直接対抗する手」「狙いを外す手」「変化を利用する手」の3通りに分けて応手を考えてみる。たとえば歩の突き捨てなら、取る手や争点の利きを足す手が直接対抗、かわしたり取り込ませたりするのが狙い外し、歩が動いたことにより可能になった別の動きが変化利用で、3種類のうちどれかができない場合もあるが、多少不自然でもできるだけ全部揃うように考える(多いのは問題なく、たとえば突き捨てた歩を取る候補が複数ある場合などは、絞り込まないでおく)。なお「変化」には、駒を打って持ち駒が減ることも含む。

ここまで読みを進めて「これはムリだろう」という手を除外すると、2手進んだ局面としてせいぜい10通りくらいのパターンが想定できるはずである。それぞれについて「指したい3手目がある順」に並べていく。可能であるかや有効であるかを問題にせず、純粋に指したいかどうかだけでよい(それではあまりにも主観的すぎるというなら、自分の「主張」が生きそうな手だと考えてもよい:玉が堅いとか位を取っているとか、有利になる要素という意味での主張)。

すでに「有望な手」の目星はついたので「1手目の候補を3手目に回す」パターンを考えてみる。つまり、有望手があるなら先に何かしてから指した方が得ではないかor手番を握ったまま有望手を複数指してしまえないかという検証である。とくに、相手の対応が限られる手(交換になる手)を先に指せないか、相手の有力な応手を妨害する手はないかなど、ここまでに読んだ内容を有効活用できるような指し方を考える。王手や詰めろ(中盤でも一時的な詰めろが生じることはけっこうある)、大駒に当てる手などは受け方が限定されやすい。もちろん、3手目に回さずすぐに指した方がよいケースもあるので、そのパターンについては相手の応手に対してどう指すか吟味しておく。

こうやって「3手の読み」が数通り出てきたら、自分の1手目に対する相手の2手目を全手読みして、本当にそうなる順なのかどうか確認する。候補が全滅したら候補手の選定に戻ってやり直し、候補が残ったら3手目を指し終わった形を考える。相手の応手を3種読みか全手読みで検証し「本当に指せる3手目なのかどうか」をチェックする。ここまで進めてもまだ有望な順が複数残っている場合は、それだけ手が広く難解な局面だということで、素人が継ぎ盤もなしに読み切るのは不可能な状況である。自分の好みやポリシー(駒が前に出る方を選ぶとか、持ち歩が増える順を選ぶとか)で決めてしまうのが妥当だろう。

難しくなった局面でしっかりと読みを入れておけば、その先はある程度見通しを持って指し進めることができ、時間の消費効率もよい。常に「2手指したところまでは想定済み」の状況で、3手目とその応手を読みながら先を続けられれば、目の前の局面だけ見ているのに比べ1手先を読んでいることになる。あとは時間をかけて読みを入れる局面の選択というか、ここでしっかり読んでおかないと悪くするぞという場面を見逃さないセンスを磨かなくてはならないのだが、場数を踏む以外にどうしようもなく、これがもっとも難しかったりする。


攻めのレパートリーを増やす

下図は筆者の実戦譜で、後手1手損角換わりから力戦矢倉のような格好になり、銀を捌いて端でと金を作ったところ。後手は手損が響いて攻め味を作れず、唯一駒が前に進んでいる1筋で反発しようとしている。

答えを先に言えば、最善手は2一銀打なのだが、これが(偶然でなしに)見えるためにはいくつかの前提が必要になる。まず、先手玉は薄いが一気に攻め崩される心配は当面ないこと、角と銀を持っており6一や7一への角打がいつでもあり得ること、と金の利きで(いつ打つかは別として)2一に駒が打てること、先手飛車はコビンのラインがしっかりしてそう不安定ではないこと、先手の攻めは飛車の圧力を根幹としていることなどである。

考えられる候補手としては、2一銀打の他に、6一角打、1二と、2一角打あたりだろうか(守りに手をかける必要はない)。筆者は実戦で1二とを選択し(攻め損なって負け)たのだが、優勢を失う手ではないものの、遅いし非効率である。こういう場面で指し手を吟味するなら「飛車を捌いたら勝ちだろう」という見当から出発するのがよい。そうすると、相手の駒をできるだけ「下に引っ張る」のが有効で、また後手の飛車は守りに利いているが、3二の金を取って同飛などとすると、4三の金の紐が切れる(玉で取れば切れない)うえに、2三飛成と当てられて困る(取り合いになると先手も安泰ではないが、打たれてから3九金でひとまず時間を稼げるのに対し、後手はほとんど裸玉になる)。もちろん、飛車が捌けて龍でもできれば言うことはないのだが、相手がそれを阻止しなければならないことで指し手に制限が生じていることに注目したい。

2一銀打に2二金などと逃げると、今度こそ1二とでお手上げになるので、2四銀打と守るくらいだろうか。飛車先を受け止めて端にも利きができ、しっかりしたように見えるが実は、やはり1二とで先手調子がよい。というより、後手には下図からの指し手がないのである。

今更の8四歩では3二銀成同飛に6一角打、3二銀成同玉に2一角打でにっちもさっちもいかない。ムリヤリ5筋を狙おうにも5二飛には6一角打があるし、黙って3二銀成でも厳しい。だからといって金を逃げれば1三とから飛車成や角打が見えるし、玉が逃げても3二銀成に同飛とできず(同飛だと21角打が厳しく、2四飛と切られて同歩に2三角打もほとんど寄りに近い)単なる手損になる。仕方なく1六歩成としても、桂得はできるものの端がさらにキツくなる。

別の例を挙げよう。下図も筆者の実戦譜で力戦矢倉、後手は左美濃で受けたが潰れて、1二銀打と粘ったところ。実戦は2四歩(これ自体はそう悪い手ではない)と攻め潰しにこだわって逆転された(そんなんばっかり)のだが、よく見るとそんなに頑張る必要はない。

正着は3三歩打で、同銀なら2三銀成から龍が(いったん引かされるけど)できて先手満足、同角なら同銀成同銀で殴り合い再開(7一角打があるので3五角と出る手に4四銀と当てても受けにならない)、同桂なら角道が止まって3五角に4二金、と見事な焦点の歩なのだが、ポイントはやはり3三歩打、同桂、3五角、4二金と進んで先手どうするの、というところだろう。

5四歩から5五歩と取り込んで金をどかし、7一角成と馬を作りたいのだが、何もないところで5四歩としても4四歩打でなんでもない。5三角成と切る手も3八飛や5八飛と回る手も、相手がいそがしくないと成立しない。

ではどうするかというと、相手が攻めるまで、7九玉とか5二金などで待つのが最善である。後手も攻めればカウンターがあるのはわかるだろうが、なにしろ動かせる駒が少なく、それでも手待ちを続けるなら固めてしまえばよい(ただし入城は慎重に)ため、結局は先手勝ちやすい局面といえるだろう。しかしやはり、ここまで攻めたなら積極的に指したいのが人情で、その場合は6六銀、6五歩、同銀、6四歩打、5四銀と銀をタダ捨てしての強襲がほぼ唯一の攻め筋になりそう。攻めとしては成立しているようでソフト(にこういう将棋を指させると尋常でなく強い)も先手よしの評価だが、桂香を拾えるとはいえ、この後4四金で3三銀成と交換させられるため駒損(桂桂香と銀2枚)で、薄氷を踏む展開になる。先手が攻め倒すというよりは、互いに無理攻めせざるを得ない状況に引きずり込んで、後手の陣形を負担にさせるようなイメージ。

筆者が間違えた実戦譜をもうひとつ。後手1手損角換わりに棒銀を捌いて飛車を引き、4三歩と一見違和感のある手を指されたところ。一方的に銀を捌いたのだから先手がよいのは間違いないが、手がかりを持って攻めを組み立てないと失敗する(というか失敗した)。

正着は6六銀。後手いまさら8五歩と突いても5五銀が速く、4三銀と受ければ1五銀(無理に押さなくても、2四あたりまで進めて置いておくだけで、後手を「指したくないけど1手パスはできない」状態に追い込める)、3三銀と受ければ7七角(端を詰め合っていないので、将来8一の桂を抜いて9五角と出る味もある)で攻めが繋がる。これもやはり後手陣の偏り(すぐに潰れる攻めは消しているが攻め味がなく、支えられない歩を押し上げてしまっている)を利用した指し方といえる。


形勢を仮説で考える

前の項で「棒銀を一方的に捌いたのだから先手がいいはず」という論法の説明をしたが、これなんかは形勢判断仮説の好例だろう。コンピュータなら(普通は)評価関数で形勢を評価するが、人間の場合は「このような主張が通った(小目標を達成した)から優勢に違いない」>「主張を活かすにはどういう戦術(手段)がありえるか」>「(個々の戦術について)具体的にはこう指す」>「ありえる順を比較検討した結果この着手で優勢になるor具体的な順を考えると意外と優勢でなかった」という具合に、仮説立てと検証の手続きで形勢を判断するのが普通だと思う(多分)。

これは終盤の読みでも同様で「こういう形になったらorこういう条件がそろったら寄るはずだ」「こういう形になったから詰みがあるはずだ」といった考え方をすると、手当たり次第に具体的な順を検討するよりもずっと効率がよい(きっと)。

仮説を立てるにはある程度のセオリーというか経験則というか、既知の類型や部分型から類推する力が必要になる。いわゆる勝ちパターン的なもの(相手が攻めてきた>カウンターか押さえ込みか切らし勝ちか、相手が守った>重厚攻めか囲い進展か仕掛けて繋ぐか、みたいな判断)も心得ておかなければならない。これらに、お互いが避けなければならない筋や手抜けない応手なんかを加味して、展開の筋道を読んでいくことになる。


受けの種類を意識する

受けには、好形を未然に防ぐもの(利き先への利かせとか打ちたいところへの駒打ちとか)、相手の攻めを遅くするもの(底歩とか飛車のソッポ逃げとか)、争点をずらして攻めを成立させないもの(行き違いとか歩の突き捨て打ち直しとか)、数を足して拠点を消費させるもの(歩の支えとか紐付けとか)、攻め駒を攻めるもの(両取りとか紐のない駒への当たりとか)、単純に玉を逃がすor固めるもの(早逃げとか金締まりとか)などがあり、目的によって使い分けなければならない。

基準になるのはやはり速度計算で、1手かけることで相手を2手以上遅くできなければ受ける意味がない(受けがないということなので攻めた方がよい:いわゆる1手1手の状態)。さらに重要なのは受けない方が遅くなる場面で面倒を見てしまわないことで、自分についても相手についても、指して得になる手が(争点の周辺とそれ以外の両方について)どれだけあるかということを、常に意識しなければならない。2枚落ち2歩突っ切りの角頭金攻めのように、受けようと思えば受けられるが、受けないメリットが勝るような形もある。理想をいえば、自分が指して得になる手が多く残るように、相手が指して得になる手が残らないように序盤を組み立てられるとなおよい。

重い攻めは軽く受け、軽い攻めは重く受けるという基本方針もある。見方を変えれば、重い攻めは届きにくく軽い攻めは切れやすいということでもあるのだろうし、重い攻めを清算したり軽い攻めを繋いだりするのが攻めの技術だともいえるのだろう。さらにいえば、重い攻めは捌かせず、軽い攻めは力を溜めさせないのが受けの注意点になり得る。


トレーニングとしての詰将棋

詰将棋は指将棋のトレーニングになる。が、詰将棋で習得すべきスキルは玉の詰ませ方ではなく、中盤の正確性だろうと思う。もちろん、終盤の手筋とか作ってはいけない形なんかを学習する効果はあるし、詰みが見える見えないは勝敗に直結する要素ではあるのだが、ぶっちゃけ詰将棋みたいな終盤が実戦に出てくるのは稀だし、アマチュアの将棋で終盤に10分も残せていることはそうめったにない。そもそも、詰むや詰まざるやの終盤自体、そうしょっちゅう現れるものでもなかったりする(よほどの空中戦好きでなければ、大勢が決してから詰ましに行くことの方が多いと思う)。増田康宏プロも「詰将棋、意味ないです」「実戦に出てきませんから、詰将棋は。それなら実戦に出てきた詰み筋を学んだほうがためになります」という旨の発言をしている。

詰将棋をトレーニングとして見ると、頭の中で駒を動かす習練の意味がやはり大きい。着手の前に本当にそれで指せるか確認するとか、別の手はないかと常に考えるといった習慣を身に付けることにもつながる。ようするに将棋を指す上での基礎体力的な部分を強化するトレーニングになる。これが成果として現れやすいのは終盤よりもむしろ中盤で、数手先にあり得るパターンが正確に見えていれば、戦略もぐっと立てやすくなるはずである(そういう筆者はごく稀に気が向いたときくらいしか詰将棋を解かないのだが、だから中盤が不正確なんだろうということは自覚している:たまに練習しているときは「ああ、これができれば指しやすいんだな」と、普段怠けている分差がわかりやすいのかけっこう自覚できたりもするのだが、スポーツの練習なんかと同じで怠けるとすぐ元に戻ってしまう)。

それから、これは人に言われたことで筆者はちゃんと理解していないのだが、手の見え方のムラみたいなものをなくすのにも役立つらしい。筆者は、他人の将棋を見ているときや感想戦のときの方が手が見えやすいタチで、自分が指している最中は視野が狭くなっている(あるいはムキになっている)ことが多いのだが、詰将棋を普段からやっていると、自然体で指しやすくなるそうだ。というわけで、中盤が苦手な人は詰将棋でのトレーニングも試してみて欲しい(と自分を棚に上げてオススメしておく)。

・・・とまあ中盤のトレーニングとしての効果を強調はしたのだが、筆者とっておきの実戦詰め将棋があるので、余談までに紹介しておきたい。コンピュータを使った検討をしていると、劣勢の側がとにかく即詰みだけは避けながら逃げ回るため、それでも見落とした詰みというのはたいてい複雑で手数が長い。

後手の持駒:歩 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
| ・ ・ ・v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ 銀v銀v玉 ・|二
| ・v歩 馬 ・ と ・ ・v歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 桂v金v馬 ・ ・ ・ 歩|七
| ・ 玉 飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ 銀 ・ ・v龍 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:金 銀 桂 香 歩三 
手数=74 まで
これは筆者の実戦譜に手を入れて検討を進めた局面で、先手の銀打に後手玉が逃げたところ。もちろん、詰将棋なのだから即詰みがあって22玉は悪手で、詰むのがわかっていれば高段者なら普通に進めながら詰みまで到達できるのかもしれないが、余詰みがやたら多く、最短手数で詰ますのはとんでもなく難しそう(というか、実戦詰め将棋の場合最短手数であることにあまり意味がないし、人間が確認するのは非常に困難なので、詰まし切りさえすればそれでよしとするか、強いソフトに受け側を持たせてとにかく勝ち切ればよしくらいの目標で挑戦するとよさそう:普通にソフトに指させるとすぐ投了してしまうので、読み筋を隠したうえで検討モードを使うのがいいと思う)。
後手の持駒:飛 金 銀 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・ ・|一
| ・ ・ ・ と ・ ・v玉 ・ ・|二
|v歩 ・ ・ ・ ・v金 ・v歩 ・|三
| ・v飛 ・v歩v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・v歩vと ・ ・ ・ ・ ・ 香|五
| ・ ・ ・ ・ 金 歩 ・ ・ 玉|六
| 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ 桂 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v銀 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 銀 ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手の持駒:角二 銀 桂三 香 歩四 
手数=84 まで
こちらは観戦した将棋を途中からソフトに指し継がせた検討譜で、後手が先手玉頭を叩いて2二銀不成と飛車を取った局面。手数も長く余詰みもないようで、けっこうキレイに詰み上がる。雰囲気的には、実戦詰め将棋というより普通の詰め将棋に近いような気もする。このほか、筆者とっておきの次の一手問題を別ページにまとめたので、、興味のある方は挑戦してみて欲しい。





終盤の入り口

図は筆者の実戦譜に少し手を入れ先手をコンピュータに指し継がせたもので、力戦矢倉から先手の棒銀を防ぎ、後手(筆者)が端の揉み合いを制圧、飛車角交換をして先手が3九金と下がって手入れをしたところ(後手の手番:左上に三角があるのが直前に動いた駒)である。

こういう場面でキチンと戦略を立ててから戦術を検討できると、攻めの効率がぐっと上がる。いわゆる「次の一手」を考えてみたい。中盤の主張のうち何が通って何が通らなかったのか、相手の応手で新しく生まれた攻め筋はないか、自玉はどのくらいもつかなどを意識できるとよい。

まずは状況を整理する。後手陣まだ無事だが打ち直しの歩と壁銀で玉が狭くなったカニ囲いで、飛車を渡すと一気に苦しくなる。8五の桂は後手の生命線で、これを素抜かれると攻めがなし崩しになりそう。先手の3九金はいかにもコンピュータらしい手で、目先の飛打はとりあえず受かっている。青い×印が望みの薄そうなところ。5九飛打は先手角をどかす手段が(多分)なく実現が厳しそう、3六飛打は1三角打と守りに使われるとぴったり受かり手詰まりになる。有力そうな順は、2七に飛打、桂先(7七)に銀を打ち桂損しながら1手得で剥がす、端を破って飛打から寄せる、といったところか。

2七飛打は悪くはならない模様。3七歩打と受けられて2五飛成と棒銀の残骸を追い回し切らし勝ちを狙う作戦で、シンドそうな割にひとつ間違うと一気に負けそうなのが難点。捌き合いの順は、7七銀打を取らせて、桂で取り返しさらに取り返されたところに桂を打ち直すという順で、盤上と駒台にある2枚の桂で金と銀を剥がし玉頭に角が乗る形が残る。実はこれは無理筋で、途中で思い直せばまだ優勢だが遅くなり、清算し切ってしまうと寄らずに角金銀桂2と持たれるハメになる。

残るは端を起点にした寄せの順だが、ここで速度計算をしておかなければならない。先手の妨害はおそらく、後手が1手指す、7三角打、8三飛、6四角成、後手が1手指す、7四馬で飛桂両取りをかける、というのがもっとも速く、先手が2回手抜く間に寄り筋に入れてしまえば後手勝ち。そうするとこれはもう、9六歩と9七歩成以外にないわけで、ようするにこんな形で先手玉に必至なり厳しい詰めろがかけられるかどうかが問題。

正解を先に言うと5八銀打で必至がかかり、桂を素抜かれようと飛車を素抜かれようと後手が勝つ(9二の香が利いているのと、先手間駒ができないのが響く)。先手玉を討ち取るには8八飛打がもっとも安直な読み筋で、そのとき困るのが6九玉から逃げ出されることなので、進路を塞いでおくわけである。この1間空けた縛りの銀はたまに出てくる手筋で、置き金と同様玉を狭くする効果が高い。

では先手玉本当に必至なのかと考えると、5八の銀は取れないし、7九角と引く手も6九飛打で受けなし。残るは、玉が下段に逃げて6九飛打からと金で送られ9九飛成とした場面で千日手(連続王手なので反則負けになる)を打開できればよい。

実際には9六桂打から9手でぴったりの詰みがある(詰むとしたら桂打しかなく、分岐手順も少ないため、龍を作るところまで読める人なら読めると思う)。即詰みがあるからにはそれが最善手なのは間違いないが、先手陣角と銀の連携が悪く、玉を8八に送ってから6七銀成と金を取りながらで打開しても必至で後手勝ち。先手の受けとして、5二馬と金を取る手が王手になるため、交換して受けに打つ順が気になるが、先手攻めが完切れになり、受けも一手一手。もちろん、こうやって考えてみてもし相手の方が速いのであれば、後手も受けの手を用意しなければならない。

最後に(最初にじゃないよ)、局面を戻して先手が受けた場合に受け切れるのかどうかを確認する。ひとまず9六歩は先に指せるのだから、この図で受けがなければ端から攻めて後手勝ち、酷い受けしかなければ勝勢である。まず端が受からない(と金に攻められるか成香に攻められるかの違いにしかならない)ことを確認しておこう。

7九角と引いての脱出は、5八飛打を防げないため一目散に逃げるしかなく、逃げても7八銀と打たれてバラバラになる。6九玉と逃げ出す手は、飛車打ちは受かるもののと金が迫ってくると玉が離脱せざるを得ず、結局7八銀を打たれる。5七金と開く手はどうやっても間に合わず7九角や6九玉のときと大差なし、9八歩打と受けても素直に端で殴り合えば9九飛打で3九金が負担になる。

端からの突破を狙ったときの読みとしては、先手受けるしかなく後手勝勢ということのようだ。

よくなるのがわかったので攻め込んでもよいのだが、先手玉さえ動かせば6九飛打というのもあるわけで、8八歩打の変化も検討しておいた方がよい。先手同玉というのは一気に崩れるので7三角打から冒頭の2手空きで飛車を追うことになる。つまり下図の形で後手の手番。

後手がよいのは間違いないだろうが、じゃあ端から攻めるのとどっちがいいのということになる。8八飛打とすれば、6九玉、7八銀打、5八玉、6七銀成、6七同玉、8七龍、7七銀打、7七同桂、7七同銀まで、長いがほぼ一本道で進むはず。

8五桂打の打ち直しも7九銀打もあるところでどちらも厳しい。あとは、端から攻めて7八銀の場合も含めて3パターンのうち、どれがもっとも紛れにくいかということを検討すればよい。調べたところ最後の図から8五桂打が最善手のようで、飛車を取らせても馬と桂を交換させても馬と金を交換させても寄りだが、端から攻めても勝勢には違いないので、自信がある方を選べばよい。

苦し紛れの受けや無理な組み換えをした囲いは、このようにいったん手がつくと一気に崩壊することが多く、急所がないかどうか探してみる価値が大いにある。とくにコンピュータに(短い時間で)指させた場合、目先だけの都合で不用意に駒を動かすためドツボにハマる崩れ方をすることがある。これらの欠陥を見抜くには、まず守りの勉強をすることだと思う。そして守りを勉強するうえで最も効率的なのは、下手な受け方をして攻め潰される経験を積むことだろう。玉が半端に近い状態で端を破られると苦しいこと、「動けない駒」を増やすと崩れ始めたときに止まらないこと、玉も受けに参加しないと数が足りなくなるが王手がかかる形は負担になること、壁形は攻められてからでは解消しにくいこと、金銀を連結させて使わないと受けが利きにくくなることなどに注意したい。なに筆者?なにも考えずに桂損剥がしを最後までやって、5八飛打を6八銀打で受けられてから気づいたよ!(悪形は触れるなとか遊び駒は遊ばせておけというのは本当で、清算してしまうと悪形もチャラになってしまう:相手が忙しくなってから一気に咎めよう)

話が長くなったが、冒頭の局面は、と金を拠点にするか端から攻めるのが正着ということになる。


最終盤はセオリーから

最終盤は手筋を覚えないと速度が出ない。とくに重要なのは、