ギリシア インド・ヨーロッパ語族、ヘレニック語派(ヘレン語派) カオス(空隙) エレボス(幽冥)とニュクス(夜) ヘーメラー(昼光)とアイテール(上天の大気)とカローン(冥府の渡し守) ガイア(地) ウーラノス(天)とポントス(海) タルタロス(奈落) エロース(原愛) ウーラノスとアイテール、タルタロスとエレボスはしばしば混同される。カオスの系統(場や概念)とガイアの系統(大雑把に分類された自然)で傾向がやや異なる。 ヘーシオドスによると、まずカオス(カズムとも)、タルタロス、エロースが生まれ、カオスがエレボスとニュクスを産む。ガイアが独力でウーラノス、ポントス、エレボス、エロースを産んだとする説もある。いづれにせよ、エロースの関与を得てガイアとウーラノスが次世代(ティーターン)へのボトルネックになる。オルペウス派などエロースにボトルネックの役割を求める説では、プロートゴノス、パネース、あるいはエロースが原初神で、娘ニュクスとの間にガイアとウーラノスをもうける、という説明になっている。 ガイアとウーラノスの子(ティーターン) オーケアノス(海流)、コイオス(レートーの父としてだけ登場)、クレイオス(アストライオスらの父としてだけ登場)、ヒュペリーオーン(光明)、イーアペトス(不明)、クロノス(農耕)、テイアー(不明)、レアー(大地)、テミス(法)、ムネーモシュネー(記憶)、ポイベー(光明の女性形)、テーテュース(泉)、(ディオーネー、ポルキュース) Kronos(農耕)とChronus(時間)は同一でない。 Tethys(ティーターン)とThetis(ニュンペー:アキレウスの母)は同一でない。 ディオーネーはゼウスの女性形と見られる。 ガイアとポントスの子(ティーターンに入れる場合もあれば入れない場合もある) ポルキュース(入江や浜)、エウリュビアー(不明)、ネーレウス(内海)、タウマース(不明)、ケートー(海竜) Nereus(内海)とNeleus(友人の巻き添えでヘーラクレースと敵対した人)は同一でない。 ティーターン同士での婚姻(クロノスとレアー以外) オーケアノスとテーテュース オーケアニデス(本来は河川);ステュクス、アシアー、エウローペー、クリュメネー、エーレクトラーなど、神統記ではオーケアニデスとして挙がっていないがプレーイオネー(プレイアデスの母)もオーケアノスの娘 コイオスとポイベー レートー ヒュペリーオーンとテイアー ヘーリオス(太陽)、セレーネー(月)、エーオース(暁) イーアペトスとクリュメネーまたはアシアー アトラース、プロメーテウス、エピメーテウス、メノイティオス ポルキュースとケートー ゴルゴーン(3姉妹)、グライアイ(3姉妹) タウマースとエーレクトラー イーリス(虹)、ハルピュイア(アロエーとオーキュペテーの姉妹) テミスとムネーモシュネーはゼウスと婚姻関係になる。 一説に、エキドナ、スキュラ、セイレーンもポルキュースとケートーの子。 ガイアとウーラノスの子(ティーターン以外) キュクロープス(アルゲース、ステロペース、ブロンテースの3兄弟)、ヘカトンケイル(コットス、ブリアレオース(アイガイオーン)、ギューゲースの3兄弟)、ギガース、ピュートーン、テューポーン、エキドナ キュクロープスは雷を司り、ゼウスの雷霆、ポセイドーンの三叉の銛、ハーデースの隠れ兜を作った。 ヘカトンケイルはタルタロスに幽閉されたティーターンの番人になった。 ウーラノスがクロノスに性器を切り取られた際、性器が海に落ちた周りの泡からアプロディーテーが生まれたとする説があり、とくに天のアプロディーテーと呼ばれる(血しぶきからはギガースが生まれた)。 テューポーンとエキドナの子 キマイラ、ケルベロス、オルトロス、ラドン、ヒュドラ クロノスとレアーの子 ヘスティアー、デーメーテール、ヘーラー、ハーデース、ポセイドーン、ゼウス クロノスはサートゥルヌスと、レアーはオプスと同一視される。 レアーはキュベレとしばしば同一視される。 オリュンポス旧世代 ゼウス(天空と雷)、ポセイドーン(海洋と水と塩と地震)、ハーデース(冥界と農耕)、ヘーラー(婚姻)、デーメーテール(大地と農耕)、ヘスティアー(かまど) オリュンポス新世代 アテーナー(知恵、工芸、学芸、戦略)、アポローン(牧畜、予言、弓術、芸術、疫病、医療)、アルテミス(助産、森林、狩猟、弓術、純潔)、ヘーパイストス(炎、鍛冶)、アレース(戦争)、アプロディーテー(美)、ヘルメース(牧羊、伝令、商業、泥棒、詐欺、弁論、旅行、風)、ディオニューソス(葡萄酒、酩酊) アポローンの別名ヘカトス(遠矢射る者:太陽の光が遠くまで力を及ぼすことからか)の女性形、あるいはエジプトのヘケト(胎児の象徴である蛙の姿をした出産や子宝の女神)が転じてヘカテー(魔術などを司り、アルテミスやセレーネーとの習合も見られる)になったという説がある。 オリュンポス新世代の母(父はすべてゼウス) アポローンとアルテミス レートー。コイオスとポイベーの子とされるが小アジア起源。 アテーナー メーティス。オーケアニデスの1人。 アプロディーテー ディオーネー。こちらの説をとる場合とくに民衆のアプロディーテーという。 ヘルメース マイア。プレイアデス(アトラースとプレーイオネーの娘)の1人。 ディオニューソス セメレー。テーバイの王女。 アレースとヘーパイストス ヘーラー。 ゼウスの子 プレイアデスの子 基本的な考えとして大地に母性を見出す発想があり、それと「交わる」ものとして男神が想定される。ガイアは空(ないし海)の作用により植物を生む大地であり、レアーは農耕により作物を生む大地と捉えてよかろう(採集から農耕への移行に対応する)。デーメーテールは変遷が複雑で、オリュンポス系の神話に取り込まれるときの摩擦がゼウスやポセイドーンとの逸話を生んだとか、エリーニュエス(のちに3人に収斂するがもとは多数からなる女神で、古くは母親への冒涜に復讐する役回りが主だった:単数形エリーニュス)の一人でもあったなどと言われる。オリュンポス新世代に至るとガイアやレアーのようなボトルネックの地位を占める女神に代わって、比較的マイナーな女神が「有力な神の母」として登場する。おそらく、すでに有力であった神の父を「変身したゼウス」に挿げ替える操作が少なからずあったのだろう(内的成長から外界の取り込みへの移行に対応する)。母とされる女神が丸ごと創作される例もあったかもしれない。これとは別に、ギリシア、ペルシア、インドに共通して、河川を女神に見立てる傾向がある。 ガイアやウーラノスが「場」を司るのに対し、ティーターン世代は自然物の代表、オリュンポス旧世代は摂理の支配者、オリュンポス新世代は抽象的あるいは人工的なカテゴリを担当する。この区分けはある程度意図的になされたものだと思う。 担当するもの アポローン(ヘーリオス) 太陽 日曜 金 ヘルメース 水星 水曜 水銀 アプロディーテー 金星 金曜 銅 ガイア 地球 アルテミス(セレーネー) 月 月曜 銀 アレース 火星 火曜 鉄 ゼウス 木星 木曜 スズ クロノス 土星 土曜 鉛 地理的イメージ アナクシマンドロス(BC600ごろ)らは、オーケアノスに囲まれた陸地を、地中海、ファシス川(現在のリオニ川)、ナイル川が分けているとした。つまり、地中海とファシス川(と黒海)に接する陸地がエウローパ、地中海とナイル川に接する陸地がリュビアー(もとはアフリカ全体を指したが、後にアフリカの地方を指すようになった)、ナイル川とファシス川に接する陸地がアシアーとなる。それぞれの陸地に、エウローペー、リュビエー、アシアーの女神が対応する。現在の地理的な知識に照らすと、地中海と黒海に接する地域がヨーロッパ、地中海と紅海に接する地域がアフリカ、紅海と黒海に接する地域が小アジアであり、紅海がなかったことになっているだけで、大まかには間違っていない。 ローマ名の例外 ウーラノスはローマに入っても名前が変わらない。主要な神ではほかに、オーケアノスとアポローンくらいだろうか。ギリシアのマイア(ヘルメースの母)とローマのマイア(春と豊穣の女神:ヨーロッパで5月1日に祭りがあるのはマイアの祭日が起源)は、名前が同じだけで無関係らしいのだが、のちに混同され同一視された。 インド・ペルシア インド・ヨーロッパ語族、インド・イラン語派 時系列の大雑把な分類 インドでは、ミトラ/ヴァルナの時代(諸ヴェーダ時代)、ブラフマーの時代(バラモン教時代)、ヴィシュヌ/シヴァの時代(ヒンドゥー教定着期)、トリムルティ時代に分けられる。ゾロアスター教(拝火教、祆教)はペルシア起源で古いアーリア神話を土台にしているという。7世紀にはイスラム教に押されて中心をインドに移しているが、もちろん、それ以前から互いに影響は及ぼし合っている。メソポタミア神話、ヒッタイト神話はインドとギリシアを繋ぐ役割を担ったと思われるが、詳細が明らかでないものが多い。初期の密教(十二天を始めとする天部成立に深く関わった)へはバラモン教の影響がとくに大きかったらしく、ジャイナ教やシク教もインド周辺を中心とする。マニ教(明教)にはゾロアスター教の影響も見られるが、始祖であるマニはもともとグノーシス主義エルカサイ派の出身らしい。中国史では、祆教と明教にキリスト教ネストリウス派(景教)を加えて唐代三夷教と呼ぶ。 デーヴァ(deva)/デーヴィー(devi) サンスクリットで神。印欧祖語に由来し、ラテン語のデウス (deus) などと同語源。 漢訳仏典では、天部、天、天人、天神、天部神などと訳される。 デーヴァが住む世界をデーヴァローカ (devaloka, deva loka) と呼び、天、天界、天道、天上界などと漢訳される。 インドのデーヴァとアスラ、ペルシアのダエーワとアフラは同語源と言われるが、ゾロアスター教ではアフラが善神でダエーワは悪神と、役割が入れ替わっている。 ミトラとヴァルナ どちらも契約と秩序の神で、表裏一体とされる。 ミトラは契約が転じて盟友の意。ペルシアのミスラやギリシア・ローマのミトラースと同語源、マイトレーヤ(弥勒:部分的に布袋と習合)に転じたか。 ヴァルナは秩序の意で天空神でもある。ペルシアではアフラ・マズダーと同一視される。 古い時代には、インドラ(雷)、ヴァーユ(風)、アグニ(火)らとともに重要な地位を占めた。始源神としての地位をブラフマーに、司法神としての地位をヤマに奪われるなど次第に勢力を失い、天空神から派生した水神としての性質が独立する形で水天となった。 三神一体 ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァが本来は1体であるとする近世以降の考え。 トリムルティ (Trimurti) ともいう。 ブラフマー:創造と再生 ヴィシュヌ:繁栄と維持 シヴァ:破壊と更新 この三神の各神妃をトリデーヴィー、シヴァの神妃たち(解釈上は一体で別名が複数あるだけ)をとくにマハーデーヴィーということがある。 ブラフマー(梵天) 名前は宇宙の根本原理を指す「ブラフマン」の男性・単数・主格形。 バラモン教時代に大きな影響力を持つが、次第にヴィシュヌやシヴァに取り込まれる。 神妃はサラスヴァティー(弁才天)、もと水の女神で、豊穣や川に転じ、言葉や音楽など流れを有するものすべてに波及した。現在のタール砂漠中央部に、同名の河川があったという。 サラスヴァティーの派生 ゾロアスター教のアナーヒター(サラスヴァティーのペルシア読みハラフワティーを別名とする)と同起源か。ペルシア7曜神では金星神。バビロニアのイシュタルと習合、ヘレニズム時代にギリシャに入りアプロディーテーとも習合。ギリシャ語でアナイティス。リディアではキュベレやアルテミスと同一視された。 ヴィシュヌ(昆紐天または別名ナーラーヤナから那羅延天とも) 名前は「広がる」「行き渡る」の意から。 太陽神族アーディティヤの1人とされたり、太陽神スーリヤと同一視されたりする。 神妃はラクシュミー(吉祥天)、幸運の女神。美貌と移り気を司るともされる。姉に不幸の女神アラクシュミーがいる、とされることもある。 シヴァ 暴風雨神ルドラの別名から。 マヘーシュヴァラ(大自在天)やマハーカーラ(大黒天)など別名が非常に多く、おもなものだけで1000を超えるという。 神妃はパールヴァティー、山の娘の意で、シヴァの最初の神妃サティの転生とされる。ウマー(烏摩妃)やガウリーなど、やはり別名が多く、シヴァの神妃という立場上カーリーも別名とされる。ヒマラヤの山神ヒマヴァットは父、ガンジスの川神ガンガーは妹。シヴァとパールヴァティーの子で代表的なのは、ガネーシャ(歓喜天:もと独立していた神話が取り込まれて、結果的にシヴァの長男扱いになったようだ)、スカンダ(韋駄天:別名のクマーラから鳩摩羅天とも)あたり。 インドラ(帝釈天) 雷霆神あるいは天空神。 デーヴァ神族の王とされる。仏教では四天王を配下に置く。 神妃はシャチー、アスラの娘。 アスラ(阿修羅) ヴァルナないしその眷属の総称。時代が下るとデーヴァの敵対者の総称。仏教では、天(Deva)、龍(Naga)、夜叉(Yaksa)、乾闥婆(Gandharva)、阿修羅(Asura)、迦楼羅(Garuda)、緊那羅(Kimnara)、摩睺羅伽(Mahoraga)で八部衆と称することがある。夜叉は毘沙門天の眷属ないし配下として、乾闥婆と緊那羅と摩睺羅伽は帝釈天の眷属として言及されることもある。迦楼羅はガルダのことで、那羅延天(ヴィシュヌ)の乗り物として迦楼羅天が登場することもある。 十二天 帝釈天 たいしゃくてん インドラ 東 火天 かてん アグニ 東南 焔魔天 えんまてん ヤマ 南 羅刹天 らせつてん ラークシャサ/ニルリティ 西南 水天 すいてん ヴァルナ 西 風天 ふうてん ヴァーユ 西北 毘沙門天 びしゃもんてん ヴァイシュラヴァナ 北 伊舎那天 いざなてん イシャーナ 東北 梵天 ぼんてん ブラフマー 天(上) 地天 じてん プリティヴィー 地(下) 日天 にってん スーリヤ/アーディティヤ 日 月天 がってん チャンドラ 月 毘沙門天は四天王(帝釈天の部下)の多聞天と同一 七福神(八仙との類似性が指摘される) 恵比寿:おそらく日本由来。後代になって蛭子命と習合したり(川に流された後帰ってきたという設定)、国譲り神話において釣りをしていた事代主神(大国主命の子)と同一視されるようになった。 大黒天:シヴァと大国主命の習合。食物や財福を司る。十二天に含まれない。 毘沙門天:ヒンドゥー教で財宝を司るクベーラの別名ヴァイシュラヴァナ(ヴィスヴェーシュヴァラの子の意)を漢訳したのが多聞天、音訳したのが毘沙門天で、起源は同一。中国に伝わった前後に武神としての性格を得た模様。勝負事を司る。 弁才天:サラスヴァティーが由来。縁起を担いで弁財天ともする。市杵島姫命や宇賀神など海産や農産に関わる女神との習合も見られる。 福禄寿:道教で重視される幸福(子宝)、封禄(財産)、長寿(健康)をくっつけたもの。もとは三体一組。寿老人と同一視されることがあり、日本では代わって猩猩(中国の伝説上の動物で飲酒を司る)が七福神に入ることもまれにある。真言で「オン マカシリ ソワカ」 寿老人:道教における伝説上の人物。長寿を司る。 布袋:伝説上の人物(唐末の仏僧)。大きな袋を持っており堪忍袋に転じた。 インドと中国の間の交流も細々とあり、クベーラの子とされるナラクーバラは仏教経由で道教の哪吒になったという(ジャイナ教にも言及があるらしい)。インドのハヌマーンと西遊記の孫悟空の類似性や、沙悟浄・猪八戒へのインド神話の影響もたびたび指摘される。 北欧神話 インド・ヨーロッパ語族、ゲルマン語派 ゲルマン神話のうちキリスト教化後にも残ったもの。テュールという、ギリシアのゼウス、ローマのユーピテル、インド・ペルシアのミトラのような、印欧語圏らしい天空神を最高位に置いていたが、のちに軍神に転じ主神はオーディン(こちらも風神としての性格を持っているので天空神の仲間といえなくもない)が取って代わった。フィン人(ウラル語族)の神話であるフィンランド神話はかなり特異で、普通は北欧神話に含めない。 スラブ神話、ケルト神話 詳細が明らかでない。 エジプト神話 アフロ・アジア語族、エジプト語派 ギリシア、インド、ペルシア、およびゲルマン、ケルト、スラブなどがインド・ヨーロッパ語族の圏内なのに対し、エジプトはアフロ・アジア語族(エジプト語派やセム語派を含む:成立初期のローマに強い影響を与えたと思われるエトルリアのエトルリア語もアフロ・アジア語族だとされる)に属し雰囲気が異なる。 ヌンという水神ないし水そのものが原始神で、そこからアトゥム(ヌンから出てくるときと、世界が終焉して将来ヌンに戻るときは生死を司る蛇の姿をしている)が自分の意思で自然発生するところから神話が始まる。ただし、後で触れるクヌムが粘土から世界や他の神を作ったという神話もあり一定しない。ヘルモポリス(ヘルメースの町の意)ではヌンに睡蓮が生えるところから始まる神話もある模様。古代エジプト人が(雨が少ないのに大量の水を湛える)ナイル川の起源を湧き水に見立てた(川の渦と泉の連想によるらしい)ことから、ヌンは湧水の神と見ることができるかもしれない。 アトゥムの自慰により大気の神シューと湿気の女神テフヌトが生まれる。他の神話にも単為生殖的な誕生はいくつかあるが、外部からの働きかけを想定しない純粋な自慰を明示しているのは珍しいと思う。後にアトゥムの配偶神としてイウサーアスまたはヘテベトが設定されるが、これはアトゥムの「手」を象徴する。 シューとテフヌトの子として大地の神ゲブと天空の女神ヌト(またはヌート)が誕生、ゲブとヌトが夫婦となるが「くっついているところをシューにひっぺがされて」天地が分かれる。天空神が女神なのも珍しいし、エジプト神話らしいノリだと思う。このエピソードのおかげで、ゲブはエジプトで最初に妻の尻に敷かれた夫として壁画に残ることになる。 ゲブとヌトの子がオシリス、イシス、セト、ネフティスで、ここまでの9神(アトゥム、シューとテフヌト、ゲブとヌト、オシリスとイシスとセトとネフティス)が九柱神。ほかに、ラー、トト、ホルス、アメン(またはアモン)などが有力で、とくにヘリオポリスで主神とされたラーがゲブと入れ替わっていることがままある。ヘリオポリスはカイロ近郊の都市のギリシア語名(ヘーリオスの町の意)。 オシリスは生産を司り、農耕、醸造、法律などに関わる。イシスはナイルとナイルが運ぶ土壌を司り、夫と息子(ないしは権力者)の守護、港、魔術などに関わる。セトは砂漠を司り、通商、砂嵐、戦争などに関わる。ネフティスは夜を司るがアヌビスの母としてくらいしか目立った活躍がない。イシスは処女神でもあり、キリスト教に伝播してマリア信仰の元となったか。 当初は円満に世界を統治していたオシリスにセトが嫉妬してバラバラにしてしまい、妻であるイシスがくっつけミイラとして復活するが生殖器のみ魚に食われてしまっており、現世に留まることができず冥界アアルの王になる。ネフティスはセトの妻なのだがオシリスの復活に協力し、そのせいかどうか知らないがセトに子作りを拒否され、オシリスを酔い潰してアヌビスを授かる。 天空神ホルスは成り立ちが複雑で、オシリスらの末弟で太陽の右目と月の左目を持つハロエリスまたはハルウェル(大ホルス)、ラーの子(またはラーの別名)でセトと敵対するホルスベフデティ(エドフのホルス)、朝日と復活に関連付けられたハルマキス(地平線のホルス)、オシリスとイシスの子ハルシエシス(イシスの息子ホルス)、しまいにはアヌビスあたりともごちゃごちゃに習合している。 イシス+ホルスとセトの対立をラーが仲裁するという形のエピソードもエジプト神話らしい。収賄の罰が「踵が擦り剥けてサンダルをちゃんと履けなくなる」だったり、ラーが怒って仲裁役を放り出したときにハトホルが「いきなり股見せ」をやりなぜか機嫌が直ったり、セトに情けを掛けたのを怒ってホルスがイシスの首を跳ねてしまい雌牛の頭で代用することにしたとか、実際の歴史を象徴的に語るとかなんとか理由はあるのだろうがストーリーとしては奇抜である。なお、ハトホルは股見せ事件の後しっかりラーの嫁になり、ギリシアではなぜかアプロティーテーと同一視された。 ゲブとヌトの孫の世代から頭部が動物になった表現が増える。太陽神ラーは隼(ラーの子としてのホルスも隼)、知識神トート(数学神セシャトが妻ないし妹とされる)はトキないしヒヒ、冥界でオシリスを補佐するアヌビスはジャッカルないし犬、ナイルの水源神クヌム(地方によっては主神になっている)は羊、バステトやテフヌトやセクメト(自分を崇めない人間を全滅させるためにラーが自分の片目から作った:実際には思い直して止めさせた)はライオン。おそらくは、成立年代ではなく起源となった地方の特色でそうなっているのではないかという気がする。 まだ調べていないもの テュルク(トルコ)、モンゴル、ツングース系 南北アメリカ 中国 関連しそうな歴史をざっと見返しておく ネアンデルタール人が埋葬の「ように見える」行動をしていたらしいのが10万年くらい前。 最終氷期の「寒の戻り」であるヤンガードリアス期(1300年間くらい)が終わり、地質学上の完新世(沖積世)が始まるのがBC8000~9500くらい。 全容不明のギョベクリテペ遺跡(アナトリア)の構造物がBC8000~10000くらい。BC15000ごろのものが含まれているという指摘もある。 ナイル川西方で農耕と牧畜が始まったのがBC7000~6000くらい、チャタルホユック遺跡(アナトリア)で発見された畑や家の痕跡が同じ頃、彭頭山遺跡(長江中流域)で発見された栽培種らしき籾殻がBC7000くらい、興隆窪遺跡(遼河流域)の農業らしき痕跡がBC6000前後、上下エジプトの境あたりにあるファイユーム低地に農業が伝わったのがBC5000くらい。 稲作の開始は、古い研究でも遅くともBC6000~4400くらいとされていた。テルアブフレイラ遺跡(メソポタミア)、彭頭山遺跡、クックの初期農耕遺跡(ニューギニア島)などの発掘品を考慮すると、BC13500~8000くらいまで遡れるか。 バダリ文化(上エジプト)で豊富な副葬品が見られるようになるのがBC4500~4000くらい。 メソポタミアで銅器時代(金石併用時代)が始まったのがBC4000~3000くらい、メソポタミアやエジプトが青銅器時代に移行したのがBC3500前後。 ヒエログリフ(エジプト:原カナン文字と後身のフェニキア文字に強い影響、アラム文字などを経由して世界中に伝播)やウルク文字(メソポタミア:簡略化されシュメール文字になる)のもっとも古い資料がBC3200ごろ。ヒエログリフに「似ている」と指摘されるもっと古い資料もある。 エジプト第1王朝(上下統一エジプト)の成立がBC3100ごろ。 隕鉄の利用(メソポタミア)が始まったのがBC3000前後くらい。 最古のピラミッドで知られるエジプト第3王朝ジェセルの在位がBC2600ちょっと。 アッカド帝国(メソポタミア、シュメール)の成立がBC2300前後。 ウル・ナンム法典(メソポタミア、シュメール、ウル第3王朝)がBC2100前後。 アムル系のバビロン第1王朝(メソポタミア、バビロニア)成立がBC1830ごろ。 ハンムラビ法典(バビロニア)がBC1750ごろ。 殷(商)の成立がBC1700~1600くらいの間。 ヒッタイト(アナトリア)の成立がBC1680年ごろ、BC1595ごろにはヒッタイトがバビロニアを滅ぼす(征服したわけではないようだが資料が乏しい)。 鉄鉱石からの製鉄がおそらく同じころ。 鋼の鍛造がBC1400ごろ。 甲骨文字のもっとも古い資料がBC1500~1300くらいの間。文字なのではないかと指摘されるもっと古い資料もある。 アーリア人がインドに侵入し始めたのがBC1200~1300くらい。インダス文明がBC1900ごろ衰退して以降、よくわからない状況になっていたらしい。 アムル人、ヒッタイト、アッカド北部の勢力アッシリア、フルリ人の国ミタンニ(アッシリアのさらに北にあった)、バビロニアに服従したり反抗したり王朝を滅ぼしたりしていたエラム、民族を指すのかバビロニア国内の派閥なのかもはっきりしないカッシートなどがバビロニア周辺で入り乱れた末、前1200年のカタストロフが起きる。 古代エジプト語・アッカド語・アムル語はアフロアジア語族のセム語派だが、シュメール語やフルリ語やエラム語は不明でどこから来たのかはっきりしない。ヒッタイト語はインドヨーロッパ語族アナトリア語派で、楔形文字を持っていたため文字記録が現存する最古のインドヨーロッパ語族になっている。 エジプトのラムセス3世即位がBC1186ごろ。 西周の独立がBC1046ごろ。 アッシリアが復興して新アッシリア王国が成立するのがBC943ごろ。 フェニキア人のカルタゴが成立したのが(伝承上)BC814ごろ。 アルゲアス朝マケドニアの(伝承上の)成立がBC808ごろ。 王政ローマの(伝承上の)成立がBC753ごろ。 ギリシアがアルカイック期に入るのがBC800~700くらい。 ペロポネソス同盟の成立がBC500より少し前。 アケメネス朝ペルシアの成立がBC550ごろ。 共和政ローマの成立がBC509ごろ。 ペルシア戦争がBC499~449、デロス同盟の成立がBC478、ペロポネソス戦争がBC431~404ごろ。 コリントス同盟の成立がBC337ごろ。 アレクサンドロス3世の即位がBC336ごろ。 プトレマイオス朝エジプトの成立がBC305ごろ。 ローマのイタリア統一がBC287ごろ。 マウリヤ朝によるインド統一(カリンガ戦争)がBC265ごろ。 始皇帝の中国統一がBC225ごろ。