モノミックスを作ろう


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ミックス関連の他の記事でも「まずはモノラルミックスを作れるように」という話を何度かしているが、初心者が取り組むための具体的な注意点をまとめておきたい。Timidity++やAudacityの使い方はわかっている前提(わからない人は音楽関連のトップから必要な記事を探そう)。

なお、ここでいう「モノラル」とは「左右のスピーカまたはヘッドフォンから同じ音が出る」という意味である(左右のスピーカまたはヘッドフォンから違う音が出るのがステレオ)。


まずはパラ出し

ミキシングを始める前に、まずはバラの音を用意しないと話が始まらない。ここでは、バスドラム、スネアドラム、ハイハット、ヴォーカル、ベース、コード楽器の6種類でやってみよう。このような演奏だったとする(生録音は手間なので、ヴォーカルはコーラストーンで代用した)。MIDIファイルでパラ出しする予定がある場合、トラック1は空にしておくのが無難で、それ以外の空トラックは書き出し前に削除しておくと面倒が少ない。

ドラムス以外のトラックについては、拙作の切り出しソフトを使うと早いのだが、perlの実行環境が必要になる(しかも、Windowsで本当に動くのかどうか、筆者は確認していない)。chabaさんSMF track separatorというソフトなら普通のWindows環境(ただし.NET Framework2.0が必要)でも動くのだが、Timidity++との組み合わせだと最初の無音部分がWavに反映されないためちょっとイヤラシイ。ドラムスをさらにパラ出しできるソフトを筆者は知らないが、3種類くらいなら手作業でも大した手間ではあるまい。

今回はドラムス以外のパートも含めて、Timidity++の使用を前提に手作業でパラ出しした。Dominoを2つ立ち上げて同じファイルを読み込み、片方のデータをConductorとSetup以外全部削除、バスドラだけ選んでコピー(位置がずれないように貼り付けること:ピアノロールのクリック/ドラッグで選択した場合は一番先頭に貼り付ける)、標準MIDIファイル(SMF)書き出し、コピーしたバスドラを削除(というか貼り付けをアンドゥ)、スネアだけ選んで・・・といった手順。

作成したファイルは順に、ヴォーカル(mm01vo)、バスドラ(mm02bd)、スネア(mm03sn)、ハット(mm04hat)、ベース(mm05bs)、ピアノ(mm06pf)である(6ファイルをまとめて圧縮したもの)。順番は好みで決めてよいのだが「短い共通名+連番+短いパート名」にしておくと、後々何かと便利である。最初のカウントを全部のトラックに入れてあるのは筆者の好みだが、こうしておくとタイミング合わせの際「どれだけずらしたか」を確認できる(やらなくてもよい)。

実は、LoopAzoidやSoFtDrumのようなマルチアウトプット音源とReaperなどのDAWを使うのならMIDIファイルの段階で分けておく必要はない。ドラムス以外のパートについては、Reaperにsfzを立ち上げてアイテム右クリック>Source properties>Only play channelsで使用するチャンネルを選べばよい(無印sfzは各チャンネルの音をステレオにまとめてしまうので、パラ出しする数だけ立ち上げる必要がある)。ドラムスのパラ出しも、LoopAzoidを複数トラックに読んでやれば簡単。実際の制作では各自が好きな方法でパラ出しして問題ない。

なお、SMF track separatorを使う場合でDominoで作業しているなら、トラックのプロパティで「トラック名」を設定しておくと紛らわしいことにならない(ConductorとSetupも含めて上から順に連番がつくので、そのままだと実際のチャンネル数よりも2多い名前がつく)。


Wavにして読み込み

上記の標準MIDIファイルをまとめてTimidity++にドラッグアンドドロップしてやると、それぞれの名前でWavファイルができる。AudacityなりReaperなりで読み込んでやろう(ここではAudacityの使用を前提に話を進める)。ファイルの先頭が切れている人は大まかな位置をまず合わせる。カウントを重複して出した場合、加算されて大音量になるので、その部分だけ音量を下げておくとよい(筆者は今回24db下げた)。

再生してみて、とりあえず「普通に演奏しているように」聴こえたら、次はトラックをモノラル化する。本当はWavosaurあたりを使うのが早いのだが、Audacityでステレオトラックを分離>片方削除>トラック名の右の逆三角をクリック>モノラルとやっても、まあ問題ない。

筆者はこの段階で、ファイル>複数ファイルの書き出しをやって、Timidity++で録音したファイルは削除してしまうことが多い。また、この手の「無音部分が多く平均音圧も低い」ファイルは可逆圧縮でもかなり潰れるので、保存はflacでやっている(1GBや2GBなら惜しくない、という人はWavでも大差ない)。

このページに掲載するサンプルファイルは非可逆圧縮(上と同じ理由で、VBRの圧縮だと大きくサイズを減らせる)してあるが、容量の都合なのであしからず。ともかく、このように6本のモノラルトラックを用意した(わけがわからなくなるので、カウントの音量をそのままにしてある:重ねて再生する場合は音量に注意)。


ドラムスを調整する

では調整に入ろう。順番についてはいろいろな流儀があるが、あまり作業に慣れてなれていないことを前提に筆者が「効率がよさそうだ」と思う手順を断りなく採用する。マシンパワーが足りない場合やパラ出しの本数が多い場合は、ヴォーカルとドラムスのトラック以外をいったん削除しておこう(書き出してあるので、必要になったらまた読み込めばよい)。

まず全体を選択(Ctrl+A)して効果>正規化を両方チェックありで実行し、-6db増幅する(都合、ピーク音量が-9dbになる)。ヴォーカルトラックをソロ再生(トラック名の下にある「Solo」ボタン)しつつ、再生音量(トラックの音量ではない)を「普段自分が音楽を聴くくらい」に調整しよう(これを「ノーマル音量」とする:音量の「設定値」を普段通りにするのではなく、音の「聴こえ方」が普段通りになるよう調整する)。今回ノーマライズは必要ないといえば必要ないのだが、まあその辺は好みで手順を変えて欲しい。

スネアのトラックもソロ再生に追加して、Soloボタンの下にある-/+のスライダー(Shiftキーを押しながらだと細かく動かせる)で、スネアの音量を「ヴォーカルよりやや小さく聴こえるよう」調整する。今回は+3dbにした。Shiftキーを押しながらのループ再生も活用するが、あまりに短い区間(1秒以下とか)をループ再生すると、停止するまでの間Audacityの反応が極端に鈍くなるので注意(Reaperなどでも同様の現象は起こる:マシンパワーや同時再生トラック数にもよる)。

バスドラのSoloボタンも押して調整を続ける。想定する最小の音量(以下「最小音量」とする)で再生しながら、バスドラの機能が失われないギリギリ小さな音量にしよう。今回は-15dbになった。ついで想定する最大の音量(以下「最大音量とする」)で再生しながら、圧迫感がリスニングを邪魔しない最大ポイントを探そう。今回は-9dbになった。ノーマル音量に戻してから、上記の値の範囲内でバランスのよさそうなポイントを探す。今回は-12dbにした。

もし、最小音量で機能が失われず最大音量で邪魔にならないポイントがない(=マージンがマイナスになる)、たとえば、最小音量では-10dbでバスドラの意味がなくなるが、最大音量では-15dbでも聴いていられない、という場合はフェーダーやイコライザなどを使って調整をするのが本来なのだが、今回その手の作業はすべて省くので、一番マシだと思えるポイントで妥協しておこう。

ハットも追加しよう。バスドラと同様に、まず「調整可能な範囲」を決める。今回はどちらも-12dbだったので、悩む余地なく音量が決まった。ドラムスが出揃ったので、ヴォーカルをソロ再生から外してドラムス全体のバランスを確認する。ちょっとバスドラが弱い気がしたので、-12dbから-9dbに変更した。

これでドラムスのバランスが決まった。大した作業はしていないが、念のため複数ファイルの書き出しをやって(各工程のファイルは適当なフォルダに分類して、間違えて上書きしないように注意)、もしマシンパワーが不足しているならドラムスのトラックを簡易ミックスでまとめてしまおう。


その他の音もかぶせる

ベースもバスドラやハットと同様に調整する。今回は-15dbにした。コード楽器(今回はピアノ)はノーマル音量で調整した方がやりやすいと思う。慣れないと大きく入れがちだが、ヴォーカルを邪魔しない程度にしておこう。今回は-12dbにした(アレンジャーとの意思疎通も必要になるが、ヴォーカル=メインメロディと張り合う場面とサポートに回る場面でのメリハリを大切に)。これで全トラックで音量調整がとりあえず終わった。ベースとピアノのトラックも一応書き出しておこう。

音量の微調整に入る前に、タイミングの微調整をやっておく。今回はベースが少し後ろにずれているので、タイムシフトツールを使って直す。ヴォーカルも少し前ずらしした方がノリが出るだろう(比較的よくやる加工)。バスドラムとハイハットを基準に他を合わせるとやりやすい。

ここまで終了したら、いったん全トラックのミュートボタンやソロボタンを解除して、最小/ノーマル/最大音量で通して聴いてみよう。破綻している個所がないか注意して欲しい。何回か聴いているうちに、もう少し上げたいパートや下げたいパートが出てくるはすである。今回はバスドラムが少し小さく感じたので1db上げて-8dbに変更した。

あまり心配ないとは思うが、もしここで全トラックを再生して音量オーバーになっている場合、全体を選択して(効果>増幅で)いくらか音量を下げておこう。あとは複数ファイルの書き出しとプロジェクトの保存でバックアップを取ってから簡易合成でまとめ、カウントが入っている所と最後の無音を削除して適当にフェードイン/アウトをかけ、全体の音量調整(というかノーマライズ:-3dbくらいにしておけばよいだろう)をすれば終了である。書き出したファイルはこのようになった(マキシマイザーの類は使っていないので、普段CDなどを聴くよりは大きめのボリュームで再生して欲しい)。

今回はヴォーカルと張り合う楽器を入れていないのでちょっと寂しい感じになったが、たとえばピアノの右手でフィルを入れてやる(これは掛け合いの音なので、ヴォーカルよりやや控えめくらいの音量にする)などすれば、もう少し豪華な感じになるだろう。


ステップアップ

ページのタイトルとは矛盾するが、ミックス直前まで戻ってステレオミックスにも挑戦してみよう。たとえば、スネアを右6%、ハットを右14%、ピアノを左20%に振る(PANも微調整にはShiftキーを使う)とこのようになる。すでに触れたフェーダー(Audacityならエンベロープツール、Reaperなら音量のオートメーション)や音色の調整なども、ここまでの作業がしっかり見えてからやれば方針を立てやすいだろう。

モノミックスを作る技術自体の習得はもちろん、上記のような作業の「ありがたみがわかる」こともこの作業の大きなメリットなので、ぜひ自分で試して欲しい。こういった基本を踏まえておけば、あとは場数をこなすだけでそれなりに上達してしまうものである。

たとえば今回の作業で言えば、ベースのマージンがもう少しあれば音量を少し落とせるのだが、だったら軽くオーバードライブをかけてみようとか、バスドラの圧迫感を緩和するためにハイを持ち上げて音量を落とすか、またはコンプでもかけてみようとか、そういったアイディアを(曲想から得るアイディアとは別に)いくつも得ることができる。もちろん、熟練すれば(そもそも大した手間ではないのだが)モノミックスをわざわざ作ってみるまでもなく、勘と経験で「この辺だな」と当たりをつけることも可能になる。

また、モノミックスから出発して拡張するスタイルだと、リスニング環境の変化にかなり強くなる。たとえば「2m先に置いた小型ラジカセ」だとか「念入りに配置した大型オーディオ」だとか「ポータブル機器に繋がったステレオイヤフォン」だとか、そういった多様な環境に対応するうえで「モノラルで聴ける音」ができていることは大きなメリットになる(フィル・スペクターあたりの発想は、現在でも有効だということ)。

なお、レスリーシミュレータやステレオコーラスをかけた音源は音量での定位に限界がある(振りすぎるとイフェクトの意味がなくなる)ので、ハース効果(左右どちらかのチャンネルだけ音のタイミングを遅らせることで定位が変わる現象:このような処理をチャンネルディレイと呼ぶ)を利用したステレオイフェクトも検討してみよう。位相のぶつかり方が変わって音色にも影響があるため、事前に(できればヘッドフォンとスピーカの両方で)出音を確認しておくとよい。

音色作りを細かくやる場合、ギターならギター、ピアノならピアノが「単品でよく鳴る」バランスを目指すことが非常に重要である。もちろん最終的には、バンドサウンドの中でそれぞれの楽器が調和するように再調整するのだが、その楽器単品でもっともよく鳴るポイントに寄り道するのとしないのとでは、仕上がりに大きな差が出る(というか、最終的にステレオミックスを作る場合にモノミックスをまず作る、というのも一種の寄り道だといえる)。



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