ベース


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<サンプルのMIDIファイル(SMFフォーマット1)が再生できない方はQuickTime Playerを使用してみてください>

ベースについて、編曲の基礎完成編と知識補充編である程度触れたが、もう少し実践的/理論的なことを知りたい人のためにいくつか補足する。さらに突っ込んだ話についてはリズムとビートについてベースの動きのページを参照。サンプルファイルは一般的な音楽用のモニタ環境を前提に作成してあるため、ヘッドフォンなどを使って十分な音量で再生して欲しい。


まずはリズム

ベースは(ドラムスと並んで)ポピュラーミュージックにおける主力リズム楽器なので、さまざまなスコープ(小節内、パート内、曲全体など)で「何を繰り返して何を変化させるのか」という意識が非常に重要である(繰り返す部分が幹、変化する部分が枝葉になるが、時には思い切って幹を曲げることもある)。リズムというのは「繰り返し」が生むものだが、そこにどういった変化を盛り込むのか(あるいは盛り込まないのか)に注意して欲しい。

ドラムスと同様単純なパターンから入る。もっとも単純なベースパターンは、ルート音だけを使った全音符弾きとベタ刻み(8ビートなら8分音符8、16ビートなら16分音符16をすべて弾く)の2つである。実際のパターンを構築する場合には、このどちらを出発点にするのか、ある程度意識した方がよい。

全音符弾きからスタートする場合は、バスドラムが鳴る場所(ドラムスが入らない曲では、コード楽器のアタックタイミング)で音符を分割できないか検討してみる。または、バスドラムを踏みたいがあからさまには踏みにくい場所、踏んでいるが今ひとつ歯切れが悪い場所(とくに4拍子の4拍目ウラなど)でベースの音符を分割できないか試す。刻み方が決まったら、音価(長さ)が過剰な音符を短くして低音のだぶつきを解消しておく。

ベタ刻みからスタートする場合は休符の位置を検討する。とくに、アクセント(スネアドラムを強く叩く位置)の直前、アクセントの位置、アクセントの直後のうちどこで打ってどこで休むかが、全体的なリズム感を大きく左右する。刻み方が決まったら、タイでつなぐべき音符をつないでおく(これも、クドい感じを解消するため)。

リズムを重視するということはドラムスとの絡みを重視するということでもあるが、網羅的な紹介が現実的でないくらいさまざまなパターンが考えられるので、ドラムスのページに掲載したファイル(ハイハットの刻み方に合わせた例)の再掲だけに留めておく。

少し変わった方法として、全拍オモテを打ってウラで休む、8分ベタが基本で2拍目と4拍目のオモテ(スネアが鳴るところ)のみ休符、バスドラムとの同時打ちだけ、上モノ(リズムギターやメインメロディなど)と常にユニゾン、休符なしのベタ刻み、完全な全音符弾き、付点4分+付点4分+4分の繰り返しなど、より機械的なパターンもある。

いずれにせよ、ベース単品としてどうこうではなく、全体のノリやメイン楽器の印象がどう変わるかという点に注意して作業を進めたい。ベースのリズムで、曲全体レベルのかなり大きな枠組みが決まる(ので、真っ先に仮組みした)。


仮決めと準備

どの経路を選んだ場合も、上記までで基本的なパターンができあがるはずなので、今度はダイナミクス(強弱)とアーティキュレーション(スタッカートやテヌートやハシりモタりなど)を加味していく。人間の耳は低音域のダイナミックレンジが狭い(少しの音量変化でも大げさに感じる)ため、ベロシティは注意して動かそう(再生音量によっても強弱の感じ方が変わる)。

ただし、音程の変化を入れると印象がまた変わってくるので、ここでは大まかな起伏を検討しておくだけでよい。最終的には、休符とゴーストではどちらがよいのか、ゴーストは弱い音で表現するのか短い音で表現するのか、音符をさらに分割すべきところやタイで結ぶべきところはないか、などといったことも考慮する。

つぎの項で音程変化について触れるが、リズム、ダイナミクス、アーティキュレーションまで仮組みした演奏を聴き込むことで、音程変化をどう組み入れる(または組み入れない)かというヒントが得られる。


アプローチノートと分散和音

リズムが決まったところで音程の変化も考えてみよう(ただし、必要もないのにムリして曲げる義理はない:ルート弾きは単純な方法だが、それだけに強烈な安定感が出る)。ベースの音程を変化させる要素として、アプローチノートと分散和音がまず挙げられる。

アプローチノートについては本編ですでに触れた。小節の最後の音から次の小節の最初の音への移動を(とくに限定進行音の)順次進行やルートへの5度進行などにして牽引力を増す考え方である。これも繰り返しになるが、ブツ切れ感が必要なパートに滑らかなアプローチを挿入しても逆効果なので、(その逆効果がかえって面白いという場合がなくはないが)需要を考えながら作業する。

分散和音は概念の紹介しかしていなかったが、ようするに、小節内のベースの音にコード構成音がどのくらい揃っているかということである。具体的なトーンで言うと、1度と3度と(トライアドでなければ)7度の音がそれなりの音量と音価で鳴れば、小節全体で分散和音らしい雰囲気が出やすい(5度がコードの響きに対して支配的でないことは何度も述べた)。

とくに、コード伴奏をごく薄くする場合は、ベースが和音構成に関わる度合いが強くなり、結果的に分散和音的な手法の重要性が増す。ブルースのような単純なパターン(たとえばこのサンプルの前半やこのサンプルの後半のような)、同じループ系でももう少し複雑なパターン、ループ的な要素を廃して変化を求めたパターンなどさまざまな可能性がある(話が前後するが、ベースラインが持つ音程的な反復性の度合いも、ノリに大きな影響を与える)。

反対に分散和音的な性格を意識させたくない場合、使う音程を制限すればよい。極端な話、ずっとルートだけ弾いていれば分散和音に聴こえる可能性はほとんどない。1度と5度を主体に3度と7度がちらっと(数小節に1~2回くらい、弱拍や短い音価で)出てくるようなパターンでも、分散和音的なイメージはそれほど強くならないだろう。

一応I>IV>V>Iでの例を再掲しておく。

ここにもう少し手を入れるとこのようになる。IV>V(メジャーコード>メジャーコードの全音上行)のアプローチをもう少し検討すると、 といったところ。

4分打ちの場合、小節を「ルート音>経路>次の小節へのアプローチ」に分解して、ルートの動き、アプローチの取り方、経路の選択と、大きな枠組みから順に埋めていく手もある(ベースの動きのページを参照)。

コードネームを中心とした手法からは外れるが、たとえばモードの手法を前面に出す場合などは、使う音程を増やしつつ分散和音的な性質も出ないような工夫が必要になる。これは結局、モードの枠組みに収まりかつ分散和音の枠組みから外れるラインを狙うということで、もっと言えば1度と3度と7度に相当する音をしっかりアピールするパターンを避けるというこになる(間に入る音や上に乗る音によっても印象が変わるので、一概には言えないが)。

いづれにせよ、コードの構成音を「上に積むか横に広げるか」という点について、構想の段階で意識的に検討しておくとやりやすいだろう(上に詰む場合は安定感が、横に広げる場合は時間的な緩急が、より大きな問題になる)。


コードの解釈をコントロールする

先に断っておくが、ベースは必ずしもメロディ的なラインにする必要はない(ベースがメロディの一部も担当するのが暗黙の了解になっているジャンルがないではないが、コードネームを中心とした手法からは外れるし、頑張って動かし方に慣れて破綻なく動かしてねとしか言えない:いちおう、順次進行と4度上行or5度下行が動きの軸になり得ることは覚えておいた方がよいかも)。普通に考えて、もしメロディが必要ならメロディ楽器で入れればよいだけである(他の楽器が「ちょっと暇そうにしている隙」を狙ってベースがしゃしゃり出るのは効果的だが、常に意識しなければならないようなことでもない)。

ページ冒頭の話とも重複するが、一般的なポピュラーミュージックでは、ベースにある程度の反復性が求められることが多い(一部のJazzやフュージョンになら常にベースが流動し続ける曲がないではないが、あくまで例外的)。これはリズムだけでなく音程にも当てはまることなので、しっかり意識しておきたい(結局程度問題で、同じパターンを繰り返した後に変化させる手法なども変わらず有効)。

また、小節の頭(というか、コードチェンジの後最初にベースが音を出す部分)の音程は、コードのルートというのが原則である。このページでは、ベースが小節の頭でルート以外の音を弾く場合(たとえばEmの下でG音を弾く)はコードネームが変わる(この例ならEm on Gになる)と解釈しておく。

さて、ベースがコードのルート以外を弾く例として、アプローチを取るパターンと分散和音を構成するパターンをすでに紹介してある。それ以外でベースの音程を変えるのは、コードの響きを途中で変えたい(偶成和音を織り交ぜたい)場合であることが多い。何度か触れたようにベースが動くとコードの解釈が変わる(ブルースロックなどで好まれるパターン)。ベースの音程によるイメージの変化は、たとえば、前掲のこのサンプルの最後やこのサンプルの後半などで確認できると思う。メジャーコードとマイナーコードの下でベースだけが動く場合について一覧にしてみよう。

ここで注目して欲しいのは、セブンスコードでかつベース以外がルート音を出していない場合、3・5・7度音にベースが移動しても、代理コードと主要コードを行き来するだけだという点である。このため、ベースがよく動くジャンルでは上記が暗黙の約束になっていることがある。

ベースの音程として、4度と6度は注意して使う必要がある(単なる経過音として鳴らすなら、ポルタメントやスライドのような奏法で音程感をぼかすという選択肢もある:反対に、明確に鳴らして変化を強調する手もある)。セブンスコードでベースを2度に持っていった場合、代理コードに変わってさらにベースが7度に潜った形になり、これはまあ普通に使える。

トライアドの下でベースを動かしたい場合は、パッド(全音符などで薄く入れる鳴りっぱなしの音:詰め物の意)にセブンスの音を紛れさせてしまうと馴染みやすい。半音移動でディミニッシュを作るような例(経過和音を構成するパターン)には詳しく触れなかったが、興味がある人はデータのページやベースの動きのページを参照して欲しい。

原則として弱く短い音符ほどコードから外れた音程を使いやすいことも覚えておこう。アクセント位置の音程はルート音またはベース指定オンコードの指定音にしておくのが無難だが、たとえば上で紹介したこのサンプルのように、調子が外れるところをあえて強調する手もあるのでいろいろ試してみよう。


単純なパターンを見直す

これは筆者の持論なのだが、もし明確な意図がないなら、ベースは動かさない方がよい。ベースは全体の演奏を支える屋台骨なので、それが根拠もなくフラフラすれば問題が出るに決まっているのだが、今ひとつアレンジが決まらないときに「とりあえず」で動かしてみたくなるパートでもあり、泥沼にはまるきっかけになりがちである。

ベースの基本はあくまでルート弾きで、もっとも安定した響きを得られるのだということを忘れないでおこう。安定度が高い別の例としてメインメロディ担当楽器とのオクターブユニゾンがあるが、これも単純かつ強力なパターンである。

これらの単純なパターンはどんな曲にも使いやすく、効果も明確なのが利点である。(編曲の基礎完成編で紹介したような)凝った編曲をするバンドでも、「ルートベタ打ち+ユニゾン」のベースパターンを繰り返すこと(何度も指摘しているが、一定のまとまりを「繰り返す」ことでリズムが生まれる)で強烈なインパクトを演出している例は多くある。むしろ、技巧派のバンドほど単純なパターンの使い方が大胆な気がする。

演奏上もドラムスで4ビートスロースイングのシンバルレガートをやるような場合と違って、ベースが単体で注目を集めるケースは少ないため、打ち込みでやってもさほど問題がないことが多い。ブルース系の曲などで「目立ちながら単純なループを回す」場合は、ダイナミクス、アーティキュレーション、タイム感、ドラムスとのコンビネーションなど、あらゆる要素に気を配ろう(複雑なパターンを演奏するときでも重要なことではあるが、シンプルなパターンだとモロに粗が出るため)。


オマケ1(ベースとバスドラ)

ネットで編曲や音声加工の情報を漁っていてたまに目にするのが「ベースとバスドラを同時に鳴らすと音のぶつかりが云々」という話。筆者にはどうにも理解できなかったのだが、どうやら前提条件が抜けているようだ。これはおもに「シンセベースとエレドラムを併用してかつ両方をガッツリ前に出した場合」の話である。

とくに、リリースが長いエレドラムと鋸波加工音色のシンセベースを使って「4つ打ち」系の曲をやる場合などは、ある程度ケアをしてやらないと低域の音がうっとおしくなるだろう。同じ打ち込みでも、普通の音色を普通に使うなら気にしなくてよい。

普通にやる場合は、そういう話よりも楽器同士の相互作用を考慮しておいた方がよい。これは何度も再掲しているサンプルだが、先に鳴るのがギターの1弦と2弦を別々に録音して後からミックスしたもの、後に鳴るのが普通に1弦と2弦を(ほぼ)同時にピッキングしたものである。多重録音や打ち込みでは楽器同士の(空気を介した)相互作用がゼロなので、妙に目立った食い違いが出ることがある。

上記サンプルはギターの音色だが、同様の現象は低音域でも起こり得るので、ベースとバスドラの波形がどのように重なっているか、音色が奇妙だと感じる場所があれば波形編集ソフトなどで確認してみるとよいだろう。タイミングを微妙~~~にズラしてやることで(根本的な解決にはならないが)音色がけっこう変わることがある。



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