計画的な編曲


尺の把握 / 前半の作業 / 後半の作業
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ここまでの記事を行き当たりばったりに書きすぎたので、全体的な計画をある程度立てながら作業を進める場合の流れなどを別にまとめた。他の記事も同様だが、あくまで筆者の普段の制作手順に準拠したものであることを、とくに断っておく。


尺の把握

尺というのはようするに、曲やパートの長さである。前奏>Aメロ>サビ>間奏>Aメロ>ブリッジ>サビ>フェードアウトで4分10秒、などといった感じで把握しておく。

だいたいの目安だが、普通のポピュラーミュージックなら、3分台が短い曲、4分台が普通の曲、5分台が長い曲、6分以上がごく長い曲くらいに捉えておいて問題ないだろう(ただし、ソロが長い曲はボリュームの割に尺が伸びがちなので、多少割り引いて考える)。ちなみに、テンポ120で4/4拍子の曲だと1分=30小節である。

最初に例示したくらいの曲(とくにロック系)だと、ドラムスの(刻み部分の変化やフィルインを除いた)パターンは「ブリッジとブリッジ以外」の2パターンくらいで通すことが多い。これは曲の一貫性とブリッジの印象度を高めるためだが、サビに入ったところで「回帰感」のようなものが出ることも特筆に価する。場面転換のきっかけはドラムスのフィルで与えて、場面の差異自体は上モノリズム楽器の演奏で作ることが多い。

ブリッジも同じパターンにしてさらに直線的な構成にしたり(その場合ベースで変化をつけることもあるが、ブルース要素が強く上モノが暴れる曲では、ベースも同じパターンをずっと繰り返すことがある)、ごく短い曲にリズムパターンを多数つぎ込んで目まぐるしく展開しても、もちろん問題ない(が、初心者がイキナリ挑戦するには少し難易度が高いかもしれない)。


メロディ>リズム>ハーモニー

見出しは筆者が普段よくやる仮組み手順である。ベースラインからできた曲やドラムループから作った曲でも、メロディが出てきた時点で一度白紙に戻してアレンジを考える(ギターのストローク弾きをしながら作った曲などでコード伴奏がすでにある場合は、例外的に伴奏付きの状態で始めることにしている)。

まずメロディに対してドラムスのパターンを考える。話が前後するが、長めの曲にするのでなければ、そう多くのパターンを用意する必要はない。この時点では仮組みだけやればよいので細かい部分は考えず、ダイナミクスも大まかにしかケアしないことが多い。

次はたいていメインのコード楽器、というか上モノのリズム楽器に手をつける(ベースを先にやる場合もあるのだが、作業的に少し面倒になる)。コードワークは適当にやっておいて(不協和音が鳴っていても放置することが多い)、ドラムスと合計でのリズム表現をケアする。とくにドラムスが少ないパターンで回る曲では、上モノのリズム楽器が小節のアタマの重さを変えたり拍のウラを打ったりして全体のリズムを変化させるので、重要な作業である。多少ぎこちなくてもベースの動きで補えることが多いので、気にせず進める。

さてそのベース。ドラムスが基礎で上モノリズム楽器が壁や屋根だとするとベースは柱や梁のようなつもりで、全体がメロディの受け皿として機能するように組む。文字で書くと抽象的でわかりにくいが、音をよく聴けば「そこにないとまずい音」がだんだんと見えてくるはずである。筆者の場合、この時点ではルート弾きオンリーでやることがほとんど。

ハーモナイズに移る。コードワークの見直しとベースの動きの調整、必要ならメロディアレンジも追加。パートごとの連携や全体の調性感、終止の明確さなどにも気を配る。曲の進行として違和感が残るパートがある場合はこの時点で調整するが、無難さを追求するあまり「必要な違和感」を塗りつぶしてしまわないように注意する。

上記くらいで曲の輪郭は見えるはずなので、ダイナミクスや楽器の出し入れや音符と休符のバランスなどを見直しておく(裏メロやパッドはまだ入れないが、パートのつながりを見直した時点でフィルやブレイクは入っていることが多いはず)。


メロディ>微調整>バッキング>録音>最終調整

一通り曲らしい格好がついたら、仮ウタなり仮リードなりを入れなおしておく。アナログ録音が必要なパートも一通りそろえておくこと。最初に作曲したときのイメージはいったん忘れて、伴奏から得られるアイディアを活かすよう心がけたい。ここで入れるのはほぼ確定バージョンのメロディである。

メロディの修正に合わせて伴奏も見直す。筆者は、コード楽器>ベース>ドラムスと見直すことが多いが、1箇所直すと連鎖的に手直しが入ることもあるので、決まった順番でやる必要はない(ただし、すべてのパートを1回は見直しておくこと)。

このくらいの時点で一度ラフミックスを作ってみると現在位置を確認しやすく、ラフミックス音源からアレンジのアイディアを拾えることもけっこうある。ミキシングの見通しを立てる上でも有用なので、少し手を止めてラフミックスを聴き込んでみよう。

改めて構想が固まったら、あとはバッキングを仮入れして、ウタ・リード・アナログ録音パートを本格的に入れて、細かい調整を納得がいくまで続けるだけである。いい形になったと思えたらラフミックスを作り、聴き込んでは修正点を見つけてまた作業する。再録音が必要なアナログ音源が出てくると大変だが、そうそう1発OKは出せないので、慣れないうちは最初から複数回録音するものだと想定しておこう。


音を出そう、繰り返し聴こう

結局またいつも言っていることと同じなのだが、なにか思いついたらとにかく音を出し、繰り返し聴こう。

実際、あるアイディアがどれだけ曲にマッチするのか、音を出してみなければわからない。Jeff Porcaroが教則ビデオの中で「Steely DanのF.M.を演ったときに、初めは16分音符で刻もうと思ったが、音を重ねてみたらイマイチだったので8分音符刻みにした」という旨の解説をしているが、トッププロのレベルでさえそういうことが起こるのである。

とくに初心者のうちは見落としや聴き逃しが多いので「これでいいかな」と思っても油断しないようにしたい。筆者なども、1つの曲をイジりながら「よしこれで完成、もうやり残したことはなにもない」と思うことが、5回や10回ではきかないくらいある。

もちろん「~回聴いた」という数字自体で何がどうなるというものではないし、漫然と100回聴くよりは集中して1回聴いた方が得るものが多いだろう。しかしそれでも、回数を重ねて聴く中でしか発見できない音というのはあるし、これも繰り返しになるが、作り手自身が10回20回と聴きたくなる音を作れなければ、他人は1度たりとも聴きたいと思わないだろう。

初期のデモを確認するのも重要である。繰り返し修正を重ねるほどに、ゴチャゴチャしたことをやりすぎて野暮な曲になる危険が大きくなる。やりすぎた作業はスッパリと切り捨てる潔さも大切だろう。

また制作の初期段階ではとくに、ボツアイディアの積み重ねが重要になる。1つの案に固執するのではなく、3つ4つと候補を出して絞り込んでいく形だと完成度を高めやすい。慣れないうちはそう簡単にいくつもアイディアを出せないだろうが、ボツになったアイディアや作業は決して無駄にならないということは覚えておいて欲しい。



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