マイク


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2020年9月更新。筆者が試した激安マイクの印象については、ローコスト制作感想コーナーの安いマイクのページに書いた。

膨大なサンプルを集めた比較サイトがあって、このページでも紹介していたのだが、リンク切れになってしまった。他のサンプルを当たる場合も、メンテナンスの状況やマイク自体の個体差、マイキングや録音場所やソースによる差もあるのであくまで参考までに(マイクによって適するマイキングや演奏方法などが異なるため、同じ条件で比較しようという前提自体にムリがあることは念頭に置いて欲しい)。

マイクの周波数特性について、1KHzとの相対感度で-10dbを確保できる値が表示されていることが多い。たとえば50~15000Hz対応のマイクでホワイトノイズを収音すると、50Hzと15000Hzは1000Hzよりも10db小さく録音されるはずである(やや余裕を見てあることが多いので、実際にはもう少し大きいはずだが)。これは覚えておこう。録音用ヴォーカルマイクだと、だいたい、安いダイナミックマイクで12~15KHz、1万円クラスのダイナミックマイクで15~18KHz、コンデンサマイクや高級ダイナミックマイクでは18KHz~くらいが上限になっている。-3dbポイントを表示しているメーカーや製品もあるが、その場合は別途注記があるはず。

感度の表示は1V/Pa@1KHzを0dbとしている場合が多い(-60dbなら、0.001V/Pa@1KHz)。ただしあくまで多いだけで、海外メーカー製品など一部にdbV/PaではなくdbV/Ba(Baはbaryeの意で、1Ba=1μbar=0.1Pa)で表記しているものもあり、後者に20足すと前者に一致する(たとえば-70dbV/Ba=-50dbV/Pa:基準がわからない書き方のカタログもあって不便)。1Paは騒音レベルでいうと約94dbで、鉄弦アコースティックギターの最大音量@1mやアマチュアオペラ歌手の最大声量@1mよりやや大きいくらい(普通のヴォーカルだと5~25cmくらいのオンマイクで最大94dbくらいではなかろうか)。まあカタログスペックはあくまで1KHzの感度だし、カタログスペックの範囲内でのバラツキ(たとえば-50db±3dbのマイクを2本持ってきたら、両者のゲイン差は最大で6dbになるはず)もあるし、方式によってはバランス受けかコールド落としかでも6dbほどゲインが変わるはずなので、使ってみないとわからないのが実情。許容入力は110~140dbくらいのものが多い(明記していない製品もある)。

超単一指向性など指向性が極端に強いマイクは、近接効果(音源がマイクに近いと低音が強調される現象)が大げさに出たり、軸外特性(ようするに正面以外から入った音のf特)がばらけがちなので、正面±30度くらいの範囲で距離も(オンマイクの場合はとくに)しっかりコントロールしながら使おう(単一指向性なら±60度くらいまで大丈夫)。とくに事情がない限り、単一指向性のものがもっとも安定して使える。無指向性だと近接効果が起きないので雑な使い方がしやすいが、低音は音波自体が拡散しやすく「遠距離で低音が落ちる」現象(エネルギーの大部分が明後日の方向に回り込んでしまう)は避けようがないため、どこでマイキングしても同じというわけではない(ごく遠距離だと空気の特性で高音も落ち、全体としてはカマボコっぽい特性になる:数十mくらいのオーダーでもっとも効率よく届くのは1~3KHz周辺で、人間の声がこのあたりに重要な情報を乗せているのは本当によくできていると思う)。

また、指向性マイクのクセは双指向性マイクのクセが支配的に影響しており、デュアルダイヤフラムの指向性切り替え式マイク(無指向性マイクと双指向性マイクの配分をプリアンプで変更している)ではいづれかのモードでクセが強まる。この意味がわからない人は、指向性切り替え式マイクを1本用意するより、切り替え式でないマイクを複数本用意した方が無難かもしれない。ダイヤフラムが入ったケース(一般にカプセルと呼ぶ)を交換して指向性を切り替えられる(というか丸ごと別マイクにできる)モデルもある。カプセル丸ごとでなくグリル部分だけ取り替える方式の切り替えマイクもある(シングルダイヤフラムの単一指向性マイクは横の穴を遮ると無指向性になる、というのをわざとにやる:まったくの憶測だが、カプセルごと取り替えるモデルでも、ガワのグリル以外同じという機種があるかもしれない)。

マイク本体の形状は、棒型(ペンシルとも:C451など)、ハンドマイク型(ハンドヘルドとも:SM58など)、箱型(U87など)が代表的。箱型はボディとダイヤフラムの軸が垂直に(サイドアドレスと呼ぶ)、ハンドヘルドはボディとダイヤフラムが同軸になっているのが普通で、ペンシルには両方のタイプがあるが同軸の方が多い。棒型は(シングルダイヤフラムの)指向性マイクに向き、ヘッド部分がキッチリ設計されていれば素直な指向性が得られる(ガンマイクもこの延長線にあると考えてよい)。ハンドマイク型は手で持てるのが利点(当然)。箱型はラージダイヤフラムやデュアルダイヤフラムに向く(というか1インチくらいのダイヤフラムだと棒型を採用しにくい)。

たとえばバスドラム用マイク(棒型と箱型の中間的な形状が多い)のように上記の方式を折衷したものもあるし、卵型に近いタイプもハーモニカ用や楽器アンプ用に(まれにヴォーカルなどでも)用いられる。特殊なものとしては、ラペリアマイク(lavalier:ペンダント型の意で、タイピンマイクのほか、楽器本体にマウントするコンタクトマイクや、頭にマウントするヘッドマウントマイクなども含めて言うことがある)、グースネックマイク(自由に曲げられるフレキシブルアームがついている)、ステレオマイク(ポータブルレコーダーの本体マイクなど、単体でステレオできるもの)、埋め込みマイク(部屋に埋め込んでルームマイクにしているものから、録音機器に補助マイクとして内蔵されているものまでさまざま)などが挙げられる。

ラージダイヤフラム(1インチ≒2.5cmくらい)を使用したコンデンサマイクは、高域に癖が出やすく(とくに音源が近い場合や軸を外した場合:オンマイクとオフマイクで性格が変わりやすいということでもある)、機械的強度も低くなりがちである(壊れやすい分値段も高い)。セッティングで音が変わりやすいことを「積極的な音作りのチャンス」と見る場合や、ダイナミックレンジを小音量方向に引っ張りたい(というかオフマイクで使いたい)場合に有効。ラージでないダイヤフラムのホットスポットは16mm前後(2/3インチ弱)で、音速を340m/sとすると21.25KHzの音波が全波長で16mmになるから、その少し下くらいまでを素直に録ろうと思ったら合理的な選択だといえる。少数派だが1/2インチの製品もある。

マイクは基本的に消耗品(超高級品とカプセル交換式の胴部分を除く)なので、あまり気張った買い物をするよりは気軽に使えるそこそこのものを選んだ方がよいと思う。


ラインナップ

ラインナップは多いが、その中心を担うというか「似たようなタイプと価格ならこれと比べてみないと」というモデルがいくつかある。AKGのC214(シングルラージダイヤフラム)、C451B(ペンシル)、C430(ショートペンシル)、SENNHEISERのMKHシリーズ(ガンマイク)、e835とe935(ダイナミック式ハンドマイク)、オーディオテクニカのAT2010(コンデンサ式ハンドマイク)、SHUREのSM58(ダイナミック式ハンドマイク)、SM57(ダイナミック式楽器用マイク)、BEHRINGERのC-2(ショートペンシルペア)、B-1(シングルラージダイヤフラム)、B-5(カプセル交換式ペンシル:無指向性と単一指向性のカプセルつき)あたりだろうか。AKGのカプセル交換式ペンシルは、Blue Lineシリーズ(SE300+CK91=C391B)とUSLシリーズ(C480 B ULS+CK61 ULS=C480 B combo)があり、シリーズ間の互換性はない。

個性的な機種としては、SHUREの565SD(扱いやすいヴォーカルマイク)、55SH Series II(見た目が派手なヴォーカルマイク)、SENNHEISERのMD421MK2(ドンシャリマイク)、e965(ハンドヘルド型コンデンサの高級機)、e902(低音用)、ElectrovoiceのRE20(低音楽器や管楽器など)、AKGのD112(通称ビッグエッグ:公式サイトによると許容最大音圧は「outside measurement range」らしい)、AUDIO TECHNICAのATM25(低音用)などがある。激安機種として、クラシックプロのCM5(ダイナミック式ハンドマイク)とCM7I(楽器用ダイナミック)とCM8シリーズ(ドラムス用)、JTSのTXシリーズ(ドラムス用)とCX-520(ハーモニカ用アクティブ)とNXシリーズ(コンデンサ式ハンドマイク)、SAMSONのC05(コンデンサ式ハンドマイク)、オーディオテクニカのAT8015(ロングショットガン)などがある。16mmダイヤフラムのサイドアドレスには存在価値を感じないが、BEHRINGERのC-1とテクニカのAT2020は価格が安い。

筆者に言わせると、素直な音を録ろうと思ったらダイヤフラム径は16mmが限界で、デュアルダイヤフラムのクセを嫌うならサイドアドレスにするメリットはなく、結局のところペンシルがマイクの基本なんじゃないかと思う(そこをあえて「軽く」はっちゃけたC451Bも、好きか嫌いかと聞かれれば好き)。低音用マイクは特性どうこうより設置のしやすさがポイントだろう(ベースアンプに立てるとか、チューバや弦バスを録るとかいうなら話は別だけど、低音だけ拾えばいい場合は)。ドラムス用のリムマウントマイクなんかも同様で、演奏の邪魔にならないことが最優先課題。ヴォーカルにコンデンサマイクが必要になることは(皆無では決してないものの)めったにないと思うのだが、是非にというなら先にe935を試して、動作原理が静電容量式でないとどうしても嫌だという人にはSAMSONのC05あたり、ダイヤフラムは1インチ以上でないと許さんという人にはMXLの2006(32mmの超ラージ)を使ってもらってはどうか。

リボンマイクのローエンドにはCADがTRION7000、MXLがMXL-R14を出している。音楽用のヘッドセットはステージ用やDJ用を意識したものが中心。ファンタム仕様のラベリアマイクはJTSのCMシリーズとCXシリーズ、ヘッドマウント仕様のダイナミックマイクはテクニカのAT810シリーズがそれぞれローエンド。測定用(音楽用でない)にはBEHRINGERのECM8000(無指向性)があり、本数を仕入れてテストした結果を公開しているサイトのデータを見る限り、なかなか優秀である。

2021年追記:マイクの価格感(あくまでイメージね)について、筆者のごくごくぶっちゃけた見解。1インチダイヤフラムのサイドアドレスは1万円前後がローエンドで、BEHRINGERのB-1、AKGのP220、MXLのMXL-V67Gあたりが選択肢。安くなったとはいえC214とは3倍くらい価格が違う。16mmのサイドアドレスは、BEHRINGERのC-1かCLASSIC PROのCM3でいいんじゃないか。5千円も出すようなジャンルではないと思う。ペンシルは、BEHRINGERのC-2が圧倒的に安く、さっきサウンドハウスのサイトを見たら¥4,982(¥5,480 税込)だが入荷未定、エレクトリだと¥6,160 (税込)だった。どちらにしても、ペアでこの価格は驚異的。BEHRINGERのB-5、SAMSONのC02、MXLの606とCR21、PRESONUSのPM-2あたりが、2本で1万~1万5000円くらいのローエンドを埋めている感じ(AKGのP170は微妙に高いか)。やはり、C451BやC430と比べると3倍くらいの開き。ハンドヘルドコンデンサーのローエンドも1万円くらいで、オーディオテクニカのAT2010、MXLのMM130、AKGのC5といったところ。JTSのNX-9はたしかに安いが・・・これってSONYのECM-PCV80Uあたりと比べるクラスのマイクだよねぇ(実物見たことないから違うのかもしれないけど)。どのみち、AT2010やC5のハイレベルな無難さを考えたら、そこまで値段を追求しなくてもという気はする。ハンドヘルドダイナミックは、CLASSIC PROのCM5が安すぎて、やはりローエンドは終戦状態。ただ、オーディオテクニカのAT-X11、SONYのF-V420、SHUREのPGA48とSM48など3000円前後のラインナップに意味がないかというと、そんなことはないと思う。むしろ苦しいのは5000円前後のクラスで、SENNHEISERのE835が7000円ちょい(いつのまにか値を戻して1万円くらいするSM58よりも、筆者はずっと好き)で売られているのを考えても、よほど個性がないと存在感を出せないだろう。SM57も少し値上がりして8千円台になっているが、JTSのパチモノPDM-57が安くてけっこういい出来で、57シェイプ以外でもCLASSIC PROのCMシリーズと極限ローエンドを競っている。取り回しのよいショートシェイプの機種が増えたのも嬉しいところ。

筆者が試した極限ローエンド機種については、ローコスト制作の感想コーナーにある安いマイクのページを参照。


その他

棒状マイク向けの汎用ショックマウント(サスペンションホルダー)は、AKGのH30やオーディオテクニカのAT8410Aあたりがローエンドで5000円前後。箱型のコンデンサマイクにはたいてい専用マウントがついてくるが、別途用意するならクラシックプロのMS40が安い(「RODE NT1A、NT1000、NT2などに適合」で「NEUMANN/U87やRODE/NT2Aには適合しません」とあり、サウンドハウスのカタログだとNT1000が「5.4(直径)」でNT2-Aが「径55mm」なので、その周辺が限界サイズなのだろう)。太めのマイクに使えそうな機種はRODEのSM2あたりか。SHUREはハンドマイク用にA55M(一般的なショックマウントではなく、メーカーの分類ではアイソレーションマウントというカテゴリ:SM58などに対応)というのも出している。

ポップガードのローエンドは、クラシックプロのPG6(15-33)、K&Mの23956(13-30)と23966(20-30)、トモカのMS-130(不明)あたりで、2500円くらい(括弧内の数字は半径とネック長のだいたいの数字)。だいたい、12cm前後が小型、15cm前後が中型、20cm前後が大型くらいか。小さい方が取り回しがよく原稿を見ながらの録音などに便利。大きいと特性を素直にしやすくなる。

デシケーターは高価なマイクを持っているのでなければ必須ではない(食品用の密閉容器とシリカゲルで十分)と思うが、たとえダイナミックマイクでも、ヴォーカル録音の後など(人間の息はかなり湿っている)はちゃんと湿気が抜けてから保管するよう心がけたい。

マイク/ラインアンプは5000円~1万円クラスのミキサに十分な性能のものがついてくる。単品アンプも5000円くらいからラインナップがあり、もうちょっと頑張るならdbxの286Aが2万円くらい。286Aは機能的には申し分ないのだが、ラックサイズになる(だいたい、マイク用プロセッサはフロアタイプのラインナップが乏しい:きっと需要の問題なのだろう)。

ひと手間かけても構わないなら、マイク/ラインアンプの自作キットが安い(ELEKITの製品だと、ドライバーだけで組み立てられるPU-2103が1300円くらい、NT-5で900円くらい、エスケイ電子のTW-141で700円くらい:電池や導線や各種端子を買っても合計2000円まではかからないだろうし、ACアダプタが欲しいなら600円くらい)。補聴機器勉強会自作への道(ウチと名前が似てるな・・・)というコーナーに、TW-141を使った製作例があるので、試してみたい人はそちらを参照(筆者は作ったことがない)。


オマケ

ダイナミックマイクとコンデンサマイクの特性の違いについて、いろいろなことが言われるが、ようするに、ダイナミックマイクは「オンマイクに適する」「低域にクセを出すセッティングにしやすい」「丈夫で吹かれや衝撃に強い」マイクで、コンデンサマイクは「オフマイクに適する」「高域にクセをつけた製品を作りやすい」「繊細で吹かれや衝撃やホコリや湿気に弱く大音量対応品が高価な」マイクである。一番の問題はオンで使うかオフで使うかなのである。

コンデンサマイクだからルームアンビエント(部屋の響き)がよく入るというのは誤りで、オフマイクだから反響音が相対的に大きく、また高域にクセがあると特定の残響が目立つことがあるというだけである。同様にダイナミックマイクだから低音のパンチが効くというのも誤りで、オンマイクだから近接効果が出て低域にクセがつき、またストロークも相対音圧も大きい低域の音に耐えやすい(よくコンデンサマイクに最大音圧~デシベルとか売り文句がついているが、ストロークは周波数に反比例するので1KHzとかを基準にしても意味がない)というだけである。

なお、オフめのマイクを音響的にプアな環境(一般住宅とか)で使うための、リフレクションフィルターとかアンビエントサウンドアッテネーターなどと呼ばれる器具(マイクを防音材で囲ってしまおうという発想)も市販されているが、もし音を吸収/拡散させたいなら「できるだけマイクから遠いところ(=壁と床と天井)でやる」のがスジなわけで、マトモなスタジオでの出音に似せるために使うよりはクセ(実際の製品を使ったことはないが多分それなりに出るはず:1KHzの音波で波長が約34cmなので、マイクを囲うような配置だと面白い周波数域に効果が出そう)を積極的に利用して音作りする方が無難なのかなという気がする。自作する人もけっこういるようだが、条件によっては、マイクの真後ろ1mくらいにバスタオルか何か吊した方がよいかもしれない(ヘタに板状のモノを置くと音の反射が面倒なので:といいつつ筆者自身は自作に手を出したことはない)。

ドラムスのマルチマイクなどでマイク保護とかぶり減少のために使う器具はアコースティックシールドなどと呼ばれ、そういった発想ならマイク自体を囲うのもアリだと思う。マイクをスピーカユニット(発熱が大変なことになるのでセパレート式で、アンプヘッドは別に用意する)が入った箱(これがキャビネットに相当する)の中に入れてしまう発想の、サイレントボックスとかスピーカーボックスとかアイソレーションボックスとか呼ばれる機器もある。

ムービングコイル、リボン、コンデンサ、エレクトレットコンデンサ以外のマイクとしては、携帯機器用でエレクトレットコンデンサに取って代わったシリコンマイク(熱に強くはんだ付けがラクらしい:こういった機器を用いる分野をMicro Elerctronics Mechanical System=MEMSと俗称する)、無線などに使われるセラミックマイク(圧電マイクの一種:ロッシェル塩を使ったクリスタルマイクと同じ原理)、昔の電話機に使われていたカーボンマイク(もっと昔、ダイナミックマイクが普及する以前は録音や放送にも使われたそうな)などがある。なお、昔の無線機や放送機器には10から50KΩくらいのハイインピーダンスマイク(現在では死語に近い)が使われていた(ムービングコイルのものではEVの638とか)。



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