ケニー・ロバーツ(アメリカ)、フレディ・スペンサー(アメリカ:85年にも一発かましている)から引き続いて84年から92年までの4強:安定感のエディ・ローソン(アメリカ)、パワフルで豪快なワイン・ガードナー(オーストラリア)、独走逃げ切りのウェイン・レイニー(アメリカ)、レイトブレーキの差し馬ケビン・シュワンツ(アメリカ)には輝きがあった。さらにマイケル・ドゥーハン(オーストラリア:89年デビューで90年3位)が割って入った1991年は本当に豪華なシーズンだった。
その後ドゥーハン時代とロッシ時代が続き、ようやくニッキー・ヘイデン(アメリカ)がひっくり返したが800cc化で失速する。2007年から2012年までの4強は、バレンティーノ・ロッシ(イタリア)、ケーシー・ストーナー(オーストラリア)、ホルヘ・ロレンゾ(スペイン:2008年デビュー)、ダニ・ペドロサ(スペイン)。このメンバーでのベストシーズンはやはりロッシが元気だった2007~2009年だろう。勝負勘やセンスといった部分ではもちろん互いに遜色はないが、技量でマシンを操るロッシとストーナーに対し、ある程度マシンに任せて性能を引き出すロレンゾとペドロサと、世代の違いのようなものがある(2010年以降のレースでは後者の乗り方が強く、またスペイン出身のライダーが得意とするスタイルでもある)。
2007年はストーナーが猛威を振るい、2008年と2009年はロッシが盛り返す。2010年は第4戦イタリアGPのフリー走行で右足を骨折したロッシをロレンゾ(前年2位)が置き去りにした年で、2011年はストーナーがホンダに移って勝利(どうやら、2009年シーズン途中に体調を崩したらしく、最終的に乳糖不耐症と判明するのだがこの時点では原因不明で、チームともいろいろあった模様)、さらに2012年にはロレンゾが盛り返す、と目まぐるしい。いっぽうのペドロサは、その6年間に2位3回3位2回4位1回と微妙に勝ち切れない。ロッシはドゥカティに移った2011年以降苦戦する(2年間で優勝が1度もない)が、ヘイデンよりはポイントを取っており、技量が衰えたというわけではない模様。
面白いのはヘイデンの成績で、2007年の800cc化以来、年に1回か2回表彰台に上がりつつ終わってみると1桁順位の後ろの方、というシーズンが2012年までずっと続いている(チャンピオン獲得直後の2007年は表彰台が3回、ドゥカティ移籍直後の2009年は13位、2012年は最高順位4位と、多少の波はある)。2013年からは、同じような傾向でやや成績のよいドヴィツィオーゾがチームメイトになる。
耐久レースといえば鈴鹿(初回開催1978年)、1980年からFIM世界耐久選手権に組み入れられた(第3戦)。鈴鹿で勝っているイメージが強いのはやはりホンダだが、近年の世界選手権全体ではスズキが強かったりする。2003年から2012年まで、スズキが7勝でヤマハが3勝、ホンダは2001年が最後(同じ期間に鈴鹿では8勝しているので、競争力自体ががないわけではないらしい:カワサキは耐久にあまり熱心でないらしく、鈴鹿での優勝は1993年の伊藤ハムレーシング・カワサキだけ)。
2012年の世界耐久選手権は、スズキ、BMW、ヤマハ、ホンダ、カワサキ、以下日本メーカーの車両となっており、スーパーバイクに積極的なイタリアメーカーも耐久にはあまり熱心でないようだ。
トライアルは日本人がチャンピオンになったことのあるレアなジャンル。フジガスこと藤波貴久は、1999年から2010年までの12年間で、チャンピオン1回、2位7回、3位4回を記録している。チャンピオンが一時代を築く傾向が強いトライアル世界選手権で、ドギー・ランプキンとトニー・ボウの間の3年間をアダム・ラガ(4スト化直後の2年間チャンピオンを守った)と分け合う形になった。
ラリーレイドではKTMが圧倒的に強く、シリル・デプレとマルク・コマが10年近くマッチレースをやっている。こちらも21世紀に入って排気量制限が変わり、2011年からは450ccが上限になった(エンジン交換にペナルティタイムが課されるようになったのも2011年から)。
MotoGPはストーナーが2012年限りで引退(ワクワクしながらバイクに乗ることができなくなったという旨の発言をしている)、2013年のシーズン前半をペドロサとロレンゾが引っ張っている。ロッシとヘイデンは苦戦、間にマルケス、クラッチロー、ドヴィツィオーゾが割り込んだ格好。ヤマハに復帰したロッシはロレンゾから、引き続きドゥカティに乗るヘイデンはドヴィツィオーゾから、エースライダーの座を奪回できていない。余談だが、ストーナー(85年生れ)、ペドロサ(85年)、クラッチロー(85年)、ドヴィツィオーゾ(86年)、ロレンゾ(87年)は同年代。ロッシ(79年)とヘイデン(81年)がベテランでマルケス(93年)が若手といった構成。ロレンゾ、ペドロサ、マルケスとスペイン出身ライダーの活躍が目覚しい。
ペドロサを除くMotoGPチャンピオン未経験者の中では、2012年のMoto2チャンピオン(スッター)マルケスの健闘が顕著(ルーキーライダーがサテライトチームからしか参戦できない「ルーキールール」ってどうなったんだろう?ストーナーが怒ってたからやめたのか?)。第4戦フランスを終了した時点で、チームメイトでポイントリーダーのペドロサに1ポイント差に迫っていた。次戦イタリアでは終盤でそのペドロサをかわし、2位フィニッシュ目前となったところで転倒リタイア。クラッチローはスーパーバイク出身で、サテライトチーム(テック3)ながら安定した成績。フランスとイタリアの連続表彰台でドヴィツィオーゾとロッシをやや引き離し、リタイアしたマルケスに迫った。2014年の復帰を目指すスズキがエースライダーとして有力視しているなんていう話もあったが、結局ヘイデンが抜けるドゥカティに決まった模様。
ペドロサやロレンゾに追いつけないのはともかく、ロッシがクラッチローにやられっぱなしというのはあまり見たくない。イタリアでクラッシュに巻き込まれ1週目で終わってしまったのが痛いが、怪我はなかったようなので今後に期待。ドゥカティはどうなんだろうねぇ。前年まで安定してヘイデンより好成績だったドヴィツィオーゾが今年はトントンくらいの活躍なのを見るに、ホンダとヤマハに対してビハインドがあるのは間違いなさそう。
ペドロサは相変わらず安定しているので、ホンダ有利なサーキットでマルケスがロレンゾのポイントを削る場面がどれだけあるか、ということがチャンピオン争いの鍵になるかもしれない。イタリア終了まで、1位獲得はペドロサとロレンゾが各2回、マルケスが1回、それ以外で表彰台に上がっているのはクラッチローとロッシだけ。
と思ったらペドロサとロレンゾが怪我をしている間にマルケスが2連勝、第9戦ラグナ・セカ終了時点でポイントリーダーのマルケスを、16点差のペドロサと26点差のロレンゾが追う形になった。開催間隔が短いところで負傷した間の悪さはあるが、両者ともこのまま黙っているとは思えず、巻き返して混戦になれば面白い。第7戦で復活優勝したロッシはロレンゾとの差が20点ありもう少し我慢が必要か。クラッチローとの差も1点とあってないようなもの。ヘイデンは今期でドゥカティを離れる模様、ポイントではドヴィツィオーゾが先行。
結局マルケスが逃げ切った。イタリアでのリタイヤとオーストラリアでの失格以外全部表彰台という、本来ならペドロサがやるはずの勝ちパターンで見事総合優勝。ロレンゾはイギリスから最終戦まで、2連勝、2位、3位、3連勝と怒涛の追い上げをしたが4ポイント差で届かず、結局ドイツでの欠場が響いた形になった(優勝8回はマルケスの6回よりも多い)。ペドロサは優勝3回、2位7回、3位3回と堅調だったがロレンゾに30ポイント及ばず。ロッシはトップ3以外で唯一の優勝(オランダ)を記録し、18戦のうち4位以内が14回、表彰台6回と食らいついたものの、5位のクラッチローとも3位のペドロサともけっこうポイント差がついた。10戦めのインディアナポリス以降ほとんど上位4人のレースで、表彰台はもちろん、誰かがリタイヤしたり失格になったりということなく他のライダーが4位以内に入ったのは、ロッシが6位になった日本グランプリだけ(そのロッシは、インディアナポリス以降の9戦で4位6回、ペドロサがリタイアしたスペインとマルケスが失格になったオーストラリアで3位と、今期を象徴するような成績)。端っこの方ではART(エスパルガロが93ポイントを稼いだ)がマニュファクチャラーズで99ポイントを獲得、155ポイントのドゥカティ(ドヴィツィオーゾが140ポイント、ヘイデンが126ポイント)の背中が見えた。ヘイデンが失速しつつあるように見えるが、もう1発くらいかましてほしいところ。
ロッシはヤマハに戻ってまずまずの復調ぶり。昔から「環境が変わったら1年準備して2年目から勝負」というスタイルなので、来期に期待できそう。長年手にできなかったチャンピオンシップを1発で持っていかれたペドロサは心中穏やかでないだろうが、マルケスの前に出られなかったわけではない(どちらもリタイヤや失格にならなかったレースでは4勝9敗)し、ロッシの前はまずまず確保していた(同じく11勝3敗)ので、来期のチーム戦略次第といったところか。ロレンゾは(とくにシーズン終盤で)ホンダの方が速かったようなコメントがありつつも十分競争力を示しており、大きなアクシデントがなければ来期も主役の一人だろう。現在の環境での力量としては4人の中で頭ひとつ抜けているかもしれない。マルケスは「全ツッパ全通し」で勝ってしまったわけだが、不調になっても強気を維持できれば間違いなく強い(本来こういうタイプは「無冠の帝王」を長くやって忘れた頃にチャンピオンになるものなのだが、今年は勢いが勝った)。レギュレーションやらレースディレクションやらで、ストーナーのいう「ワクワクするようなレース」とはどんどん離れていっている気もするが、ともかく来期も面白いレースを期待したい。
2014年はマルケスが開幕10連勝で早々にシーズンを終わらせてしまった。ロッシはひとまず2位を確保。十分に戦える位置には来たが、不調が伝えられるロレンゾと右腕にトラブルを抱えるペドロサが精彩を欠いただけとも取れる。4強を追うのはドヴィツィオーゾ、続いてエスパルガロ弟。復帰を目指していたスズキは最終戦のみの参加で結果はリタイア。
2015年はロッシが前半をリード、ロレンゾも復調したといってよさそうで、4~7戦の4連勝で食らいつき、ペナルティでロッシが最後尾スタートになった最終戦で逆転、5点差で年間チャンピオンを獲得。ホンダは大いに苦戦。マルケスは1位と2位を4回づつ(ちなみにロッシは1位4回2位3回)獲得し遅いわけではないが、リタイア6回は痛すぎた。ペドロサはシーズン中の手術に踏み切り、復帰後徐々に調子を戻しドイツで2位までは来た、が失速して年間4位。後半はけっこう速かったがマルケスの前でゴールしたのが1回だけとやや寂しい。ドゥカティも健闘、開幕から3戦連続2位を取ったドヴィツィオーゾが失速してもイアンノーネが盛り返し、9戦終了時点ではギリギリ粘ってマルケスの前の総合3位、17~18戦でリタイアしたのが響きペドロサにかわされ最終的には18点差の年間5位だった。ヤマハサテライトのスミスも追い上げたが届かず7点差の年間6位、ドゥカティワークスが面目を保った。本格復帰したスズキはエスパルガロ兄が105点取ったのでまずまずだろう。挑戦が噂されたカレックス(ドイツのフレームサプライヤー、Moto2で大活躍)は参戦せず。
2015年終盤のモメごと(ロッシが「八百長」と呼んでいる事態)は残念ではあるが、個人的にはペドロサ(2006年のポルトガルでヘイデンに突っ込んだ経験からか、ライダー同士の不和には控え目な立場を取っている模様:この人もスペイン人なんだけどね)の言われようがカワイソウである。ロレンゾ曰く「ヴァレンティーノ、ケーシー、マルクの3人は、最強の、21世紀におけるトップライダー」だとか、ロッシ曰く「終盤はダニでさえ2秒も縮めてる(のにマルケスがダラダラ走ってる)」だとか、酷い言われよう。まあ年間チャンピオン取ってないし仕方ないと言えば仕方なくもあるが。腕も治ったようだし、本人も復調を実感してるみたいだし、奮起を期待したい。2024年追記:ロッシのインタビューがmotorsport.comに出ていた(https://www.motorsport.com/motogp/news/rossi-takes-another-aim-at-marquez-over-bitter-2015-motogp-feud/10654784/)。うーむ、10年近く経ってもメディアの前でコレかぁ。お互い引退したら仲直りみたいな雰囲気ではないね、こりゃ。
2019年もマルク・マルケスが強い。一人だけ違うことをやっているのは明らかで、それが何なのかずっと疑問だったのだが、Mat Oxleyという人のレポートが大変興味深い。曰く、マルケスはコーナー進入時にフロントを(もちろんコントロール下で)ロックさせているそうな。そう言われて見返せば、マルケスだけ変なところにブラックマークを残している。同じ話題についてチームメイトのクラッチローは、前後ブレーキを使ったコーナー進入から中盤までのバンクコントロールが他のライダーと決定的に違う、とコメントしている。フロントが切れ込みそうになったとき、ヒジで地面を押してバランスを取っている(そのための肘擦りらしい)というのも話題になった。ブレーキとスリップコントロールで思い出されるのは、やはりドゥーハン(脚を怪我して手レバーのリアブレーキを使っていたので有名)とロッシ(リアを意図的に滑らせる走り方を流行させた)だが、滑らせている(のか滑っちゃってもいいマージンなのか不明だけど)のがフロントとなるとこれはまたとんでもない話。この走り方も「MotoGPでは普通」になるときが来るのか、マルケスだけの特異能力として語り継がれるときが来るのか、まだわからない。
追記:クアルタラロも、旋回後期(というか加速初期)にフロントブレーキを薄~~~く当ててフロントフォークを伸ばさないという曲芸をやっているらしい。マルクが「ビデオで見たけどあれはマネできない」と言ったとかなんとか。リアをずらしてパタっと寝かせて肘ズリズリさせてムクっと立ち上がるマルクに対して、レイトブレーキからスライドさせず路面に貼り付いたように曲がるクアルタラロ。なかなか面白い対比なのに2020年は対決が見られなかった。
追記:24年シーズンにマルクがドゥカティに移って「他のライダーよりバンクが深いのにフロントが流れない」「あれは誰にも真似できない」「本当に極限までプッシュできている」なんて声も聞こえてきた(いちおう念のため注記しておくと、GPマシンのバンク角は60度前後が限界で、マルクがそれより深く倒しているということではない:他のライダーはフルバンクまで寝かさないようなコーナーでも、限界まで倒しているという意味)。
2020年の混戦(ミシュランがリアタイヤの構造を変更したらしく、前半戦は適応競争になった:第2戦スペインでのマルクのケガだけは残念)も面白かったが、2021年はもっと面白い。台風の目はやはりドゥカティで、直線で明らかに速く、ほとんど反則級なのだが、タイヤ(ミシュラン)マネジメントのシビアさは年々増しているようで、終盤にペースが落ちる(直線で速いことがどれだけタイヤにストレスを与えているのかわからないけど、きっと多少はあるんだろう:直線でもコーナーでも他より速いならブッチギリになるはずで、ドゥカは他のマシンより強く加速して強く減速していると考えるのが自然)。去年ここで踏ん張っていたのがスズキ勢で、今年もその傾向は続いているのだが、初戦と2戦めを制したのはヴィニャーレスとクアルタラロが化けたヤマハ。どちらも勝ったレースは異次元の走りで、ヴィニャーレス曰く「やっとオーバーテイク可能なマシンになった」そうだが、どう見てもラップペースが他のライダーとかけ離れているし、クアルタラロ曰く「リアタイヤの保たせ方がわかってきた」そうだが、どう見ても終わったリアタイヤでズリズリ踊りながら走っている。いやー、マルクの復活(と2戦終わって地味にポイントリーダーのザルコが、去年のミールみたいに気付いたら勝っていないか)が本当に楽しみだ。
第8戦のドイツでマルクがついに優勝した。いやー、感慨深い。ランキング争いを引っ張るのは、チャック全開走行が失格にならなかったおかげでポイントを拾えたクアルタラロ、少し離れてドゥカティのザルコ・バニャイア・ミラー、トップグループにギリギリ残っているのがミールとヴィニャーレス、遅れを取りながらも食らいついてはいるのがアプリリアのアレイシ。ヤマハが好調なように見えるが筆者の目には、クアルタラロが覚醒しただけでマシンには問題が多いのではないかと映る。ヴィニャーレスも頻繁にマシンへの不満(オーバーテイクができない)を口にしているし、モルビデリだってケガをしたとはいえこんな成績しか取れないライダーではない。リンスもケガらしく、ミールとのポイント差がけっこう開いた。今年は第21戦まで予定されているとはいえ、クアルタラロvsドゥカティ3台という構図はしばらく続きそう。マルクは今季初優勝したものの慎重なコメントで、おそらくだがホンダもマシンの競争力がもうひとつ(複数のライダーから、電制システムが関係した予期せぬ転倒が起きるという指摘がなされている)のようだから、追い上げが見られるとしてもシーズン後半になりそう。現状で技量の飛びぬけたライダー2人が、体調とマシンパフォーマンスに苦戦している状況からどう抜け出すのか興味深い。第13戦のアラゴンではマルクとのデッドヒートを制してバニャイアが初優勝。以前からロレンゾ父(チーチョさん:ライディングスクールを経営しているそうな)が言いたい放題(「ミールはワシが育てた」とか)なのが話題になることがたびたびあったが、最近はロレンゾ本人もことあるごとにコメントを出している。これがまた(父とは対照的に)冷静かつ的確で、さすがはチャンピオンといったところなのだが、同時に妙に攻撃的かつ常に上から目線で、ロレンゾらしく実に微笑ましい。刺激されたのか、ストーナーもちょこちょこコメントを出すようになってきており、こちらも空気をまったく読まないいつものストーナーで、たいへん清清しい。
2021年はクアルタラロの年だったよう。シーズン終盤苦しんだが貯金で逃げ切った。2022年も波乱が多い中、第5戦ポルトガル(アウトドローモ)が終わった時点で、69ポイントでリーダーのクアルタラロ、同点で続くリンス、やたら好調なアレイシ、1年落ちのドゥカティで複数回優勝一番乗り(第1・4戦)のバスティアニーニ、51ポイントのザルコまでが18点差でひしめいている(第5戦のもらい事故が響いただけで、ミールもリンスと遜色ない感じ)。・・・とかなんとか言ってたら、突如スズキがMotoGP撤退を表明。なんてこった。チャンピオン争いは、第11戦オランダが終わったところでクアルタラロ(172P)とアレイシ(151)が引っ張っている。クアルタラロがオランダでコケたのもあるが、アレイシがこの時期にこの位置に居るのは(優遇措置があったとはいえ)凄い。表彰台は1位1回3位4回でも、安定してポイントを稼いでいる(クアルタラロが普通にシーズン終盤まで走り切れば、20年のミールみたいな勝ち方はちょっと厳しいかもしれないけど)。3位争いが熾烈で、114~91Pの間に、ザルコ、バニャイア、バスティアニーニ、ビンダー、ミラーとドゥカティ4人+ビンダーがひしめく。ドゥカはマシンの評判はよいものの、波に乗り切れないライダーが多い印象。70P台にミール、リンス、オリヴェイラ、マルティンで、60P台にヴィニャーレスとマルク。ミールとリンスはチーム解散決定、マルティンは右手の神経を手術(復帰後はひとまず調子いいみたい)、ヴィニャーレス(序盤は踏んだり蹴ったりだったが、オランダGPで3位表彰台)は成績が上向いているがまだ本調子かどうかわからず、マルクも6月に再手術をして9月復帰はムリみたいなニュースが流れていた。この中で好調といえるのは、ビンダーとオリヴェイラ(どっちもKTM)だろうか。ドヴィツィオーゾは10Pに甘んじ来期のMotoGP不参戦を表明、21年に引退したペトルッチはダカールラリーで好成績を残し、タイではMotoGPにスポット参戦した。クアルタラロがシーズン終盤の入り口くらいで失速、もらい事故やセッティングミス(ヤマハ機はフロント空気圧に敏感らしい)でノーポイントレースが続き、第17戦タイが終わって残り3戦、クアルタラロ(219ポイント)、バニャイア(217)、アレイシ(199)、バスティアニーニ(180)、ミラー(179)と大接戦を演出してしまった。上で好調と書いたビンダーどオリヴェイラは、強さを見せるレースもあるがチャンピオンシップスタンディングでは第2グループ止まり、ミラーに続いてビンダー(154)、ザルコ(151)、オリヴェイラ(131)、マルティン(127)、ヴィニャーレス(122)、ミラー(101)あたりまでが、ややバラけながらもグループを形成している。
結局、2022年はドゥカティの年だったようで、バニャイアが差し切った。ホンダとヤマハが(コロナ騒ぎで現地入りの頻度が制限されコミュニケーション面でハンデだったとはいえ)「エース以外全滅」病に悩まされ、スズキが撤退する中、アプリリアが躍進しKTMが力を発揮し始めたシーズンでもあった。しかし終わってみると、バニャイア(265)、クアルタラロ(248)、バスティアニーニ(219)、アレイシ(212)、ミラー(189)、ビンダー(188)、リンス(173)と、実はバランスの取れたシーズンだったのかもしれない。ついにチャンピオンになったバニャイア、実は2021年エンジンを使っていたらしいクアルタラロ、ワークスに移るバスティアニーニ、終盤のモタつきをどう活かせるか注目のアレイシ(ヴィニャーレスが入ったのは結果的にプラスだったよう)、ライダー間で評価が高いビンダー、最後に意地を見せたリンスと、来年が楽しみな面子が上位に並び、マルクも(マシン開発は遅れてるみたいだけど)シーズン終盤に復調の兆しを見せた。2023年はスプリントレースが追加され、チームも選手も手探りの状況。マルクとクアルタラロがマシンや怪我で苦戦する中、バニャイアも調子に乗り切れない。フランスGPが終わった時点でのポイントリーダーはバニャイア、1点差でベツェッキ、ビンダー(ドゥカティ以外で唯一の上位)とマルティンがやはり1点差で3位争い、5番手争いはザルコとマリーニ、以下ビニャーレス、ミラー、クアルタラロ、リンス、アレイシ、アレックス、モルビデリまでが団子状態、ミールとマルクはポイント上では完全に沈んだ。・・・終わってみると、なんだかんだで順当勝ちしたバニャイア、スプリントレースでポイントを稼ぎトップに迫ったマルティンが他を引き離し、ベツェッキとビンダーが3位グループ、ザルコ・アレイシ・ビニャーレス・マリーニとアレックス・クアルタラロ・ミラー・ジャンアントニオくらいまでが勝負に絡めていた格好になった。ライダーの動きも激しく、リンスがホンダからヤマハに、モルビデリがヤマハからドゥカティに、マリーニがドウカティからホンダに、ジャンアントニオがドゥカティ内でVR46に移動、アコスタがKTMからデビューし、ポルはテストライダーに(で全部かな?)。
2024年に向けては動きが激しい。ライダーの技量と経験では、やはりマルクとクアルタラロとバニャイアなのだろうが、来年から優遇措置(コンセッション)が設けられビンダー・アレイシ・ビニャーレスにもチャンスがありそう。とはいえ、2024年の主役になりそうなのはバニャイア・マルティン・マルクで、ドゥカティの優位はそう簡単に揺るがなさそう(ウイングレットはもともと禁止されていたわけだし、マシンのレギュレーションも次の機会にはなんとかして欲しいが、それより何より8台参戦はさすがにやりすぎ:興行として儲かる地域がヨーロッパである以上、ヨーロッパメーカーが活躍してくれるのは日本メーカーから見てもありがたいことのはずだが、今回はちょっと度が過ぎたというか、長期的に安定して熱戦を演出しようとすればコンセッションの導入しかなかったのかもしれない)。それでも、ホンダのミール・マリーニ+ザルコ・中上、ヤマハのクアルタラロ・リンスは、現状で考え得るベストに近いラインナップ(だって、バニャイア・マルティン・マルケス兄弟・エスパルガロ兄弟・ビニャーレス・ビンダー・バスティアニーニ・ベツェッキくらいまでは、引き抜きたいと思っても現実的じゃなかったでしょ:せめて契約切れの24年末ならまだしも)。ミールとリンスの出来はメーカーの明暗も左右しそうだが、立場的にはモルビデリも崖っぷち、シーズン終盤に頑張ったジャンアントニオや出遅れが響いたバスティアニーニなんかも、24年の活躍度合いが翌年以降に大きく響きそう。上位ライダー陣で筆者が注目しているのはクアルタラロで、残った自分と出て行ったマルク、去ったモルビデリとやってくるリンス、4台体制でコンセッションを活用できそうなホンダと2台のままのヤマハ、避けたいリスクと出したいリザルト、など実に微妙な環境に身を置くことになりそう。
GPチャンピオンをカテゴリ分けするとどんな感じになるだろう。アゴスチーニ(のレースは映像でも見たことないけど)、ドゥーハン、ロッシ、マルク・マルケスはやはり風格があるというか、一時代を築いたイメージが強い。2024年は、バニャイアにこの仲間入りができるか、マルクがさらに頭一つ抜け出た存在になるのか、という分水嶺の年になるかもしれない。ローソン、レイニー、ロレンゾは文句なしに速かった(古くはジェフ・デューク、ジョン・サーティース、マイク・ヘイルウッドといった面々もすごかったそうな:聞き齧り100%)。ホルヘ・マルティンはこの領域にどこまで迫れるだろうか。ケニー・ロバーツ(シニア)やケーシー・ストーナーは、神懸り的な強さを見せた。クアルタラローはこれまでのところツキがないが、環境さえ嚙み合えば仲間入りができる実力はありそう。マモラやペドロサやドヴィツィオーゾはシルバーコレクターとなってしまったが、バスティアニーニやベツェッキはその呪縛から逃れられるのか。ビンダーはスペンサーやシュワンツやガードナーのようにひと花咲かせられるのか(スタイルは違うかもしれないが、なんとなくノリックを思い起こさせるノリを持ったライダーだと思う)。リンスやヴィニャーレスやアレイシが、ケニー・ロバーツ(ジュニア)やヘイデンやミールのように一発かますチャンスは来るのか。こうしてみると、2024年はかなり楽しみなシーズンになりそう。
レースの内容とはまったく関係ない話だが・・・2024年のホンダワークスのマシンカラーがちょっと興味深い。ホンダのマシンがカッコよかったのはやっぱり、ドゥーハントリコ(1998前後)とかRC211V時代(とくにフロントが紺色の、たぶんヘイデンがタイトル取った年のやつ)とか、「レプソルカラー」と「ホンダの主張」がせめぎあってるイメージのときで、レプソルが押しすぎた近年のオレンジバイクも、ホンダが押しすぎた今年の青バイクも、あまり筆者好みではない。好みではないのだがこれはこれで、ホンダが陥った混迷と前進に向けた奮闘を象徴できているような気もする。レプソルとのスポンサー関係は24年末で切れるらしいから、来年はおそらくまたガラリとイメージが変わるのだろう。SBKのファイアーブレードっぽい赤青(23年12月にヘレスで走らせてたみたいなの)になったらいいなぁ(MotoGPでもSBKでも、ドゥカティは赤だしヤマハは青なんだから、ホンダは赤青ってことでいいじゃん)。
24年はチャンピオンシップも接戦だが、来季に向けてライダーの大移動があった。8月末現在の見通しは、ドゥカティワークスがバニャイア+マルク、セミワークスっぽい扱いになったVR46がジャンアントニオ(最新機)+モルビデリ(型落機)、グレシーニがアレックス+おそらくアルデゲル。アプリリアはワークスがマルティン+ベツェッキでRNFから引き継いだトラックハウスがフェルナンデス+小椋。KTMはワークスがビンダー+アコスタでテック3がバスティアニーニ+ビニャーレス。ホンダはマリーニ+ミルとザルコを確保したもののLCRの1シートが埋まっていない(Moto2のソムキアット・チャントラに声を掛けているらしい:少なくともあと1年なら、中上でダメな理由も考えにくいというか、ルーキー乗せるほどの余裕はなさそうに見えるのだが)。ヤマハはクアルタラロ+リンスを確保して、新契約のプラマックにはオリベイラ+滑り込みでミラー。ドゥカティ以外は最新機4台体制、でいいのかな(ホンダとヤマハがよくわかんない)。追記:ホンダLCRはザルコ+チャントラで中上は開発に回るようだ。チャントラはタイ出身ライダーとして期待の星で、アジアタレントカップで優勝、Moto2では19年から21・25・18・10・6位(24年はオーストリア終了時点で10位)と、トップトップの選手ではないが着実に前進していている。
今回の動きの中心にマルクがいたことは事実なのだろうが、主導権を握っていたのはやはりドゥカティではないかと思えてならない。ちょっと筆者の「マイルド陰謀論」を展開してみよう。そもそもの前提として、表彰台がドゥカティに独占されトップテンにもさらに2~3台入って誰も驚かないような状況は、他チームやドルナはもちろん、ドゥカティ自身も望んでいない。表彰台の独占だけでなく、出走台数やトップライダーの独占もファンをシラけさせつつある(そこにリバティメディア(アメリカ企業)によるMotoGPの買収が、是正の圧力を強める方向に働いだのだろうと推測できる:ちなみにドルナスポーツはスペインが本拠)。ドゥカティとしても、残せるトップライダーは2人、残せるサテライトチームは2つが(おそらくリバティメディアの参入後に)既定路線になったのだろう(そしてもしかしたら、その「譲歩」によって3チーム体制継続の言質を取り付けるくらいの駆け引きはあったのかもしれない)。もちろん理想は(多くの人が想像していたように)ワークスがバニャイア+マルティンでマルクをプラマックに(RNFがコケるというアクシデントはあったものの、おそらく想定ではグレシーニがヤマハ行き)、という形ではあったのだろうが、マルクにサテライト・VR46に型落機・プラマックにマルクで納得してもらわなければならないというのは超絶難関だったろう(おそらくマルクはKTMに行っただろうし、VR46がすぐに離脱することはなかったかもしれないが、手札としてはヤマハに乗り換えるオプションを見せていたに違いない:そのうえおそらくはグレシーニを切ることになり、アレックスもプラマックに引き取ってもらう必要があったはず)。これと比較して、ワークスにバニャイア+マルクなら、プラマック(との契約や力関係が、ドゥカティにとってけっこうな重荷になっていたと想像できる:功績考えたら当然なんだけどねぇ)のヤマハ行きは当然の成り行きで、VR46には最新機提供という手土産ができる。
さらに25年のチャンピオンシップの行方も問題になる。たしかにバニャイアは連覇中のチャンピオンだが、マルティンの速さはドゥカティもよく知っているし、前半戦のマルクの凄さも(相当ビビりながら)目の当たりにしていた。ドゥカティとしてはバニャイアが連覇を伸ばしてくれれば言うことがないが、もし負けるとしたら相手は誰であるべきかということは(6分4分くらいで勝てる自信があったとしても)考えざるを得ない。筆者が勝手に想像するに、冷遇してきたマルティンに勝たれると(ワークスに上がって勝つ分にはさすがに不満ではないだろうが)バツが悪いし、KTMに行ったマルクに勝たれでもしたら目も当てられない。そしてこの駆け引きや検討が行われていた時期のKTMは新人のアコスタがガリガリと好成績を手にしており、少なくとも筆者の素人目には「同じマシンにマルクが乗ったらドゥカに勝っちゃうかも」と想像させるに十分な勢いがあった(よほど嬉しかったのか、マルクがアコスタをこれでもかと持ち上げていたよねぇ)。ましてドゥカティは、ストーナーのミラクルパワーが炸裂する光景を目の前で見たチームであり、その記憶は(2007年から17年、2011年から数えても13年で、人も入れ替わっているのだろうが、きっとどこかに)今も残っているだろう。もちろんマルク本人にも、2017~2019年に渡って嫌というほど苦汁を嘗めさせられている。
いっぽうマルクを取ってマルティンがアプリリアかKTMとなれば、乗り換えた初年度にチャンピオンを取るほどの適応を見せる可能性は、少なくともマルクが見せつけていたあの対応力を超える脅威だとは感じられなかったに違いない(ということもマルクは理解して、あれだけのプッシュをしていたのだろう:少なくとも筆者の目には、25年に「ドゥカティ以外」が勝つとしたら「マルクが行った先のチーム」というのが一番ありえそうだ、と思わせるのに十分な迫力があった)。ドゥカティから見て、マルクを取ってワークスチームでチャンピオンになってもらう分には、世間の話題を総ざらいできるだろうし、悪い話ではまったくない(バニャイアと接戦を演じてくれるだけで充分オイシイ:おそらくはドルナにとっても)。で多分、マルクはこれらの情勢を(完全にではないだろうがある程度)わかったうえで、あの「ワークス(かグレシーニとは言ったけどおそらく残る気はなかった、というかドゥカティにとってそのチョイスが不可能だということをわかって言ったのだと思う)以外で走る気はないよ」発言をしたのではないか(策謀を巡らせたとかなんとか言いたいわけではなく、マルクだけに「インが空いた(というかプッシュしまくって空けさせた)から捻じ込んだ」のだろう、きっと)。
おそらくは当事者たちだって全容は理解していないような話なのだろうけれど、こういうことをガヤガヤ言い立てるのもレース観戦の楽しみのひとつだろうし、結果的にはライダーもチームも(少しは)バラけてくれてよかったんじゃないか。ぱっと見た限り、マルティンとプラマック以外は、明らかに不幸にはなっていないような印象。いち早くマルティンを射止めRNF離脱も大事に至らなかったアプリリア、持ち直してきたビンダー(前半戦は「悪い時のモルビデリ」みたいな、いかにも自信なさげで追い詰められすぎな雰囲気だった)と相応の結果は出している(オーストリア終了時点でポイントランク3位)バスティアニーニと腰が据わってきた感じのアコスタに相変わらず唐突に速いビニャーレスでライダーの駒は揃ったKTM、念願のサテライト獲得(しかもあのプラマック)で一息つけたヤマハ、結果はまだ付いてこないが粘り強いライダーを揃えテスト・開発チームにアレイシと中上が加入する(コンセッションでワイルドカードが増えているので、現役ライダー並に走れるテストライダーがいると4.5台分くらいのデータが取れるはず:その後のインタビューによると、アレイシはワイルドカードにそれほど積極的でないらしい)ホンダと、来季が楽しみなラインナップになった。タイヤマネジメントでデータ量のハンデが大きい問題も、もう少しラウンドを重ねればいくらかは改善するだろう。24年のチャンピオンシップも、マルクは早々に「来年モード」に切り替えてしまった(個人的には、アコスタも同じモードでいいんじゃないという気がする:反対にバスティアニーニはもうちょいジタバタしてもよさそうに見える)ようだし、バニャイアに「ワークスの強み」があるのも事実ではある(でなきゃマルクもマルティンも「何が何でもワークス」なんて言わないはず)のだろうが、マルティンがどこまで喰らいつくか見もの。
日本メーカーの苦戦についてもちょっと独自考察をしてみたい。その前に、ドゥカティはかなり前から速かったという指摘をしておく。たしかに、2016年までのドゥカティは(ストーナーがおかしかっただけで)それほど速くなかった。しかしそれ以降2023年までの7年間、ドライバーズランキングでは2・2・2・4位(ドヴィチオーゾ)2・1・1位(バニャイア)とコンスタントな成績を残している(というか、相手がマルクだったのが災難なだけで、ドヴィonドゥカが3連覇していても不思議はなかった)。同じ時期のヤハマは、3位(ヴィニャ)3位(ロッシ)3位(ヴィニャ)2位(モルビデリ)1・2・10位(クアルタラロ)だから、ドゥカティよりも前にいたのは、モルビデリが年間2位に入った2020年(ドゥカの勝ち頭はドヴィ)と、クアルタラロが優勝した2021年(同バニャイア)だけである。それから、近年のモータースポーツは昔のように各メーカーが全力をぶつけ合う場ではなく、レギュレーションで均衡を図ってレースショーを見せる場になっている。ぶっちゃけ、ホンダやヤマハとドゥカティやKTMやアプリリアを比べたら、作っているバイクの数も企業の規模も人も予算も生産・研究資源も桁が違うわけで、正面からの叩き合いは最初から現実的でない(フィリップリードがMVアグスタで優勝した1974年から、バニャイアがトップを獲った2022年までの47年間、日本メーカー以外から年間チャンピオンになったライダーは、2007年のストーナーだけである)。
2016年というと、エンジンECUが統一され、タイヤが16.5インチのブリヂストンから17インチのミシュランに変更されるという変更があった。タイヤ変更(というかサプライヤーの変更)は、日本メーカーへの逆風になっただろう。コミュニケーション面で、日本にある日本の企業を相手にするのと、ヨーロッパにあるヨーロッパの企業を相手にするのとでは、やはり違いがある(という事情はヨーロッパメーカーにとっても(反対の意味で)当てはまっていたはず)。ECUがどうだったのかは想像に頼る以外ないが、800cc時代(2011年まで)に飛躍的に伸びたセンサー制御技術をいったんリセットされたことで、日本メーカーがアドバンテージを失ったのは間違いないし、サプライヤーのマレリ(沿革が複雑な会社で、創業者エルコレ・マレッリの個人事業>イタリアで上場>フィアット・クライスラー・オートモービルズの子会社>投資会社KKRに売却される>KKR傘下同士で元日産系部品会社のカルソニックカンセイと合併>現在のマレリ、でいいのかな)から市販車にも提供を受けるヨーロッパメーカー(とくにドゥカティ)が開発をしやすい状況はあったのだろう(日本メーカーは普段やっているのと違う前提でエンジン開発をする必要に迫られた:そしておそらく、日本人は何でも作り込み勝負にしたがる傾向があるので、これはけっこうな足かせになったと思われる)。さらにこの年から、ドゥカティが4チーム8ライダー(ファクトリー・プラマック・アヴィンティア・アスパー)になり、2017年にはプラマックに最新機を1台供給、2019年にいったん3チーム体制になるが、2022年に4チーム体制に戻る。また前年の2015年途中にドゥカティが(半ば強引に)やり始めたウィングレットが、MotoGPの標準装備になっていく。
結果論でいうと、2016年時点で各メーカーの均衡は十分期待できた。ただマルクが速すぎただけである。この状況はマルク不在の2020年まで続く。上でも触れたように2020年はミシュランがタイヤを変更した影響があり、台数が少ない(=使えるタイヤの絶対数も少ない)スズキとアプリリア・グレシーニは不利な状況だったが、スズキはそのタイヤマネジメントで圧倒的なパフォーマンス(根拠はないがコレ、天才的な能力を持った個人or数人の力が大きくて、その人(たち)は今ドゥカティにいるんじゃないかという気がしてならない)を見せミルが総合優勝。アプリリアとホンダ以外、全メーカーが総合優勝に届きそうな混戦になった。ホンダの苦戦はマルク離脱がキッカケではあるが、2017年のペドロサ引退後に優秀なセカンドライダーを獲得できなかったところから凋落が始まっているように思える。2018年からマルク以外で最速だったのは、7・10位(クラッチロー)10位(中上)12・16位(ポル)18位(中上)と、実に頼りない。マルクの力で勝ててしまっていた間に「これじゃダメなんだ」が積りに積もっていたこと、速いライダーが複数いて(ある程度は)異なるフィードバックが得られるという開発の前提が崩れたこと、レース自体に勝てなくなって(現場だけでなく)チーム全体が右往左往してしまったことに加えて、2020シーズンはコロナ騒ぎで日本とヨーロッパの間の行き来が寸断されており、立ち直りの糸口を掴めない状況に陥ってしまった(こうやって振り返ると、マルクの怪我はホンダにとって、本当に最悪のタイミングだった:遅いマシンを極限までプッシュし続けたからこその大怪我ではあるのかもしれないが)。
ライダー確保の話に関連して、新人ライダーの動向には興味深いトレンドがあるように思えるので、ちょっと脱線したい。チャンピオンライダーが最高峰クラスに転向する直前にどこのバイクに乗っていたかまとめてみた。
他方ドゥカティは、2020年までに圧倒的なエンジンパワーを手に入れた。これがどういうことなのか筆者には想像がつかない。そもそもが、技術力で圧倒的な差がついてしまわないように数々の制限を課しているわけで、とするとその制限をうまく利用することで他メーカーよりも有利な構成にする方策が当たったのかなという気はするが、具体的にどんなものなのと考えてみても、さっぱり見当がつかない。しかし上でも触れたように、2020年時点ですでに、ドゥカティの直線での速さは圧倒的だった。しかしそれでもドゥカティは(2020年にマニュファクチャラーは獲ったがライダー選手権では)勝てなかったし、日本メーカーは(ホンダはすでに低迷期に入っており、スズキも22年限りでの撤退が待つ未来ではあるが)また勝ってしまった。2021年もまた、クアルタラロのおかげではあるがヤマハがなんとかチャンピオンを獲ってしまった。ドゥカティが2015年にウィングレットを出してきたときはともかく、2022年にドゥカティの4チーム8台体制を認めたのは間違いだった、というのは後知恵ではあるが、当時の人たちもたいていは「そりゃヤリスギなんじゃないの」とは思っていたはずである。最速マシンを抱えるメーカーに台数の余裕ができた結果、有力ライダーを独占することにもつながってしまった。また日本メーカーの側でも、本来であれば「開いてしまったギャップ」をじっくり見つめて根元のところから見直しを始めるべきだった状況で、悲しいことに「今勝てるバイク」を志向しすぎてしまい、マルクやクアルタラロを以ってしても「完走すら難しい」バイクを作り出してしまった(セカンドライダー以下が乗りこなせなかったのはエースライダーに合わせすぎたからではなく、そもそも乗りこなすのが不可能なマシンだったからだと、筆者は理解している:40年以上も勝ち続けてきたのだから無理はないが、ライダー以外の現場も開発陣もチームのトップも「勝てるはずの我がチーム」という幻想を追いかけてしまい、目の前の現実に謙虚になれなかったのだろうと(まったく根拠なく)推測している)。
ともあれ、このような日本メーカーにとっての「悪い流れ」は2022年以降も続くわけだが、さすがにドルナ(あるいはFIM)も「このままではマズい」と思ったのか、コンセッションの導入が素早く承認された。日本メーカーとしては、メンツを潰された思いとこれで助かったという思いが半々かもしれないが、ぜひともこの機会を活かしてトップ争いに返り咲いて欲しい。さらには、2027年のレギュレーション変更までの間のエンジン開発凍結という話題も聞こえてきている。ヤマハはコンセッションを活用して、その間にV4のテストをする意向だそうな(ただねーコレ、850ccになったら直4でもエンジン幅狭くなるし、エアロパーツにも制限入るの決まってるし、BMW(参戦するとしたら直4でしょ、きっと)が入ってきたら今のV4有利なレギュレーションが変わるかもしれないんだから、「V4を知る」のは有用だろうけど、本命は直4で粘った方がお得そうに見える:まー現場にいる人たちは我々シロートが得ている以上の情報をたくさん持ってて、それに基づいて判断をしてるんだろうけど)。本社が2022年に「脱エンジン」(ただこれ「カーボンサイクル」と称して「バイオ燃料エンジン」は残す算段っぽく見えてたんだけど:2027年からのMotoGPは、非化石燃料だか持続可能燃料だかゼロカーボン燃料だかが100%になる)なんてのをブチ上げてしまったホンダは・・・もしかしたらいったん撤退みたいなシナリオもあり得るのかもしれないが、2024年シーズン半ばの時点では、復活に向けて精力的に動いているように見える。さらにまたファンの立場からもうひとつ付け足すなら、今後の「揺り戻し」が極端なものになって、また日本メーカーが無敵の強さを発揮しだすのは、おそらく誰も望んでいないことだろう。私たち(と言って言い過ぎであれば少なくとも筆者)が望んでいるのは、運営の都合で右往左往するメーカーやチームやライダーたちではなく、それなりに安定したレギュレーションの下で切磋琢磨して、各々が全力で勝利を目指した先にあるドラマである。その結果が甘いものであっても苦いものであっても、個人個人のテイストの範囲内であろうが、しかしどの道ドラマは見たい。
さて話は急に戻って、2024年シーズンも残り4戦となった(以下この段落で、名前の後ろの括弧はドライバーズポイント)。年間チャンピオンシップは、マルティン(392)とバニャイア(382)の一騎打ち状態。バスティアニーニ(313)とマルク(311)が3位争いで、ドゥカティ以外のトップグループはビンダー(183)とアコスタ(181)とビニャーレス(163)、中位グループにモルビデリ(136)とベツェッキ(134)とジャンアントニオ(134)とアレイシ(134)とアレックス(124)、やや離されて13位のクアルタラロ(86)以下は勝負に絡めていない感じ。
マルティンかバニャイアの優勝は、2013年のように有力ライダーが揃って長期離脱みたいなアクシデントでもない限り、まず動かないだろう。MotoGPマシン(タイヤ含む)がこれまで以上にデリケートになり、テレメーターや映像を元に後から調べても何が起きていたのかわからないようなコケ方で転倒したり、外れタイヤ(ではないとミシュランは主張してるけど)を引いて勝負に絡めなくなったり、デバイスの動作不良でハンデを背負ったり、さらにはドゥカティのエンジン戦略でシーズン終盤を「最後の1基」のエンジンで戦う(エンジン故障>台数超過となると、リタイア>ピットスタートのコンボになってしまう:2020年にヤマハが台数超過したときペナルティが軽すぎるとリンスが非難していたが、今でも交換直後の1戦のみピットスタートのはず)ことになったりと、不確定要素が山盛りで9点程度の離れ方ではどちらに転ぶかまったく予想できない。
ドゥカは「公平を期すため」とかいう理由(全員分のアップデートを用意できないのだそうな)で年度内のマシンのアップデートを凍結したようだが、そんな判断ができてしまうようなシーズンにしてしまったこと自体が(運営側の)間違いだったように思えてならない(来年もレースあるんだから、マルティンとバニャイアだけにアップデートを提供するとか、せめてバスティアニーニ1人だけでも新マテリアルを試させておくとか、やりようはなかったものなんだろうか:プラマックとの契約での縛りとか、いろいろあるんだろうとは思うけど)。チャンピオンシップ争いに水を差さないように気を遣うというなら、エンジン1基残しとけばよかったのにと思う(マルティンかバニャイアのが壊れたらドッチラケじゃないか:マルティンとバニャイアのが壊れたら・・・凄いことにはなりそうだけど、草レースならともかく「最高峰レース」の本来の姿ではないよねぇ)。それでも今のところ、優勝争いそのものは白熱しそうなので、ファンとしてはそちらを楽しむことに専念したい。
とっくに来年モードのマルクは置いておくとして、バスティアニーニ(毎年それなり以上の成績は残してるけど)の強さは「ドゥカが速い」ことの証明になっていると思う。マルティンとバニャイアとマルクがいなくても、年間チャンピオンがドゥカティから出るのは間違いない。とすると(少し前にアレイシが言っていたように)怪我で出遅れたとはいえモルビデリの成績はちょっと物足りない。来年も同じマシンで参戦するのが決まっているわけだから、今年の残りは準備のために費やしてもいいのだろうが、それでももう少しポイントが欲しい立場だと思う(少なくともベツェッキ・ジャンアントニオ・アレックスには負けられんでしょう、さすがに:モルビデリも好成績が出るようになってきてはいる)。マルクの活躍が派手すぎて影に隠れているが、アレックスの成績もそう悪いものではない(こちらは、ベツェッキとジャンアントニオのどちらかには勝っておきたい感じか:なんかちょっと焦ってるようにも見えるが、マルクと同じことができないのは重々承知だろうし、ルーキーが入ってくる来年が正念場かな)。
ドゥカティ以外選手権では、やはりアコスタの活躍が光る。KTMはドゥカティからエンジニアやマネージャーの引き抜きをやりまくったがフィットせず、足踏みがあったもののすぐにまた大胆な立て直しを図り、それなりの成果は出ている模様(この影響で、ドゥカ>KTM>他メーカーという経路での人材シャッフルがすごい勢いで進んだ:何につけても極端にやりがちなのはゲルマン気質のなせる業なんだろうか)。ビンダーもすっかり持ち直した感じ。アプリリアは(日本メーカーとは比べ物にならないけど)苦戦気味で、なんのかんのアレイシよりポイントを取っているビニャーレスからは不満のコメントもいくつか出た。チーム編成上のピンチは切り抜けたのだし、ベテランライダーは抜けるもののマルティンを獲れたわけだから、来年は少し我慢が必要だとしてももうひと伸び見せてほしい。
最新ドゥカとマルク以外(旧ドゥカ含む)の獲得ポイントだけ見ると、ビンダー・アコスタ・ヴィニャーレス、ベツェッキ・ジャンナントニオ・アレイシ・アレックスで接戦になっており、KTM・アプリリア・旧ドゥカはけっこう伯仲してるのかなという感じに見える。マシンの総合力では、アプリリアと旧ドゥカが接戦で、KTMは半歩くらい遅れを取ったのかもしれない(チームとしても持ち直しつつあるように見えるが、シーズン中盤の迷走が響いたと思う)。とすると、ライダーの(まだ4戦残ってるけど)「今年の出来」(能力じゃないよ)は、アコスタ>ビンダー>ヴィニャ>その他くらいの評価になるか。ライダーに注目すると、バスティアニーニの評価が難しい。新ドゥカが速いのはわかっているが、マルティン・バニャイアにそう大きく離されたわけでもなく、ライダーも速いのは間違いない。しかしビンダーやヴィニャーレスをぶっちぎってマルクの頭も抑えられているのは、マシンに助けられているところも大いにあるのだろう。
日本メーカーは・・・ヤマハが一歩先に上向きつつあるという見方が多いようだが、クアルタラロが頑張っているだけのようにも見える(リンスはホンダ勢と大差ない成績で、ミールと並んでいる:スズキ時代にもしょっちゅう並んでたけど、この位置で並ぶのは見たくなかったよねぇ)。リンス曰く「足の怪我はもう影響ないがチームとして正しい方向に進んでいない」のだそうな。ホンダはLCR勢の方が上位に並んでおり、この順位だと年間ポイントはあまりアテにならないとはいえ、ザルコは奮闘しているといってよさそう(成績もそうだけど、ホンダのバイクを走らせて悲壮感が漂ってこないライダーって久しぶりじゃない?)。来年を見据えるなら、4台出走を実現してプラマックも引き入れたヤマハの方が、伸びしろが大きそうに見える。ホンダはまだ出口が見えないが、マリーニがロッシ流を受け継いでいるなら、今年1年で試すものはしっかり試したはずだから、来年は存在感を出し始めて欲しい。
2024/11/17追記:いやー、遂にチャンピオン獲ったねぇ、マルティン。終盤戦で「決めちゃいたい」「ラクになりたい」気持ちを抑え切ったのが凄い。自分がコケてバニャイアが優勝したら捲られるのは重々承知で、しかもコケるリスクは常に付きまとう、というプレッシャーを見事にコントロールした。その後ろでマルクも最終戦の表彰台に上がってバスティアニーニ年間3位の望みを粉砕。バニャイアは決勝20戦を11勝してゼッケン1に相応しい活躍だったが、スプリントの安定性が勝敗を分けた(後述)。ビンダーは最終戦でアコスタを逆転し2ポイント差でワークスライダーの面目を保った。ヴィニャーレスは最後の方ちょっと失速した感じもあったが、移籍も決まっているしドゥカ以外選手権では3位を確保したので悪くはないのかも。混戦になった中位グループは、アレックスとモルビデリが8位タイ、どちらもひと踏ん張りしたといってよさそう。ジャンアントニオ・アレイシ・ベツェッキと続くところまでが勝負に絡めていた恰好(それでも対マルティンではトリプルスコアだけど)。
優勝争いについて少し。決勝レースでは、マルティンが1位3回・2位10回・3位2回・4位以下完走2回・リタイア2回、バニャイアが1位11回・2位1回・3位4回・4位以下完走1回・リタイア3回。サンマリノではマルティンが1ポイントしか取っていないので、ノーポイントに準ずるレースは各3回でほぼ同等、表彰台の回数も15回で同じ、2位が多いマルティンに対し1位が多いバニャイアで、決勝だけ見るとやはりバニャイアが(圧勝といえるレベルで)強かった。スプリントだけ見ると、マルティンは1位7回・2位6回・3位3回・4位以下完走2回・リタイア2回、バニャイアが1位7回・2位1回・3位2回・4位以下完走4回・リタイア5回。バニャイアはスプリントで遅かったのではなく、スプリントのリタイアが多すぎたのである。反対から言えば、セッティングが決まり切っていない状況でも安定した結果を残したマルティンの適応力とコントロール力が、決勝でついたポイント差をひっくり返したのだともいえる(プラマックもいい仕事をしていたのだろう)。
スプリントの是非についてはいまだに議論があるが・・・始めちゃったモノではあるし、興行的にも成功しているようなので、やめるということにはならないだろうが、ライダーやチームの負担は相当大きそう。セッティングを早く出すチーム力や過密スケジュールに耐え切るアスリート的な能力も実力のうち、という意見にも一理あるものの、決勝に向けてじっくり取り組んできたチームとライダーのぶつかり合いが見たいという気持ちも筆者にはある。みんなが納得するやり方なんて存在しない問題ではあるのだろうが、回数なりポイントの与え方なり、検討の余地はありそうに思える。
さらに追記:最終戦マルクの決勝2位and年間3位獲得を筆者は(「ちゃっかり」は言い過ぎだとしても)「しっかり勝ったな」と苦笑い気味に見ていたのだが、決勝前日に「年間3位を取るとグレシーニにボーナス(に限らず何かしらの利益)」があることを聞き出してやる気を出したということを、本人がインタビューで言っていた。筆者はそういう心意気(なんてんだろ、単に仲良しってんじゃなく、本当に勝ちたがっていて、勝つために全力を尽くしているからこそ、自分を勝たせてくれたチームに何かを残したい気持ちが出てくるとか、そういうの)を持った選手が好きだが、しかしそれ以上に「じゃあ勝ちましょう」で本当に勝ててしまうのが恐ろしい。来年が見ものだし、こういう熱(苦し)さを持ったライダーがもっと出てきて欲しい(マルティンとかアコスタあたりはけっこう影響を受けているようにも見える:アコスタには冷静沈着路線をキープして欲しいんだけどなー)。