どうぞ、縦書き表示にしてご覧ください。 六月(2007/6) 主なき蜘蛛の巣 蝿が飢ゑて死にをる 西瓜切り蝿取り紙を吊る嫗    子ら遊ぶ 潮溜まり 朽木浜梨昆布干す嫗 潮溜り 海星集めて子ら得意      磯香染みるや翁の煙草 小品(2007/7) 晴れ空に 葵しほれて午後の風        花びら透けば君見ゆるやもと 北海道の梅雨(2007/8) 霧雨の中痒草が白い花を揺らして 朝明るいけれどまだ早いので もやが透けるのを見ている 小品(2008/2)(2008/3) やすきこと他には尽きてむ煙草灯して 横浜に越して(2008/4) 恋しとて何をか請はむ        若し能ふとも 似し人に おどろかなくも なりにけり 小品(2008/12) つむじ風 柿の実痩せてまだ枝に 小品(2009/8) 垣根なる蓬老いぼれ誇らしげ 蝉落ちて路の辺夜にも蟻だかり ゆうひでり青胡桃よや割れたみち ものぐさのペン 凝りたれば湯に溶かむ 遠景(2010/3) 窓下なる人の流れやとどまらず 美しき人も外にはいつか過ぐらむ 春風に児笑ひたる 老爺も笑へ 遠い春(2011/3) 南風 葉のみ伸ばすや 百合頑に 小品(2011/4) 濁川桜汚れて仄白く 近景(2011/12) 鈍空に玻璃を隔てて風が往く くらがりにすわれば ひるがにじりよる 月明かり 花火一輪 から風に散り 小品(2012/1)    夏を想って 黒羽虫 炎に溶かす 夜の風 小品(2012/6) 器用なる朽木 風にもただ揺れて 雪に(2013/2) 足の跡黒く残らむ 薄雪踏まば 人に(2013/4) 発つ日なり恩ある人の悪笑みや 君よ奮ふなでふ今日のみ美しや 記憶(2013/8) ふとよぎる虫の好さこそ遠しと知らせ ならばとてここになにをかふれてみるべき 鈍す(2013/10-11) しんしんと降りては積もる余儀のなきこと なほもおし 地に還へるべき ことのはたちよ いまさらに白髪掻けば床に落つ 睦月(2014/1) いつのまに明けても人は睦むべく はらはらと都会の人は雪に気付かず ふと寒し右往左往をした日には 故郷(2014/3-7) 通ひ道納屋の屋根のみ馴染みのままに 黙々と老婆の歩む峠道 街干せて草の浮きたる水溜まり 選り好みやや歩みては 草を食む牛 魚居たりあなたを見れば鳥が飛ぶなり