それっぽい音


中身はともかく、ぱっと見それっぽい感じの音をでっち上げるためのポイントをいくつか。コード進行だけで曲ができると思ったらドツボにハマるので注意して欲しい(コードなど、演奏のたびに思いつきで別のを当てても差し支えない程度のものである:調性感の薄い進行を使うとベースがデタラメをやっても素人目にはバレにくい、というメリットを享受するのは個人の自由だが、ここでは触れない)。

以下、強進行は単に「5度下降または4度上昇」、変進行は単に「4度下降または5度上昇」を指し、それ以上の意味は持たないものとする(広義の強進行は「強めの進行」と書く)。また「セカンダリードミナント」は「ダイアトニックコードに解決するドミナント」の意味で用い、ダブルドミナントを構成するか否かを問わない。


メジャーキーでの各コードの使い勝手

急がば回れの作曲知識補充編の図も参照のこと。

I(トニック):
どんなコードにも進行できるのが一番の特徴。無茶なことをやるときにはこれでいったん落ち着かせる(ケーデンスを完結させる)と安定する。基本的には、ドミナントかその代理コード、もしくはIVから進行するのが原則だが、べつにIImやIIImやVImから進行してもさほど問題はない。IVに進む場合、セカンダリードミナントのI7を使うことがある。

V、V7(ドミナント):
Iへ進行したがる性質が非常に強い。IImから強進行で進んでくるのが鉄板だが、IVからの2度上昇やIからの変進行も十分安定。V6にすると響きがIIIm7っぽくなるし、Vsus4>Vという流れも使いやすい。ブルースなどではV>IVの進行もよく出てくる。Vsus4から直接Iに進むとドミナントモーションを曖昧にできる。

IV(サブドミナント):
4度上昇するとIV>bVIIとなってしまい、ダイアトニックに強進行できない。ということで2度上昇してVに行くか3度下降してIImに行くのが安定するが、変進行でIに行ってもよく、2度下降してIIImに行くのも面白い。Iから強進行で進んでくるのが鉄板で、一時転調っぽくVm>I>IVとするパターンも多い。構成音が似ているためVIm>IVmaj7なども割と自然で、その反対(IV>VIm)も頻繁には使わないが面白い音。

IIm(サブドミナント代理):
Vに強進行でき、IIm7 on V とすることでドミナント分割(ツーファイブ)に参加できることが大きいが、ドミナントの裏コード(bII)を挟んでIに行く使い方も面白い。VImから強進行で進んでくるのが鉄板だが、Iからの2度上昇やIVからの3度下降も安定、次点でIIImから2度下降してきてもよい。ツーファイブで大活躍。セカンダリードミナント(ダブルドミナント)でII7>V7>Iという形も頻出。

VIm(トニック代理):
IImへ強進行する(VImではなくセカンダリードミナントのVI7またはVIにしてもよい)のが安定だが、I>IVに挟み込んでI>VIm>IVとする使い方も多い。IIImからの強進行かIからの3度下降で進んでくるのが鉄板だが、V7からドミナント解決しつつ2度上昇してくる使い方も面白い。I>VIm>IVmaj7>V7とかVIm>I>IV>V7とかI>VIm>IIm7>V7などと、強めの進行を多用したい場合に重宝する。

IIIm(トニックorドミナント代理):
VImに強進行できるほかIVに半音上昇するのもアリ。VIIm(-5)でドミナントを代理した場合、IIImに解決する手がある。IIIm7とするとG6とかなり近い音になる。やや使いにくいコードで、VImに進む場合はセカンダリードミナントのIII7またはIIIに差し替えることもある。3645とか1363などの形が使いやすいか。

VIIm(-5)(一応ドミナント代理):
使いどころがいまひとつ難しいコード。IかIIImに進むのが安定なのだろう。弱めの進行でドミナントに進みたい場合や、V7だと音が重すぎる場合(V7omit1扱い)に使えばよいのだろうか。


ジャズブルースは5度5度ツーファイブ

ブルースの基本進行は
I>IV>I>I
IV>IV>I>I
V>IV>I>V
(ギターとハーモニカが入るのが前提で、AやEあたりのキーが好まれる)だとか
I>IorIV>I>I7
IV>IV>I>I7
V>IVorV>I>V
(こっちの方が実情に近いか)だとか言われる。もっと元を辿ると多分
I>I>I>I
IV>IV>I>I
V>V>I>I
で、ここから考えた方が手っ取り早い(両者を折衷することもある)。語って、引っ張って、落ち着かせて、盛り上げて、落ち着かせる感じ。この形の古いブルースが好き、という人も多い。ブルーススケールを使うので、クオーターチョーキングの加減によってメジャーっぽくもなればマイナーっぽくもなり、どちらでもない感じにもできる(オマケを参照)。

上記の進行に可能な限り強進行を加えていくと、まずI>I>V>V>IのV>VのところをIIm>V>Iとツーファイブワンにする案が出てくる。さらに5度5度で前に戻っていくとI>IIIm>VI7>IIm7>V7と13625になる(I>IIIm以外はすべて強進行、VIをセカンダリードミナントにしてさらに強調してある)。I>IVをVm>I>IVにするあたりも自然と受け入れられるだろう(下属調への一時転調に近い借用で、下属調から見るとIIm>V>Iになる)。最後のI>Iはターンバック部分をVにしてやり、I>I>Vの展開をI>VI7>IIm7>V7と1625にしてやる。さらに、最初のI>I>I>Iが単調なので一部差し替えるが、せっかくなので強進行であるI>IVを取り入れておく。

これを全部盛りにすると、
I>IV>I>Vm>I
IV>IV>I>IIIm>VI7
IIm7>V7>I>VI7>IIm7>V7
になる。管楽器が入るのが前提になっているため、Key on Bbmaj で
Bb>Eb>Bb>Fm>Bb
Eb>Eb>Bb>Dm>G7
Cm7>F7>Bb>G7>Cm7>F7
もしくはKey on Fmaj で
F>Bb>F>Cm>F
Bb>Bb>F>Am>D7
Gm7>C7>F>D7>Gm7>G7
などとする。

ドミナントセブンとマイナーセブンのコードをとにかく多用(ヴォイシングは必ずルート音を省く)して、スケールの基底音から見て3度と7度の音(とバップ以降の時代では5度も頻繁に)を必要に応じて半音弱下げてやればなんとなくジャズブルースっぽくなる(この辺の事情もオマケを参照)。5度進行を崩したくない場合コード展開には手を入れにくいが、IV>IVの部分をIV>#IVdim7とするとバップ(ビバップとも:テーマとアドリブを繰り返すスタイル)風になるし、メジャーコードを適当にマイナーコードと差し替えてやればマイナージャズブルースになる。

そのマイナージャズブルースは、
Im>Im>Im>Im
IVm>IVm>Im>Im
IIφorbVI7>V7>Im>V7
を基本構成にする(8〜12小節のいわゆるケーデンス部分が少し変わる)ことが多い。

ちなみに、ブルースには「I>V>IV>IV>I>V>I>I」の「8小節ブルース」や、12小節のブルースに(たいていIを)4小節付け足した「16小節ブルース」という形式もあり、これらと明確に区別したいときは「12小節ブルース」とも呼ぶ(ただし、普通単に「ブルース形式」というと12小節ブルースを指す)。


バロック進行(カノン進行)

パッヘルベルのカノン(カノンとジーグ ニ長調 第一曲:多分、中学か高校の音楽で習うはず)に倣った進行、というか、冒頭のメロディをベースラインに流用したもの(元曲のバスは2分音符でviii>v>vi>iii>>iv>i>iv>vの繰り返し:こちらは大逆循環と呼ばれることがある)。ベースがiからスケールを下っていって最後の小節で折り返す。基本的には1645のT>T>SD>Dで、
I>V on vii>VIm>IIIm on v>IV>I on iii>IV>V7
と各小節の後半で「5度上昇+第2回転形」になる(曲名からもわかるように、原曲はkey on Dmaj)。

作曲形式としてのカノン(フーガと同じく対位法に基づいた追復曲で、複数の声部が時間をずらして同じ旋律を演奏する:フーガの特殊形とも言うべき形式で、フーガでは後発の旋律が5度転調しつつ属音のみ4度転調(変応)したり、先発の旋律とは微妙に異なるラインを辿ったりするが、カノンでは厳密に同じ旋律となる)ではなく、あくまでコード進行orベースラインに注目した呼称である(どうでもよいことだが、音楽に限らず、西洋文化というのは「対象性」などの「幾何学的性質」に対して並々ならぬ情熱を持っている)。

VI>V7の部分をIIm7>V7とツーファイブにしたり、
I>V on vii>>VIm>IIIm on v>>IV>I on iii>>IV>V7
と考えて各小節をさらに分割してもよい。またオンコードをすべて取り払うと
I>V>VIm>IIIm>IV>I>IV>V7
で結局元曲のバスと同じになる。

2ちゃんねるのどこかのスレで、ありがちなバロック進行として
C G/B | Am Am/G | F C/E | Dm7 G
C C/B♭ | F/A Fm/A♭| Em/G D/F# | F G
というのが挙げられていたが、「Iから始まりベースが下がっていって最後に上がる」という原則だけ守っていればかなり思い切ったことをしても大丈夫なはず(多分)。

非常に強力な進行である一方、使い方を間違えるとベタベタでチープなものができあがりやすい(サンプルファイルを作ろうと思ったら見事にそうなった)。コード進行をあまり強調せず、控えめに鳴らしたベースの上に乗っかるような感じだと、もう少しスッキリするはず。アコースティックギター(とくに鉄弦)のアルペジオも面白い。

元になったパッヘルベルのカノンについて、カノン研究室というサイトでいろいろなアレンジの演奏が公開されており、短調アレンジなど興味深い試みがなされている。ちなみに「canon」が英つづりで「kanon」が独つづり(パッヘルベルはドイツ人なので、原題も「Kanon und Gigue in D-Dur für drei Violinen und Basso Continuo」である)。


サマータイム進行

こういう名前の進行があるわけではないが、ジョージガーシュインのサマータイム(もともと「ポーギーとベス」というオペラ曲の1幕1場なのだが、Jazzのスタンダードでもあり、ジャニス・ジョップリンによるカバーも有名)の進行。メロディ部分が
Cm6>G7 on D>Cm6>G7 on D>Cm6>G7 on D>Cm6>G7 on D>Cm
Fm>Ab on C>Cdim>G7 on B>G
Cm6>G7 on D>Cm6>G7 on D>Cm6>G7 on D>Cm6>G7 on F
Eb on Bb>Cm on Eb>F>Fm7 on Bb>Cm>Cm>Cm6
となっており(YAMAHA音楽博物館よく解る!コードネーム入門講座より)、Cm6をガリガリ多用するパターンであることがわかる。

スケールとしては一応key on Cmin なのだが、AbとBbは頻繁にナチュラルしてメロディックマイナーっぽくなっている。

少しでも見やすいよう細かいコード変更を無視して考えると、
Cm6>Cm6>Cm6>Cm
Fm>Ab>G7>G
Cm6>Cm6>Cm6>G7
Eb>F>Cm>Cm6
となって、bIII(Eb)はマイナースケールではトニック扱い、bIV(Ab)はサブドミナント扱いなので
T>T>T>T
SD>SD>D>D
T>T>T>D
T>SD>T>T
と、G7>Gがちょっとわからないがまあまあ普通の展開。Cm6はメロディックマイナーの音で、Im add13 と考えてもCm6>G7 on D はごく普通(13度のA音は2度下のG音に解決)。key on Gmin(属調)のIVm6(サブドミナントマイナー)の借用と見られなくもないが、やはりDかGに進むのが順当。

サマータイムについては、Piano1001旧ページ)というページで楽譜(クラシックアレンジのものだが)が公開されている他、MIDIセッションという楽しげな企画をやっている人もいる。


ベーストラック

これ以前のページで紹介した知識で間に合うことが多いと思われるが、森先生のドラムのドドラムセミナーBASS&DRUMS:ドラムセミナーはJavaScriptが有効でないとブラウズできない)、サウンド支援のbarutan4(現在引越し中らしい)あたりのサイトからアイディアを得るのも一案。

筆者としては、基本的な構想(大まかなビートとアクセントの位置だけ、程度でも問題ないと思う)を決めたらとりあえず打ち込みをしてしまって、その上に他の音を乗せながらベーストラックも少しづつ変更していくのがよいのではないかと思う。仮組みというか、とりあえず一通りの楽器が音を出しているテイクを聴いておいた方が、その後の方針が立てやすいと思う。アレンジの順序として、主役にしたい楽器から先に煮詰めていくと楽(結果的に、ベーストラックは最初と最後にイジることになる)。ベース・ドラムスともに休符の使い方が重要なので、意識してアレンジする。


参考リンク

MIDI初心者のための0からはじめるCherry講座

ジャズギタースタイルマスター

OCEAN'S SOUNDS音楽コーナーのトップ

基本的なブルース(12小節)のコード進行トップページ


オマケ(6thコードが面白い)

筆者の趣味だが、6thコードというのはなかなか面白い。陰や重みや濁りを持たせるためにIやIVをシックススにすることも多いが、なんといってもVに6thを乗せた(結果的にIIIm7と同じ構成音になる)曖昧な響きが好きである。マイナーシックススはVm6の形(メジャーでもマイナーでも調性外だが、構わずIかImに戻る:VIIやbVImに飛んで(IIIか、場合によってはVIIに)転調する手も一応ある)で使ってもよいのだが、メジャーキーでIIm6(VIIm7(♭5)と同じ構成音)からトニックに戻ったり、そのまま嘘っぽくVに進んだりしても楽しい(IIm6>V6>Iとか)。6thコードではないが、Iadd9やVsus4 on Iなどもつい使ってしまうコードである。

オマケ(コルトレーンチェンジ化)

Jazz方面にコルトレーンチェンジ化というハーモナイズ手法がある。5度5度で戻るのはジャズブルースのときと同じで、その後小節を分割して前半を短3度(というか半音3つ)下のメジャーセブンに変える(という説明は正確でないが、そのような手順でも作れる)。

たとえばCmaj7を中心にするパターンなら、

シャープで表記するよりフラットで表記した方が構造がわかりやすいと思う(多分)。

半音3つの上昇3回+半音5つの上昇3回=半音24の上昇になる(もちろんオクターブは変わる)。


オマケ(ブルーノート)

・・・まあ半分ネタ話として。

ブルースの特徴としてブルーノートという音がある。本来「ブルースで使う音は全部ブルーノート」なので「どの音がブルーノートか」というのは愚問なのだが「他のジャンルにブルースから輸入した音」という意味でのブルーノートは「半音下がった3度音と7度音(バップ以降は5度も頻繁に)」のことである。

クラシック方面の理論ではこの音の効果を「対斜」(もとは「同一小節内の異なる声部に、臨時記号がついた音とつかない音が両方現れる」ことを示した)という言葉で説明し、由来を「アフリカ系移民が本来持っていた音階を引き摺ったもの」と説明するが、筆者が想像するに「7度音が高すぎる」という聴覚上の理由も大きいのではないかと思う。詳しくは和音を中心にのページに譲るが、7度音の音程はもともと厳密なものではなかった。それが平均律の時代になって「高い方の7度音」が「7度の音」として定着したわけである。

でその「現在の7度音」なのだが、メジャーコードに乗せるとオシャレで都会的な響きになる(と言われている)。少なくとも「ブルー」な感じはしない。しかしブルースマンはセブンスコードが大好きなのである。「だったら下げちまえ」となるのは当然の帰結といえよう。「iから見た7度音vii」と「viから見た7度音iii」を半音くらい下げやれば、ブルーなセブンスコードを使い放題になる(V7はもともとブルーな音が出るので、vから見た7度音ivをさらに半音下げる必要はない、というか下げるとV6になってブルーでなくなる)。

本来のブルーノートが「半音弱」とか「1/4音」と言われる所以もこの辺なのではないかと思う(ギターによる演奏では「1/4音くらい下げたiii」の代わりに「1/4音くらい上げたbiii」を使い、この「1/4音くらい上げ」を「クオーターチョーキング」と呼ぶ:クォーターチョーキング自体は、iやvやvbでも使うことがある)。ちなみに、平均律のiiiは純正律のiiiより13.7セント高く、平均律のviiは純正律のviiより11.7セント高い。もともとやや高すぎる音程感を持つ音である(ダイアトニックな音では、これ以外にviが15.6セント高いものの、iiとivとvはかなり純正律に近い音である)。実は「1/4音上げ」ではなく「1/3音上げ」にしてやると「vi以外ほとんど純正律の長調と同じ」という不思議な状態も作れたりする(より正確には、70セントの上げ幅だとほぼぴったり)。

丸ごと閑話のようなものだがともかく閑話休題。コードの面からも考えてみよう。ブルースマンが使うコードはIとIVとVである。ここに音程が下がったiiiとviiが入り込むと・・・IとVの3度音が揺れることになる。上に書いたようにチョーキングで70セント上げるとほぼ純正律のIやVと同じ音になるほか、15〜20セントしか上げないと純正律のImやVmと同じ音になり、40〜50セントくらいのチョーキングだと中間的な感じになる(それでも、純正律からは最大35セントくらいしか離れられない)。低く入って途中から音程を上げたり、その逆の場合もある。この辺の微妙な力加減がまた面白い。

なお、メジャースケールにブルーノートを追加したスケール(Jazzなどで好んで用いられる)をブルーススケールと呼ぶことがあるが、やはり、本来のブルーススケールは「ブルーな音は何でも使ってよいスケール」なので、ブルーノートスケールまたはブルースメジャースケールと呼んで区別するべきだろう(構成音も微妙に違うし、Jazz方面では「VImとIIImとIがb5thになる」ことが重視されるようだ)。



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