メンテナンスの一般的注意


戻る

あくまで筆者の経験と知識を元にした記事で、裏付けは何もないことを改めて断っておく。誤った情報を信用して事故(機器の破損とか感電とか火災とかその他もろもろ)を起こしても筆者は責任を持たないのでそのつもりで。また、自己修理を推奨する意図はないし、純正でない部品の使い回しにもリスクがあることを強調しておきたい(十分な知識と技術を持った人がリスクを承知でやるのを止める気もないが、とりあえずいじってみる的な気持ちで試すのはやめた方がよいと思う)。ここでは電気製品のみを扱い、アコースティック楽器の手入れについては触れない。

基本事項

常識的な話ではあるが、極端な温度変化、埃、油、湿気などは避けなければならない。ほとんどの電気機器はプリント基板を使用しているが、これが温度変化による膨張で断線したり、埃や油と反応して(環境によってはカビが生えて)表面の劣化を起こしたり、埃や湿気により妙な電流が流れてメッキ状にショートしたりすると、基盤交換を余儀なくされる。配線が太い個所の断線なら、導線をはんだ付けしてバイパスするという荒業が使えなくもないのだが、細かい個所だと絶望的である(太い個所でも、一歩間違えると火を吹く可能性があるので技術のある人以外は絶対やらないように:断線自体は比較的よくあるトラブルで、90年代のノートパソコンなどではとくに、新品でもフタをあけるとバイパスだらけだったり、発売数カ月で断線トラブルが続発しはんだごてを持ったエンジニアが納入先を行脚して回るなどということもあった)。基盤の寿命は、高級デジタルピアノのものでだいたい15年から20年くらいらしい(未確認)。温度変化ではんだが割れるというトラブルや、ジャック類が酸化して抵抗値が高くなるというトラブルもわりと多いが、これは比較的マシな部類だろう。

全国家庭電気製品公正取引協議会という機関が、家庭電気製品の補修用性能部品保有期間(性能部品というのは、機器の性能を維持するために必要な部品のことで、もっぱら外観などに関わるものは含まない:保有期間は最低年数であって、メーカーがそれ以上の保有を宣言しても構わない)を種類別に規定しているが、平成19年10月現在、一覧の中に「電子楽器」という項目はない(「ステレオ」「ラジオ」「テープレコーダー」などに該当するオーディオ機器はあるかもしれない)。また、取扱説明書にはその製品の補修用性能部品保有期間が(製造打ち切りから~年という表現で)書かれている。この期限を過ぎると、メーカーが部品の確保をやめてしまう。だいたい6~8年くらいのものが多いのではないかと思う(10年15年と使いたいなら残り製造期間の長そうな製品を選ぶべきだが、6~8年程度で使い捨てるなら、製造打ち切り後の値崩れ品を狙うのも手)。

基板上の消耗品としてリレーやアルミ電解コンデンサ(ケミカルコンデンサ/ケミコン)や電池が挙げられるが、機器内部の部品は入手しにくいのが悩ましいところ。たとえばローランドは2007年10月01日現在製品外部から取り付ける事が出来る部品および付属品以外は販売店にも供給していないので「フタをあける修理」はすべてメーカー修理となる(「感電・その他の危険防止の為」らしいが、販売店での消耗部品交換くらいはできてもよさそうな気がする:未確認だが、2005年から供給をやめたそうだ)。同じページに修理料金概算表があるので、事前に金額をある程度把握しておくとよいだろう(補修用性能部品保有期間は製造完了後 6年~8年らしいが「部品メーカー側での早期製造打ち切りや入手困難な状況の発生に伴い、期間満了以前に対応出来なくなる場合」があるとのこと)。

隅々まで確認したわけではないが、他の楽器メーカーはきちんとした情報を出していない感じなので、ローランドだけが飛びぬけてケチなわけではないと思われる。ヤマハカシオのサポートページからは修理部品供給や補修用性能部品保有期間の情報は探せなかった(取扱説明書には書いてあるはずなので、マニュアルダウンロードのコーナーから探せという意図かもしれない)し、KORGにいたってはサイトマップに修理関係の情報が見当たらない。ホームオーディオなども扱っているメーカーは比較的親切な対応だが、Sonyオーディオテクニカパイオニアともに、リモコン、ACアダプタ、取扱説明書などの外部部品のみ供給しているようだ(ローランドと似た対応)。上記以外のメーカーについては未確認だが、とくに海外メーカーの場合、購入前にサポート体制を確認しておいた方がよいだろう。ジャンク品を中古で買って部品取りをするという手もあるが、ジャンク品だけあって壊れやすい部品が全滅していることも多く、タマ選びにある程度の知識が必要になる。

2009年3月追記:ごめんなさい、ヤマハさんをナメてました。MT4X(1994年発売、生産終了年はよくわからなかった)のフェーダーがあるかどうか問い合わせたところ、互換品(MT400のかな?)らしいがまだ部品があるとのこと。ダメモトだったので正直驚いた。しかも取扱店での注文(送料がかからない)と代引きが選べるというサービスっぷり。ということで、ヤマハは部品提供を続けているようだ。ローランドとヤマハ以外のメーカーの詳細については未確認。

電池の寿命は比較的わかりやすく、3年から5年くらいで交換が必要になる。リレーの寿命は品質と環境が大きく影響するので何ともいえない(3年で壊れるときもあれば30年経っても生きていることもある)。アルミ電解コンデンサの寿命は温度と通電時間に支配されるが、一般に2000~5000時間くらいが定格の寿命(使用温度を10℃下げるごとに2倍程度持ちがよくなる:専門的にはアレニウスの式というのを使って予測する)になっており、これ以上通電を続けると性能が低下してくる(いわゆる容量抜け:ただちに使用できなくなるわけではないが、性能を保ちたいなら交換した方がよい)。この劣化は電解液の蒸発によるものなので、通電していなくても少しづつ劣化すると思われる(まったく通電しなくても5~15年くらいで抜けるのではないだろうか)。ただし、通電頻度があまりに少ないとイオン化が進みすぎて漏れ電流が大きく増える(ある程度の電流で一定時間通電してやれば元に戻ることが多い)し、おおむね10℃以下の低温時には性能が大きく劣化するので、ただ使用頻度や温度を下げてやればよいというものではない。最近の製品で電解コンデンサの破裂や液漏れが取りざたされることがあるが、あれは経年劣化ではなくただの不良品である(経年劣化の場合外見上はほとんどわからない)。

真空管はまったく通電がなければ保管次第で100年くらいは持つが、高級品の当たり球に理想的な環境で通電しても5000時間くらいで機能しなくなる(動作しなくなるまでの時間なので、十分な性能が得られる時間はもっと短い)。昔のアメリカでは1000時間の通電でエミッションテスト(カソードエミッションを基準にした不良品検査)をしていたらしい。小型で大容量なためノートPCなどに多用されるタンタル電解コンデンサは、寿命自体は非常に長いのだが一般にアルミ電解コンデンサよりも故障率が高く、故障時にショートしやすい(電解コンデンサなら、故障しても回路が開いて電流が止まるだけなのが普通:故障モードが短絡である/開放である、という表現をする)という特徴があるため、機器全体を巻き込んだ故障に発展しがちである(性能自体はアルミよりずっとよいのだが)。有機半導体コンデンサ(Organic Semiconductor Capacitor/OSコン)は寿命も長く性能も高いが、機械的な衝撃に弱いという欠点がある。

電解コンデンサの容量抜けについては、1つ抜けてきたら総取り替えになる(他のも時間の問題で抜けてくるから)ことが多く、その時点で基盤が健在だったとしてもはんだ付けのストレスで劣化が進むことがあるため、修理せず基盤交換になる場合もある(不良品の膨張コンデンサなら、一部だけ取り替えればよいが)。タンタルコンデンサが故障した場合の被害程度は回路の設計による(故障率も、回路設計によってさらに増加することがある)。機種や仕様に関わらず、定期的(できれば1カ月に1回、少なくとも3カ月に1回くらい)に清掃と動作確認だけでもしてやるとよいだろう。

日常の手入れ

まずは保管場所をきちんと確保したい。直射日光が当たる場所、高温多湿な場所、埃っぽい場所は論外だが、低温や乾燥も度が過ぎると機材を痛める。とくに、寒いところから暖かい部屋に運んだ後すぐに通電すると、内部が結露したまま電流が流れることになり、回路が破損する恐れがある。

乾電池を使う機器の場合、長期間使わない場合は乾電池を抜いておこう。入れっぱなしにすると液漏れする恐れがある。ACアダプタも挿しっぱなしにしないように。カバー付きの機材はカバーを、そうでないものはハンカチや風呂敷きなどをかけて埃から守るが、使用時には廃熱の妨げになるのでカバーをかけたまま使用しないこと(最悪火災の原因になる)。コードやケーブル類は強く折り曲げないようにして、束にしたまま電気を通さないように注意。

ジャックやプラグなど、金属が剥き出しになっている部分を手で触れると腐食の原因になるのでできるだけ触らず、もし触った場合は乾いた布などで拭いておく。プラグ類を外気や直射日光に当てつづけると表面が酸化してくるので、袋か何かに入れて保管するとよい(専用ケースなどがあるならそれを使おう)。

直接身体に触れる部分(マイクの胴、ヘッドフォンのハウジング、スイッチ類やツマミ類、鍵盤など)は使用後に乾いた布などで軽く拭いておくとよい。ピカピカに磨く必要はないが、汚れがついたままだと劣化が早くなる(人間の皮膚には、塩分、水分、油分など、部品の劣化を早める物質がいろいろと付着している)。

虫にも気をつけたい。通電している電気機器は暖かいので、とくに冬場は虫が寄ってきやすい。故障した電気機器を分解したら中で虫が感電死していたというのは比較的よくある話である(コンピュータが上手く動かないことを指す「バグ」という言葉を逐語訳すると「虫」だが、コンピュータの中に虫が入り込んでリレーが動かなくなったという事例が語源らしい)。電気代や電解コンデンサの寿命などを考えても、使っていない機器の電源はこまめに落としておくべきだろう(前述の通り、あまりに長期間通電しないとアルミ電解コンデンサの漏れ電流が増えるので、月に1回くらいは通電しておくべきであるが)。

取扱説明書の保管方法や手入れ方法の指示をよく守り、上記の事項に気を使うだけで、機器の寿命が大きく延びるはずである。

その他

アナログMTRの磁気ヘッド、CDドライブのレンズ、ジャック類などは、部品の寿命とは別に定期的な清掃が必要になる。清掃方法を誤ると破損の恐れがあるので、必ず専用の清掃用品を使う(楽器店に売っているが、磁気ヘッドクリーナーとレンズクリーナー、アナログレコードクリーナーとCDクリーナー、接点復活剤と接点クリーナーは、それぞれ別のものである)。とくに、乾式のCDレンズクリーナーは安物を使うとかえってレンズを痛めるし、磁気ヘッドの消磁を行う場合は設定に注意しないとアンプなどが壊れる。

可動部品(マイクのダイヤフラム、スピーカのユニット、ヘッドフォンのドライバ、ディスクドライブ、スイッチ類やツマミ類やペダル類、鍵盤など)はいつか必ず壊れるので、交換の方法や費用を前もって知っておくとよい。半導体メモリについても、読み書き回数の上限などを把握しておこう。

修理不可能な(もしくは新規購入の方が安くつく)故障が発生した場合は廃棄をしなければならないが、自治体によって取り扱いが違う。ちなみに札幌市の大型ごみ処理手数料は、単品のオーディオデッキで200円、ステレオセットでサイズ別に500/900円、スピーカーでサイズ別に200/500円、電子オルガンで1300円、電子オルガン以外のオルガンで900円、ギターやキーボードで200円と大した費用ではない(2007年12月現在:札幌市の料金が全国平均と比べて高いのか安いのかわからないが)。



機材ページの目次に戻る / 音楽メモの目次にもどる

自滅への道トップページ