とても嘘臭い将棋入門

たいていの入門書は「まず玉を囲いましょう」で始まっている。手順としてはもちろん正しい。しかし、まったくの初心者にとっては「囲ったり攻めたり守ったりする前に終わってしまう」状況がたくさんあるので、その辺から順に紹介したい。

玉を囲う前に

将棋の初期陣形でもっとも弱いのは角頭、もっとも攻めやすいのは飛車先である。当然、飛車先の歩を伸ばして相手の角頭を攻めるのが常套手段になる。

4種類守り方(左下のプルダウンメニューで切り替えられる:「先手:あなた」という表示のすぐ上)と、オマケで4種類の事情の違いを紹介したが、結局、角か銀で斜めに守るのが無難で、金で下から守るのもそこそこ、ということである(あえて無難でない受け方をすることもある)。

角が斜めに上がってくるなら、攻めの目標を3筋に変更してやればよさそうな気もする。いくつか追ってみよう。

3筋は桂が利いている分2筋よりも守りが堅く、角に逃げ場所があり、おまけに時間もかかるため直線的な攻めではうまくいかない。2-6は途中で分岐があるので、それぞれ確認して欲しい(右上の手数を進めるボタンの下に選択が出る)。

攻め手を増やすために角も参加させてはどうか。

お互いに角を活用すると角交換の機会が増え、これに対応できないと一気に持っていかれてしまう。

駒の交換の話が出てきたが、序盤を考えるときはとくに、駒の交換に手をかけることが損か得かということが問題になる。

基本的に、飛車先など積極的に守る必要がない場所での歩交換はした方が有利なのだが、相手が急戦に出たときの備えもあるので、いつでも交換できる状況が続くなら後回しにすることが多い。また急戦対策を考える上で、相手が穴を空けた筋を争点にして押し切れるかどうかが重要になる。角交換をするのが損か得かは、お互いの陣形が角打ちに強いか弱いかを考えなくてはならず微妙。船囲いは角交換に比較的強いが、角換わり専用の平べったい構えほどではない。


囲い

手順などは次のページで触れるので形だけ紹介しておこう。初学者は以下「ふーん」と思いながら眺めるだけでよい。図では右囲いと左囲いがわかりにくくなってしまったが、桂香の位置などで判別して欲しい。

一般に、角頭、桂頭、銀頭、金のコビン、玉への角筋が弱点になる(頭は正面、コビン=小鬢は斜め上)。反対に銀の斜め、金の前後左右、桂の利いている場所は守りが堅い。また相手の桂が攻めてくる地点(先手居飛車なら7七)は、自分の桂で紐がついているいっぽう相手の攻撃にも晒されやすく、ここに何を配置するかがけっこう重要。歩が飛び出た場所があると相手の歩や銀に狙われやすく、ヘコんだ場所は攻められにくい(相手の攻め駒の利きが届きにくい)が桂などを打たれやすく、平らだと歩を交換されやすい(全部一長一短)。

攻撃重視の構えは変形が多く、どうなったらどの囲いという分類が難しい。金銀2枚で守るのが片美濃系で、居飛車でも使えるが振り飛車の2枚囲いの代表例でもある(中飛車以外の振り飛車では右銀が攻めに出て行きにくく、中飛車だと左金を玉の守りに使いにくいため、金無双から右銀が玉頭に出て行く形を除いて自然とこうなる:2枚囲いには片穴熊もあるが最初から狙って組むことは少ない)。居飛車なら金2枚で守って銀2枚で攻める形も作りやすく、玉を相手の飛車から離したいことから、相居飛車ではカニ囲い系、対抗形では船囲い系が好まれる。持久戦の構えとしては、振り飛車では穴熊のほか片美濃に金を足した美濃囲い系、相居飛車ではカニ囲いの銀を守備に回して変形した金矢倉、対抗形の居飛車では船囲いの途中から分岐した居飛車穴熊が典型的。相振り飛車の持久戦では右矢倉もまれに見られる。

用語として、囲いの枚数は金銀だけを数えるのが普通。穴熊は9九または1九玉型、中住まいは玉が中央付近(普通は2段目、5二または5八のみを意図することもある)で比較的隙間が多い構え、米長玉は香頭(9八玉型)などの変則位置、升田美濃は7九(あるいは3九)玉待機型の美濃囲い、ミレニアムは桂を(普通は中央に)跳ねての8九玉型を7九の金駒で守った形(穴熊から桂を跳ねて玉が寄っても似た形にはなる)、天守閣は三段玉を指す(他の用法もあるがここではそのように扱う)。縦の位置を「段」で示す場合は指し手から見て最下段が「1」で、先手の5八玉は(八段玉ではなく)二段玉、後手の5一金は一段金になる。玉の位置としては8八または2八がもっとも多く、玉がこの位置(またはそれぞれの囲いで標準的な位置)に移動することを入城ということがある(金矢倉のように囲いを組み上げてから玉を動かす陣形ではとくに)。また狭義の用法として、単に穴熊というと対抗形の振り飛車側の形、中住まいというと5二玉型金開き、天守閣美濃というと8七玉型の左美濃、といった特定の形を意図する場合がある。片とか本などがついた名前は、前者が2枚で後者が3枚のバージョンであることが多いが、片矢倉などの例外もある。

陣形の名前ではないが、(下から)1段目の駒をどかして飛車を回ることを地下鉄飛車、2段目の場合はモノレール飛車ということがある(ということは、1段目と2段目の間の線が地面なのだろう)。歩の上に銀を位置させるのを歩越し銀、歩の上に飛車なら歩越し飛車という。駒を取られたときに他の駒で取り返せるようにしておくことを「紐をつける」といい、玉についても王手から逃げた後の形をよくするために紐がついているのが好形とされる。1段目に打った歩は底歩と呼ばれることが多く、とくに二段金の下に歩がある形を金底の歩と呼ぶ。歩を5段目(真ん中)まで進めることを「位を取る」といい、相手に位を取られることを「位を謝る」、相手が5段目に進めた歩を取ることを「位の解消」ともいう。また位を取った後の歩に紐をつけることを「位の確保」という(利きのないところに歩を進めて後から確保したり、利きを作ってから歩を進めたりといったプロセスに注目した言い方なので、初期配置で5段目に利きのない3~8筋について言う場合が多い)。攻めのために利きを作ることを「拠点を作る」、とくに小駒を「次で成れる」場所に進めたor打ち込んだ場合についていう。駒を(攻め駒として)活躍できる状態にすることを「捌く」といい、交換して駒台に乗せることも含む(とくに「捌き合う」といった場合、駒交換の含みが強い)。攻め駒としても守り駒としても活躍していない駒は「遊んでいる」とか「遊び駒」と呼ばれる。そのほか「飛車を回る」(おもに下段近くで横に動かす:移動に関する動詞は「~を+能動態」で言うことが多い)とか「歩で叩く」(相手の駒の目前に歩を打つ)など、ちょっと変わった言い回しが多くあるが、キリがないのでこのくらいにしておく。

カニ囲い系

原始カニ囲い(居玉型)

船囲いと並び、居飛車の基本中の基本といえる構え。横からの攻めに(左美濃ほどではないがそこそこ)強い船囲いに対して、上からの攻め強い。金をカニのハサミに見立ててこう呼ばれる。駒組の都合(角道を空けるのが最初)から実戦に上記の形は出てこないはずだが、2手しかかけていない割にそれなりの防御力がある。一段玉がメインだが入城する(8八玉型)こともある(6八玉型のカニ囲いにはいろいろとニックネームがついているが、決まった形に組むというよりは、そのときそのときの都合で形が変わる)。銀の動きと歩を突く数が同じなら、6九玉型のカニ囲いは船囲いと同じ手数(居玉なら1手早い)。急戦でも6九玉は入れることが多い。

カニ囲い(矢倉先手途中)、カニ囲い(急戦、矢倉後手途中)、カニ囲い(角換わり)
  
左金以外は、急戦の都合でくっつける暇がなかったり攻め上がったりして違う形になることも多く、左の一段玉を2枚の金と端の桂香を中心に上に手厚く守る形の総称だと思った方が早い(角が攻め上がって玉が入城すると船囲いとの区別が曖昧になる)。先の図は、矢倉に組み上げる途中、とくに先手番でよく出現する(後手番で金矢倉に組み上げる場合、早めに銀を上がる形が多い)。この状態から玉を入城して銀を真上に上げると、3枚木村美濃の左バージョンになる(ほどほどに遠くそれなりに堅い)。次の図は後手番でよく出てくる形。相矢倉模様から急戦を仕掛けるのは後手が多いので、急戦のカニ囲いもたいていこれになる。最後の図は角換わりの将棋などで出現する形で、少ない手数で安定した守備力を発揮する。3手目角交換筋違い角(2手目8四歩なら出現しないが)の後手番でも見られ、4二玉型から入城して穴熊のような形にするのが有力(相手が角を手放しているので咎めにくい)。左のハサミが大きいのでシオマネキと呼んであげたい。角換わり腰掛け銀の木村定跡(ないし升田流角換わり)の直前も、右金頭の歩に銀が腰掛けているだけで似たような形。どの場合も銀が攻守に出て行くことが多く、歩を突いている場合は右金が上がることも多い。

雁木(古典型)、雁木(簡略型)、対振り雁木
  
古典的な形はカニ囲い+中央寄りの横2枚銀。この2枚の銀を雁木造り(屋根から庇を伸ばして下を通路にした、現在でいうアーケードのような建築法)の庇に見立てて、その下で玉が風雨をしのぐという寸法。右四間と組み合わせて使うことが多く、対右四間でも(変則総矢倉の方が守りは堅いが)現れる。攻め込んで守り駒が減ると当然薄くなるのだが、反撃を受けた場合に堅さや遠さで守るのではなく、島津の退き口さながらに金銀を捨て奸にして玉を生き延びさせる(相矢倉の後手番にも通じるものがある)。これに限らず銀が2枚横に並んだ形は(お互いの頭を斜め利きで守れるため)上に強く、弱点になる横などを下から金で支えると隙がなくなる(ビッグ4や四角矢倉にも共通する考え)。簡略型は守りの銀を中央に使うコンセプトだけ残したもので、対矢倉の後手番などで出現する(ツノ銀と併用されることが多いのでツノ銀雁木とも呼ばれるが、筆者は片雁木と呼んでいる)。2段金で打ち込みに強く、飛車先は角で受ける(相手は飛車先を切りたければ切れるが、角交換もセットになるので簡単でない)。対振り雁木は船囲い+中央寄りの横2枚銀。後で紹介する船囲い横2枚銀よりも1路玉に近いが、厳密な定義があるわけではない(玉の位置や金銀の配置に自由度があるのが雁木の特徴で、形は一定していない:左に雁木を組んだうえで右玉にすると、新風車とほぼ同じ陣形になる)。

屋敷流2枚銀基本形(力戦矢倉)、屋敷流2枚銀基本形(対振り飛車)
 
速攻を前提にした、一瞬の耐久力だけを持つ構え。先の図はカニ囲いの右金保留で、相居飛車で用いるが飛車先は受けず交換させる前提。5七桂を打たれて金を取らせる間に殴り勝つような感じで用いる(2枚銀なので右銀が4六に来ることが多いが、2五に進出することもある)。後の図は船囲いの右金を保留した形。左銀は囲いに参加しているのではなく、このまま3五の地点目指して攻め上がる(角はそのうち交換になる)。どちらも2枚の銀を両方攻めに使う超攻撃的な布陣で、受けを間違えると一瞬で崩壊するが、なにしろ手数かかからず、玉が角道を避けている形でかつ1段金なので大駒を捌きやすい。片カニ囲いとか片船囲いと呼んでいいのかどうか、筆者は知らない。

カニ風味囲い

勝手に命名。相矢倉の後手番でアッサリ矢倉が崩壊したときに出現する、ことがあると思う。金銀の周りをグルグル逃げ回ると、意外とつかまらない(というか手が空く)。悪あがきに過ぎないとはいえ、相手の攻めが速いときは大駒をぶった切っていることが多く、頓死筋がみつかることもないではない。金を2枚使った真ん中カニ囲いにできればその方がいいのかもしれないが、相手が攻めてくる側が金ならそこそこ頑張れる。両方銀だったら下段に金を打って銀美濃もどきにしたい、とは言っていられないことが多い。

矢倉系

金矢倉、総矢倉
 
囲い単体で見ると、端も上部も横も、遠さも広さも駒の偏りも、難がなくはないが狙われただけで苦しくもならない微妙な性能で、相手に攻められれば潰されるが手数や駒は稼げる。つまり、殴られながら殴り返す、あるいは殴り返されながら殴り倒すための囲いといえる。相手に持ち駒がないときの上部への守りは優秀なのだが、たとえ1歩でも相手に持たれると安全度が大きく下がる(囲いの問題というよりは、相手の飛車の真正面に玉を配置する相矢倉の特性)。角換わりの将棋ではとくに、いわゆる入城(先手番なら8八への玉移動)に慎重さが必要。5三(右金の隣)に銀をくっつけると総矢倉と呼ばれ、後手番が守りを固めるときなど一時的に出現する(本格的な相総矢倉は先日手の打開が難しく、現在はあまり指されない)。対抗形の金矢倉も(相手が穴熊でも高美濃でも、向かい飛車に振り直されて)千日手模様になることが多く、先手振り対策として使えなくもないが、先手番だとメリットが薄い。従来の持久戦相矢倉は45歩反発の普及により先手の46銀37桂型が苦しくなり激減したが、相掛かりや角換わりなど24手組みでない形からの変化形として出現することはある。

銀矢倉、流れ矢倉(対中飛車)、4枚流れ矢倉(対右四間)、4枚流れ矢倉(対中原流急戦)
   
銀矢倉は、守ることだけ考えると金矢倉よりも上に強いのだが手数がかかる。最初から狙って組むというよりは、矢倉模様から中央が争点になって銀が引いた形がたまたまこうなることが多い、と思う。角の代わりに右金をくっつけると四角矢倉と呼ばれる形になる。流れ矢倉は銀が7七に上がらず中央に出て行った形。矢倉中飛車対策で用いられ、また急戦矢倉で銀が(中央ではなく)上部に出て行って似た形になることもある。4枚流れ矢倉という名前はさっき勝手に作ったものだが、この形を単に流れ矢倉と呼ぶ人もいるし、銀を引いた変則の総矢倉だと見ることもできる。中央が争点になる急戦に対して守りを固める場合に有効で、4枚にしない場合は6八銀+居角型などが好まれる。

菊水矢倉、菊水矢倉(桂跳ね入城)
 
棒銀などへの対策としてあえてこうすることもあるし、序盤が変則的になったときに強引に矢倉を組もうとしてこうなることもある。端攻めには強いが角打で玉が睨まれやすい。桂を跳ねて玉が潜ると6五の地点に利きが集まって右四間の一点突破に耐えやすくなるが、下段への飛車打ちが厳しく銀冠と比べると桂頭がより弱い(6九に金銀角が利いているので香あたりを打てれば堅くなり、銀を持ってきてミレニアムにした形はトーチカ囲いと呼ばれる)。最初からこの形を狙うことはあまりなく、なにかの都合で桂を跳ねさせられて、せっかくだから角の当たりを避けたところに玉を持っていこうとするとこうなる。

天野矢倉(片矢倉)、天野矢倉(左金保留)、嘘藤井矢倉
  
天野矢倉は早く組み上がり角交換に強い。その分端が弱いが逃げやすくもなっており、緊急なら銀が下がって守ることもできる。下段がやや涼しいものの、金矢倉と違って銀打ちから金と交換されても取り返しやすい利点があり、角打ちの隙も少ないので角換わり矢倉としても好まれる(これをシステム化したのが藤井矢倉)。左金の上がりを保留した形はさらに角打ちに強く、場合によっては穴熊に組み替えることができ、玉頭銀系の急戦に応じる都合でたまたまこういう形になることもある(対抗形の場合居角が基本で、チャンスがあれば引き角から捌く)。矢倉模様から角交換が入って後手が手に乗り左銀冠、先手が天野矢倉のような形になると千日手が濃厚になる(後手銀冠にしなくても指せる形なのであまり選択されない模様)。右の形は26歩、34歩、25歩の出だしから後手居飛車を志向したとき先手が雁木から組み変えて出現する形(棒銀に弱く後手の74歩が早かったとき用)。

矢倉穴熊(通常)、矢倉穴熊(完成)
 
先の図はまだ組む途中だが、普通はこれ以上組めない(阿久津流急戦矢倉を避けた変化で出てくるくらい)。上からの攻めに強いのはもちろん、横から攻められても金底に銀か香を打てれば驚異的な堅さになる。先の図の形を見せて先手が後手に攻めを強要するのが基本的な使い方。

美濃系

片美濃囲い、本美濃囲い
 
こちらは振り飛車の基本にして奥義といえる構え。本美濃のことを(高美濃と対比させて)平美濃と呼ぶことがある。横方向から攻められたときに時間を稼ぎやすく、上、斜め、端のどこか1箇所は手を付けておかないと、悪夢のような堅さになる。反面少しでも形を省くと防御力が半減し、端歩省略型や入城保留型(玉が銀の下で待機する)や片方美濃は横から攻めても意外なほどあっけなく崩れる(ただし入城保留型は、上、斜め、端からの攻めには遠さがあり、相振りの囲いとしては優秀)。美濃系の囲いは種類が多く、美濃という名前は金銀をジグザグに並べた囲いの総称だとでも思っておけば無難か(玉は右端近く、その隣が銀というのが一般的で、この原則から外れるものは別途名称がついていることが多い)。また、本美濃と金美濃の区別は玉の隣が銀か金かだが、本美濃と銀美濃の区別は中央(囲いの玉から一番遠いところ)が金か銀かで呼び分けている。

高美濃囲い(桂跳ねず)、銀冠(桂跳ねず)
 
高美濃は美濃囲いを発展させ縦横にバランスよくしたもの。相手の桂に金を狙われないよう3筋の歩は突かざるを得ないことがほとんどだが、桂を跳ねないと相手の角睨みが厳しく、跳ねると下段が弱くなるとともに桂頭が弱点になるためタイミングが難しい(玉頭で攻め合うときの攻撃力は上がる)。銀冠はさらに発展させ上への厚みを増したもの。手数が多くかかるが組めてしまえばかなり堅く、下段への飛車打ちに対しても、桂さえ跳ねていなければ意外と逃げ延びられる。なお、桂を跳ねない高美濃からは、2手で右矢倉にも組み替えられる(上からの攻撃に備える必要があるのはおもに相振りのときで、乱戦で高美濃にも組めない場合が多いことや、四間飛車に攻められると通常の金矢倉が右四間に攻められたときのような格好になることから、そう多くは見られない:ちなみに高美濃から銀冠への組み換えは、玉頭歩の上がりを含めて3手)。

銀冠穴熊、銀冠穴熊(3筋不突)、美濃穴熊
  
銀冠穴熊も完全に組めることはあまりなく、組み替えて得かどうかも微妙な場合が多い(遠くはなるが、銀冠の特長である広さが損なわれるし、桂を跳ねられなくなる)。最初の図から両方の金が寄るところまで組めればビッグ4の3枚バージョンになり、多少アンバランスではあるが堅いといえば堅い。3筋不突の形は玉頭が手厚く、金が寄ってしまえば普通の銀冠穴熊より横にも強いため、正面に銀冠ができて桂跳ねから攻め込まれそうなときに有用。美濃囲いも穴熊にできるが、見た目通りそれほど堅くなく、なにかの都合で端歩を突けなくなったときに使うくらい。

やや変則的な右囲い

早囲い(3手囲い)その1、その2
 
実際には飛車をどかすために1手使って4手かかる。その1は船囲いほど堅くないし、簡単に組みかえられる発展形が金美濃くらいしかない(対中飛車相振り急戦で、左金をくっつけて補強する形があるくらい:どちらかというと、本美濃に組もうと思ったら銀を左に上がらされたような格好のことが多い)。その2もあんまり変わらないと思うが、単品ではこちらの方がやや堅そうに見える。組みかえるとしたら金無双か。

金美濃(2枚)、金美濃(3枚)
 
玉に紐がついているのと、3筋から攻められにくいのが利点。玉は金の下で待機することもある。3枚にすると横にもかなり強くなる。本美濃のように「どんどん堅くなる」系の進展はなく、木村美濃などに組み替えて守り駒を攻めに放出しやすいのが特徴(美濃系では珍しく隙間のない穴熊に組み替えられるが、銀を戻して手損になる)。配置的にはカニ囲いに近く、右金が下がった3枚カニ囲いと、玉が潜った3枚金美濃は、ちょうど左右が反対になる(そこから下段の金を寄るとカニ缶囲い)。カニ囲いが一段玉(ないし6八玉or4二玉)メインで2枚の金で守るのに対し、金美濃は2八玉が原則で金銀で守る。

チョンマゲ美濃(端歩まだ)、裸美濃(坊主美濃)、片銀冠
  
チョンマゲ美濃は片銀冠の前段階ともいえるが、銀が上がる前に玉頭の歩を取られると裸美濃や裸銀冠になる。飛車先を突いてしまった後ムリヤリ振り飛車にしてこうなることもある。裸美濃はひねり飛車で出現するほか、もしかしたら相振りでこうなることもあるかもしれない(レアケースだろうが)。片銀冠(銀冠美濃とも呼ぶらしい)は中飛車で出現するほか、高美濃や銀冠から左金が攻撃に出て行ってこうなることもある。銀桂が守備に残っており中央が手厚ければという条件はつくが、2枚の囲いとしては意外なほど堅く、金を1枚残して銀桂が攻撃参加する荒業にも(他の陣形よりは)出やすい。また攻め上がりを控えた場合、相手の攻め駒が迫ってきても金底に何か(理想は金)打てば一気に堅くなる。

金無双

金が2枚並ぶ形で、単に2枚金というとこちらを指す場合がある。ほぼ相振り限定で、とくに相手が穴熊を目指した場合に出現する。横に手広く構えが低く潰されても逃げやすいことから縦攻めや角打ちに強いいっぽう、銀が壁になり玉が狭く飛車を下段に打たれると守りにくい(玉から遠い金が下がると紐が外れるので、玉の腹を守っている金を下ろすか、小駒や銀などを打たなければ飛車の横利きを止められない)。壁銀を嫌って銀の上がりを保留することもあるが、そうすると端が弱くなる。

木村美濃(3枚桂跳ねず)、左木村美濃(対立石流縦2枚銀)
 
金美濃を高くしたもので、4枚で組むと雁木の右バージョンに近い(玉の隣の金以外は適宜攻め上がるので、何枚で組むと決まっているものではない)。片銀冠と同じく「銀が攻め上がってもギリギリ守れる」ことを目指した攻撃的な囲い。異なるのは、片銀冠では銀桂が玉頭に出て行く前提なのに対し、木村美濃では中央に出て行きやすいことで、中飛車にする場合などに用いられる。後者はかなりレアな形で、多伝囲い風の位を張った構え(船囲い縦2枚銀とも似ている)。飛車先は浮き飛車で受ける前提で、右金保留のまま5筋制圧や玉頭戦をちらつかせて振り飛車の対応を迫る(立石流対策は7七角打ち直しが勝るらしく、現在はあまり見られない)。

船囲い系

原始船囲い、船囲い(準備段階)
 
原始船囲いは、3手で組める囲いの中では堅い方だが、普通に指し進めるには不都合が多い形。右囲いとしてなら、香落ちの上手でまれに見られるのと、振り飛車で乱戦に巻き込まれ美濃囲いにできないまま進んだときに現れなくもない。普通に組むときは、端歩を保留することで居飛穴の含みを残しつつ手数を節約し、銀上がりで攻守の準備をしつつ相手の対応を要求し、どのみち必要になる3六歩と5六歩を先に突いておく(5六歩は玉頭に相手の銀が出てきたときに受けるためにも必要)。

船囲い(標準形)、船囲い(横2枚金)、
 
角交換に強く左右どちらの銀も攻撃に参加できる形で、実は横からの攻めにも(攻めが横から「だけ」であれば)かなり強い。横2枚金は銀が出払った後横からの攻めや縦2枚金への変化に備えたもの。居飛穴にするときは標準形にまでしない(端歩を保留する)ことが多いが、組み上げてしまってからでも、銀が玉頭に乗って左金が上がるとボナンザ囲い、さらに金を上げると天野矢倉、相手からの角交換を玉で取り返して銀を上がる(左金の紐が一瞬外れるので銀で取り返す方が一般的)と左美濃、上下で紹介している2枚金シリーズなど変形候補は多い。標準形のままだと「角をどかさなかったために銀が上がれず玉の位置も半端な左美濃」っぽくも見えるが、左銀も攻めに出してしまうことが多くあまり問題にならない(原則的には金2枚で守り、銀が出て行って薄くなるのは角の当たりを避けている分で緩和する格好:角も出て行った場合、9九への角成りには注意が必要)。

船囲い(縦2枚金その1)、船囲い(縦2枚金その2)、船囲い(縦2枚金その3玉頭戦用)
  
その1は横2枚金からの発展で、縦の守りを2段にしたもの。その2は標準形から右金を寄ったもので、意図してこの形に組むというよりは、受けの都合でこうなることの方が多い。最後は少し変わっており、玉頭位取りで後述する銀立ち矢倉に組む余裕がない(あるいはあえて組まずに先着する)場合に用いる。左銀はもちろん玉頭に繰り出すのだが、右銀も中央に使って手厚くすることが多い。銀立ち矢倉系の陣形と比べると理想形が実現したときの懐の広さでは一歩及ばないが、その分隙なく組み上げられるので、相手の出方で使い分けられるようになっておきたい。

船囲い(横2枚銀)、船囲い(縦2枚銀)
 
正確には横2枚金+横2枚銀とか縦2枚金+縦2枚銀などだが、たいていは略して銀の方だけ、あるいは単に2枚銀と言う。横2枚銀は、名前と見た目の通り横に広く攻撃を受け止めつつ、手薄な方から攻めに出られる。縦2枚銀は、上からの押し潰し系の攻撃に強く、また上の銀が出て行って大駒をいじめることもできる。後手番で対四間飛車のとき、先の図の形に組んで右桂を跳ね、6筋で取り込んだ歩を打ち直し飛車を81~83と往復させる千日手狙い(淡路システム:2003年6月30日、NHK杯、先手中村修プロ、後手淡路仁茂プロ)があるが、結局打開ができるのかどうか、筆者は知らない。

矢倉風駒柱(名称不明)

狙って組むようなものではないが、船囲いで6八に上がっていた銀がなにかの都合で7七に進み、利きを止められた角が引くとこうなる。天野矢倉やへこみ矢倉あたりに組みかえる目もなくはないだろう。

左美濃系と居飛穴

穴熊準備形(6七金)、居飛車穴熊(6七金)
 
藤井システム普及前は居飛車穴熊といえば7九金+7八金型だったが、準備形が7九銀保留の変則流れ矢倉になる6七金型が登場した。この準備形の(自分から仕掛けられるほどではないが、振り飛車からの仕掛けは凌げる程度の)堅さが、居飛車穴熊の将棋全体を成り立たせているといっても過言ではない。1手で4枚流れ矢倉に組み変わるため中央に手厚く、中飛車(後述の79銀保留型をある程度長く保つこともある)や右四間振り直しにも対応できる。完成した形も矢倉っぽい雰囲気で、4枚穴熊への進展や、振り飛車からの角交換を(状況により同銀や同金もあるが)同桂と取って玉頭戦に出る指し方もあって、柔軟性が高い。

升田美濃(準備その1)、升田美濃(準備その2)、升田美濃(発展形)
  
対中飛車などで見られる7九玉型左美濃の総称(だと思う)。準備1は序盤で角道を開けないまま左に囲うやり方。準備2は先に上部中央を守っておいてから潜る(左銀の上がりを保留して玉を寄ると穴熊準備形になる)。発展形は、角に睨まれやすい代わりに玉頭戦を仕掛けたとき玉を遠くに置ける。玉が入城すると高美濃になり、後手番だと似たような構えから矢倉になる順もある。形自体は江戸時代からあるともいうが、プロの将棋に初登場したのは第26期A級順位戦の原田升田戦らしい。

左高美濃(桂跳ねる)、左銀冠(3三角)
 
左に高美濃ができるときは正面に穴熊ができていることが多いため、桂も跳ねることが多い。左銀冠はとにかく手数がかかるが、組めてしまえば堅くて広い。端を突き越せる場合でも、8筋の位を取って9五角と出る選択肢を残すことがある。3三角型で相手の桂跳ねが有り得る場合角に当たるので、玉頭を突付かれたときの端桂と6筋をぶつけられたときの角交換は、いつでも用意しておくべき。後述の米長玉などで角の直撃を避けることも多い。

片穴熊(左)、居飛車穴熊(7九金+7八金)、4枚穴熊(対中飛車用)
  
右でも左でもそうだが、片穴熊というのは「遠くて脆い」穴熊の特徴が目立つ形だと思う。一目散に囲うと、端歩を突かない片銀冠と同手数。7九金+7八金型は組み上げられる条件が厳しいが、囲いの性能だけを考えるなら6七金型よりも金銀の連結で勝る。対中飛車用の4枚穴熊は、88銀ないし88角のタイミングを保留して、相手に攻めさせてから受けようという考え方(状況により88銀を決めてしまうこともある)。

やや変則的な中央~左囲い

金開き、新山崎流の囲い
 
いづれも広義の中住まいの一種。左辺の形は銀や角を含めて状況によりさまざま。金開きは相掛かり系の将棋で用いられ、単に中住まいというとこれを指すことがある。新山崎流の囲い(名称不明)は玉と金の上がりを省略したもので、従来の山崎流(現在は旧山崎流とも呼ばれる)では金開きにしていた。このほか、横歩でない相掛かりではカニ囲いも使われていた(駅馬車定跡など)。

中原囲い(相掛かり6一玉)、中原囲い(相掛かり居玉、横歩8五飛型後手)、中原囲い(横歩相浮き飛車後手)
  
広義の中住まいの一種。居玉の中原囲いはもともと相掛かりの構えで、ここから3七桂早仕掛けや中原流3七銀、中原飛車(囲いはナカハラガコイだがこっちはチュウゲンビシャと読む)、塚田スペシャルなどの形で戦う。横歩でも用いられ、左銀以外の金銀は基本的に定位置で待機して、相手の強襲に駒交換を繰り返し時間を稼ぐ役割(雁木の金銀と違って単純に壁のように働くことが多い:が、破れたらおしまいではなく「刈られてもまた生えてくる」感じ)。どう見ても角頭が弱点で、そこを突かれる前に後手からの仕掛けでなんとかする発想なのだが、囲いに手数をかけない新山崎流がライバル。相浮き飛車では右桂に紐をつけつつ中住まいとの折衷により遠さで時間を稼ぐ形が優秀で、左銀を上がって飛車をぶつける指し方もある。余談だが、この囲いの考案者は中原誠名人ではない(多用していただけ、あるいは改良して用いた)らしく、金易二郎名誉九段から教わったそうな(形としては江戸時代からあるとも聞く)。

左銀冠(米長玉)、端美濃(串カツ囲い)
 
銀冠(というか、相手の角が直射しているのに標準位置だと玉のコビンが空く左美濃系)は米長玉が出現しやすい代表例。端玉銀冠とも呼ばれる。普通の銀冠穴熊ももちろん候補になるが、9筋からの攻めが薄い場合(対抗形で相手が穴熊とか)には、ただ玉を寄って1手稼ぎつつ角の当たりも避けるのが有効なことがあり、銀頭に歩を突き捨てられたときに桂を跳ねるという捨て身の反撃(下段飛車は打たれていない前提)もある。串カツは穴熊と美濃を折衷したような感じで、玉頭の脅威が小さい場合は穴熊より1手早く途中の形も危険が小さい。穴熊と同様に上の金の使い方にバリエーションがある。

左銀冠(準備段階4筋不突)、左銀冠穴熊(準備段階縦2枚金)
 
先の図は角道を止めないまま左銀冠に組みたいときの構え。対振り穴で急ぐ必要がないときは端歩を後回しにすることが多い(玉頭戦含みなので結局は突く)。4筋を突いて金が上がれば普通の銀冠、玉が潜れば銀冠穴熊、金銀が攻め上がれば片銀冠になるし、しばらくこのまま進めることもあれば、単に右金を寄って横2枚金にすることもある。後の図は普通に組むと7二金型の居飛穴と同じ手数で少し損なようだが、この形でもかなり隙がなく角道も通っている(図ではわからないが、上が右金で下が左金:横2枚金の形ももちろんあり得る)。片銀冠からの手入れで似た形が出現することもあり、その場合は端歩を突いてあるはずなので、それなりに堅く意外と広い陣形になる。穴熊でなく米長玉にすることもあるし、右金をしばらく4一に保留しておく場合もあり、すでに桂を跳ねている場合はミレニアム(8九玉型)にすることが多い(西田スペシャルと呼ばれる形に近くなる)。

左銀冠穴熊(8八金型)、左銀冠穴熊(7九金型)
 
先の図が一般的な形だと思うが、ここまでは組めないことも多い。普通の居飛穴と異なるのは、銀冠だけに玉頭の攻防に強く、駒を剥がされたときのバランスがよく(7九の金を取られてハッチを開けて取り返すような形になりにくい)、8八が金なので桂の紐が2本になる反面、桂の腹が素通しで組むのに手数がかかる。どちらかといえば向かいにできた銀冠からの玉頭攻めを受ける形だろうか。後の図は右金の上がりを省略しただけだが、8八の空間が角の引きどころになっており、相穴熊での玉頭攻めに向く(本格的にかじりつかれたら枚数で守らなくてはならないため、角だろうが歩だろうが1枚は1枚で逃げていられないのだが、玉頭戦の流れ弾程度ならかわした方がよいこともある)。当然ながら、玉頭戦をする場合は歩と銀が攻め上がって2枚の囲いになる(手入れで8八金と上がることも多く、その頃には玉頭の歩を切れているはずなので、底歩の余地も残る)。

ビッグ4、ビッグ4(縦)、ビッグ4(対三間飛車)
  
4枚穴熊からの組み換えで作る。恐ろしく手数がかかるため実戦で目にすることはほとんどないが、防御力は通常の穴熊の比ではない(金銀がこのように四角く並ぶものをセメント囲いといい「堅いが脆い」という意味らしいのだが、穴熊バージョンはぜんぜん脆くない)。しいていうなら下段からの横攻めが有効だろうが、2枚飛車でもない限り一点突破はできないだろう。右銀が出て行って代わりに角が入った形だとかなり弱くなる(といっても堅いが)。縦バージョンの守備力はと金穴熊の次くらいに高い。4枚銀冠からの組み換えで金と角が入れ替わったもの(状況にもよるが通常のビッグ4より脆いはず)ができることはまれにあるかもしれないが、実戦でもし真ん中の図の形に組めたら記念写真を撮っておいた方がよい(7二金型の3枚居飛穴から8筋を突付かれて銀を補強すれば、あるいは銀冠穴熊縦2枚金から金を上がらずに銀を打てば、同じ形にならなくもない)。対三間飛車バージョンは浮き飛車(飛車側の端を突いておかないと角を当てられるので注意)で飛車先を受ける前提。

玉頭(7筋)位取りの陣形(対ツノ銀中飛車の例)、玉頭(7筋)位取りの陣形(対ゴキゲン中飛車準備形)、玉頭(7筋)位取りの陣形(対ゴキゲン中飛車の例)
  
とにかく手数がかかる。先の図(形としては7七角型の銀立ち矢倉に右銀をくっつけたもの)は見えている範囲だけで17回駒を動かしている(駒の打ち直しがなければ、最速でも33手目までは出現しない)。とくに決まった形があるわけではなく、右辺の都合などによってさまざまな変化があり、理想形には組めないことも多い。すでに紹介した船囲い縦2枚金に銀を乗せた形と、これらの矢倉系の形のどちらを選択するかも場合による。基本的には玉頭周辺に位を張ることによって相手の指し手を制限する狙いで、抑え込みに成功して理想形に組んでしまえば重厚かつ破壊力のある攻めが可能、途中で相手が位に反発すればそれに乗じて玉頭戦を制しにかかる。後の図(形としては対振り雁木から歩を盛り上げただけ)も例として示したが、7五歩を決めるタイミングがデリケートで、右金をしばらく保留する(あるいは結局くっつけない)ことも多い。ひとまず真ん中の図まで組んで、いつでも玉頭戦に出られるよう準備しつつ右辺の様子を見るような感じだろうか。6筋の位を先に取る指し方もあり変化が多い。すでに触れた対立石流変則木村美濃も玉頭を圧迫する構えのひとつ。

変則船囲い(準備段階)、変則船囲い(横2枚金)、エルモ囲い
  
角交換を入れた船囲いから左銀を上がり玉が離れて準備段階、相手が角を手放したところで右金を寄せて左金を上がると横2枚金、さらに右金を上がって縦2枚金にすることもある。自分も飛車を回っての中央からの反撃に適しており、振り飛車からの角交換を玉で取り返して(このときの隙がけっこう大きいので普通は銀で取る)金をくっつけてもこの形になる。準備段階の形から玉の腹に銀を打って補強すると左のダイヤモンド美濃になり、対抗形の乱戦で半端に捌き合った後の手入れで広さ勝ちを狙うときに有効。カニ囲いに入城しての変化で上記と似た形になることももちろんあり、このくらい崩れてくると元が何だったかはあまり関係ない。最後の形はelmoというソフトが好むことからelmo囲いと呼ばれているが、プロの将棋では第39期名人戦七番勝負第1局(先手中原誠プロ、後手桐山清澄プロ:1981年4月9日)で先手が採用した。中原囲い(の右辺部分)と船囲いを折衷したような形で、船囲いの急所を緩和しつつ右金に自由を与える(あるいは59金とくっつける)構え。

へこみ矢倉

カニ囲いと船囲いの中間のような形で、入城型のカニ囲いとの違いは右金が寄って締まっていること、変則船囲い横2枚金との違いは7七の銀が相手の居飛車を受けていること、金矢倉との違いは右金が上がれていないこと。急戦矢倉のとくに後手番で出現するほか、対抗形の角換わりで相手が穴熊に組んだときにも有効(腰掛銀にして6筋の位を取るのが有望)。角の位置はさまざま。

角換わりの囲い

居玉1枚金その1、居玉1枚金その2
 
囲いではなく横や上にいるだけなのだがかなりよく出現する状況で、このまま仕掛ける将棋も青野流角換わり棒銀などで見られた(小野新手で現在は絶滅状態だが、変則的な角換わりではまれに出現する)。先の図を玉金囲い(ぎょくきんがこい)、後の図を金玉囲い(きんぎょくがこい)という、人がごく一部にいる(ちなみに、銀冠の銀と金を取り替えたものは金冠と呼ばれる)。これより薄い囲いはおそらく衛星囲い(玉の周りにまったく駒を配置しない:あまりメリットはないが、打ち込みを恐れるあまりなのか将棋ソフトがまれにやる)くらいしかない。実際には左にもう1枚金がいることがほとんどで、後の図はカニ囲い系(たいていは2段玉のカニ囲いに進む)。

2枚屋根、駒柱
 
名前はいま勝手につけた(駒柱は傘のようにも見える)。基本的には、左に金銀が集まっているのでその下に潜っただけだが、船囲い派生の駒柱と同様金矢倉の右金を省いた形に近く、攻め込まれても案外耐える。玉の位置にはバリエーションがあるが、角打ちを避けるため金矢倉でいう入城の位置には直行できない(深く囲った方が堅い場合ももちろんある)。

片ボナンザ、ボナンザ囲い
 
形自体は以前からあるが、将棋ソフトのボナンザが好むことからこう呼ばれるようになった。3枚のボナンザ囲いは、天野矢倉(すでに触れたように、矢倉系のなかでは角打ちに強い)と船囲い横2枚金を折衷したような形。右囲いでも、金無双から銀を玉頭に上げると似たような形になる。

船囲い(7七銀)、離れ矢倉(3枚)、離れ矢倉(4枚)
  
最初の図は、船囲いで相手からの角交換を銀で取り返し、壁になった銀を7七に上がっただけの形で、もちろん対抗形の角換わりで出現する。隙は少なくそこそこ遠いのだが、上部は実質銀1枚の守りで各駒の紐も細い。後の2つの離れ矢倉という名前はさっき勝手につけたもので、3枚のものはへこみ矢倉、4枚のものは四角矢倉の、右金が5二に留まっているバージョン。3枚のものから右金が離れると2枚矢倉、4枚のものから離れると銀矢倉と同じ形になる。矢倉と呼びはしたが、形としては入城したカニ囲いに近く、元になっているのは船囲い。相振りで3枚の離れ矢倉に似た形が右にできることもある。どれも5筋の歩を突いてしまっていると守りにくくなる。

離れ銀冠

こちらは銀冠の5二金型。やはり対抗形の角換わりで、壁になった銀を7七でなく8七に上がって作る。相手が穴熊の場合に広さを稼ぐ、あるいは相手が美濃系の場合に高さを奪い合うことができる。矢倉系の構えと違い6六の守りが薄いため、6筋の歩は突かない方が守りやすい。桂は跳ねることが多い、というか桂を跳ねたいからこの形にするのだと思う。

その他(画像なし)
横2枚金などの低い陣形やカニ囲い系の横に長い陣形が好まれる。

4枚美濃系

4枚美濃(基本形)、4枚美濃(4二銀)
 
先の図は四間本美濃から左銀を上がっただけだが、この左銀が居飛車の棒銀などを受けており、結果的に(飛車角を含めた)自陣全体で守る形になっている。後の図は、向かい飛車でたまに出てくるくらいであまり見られない(左の4枚美濃や4枚銀冠は中央に出た右銀が戻ってくることでできるが、振り飛車の左銀はくっつけにくい)。いろいろな発展形の元になるのだが、普通はこのあと左銀が4三に上がってしまう。

4枚高美濃(準備段階1)、4枚高美濃(縦2枚銀)、4枚銀冠(横2枚銀)
  
すでに触れたが、右囲いの場合準備段階まで到達することがまず珍しい。高美濃縦2枚銀はかなり堅い形で、ノーマル三間飛車で居飛穴を組ませて指すときくらいしか出てこないが、左美濃だと天守閣バージョン(8七玉型)で似たような形が見られる。4枚銀冠も左で見られることの方が多いが、右の囲いとしても組めてしまえば強力で、横2枚銀は金矢倉と銀冠を複合させたような雰囲気。最初からこの形を目指すというよりは、補強の都合でこうなることの方が多いはず。

4枚美濃穴熊(横2枚銀)、4枚銀冠穴熊(縦2枚銀)、4枚銀冠(特殊形)
  
こちらはさらに珍しい形。4枚高美濃縦2枚銀から直接穴熊にすると、アンバランスなのだが妙に遠い独特の構えになる。4枚銀冠横2枚銀からの穴熊は、ものすごく手数がかかる代わりに下段以外がわりとバランスよく、金底に香あたりを打てると隙がなくなる。4枚銀冠の特殊形は、守りだけ考えると非常に隙がないともいえるが、いかんせん組めない。高美濃の玉頭を突付かれた後に補強で銀を打ったら出現しなくもないか。


戦略の基礎の基礎

よく出てくる用語として力戦、急戦、持久戦というのがある。これがどんな内容を示すのかは流儀や好みや時と場合があって一定しない(とくに力戦と急戦の違いは感覚的なものも大きく、その戦型が確立された時点でどのような構図が代表的だったかにも左右される)のだが、おおむねの理解として、双方が攻め合うのが力戦、片方が仕掛けてもう片方が受けるのが急戦、お互いに自陣を固め合うのが持久戦だと思ってよさそう。

力戦という言葉は、早い段階で定跡や研究から離れる展開(力将棋や手将棋などと同義)を意図して使われることもあるが、たとえ片方が定跡を外して仕掛けたとしても、もう片方が受けに回れば(新型ないし奇襲の)急戦だし、たとえば力戦振り飛車や力戦矢倉にも定跡手は多くあり、またいっぽうで「序盤で新手が出た将棋はすべて力戦」かといえばそんなこともなく、上記の趣旨であるなら本来の「力将棋」を用いるのが正確かなと思える(もちろん、力戦だと力将棋になりやすい傾向はあるので、切り離せるようなものでもない)。

出発点

将棋の駒でもっとも攻撃力が高いのは飛車と角である。そのことを念頭に初期配置を眺めると、自分から見て右上に攻めると効率がよいことがわかる。また、角は自分のすぐ上を守れないので、2筋は防御力が弱いといえる。

だから角頭を飛車で攻めて受ける側は斜めに守るということをすでに紹介したが、基本はこれである。先手が飛車先をズンズン進めると、後手は角で守るか、守らずに攻め返すしかない。
 
これは、将棋というゲームの構造上どうしようもなく、戦形を決める大きな要素になっている。

話が前後するが、飛車が出て行った後には大きな穴が空き、防御を考えると大きな欠点となるため、玉は飛車が攻め込んだ場所から遠いところに囲うのが原則になる(ひねり飛車という例外的な戦法もないことはない)。

「玉飛接近すべからず」というのは(近くにあると両取りをかけられやすいというのもあるが)このことを言っているわけである(ただし、飛車に比べればマシというだけで角が出て行った後にも出っ張りはでき、居飛車の囲いでは突いてしまった歩をどうやって守るかが重要になる:すでに紹介したように、出っ張りがあると銀に狙われやすく、平らだと歩交換されやすいため、けっこう微妙な問題)。

つまり、先手が初期配置から自然に攻め込むと、こんな感じになる。

これが居飛車である。攻められた方が角で守って飛車も加勢して、という事情はすでに紹介したが、飛車を動かすと玉を囲うべき場所も変わってくる。たとえばこんな感じである。

これによって、自然と対抗形(居飛車vs振り飛車の戦い)ができる。

対抗形の構造、というか歴史

さてでは、先手が居飛車で後手が振り飛車の対抗形を見てみよう。すでに何度も触れた先手船囲いvs後手美濃囲いの場面である。図が間違っている(四間飛車の角道を塞いでいない)ことに後から気付いたが、直す気力がないのでそっとしておいて欲しい。

やはり決定的に違うのは飛車角の位置と利き方で、居飛車側は離れた位置から右上あたりを集中的に狙っているのに対し、振り飛車側は近い位置で互いに守り合っている。つまり、居飛車側が仕掛けて振り飛車側が受ける急戦の形である。

そういうわけで、先手居飛車が攻め後手が振り飛車が受け、攻め切れば先手の勝ち、守り切れば反撃して後手の勝ち、という将棋が、長いこと主流だった(のだと思う)。居飛車が振り飛車を攻める基本的な手順が山田定跡としてまとめられている。この構図が崩れてきたのは、おそらく大山名人の時代からではないかと思う。大山名人というのは受けの名手で、居飛車がどんなに攻めても受け切ってしまったのである。

これには美濃囲いという囲いの優秀さも影響している。美濃囲いというのは横への防御に特化した囲いで、無駄を省いた分少ない手数で強力な布陣を築くことができる。

また上で紹介したように、放っておくとどんどん進化して防御力が増してゆく。とくに多数の攻め駒を交換する「捌き合い」の形になると有利で、さらには美濃囲い以上の防御力を誇る穴熊もある。こうなってしまうと船囲いでは対抗できないため、居飛車は急いで攻めなければならないのだが、無理攻めすると反撃される。

これに応じる指し方はおもに2通り、鷺宮定跡などのより新しく難解な定跡を用いる方法と、左美濃(天守閣美濃)である。前者が正攻法なのはすぐわかるとして、後者はどういうことか。防御力に差があって捌き合いにできないのだから、自陣をもっと固めてしまえばよいという発想である。ただしこの時点では、振り飛車の陣形が完成する前に居飛車が仕掛けるという枠組みに大きな変化はなく、少し手入れをしてから攻める準急戦のような格好だと筆者は解釈している。

この天守閣美濃は「どうせ上からは攻めてこない」というのを最大限に活用して、上への圧迫と横からの攻めへの防御力を両立した優秀な陣形だった。飛車角の当たりを避けるという意味では米長玉と通じるところもあったかもしれない。しかし少しやりすぎだったらしく、上(玉頭)から攻めたら脆いということが発覚して急速に用いられなくなった(この欠点を咎める方法をまとめたのが初期の藤井システム)。先手番の対左美濃藤井システムは後手番ほど万全でないため、居飛車が後手番なら天守閣美濃も選択肢になるのかもしれないが、先手四間飛車自体がマイナー戦法になっていったためあまり研究されていない(のだと思う)。

代わりに台頭してきたのが居飛車穴熊で、天守閣美濃と違い上にも横にも強く、振り穴熊で対抗しようにも角の利きや飛車先の伸びで一歩及ばなかった(少なくとも流行し始めた当時は)。攻めが細くなりがちな穴熊にとって、攻撃力が集中していることが有利に働いたのかもしれない。それまで注目されていなかった持久戦では、実は居飛車が指しやすかったということでもある。振り飛車側の対策はというと、これはもう組ませないのが一番ということになり、まずは居玉型の藤井システム(居飛車が持久戦を志向する前提で振り飛車から仕掛けるわけだから急戦ということになるが、居飛車側の応じ方で力戦や振り飛車が受ける急戦にもなる)、ついでゴキゲン中飛車(少なくとも登場初期の構図として、振り飛車側が仕掛けを放棄しない形でかつ、居飛車が持久戦にするのも無理があったため、自然と力戦になった:後からの研究により相穴熊になる順なども指されている)が流行した。また居飛穴に組ませたうえでじっくりと攻略する手順も研究され、鈴木システムなどが登場した(こちらは持久戦を受けて立つコンセプトといえる)。

とまあざっと流れを追ってみたわけだが、ここで重要なのは「居飛穴は堅い」ということである。当たり前の話で身も蓋もないのだが、ぶっちゃけ、最近の対抗形は「好形の居飛穴に組まれたら試合終了」というのを前提にしているところが少なからずある。ここを押さえておかないと理解できないことがいくつかあると思う。天守閣美濃流行前のプロの将棋で居飛車が振り飛車に大苦戦していたことからもわかるように、船囲いで美濃囲いに対抗するのは(難易度として)かなり難しく、振り飛車側が「居飛穴に組ませないための対策をしなければならない」ことで初めて急戦の目が出てくるのだと思った方がよさそう(反対から言うと、振り飛車が居飛穴対策を度外視して急戦にだけ備えている場合は、居飛穴に組まないと勝ちにくい:つまり、居飛車側には「穴熊に組むべき形か急戦に出るべき形か」を判断する能力が求められる)。

相掛かりと角換わりの構造、というか概要

筆者はサッパリわかっていない。が触れておかないと話が進まないので憶測で。

相掛かりというのは先に挙げたこの出だしからこうなって
 >進む> 
順調に進むとこんな感じになる。
 または 
これはまあようするに正面からの殴り合いで、お互いが最強の攻撃を繰り出し合い、20手くらいまでは玉を囲う間もなく進み、その後角交換なんかも入って力戦になることが多い。居飛車というコンセプトを考えると、後手番が根性を見せるとこんなことにもなるのかなといったところ。なお横歩取りは相掛かり模様からの変化で、文字通り突っ込んだ後に横の歩を取る(というか後手が取らせる)。先手が歩を取って飛車を2筋に戻す間に後手が先制できるのが特徴で、空中戦と呼ばれる派手かつ入り組んだ独特の展開になる。

角換わりは名前の通り角を交換する将棋で、最近流行の後手一手損角換わりだと、こんな感じから交換して、
 >交換> 
順調に進むとこんな感じになる。

お互いに角を手持ちにしているため、堅い囲いや手厚い攻めといったことよりも、陣形に隙を作らず切れ味鋭く攻めることが求められる。可能な動き方が狭いのかというと、やられているようで実は受かる展開もあり、また玉形が薄く広いので独特の寄せになる。いったん仕掛けたらあとは速度最優先というか、相手の攻めを遅くできるときだけ受けて後は攻めっぱなしのような格好になることもある(将棋ソフトを相手にこれをやると(ある程度の時間制限があれば)中盤で緩い手を指しがちで優位に進められることもあるのだが、終盤の速さが圧倒的で逆転負けしやすい)。

まあぶっちゃけよくわからないので図をたくさん出してお茶を濁したわけだが、必要とされる慣れや経験が多めな横歩取りはともかく、居飛車を指すなら普通の相掛かりと後手一手損角換わりはこなせた方がよい。

相矢倉の構造、というか心境

やっとたどり着いた。相矢倉は、相掛かりとは違った意味での全面衝突になる。お互い相手の強力な攻めに晒されるので守り切るのは最初から無理で、先手が突破したところが折り返し地点になることが多い。先手はできるだけいい形で突破したいと考え、なかでも飛車の成り込みが強力である。せめて角だけでも成っておきたい。後手は小駒の成り込みで留め後ろを分断することを目論み、攻め込んでがら空きになったところに角を成らせて挟み討ちを狙う。
 >突破>
終盤が近付くと、お互い相手が手抜けない攻めを探しつつ、飛車の活用や攻守のバランスを検討し、また相手に速い攻め突きつけることで無理攻めを誘うことになる。ごちゃごちゃした話を文字で書き込むとこんな感じだろうか。
 >思惑> 
うまい具合に実力が伯仲していると、俗に全面戦争と呼ばれる詰ませ合いに発展する。先手の攻め駒が迫っている後手玉と、挟み討ちにされて逃げ場のない先手玉で、先に詰まされた方が負けということになる。基本的には、先手の仕掛け方(矢倉穴熊の場合は仕掛けさせ方)と後手の受け方で突破の形が決まる。また後手陣が潰されるときは守り駒を捨てながら逃げることも多いが、先手の囲いは潰されるとそこまでなので、左桂香の守備力が意外なほどありがたいことがままある。いっぽう後手は玉が逃げていく途中で右銀の居場所が重要になったり、攻めるつもりで突いておいた89筋の歩がスペースをくれたりといったことがある。

もちろん、相矢倉戦の衝突は右辺の突破に限られてはおらず、中央から盛り上がったり5筋に飛車を振ったりして中央突破を目指すような形もあるし、銀が進出して相手の大駒を狙う形もあれば、角交換から打ち込み合いになることもある。大方突破されることがわかっている後手玉がそれでも入城するのは、こういった攻め方に対応するとともに、通常の突破に対してできるだけ足止めをしたい(できれば遅くなるところに駒を打たせてから逃げたい)からでもある。実際の将棋では、持久戦になると先手に主導権があることから後手が急戦に出ることが多いものの、持久戦で後手がかなり指せることがわかってきたし、先手に仕掛けの機会がある変則矢倉では力戦になることもある。

中飛車の構造、というかノリ

ベイベー、中飛車についてもちょっとだけ紹介しちゃうぜヨロシク!なんでこの項だけ口調が違うのかというと、それが中飛車だからなんだセニョリータ。という調子を続けていると疲れるので元に戻すが、中飛車というのは結局こういうことである。

もっとも強力な攻めは飛車、それをサポートするのが角、とすると飛車はどこに振るのが正解か、ここしかねえ、という結論である。

たいへん素朴な発想ではあるが、シンプルなことを効率よくやる相手は非常に厄介である。またもうひとつ注意すべき点として、玉に近いところを突破されると攻めが速い。

さらに、歩を手持ちに変えておくとあとで打ち込みからと金を作るのに使えて、それが中央付近だとスムーズに攻めをつなげられる。この辺の事情は、矢倉模様から急戦になったときの中飛車転向にも通じるところがある。

こうやって挙げてみるといいことばかりのようだが、当然そんなことはない。中飛車のおもな欠点として、玉を囲いにくい、相手の守りが厚い、相振りに注意が必要といったものがある。
 
もちろん、飛車さえどかせば本美濃囲いにもできるし、角をなんとかすれば左玉にもできる。が、序盤で手数をかけるとせっかくのシンプルで速い攻め込みがもったいない。この辺のバランスは難しいところ。中央突破を諦めて(多くは2~3筋あたり、ときには玉頭に)振り直すことは普通にあり、相手に形を決めさせてから攻めどころを変えることで対応を遅らせることができる(または、方向転換を警戒させて本来の中央守備に専念できなくする)。

石田流の構造、というか雰囲気だけ

石田流は三間飛車の戦略のひとつで、早石田や角換わりから本組みや新手までいろいろと種類があり、後手の飛車先がどこまで伸びているかでも事情が異なるし、立石流や3・4・3戦法など他の戦型から変化して石田様になる順もある。共通しているのは「駒を合理的に捌こう」という姿勢で、多くの場合7六飛が7七桂を尻に敷くような格好になる。以前は後手番でも指されたが、このところはあまり人気がない(無理筋かどうかわからないが、少なくとも「かなり工夫が必要」なようだ)。元は「浮き飛車桂跳ね端角」の形が「本組」と呼ばれたが、棒金との相性のため桂跳ねがしにくくなると7七角型や7七銀型の持久戦も増えた。

2010年ごろプロに多く指されていた先手石田流の一例、後の図はこの後の分岐に関わるおもな条件。
 >分岐> 
分岐条件がやたらあるが、これは、先手が角道を止め、後手が飛車先不突で、先手後手ともに極端に強硬には出なかったというごく限定された条件での話である。またそれらのちょっとした違いで、かなり大きな変化になる。最序盤からして「知らなかったらそこで終了」な仕掛けが双方に多数あり、研究好きな人でないと手強いかもしれない。

こちらは角換わりを前提にした先手石田流。後手石田流も角交換になることが多い。
 >進む> 
先の図は俗に後手居飛車最強の手と呼ばれる強硬な受け方で、激しい将棋になることが予想される。石田流の特徴はなんといっても攻撃準備の速さで、最強の攻撃をシンプルに繰り出し合うところは、相掛かりに似ているかもしれない。相振りでも飛車先を決め合う形はあり、互いの玉に直接攻撃をかける形になることから、金無双など上に堅く位を取られても窮屈でない囲いを組んで慎重に進める例が多いようだ。

比較的新しい2手目3二飛からの後手石田流に、先手が3手目7八飛の相三間にした場合も似たような局面になる。

いづれにしても、相手が指そうと思えば必ず咎められるようなものではないので、あわてず騒がず対処したい。上級者同士の対局ならともかく、初心者同士なら割と「普通の対抗形」っぽく指せるのではないかと思う。また持久戦になると仕掛けにくい特徴があり、先手石田流に対して後手が居飛穴に組み先日手も辞さない態度に出ると、困ったことになりがち。紹介が前後するが、角道を止めた石田流側が左桂をさっさと跳ねた場合、居飛車側に棒金(棒銀の金バージョン)と呼ばれる有力な対抗策があり、7七角などの形の方が好まれるようになった。


オマケ(心底どうでもいい話)

上で取り上げた相矢倉の結末(途中まで定跡通り進めて、コンピュータを相手に先手を持ったり後手を持ったりしながら進めた:以下では後手持ち)。左から右、上から下の順、左上にマークがついているのが「直前に動いた駒」。
 > 

 > 


コンピュータは終盤で間違えないように思われているが、このように持ち駒が多く王手の候補がたくさんあり、しかも長手詰だとけっこう見落とす(仕掛けの場面でも、大戦力同士でぶつかり合う形だと分岐が爆発的に増えて読み切れず、その場合の判断はソフトによるのだろうが、K-Shogiだと「仕掛けるとどうなるか読めないからとりあえず駒得優先しとけば不利にはなるまい」的な、日和った手や緩い手を指しがち:細い攻めが切れてしまっていることに気付かなかったり、木村定跡の投了図でまだやる気マンマンだったりするのも似たような理由)。そして詰みが見えた瞬間投了するので人間の方がビビる。ちなみに筆者はこの後同金同金同玉から飛車で王手するつもりでいたのだが、正解は同金に香成りだった模様。


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