仕様と分類

バイクの分類といえばまずタイヤである。17インチ前後(多くは前輪後輪とも17インチ)の溝切りタイヤを標準装備した機種がオンロード用(オンロードスポーツ)、前輪21インチ後輪18インチのブロックタイヤを標準装備した機種がオフロード用だと思ってよい。

特殊なものに、両者の中間的なデュアルパーパス(性格によりもっと細かい呼称がある)や、オンロード用だがスタイル重視で特殊サイズのタイヤ(多くは前輪17~21インチの後輪15インチ前後)を使用するアメリカンなどがある。ビジネスバイクも17インチタイヤが多いが、リトルカブなどのように14インチタイヤを採用したものもある。スクーターは10~14インチくらいで、50ccだと10インチ、250cc以上のいわゆるビッグスクーターだと13~14インチが主流。

もちろん、用途が異なればタイヤ以外の装備も異なり、たとえばオフ車にはサスのストロークが深いものが多かったりはするが、想定する走行路面の違いはやはりタイヤにまず現れる。見た目がオフ車っぽくてもオンロードが前提の機種なら17インチを装備しているだろうし、悪路の走破性を重視すればどうしても大径タイヤになる。

ここで気になるのは「反対の使い方」がどこまで可能かということである。オンロードスポーツで不整地に乗り込むのは、できればやめておいた方がよい。あえてやる人も一定数いる(というか、趣味というのは本当に多様で、リトルカブでオフロードに突っ込みスタックして動けなくなるのを楽しんでいる人もいる)ようだが、一般的にはロクな目に遭わないと考えた方が無難である。

一方オフ車で舗装路を走るのは普通に可能。筆者はDT200というオフ車(極ボロの2スト)で東京~青森~フェリー~函館~札幌と走ったことがあり、走行に支障はなかった。快適性の面で劣るという意見もあるようだが、少なくとも筆者はそう感じない。ただし、4スト250ccクラスの空冷車だと高速道路はちょっとシンドいかもしれない(4ストでも水冷の250ccなら、どうということはない)。


オンロードスポーツをもう少し細かく見てみよう。大きな要素としてカウルの有無が挙げられる。車体前方にあるカウルの構成は、ライト周辺から上のアッパーカウル(フロントカウルとも)、ラジエターを囲むミドルカウル、エキパイ周辺のアンダーカウルに分けられることが多く、ライディング姿勢で膝の辺りにあるサイドカウルやシートを囲むシートカウルは、いわゆるネイキッドを含むたいていの車種(パイプむき出しでサドル装備とかの本気の旧車以外)が装備している。

フルカウルと俗称されるスタイルはアッパーカウル~アンダーカウルまでをセットで標準装備(普通はフレームマウント)したもので、通常の走行ではあまり役割のないアンダーカウル(もとはオイル漏れしたときの受け皿(オイルキャッチタンク)でオンロード車のサーキット用:この機能を忠実に守っている限り、カウルの中に水や砂が溜まるのは避けようがない)についてはごく簡略化している車種もある(ただし、エキパイなどの冷却を担当していたり補助的にメインのエアフローに絡んでいることがあるので、最初からついているアンダーカウルはむやみに外さない方がよい)。

ハーフカウルはアッパーカウルと簡易なミドルカウルを含むものが多い。ミドルカウルはラジエターやエンジン吸気口への走行風誘導を担当しており、通常の速度域ではあってもなくても快適性はほとんど変わらない。性能上はフレームマウントのカウルにライトやミラーなどをマウントできることの方が大きく、カウル付きのメリット(見た目の装飾効果以外)はハーフカウルでもおおむね享受できる。

アッパーカウルだけの場合ハンドルマウントにすることもありビキニカウルと俗称されるが、ハンドル周りが重くなるのと、風でハンドルを取られやすくなるデメリットがある。カウルでなくスクリーンを取り付けた車種もあるが、特徴は似たようなもの。アッパーカウルには快適性の向上効果がそれなりにあるが、明らかにありがたいのは雨の高速道路を走るとき(ヘルメットのシールドに当たる水しぶきが減る)くらいだと思う。

車体前方にカウルを配置しないネイキッドの場合、ハンドルマウントする部品が多くハンドル周りが重くなりがちだが、ライトに限ってはカーブを曲がるときに「進行方向により近い」照らし方になるので、デメリットばかりではない(ミラーはカウルマウントの方が使いやすいと思う)。

走行性能を追求すると、ハーフカウルが有望な選択肢になる。大型のミドルカウルが本領を発揮するのは高速度域だけで、中低速域では単なる荷物になる反面、ハンドルマウントする部品を減らせるアッパーカウルにはメリットが大きく、冷却系の補助として小型のミドルカウルも有用である。


エンジンのシリンダー数や配置にもけっこうなバリエーションがある。軽量に作れるシングルはオフ車や小排気量車に多用される。整備性が高く燃費(シリンダーの数が少なければ少ないほどロスが減るし、だいたいが軽い)もよいため、ビジネスバイクもほとんど単気筒。反面、高回転型や大排気量のエンジンが作りにくく、振動を打ち消すバランサー(マルチではシリンダー同士で打ち消すレイアウトにできるものもあるが、シングルではバランスウェイトを置くしかない:互いに反対向きに円運動する2つのウェイトにかかる力を合成すると、1次元の振動を模すことができるが、ウェイトには厚みがあるため偶力が生じる)が必要で、合計のフライホイール質量も大きくすることが多いため、スロットルに対する反応が鈍くなりがち。点火間隔(普通クランクシャフトの回転で示す)は、2ストで360度、4ストで720度。なお、クランクアームとカウンターウェイト(バランスウェイト)が一体化した板状の部品をクランクウェブ、バランサーとして振舞うように偏心させたシャフト(クランクシャフトと等速か、倍速で回転させるのが普通:ディーゼルエンジンに多用される)はバランスシャフトと呼ぶ。

ツインはバリエーションが多い。横幅が狭いV、前後幅が短いパラレル、BMWの代名詞水平対向とレイアウトの選択も広いし、ショートストロークの高回転型もあれば大排気量のアメリカン用エンジンもツインが主流。大排気量のスーパースポーツに採用された例もある(ドゥカティやホンダやスズキなど:ただし、少気筒車は排気量制限をユルくするというレギュレーションのおかげなので、同排気量でマルチに勝てるわけではない)。WGPに50ccクラスが新設されて間もない頃はツインエンジンを採用した50ccレーサーもあり、ホンダの4ストとスズキの2ストが張り合っていたらしい(50ccクラスは62~83年、後継の80ccクラスは84~89年で終了し、90年から最小排気量クラスになった125ccではレギュレーションで単気筒のみになった)。

パラレルツイン(インラインとパラレルに根本的な違いはなく、直2と呼んでも同じ意味:シリンダーをクランクシャフトの軸上に並べてもクランクシャフトと平行に並べても、結果は変わらない)はクランク位相(左右ピストンの位相差)にバリエーションがあり、振動面ではシングルに似た挙動(左右のピストンが同じ動き)で集合排気がしやすく等間隔爆発になる360度(年代ものの英車など)、一次偶力振動(偶力というのは釣り合った力のことで、これを(剛体の)重心とずれたところに加えると、剛体は移動しないが歳差運動を生じる:不正確にぶっちゃけると、ゆすったり往復でねじったりする方向に加わる力で、低回転で影響が目立ちやすい)と二次振動(クランク水平時≠ピストンが上下死点の中間であることによる振動が主成分:「二次」は「周波数が回転数の2倍」の意)が目立ち集合排気にも制限があるもののバランサーが比較的小さくて済み高回転型にできる180度(現在一般的:点火間隔は180-540)、振動をあえて出す設計の270度(ややマイナー:2022年にスズキが「スズキクロスバランサー」という2軸1次バランサー付きのエンジンを採用した)などがある。フラットツインはパラツインを寝かせて設置しただけ(英語だと「flat」が水平対向を指すからまたややこしい:バーチカルツインの反対なのだからホライゾナルツインと呼べばいいのに)。

Vツイン(に限らずV型)は挟み角(Vバンク)でバリエーションがある。クランクピンを共有する同軸クランク(挟み角=ピストン位置の位相差になる)が典型的な形で、クランクピンを増やした位相クランクは「捻ったパラツイン」のような格好になる。基本は同軸90度(前シリンダーを水平近くまで寝かすものはとくにLツインと呼ばれる)で、バランサーによりピストンなどの往復運動の一次振動を相殺できる。100%バランスのシングルに横方向に動くピストンを追加したのと同じ格好(前後ピストンが90度で交差し90度の位相差があるということは、振動の合計が円(クランク位相θに対してベクトル(sosθ,sinθ))になるということ)で、クランク水平時≠ピストンが上下死点の中間であることによる振動も(多分)円なので、バランサーを少し追加してやれば消える(はず)。90度Vツインの点火間隔は、90-630または270-450になる。単車用のV型エンジン全体として、クランクシャフトを短くできることと、左右幅が狭い(=バンク角を殺さずに低い位置にマウントできる)ことが利点になる。Vツインの場合V4と違ってギリギリのパフォーマンスは要求されないことが多く、前後が長くなるデメリットはあまり目につかない。

特殊なものではボクサー(水平対向)が比較的メジャーで、クランクピンが片方に出たシャフトではなく両側にコンロッドを接続できるものを使う(のが本来のはず)。これにより、同軸180度V型(左右ピストンが180度の位相差になる:ほぼV12エンジンでのみ使われる形式)からさらに180度ずれて360度にできる(左右ピストンが同じ動きをして、点火タイミングだけが異なる)。一般的な単車に搭載されるエンジンの中ではもっとも振動が少ない(よく「計算上ゼロ」などと言われるが、エンジンは必ず歪みながら動いているし、コンロッドにも厚みがあるし、実際にはゼロにならない:理論上も偶力振動は残る)。反面、横幅(長すぎるため単車だと横置きできない)が非常に広く、クランクシャフトの回転がロール方向(普通はピッチ方向)になるなど独特のクセが出る。タンデムツインは前後のシリンダーでクランクシャフトを共用しておらず、パラレル型ではなくU型に分類される(スクエア4はパラツイン2セットを同様に配置したもの、2軸V4はさらに傾けたもの)。W型という、V型の縦方向にさらにもう1つ(以上)シリンダーを増やした変態的なレイアウト(増やしまくって1周すると、かつてレシプロ航空機に用いられた星型エンジンになる)もあり、長らく単車の市販エンジンには採用されていなかったが、2000年にFeuling W3というハーレー用のカスタムエンジンが出たそうな。

大出力を追及すると高回転になり、高回転を追及するとマルチになる(ボアが大きいと運動部品が大型化し、ストロークを伸ばすと1回転当たりの移動距離が増えるため、気筒あたりの排気量を小さくしたい:船舶用のディーゼルエンジンなんかには超低回転で大出力のものもあるが、単車用には現実的でない)。インライン4気筒(直4)は二次振動が大きく横幅が大きいのが欠点だが、比較的小さい排気量ではデメリットが目立ちにくい。V4は車体の前後長が長くなるのが欠点で、挟み角を小さくすれば改善するが、今度は振動の問題が複雑になる。直6なら振動を大きく減らせる(というか、水平6と並んで完全バランスに近いレイアウトになる)し、V6(偶力振動は残るが60度V6なら円になるのでバランサーでキャンセルできる)というのも面白い方法なのだが、モーターショー向けのコンセプトモデルとしてたまに出てくるくらい(大きめ四輪車であればV6も普通の選択肢で、2010年代くらいまではけっこう人気があったが、排ガス後処理装置(バンクごとに必要らしい)の都合で直6の方が優勢になったそうな:ホットVとかインサイドVと呼ばれるレイアウトで、排気をVバンクの内側(排熱の都合から普通は外側に出す)に出しターボのタービンに入れるパターンもある)。特殊なものではトライアンフやMVアグスタの直3(一次二次の振動は相殺できるが偶力振動が問題になる)、奇数気筒有利なレギュレーションだった時代のMotoGPエンジンなどがある。なお、同じ排気量と気筒数でビッグボア=ショートストロークのエンジンとスモールボア=ロングストロークのエンジンを比べると、当然ながら前者の方が高回転型で出力も出やすいが、ボアが大きくなると熱効率が(とくに混合気の流速が遅い低回転域で)悪くなるため、トルクや燃費性能では後者が有利になる。


筆者が特徴の目安にしている要素に「2速最大トルク回転数での速度とパワー」がある。多くの中型バイクではこの辺~やや上が「エンジンのオイシイ部分がもっとも出る速度」になる(本当に気合が入った人は1速も普通に使うが、それなりの技量を要する)。たとえばスパーダでは、2速9000rpmで約57km/h、後輪トルク=エンジントルク*合計減速比≒48(kg・m)になる(タイヤ外周1.9mで計算)。これが同じVツインで400ccのSV400になると、2速8000rpmが約65km/hで後輪トルク≒59(kg・m)、乾燥重量がスパーダの140kgに対してSVが165kgくらい(年式やモデルによる)、10kgの燃料とオイル+60kgの人間が乗ったとして210:235だからドンブリ計算で1割差っ引いてもSVの加速力は1割ちょっと勝る(速度域も微妙に違う)。ということで、スパーダよりは余裕がありそうだなということがカタログ値から想像できる(まあ排気量が違うので当然といえば当然)。60km/hで後輪トルク59kg・mというのはなかなか優秀な数字で、600ccクラスの直4スーパースポーツ(というかCBR600RR)でも、1速全開を当てられる人が乗っていなければ(その後すぐ抜き返されるのが目に見えてはいるが)立ち上がりでは先行できるくらいのパワー。

250ccクラスの場合「4速最大出力回転数での速度」もけっこう重要。現実的に、6速のままアクセルだけ開けても、ニーハンはそうそう加速してはくれない。たいていの場合快適に加速できるのは4速まで、頑張れば回せるのが5速まで(熟練ライダーによるゼヨロンの終速くらい)、それより上は「出せはする」だけの速度域になる。スパーダの場合上と同じ前提で計算すると、4速最大出力回転数で120km/h弱になり、これなら120km/h制限の高速道路(首都圏周辺のごく一部の区間だが2019年に引き上げられた)に乗っても困りはしない。実用上はタイヤサイズも問題で、スパーダのフロント100/80-17だと120km/hくらいより上の速度域ではけっこう不安定になる(どっちにしても、快適に走れるのは120km/hくらいまでなのだろう)。まったり系のニーハンだと速度域はもう少し下がるだろうが、エンジンの出力だけが30馬力(4分の3)に落ちたとしても速度は1割も落ちない(速度が3乗で効く)から、一気に苦しくなるようなことはないはず(むしろ低いギアでぶん回したときのパワーに影響する)。

絶対的な重量というのもけっこう重要で、目安に過ぎないが、メーカーが「スーパースポーツ」ないし「SBレプリカ」のつもりで作っている車種は車両重量200kg(ないし乾燥重量180kg:ただしリッタークラスでABSなしの場合)を意地でも下回ってくるものである(オッサンバイクとして帰ってきたR1がデブになっていたのは偶然ではないと思う:タイヘンだし犠牲が多いのよ、軽くするのって)。CBR600RRが(いろんな装備を盛り込みまくった最終型で)車両重量189kgをなんとか達成していたのも、ひとえに「600SS」としての意地と根性だろう(国内最終型同士で比較すると2気筒でハーフカウルのSV650Sより2kg軽い!:というかSV400Sと同じ)。いわゆる「ライトスポーツ」に分類される車種は、600ccで200kgくらいだろうか。400ccならできれば180kgちょいくらいに抑えて欲しいところだが、環境性能のための装備を省くわけにもいかないだろうから、市販車として現実的な価格で作るのは難しいのだろう(数も出ないだろうし:アジア方面で(レプリカ全盛期の日本みたいなちょっと行き過ぎた)スポーツバイクブームとか起きないかねぇ)。

そう考えると400ccでスポーツバイクを作ろうとしたら、Vツインというのは理に適っていると思う。軽くするにはシリンダーを減らすしかないわけだし、ブン回さないとパワーが出ないのだからパラツインにはできない、としたらもうこれって(性能だけ考えた場合の)最適解なんじゃないのという気がする(いや、RVFは凄いバイクだったと思うけど頑張りすぎというか、今の規制クリアするのムリでしょアレ:VTRも名車には違いないけど、筆者が「ニーハン」に求める軽さとコンパクトさとパワーって、今となっては実現できなさそうなスパーダのソレなわけで、21世紀に可能な形としては結局「400ccVツイン」になるんじゃないの、と思う)。リッタークラスのようにアホみたいなパワーは出ないわけだから、車体構成にも多少の融通は利くだろうし・・・ホンダさんVTR400作ってくれないかな(スズキさんがSV復活させたみたいだし、いつかまた昔みたくムキになってよ)?


SVシリーズというと、途中からフロントブレーキがダブルディスクに変更されたことが思い出される。シングルディスクとダブルディスクに根本的な制動力の違いはない。たとえば2枚のディスクに各1つのキャリパーをつけて制動するのと、1枚のディスクに同じキャリパーを2つつけて制動するのとでは、短時間的に同じ結果になる。決定的に違うのは放熱効率で、ディスク(ディスクローター)の枚数が2倍になってキャリパーに邪魔される面積も減るわけだから、発熱量(=ブレーキで熱に変換する運動エネルギー=速度の2乗と重さの積)が多い場合ダブルディスクは効率的である。発熱はブレーキシューにも同様に生じるので面積を取らないと高温になるし、またシューにかけられる圧力にも限界があり、大きな制動力が必要なら広い面積のキャリパーが必要で、結果的にディスクの発熱量が増え放熱量が減る。またマウント場所の機械的な強度(チューブが2本あるなら2本使った方がより大きな力に耐えられる)の問題もある。

反対に十分な面積のキャリパーを装備しても熱ダレが起きない場合、ブレーキディスクのような重量物を(よりによってフロントホイールに)1枚余計にくっつけるのは非効率である(ただし、大径ディスク1枚と小径ディスク2枚を比べると一定の大きさを超えた場合に前者が不利になることや、発熱源が円周に対して長く配置されると加熱される時間が長くなる(シューが冷たいディスクに押し付けられる部分と熱いディスクに押し付けられる部分の差が開く)ことに注意:枚数が少なければそれでよいというものでもない)。またブレーキシューがディスクを減速させる力は、押し付ける面積(キャリパーのポット部分)と押し付ける力と摩擦係数の掛け算になるが、バイク用の油圧ディスクブレーキであればこの力はタイヤが車体を減速させられる限界よりもはるかに高い(ようするに、絶対的な制動力は余っているのが普通である)。

つまり、車体が要求する制動力やコントロール性がまずあって、それに応じたキャリパーの大きさや形があり、放熱を十分に行うために必要なディスクが一定より大きくなるなら2枚に分割した方が得ということになる。またもし、高性能なブレーキシュー(高い温度や圧力に晒されても十分に働く)を用いることでキャリパーの必要面積を減らせるなら、ディスクを1枚省くことが可能になるかもしれない(ただしディスクの高温部と低温部の温度差は大きくなる)。ジャイロ効果については、ディスクが質量M、外径R、幅Wのドーナツ状だと見なすと、慣性モーメント=[R^2-(R-W)^2]M/2=(W^2-2W)M/2になるので、ドーナツの(半径方向の)幅が同じならディスクの質量がリニアに効くことになる(はず)。


勝手な解釈いろいろ

オーバートップ:

トランスミッション関連で「オーバートップ」という語がある。歴史的には4輪車で直結(変速ギアバイパス)が「トップ」だった頃に1より小さい減速比のギアを追加してオーバートップと称したのが元だが、現在はその用法にあまり意味がない(2輪車の場合直結モードがないのが普通だし)。思うに、オーバートップというと「最高速が出るギアよりハイ(ロング)なギア」というイメージがある。もちろん、バイクのギア比を極端にハイにしても最高速が際限なく伸びるわけではなく、速度に応じた抵抗の増加にエンジンの出力が負けるところで打ち止めになる(10kmくらいの長い直線道路を用意できたとしても)。でまあ、長い直線でフルスロットルにしても最大出力回転数まで回らないほどのハイギアというのは結局、比較的高い速度での巡航を快適にするためのものと考えてよいわけで、他のギアとは用途が少し違いますね、ということを「オーバートップ」とか「オーバードライブ」という語で表現しても、さほどの大間違いではなさそうに思うわけである。


車体の挙動について:

フロントフォークはキャスター角をつけて設置されるため前に引き摺られる形になる(乗用1輪車を傾けて押すと直進性が強まり、直立させて押すと旋回性が高まるのと同じ)。この引き摺る長さがトレール量。トレール量を極端に大きくしないためにステアリング軸とフロントフォークの前後位置をずらすオフセットが用いられ、またこのオフセットとキャスター角により車体の傾きに応じたセルフステアが生じる。直進中のバイクを傾けずに操舵角をつける(ハンドルをごく軽く押す)と、反対方向に曲がっていく挙動が見られる。速度域が上がると前後ホイールのジャイロ効果も影響が強まるが、エンジン(というかクランクシャフト)のジャイロ効果は回転数に左右される。一部のスーパーバイクレプリカでは逆回転クランクを採用しており、回転が上がるときにフロントが沈み回転が下がるときにフロントが上がる挙動を示してウイリーを抑制できるが、ジャイロ効果の打消しについてはかなりややこしい。前進しているバイクのフロントホイールは、ライダーから見て左向きの角運動量(L)を持っており、そこに捻りモーメント(Ω)を作用させると、抗力としてジャイロモーメント(捻りモーメントと角運動量の外積Ω×L)が生じる(捻ろうとしたモーメント(というか回転させようとした軸)が車輪が回転する向きに90度ずれたような格好になる)。もう少しぶっちゃけた理解としては、前輪をロール方向に傾けようとすると、ホイールの下端(地面)近くと上端近くの部分は平行移動するだけだが、前端と後端に近い部分は運動方向が変わることになり、それに逆らう力(抗力)が結果的にヨー方向(ハンドルを切れ込ませる向き)に働いて、あたかもロール方向に加えた力がヨー方向に逃げたようになる。これをキャンセルするには反転二重ローターのヘリコプターのように同軸にする必要があって、軸がどれだけずれるとどれだけの影響になるのか筆者に理解できる説明は見つけられなかった(フロントホイールとクランクシャフトじゃ相当なずれだから、ジャイロ効果のキャンセル度合いはかなり小さいんじゃないかなという気はする:自転車では「ロードバイクの科学」という本の93ページに、フロントホイールと同軸逆回転のフライホイールを装着してジャイロ効果を打ち消してもコーナリングに不具合はなかったという報告があるらしいのだが、筆者は未読で条件などは不明)。

なお倒立フォークの主要な利点はバネ下が軽くなること(とオフ車の場合はストロークを長く取りやすいこと)で、剛性自体はどちらでも大差ないというか、どちらでもインナーチューブ側が低剛性になり、正立だとステム~トップブリッジ周辺、倒立だとブレーキマウント周辺に影響が出やすい(後者の問題を解消する工夫のひとつが、ブレーキキャリパーの固定ボルトをアクスルシャフト(車輪の軸)に向けて締めるラジアルマウント:心底どうでもいい余談だが、アクスルシャフトとキャリパーボルトが平行になる従来の方式はコアキシャルマウント(coaxial mount)であって「アキシャルマウント」ではない)。ようは剛性のウィークポイントが上になるか下になるかという問題で、ブレーキマウント周辺に(オンロード車ほど)高い剛性が求められないオフ車なら「倒立フォークの方が剛性が高い」という考え方はある程度実情を反映したものといえる(ストロークも稼ぎたいし下に出っ張った部品もつけたくないので、とくにモトクロッサーなんかには倒立のメリットが大きい)。

バネ下重量というのもこれまたメンドクサイのだが、まずはフライホイールとそれ以外に分けて考える必要がある。フライホイールというのは、ようするにタイヤと一緒に回っている質量のことで、これが増えるとロール方向の姿勢変化が鈍くなる(ジャイロ効果については前述、ようは高速度域で倒したり起こしたりが重くなる:ヨー方向の姿勢変化も影響は受けるが、角速度が遅いのでここでは無視する)。回っていない部品(ブレーキキャリパーとかフロントサスの下半分とか)と回っている部品の合計は、路面追従性に影響する。たとえば路面に小さな凹みがあったとき、普通なら地面が離れていってもサスがバネ下を押してタイヤと路面は離れない。しかしバネ下が極端に重くバネ上が極端に軽いバイクだと、バネがタイヤを下に押しても動きが鈍く、タイヤと地面が一瞬離れる可能性がある(そもそも上が軽いため、1Gの状態でバネにかかる力が弱いことに注意)。また凸部があったとき、サスが縮むまでのバネ下の動きが重さで大きく変わることはない(タイヤが変形したりはするが、ほぼ路面の形通りに動くだけ:バネ上が重いとバネが大きく縮んで車体はあまり持ち上がらず、バネ上が軽いとバネは小さく縮んで車体が大きく持ち上がるから、上が軽いなら減衰を小さくするかストロークを大きくしなければならない)。頂点を越えると地面がタイヤを押す力が抜けるが、このときバネ下が重いと慣性力(この場合斜め上に移動し続けようとする力)が強くなる。またバネが伸びようとするときには、バネ下が下に、バネ上が上に押されることになるが、重量バランスが下寄りだとバネ上がより大きく上に動く。ようするに、バネ下が軽いと凹凸があってもタイヤが地面から離れにくくなり、またバネ上に対してバネ下が相対的に軽いと小さな突き上げで車体がハネにくくなる。

トラクションがかかるとタイヤがスイングアームを押し推進力になり、フロントが持ち上がる方向の力が働く(極端な場合はウイリーになる)。これと同時に、普通スイングアームは先端下がりになっているため、アームを下に押す(リアサスを伸ばす)方向の力も働く。フロントが上がりリアが沈む動きを打ち消す方向に働くので、アンチスクワットと呼ばれる。ドリブン(リア)スプロケがチェーンに引っ張られる力がこれを妨げるが、さほど強くない。反対にリアブレーキをかけると、タイヤがスイングアームを引っ張って減速力になり、アームを上に押す(リアサスを縮める)方向の力も働く。フロントが沈みリアが上がる動きを打ち消す方向に働くので、アンチリフトと呼ばれる。エンジンブレーキでもアンチリフト作用が生じるが、ドリブンスプロケットがチェーンに引っ張られる(アームが下に押される)分、同じ減速力でも作用が弱くなる(反対に、アクセルオンのままリアブレーキを引き摺れば強い作用になる)。またスイングアームが長いと、上下スイング幅に対して角度変化が小さくなる(先端下がりが大きいほどアンチスクワット作用なども強く出るため、長い方が挙動が安定する)。

サスのプリロード(イニシャル)は、一次的にはサスストローク量に対するバネの長さを平行移動させ、車高を左右する。リアの車高は前の段落で触れた「スイングアームの1G状態での角度」を、フロントの車高はキャスター角やトレール量を左右することになる(それだけじゃないけど1次的な変化として)。同じ荷重をかけた場合、プリロードが小さいと車高が低く、プリロードが大きいと車高が高くなる。タンデムなどで荷重が大きい場合、バネ自体を強いものに取り替えるかプリロードを大きくすることで簡易に適正車高を保つことができるが、両者の違いは強いばねを長く使うか弱いばねを短く使うかという点になる。たとえば荷重(というか重力というか、加速度が合算された合計)が2倍になったとき、前者ならばねが強いので追加の縮みが小さく、後者ならばねが弱いので追加の縮みが大きい(自然長からの伸縮幅は荷重にだいたい比例するため)。反対に荷重が小さく車高が上がったのをプリロードを小さくして補うと、荷重の変化に対するばねの伸縮が小さくなる。

オンロード車の場合、減衰を弱めたうえでリアからセッティングすることが多い(オフ車は知らない)。フロントはとりあえずフルブレーキでドン付き手前になるようにしておいて、リアで調整してから仕上げでフロントを考えるとラクだと思う。サーキットの場合、フルスロットル>フルブレーキ>フロントで旋回>スロットルを当てリアで旋回>フルスロットルという4つの場面とその繋ぎを考えるとイメージしやすいだろう。フルスロットル時はリアの荷重が最大で、そこからフルブレーキするとリアの荷重が抜けてフロントの荷重が最大になる。ブレーキをリリースするとバンク(ロール)が始まりフロントへのブレーキ抵抗が抜けるが、旋回による路面抵抗で少し相殺される。スロットルを当てるとフロントの荷重が抜け、リアに荷重がかかる。フルスロットルに戻すとまたリアの荷重が最大になる。リアからセッティングを始めるということは、スロットルを当てたときの挙動をまず固めるということになる。なお、車体の寝やすさにはフロントのフリクションも影響する(フロントブレーキで車体を起こせるということはそういうこと)。


エンジン:

リッタークラスで高出力なエンジンを作ろうと思うとマルチになるのは必然で、ではインラインかVかというとけっこう接戦である。V4と直4を比較すると、エンジンの外形のほかに、不等間隔爆発(トラクション性能で優れるが給排気が窮屈になる)にした場合のマネジメントが異なり、V4は最初から不等間隔だが、直4の場合はクロスプレーンクランクを使わねばならず振動もさらに増加する。WSBではアプリリアがV4でドゥカティがV2(これだけ1200cc)、日本メーカーと2009年にワークス参戦したBMWが直4という構成。2012年はMotoGPのCRT枠にも実質的にアプリリアのSBワークスと変わらないマシンが投入されており、スッターやFTRは直4を選んでいる。そのMotoGPのワークスは、800ccで偶数気筒有利のレギュレーションになった2007~2011年の間、ホンダとドゥカティとスズキがV4で、ヤマハと2008年までで参戦休止したカワサキが直4、1000ccと800ccの混在(実際には1000cc)になった2012年もスズキが撤退しただけで同様。

いづれにしても、レーサー(とそのレプリカ)の仕様はレギュレーションに振り回されるのが宿命なので今後の流れは読めない。とくにWSBは、ドゥカティ専用ルールみたいなものができたり、だったらとVツインで参戦した日本メーカーが勝ちまくったり、タイヤ騒動で日本メーカーがワークス撤退したり、MotoGPの1000cc化でまた戻ってきたりと忙しい。面白いことに、耐久レースでも世界選手権に参加しているメーカーはみんな直4なので、なにか有利な特徴があるのかもしれない。追記:MotoGPでは2016年にECUが統一されシーズン中のエンジン改造が禁止された。エンジンの前後レイアウトに自由度がありハンドリングに優れる直4vsクランク周りが軽く左右幅を抑えられるV4という基本的な構図は変わらないものの、外部フライホイールの取り付けスペースを確保できるV4が若干有利になったと思われる(エンジンを開けてよいなら、重いクランクシャフトや軽いクランクシャフトを使い分けられるのだが)。MotoGPでは、2017年に禁止されたウイングレット2019年に「スプーン」(ドゥカティ)として復活、普及が進んだ結果、エアロパーツとエンジン形状のの相性も取り沙汰されるようになった(どっちにどれだけのメリットがあるのか、筆者は知らない:V4が有利という解説はいくつか目にした)。

2ストロークはWGPが2スト4スト混走になった2002年にメインストリームから外れたため、技術的にもその時点でストップ(国内の市販車は1999年(平成11年)施行の排気ガス規制まで)しているが、2001年のWGP500ccクラスではホンダもヤマハもスズキもワークスはV4だった(ただしYZR500は2軸V4、のはず:初期には直4だったそうな)。WGPでもサテライトやプライベーターにはV2のNSR500Vが使われていたし、250ccではワークスもVツイン(NSR250は途中で2軸になった模様)。この頃はキャブレター(イマドキのFIユニットよりは大きい)をシリンダーの間に置く都合やリッタークラスの4ストほど重くないエンジンのせいもあって、前後長を詰める要求はそれほど強くなかったのかもしれない(NSRなんかは反対に広げているし)。追記:と思っていたら、ドイツのロナックスが2014年にRonax 500(詳細不明)、スイスのスッターが2015年になってSuter MMX 500という576cc2ストV4インジェクションのレーサーを出してきた(Ronaxは見た目がまんまロッシのNSR500、MMXもNSRレプリカのようだがエンジンが挟角80度らしく、外見もソックリにしようとした感じではない)。さらに追記:なんでも「水素直噴2サイクルエンジン」というのが注目を集めているらしく、F1で採用されるかもとか、採用されたらMotoGPが後追いするかもとか噂されている(燃焼室の両側にピストンを置く対向ピストンを用いたものが画期的らしい)。やっぱモーター駆動と内燃駆動じゃ迫力違うからねぇ、実用化されて欲しいなぁ。

挟み角が90度でないV型エンジンの振動問題は複雑で、75.5度V5のRC211VではV4の振動を真ん中の振動で相殺、112度V4のNSR500ではジャックシャフトをバランサーシャフト兼用にしていたらしい(野田健一さんという方の日本のファクトリーレーシングモーターサイクルにて公開されている詳細な解説その1その2)。なおNSR500は84~85年モデルだけ90度V4(NSRの前のNS500は前1後2の112度V3)。アプリリアのRSV4は65度で、クランクシャフトと逆回転のバランサー搭載だそうな。ハーレーは45度が有名だが他のレイアウトも作っているし、ヤマハがビラーゴ・SRV・ルネッサ・ドラッグスターに採用したエンジンは60度の狭角Vツインらしい。

なお、現在のバイクのエンジンはほとんどがレシプロ・ガソリン・ノンターボだが、それ以外のエンジンを採用したものもある。Hercules W2000、Norton Classic、RE-5などのロータリーエンジン、D-R400D(エンフィールド=ロビン)、Taurusなどのディーゼルエンジン、CX、XJ、XNなどのターボエンジンと、時代や用途でいろいろあったし、現行車種では、Ninja H2R(カワサキのターボ)、Track T-800CDI(Evaproductsというオランダメーカーが作っているらしいディーゼルターボ)、Track T-800CDI(アメリカの軍用車らしく、燃料統一でディーゼルになっているのだとか)など。もちろん、電気モーターの原チャリも普通に売っているし、燃料電池車や内燃式の水素エンジンも開発しているところはあり、レシプロ水素エンジンなんかは実用化されたらステキだと思う。市販最速のバイクとしてギネスブックにも載ったMTTタービンスーパーバイクは、ジェット噴射推進ではなく軸出力でタイヤを回す正統派。

ドラッグレースなんかではロケットエンジンも使われるが、本当にもう「タイヤが2本ついたロケットを横に飛ばしているだけ」で、見た目がたいへんシュールである(2010年にEric Teboulさんという人が、1/4マイル5.232秒の世界記録を出したそうな:過酸化水素ロケット(一液式のはず)らしく、補助輪なしの純正2輪車で、人もタイヤもむき出し)。3輪以上の本気系のドラッグレーサーはシェット推進が多いのだろうと思っていたし、地上車(見た目には飛行機が地面飛んでるだけだけど)として初めてマッハを超えたThrust SSCなんかもF-4ファントムのジェットエンジンを積んでいたが、時速1000マイル(マッハ1.38近く)を狙うBloodhound(どっちもイギリスのSir Richard Nobleという人が中心になって製作)は、ジェットエンジンでスタートしてロケットエンジンで伸ばすハイブリッド車なのだとか。余談ながら、400km/hくらいの速度を得るのに巨大なエンジンは必要ないようで、ホンダの有志チームがS660という軽オープンカーのエンジン(660ccターボ、ガソリン)を改造し、S-DREAMというマシンで420km/h超え(1km地点@ボンネビル)を記録している。


最高速度とエンジン出力と空気抵抗:

空気の動圧は速度の2乗に比例し、空気密度を1.2kg/m^3とすると、10m/sのとき60Paちょっと、20m/sのとき240Paちょっとで、100km/h(27.77...m/s)のとき461Paくらい。これに面積をかけると空気抵抗(というか慣性抵抗:粘性抵抗は十分に小さい)がわかり、さらに速度をかけると釣り合い状態での仕事率がわかる(つまり、仕事率に対して速度が3乗で効く:いっぽう、転がり抵抗は抵抗係数と総重量の積でほぼ一定なため、高速度域ではほとんど無視できる)。たとえば60Pa=60N/m^2だから1m^2で60N、これに速度10m/sをかけると600N*m/s=600W。20m/sで240Paなら4800W、27.8m/sで461Paなら約12800Wになる。100km/hで投影面積1m^2だと12.8kWで釣り合う、というところを出発点にもう少し計算してみる。

単車の投影面積(ライダー込み)は、250ccのレーサーレプリカで0.25m^2程度、乗車姿勢が同じなら街乗り車種でも0.30m^2程度、フロントサスが伸びることでもう少し増えるらしい。タイヤの転がり抵抗(タイヤと車重と舗装に左右され、専用のオーバルサーキットなどでは小さくなるはず)やフロントのフリクションなども足さなければならないのだが、空気抵抗に対して1.5~2.5割程度(速度域による)になると勝手に決めよう(250ccクラスを(アスファルトの路面でなく)シャーシダイナモに乗せると、後輪出力は軸出力(クランクシャフト出力)から1割落ちくらいに見積もられるようだ)。

たとえば50ccの2ストレプリカ(投影面積は小さく、空気抵抗以外のロスは大きく、後輪出力はフルパワーで6.5KWくらい)をものすごく長い直線でトコトン頑張らせると120km/hくらい出る計算になる。中型のネイキッド(投影面積は大きく空気抵抗以外のロスは中くらいのはず)で200km/hを出そうと思うと40KW(後輪出力で約54馬力、軸出力で60馬力)くらい必要になる。リッタークラスのSBレプリカ(投影面積は中くらいで空気抵抗以外のロスは小さいはず)で300km/h出そうと思うと、115KW(後輪出力で約155馬力、軸出力で170馬力)ちょっとか。理想的な単純計算なのでやや必要出力が小さく見積もられたが、昔言われた20馬力で120km/h、60馬力で200km/h、200馬力で300km/hという俗説と、そう大きく変わらない数字になった。

なお、走行抵抗のうち空気抵抗が占める割合が優位になるのは80km/h(ないし20m/s)くらいからだと言われ、これより高い速度域では、速度が上がれば上がるほど空気抵抗が支配的に、かつ合計の抵抗が大きくなっていく。いっぽうエンジン回転数を下げすぎると燃焼効率が落ちるが、もしギアを上げて回転あたりの走行距離を伸ばせるなら燃費は悪化しない。ということで、たいていの内燃機関車両では、異常燃焼(スナッチ)が起きない範囲で一番高いギアを使い80km/h以下(具体的にどの速度かはエンジン特性で決まる)の定速巡航をするのがもっとも燃費がよい。


トランスミッション:

車体性能を大きく左右する要素はいろいろあるが、トランスミッションも影響が大きく、またフレームやエンジンと並んで交換が難しい。オンロードスーパースポーツ用のいわゆるクロスミッションは、1速から順に1.25、1.2、1.15、1.1、1.07くらいの倍率でハイギアになっていくものが多い(リッタークラスはもう少しワイドで、1速がやや離れた車種もある)。これに対しワイドミッションは、1.35、1.25、1.2、1.15、1.1くらいの倍率(2ストもこのくらい:低速域のトルクが小さくローギアが離れている影響なのだと思う)。1.25、1.2、1.15、1.1、1.07という数字を掛け合わせると約2.03、1.35、1.25、1.2、1.15、1.1だと約2.56で、ローギアとトップギアの差は2倍から2.5倍くらいになる。中小排気量車はワイドになる傾向があり、コテコテSS志向のRVFで2.5倍くらい、普通の400ccネイキッドで3倍くらい。

理想的なギアチェンジで回転数が1.25分の1(0.8倍)になるとすると、出力ピークの平坦部分も相応に広くなくてはならず(両端の出力が最大になるように1.25倍幅で切り取ったときの下端が最大トルク回転数より高いとスムーズ)、リッタークラスのスーパーバイクレプリカでも1速と2速のボーダーではシフトアップで出力が落ちやすい。ただし、速度域が低いことから加速力は余っているはず(ギア自体が低いし抵抗も少ない)で、この辺はトルクでカバーする領域になる。リッターエンジンのSSレプリカの場合、おそらくは走行速度が100~250km/hくらいに収まるなら、ずっとパワーバンドで走ることも可能なのだと思う(パワーバンドは回転数の比で考える必要があり、ギアチェンジで回転数が0.8倍になるとき、20000rpmで走っていたなら16000rpmまで落ちるし、8000rpmで走っていたなら6400rpmになることに注意)。

ちなみに低速サーキットといわれるバレンシアで、MotoGPのコーナー通過速度は80km/hくらいである(ブリヂストンの資料より:モトGPの放送が充実してきて、速度やギアを表示してくれるようになったが、80km/hちょいで1速に落とすような場面を何度か見た)。日本の有名サーキットでいうと、鈴鹿のヘアピンが20R、筑波の第一ヘアピンが27Rで第二ヘアピンが25Rと105Rの複合、茂木のヘアピンが30R。この中ではやはり半径が小さく直前に110Rがあってアウトから入りにくい鈴鹿がとくに低速になる(60km/hくらいまで速度が落ちるはず:オンロードの国際レースが行われるようなクローズドサーキットでは例外的な速度)。筑波のMCコーナーは20Rだが、シケインなのでヘアピンほどは速度が落ちない(2輪車は幅が狭いため、とくにクランク状のコーナーでは速度が落ちにくい)。

最高速はMotoGPの800cc時代で350km/hくらい、1000ccになって360km/h出たとかなんとか(サーキットでの公式記録としては、2021年にザルコonドゥカがカタールで出した362.4㎞/hというのがある:F1もV10時代の370km/hちょい(ライコネン)が最高らしいが、あっちはなにしろコーナーが異次元に速いからねぇ)。ロードレースでの最高速記録はF1でもMotoGPでもなく、ルマン(サルト・サーキット)のユノディエール(Les Hunaudiers)でWMプジョーが出した405km/hらしい(シケインができる前の1988年、6kmストレートがあった時代の数字なので、そうそう更新されないと思う)。なおボンネビルみたいな本気系の最高速アタックでは、4輪車(エンジンはターボジェットだけど)が20世紀のうちに音速を突破している(アンディグリーonスラストSSC)。スーパーバイクは「最高速は280km/hを超え」るとヤマハさんが言っている(2012年JSB1000)。

ワイドミッションを強引にクロスミッションとして使う手法として、2次減速比(=ファイナルレシオ:ようするに前後スプロケの歯数)をごくショートにして、2速発進する手法がある。2ストレプリカで6速が必要ない低速サーキット(地方に多くあった)を走る際に使われていたが、現在も採用されているのかどうか筆者は知らない。


排気量だけで何かが決まるわけではないけれど:

筆者に言わせると600ccのSSレプリカは公道向けとしてはちょっとやりすぎだが、市販車でサーキットを走る場合、ライダーがトップアマチュアクラスなら無類の強さを発揮する(プロレベルでも、たとえば2012年の全日本選手権だと、1000ccに対し茂木の決勝ベストラップで4.5%、筑波の予選トップタイムと決勝ベストラップで2.6%と2.7%、、鈴鹿の予選トップタイムで3.7~3.8%くらいの差:あくまでレースリザルト(ドライ限定)での比較で、たとえばJSBのライダーを600ccに乗せたらどれだけタイムを縮めるのかわからないし、J-GP2のトップが「JSBに混じったらの10位くらいのタイム」を出しているコースもある)。

公道で走らせる前提だと、リッタークラスのスーパースポーツというのはナンセンスである。エンジンというのは、最大出力回転数で全開にしなくて済むなら、サイズを小さくして軽くした方が「スポーティ」なわけで、タイヤもサスペンションもブレーキもライダーも、随分負担を軽減できる。リッタークラスのエンジンはやはり、クルーザーとかツアラーといったジャンルにこそマッチするのではないかと思う。

排気量で言うと250ccというのは面白いサイズで、オフ車や2ストレプリカはこの辺がフルサイズになる(2スト500ccとかもあるにはあったし、デュアルパーパス寄りやラリーレプリカには大排気量オフロードもあるけど:ダカールラリーは2011年から450cc制限に、FIMのWorld Enduro Championshipでは2004年からE1 (Enduro 1)=2スト125cc/4スト250、E2=2スト250cc/4スト450cc、E3=2スト500cc/4スト650ccの区分になったらしく、競技用車やレプリカもそれぞれに準じるものが出ているようだ)。4ストのオンロードスポーツには微妙に足りない感じではあるが、だからこそキャラの異なる車種が豊富で、メーカーや乗り手の発想が形になりやすいクラスでもあった。

400ccは日本人が中型免許で乗れるという以外の存在根拠がイマイチ希薄なクラスではあるが、レースベースやレーサーレプリカでないオンロードスポーツにとってこの周辺の排気量はけっこうフィットする。200kg前後のネイキッドやツアラーを作るなら600ccくらいでトルク型エンジンを乗せるのが自然で、実際ヨーロッパではそのクラスがけっこう売れているようではある。軽量スポーツ車を作るなら400cc前後の排気量にもうまみがありそうに思えるが、600ccクラスのSSレプリカが装備重量190kg前後なので、170kg前後くらいには抑えないと小さくする意味が薄れる(エンジンを小さくしただけで稼げる数字ではないので車体から考えなくてはならず、市場の小ささを考えると「ホンダさんが現在の技術でRVFを作り直してくれたら」とかいった妄想の中の話にしかならなさそう)。・・・と思っていたら18年に新しいNinja400が出た(いやーこれは筆者の妄想より上を行ってる)。

なお、90年代末当時2スト2気筒250ccの出力は60馬力前後(輸出仕様のガンマやアプリリアのRSは公称70馬力だったが、普通に回してもそこまでは出ない)。出力としては輸出仕様のRVF(どこに輸出するつもりで作ったんだろう)が似たようなレベル(実測で60馬力ちょっとらしい)。軽さの2スト250(装備重量で150kgちょっと)、扱いやすさの4スト400(同じく180kgちょっとだがデリケートでない)といった感じだろうか。


オマケ(コケ方)

まあこれも「分類」っちゃ分類だろう。感覚的な違いや地域差が大きく、統一した基準があるわけではないので、あくまで筆者が自然だと思う使い分けの一例である。

何かに接触したかどうかが最上位分類で、接触した場合はあまり「コケた」とは言わない(「コケてxxにぶつかった」「xxにぶつかってコケた」とはいう)。停止に近い速度だった場合はとくに「立ちゴケ」というのだが、フロントブレーキを強くかけすぎて転ぶ「握りゴケ」とUターンで(ほとんどの場合トラクションが足りず内側に)倒れる「Uターンゴケ」を含める人(や場合)と含めない人がいる。筆者の感覚だと、握りゴケを立ちゴケに含めて言うのは(筆者自身は区別したいしして欲しいものの)理解できるが、Uターンゴケは一応走っている最中なので「立ち」ゴケという感じはしない。

ある程度の速度でまっすぐ走っている単車は、何かにぶつかるか路面が極端に悪くない限り(もしくは故意にやらない限り)、左右には倒れない。とすると前か後ろということになるわけで、後ろにひっくり返るのがウイリーゴケで、前に突っ込むのがジャックナイフゴケ(これも握りゴケに含まれるのかなぁ:筆者は含まれない気がする)。モトクロスでもやらない限り上(ジャンプして着地ゴケ)というのはないだろうし、走行中にタイヤが外れでもしない限り下にはコケられない。曲がっている最中だと左右に倒れることもあり、低くなっている(地面が近い)側に転倒するのをローサイドゴケ、高くなっている(地面が遠い)側に転倒するのをハイサイドゴケという。

ハイサイドについてはスリップのページで詳しく触れたので繰り返さないが、転倒の直接の原因として、タイヤが滑った場合(曲がっていたならローサイドになる)はスリップゴケ(スリップダウン)、タイヤがグリップした場合(曲がっていたならハイサイド、まっすぐならジャックナイフになる)はグリップゴケ、さらに深めのバンクでフロントが滑った場合を切れ込みゴケ(グリップを失うと曲がっている方向にハンドルが切れることから:必ずしもオーバーステアになるわけではない)ということがある。Uターン中のスリップダウンはあまりローサイドとはいわないが、速度さえ速ければローサイドでおかしいとは思わない(筆者の感覚だと)。転倒原因での分類は他に、低速で道路外に出てしまう脱輪ゴケ、大きい障害物を乗り越え損なう乗り上げゴケ、クラッチ操作が乱暴で(ウイリーせずに)バランスを崩す繋がりゴケ、といったところか。

特殊なものは、何かの理由(ガス欠ならまだしも焼き付きとか)でエンジンが止まるエンストゴケ、押しがけで飛び乗ろうとして失敗する押しがけゴケ(押して歩いているときに転倒するのを「押しゴケ」という人がいて紛らわしい)、スタンドをかけた車体にまたがろうとして反対側に倒れるルマンゴケ(これ「ルパンゴケ」ではないと思う:本当のルマン式は人が押さえるので、ライダーのハイキックがサポートの人にヒットしてもろとも倒れることはごくごくまれにある)のほか、ニュートラルに入れたつもりで左手を放したら1速に入っていたとか、サイドスタンドで停めようとしたらちょうど排水溝の穴でスタンドがすっぽ抜けたとか、単純にめちゃめちゃな強風が吹いたとか、単車はいろいろな理由で倒れる。

初心者で一番多いのはおそらく握りゴケで、単車のABSはこれを防ぐ(ないし減らす)ために搭載されたものに違いない、と筆者は信じている。速度さえごく遅ければ、別にフロントはロックしても(サスペンションついてるわけだから)そう騒ぐような問題ではなかったりもする。次に多いのがおそらくUターンゴゲ。これはほぼ運転技術の問題。10年乗っててもちゃんとUターンできない人はいる。また停車中、右足を地面に付いている人がけっこういるが、これは立ちゴケの原因になる。日本の道路は左側に傾いていて、単車のブレーキは右足操作なのだから、左足を着く以外の選択肢はなさそうに思えるのだが、とにかく右足で支えるとコケやすい。



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