レース

ケニー・ロバーツ(アメリカ)、フレディ・スペンサー(アメリカ:85年にも一発かましている)から引き続いて84年から92年までの4強:安定感のエディ・ローソン(アメリカ)、パワフルで豪快なワイン・ガードナー(オーストラリア)、独走逃げ切りのウェイン・レイニー(アメリカ)、レイトブレーキの差し馬ケビン・シュワンツ(アメリカ)には輝きがあった。さらにマイケル・ドゥーハン(89年デビューで90年3位)が割って入った1991年は本当に豪華なシーズンだった。

その後ドゥーハン時代とロッシ時代が続き、ようやくニッキー・ヘイデン(アメリカ)がひっくり返したが800cc化で失速する。2007年から2012年までの4強は、バレンティーノ・ロッシ(イタリア)、ケーシー・ストーナー(オーストラリア)、ホルヘ・ロレンゾ(スペイン:2008年デビュー)、ダニ・ペドロサ(スペイン)。このメンバーでのベストシーズンはやはりロッシが元気だった2007~2009年だろう。勝負勘やセンスといった部分ではもちろん互いに遜色はないが、技量でマシンを操るロッシとストーナーに対し、ある程度マシンに任せて性能を引き出すロレンゾとペドロサと、世代の違いのようなものがある(2010年以降のレースでは後者の乗り方が強く、またスペイン出身のライダーが得意とするスタイルでもある)。

2007年はドゥカティとストーナーが噛み合い、2008年と2009年はロッシが盛り返す。2010年は第4戦イタリアGPのフリー走行で右足を骨折したロッシをロレンゾ(前年2位)が置き去りにした年で、2011年はストーナーがホンダに移って勝利(どうやら、2009年シーズン途中に体調を崩したらしく、最終的に乳糖不耐症と判明するのだがこの時点では原因不明で、チームともいろいろあった模様)、さらに2012年にはロレンゾが盛り返す、と目まぐるしい。いっぽうのペドロサは、その6年間に2位3回3位2回4位1回と微妙に勝ち切れない。ロッシはドゥカティに移った2011年以降苦戦する(2年間で優勝が1度もない)が、ヘイデンよりはポイントを取っており、少なくともストーナーと比べて技量が衰えたというわけではない模様。

面白いのはヘイデンの成績で、2007年の800cc化以来、年に1回か2回表彰台に上がりつつ終わってみると1桁順位の後ろの方、というシーズンが2012年までずっと続いている(チャンピオン獲得直後の2007年は表彰台が3回、ドゥカティ移籍直後の2009年は13位、2012年は最高順位4位と、多少の波はある)。2013年からは、同じような傾向でやや成績のよいドヴィツィオーゾがチームメイトになる。


耐久レースといえば鈴鹿(初回開催1978年)、1980年からFIM世界耐久選手権に組み入れられた(第3戦)。鈴鹿で勝っているイメージが強いのはやはりホンダだが、近年の世界選手権全体ではスズキが強かったりする。2003年から2012年まで、スズキが7勝でヤマハが3勝、ホンダは2001年が最後(同じ期間に鈴鹿では8勝しているので、競争力自体ががないわけではないらしい:カワサキは耐久にあまり熱心でないらしく、鈴鹿での優勝は1993年の伊藤ハムレーシング・カワサキだけ)。

2012年の世界耐久選手権は、スズキ、BMW、ヤマハ、ホンダ、カワサキ、以下日本メーカーの車両となっており、スーパーバイクに積極的なイタリアメーカーも耐久にはあまり熱心でないようだ。

トライアルは日本人がチャンピオンになったことのあるレアなジャンル。フジガスこと藤波貴久は、1999年から2010年までの12年間で、チャンピオン1回、2位7回、3位4回を記録している。チャンピオンが一時代を築く傾向が強いトライアル世界選手権で、ドギー・ランプキンとトニー・ボウの間の3年間をアダム・ラガ(4スト化直後の2年間チャンピオンを守った)と分け合う形になった。

ラリーレイドではKTMが圧倒的に強く、シリル・デプレとマルク・コマが10年近くマッチレースをやっている。こちらも21世紀に入って排気量制限が変わり、2011年からは450ccが上限になった(エンジン交換にペナルティタイムが課されるようになったのも2011年から)。


MotoGPはストーナーが2012年限りで引退(ワクワクしながらバイクに乗ることができなくなったという旨の発言をしている)、2013年のシーズン前半をペドロサとロレンゾが引っ張っている。ロッシとヘイデンは苦戦、間にマルケス、クラッチロー、ドヴィツィオーゾが割り込んだ格好。ヤマハに復帰したロッシはロレンゾから、引き続きドゥカティに乗るヘイデンはドヴィツィオーゾから、エースライダーの座を奪回できていない。余談だが、ストーナー(85年生れ)、ペドロサ(85年)、クラッチロー(85年)、ドヴィツィオーゾ(86年)、ロレンゾ(87年)は同年代。ロッシ(79年)とヘイデン(81年)がベテランでマルケス(93年)が若手といった構成。ロレンゾ、ペドロサ、マルケスとスペイン出身ライダーの活躍が目覚しい。

ペドロサを除くMotoGPチャンピオン未経験者の中では、2012年のMoto2チャンピオン(スッター)マルケスの健闘が顕著(ルーキーライダーがサテライトチームからしか参戦できない「ルーキールール」ってどうなったんだろう?ストーナーが怒ってたからやめたのか?)。第4戦フランスを終了した時点で、チームメイトでポイントリーダーのペドロサに1ポイント差に迫っていた。次戦イタリアでは終盤でそのペドロサをかわし、2位フィニッシュ目前となったところで転倒リタイア。クラッチローはスーパーバイク出身で、サテライトチーム(テック3)ながら安定した成績。フランスとイタリアの連続表彰台でドヴィツィオーゾとロッシをやや引き離し、リタイアしたマルケスに迫った。2014年の復帰を目指すスズキがエースドライバーとして有力視しているなんていう話もあったが、結局ヘイデンが抜けるドゥカティに決まった模様。

ペドロサやロレンゾに追いつけないのはともかく、ロッシがクラッチローにやられっぱなしというのはあまり見たくない。イタリアでクラッシュに巻き込まれ1週目で終わってしまったのが痛いが、怪我はなかったようなので今後に期待。ドゥカティはどうなんだろうねぇ。前年まで安定してヘイデンより好成績だったドヴィツィオーゾが今年はトントンくらいの活躍なのを見るに、ホンダとヤマハに対してビハインドがあるのは間違いなさそう。

ペドロサは相変わらず安定しているので、ホンダ有利なサーキットでマルケスがロレンゾのポイントを削る場面がどれだけあるか、ということがチャンピオン争いの鍵になるかもしれない。イタリア終了まで、1位獲得はペドロサとロレンゾが各2回、マルケスが1回、それ以外で表彰台に上がっているのはクラッチローとロッシだけ。

と思ったらペドロサとロレンゾが怪我をしている間にマルケスが2連勝、第9戦ラグナ・セカ終了時点でポイントリーダーのマルケスを、16点差のペドロサと26点差のロレンゾが追う形になった。開催間隔が短いところで負傷した間の悪さはあるが、両者ともこのまま黙っているとは思えず、巻き返して混戦になれば面白い。第7戦で復活優勝したロッシはロレンゾとの差が20点ありもう少し我慢が必要か。クラッチローとの差も1点とあってないようなもの。ヘイデンは今期でドゥカティを離れる模様、ポイントではドヴィツィオーゾが先行。


結局マルケスが逃げ切った。イタリアでのリタイヤとオーストラリアでの失格以外全部表彰台という、本来ならペドロサがやるはずの勝ちパターンで見事総合優勝。ロレンゾはイギリスから最終戦まで、2連勝、2位、3位、3連勝と怒涛の追い上げをしたが4ポイント差で届かず、結局ドイツでの欠場が響いた形になった(優勝8回はマルケスの6回よりも多い)。ペドロサは優勝3回、2位7回、3位3回と堅調だったがロレンゾに30ポイント及ばず。ロッシはトップ3以外で唯一の優勝(オランダ)を記録し、18戦のうち4位以内が14回、表彰台6回と食らいついたものの、5位のクラッチローとも3位のペドロサともけっこうポイント差がついた。10戦めのインディアナポリス以降ほとんど上位4人のレースで、表彰台はもちろん、誰かがリタイヤしたり失格になったりということなく他のライダーが4位以内に入ったのは、ロッシが6位になった日本グランプリだけ(そのロッシは、インディアナポリス以降の9戦で4位6回、ペドロサがリタイアしたスペインとマルケスが失格になったオーストラリアで3位と、今期を象徴するような成績)。端っこの方ではART(エスパルガロが93ポイントを稼いだ)がマニュファクチャラーズで99ポイントを獲得、155ポイントのドゥカティ(ドヴィツィオーゾが140ポイント、ヘイデンが126ポイント)の背中が見えた。ヘイデンが失速しつつあるように見えるが、もう1発くらいかましてほしいところ。

ロッシはヤマハに戻ってまずまずの復調ぶり。昔から「環境が変わったら1年準備して2年目から勝負」というスタイルなので、来期に期待できそう。長年手にできなかったチャンピオンシップを1発で持っていかれたペドロサは心中穏やかでないだろうが、マルケスの前に出られなかったわけではない(どちらもリタイヤや失格にならなかったレースでは4勝9敗)し、ロッシの前はまずまず確保していた(同じく11勝3敗)ので、来期のチーム戦略次第といったところか。ロレンゾは(とくにシーズン終盤で)ホンダの方が速かったようなコメントがありつつも十分競争力を示しており、大きなアクシデントがなければ来期も主役の一人だろう。現在の環境での力量としては4人の中で頭ひとつ抜けているかもしれない。マルケスは「全ツッパ全通し」で勝ってしまったわけだが、不調になっても強気を維持できれば間違いなく強い(本来こういうタイプは「無冠の帝王」を長くやって忘れた頃にチャンピオンになるものなのだが、今年は勢いが勝った)。レギュレーションやらレースディレクションやらで、ストーナーのいう「ワクワクするようなレース」とはどんどん離れていっている気もするが、ともかく来期も面白いレースを期待したい。


2014年はマルケスが開幕10連勝で早々にシーズンを終わらせてしまった。ロッシはひとまず2位を確保。十分に戦える位置には来たが、不調が伝えられるロレンゾと右腕にトラブルを抱えるペドロサが精彩を欠いただけとも取れる。4強を追うのはドヴィツィオーゾ、続いてエスパルガロ弟。復帰を目指していたスズキは最終戦のみの参加で結果はリタイア。

2015年はロッシが前半をリード、ロレンゾも復調したといってよさそうで、4~7戦の4連勝で食らいつき、ペナルティでロッシが最後尾スタートになった最終戦で逆転、5点差で年間チャンピオンを獲得。ホンダは大いに苦戦。マルケスは1位と2位を4回づつ(ちなみにロッシは1位4回2位3回)獲得し遅いわけではないが、リタイア6回は痛すぎた。ペドロサはシーズン中の手術に踏み切り、復帰後徐々に調子を戻しドイツで2位までは来た、が失速して年間4位。後半はけっこう速かったがマルケスの前でゴールしたのが1回だけとやや寂しい。ドゥカティも健闘、開幕から3戦連続2位を取ったドヴィツィオーゾが失速してもイアンノーネが盛り返し、9戦終了時点ではギリギリ粘ってマルケスの前の総合3位、17~18戦でリタイアしたのが響きペドロサにかわされ最終的には18点差の年間5位だった。ヤマハサテライトのスミスも追い上げたが届かず7点差の年間6位、ドゥカティワークスが面目を保った。本格復帰したスズキはエスパルガロ兄が105点取ったのでまずまずだろう。挑戦が噂されたカレックス(ドイツのフレームサプライヤー、Moto2で大活躍)は参戦せず。

2015年終盤のモメごと(ロッシが「八百長」と呼んでいる事態)は残念ではあるが、個人的にはペドロサ(2006年のポルトガルでヘイデンに突っ込んだ経験からか、ライダー同士の不和には控え目な立場を取っている模様:この人もスペイン人なんだけどね)の言われようがカワイソウである。ロレンゾ曰く「ヴァレンティーノ、ケーシー、マルクの3人は、最強の、21世紀におけるトップライダー」だとか、ロッシ曰く「終盤はダニでさえ2秒も縮めてる(のにマルケスがダラダラ走ってる)」だとか、酷い言われよう。まあ年間チャンピオン取ってないし仕方ないと言えば仕方なくもあるが。腕も治ったようだし、本人も復調を実感してるみたいだし、奮起を期待したい。


ちょっと記事の間が空いたが、2019年もマルク・マルケスが強い。一人だけ違うことをやっているのは明らかで、それが何なのかずっと疑問だったのだが、Mat Oxleyという人のレポートが大変興味深い。曰く、マルケスはコーナー進入時にフロントを(もちろんコントロール下で)ロックさせているそうな。そう言われて見返せば、マルケスだけ変なところにブラックマークを残している。同じ話題についてチームメイトのクラッチローは、前後ブレーキを使ったコーナー進入から中盤までのバンクコントロールが他のライダーと決定的に違う、とコメントしている。フロントが切れ込みそうになったとき、ヒジで地面を押してバランスを取っている(そのための肘擦りらしい)というのも話題になった。ブレーキとスリップコントロールで思い出されるのは、やはりドゥーハン(脚を怪我して手レバーのリアブレーキを使っていたので有名)とロッシ(リアを意図的に滑らせる走り方を流行させた)だが、滑らせている(のか滑っちゃってもいいマージンなのか不明だけど)のがフロントとなるとこれはまたとんでもない話。この走り方も「MotoGPでは普通」になるときが来るのか、マルケスだけの特異能力として語り継がれるときが来るのか、まだわからない。
追記:クアルタラロも、旋回後期(というか加速初期)にフロントブレーキを薄~~~く当ててフロントフォークを伸ばさないという曲芸をやっているらしい。マルクが「ビデオで見たけどあれはマネできない」と言ったとかなんとか。リアをずらしてパタっと寝かせて肘ズリズリさせてムクっと立ち上がるマルクに対して、レイトブレーキからスライドさせず路面に貼り付いたように曲がるクアルタラロ。なかなか面白い対比なのに2020年は対決が見られなかった。

2020年の混戦も面白かったが、2021年はもっと面白い。台風の目はやはりドゥカティで、直線で明らかに速く、ほとんど反則級なのだが、タイヤ(ミシュラン)マネジメントのシビアさは年々増しているようで、終盤にペースが落ちる(直線で速いことがどれだけタイヤにストレスを与えているのかわからないけど、きっと多少はあるんだろう:直線でもコーナーでも他より速いならブッチギリになるはずで、ドゥカは他のマシンより強く加速して強く減速していると考えるのが自然)。去年ここで踏ん張っていたのがスズキ勢で、今年もその傾向は続いているのだが、初戦と2戦めを制したのはヴィニャーレスとクアルタラロが化けたヤマハ。どちらも勝ったレースは異次元の走りで、ヴィニャーレス曰く「やっとオーバーテイク可能なマシンになった」そうだが、どう見てもラップペースが他のライダーとかけ離れているし、クアルタラロ曰く「リアタイヤの保たせ方がわかってきた」そうだが、どう見ても終わったリアタイヤでズリズリ踊りながら走っている。いやー、マルクの復活(と2戦終わって地味にポイントリーダーのザルコが、去年のミールみたいに気付いたら勝っていないか)が本当に楽しみだ。

第8戦のドイツでマルクがついに優勝した。いやー、感慨深い。ランキング争いを引っ張るのは、チャック全開走行が失格にならなかったおかげでポイントを拾えたクアルタラロ、少し離れてドゥカティのザルコ・バニャイア・ミラー、トップグループにギリギリ残っているのがミールとヴィニャーレス、遅れを取りながらも食らいついてはいるのがアプリリアのアレイシ。ヤマハが好調なように見えるが筆者の目には、クアルタラロが覚醒しただけでマシンには問題が多いのではないかと映る。ヴィニャーレスも頻繁にマシンへの不満(オーバーテイクができない)を口にしているし、モルビデリだってケガをしたとはいえこんな成績しか取れないライダーではない。リンスもケガらしく、ミールとのポイント差がけっこう開いた。今年は第21戦まで予定されているとはいえ、クアルタラロvsドゥカティ3台という構図はしばらく続きそう。マルクは今季初優勝したものの慎重なコメントで、おそらくだがホンダもマシンの競争力がもうひとつ(複数のライダーから、電制システムが関係した予期せぬ転倒が起きるという指摘がなされている)のようだから、追い上げが見られるとしてもシーズン後半になりそう。現状で技量の飛びぬけたライダー2人が、体調とマシンパフォーマンスに苦戦している状況からどう抜け出すのか興味深い。第13戦のアラゴンではマルクとのデッドヒートを制してバニャイアが初優勝。以前からロレンゾ父(チーチョさん:ライディングスクールを経営しているそうな)が言いたい放題(「ミールはワシが育てた」とか)なのが話題になることがたびたびあったが、最近はロレンゾ本人もことあるごとにコメントを出している。これがまた(父とは対照的に)冷静かつ的確で、さすがはチャンピオンといったところなのだが、同時に妙に攻撃的かつ常に上から目線で、ロレンゾらしく実に微笑ましい。刺激されたのか、ストーナーもちょこちょこコメントを出すようになってきており、こちらも空気をまったく読まないいつものストーナーで、たいへん清清しい。


2021年はクアルタラロの年だったよう。シーズン終盤苦しんだが貯金で逃げ切った。2022年も波乱が多い中、第5戦ポルトガル(アウトドローモ)が終わった時点で、69ポイントでリーダーのクアルタラロ、同点で続くリンス、やたら好調なアレイシ、1年落ちのドゥカティで複数回優勝一番乗り(第1・4戦)のバスティアニーニ、51ポイントのザルコまでが18点差でひしめいている(第5戦のもらい事故が響いただけで、ミールもリンスと遜色ない感じ)。・・・とかなんとか言ってたら、突如スズキがMotoGP撤退を表明。なんてこった。チャンピオン争いは、第11戦オランダが終わったところでクアルタラロ(172P)とアレイシ(151)が引っ張っている。クアルタラロがオランダでコケたのもあるが、アレイシがこの時期にこの位置に居るのは(優遇措置があったとはいえ)凄い。表彰台は1位1回3位4回でも、安定してポイントを稼いでいる(クアルタラロが普通にシーズン終盤まで走り切れば、20年のミールみたいな勝ち方はちょっと厳しいかもしれないけど)。3位争いが熾烈で、114~91Pの間に、ザルコ、バニャイア、バスティアニーニ、ビンダー、ミラーとドゥカティ4人+ビンダーがひしめく。ドゥカはマシンの評判はよいものの、波に乗り切れないライダーが多い印象。70P台にミール、リンス、オリヴェイラ、マルティンで、60P台にヴィニャーレスとマルク。ミールとリンスはチーム解散決定、マルティンは右手の神経を手術(復帰後はひとまず調子いいみたい)、ヴィニャーレス(序盤は踏んだり蹴ったりだったが、オランダGPで3位表彰台)は成績が上向いているがまだ本調子かどうかわからず、マルクも6月に再手術をして9月復帰はムリみたいなニュースが流れていた。この中で好調といえるのは、ビンダーとオリヴェイラ(どっちもKTM)だろうか。ドヴィツィオーゾは10Pに甘んじ来期のMotoGP不参戦を表明、21年に引退したペトルッチはダカールラリーで好成績を残し、タイではMotoGPにスポット参戦した。クアルタラロがシーズン終盤の入り口くらいで失速、もらい事故やセッティングミス(ヤマハ機はフロント空気圧に敏感らしい)でノーポイントレースが続き、第17戦タイが終わって残り3戦、クアルタラロ(219ポイント)、バニャイア(217)、アレイシ(199)、バスティアニーニ(180)、ミラー(179)と大接戦を演出してしまった。上で好調と書いたビンダーどオリヴェイラは、強さを見せるレースもあるがチャンピオンシップスタンディングでは第2グループ止まり、ミラーに続いてビンダー(154)、ザルコ(151)、オリヴェイラ(131)、マルティン(127)、ヴィニャーレス(122)、ミラー(101)あたりまでが、ややバラけながらもグループを形成している。

結局、2022年はドゥカティの年だったようで、バニャイアが差し切った。ホンダとヤマハが(コロナ騒ぎで現地入りの頻度が制限されコミュニケーション面でハンデだったとはいえ)「エースしか乗りこなせない」病に悩まされ、スズキが撤退する中、アプリリアが躍進しKTMが力を発揮し始めたシーズンでもあった。しかし終わってみると、バニャイア(265)、クアルタラロ(248)、バスティアニーニ(219)、アレイシ(212)、ミラー(189)、ビンダー(188)、リンス(173)と、実はバランスの取れたシーズンだったのかもしれない。ついにチャンピオンになったバニャイア、実は2021年エンジンを使っていたらしいクアルタラロ、ワークスに移るバスティアニーニ、終盤のモタつきをどう活かせるか注目のアレイシ(ヴィニャーレスが入ったのは結果的にプラスだったよう)、ライダー間で評価が高いビンダー、最後に意地を見せたリンスと、来年が楽しみな面子が上位に並び、マルクも(マシン開発は遅れてるみたいだけど)シーズン終盤に復調の兆しを見せた。2023年はスプリントレースが追加され、チームも選手も手探りの状況。マルクとクアルタラロがマシンや怪我で苦戦する中、バニャイアも調子に乗り切れない。フランスGPが終わった時点でのポイントリーダーはバニャイア、1点差でベツェッキ、ビンダー(ドゥカティ以外で唯一の上位)とマルティンがやはり1点差で3位争い、5番手争いはザルコとマリーニ、以下ビニャーレス、ミラー、クアルタラロ、リンス、アレイシ、アレックス、モルビデリまでが団子状態、ミールとマルクはポイント上では完全に沈んだ。・・・終わってみると、なんだかんだで順当勝ちしたバニャイア、スプリントレースでポイントを稼ぎトップに迫ったマルティンが他を引き離し、ベツェッキとビンダーが3位グループ、ザルコ・アレイシ・ビニャーレス・マリーニとアレックス・クアルタラロ・ミラー・ジャンアントニオくらいまでが勝負に絡めていた格好になった。ライダーの動きも激しく、リンスがホンダからヤマハに、モルビデリがヤマハからドゥカティに、マリーニがドウカティからホンダに、ジャンアントニオがドゥカティ内でVR46に移動、アコスタがKTMからデビューし、ポルはテストライダーに(で全部かな?)。

2024年に向けては動きが激しい。ライダーの技量と経験では、やはりマルクとクアルタラロとバニャイアなのだろうが、来年から優遇措置(コンセッション)が設けられビンダー・アレイシ・ビニャーレスにもチャンスがありそう。とはいえ、2024年の主役になりそうなのはバニャイア・マルティン・マルクで、ドゥカティの優位はそう簡単に揺るがなさそう(ウイングレットはもともと禁止されていたわけだし、マシンのレギュレーションも次の機会にはなんとかして欲しいが、それより何より8台参戦はさすがにやりすぎ:興行として儲かる地域がヨーロッパである以上、ヨーロッパメーカーが活躍してくれるのは日本メーカーから見てもありがたいことのはずだが、今回はちょっと度が過ぎたというか、長期的に安定して熱戦を演出しようとすればコンセッションの導入しかなかったのかもしれない)。それでも、ホンダのミール・マリーニ+ザルコ・中上、ヤマハのクアルタラロ・リンスは、現状で考え得るベストに近いラインナップ(だって、バニャイア・マルティン・マルケス兄弟・エスパルガロ兄弟・ビニャーレス・ビンダー・バスティアニーニ・ベツェッキくらいまでは、引き抜きたいと思っても現実的じゃなかったでしょ:せめて契約切れの24年末ならまだしも)。ミールとリンスの出来はメーカーの明暗も左右しそうだが、立場的にはモルビデリも崖っぷち、シーズン終盤に頑張ったジャンアントニオや出遅れが響いたバスティアニーニなんかも、24年の活躍度合いが翌年以降に大きく響きそう。上位ライダー陣で筆者が注目しているのはクアルタラロで、残った自分と出て行ったマルク、去ったモルビデリとやってくるリンス、4台体制でコンセッションを活用できそうなホンダと2台のままのヤマハ、避けたいリスクと出したいリザルト、など実に微妙な環境に身を置くことになりそう。

GPチャンピオンをカテゴリ分けするとどんな感じになるだろう。アゴスチーニ(のレースは映像でも見たことないけど)、ドゥーハン、ロッシ、マルク・マルケスはやはり風格があるというか、一時代を築いたイメージが強い。2024年は、バニャイアにこの仲間入りができるか、マルクがさらに頭一つ抜け出た存在になるのか、という分水嶺の年になるかもしれない。ローソン、レイニー、ロレンゾは文句なしに速かった(古くはジェフ・デューク、ジョン・サーティース、マイク・ヘイルウッドといった面々もすごかったそうな:聞き齧り100%)。ホルヘ・マルティンはこの領域にどこまで迫れるだろうか。ケニー・ロバーツ(シニア)やケーシー・ストーナーは、神懸り的な強さを見せた。クアルタラローはこれまでのところツキがないが、環境さえ嚙み合えば仲間入りができる実力はありそう。マモラやペドロサやドヴィツィオーゾはシルバーコレクターとなってしまったが、バスティアニーニやベツェッキはその呪縛から逃れられるのか。ビンダーはスペンサーやシュワンツやガードナーのようにひと花咲かせられるのか(スタイルは違うかもしれないが、なんとなくノリックを思い起こさせるノリを持ったライダーだと思う)。リンスやヴィニャーレスやアレイシが、ケニー・ロバーツ(ジュニア)やヘイデンやミールのように一発かますチャンスは来るのか。こうしてみると、2024年はかなり楽しみなシーズンになりそう。

レースの内容とはまったく関係ない話だが・・・2024年のホンダワークスのマシンカラーがちょっと興味深い。ホンダのマシンがカッコよかったのはやっぱり、ドゥーハントリコ(1998前後)とかRC211V時代(とくにフロントが紺色の、たぶんヘイデンがタイトル取った年のやつ)とか、「レプソルカラー」と「ホンダの主張」がせめぎあってるイメージのときで、レプソルが押しすぎた近年のオレンジバイクも、ホンダが押しすぎた今年の青バイクも、あまり筆者好みではない。好みではないのだがこれはこれで、ホンダが陥った混迷と前進に向けた奮闘を象徴できているような気もする。レプソルとのスポンサー関係は24年末で切れるらしいから、来年はおそらくまたガラリとイメージが変わるのだろう。SBKのファイアーブレードっぽい赤青(23年12月にヘレスで走らせてたみたいなの)になったらいいなぁ(MotoGPでもSBKでも、ドゥカティは赤だしヤマハは青なんだから、ホンダは赤青ってことでいいじゃん)。



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